講義ノート: 創造的問題解決の方法論(12)
 解決策の生成法 (2) 
「壁」を破る方法 (ブレイクスルー)
  創造的問題解決の方法論
− 大阪学院大学情報学部 2年次「科学情報方法論」講義ノート (第12回講義)
  中川  徹 (大阪学院大学) , 2002年 1月10日
   [掲載: 2002. 7.15]   [ 注: 固定ピッチのフォントで読んで下さい]
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講義「科学情報方法論」(情報学部2年次)  第12回  講義資料
                                             2002年 1月10日   中川  徹

  解決策の生成法(2) 「壁」を破る方法 (ブレイクスルー)

目標:  問題解決の核心は, 「壁」 (困難・矛盾) を打ち破って, 「ブレイクスルー」を達成すること
      である。そのための具体的な考え方を, TRIZ, ASIT, USITから学ぶ。
 
 
前回:解決策の生成法 (1) 知識ベースの活用

目標:  問題解決で「解決策の生成」には, 科学技術の知識を使いやすい「モデル」 (手本)
       とすることが有効である。TRIZを中心として, 開発されてきた種々の「モデル」を
       学ぶ。 

要点:  自分の問題を個別・具体的にだけ考えていては, より本質的な解決策を得ること
       が難しい。知識 (知識ベース) に蓄えた優れたモデルを利用するとよい。 
       自分の問題を「抽象化」する思考, モデルの解決策を「具体化」する思考が必要。

       科学技術の知識体系, 特許などの事例集の他に, 技術分野向けのもっと使いやす
       い「知識ベース」が作られている。
 

           技術システムの進化のトレンド 
           技術の逆引き (目標機能から実現手段を求める) 
           TRIZの「40の発明の原理」
           TRIZの「アルトシュラーの矛盾マトリクス」 (矛盾解消マトリクス) 
           TRIZの「76の発明の標準解」

       これらの「知識ベース」の個々の原理・事例を学ぶだけでなく, 
         「知識ベース」の基本的な構造・組み立て方, 考え方を理解・習得するとよい。


 

1.  はじめに

  前回の講義で学んだ解決策の生成法は,
    「知識」あるいは「知識ベース」として蓄積・体系化された優れた「モデル」を使うこと。

  「知識ベース」が本当に役に立つためには, つぎの点が必要である。

      優れた内容が「知識ベース」の中に蓄積されていること。
          それが意図している範囲の「問題」に対して,
          対応した「解決策」が記されていて, 適切・強力であること。
         「問題」から「解決策」への筋道が明快であること。

      この「知識ベース」が, 容易に頭の中に学習・記憶できるか,
        あるいは, ハンドブック, ソフトツールなどになっていて使いやすいこと。

      また, 自分の問題から, 「モデルの問題」に至る筋道が分かりやすいこと。
            「モデルの解決策」を具体化して「自分の解決策」得る筋道が分かりやすいこと。

  前回述べた各種の「知識ベース」 (特にTRIZが新たに開発したもの) は,
    使いやすいための工夫がいろいろなされているが,
      「体系」としてしっかり・大きくなるほど,
              学習し記憶することが困難になる。 (あるいは努力を要する。)

  そこで, もっと単純で直接的に, 「解決策」を生成する方法がないだろうか?
    「考えるためのプロセス」として, ガイドしてくれるものがないだろうか?

    今回の講義では, そのような「考えるためのプロセス」を説明する。

 

2.  「矛盾」の克服: TRIZの「分離原理」の考え方

  TRIZ (発明問題解決の理論) の創始者 アルトシュラーが確立した方法は,
      「問題を突き詰めて「物理的矛盾」にまでもっていき,
          それを「分離原理」を使って解決する。」

      この詳細なプロセス (ARIZ (アリーズ) と呼ぶ) は分かりにくいが,
        考え方 (概念) そのものは明快である。以下には, この考え方を説明する。

  TRIZでは, 問題を解く際の「壁」(本質的な難しさ) には,
    つぎの3種 (3段階) があると言い, これらを「矛盾」と呼ぶ。

  (1) 「管理的矛盾」: 「何かあるものが必要 (欲しい) と分かっているが,
                       どうしたらそれが得られるかが分からない。」

      問題がまだ漠然としている。
     「何が必要なのか」もまだ本当には分かっていない。
      それがどんな構造・仕組みで, どうすれば作れるかも分かっていない。

      例:  「現在, 通学に徒歩・電車で 1時間かかっている。
                   自宅から大学まで10分で来れる方法が欲しい。」

    解決へのアドバイス:  もっと問題を煮詰めて, 具体的に考えなさい。

  (2) 「技術的矛盾」:
         「(技術) システムの, 一つの側面を (何か既知の方法で) 改良しようとすると,
               別の側面が (許容できないほどに) 悪化する。(このため改良ができない。)」

      問題が大分はっきりして, 技術的検討を進めているが, 困難に遭遇している。
        技術的な試行錯誤 (模索・実験) の段階にある。

       (通常の解決策は, 両側面をほどほどに満足した「最適の」妥協点を考える。
            技術的には, 「トレードオフ」と呼ぶ。)

    解決へのアドバイス:  分野を越えて同種の問題を解決した事例を参考にしなさい。
        ==>  問題を「アルトシュラーの矛盾マトリクス」上で表わし,
               その表から参考になる「発明の原理」(とその事例集) を見なさい。
                                                  (前回の講義を参照)

        ここで示される「発明の原理」は, 「ヒント」でしかない。
           「矛盾マトリクス」は, 「40の発明の原理」から,
               同種の問題に過去に適用された 「トップ4種」の原理を教えるもの。

  (3) 「物理的矛盾」:
          「(技術) システムの一つの側面に対して,
                    正・逆の反対方向への二つの要求が同時にある。」

      問題の所在がはっきりして, 通常の意味では「にっちもさっちも行かない」段階。
        二つの要求が真っ正面から対立している。

      (通常の解決策は: 「まあまあ, そんなに固いことを言わないで,
                           お互いになんとか歩み寄ってくれませんか?」
                         両者がそれでも頑張ると「お手上げ」。)

      例1: 「動画像の著作権表示は,
                邪魔にならず, 見破られないために:  「見えない」ことが必要。
                著作権の主張のために:              「見える」ことが必要。」

      例2: 「額縁掛けのひもを掛ける釘の表面は,
                額縁の向き (傾き) を調節するためには:  「滑りやすい」ことが必要。
                額縁が傾かず安定なためには:            「滑らない」ことが必要。」

      例3: 「高層ビルの (避難) 階段は,
                日常の便利さ・快適さのためには: 「建物内」にあることが必要。
                火災時の安全な避難のためには:   「建物外」にあることが必要。」

    ところが, TRIZは, 問題を「物理的矛盾」にまで煮詰めることを薦める。
     「物理的矛盾」はほとんど確実に「解決できる」という。
           その解決の方針が「分離原理」である。

     「分離原理」: 一見互いに対立している二つの要求を良く吟味して,
                      両者の要求を「時間的に分離できないか?」
                                  「空間的に分離できないか?」
                                  「その他の何らかの条件で分離できないか?」
                      分離できたなら, 二つの要求をそれぞれ別々に満足させなさい。

      上記の例では, 対立する要求をつぎのように分離できた。

        例1.  著作権表示:  「見えない」必要があるのは, 通常の動画鑑賞のとき。
                           「見える」必要があるのは, 静止させて検証するとき。
                 ==>  動画像の表示条件による分離。

        例2.  額縁掛けの釘:  「滑りやすい」必要があるのは, ひもを調整している時。
                             「滑らない」必要があるのは, 調整の後からずっと。
                 ==>  時間による分離。

        例3:  高層ビルの階段: 「建物内」の必要があるのは, 日常・平常のとき。
                              「建物外」の必要があるのは, 火災発生のとき。
                 ==>  時間による分離。

      対立する要求を「分離」した後に, 両者を統合して「一つの解決策」にする。
        このときに, 何らかの (科学的原理に基づく) (技術的) 工夫が必要である。

      上記の例での解決策:

        例1.  著作権表示:  動画像を静止させて表示したときには「見える」が,
                           通常のように動画像表示したときには,
                               表示時間が短いので, 「見えない」。

        例2.  額縁掛けの釘:  (釘の表面に「滑りやすい」部分と「滑らない」部分を作り)
                             ひもの調整のときには, 「滑りやすい」部分を使い,
                             調整終了時にひもを釘の「滑らない」部分に動かして保持。

        例3.  高層ビルの階段:  (階段の構造を新たに設計して)
                             平常時には, 窓を閉めて「建物内」と同等にし,
                             火災発生時には, 窓を全開して「建物外」と同等にする。

    TRIZの問題解決の技法の考え方は, このように明快であり, かつ強力である。

      TRIZの「40の発明の原理」には,
        「分離原理」に直接に結びつくものもあるが, 直接には結びつかないものもある。

 

3.  「発明的解決策であるための二つの条件」: イスラエルのASIT法

  ASIT法 (Advanced Structured Inventive Thinking) の歴史的経緯:
    1980年代:  TRIZの専門家たちの一部がイスラエルに移住し,
                 TRIZの企業応用の必要から「TRIZの簡易化」を行った。
                   TRIZの「40の発明の原理」を 4種に絞り込む。「SIT法」
    1990年代から最近:  Roni Horowitzによる研究と改良。

  次の論文が重要:
    Roni Horowitz and Oded Maimon : 「創造的設計方法論とSIT 法」, DETC'97
      (1997年); 中川 徹訳, 『TRIZホームページ』, 2000年3月。

  Horowitzらは, 認知心理学的な実験を行った結果, つぎのことを証明した。

   「技術者たちは一般に, つぎの2条件を同時に満足している解決策を見せられると,
       それが「発明的」な解決策であると呼ぶことに同意する。

      条件1: 「閉世界制約の条件」:
                もとの問題のシステムに含まれるオブジェクト以外の
                  新しい種類のオブジェクトを その解決策が導入していない。
                    (もとのオブジェクトの性質を変容させたものは構わない。)

      条件2: 「定性変化 (質的変化) の要求
                  もとのシステムの問題となる効果(「困ること」)と,
                    少なくともある一つの属性との相互関係に「質的な変化」がある。
                    (例えば, 増大関係であったものが, 無関係になるなど)  」

  Horowitzらは, 「発明的解決策」についての定義を与えようとはしていない。
    それは非常に抽象的で, 定義しにくい概念, 一般的に定義できていない概念である。

    ところが, 本当に優れた解決策を見せられると, 素養のある技術者たちは,
      ほとんど異口同音に, 「これはすばらしい。発明に値する」という。
        ある実際の解決策が「発明的」かどうかは, 技術者たちの意見がほぼ一致する。

    そこで, 多数の問題に対するそれぞれ複数の解決策を見せて,
      技術者たちに「発明的」な度合いを判定させた。
           (全く発明的でない, ... , 非常に発明的である)

    「発明的」であるとして高得点を得た解決策は, 共通に上記の2条件を満たしていた。

  例:  野戦における移動式アンテナの結氷の問題  (Horowitzら)





  ASITでは, 「上記の 2条件を満たす解決策」を考えることに集中する。
    その際, 具体的には, つぎの5種の解決策生成技法を使う。

    参考:  R. Horowitz: 「イスラエルのSIT法とその利用(2) ASITの五つの思考ツール
            とその適用例, 中川訳, 『TRIZホームページ』 2001年12月。

  ASITの5種の解決策生成技法:

    1. 統合 (Unification):  機能をまとめて既存のオブジェクトのどれかに担当させる。

    2. 乗算:  既存のオブジェクトを複製して変容させたものを導入する。

    3. 除算:  既存のオブジェクトを分割して, 再編成する。

    4. 対称性の破壊:  対称的な状況を非対称な状況に変換する。

    5. オブジェクトの除去:  一つのオブジェクトをシステムから除去し, 単純化する。

  ASITでの問題解決のプロセスの例:  (「統合法」を適用する場合)

    「酸を試験する容器の問題」(TRIZの教科書問題)

        種々の金属試料を, 種々の酸性液に対する耐性についてテストする。
        テストのための容器は, 温度・圧力などの環境条件を整える働きもしている。
        問題は, このテスト容器が金属でできており, 酸によって腐食されることである。
        テスト容器が腐食されない方法を考えよ。

    (1) 「閉世界」の定義:  問題中のオブジェクトと環境中のオブジェクトを列挙せよ。

              「金属試料, 酸, 容器, 空気」

    (2) 準備: 望ましくない効果 (問題の「困ること」) を書け。

                「酸が容器を攻撃する。」

             望ましくない効果をなくすような, 「望む行動」に書き直せ。

                「酸が容器を攻撃するのを妨げる。」

             望む行動を遂行するオブジェクトを一つ選べ。  (順番に選べ)

                「金属試料」

    (3) 「統合法」の適用:  選んだオブジェクトが望む行動をしているところを想像せよ。
           (選択したオブジェクトやその他のオブジェクトたちを変容させてもよい。)

                「金属試料が, 酸が容器を攻撃することを妨げている。....」

    (4) イメージで得たアイデアの核心を一文で書け。

                「金属試料が酸を容れてしまい, 酸が容器に接触するのを妨げる。」

    (5) そのアイデアを 3〜5の文に詳細化せよ。

                「金属試料にドリルで (途中までの) 穴を開ける。
                    その穴に酸を容れる。
                    この試料をもとの金属容器の中に置く。」

  この例のように, ASITの考え方は非常に単純で明快である。
    5種の方法を覚えて, それをいろいろな問題に適用して練習していくとよい。
        適用範囲は随分広いと思われる。

  しかし, 私は, つぎのような理由でASITよりもUSITを薦める。

  (a) ASITは, 「単純化」を追求したもので, つぎの2点で行き過ぎている:
        問題を絞り込み, きちんと分析する方法を (ほとんど) 提供していない。
          このため, 企業などでの実地の問題解決のための具体的な指針に不足する。

        5種の解決策生成法は, (良く使われるものを選んでいるが) 部分的である。
          より広い思考をサポートできるほうがよい。

  (b) ASITは「発明的」アイデアの生成に特化しようとしている。
        実際の問題の解決には, いろいろなアイデアを出すことが望ましく,
          複数のアイデアの中から実情にあうものを選んで開発・実施していくべき。
            多数の創造的なアイデアを出していると, 「発明的」なものも出てくる。

 

4.  USITの解決策生成技法 (その1)

  USIT法 (Unified Structured Inventive Thinking) の歴史的経過:

    1993年  フォード社のEd Sickafusが イスラエルのSIT法とTRIZに接する。
    1995年  Sickafusが SIT法を改良して USITを作り, 社内教育を開始。
               教科書を出版 (1997年)
    1999年  中川がSickafusのセミナーで学び, 以後日本に導入を努力中。

  文献:  中川  徹: 「やさしいUSIT法を使ってTRIZのエッセンスを教え・適用し
   た経験」, TRIZCON2002投稿論文の和訳, 『TRIZホームページ』, 2002年1月。

  USIT法には, つぎの 5種の解決策生成技法がある。

    (1) オブジェクト複数化法:  オブジェクトを 「複数化」する。
    (2) 属性次元法:            オブジェクトの属性の「次元」を変える。
    (3) 機能配置法:            機能をオブジェクト間で「再配置」する。

    (4) 解決策組み合わせ法:    二つの解決策をいろいろな面から「組み合わせる」。
    (5) 解決策一般化法:        一つの解決策の中の用語・概念を「一般化」する。

    これらの解決策生成法は, 「何を」「どうする」の形で述べている。
        それぞれは「オペレータ (演算子)」である。
        このオペレータを, 対象となるすべての要素に順次適用して, その結果を考える。

    最初の3種は, システムの 3基本概念 (オブジェクト, 属性, 機能) に対応している。
    後の2種は, 得られた「解決策」に対してさらに適用するものである。

        [今回の講義では, (1)〜(3)を説明し, 次回の講義で(4)(5)を説明する。]

      これらを繰り返し適用すると, 多数の解決策のアイデアが得られる。

  (1) オブジェクト複数化法:  各オブジェクトを「複数化」する。
          (英語での「複数」の概念は, (1以外) 0, 2, 3, ... ∞, 1/2, 1/3, ... 1/∞ を含む。)

    (a) そのオブジェクトを除去する (ゼロにする)。 (単純化, 「トリミング」ともいう)
            単純化したシステムで, 望む機能を実現するように機能分担を考える。

    (b) そのオブジェクトを, 多数 (2個, 3個, ... , 無限個) にする。
            新たに増やしたオブジェクトの性質を変容させて組み込むことを考える。

    (c) そのオブジェクトを, 分割 (1/2ずつ, 1/3ずつ, ... 1/∞ ずつ) する。
            分割したオブジェクトに何らかの変更を加えて, 再統合する。

  (2) 属性次元法:  各オブジェクトの各属性の「次元」を変える。

    (a) 有害な属性を, 使わない (関係しない) ようにする。

    (b) 新しい有用な属性を, 使う (関与する) ようにする。

    (c) ある属性 (有害あるいは有用な) の値を, 空間的に変化させる。
           ある所 (部分) での値と別の所での値を違うようにするなど。

    (d) ある属性 (有害あるいは有用な) の値を, 時間的に変化させる。
           ある時の値と別の時の値を違うようにするなど。

    (e) ある属性の値の, 空間依存性と時間依存性を切り換える。
           空間的な変化 (変動) を時間的な変化 (変動) に変えるなど。

  (3) 機能配置法:  機能を, オブジェクト間に再配置する。
        既存の機能と新しい機能を含む。既存オブジェクトと新規オブジェクトを含む。

    (a) ある機能を, 別の (既存または新規導入の) オブジェクトに担わせる。

    (b) 二つの機能を統合して, 一つのオブジェクトに担わせる。
          もしどれかの機能を担っていたオブジェクトが冗長になれば, 除去する。

    (c) 新しい機能を導入し, (既存または新規の) オブジェクトに担わせる。
 

  USITの解決策生成法の適用例:

    「少量の漏水の検出法の問題」  (中川  徹, 1999年7月)


 
 





  USIT法の解決策生成法の適用例 (2)

    「額縁掛けの問題」  Sickafus (1997) & 中川 (2001)

  (1) まず単純化してみる。重心のずれがない完全な額縁を考える。(<= 属性次元法)

  (2) 重心のずれがなければ, ひもの調節が不要だから, ひもを無くす。
        額縁の上枠の真ん中で釘にちょんと掛ければよい。(<= オブジェクト複数化法)

  (3) 重心のずれがあるときには, 釘に掛ける位置を少し調節してずらせばよい。
        (<= 属性次元法)  [釘を掛ける (左右の) 位置という属性]

  (4) 額縁の上枠に釘を掛ける凹みを多数作っておけばよい。(<= オブジェクト複数化法)

  (5) 額縁の上枠の釘を掛ける凹みを, ボルトを使って回せば連続的に調整できる。
        (<= 属性次元法)   [凹みの位置属性の値を時間変化]


 解決策(2)          解決策(3)           解決策(4)          解決策(5)

  (6) 壁からの振動を小さくするために, クッション材をいれる。(<= 属性次元法)
        具体的には, 額縁と壁の間にスポンジ, ゴムなどを入れる。

  (7) 額縁と壁の間の摩擦を大きくし, 動きにくくする。   (<= 属性次元法, 機能配置法)
        具体的には, 粘着材, 両面テープなど。

  (8) ひもが釘のところで滑らないように, 釘の面を粗くする。 (<= 属性次元法)

  (9) 釘の表面に, 粗い部分と滑らかな部分を作り,
        ひもを調節するときには, 滑らかな部分を使い,
        調節が終わると, ひもを釘の表面の粗い所に動かして固定する。

  演習:  この解決策(9)はUSITの解決策生成法のどれを使ったのだろうか?

  回答 (中川  徹, 2001年11月) : つぎの4種の方法のどれとでも解釈できる。

     (a) オブジェクト複数化法: 「釘」オブジェクトを半分ずつにして, 性質を変えて統合。
     (b) 属性次元法: 釘の表面の「滑らかさ」の属性の値を, 釘の部分によって変えた。
     (c) 機能配置法: 釘の「調節」機能と「保持」機能を分離し, 釘の部分毎に担当させた。
     (d) 解決策組み合わせ法: 釘を滑らかにして調節しやすくする解決策と,
                             釘の表面を粗くして, 傾きにくくさせる解決策とを,
                               釘の部分を分割することにより組み合わせた。

  「一つの解決策を複数の解決策生成法の観点で同時に解釈できる」のは大事な認識。

      これは, システムの3つの基本概念「オブジェクト, 属性, 機能」が,
        それぞれ単独では存在しないことによる。

        だから, 解決策生成法の説明でも, 観点の主たる対象への操作を述べ,
                  その細目 (具体的なやり方の指針) に他の基本概念に言及している。

      よって, USITの3種の解決策生成法は, 実際には重複しあっている。
          考えやすい解決策生成法を使えばよい。

      3種の方法を繰り返し使うので, より確実に解決策のアイデアが得られる。

  USIT法の解決策生成法は,
      ASITの解決策生成法を全て含んでいる。
          ASITでの考えるプロセス (前節3) は大いに参考にするとよい。

      TRIZの「40の発明の原理」の多くを含んでいる。(3種の解法だけでも)
          TRIZよりもより素直にまとめられている。

      また, TRIZの「技術システムの進化のトレンド」などの知識を
           USITの解決策生成法の具体的な考え方に活用できる。

             (例えば, オブジェクト複数化法で, オブジェクトを2個にしたときに,
                        どのように性質を変えて組み合わせるとよいのかの指針になる。
                   例: スピーカを2個にして,「ステレオ」に構成する方法。)
 

    次回 (最終回) は, USITの残りの2種の解決策生成法を説明し,
                      USITにおける問題解決の全プロセスを整理し,

                      本講義の主題「問題解決のための科学的方法」のまとめをする予定。
 
 

    レポート提出の締切りは1月24日 (金) 午後3時。
        授業支援システムCaddieで課題回答ファイルを提出すること。
 
 
 
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最終更新日 : 2002. 7.15   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp