講義ノート: 創造的問題解決の方法論(6)
 「発想」とは何だろう?: 
    試行錯誤とひらめきと創造性
  創造的問題解決の方法論
− 大阪学院大学情報学部 2年次「科学情報方法論」講義ノート (第6回講義)
  中川  徹 (大阪学院大学) , 2001年 11月15日
   [掲載: 2002. 5.16]   [ 注: 固定ピッチのフォントで読んで下さい]
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講義「科学情報方法論」(情報学部2年次) 第6回 講義資料
                                                       2001年11月15日  中川 徹

  「発想」とは何だろう?: 試行錯誤とひらめきと創造性
 

目標:  問題解決の核心にある「発想」(思いつき, ひらめき) とういう心の動きについて考
        え, 「試行錯誤」の過程を反省し, 「発想」を引き出しやすくする方法を学ぶ。
 
 
前回:  問題を見つけて絞り込む

  目標: 問題解決のためには, 何よりもまず, 「問題」に気がつき, 見つけて, 絞り込む
        ことが大事である。そのための意識と方法について学ぶ。

  要点: 問題を見つけるには, 切羽詰まった気持ち, 「問題意識」が必要である。
         そのような意識があってはじめて, 「問題」が見えてくる。

        大事な問題とは, 「どうしても解く必要性があり, 解決すれば利益が大きく, 社会
          的ニーズがある」ような問題である。
          「解決するための基盤・方法・手段」は, 努力すれば後からでも作れる。

        問題を大きく (広く) 考えた上で, 核心の問題に絞り込むことが大事である。
          問題の設定のしかたで, 後の問題解決のすべての努力の方向が決まる。

        「レポートのテーマ」を選ぶのも, 「問題」を見つける一つの例である。 

0. レポートについて (再)

  前回にも話したように, この講義の成績評価のための「レポート」の「テーマ」は,
    「本講義に関連する項目について, 自分で選ぶ」。

    ここで, 「本講義に関連する」というのは, 広く考えてよい。
      「情報科学」あるいは「情報学」に関連する分野であれば, 特に制限をしない。

      自分でテーマを選び, それについて調べ, きちんとまとめることに意義がある。
        「感想文」ではない「レポート」を書くこと。

    レポートの予備提出 (「アウトライン」2頁程度) の締切りは12月3日です。

    いまどんな「テーマ」を頭の中で考えていますか?

 

1. はじめに: 「発想」とは何だろう?

  今回の講義は, 「問題解決」の核心にある「発想」について考える。
    「ひらめき」, 「創造性」, 「独創性」などは, 天才だけのものだと思う必要はない。
    「誰もが創造的に考えることができる」というのが, この講義全体のモチーフである。

  何らかの「問題」を解決したとき, その過程を振り返ってみると,
    本当に問題を解決した「核心になるアイデア」は, 一つ二つであったことが多い。

    そして, 「核心になるアイデア」が「突然ひらめいた」と感じられることが多い。

  このような, 問題解決過程の核心部分は,「発想」と呼ばれる。
      それは, 観察・経験から徐々に概念が形成される「帰納」とも異なり,
              理論からつぎつぎに論理的に考えを発展させる「演繹」とも異なる。

  最も端的には, 「あっ そうだ! そうすればよいんだ!」 (思いつき, 発想, ひらめき)

     「あっ そうだ! 思い出した!」 (思い出し) とは少し異なる。
        「思い出し」は, 以前に (昔) 一度知っていて, 記憶したはずのことを,
              もう一度改めて明確に意識すること。
              以前の状況や事実をそのまま再現すること。

    「思いつき」は, 新しいこと (問題) に対して,
                    何らかのアイデア (解決策) を考えつくこと。

    このアイデアは, 以前に (昔) 学んだ (見た/知っていた) ものでもよいし,
                   全くはじめて考えついたものでもよい。

  「思いつき」にもいろいろな形態やレベルがある。

    以前とほとんど同じ問題 (状況) に対して, 以前とほとんど同じ解決策を思いつく。
        →  「連想」 (自分の例で思いついたとき,
                     一般的な知識になっている例で思いついたとき)
            「模倣」 (他人がやった例を知っていて思いついた (真似た) とき)

    以前とは大分異なる問題 (状況) に対して, 以前とほとんど同じ解決策を思いつく。
        → 「転用」

    以前とは大分異なる問題 (状況) に対して, 以前とは異なる解決策を思いつく。
        → 「発想」,「創造的発想」 ただし「自分で」思いつくことが必要。

        → 「独創」 他の人がすでに知っていた/行った解決策ではないとき。

 

2. 「ひらめき」: 種々の逸話とその教訓

  「ひらめき」は, 上記の「思いつき」が突然で, 高度である場合をいう。

  歴史的にも, 科学者たちが「ひらめき」を得たときのことが沢山伝承されている。

    アルキメデス (ギリシャの科学者, 287-212BC頃)

                                       →「アルキメデスの浮力の原理」
 

    ニュートン (イギリスの科学者, 1642-1727):

                                       → 「万有引力の法則」

    ケキュレ (ドイツの化学者, 1829-1896年):

                                       → 「ベンゼン環の分子構造」

    参考書: アイザック・アシモフ『科学と発見の年表』(原書1987年),
               小山慶太・輪湖博 訳, 丸善 (1992年)
 

  だれでも, 考えごとをしていて, なかなか思いつかず,
    何かの拍子に, 「ぱっとひらめく」 (思いつく) という経験をしたことがあるだろう。

    よいアイデアを思いついたことがあるのはどんなときか?
 
 

  このような科学者たちの「ひらめき」の例を研究して, 真似られないだろうか?
      研究結果から一般的に知られていること:

    ・ ある問題についての基本的な知識を持ち, 学習 (研究) しており,
    ・ 強い問題意識を持って, それ以前に長期間考えていた。
    ・ リラックスした心理状態のときに, ちょっとした外的な事象がきっかけになった。
         あるいは, 夢の中できっかけを得た。
    ・ それらのきっかけを自分の問題に適用して, 明確な解決策にした。
 

    参考: これらの研究の最近の成果をまとめた本:
         『創造的認知 - 実験で探るクリエイティブな発想のメカニズム』
             R. A. Finke, T. B. Ward, and S. M. Smith 著 (原著1992年),
             小橋康章訳, 森北出版 (1999年)。

       (この本は, 上記の「ひらめき」が特別なものでなく,
          誰の頭の中でも日常的に使われている機能を組み合わせたものと考えている。)

  この「ひらめき」の一般的知識を基にして, 確実に「ひらめき」を得ることは容易でない。
      努力の方向は示されているけれども, 精神論であり, 具体的でないから。

 

3. 試行錯誤による実験

  上記のように「ひらめき」による解決がすぐに期待できなければ, 努力するしかない。

  「ともかくいろいろやってみる (実験してみる)」方法を 「試行錯誤」という。
      やってみて失敗だったら, また別のことをやってみる。
        ともかくいろいろやってみる (ためしてみる)。

  エジソン (アメリカの発明家, 1847-1931年) の例:

    「1873年にA.N. ロディジンが炭素電極を用いた真空ランプを発明した。
    エジソンはロディジンに続き, 白熱の電気ランプを作ろうと努力した。
    最初の実験では, 炭化した紙で作ったフィラメントが8分だけもち, 白金フィラメント
    は10分もった。続いてチタン-イリジウム合金, ホウ素, クロム, モリブデン, オスミ
    ウム, ニッケルのフィラメントが試されたが, 良好な結果は得られなかった。次の1600
    もの異なる物質を用いた一連の実験から, エジソンは何も得られなかった。
    そしてついに, 炭化した綿のフィラメントが13.5時間光つづけることを発見した。
    14ヶ月後, 炭化した板でできたフィラメントが170時間光りつづけ, 炭化した竹 (エジ
    ソンが舞踏会である婦人から借りてきた日本製の扇を入れる箱の素材) はなんと1200
    時間も光りつづけた。これは1879年のことで, 6000もの実験の後であった。
    1880年にエジソンは, 電流発生器, 電線, スイッチ, 安全装置, ランプホルダなどから
    成る, 電気照明システム全体を苦心して仕上げた。」
        (『創造的問題解決の極意』, 超発明術TRIZシリーズ5 思想編, ユーリ・サラマ
           トフ著, 中川徹監訳, 日経BP, 2000年, pp. 10)

    発明王エジソンの言葉:
        「天才は 99%の汗と 1%のひらめきによる」

    エジソンが活躍した19世紀後半は,
        物理や化学の諸原理の発見が続き, 技術も急速に発達した時代である。
        それでもまだ科学技術がしっかりした体系を持たず, 教育されてはいなかった。
           (エジソンは科学技術を軽蔑していた。)

    エジソンは, 「研究所」を作り, 人海戦術で試行錯誤を高速化した。
      「問題」を選び, 関連技術の一式を発明して, 事業化することが巧みであった。

  試行錯誤による方法は, 人間の進化や文化的発展のすべての過程で使われてきた。

    試行錯誤は非効率であるけれども, 人類の文化では,
      多数の者が同時にあちこちで試み,
      また, 世代を越えて, 時代を越えて受け継ぐことにより, 成功させてきた。

   「金脈堀りの譬え」
     「 "発明のマラソン" は金脈堀りの競争にたとえられる。地域は何千もの探鉱者の間
     に分割され, それぞれが自分の区域を掘る。中には困難にもめげずにひたすら掘りつ
     づける者もいるだろうし, 不毛な岩盤の掘削に疲れて自分の区域を離れ, 別のまだ
     手がつけられていない区域を探し求める者もいるだろう。ついにはどこも代わりの
     区域というのが無くなる。この時たまたま誰かがやってきて, 偶然か (単に他にどこ
     にも区域が残っていなかったから), あるいはこれまでの試みを計算に入れて (砂金
     は川の上流 (あるいは下流) で見つかりやすいとわかってきていて) 意図的に, 幸運
     な区域を占める。さらに多少の努力と幸運によって, 金脈を掘り当てる。そして新聞
     記者たちや心理学者たちがそこに来て言う。「すごい!どうやったんですか?どん
     な方法をつかったんですか?」
        (『創造的問題解決の極意』, サラマトフ著 (上掲), p. 24)
 

  試行錯誤のやり方とそこでの要点は,

   (a) ある一つの案を考えつく。   -- その案をどのようにして思いつくのか
   (b) 一つの案をやってみる。     -- 実際にどのようにしてやるのか
   (c) その結果を判断する。       -- 何を基準に判断するのか
                                    どのようなことを判断するのか
   (d) だめだったら, (a)に戻る。  -- いままでの結果をどのように使うか?

   上記の「やってみる」には, 二つの大きな場合がある。

     実際に実験する -- 実験には設備・器具・材料などが必要で, 時間がかかる。
                      うまく行ったか行かなかったかは明瞭である。
                          実験では自然法則 (または社会・人間関係など)が働く。

     頭の中 (あるいは紙の上) で考えるだけでためす。(「思考実験」という)
                   -- 実験設備・器具・材料などが不要で, 短時間でできる。
                      うまく行くか行かないかの判断にあいまいさがある。
                          どのような結果になるかの推論が正しくないことがある。

    注意: 「思考実験」は,「試行錯誤」の中だけでなく, 非常にしばしば使われる。

 

4. 自由奔放な発想を促す技法: ブレインストーミング法

  日常生活やビジネスなどの世界では,
      軽く機知に富んだ「思いつき」が求められることが多い。
         (深い理論や技術を伴っていることは必要がない。)

    例: 学園祭 (同窓会etc.) で, 何か出し物をしたい, 模擬店でもよいし, ...
        クラス (ゼミ, 友達仲間, etc.) で, どこかに出かけたい, どこにしようか?, ...
        新しい製品 (パソコン, ラーメン, etc.) の宣伝のキャッチフレーズがないか?
        会社の企業イメージを売り込むキャッチフレーズ (Corporate Identity) がほしい。

  このような目的のために, 「発想」を自由奔放にさせる技法が,
    「ブレインストーミング法」である。

  アメリカの広告代理店で, アレックス・オズボーンが1940年代に始めた方法。
    1957年に初めて公表され, 爆発的に普及した。

  数人のメンバを集め, テーマ (目標) だけを示して自由奔放に言わせる。
    リーダを置かない。4原則とその趣旨は守らせる。録音・速記などで記録する。

    4原則: (1) 自由・奔放 (2) 批判禁止 (3) 尻馬に乗れ (4) 質よりも量

  通常人間は, 思いついたことがあっても, 言おうか言わないか考えてから, 言う。
      「こんなこと言ったら, 馬鹿にされるだろう。
                           できっこないよ と言われるだろう。
                           助平と思われるだろう。
                           それならお前がやれといわれるだろう。 ... 」

      特に日本人は, 「言うのが恥ずかしい」と思って, 何も言わない。

    人間の「無意識」の中には, 不条理な, 自分勝手で, 性的欲望に満ちたものがあるが,
      通常はそれを「意識」が押さえつけて, 社会的に許されるものしか表に出さない。
      このような抑制はほとんど無意識に行われるが, 夢などでは抑制されずに噴出する。
          == フロイトの心理学説

  そこで, この「意識によるコントロール」を積極的にはずすようにする。
    グループの中で互いに刺激され, 興奮状態で, 「アイデアがどしゃぶりになる」。

  30分程度で打ち切る。通常 50〜100のアイデアが出る。
    これらのアイデアを, 後で専門家 (決める立場にあるスタッフ) に見せて,
        その中から役に立つものを選ぶ。

  ブレインストーミングを「試行錯誤」と関係づけて考えると:
    「試行錯誤」の中の (a)の段階 (「案を思いつく」)だけを集中して行う。
        批判を禁止して, (b)実験や(c)判定の段階は一切考えないようにさせる。
        自己内部の批判 (「抑制」) をもやめさせることにより, 考えを解き放つ。

  ブレインストーミングは, 新しい強力な「発想法」として期待され, 広く使われた。
    広告やビジネスの世界では非常に成功した。(今も使われている。)

    しかし, 技術的な問題では, ほとんど役に立たない。
      アイデアの質が悪い。(しっかり考察したアイデアでないから。)
      アイデアが煮詰まっていかない。 (アイデアの方向をリードする指針がないから)

    ブレインストーミング法の中に, 方向づけや制御を入れようとするやり方は,
      いろいろ試みられたが 「自由奔放さ」を殺してしまうのでうまくいかない。

 

5. 「心理的惰性」: 創造を阻む自分の内面の要因

  発明をするのに, 科学技術の専門知識が深いほどよいか?
                 専門家ほどよいか?

  これは, そう簡単ではない。
    専門家は, 自分の専門技術・専門知識がどのように使えるかを知っている。
        いままで経験したのと類似の問題や問題領域の中なら,
          蓄積した専門技術・専門知識を使って, 解決することができる。

      だから, 専門領域内でさらに技術を改良する発明は高度な専門家の方ができる。

    一方, 専門家は, 自分の専門技術の応用可能範囲も知っている。
      そこで, いままでの応用可能範囲を越える問題に対しては, 態度が分かれる。

      「そんなことできないよ」 → 新しい方法を考えない。専門に閉じこもる。
      「なんとか考えてみよう」 → 新しい (大きな) 発明の可能性が開ける。

      専門家 (「大御所」)が新しい発明の可能性を否定・反対した例は一杯ある。

  それなら, 専門家でない素人の方が発明は多いのか?
      もちろん, そうでない。素人の発明・業績はやはり多くはない。

    それでも, 専門家が「無謀なこと」と思うような大きな発明の事例がある。
       (先日話したNHKのテレビ『プロジェクトX』など参照)

    最も成功しやすいのは, 自分の専門分野に他分野の新しい技術を持ち込む場合。

  「試行錯誤」において, 自分では「ありとあらゆる可能性」を考えているつもりでも,
     実際には狭い範囲しか考えることはできない。

    その最大の要素は, 上記の「専門性」であり, 「知識・経験の狭さ」である。

    しかし, さらにもっと一般的に, 自分の内面の「心理的惰性」の要因がある。
      「型破り」な発想を妨げ, 「常套的な」発想に閉じ込める要素をいう。

    「用語による心理的惰性」:
           技術的な用語には, その分野の従来技術のしがらみがある。

        例: 「船の錨の保持力を大幅に増やすにはどうすればよいか?」
               ここで「錨」という用語を用いていると, 既存のものから抜け出せない。
            → 「船を任意の海底に保持し, 大きな力でないと引き離せないようにせよ」

        ⇒ 技術的な用語を使わず, 一般的・抽象的な言葉を使う。

    「イメージによる心理的惰性」:
          技術用語を捨てても, まだ頭の中に (上例の錨の) イメージが残っている。
          このイメージも捨てないと, 本当に斬新なアイデアがでてこない。

 

6. 野口悠紀雄の『「超」発想法』 とその批判

  参考書: 『「超」発想法』, 野口悠紀雄著, 講談社, 2000年。

           (ベストセラー『「超」整理法』 (中公新書, 1993年) の著者による最新作)

  野口悠紀雄は, 『「超」発想法』において, 発想のための五つの原則を主張している。

    第1原則: 発想は, 既存のアイデアの組み換えで生じる。模倣なくして創造なし。
    第2原則: アイデアの組み換えは, 頭の中で行われる。
    第3原則: データを頭に詰め込む作業 (勉強) がまず必要。
    第4原則: 環境が発想を左右する。
    第5原則: 強いモチベーションが必要。

  これらの原則のまとめとして, 彼はつぎのように書いている。

    「(1) 新しいアイデアが無から生まれることはない。どんなに独創的なアイデアも, 既
    存のアイデアの組み換えである。模倣は創造の出発点だ。発想は一部の人の独占物で
    はない。
     (2) 発想のためには, 必要な知識をまず頭に詰め込む必要がある。
     (3) 既存のアイデアの組み換えは, 頭の中で行われる。方法論だけにこだわるよりは,
    環境整備に心がけるべきである。」 (同書, p. 48)

  野口はさらに, 「マニュアル的発想法」を批判している。

    「発想を一定の手続きにしたがって進めようとする「マニュアル的発想法」には, いく
    つかの問題がある。自由な精神活動である「発想」を, 定型的な手続きに押し込めよう
    とするのは,そもそもおかしい。また, 基礎知識の習得を軽視し, マニュアルだけに頼っ
    て発想しようとするのも間違いだ。」 (同書, p125)

  野口が「正しい発想法」として主張しているのはつぎのようである。

    「発想の方法は, 数学などですでに訓練されている。
    過去に用いて成功したモデルを新しい問題に応用する「創造的剽窃行為」が, 数学や物
    理学の基本的な方法である。発想に当たっても, この方法が最も強力だ。
    現実を抽象化した「モデル」は, 多くの学問領域で基本的な働きをする。結論へのジャ
    ンプを可能にするという意味で, 発想においても, 重要だ。」 (同書, p. 163-164)

  野口は, 同書の「あとがき」において, つぎのように述べている。

    「本書が提唱している方法論は, 煎じ詰めれば, つぎのようになる。
    (A) 「発想とは, 誰も考えつかなかった独創的なものを考え出すこと」という思い込み
    をやめる。そして, 「少なくとも出発点は, 模倣でよい」と割り切る。
    (B) とにかく始める。準備ができていなくてもよい。全体構想がなくともよい。とにか
    く仕事に着手するのだ。仕事を始めさえすれば, そして, それについて考え続けさえす
    れば, アイデアは出てくる。」 (同書, p. 252)

  これらの所論は非常に参考になる。
    注意: 野口の『「超」...法』は, すべてある意味で泥臭く,
           そこに開き直って, 非常にすっぱりと既存の流行の方法を切り捨てている。
           文体の歯切れが良いので, つい文の結論を鵜呑みにしてしまい勝ちだが,
             所論の前提が何か, 言い過ぎ (読者の拡大解釈) はないかに, 要注意。

  野口は, 多くの参考文献を参照しているが, それでもつぎの二つは知らなかった。
    市川亀久彌の「等価変換理論」
       (日本の創造性技法の大きな柱。 類推による発明の理論と企業実践。50年間の実績)
    G. S. アルトシュラーの「発明問題解決の理論 (TRIZ)」
       (旧ソ連で開発された発明の技法, 技術思想。50年の実績。1997年から日本に紹介)

  野口が「発明のためのモデル」として挙げた (知っていた) のは,
      数学や物理を解析・研究するときのモデル (技法)だけであった。

    野口が上記の「等価変換理論」や「TRIZ」を知っていれば,
      「超」発想法の五原則よりも, もっと具体的な記述をしたであろう (と中川は思う)。

  本講義では, 野口のいう「マニュアル的発想法」でない, 問題解決の方法論を学ぶ。
 
 
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講義ノートトップ 1. 導入: 経験と原理 2. レポートの書き方 3. 情報収集(1) 書誌情報 4. 情報収集(2) インタネット 5. 問題を見つけて絞り込む 6. 発想とは
7. システムとは 8. 問題分析(1) 困ることの原因 9. 問題分析 (2) 機能・属性分析 10. 問題分析(3) 空間時間特性と理想解 11. 解決策生成(1) 知識ベース 12. 解決策生成 (2) ブレークスルー 13. 解決策生成(3) 解決策の体系化

 
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最終更新日 : 2002. 7.15   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp