まえがき
(『TRIZホームページ』への掲載にあたって, 中川 徹, 2002年
2月 4日)
ここに連載するのは, 小生が大阪学院大学情報学部の 2年次生に対して行った授業「科学情報方法論」の講義資料である。この科目は, 情報学部の基礎科目の一つであり, 2年次後期 (10月〜1月) に配当されており, 選択科目である。本年度の 2年次生 (本情報学部の1期生) 約115名のうち, 70名が履修登録し, レポートを提出して単位を取得したのは50名余である。講義は90分授業で, 木曜日の 1講時 (9:00-10:30) に行い, 全部で13回の講義をした (国際会議のために別に1回を休講)。
本科目の「目的および概要」について, 『講義要項』には以下のように記述した。
学問分野でも, 技術開発でも, 日常生活でも, われわれが新しい状況や困難などに立ち向かい,新しいものを創造していくためには, その問題を認識し,分析し,解決方法を考え,それを具体的な解決策として実現していく必要がある。その際に扱う対象や問題の内容は個々の問題ごとに異なるが, 「情報」を処理していくという大まかな方法としては,共通するものが多い。それは,研究したり,レポートをまとめる方法でもある。そこで,本講義では,研究や問題解決の基本的なプロセスに沿って, 「情報」の扱い方・考え方 (すなわち,最も深い意味での「情報の処理」)を説明する。このような「情報の処理」の方法論は,科学・技術・[実務・]日常生活にとって大事なことであり, 本科目はそれをまとめて講義する新しい試みである。専門科目を勉強する前にぜひ履修することを薦める。この授業は全く初めての試みであったため, 実際の授業は手探り状態であり, 授業全体の構成も講義しながら徐々に固めていく状態であった。毎週毎週期日に追われながら, 研究レポートを書いているような感じであった。これまでこの『TRIZホームページ』にいろいろと書いてきたことが有効であったが, 企業の技術者でなく, 情報学部の学部 2年生に話すには, ずっとずっとやさしく, 分かりやすくすることが必要であった。学生たちは, (情報技術の入門以外は) まだ科学技術の本格的な教育を受けていず, 企業や社会での実地問題に対する経験も持っていないのだから。 また, TRIZだけでなく, より広い視野から見た内容にする必要があった。いま, 授業をやり終えて, このような必要に答える形で新しく書き下ろしたことが, 自分にとっても大変有益であったと思う。
実際に講義した内容は,
以下の一覧のようである。
(回)
月日 |
主題 | 内容 | 掲載日 |
(1)
2001. 10. 4 |
導入:
科学・技術の研究と 学習の方法 -- 経験と原理 |
本講義について (趣旨,
概要,留意点)
日常生活から科学・技術へ (「額縁掛け問題」のデモ) 科学と技術のアプローチの概要 観察→経験的知識→仮説→実験検証のアプローチ |
2002.
2. 4 |
(2)
10.11 |
レポートの書き方
(本科目のレポート課題) (レポートの書き方) |
本講義の成績評価のレポートについて
レポートの書き方 はじめに (重要性) レポートの目的を明確にする レポートの中身を作るための調査・研究 執筆の準備と執筆活動 レポートの形式と記述すべき項目 文章の書き方の要点, まとめ, 参考文献 |
2002.
2. 4 |
(3)
10.18 |
(続)
科学・技術の研究と
学習の方法 - 経験と原理 情報の収集 (その1: 学術情報の 図書・雑誌による収集) |
原理・理論→科学的推論→応用のアプローチ
問題→分析→解決策→応用のアプローチ ----------------------------- 情報の収集 -- 書誌情報とインターネット 学術情報の図書・雑誌による情報収集 論文などにおける文献の記載形式 |
2002.
2. 4 ----- 2002. 3.28 |
(4)
10.25 |
情報の収集
(その2: インターネットを 利用した情報の収集) |
WWWのしくみ
リンク集を用いたインターネット情報の収集 検索エンジンを用いたインターネット情報の収集 (キーワード検索) インターネットによる情報収集のためのリンク集 |
2002.
3.28 リンク集 |
(5)
11. 1 |
問題を見つけて絞り込む | はじめに
「人生の大事な問題」についての捉え方 問題を捉えるための一つのヒント (プロジェクトX) 技術の世界で問題を捉えた種々の事例 問題を適切に捉えるための諸観点 問題の設定のしかた 問題の明確化のプロセス (USIT法の問題定義) |
2002.
3.28 |
(6)
11.15 |
「発想」とは何だろう?:
試行錯誤とひらめきと 創造性 |
はじめに: 「発想」とは何だろう?
「ひらめき」: 種々の逸話とその教訓 試行錯誤による実験 自由奔放に発想を促す技法: ブレインストーミング 「心理的惰性」: 創造を阻む自分の内面の要因 野口悠起雄の『「超」発想法』とその批判 |
2002.
5.16 |
(7)
11.22 |
「システム」とは:
構成要素とその関係, 階層性, 技術システム |
「システム」という言葉
「システム」の階層性 「システム」として捉えた簡単な例 「ブラックボックス」としての システムの働き (機能) の表現 技術的システムの考え方 「技術システムの完全性の法則」 という考え方 |
2002.
5.16 |
(8)
11.29 |
問題の分析
(1)
問題 (困ること) の 「原因」をつきとめる |
問題の分析のはじめに:
何が「問題 (困ること)」なのか? 「問題 (困ること)」が起こる原因は何なのか? 技術システムにおける原因分析の例 原因-結果のネットワークによる表現とその利用法 |
2002.
6. 6 |
(9)
12. 6 |
問題の分析
(2)
技術システムの 機能と属性の分析 |
「メカニズム」の理解,
専門領域の知識とその限界
システムの機能分析 (1) 簡単な記述ルールの表現法 (2) 有益/有害な機能を区別する表現法 「オブジェクト-属性-機能」による分析 (USIT法) |
2002.
6. 6 |
(10)
12.13 |
問題の分析
(3)
空間と時間の特性, 理想解からイメージする |
空間と時間による特性の分析
「理想」の認識と技術システムの「理想性」 (TRIZにおける概念) 理想をイメージして問題解決する具体的技法 (USITのParticles法) |
2002.
6.20 |
(11)
12.20 |
解決策の生成法
(1)
知識ベースの活用 |
はじめに
問題解決の基本モデル 問題解決のための種々の「知識ベース」の枠組み (TRIZの全体像) 「技術システムの進化のトレンド」とその利用 技術の逆引き: 目標機能から実現手段を求める TRIZの「40の発明の原理」 「アルトシュラーの矛盾マトリクス」 TRIZの「76の発明の標準解」 |
2002.
6.20 |
(12)
2002. 1.10 |
解決策の生成法
(2)
「壁」を破る方法 (ブレイクスルー) |
「矛盾」の克服:
TRIZの「分離原理」の考え方
「発明的解決策であるための二つの条件」: イスラエルのASIT法 USITの解決策生成技法 (その1) |
2002.
7.15 |
(13)
1.17 |
解決策の生成法
(3)
解決策の体系化 |
USITの解決策の生成技法
(その2)
USIT法の全体像 (フローチャートと適用法) TRIZの全体像と学び方 創造的問題解決の意義: 技術開発と社会への応用 本講義のまとめ |
2002.
7.15 |
この講義内容は, 『TRIZホームページ』の読者の皆さんにもきっと有益なことがあろうと思い, ここに順次掲載することにした。もともとはMS Wordのファイルであるが, 本ホームページ内のいろいろな記事との連携を容易にするために, HTMLに変換した。本来は特定の学生たちに向けた講義だから, 学外の人たちには分かりにくい部分もあろうが, なまじ修正し始めると収集がつかなくなるので, 講義資料のままで掲載する。字下げや改行を使った形式に書いているのは, 授業をする側にも聞く側にも分かりやすくするためである。[固定ピッチのフォントで見て下さい。そうでないと字下げの間隔がずれます。] 毎回 8〜14頁のプリントを渡した。読者の皆さんのご意見を頂ければ幸いである。
なお, 小生の別の講義のうち, 「総合科目 (1)」 での講義内容は, 2000年6月に 本ホームページに「創造的な問題解決の思考法 −大学生活で何をしようとするのか?」として掲載した。2000年 4月に発足した情報学部も, 1期生たちがこの 4月から 3年次になり, いよいよ専門科目の講義やゼミなどが本式にスタートする。しっかりした教育をしたいと思っている。また, 今回この授業で提出されたレポートを読みながら, 学生たちが育ってきていることを感じることができ, これからが楽しみである。
なお, 本学の概要については,
大阪学院大学の公式ホームページ
(http://www.osaka-gu.ac.jp/) を参照下さい。
編集ノート(中川 徹, 2002年 7月15日)
この13回講義の連載を今回で完了することができた。読者の皆さんのお役に立てれば幸いである。
この機会に, 本件のまえがきの部分
(目次一覧を含む) を英訳して, 英文ページに掲載した。機会を得て
(少し手直しのうえ) 全文を英訳することができればよいと思っている。
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