TRIZ/USIT 解説・紹介
連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ
第21回  TRIZの基本概念(7) 問題解決の基本方式
中川 徹 (大阪学院大学)
InterLab (オプトロニクス社), 2007年 9月号 (No. 107), pp. 25-28
許可を得て掲載。無断転載禁止。 [掲載:2007. 9.13]

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編集ノート (中川徹、2007年 9月10日)

本件は、研究・技術開発者のための情報誌『InterLab』誌に掲載している長期連載の第21回です。同誌のご好意によりここに掲載しています。連載の親ページ。同誌の発行は前月15日で、本ホームページには当月1日以降の掲載を標準にしています。

同誌で発行された形のものは PDFファイルにしています。ここをクリック下さい (PDF 311 KB)

また、ここにHTML形式のページを作り、いろいろなところへのリンクを張りましたので、ご活用下さい。

なお、このページはTRIZについて初心者の方のための、TRIZ紹介のページとしても位置づけております。TRIZ紹介の親ページ その他の記事へも多数リンクしておりますので、ご活用下さい。また、本連載に並行して、連載: 「USIT入門」(全5回) を『機械設計』誌上で始めました。別ページに掲載しておりますので、ご覧下さい。

目次:

導入

1. 類比試行と等価変換理論

1.1 ヒントを得てひらめく
1.2 市川亀久彌の等価変換理論

2. 抽象化レベルで解く「4箱方式」

2.1 問題解決の「4箱方式」
2.2 問題解決の「4箱方式」の意義
2.3 TRIZの諸方法における4箱方式
2.4 「4箱方式」の限界と変質

3. USITによる「創造的問題解決の6箱方式」

3.1 USITの全体構造を記述する
3.2 USITによる問題解決の「6箱方式」
3.3 「6箱方式」の特徴と意義

 

本ページの先頭 記事の最初 1. 類比思考と等価変換理論 2. 抽象化レベルで解く「4箱方式」 3. USITによる「創造的問題解決の4箱方式」

 


 

第21回

TRIZの基本概念(7) 問題解決の基本方式

大阪学院大学 中川 徹

InterLab誌, 2007年 9月号 (No. 107), pp. 25-28

 

 この連載の第15回から、TRIZの基本概念というテーマで書いてきて、今回はそのひとまとまりの中の最後に、TRIZでの「問題解決の基本方式」という考え方を説明します。

  これは実は非常に大きなテーマです。

  歴史上の偉大な発見や発明が、長い苦闘の末にちょっとしたものをヒントにして、「ひらめき」を得て生まれたというのが、一般に信じられています。この延長線上では、いかにしてヒントとなるものを得るか、ヒントからの類推(類比思考)をどのようにして強化するかというのが、ここでいう問題解決の基本方式のテーマです。市川亀久彌の等価変換理論はその高度なもので、機能の共通性を鍵にしようとするものです。

  一方、数学や物理学などの分野で確立されてきたものに、問題を抽象化して考えるという方法があります。学校教育の数学で、応用問題を解くというのがその典型です。

  この抽象化した世界で、問題を定式化し、その解決策を示すというやり方は、一般に「問題解決の4箱方式」と呼ばれるもので、科学や技術のさまざまな分野での基本的な方法です。

  TRIZも、この点では科学技術の正統的なやり方に従い、沢山のモデル(問題の定式化とその解決法)を作り、そのモデルに沿った知識ベースを蓄積してきました。

  そして、TRIZの創始者アルトシュラーはこれらのモデル(すなわち技法)を組み合わせて使うプロセスを、「発明問題解決のアルゴリズム(ARIZ、アリーズ)」と呼んで、改良を重ねたのです。その基本は、多数の技法のうち比較的やさしいものをまず試みて、駄目だったらさらに別の(より高度で強力だと思われる)技法を試みるという構造をしています。

  このような多数の技法をもち、それらを使い分けて、順次試していくというやり方は、SalamatovのTRIZ教科書でも、最近のDarrell MannのTRIZ教科書でも同じです。

  このような構造がTRIZを複雑にし過ぎているのだと考え、もっとすっきりしたやり方をしようとしたのが、SickafusのUSITです。

  私はUSITを研究し、それがどんな情報を扱っているのかを「データフロー図」で表現したときに、「6箱方式」という基本的な概念を見つけました。この方式は、さまざまな問題に対しても、標準的な方法を使って問題を抽象化し、解決策のアイデアを得て、その具体化を図っていきます。

  私は、この「6箱方式」が創造的な問題解決の新しい基本方式、「新しいパラダイム」であると考えています。

  今回はこのような流れで、説明していきたいと思っています。

1. 類比思考と等価変換理論

1.1 ヒントを得てひらめく

  問題が解けなくて四苦八苦しているときに、ちょっとしたことがヒントになって、それからの類推(類比思考)でぱっとアイデアがひらめいたという話はよく聞く。

  アルキメデスが浴槽に入ったときに湯が溢れるの見て、金の王冠の真偽を判定する方法を思いついた。化学者ケクレがC6H6というベンゼン分子の分子構造が分からなくて悩んでいたとき、6匹の猿が環になっているのを見て、環状構造を思いついたなどの逸話がある。

  NHKの名番組「プロジェクトX」を見ていても、自動改札機内で切符の向きを揃える方法に悩んでいたとき、渓流で笹の葉が岩にぶつかって向きを変えるのを見て、ヒントにした。レーザメスのアームの動きを滑らかにする方法に悩んでいたとき、店の天体望遠鏡の伸び縮みを見てヒントにし、伸縮と関節を併用したスムーズなアームを創った。などの例が出てくる。

  このように、ヒントから新しいアイデアを得るというのは、人間にとって自然でかつ強力な方法である。

  この方法は「類比思考」と呼ばれる。ただその思考法は非常に直感的、無意識的で、論理的な説明が困難である。

  「ヒントになるものは何か?」という質問には答えようがない。ヒントになったものと解決策との間に、なんらかの共通点があることが認識されるのは、すべて後からの話である。

  それでも、ヒントになりそうなものを多数集めた図録は役に立つかもしれない。あるいは、何でもよいからキーワードや図などを見せて、自分の問題と関係することをどんどん連想させる(強制連想)というやり方をすると有効なことがある。

  また、特許事例(のデータベース)や、物理化学的効果(のデータベース)など、生の形に近い知識ベースを利用するのは、このような類比思考を強化しようとする試みの一つである。

1.2 市川亀久彌の等価変換理論

  このヒントをベースとして発想する方法を、もっと深化させ、一つの理論として創り上げたのが、日本独自の「等価変換理論」である。市川亀久彌(1915-2000)が1944年以後継続して研究し樹立したものである。その問題解決のプロセスは以下のようである。

[注 (2007. 9.10 中川):  インターラボ誌では誌面の都合上図式を割愛したが、やはり分かりやすさのためにここに図式を追加する。この図は、中川が等価変換理論の図式を参考にして描いたものである (中川、日本創造学会第25回研究大会発表論文 (2005年10月29-30日)(掲載: 2007. 11.30) ]

図0.  等価変換方程式を解釈したデータフロー図 (中川)

  いま、解決したい問題の系(システム)τがあるとき、その問題の観点Viを明確にし、それを絞り込んで目的とする機能εで表現する。これと同じ機能を果たしているさまざまなものを探索し、ヒントになる具体例Aを見つける。

  この具体例Aの背景になっている系οを考察し、その系での特殊な事項を捨象して抽象化し、本質的な実現条件Cと実現機能εを見出す。

  ついで、この条件Cと機能εを、自分の問題の系τで実現するにはどのような特殊条件を導入する必要があるかを明確にし、結論としての具体的な解決策Bを構築する。

  例えば、上記のプロジェクトXの技術者たちの例でも、ヒントになったものが、「機能の共通性」を持つものであったというのは非常に説得力がある。

2 抽象化レベルで解く「4箱方式」

2.1 問題解決の「4箱方式」

  問題解決の「4箱方式」というのは、科学的な考察の基本として確立されてきたものであり、一般的に図1のように理解される。

図1. 問題解決の「4箱方式」

  例えば、大砲で丘の上にある敵の城を狙う。このとき、砲身をどの角度に設定すればよいのか。いままでよりも100m奥を狙うにはどの角度に設定し直せばよいのか?これが左下の具体的な問題である。もちろん、5発、10発試してみれば、見当がつくかもしれない。

  科学・技術の発達は、これが数学の問題として解けることを教えた。弾の初速度と、砲身の向き(水平の方角、仰角/俯角)が分かれば、弾道を(空気抵抗を無視できるとして)放物線で計算できる[これが理論(モデル)である]。

  そこで、具体的な問題では、弾の初速度を大砲の性能実験で(事前に)知り、目標物の位置関係(水平の方角、水平距離、高度差)を現地で測量して知り、これらをモデルに入れて、数学的な計算によって、適切な砲身の向きを得る。これを実地の大砲に適用するのが具体化である。

2.2 問題解決の「4箱方式」の意義

  上記の大砲の例で、この理論モデルを使う意義は、問題を解決する論理が明確だから、個別状況での試行錯誤が必要なく、広い範囲の同様の問題に適用でき、少しの状況変化に対しても適切に適応できる。具体的状況で途中に障害や困難がある場合(たとえば、大砲の例で途中の小山を越して陰から発射する場合)にも、確信を持って解決策を見つけ出せる。

  要するに、図1の「4箱方式」が薦めているのは、具体的な問題を具体的なレベルのままで解決策を探そうとするよりも、一旦もっと抽象化して、本質的なことを考えよということである。砲の操作の問題を、力学の問題として捉えることを薦めている。それによって、ずっと明確で正しい解決策が得られると薦めているのである。

2.3 TRIZの諸方法における4箱方式

  TRIZの諸技法も、科学技術の基本であるこの4箱方式に対応させて解釈することができる。以下3例を示す。

(a)矛盾マトリックスの方法

  この方法は模式的に図2のように解釈できる。(連載第12回参照)

図2. 矛盾マトリックスの4箱方式

  既に作り上げられている矛盾マトリックスの要請に合わせて、自分の問題を抽象化し、改良したいパラメータと悪化するパラメータの対立として、理解する。すると、マトリックスが、一般化した解決策として(4つまでの)発明原理を提示するので、それを自分の問題に具体化して実際の解決策を考える。

(b)物質-場モデルと発明標準解

  アルトシュラーが創った「物質-場分析(Su-Field Analysis)」は、機能分析の一つの表現形式として物質-場モデルで、問題を捉える(本連載第17回参照)。そのモデルに対応して、解決策の指針が「76の発明標準解」を参考にして得られる。これらの指針は、順次試していくとよい複数段階の解決策の指針になっている。

図3.  物資-場分析の4箱方式

(c)物理的矛盾の分離原理による解決

  物理的矛盾として問題を定式化するには、問題を(例えばアルトシュラーのARIZを用いて)煮詰めて、一つのパラメータに対する正逆の対立する要求として理解する。その上で、分離原理の過程(1)(2)で二つの対立する解決策を作り、過程(3)でこれらの解決策を組み合わせる指針として複数の発明原理が示される。(連載第20回参照)

図4. 物理的矛盾に対する4箱方式

2.4 「4箱方式」の限界と変質

  このようにして科学技術の多様な分野で、またTRIZの多様な技法で、それぞれに「4箱方式」を基本として、問題を定式化して一般的な解決策を示す「(理論)モデル」が作られ、膨大な情報を整理した「知識ベース」が作られてきた。

  それらが、蓄積されてみると、一つの限界が見えてきた。それは、各(理論)モデルが分野ごとに、技法ごとに並立したことである。この状況は図5に示すようである。

図5. 多数のモデル群が構築された

  そのこと自体は、従来の(現在の正統的な)科学技術では、「分野が違うのだから、(理論)モデルが違って当たり前」、「各分野ごとに違うモデルを使えばよい」と考えられている。

  しかし、さまざまな分野を横断的に捉え、「分野を越えた創造的な問題解決」を目指すTRIZにとっては、大きな問題になる。TRIZが創った一つ一つの技法は前節のように「4箱方式」に従っているが、一つの問題に対して、各技法の抽象化の目標(すなわち、「一般化した問題」の中身)が違い、抽象化の方法が違う。

  そこで実際には、一つの問題について、まずある技法(モデル)を選択し、その上で、そのモデルの指示に従って自分の問題をモデルの問題に当てはめる。そして、モデルが示す解決策を具体化することを試みる。あまりよい解決策が得られなかったら、また別の技法(モデル)を試みる。

  このやり方の問題点は、(1)問題を分析する前に技法を選んでいること、(2)一つの技法による問題の分析(抽象化)が、問題の極めて限定された側面しか見ていないこと、(3)少数の技法を試みて、ある程度良い解決策ならそれで良しとする全体構造になっていること、(4)総合的な分析と総合的な解決策というアプローチになっていないこと、(5)全体が輻輳した構成になること、などである。

  アルトシュラー自身が、多数の技法を開発して、より強力な全体プロセスを探求して、歴史的に変遷していった。このため、アルトシュラー後のTRIZは、個別の技法は明確なのに、全体構成に関しては専門家たちの間にさまざまに違う考えがある。その根本原因は、この複数モデルの「4箱方式」の並立状態にあると、私は考える。

3 USITによる「創造的問題解決の6箱方式」

3.1 USITの全体構造を記述する

  USITは、TRIZの影響を受けて、米国のEd Sickafus が問題解決の全体プロセスをやさしく構成しなおしたものである(1995年)。彼は、システムを分析する基本概念として「オブジェクト−属性−機能」を統一的に使い、分析や解決策生成の方法を一貫したものに作ろうとした。

  私はこのUSITを研究し、TRIZの解決策生成法をUSITの枠組みで再編成することを行った。

  この研究の中で、従来フローチャートで表現していたUSITの全体構造を、「データフロー図」で表現し直すことを試みた。

  フローチャートはよく知られているように、各処理方法を箱の中に書き、それらの順序や処理論理を矢印その他の記号で表現した図である。一方、「データフロー図」というのは、各段階(入力/中間/出力)で扱う情報を箱の中に書き、それらを矢印でつないで変換過程を表現し、その矢印に処理名を添えたものである。

  「結局同じことでないか?」と思う読者も多いであろう。しかし、使う情報を明記する/しないの差はものすごく大きい。フローチャートよりも「データフロー図」の方がずっと頑健であることは、情報科学ではよく知られている。実は、「4箱方式」自身も、「データフロー図」の表現形式である。

3.2 USITによる問題解決の「6箱方式」

  USITの全体プロセスは「一つのデータフロー図」で表すことができ、それは図6のようである。

図6. USITによる問題解決の「6箱方式」

  最初の具体的問題というのは、生の豊富だが輻輳した情報の段階である。取り上げるべき問題の焦点をしぽり、目標課題や問題の根本原因を述べたのが第2段階である。

  そして、問題の分析ではUSITの標準的な方法を使い、現在のシステムを空間、時間、オブジェクト、属性、機能の概念で記述(理解)し、さらに、Particles法を使って理想のシステムの望ましい振る舞いと望ましい性質を明らかにする。

  つぎがアイデア生成の段階であるが、得たい「新システムのためのアイデア」というのは、核となるべきアイデアの断片でよい。大発明でもそのエッセンスは実に小さなものなのだから。これは分析の段階ですでに発想されている場合も多いし、USITオペレータを使って出すこともできる。

  ついでこのアイデアを中核にして、それがうまく働くように、ひとまとまりの解決策のコンセプトを構成する。これには、関連技術の素養が必要なことも多く、特許や事例の知識ベースが有用であることも多い。

  実はこの第5箱の段階までが、「創造的な問題解決の技法」(TRIZやUSIT)の守備範囲である。その後、実地の製品や生産プロセスに組み込むための実現のプロセスが必要である。

3.3 「6箱方式」の特徴と意義

  この「6箱方式」は、創造的な問題解決のための方式として、問題自身の分野を問わない一般的なものである。

  左側の3箱は、問題を理解(抽象化、分析)する過程を示す。それはUSITでの標準的な方法を用いて実行することができ、問題自身の理解を多面的に深めていく。理解するためには空間・時間と「オブジェクト−属性−機能」という基本概念を用いており、これらにより問題のメカニズムを理解するのだといってもよい。また、理想のシステムの理解を同時に作ることも特徴である。

  右側の3箱は、小さなアイデアとして得たものを、解決策のコンセプト(概念レベルの解決策)に組み上げ、さらに実地に実現するまでの、具体化の過程である。この過程で、分析結果の理解が有用であり、関連(技術)分野の素養が必要なことは当然である。

  左から右へのジャンプは、要するに「アイデアの断片」を思いつくことである。それは、分析の過程や、あるいは他の解決策を考察している過程で、自然に思いつくことが多い。技法としては、TRIZの(40の発明原理など)すべての解決策生成法を再編成して得た「USITオペレータ(5種32サブ解法)」を使うこともできる。

  紙数がないので、これ以上の説明は今後に譲るが、この「6箱方式」は非常に豊富な示唆を与えてくれている。詳しくは、私の『TRIZホームページ』を参照されたい。

 追記:日本TRIZ協議会主催「第3回TRIZシンポジウム」が、2007年8月30日(木)〜9月1日(土)に東芝研修センタ(新横浜)で開催されます。どうぞご参加下さい。案内は『TRIZホームページ』(http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/)を参照

 

 

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最終更新日 : 2007. 9.13     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp