TRIZ/USIT 解説・紹介

連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ

第5回  TRIZ/USITのやさしい適用事例(1)
裁縫で短くなった糸を止める方法

中川 徹 (大阪学院大学)
InterLab (オプトロニクス社), 2006 年 5月号 (No. 91), pp. 49-54

許可を得て掲載。無断転載禁止。  [掲載:2006. 5. 9]

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編集ノート (中川徹、2006年 5月 7日)

本件は、産学官連携支援マガジン『InterLab』誌に掲載開始した長期連載の第5回です。同誌のご好意によりここに掲載しています。連載の親ページ。なお、同誌の編集とレイアウトがこのたび刷新されました。

同誌で発行された形のものは PDFファイルにしています。ここをクリック下さい (PDF 365 KB)

また、ここにHTML形式のページを作り、いろいろなところへのリンクを張りましたので、ご活用下さい。

なお、このページはTRIZについて初心者の方のための、TRIZ紹介のページとしても位置づけております。TRIZ紹介の親ページ その他の記事へも多数リンクしておりますので、ご活用下さい。

目次:

はじめに

(1) TRIZの事例の学び方

(2) この適用事例を取り上げる趣旨

(3) 問題の設定

(4) 問題の分析: 空間的・時間的特徴

(5) オブジェクト−属性−機能による分析

(6) 理想をイメージする

(7) 種々の解決策 (1)

(8) 種々の解決策 (2) 余分のものの導入

(9) 種々の解決策 (3) 違った針や糸

(10) 種々の解決策 (4) 新しい小道具

(11) 解決策の導き方ときっかけ

(12) 適用事例から学ぶこと


 

技術革新のための創造的問題解決の技法!!  TRIZ

第5回  TRIZ/USITのやさしい適用事例(1) 

裁縫で短くなった糸を止める方法

 

大阪学院大学   中川 徹

InterLab誌, 2006年 5月号 (No. 91), pp. 49-54

 

 この連載では、技術革新のために創造的に問題を解決する方法論として、TRIZを取り上げて説明してきている。第1回のQ&Aの後、第2〜4回に、TRIZの歴史を述べ、旧ソ連で樹立され米・欧に伝わって発展し、さらに日・韓で受容されて普及してきていることを述べた。

 当初の執筆計画では、ここでTRIZの全貌をまとめて、それから順次、TRIZの知識ベースやソフトウェアツールを説明し、問題解決の技法を説明しようと考えていた。しかし、その説明がやはり膨大になってしまう恐れがあるため、今回まず、TRIZ (およびTRIZをやさしくしたUSIT)を適用したやさしい事例を説明しようと思う。

 最初に、どんな事例を、どう学ぶとよいのかについて、注意を促しておきたい。その上で、表題のような身近な事例を説明する。

(1)  TRIZの事例の学び方

   TRIZを学ぼうとするときに、概念的(理論的)な説明や、技法の一部始終の説明を読んだり聞いたりするだけではよく分からなくて、実際に適用した例を学びたいというのは、だれでもが思うことである。鉄棒の逆上がりでも、より高度な大車輪でも、理論だけ習ってできた人はいないにちがいない。

 ただし、どんな種類の事例が欲しいのか、得られるのか、望むべきなのか、学ぶ価値があるのか、そして、事例をどのように学ぶとよいのか、などについて、往々にして議論が混乱するので、注意しなければならない。

「TRIZを使ってビジネス的に成功した事例はあるのか?」
「自分たちの技術分野での最先端の新しい適用事例はないのか?」
「古い技術での事例では、つまらない。」
「びっくりするような解決策だが、適用範囲が狭いではないか。」
「そんな大規模な改変は、コスト高で適用できないから役に立たない。」
「そのような答えは、すでに誰かが考えているのじゃないのか?」
「解決策を見せられても、どのように考えてそれを得たのかが分からない。」
「これをヒントにしてひらめいたのだ、だけでは分からない。」
「誰かがやったことを後付けで説明しても、実践で本当にできるかどうかわからない。」
「そんな、Toy Problemではしかたがない。」

 これらの要求、批判、疑問、非難などには、言っている人の立場・願望からはもっともな点があるが、適用事例の学び方から考えると間違いが一杯ある。ただ、それをいちいち議論しようとすると、今回全部を使っても足りないだろうから、やめる。

 もし、金メダルの選手の大車輪の技における、体のすみずみの力の入れ方やタイミングの取り方などが、自分の脳にリアルタイムに伝わって分かったとしても、自分の体の鍛え方と能力では恐らく何もできないだろう。

(2)   この適用事例を取り上げる趣旨

 今回取り上げる適用事例は、大阪学院大学情報学部の私のゼミで、下田翼君が行なった卒業研究の成果(2006年1月)である。

 私のゼミの様子は、このたび立ち上げた『学生による学生のためのTRIZホームページ』を見ていただくと分かるだろう (私の『TRIZホームページ』http://www.osaka-gu.ac.jp/ php/nakagawa/ TRIZ/ からアクセスできる。[中川による紹介文 (2006. 3.17)])。

 私は、2年次後期に「創造的問題解決」というテーマ(TRIZ/USITを含む)で、90分13回の講義をしている [2001年度の講義資料 ]。3年生からの週1回90分のゼミでは、技術的素養がまだない学生たちに対して、TRIZ/USITの文献を読ませたり、理論的に教えようとすることには困難があった。そこで、いろいろな事例で演習をしてTRIZ/USITの考え方を学ばせた。また、卒業研究(実質的には 4年次の秋以降)では、身近な問題にTRIZとUSITを適用して自分で解決するように指導した。

 「裁縫で短くなった糸を止める方法」というテーマは、私が提案したいくつかの中から、下田君が選んだものである。彼らは小学校の家庭科で習って裁縫を経験している。

 この事例では、TRIZとそれをやさしくしたUSITを使っているが、「教科書的」「マニュアル的」な適用法ではない。先生はTRIZ/USITを熟知した上で、(USITを主体にして)自由に使ってリードしており、一方の学生は、TRIZ/USITについて理解が十分でないままでやはり自由に発想している。ここで使っている考え方はいろいろな問題に適用できるものである。

 この事例のよい点は、問題の設定、分析、解決策の生成という、一部始終を示していることである。もちろん実際の思考過程は何回か行ったり来たりしているが、それを整理した形で示した。それでも思考の過程はトレースできているから、本稿の末尾に補足説明する。

(3)   問題の設定

 問題の状況はつぎのようである。「裁縫で、縫い終わりには糸を結んで止める。通常は「玉止め」(図1)で止める。さて、いま、縫い終わって止めようとしたら、余っている糸の長さが針の長さよりも短くて、玉止めができないことが分かった。短くなった糸を指先で結ぶのは大変である。糸を止めるよい方法を考えよ。」

USITのやり方に従って、まず問題をもっと明確にしよう。

(a)「困っていること」は、余りの糸が短くて、便利な通常の糸の止め方ができないこと。

(b)よって、「解決したい課題」は、縫い終わりで、余った糸が針の長さより短くなったときに、糸を止めるよい方法を見出すことである。

(c)この状況を「簡潔な図」に示すと、図2のようである。

(d)「考えられる根本原因」は、糸の余長が針の長さより短いことである。

(e)「この問題に関わっているもの(オブジェクト)」は、(縫おうとしている)布、針、(余りの)糸、そして、(すでに縫い込んだ)糸である。

 これら、(a)〜(e)の「 」内の項目を明確にすることを、USITでは「問題を適切に定義する」という。〔通常は最初の段階で問題がもっと曖昧で輻輳しているから、この問題定義の段階が重要である。〕

(4)   問題の分析:空間的・時間的特徴

 問題を分析するに当たって、空間的な特徴、時間的な特徴を吟味することは、大多数の問題で非常に有益である。

 縫い終わりには普通、〔操作的にいえば〕「糸を結ぶ」。それは何のためだろうか? 要するに、〔空間的特徴でいえば〕「糸の端に団子を作っている」のであり、「糸の端を太くしている」のである。それは、〔機能的にいえば〕「引き戻す方向に糸が引っ張られたときに、糸が布に潜り込んで行かないようにする」ためである。

 空間的な特徴という点でまた、「結ぶ」とか、「針の穴」と「糸」とかは、トポロジに関係するもので、随分と微妙なことがある。結んだつもりでも、結べていないことがある。また、後述のように、針の「穴」が完全な「輪」になっていなくてもよいのだと分かる。

 時間的な特徴を考えることは、この場合には裁縫のプロセス(工程)を考えることである。通常、つぎのような工程をたどる。

@ 縫うべき布と、針と糸を用意する。

A 針の穴に糸を通し、糸を切り、端を結ぶ。(一重縫いと二重縫いの場合がある)

B 布を縫い始める。

C 縫っている途中。運針、糸を引っ張る。

D 縫い終わり、糸を引っ張る。

E 玉止めをし、糸を切って、終了。

 本件の問題では、Dを終了し、Eをしようとして、困難に遭遇している。

 そこで解決の方向として、このEの過程だけで工夫してもよいし、D、さらにCの工程まで逆上ってやり直す方法もあり、さらには(本来は)@〜Dの工程のそれぞれで何らかの対策を予め講じておく方法もあるのだ、と分かる。〔さらに工程の順番を変える場合もある。このような観点はプロセスを扱う場合の常道だと、TRIZ/USITを学ぶと分かっていくようになる。〕

(5)   オブジェクト−属性−機能による分析

 さらに問題をよく理解するために、USITでは「現在のシステムを「オブジェクト−属性−機能」の概念で分析せよ」という。簡単にいうと、 「オブジェクト」は構成要素のことであり、「属性」とは性質のカテゴリのことで、「機能」とは一つのオブジェクトがもう一つのオブジェクトに及ぼす変化や制御の作用のことである。

 本問題におけるシステムのオブジェクトは、問題定義の(e)で列挙した 4つ (布、針、余りの糸、縫った糸)である。この4つに焦点を絞って考えよと、TRIZ/USITでは薦める。

 問題の解決のために使う素材 (TRIZでは「リソース(資源)」という)としては、つぎの4階層があると、TRIZは教える。

(1)問題に直接関わる4つのオブジェクト、

(2)それらのオブジェクトを修正または追加したもの(形を変えた針、2本目の針など)、

(3)問題状況において通常すぐ周りにあるもの (TRIZでは「環境中にあるもの」という)(例えば、はさみ、ボタン、アイロンなど)、

(4)その他のもの。

 できるだけ余分なものを導入せずに、最小限の変更で(すなわち上記の (1)に近い階層で)、すっきりと問題を解決するようにTRIZ/USITでは薦めるのである。

 つぎに、問題の4つのオブジェクトの「属性」を検討しよう。「属性」というのは、性質のカテゴリ(種類、範疇)のことであり、各オブジェクトは多様な属性を持つ。例えば、針は、長さ、太さ、断面形状、材質、先端の鋭さ、穴径、表面の滑らかさ、などの多種の属性を持つ。各属性が、性質に関する一つ一つの「次元」を成すとUSITでは表現する。その各性質の値の細部(例えば、針の長さが 5 cmか 6 cmか)を問題にするのでなく、もっと大掴みに(定性的に)長いか短いかだけを問題にするのがUSITの立場である。

 さて、本件の問題に関わる種々の属性を挙げていくと、普通の意味ではその値が(定性的に)固定・不変であり、はじめから問題の「制約」と考えられるものが多いことに気がつく。そしてそれらが、「問題(困ること)」を構成しているのである。例えば、

・ 糸の長さ(余長)は変わらない/伸びない。

・ 針の形も長さも変わらない。

・ 針の太さは縫うために細いことが必要。

・ 針の穴の径は小さい。(だから、糸を針の穴に通すのは大変。)

・ 二重縫いの糸は切らないと針の穴から抜けない。

・ 針の穴は最後部にある。

・ 糸を結ばないと止められない。

 これらは「当たり前」すぎて、問題の「根本原因」にさえ挙げていなかった。しかし、実はこれらはわれわれの「思い込み」であり、これらの「制約」を一つ一つ外してみることが「創造的解決策」を導く鍵なのである。〔下田君がこれらの制約を「根本原因」として記述したのを見て、私はこのことの重要さに気づいた。〕

 つぎに「機能」について考えよう。針が「縫う機能」を持っているのは当然であるが、いまはもう縫い終わっているのだからその機能は役に立たない。「玉止め」での針の機能は、「糸を巻き付ける土台になり、その巻いた輪の中に糸の末端を通し、その結果結び目を作る」ことだといえる。このような記述はよくよく観察しないとなかなか分からない。

 なお、TRIZでもUSITでも、オブジェクト間の「機能的な関係」の図を作るのが標準の方法である。ただ、この例では作り難いからスキップしよう。

(6)   理想をイメージする

 さらにUSITでは、「理想のシステムのイメージ」を作れという。そして、「理想の結果をイメージして図に描け、ただしその手段は(まだ分かっていないのだから)描いてはいけない」と指示する。なかなか難しい注文である。ここでは図3のように、余りの糸が「ひとりでに」輪を作り、その輪を糸の端が通り抜けていくことをイメージした(「針」は本質でないから描いていない)。USITでは、「魔法の粒子 (Particles)」がこれを可能にしているとイメージして、彼らの振る舞いを考察するのであるが、長くなるので省略する。

(7)   種々の解決策(1)

 以上の分析を踏まえて、既知の方法を含めて考えられる案をいろいろ書き出し、新しい(と思う)アイデアを作っていった。

 まず、特別な物や道具を使わない方法には以下のものが考えられる。〔 〕 内は考え方。

(a)布に縫い込んだ部分の糸を引っ張り出して、一時的に余りの糸を長くして、玉止めをする。〔リソースの活用〕

(b)糸を(切って)針から外し、いくつかの縫い目を解いて、余裕のある余長の位置で糸を結ぶ。〔工程を戻る〕

(c)針の先端を持ち、余長部の糸で輪を作り、(結び目ができるように)その輪に針の穴側から通し、途中で止め、糸を切ってから針を抜き戻し、糸の結び目を結ぶ (図4)。〔「糸を操作する道具」として針を使い、空中で図3を実行しようとする。〕一般的に使われる方法だが、糸で輪を安定に作るのが難しく、練習を要する。

(8)   種々の解決策(2)余分のものの導入

 つぎに、余分の物を導入する解決策を列挙しよう。

(d)釣りの鉛の重りのようなものを付ける。

(e)ホックのような形の紐止めを小型にしたもの。

(f)複数の細いスリットを持つ小型のボタン状のものに糸をからませる。

(g)余長の糸を丸めて接着剤で固める。

 これらの多くが類似の場合の解決策をヒントにしている。しかし、「余分の物」を導入する方法では、仕上がり後に「余分の物」が残り、望ましくないことが分かる。

(9)   種々の解決策(3)違った針や糸

(h)糸に鱗状の表面構造を持たせて、縫う方向には進むが、逆行しないしくみにする。(ただし、使用時に問題を生じる恐れがある。)

(i)「長さを変えられる針」:針を中央でねじ込み2段式にして、玉止めの必要が生じたときに取り外して、「短い針」として使う (図5)。〔これは、「長さを変える」ための苦肉の策であり、荒唐無稽なアイデアである。この案を下田君が出したとき、私は「そんなの製造が大変だよ」といった。しかし、後述の諸解決策の原形となった。〕

(j)「穴に切欠きがある針」:針の頭が図6のようになっていて、穴が完全に閉じていない。このような市販品を見つけた。糸の先を穴に通さなくても、糸の途中をこの切欠きに押し込むと穴に糸が入る。再度糸の途中を切欠きに押し込むと、(二重縫いの糸が輪になったまま)糸が針から外れる。これを使うと糸を穴から外したり/通したりするのが楽だから、一旦糸を穴から外し、図6のように糸を針に巻き付けてから、再度糸を穴に通し、通常のように針を前に引き抜くと、玉止めができる。〔下田君がこの針をお父さんから教えて貰って持ってきたときは、やはり衝撃的であった。ああ、こんなアイデアがあるのだ、二度通すとすっと抜けるのだ、とびっくりした。〕

(10)  種々の解決策(4)新しい小道具

 さて、ここからの解決策が本研究のオリジナルである。私たちが自分たちの頭で考え出したのだから「創造的」である。しかし、同様な案を「すでにどこかでだれかが考えていた」可能性は高い。だから、特許や実用新案にならないかもしれない。「新規性」、「特許性」、「創造的」は、近いけれども互いに違った概念である。

 上記のいろいろな解決策を考えた上で、それらをベースにして、「簡単な小道具を使う新しい案」をつぎのように生成することができた。

(k)「ストローの小道具」:ストローの先端部を1〜2 cm 切り欠いた図7のような小道具。既知の方法 (c)の要領で、この先端に糸を巻き、手前からストローの溝に沿わせて針の後部を入れる。その状態で糸を切り、糸を引っ張りながらストローを手前に抜き取る。これは(c)で「空中に」作っていた糸の輪を安定に作り、かつ、その輪の中に糸を通すように針の頭部をガイドするものである。

(l)「玉止め専用の針」という小道具:縫い終わった後で、いままでの針では玉止めができなくなったときに、短くした「玉止め専用の針」に切り換える。この「針」はもはや縫う必要がないので、先端が尖っている必要がなく、細い必要もなく、従って穴も少し大きくして、糸を簡単に通せるサイズにすればよい。図8のようなもので、全体を2 cm程度と短くする。後部の穴は、円形でもよいが、図のようにスリット状の部分を作るとするっと抜けるのを防げるからよいだろう(あるいは、(j)の形式でもよい)。プラスチック製なら手作りできるが、製品にするなら金属製がよい。

(m)上記 (l)の改良版で、後部に穴はなく、スリットにして糸をはさみ込む。これの方が穴のものよりも簡便に操作できる。図9。

(n)上記 (m)をさらに改良。持ちやすくするために、「玉止め専用の針」の後部を長くする。(m)の後部の片側だけを長くして、非対称にする。糸をはさむスリットは、先端から1 cm程度の所につける(これが問題の最初に考えていた「針の長さ」に対応する)。実際に使うときには、糸を(いままでの)針からはずさずに、針の先端を持って糸をこの小道具に巻き付け、スリットに糸をはさみこんでから、針から糸を切り離し、小道具の先端を持って前方に抜き、糸を引っ張って縛る。前方に抜いてしまうので、小道具全体の長さが6 cm程度と長くてもよいのである。(針の「穴」がずっと前方にあると解釈することもできる。)

(11)   解決策の導き方ときっかけ

 上記のような解決策を列挙し考え出してきた背景には、いろいろなTRIZの考え方 (「40の発明の原理」など)やUSITの解決策生成法(5種32サブ解法)などを頭の中で使っている。頭の中ではこれらの多数の方法を意識的/無意識的に使い、ああでもない、こうでもないと考えている。解決策として正式に記述しているのは、それらの中で「有望そうな答え」に到達したものだけである。

 「ストローの小道具」は、既知の (c)の方法の改良として考えついたものであるが、それは、「理想のイメージ」から誘導されている。(ただし、「理想のイメージ」は長い間、頭の中にあっただけで、図に描いたのはずっと後であった。もっと早くに描いていればよかったと今になって思う)。糸の輪を作る方法として最初は「筒」状のもの、「ラッパ」状のものを考え、持ち手を前方(現在とは逆)に考えていた。(経過をよく思い出せないが、多分「切欠きのある穴」の遠い刺激から)「筒」状ではなくて、半分開いた「溝」状でよいのだ、「溝」状の方がよいのだと思いついた。すると持ち手を逆にできる。こう気がついて、ストローで試作し、実際にうまく行くことを確かめた。

 「玉止め専用の針」の小道具は、2段式の「短くできる針」を原形として、いくつもの小さな改良の結果得られたものであり、その過程は上記に説明した。「制約」を外すための苦肉の策が、次第に発展したものである。必要な「機能」だけを的確に果たすように、さまざまな「属性」を調整していっている。

(12)   適用事例から学ぶこと

 以上が「裁縫で短くなった糸を止める方法」という適用事例である。小さな事例であるが、身近な問題で、創造的問題解決の一部始終を示している点で意義がある。

 この事例で使っている、「問題の定義」、および、「空間・時間の特徴の分析」、「オブジェクト−属性−機能による分析」、「理想のイメージによる分析」という方法は、どんな問題にも共通的に使える。これらの分析が後の解決策生成にいろいろな形で活用されていることを理解いただきたい。そして、これらの方法が (やさしくしたTRIZである)USITの標準手順なのである。

 解決策の生成段階は、表には顕れていない頭の中の(そして黒板上/紙上の)思考のプロセスが沢山ある。その思考の特徴は、従来法のように「ヒントを模索し、類比思考で考える」のではない。分析結果やTRIZの発明原理 (あるいはUSITの解決策生成法)などを使って、考える方向を創り出し、「方向づけをもった思考の努力」をしている。私はこれがTRIZ/USITによる「創造的問題解決」の本質であると思う。

 

 次回にももう一つの身近な適用事例を説明する予定である。

 

本ページの先頭 記事の最初 1. 事例の学び方 2. 本事例の趣旨 3. 問題の設定 4. 空間・時間の分析 5. 機能と属性の分析 6. 理想をイメージする
7. 種々の解決策(1) 8. 解決策(2) 余分のもの 9. 解決策(3) 違った針 10. 解決策(4) 新しい小道具 11. 解決策の導き方 12. 教訓   『学生による学生のためのTRIZホームページ』

 

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最終更新日 : 2006. 5. 9     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp