講義ノート: 創造的問題解決の方法論(7)
 「システム」とは: 
  構成要素とその関係, 階層性, 技術システム
  創造的問題解決の方法論
− 大阪学院大学情報学部 2年次「科学情報方法論」講義ノート (第7回講義)
  中川  徹 (大阪学院大学) , 2001年 11月22日
   [掲載: 2002. 5.16]   [ 注: 固定ピッチのフォントで読んで下さい]
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講義「科学情報方法論」(情報学部2年次)  第7回  講義資料
                                             2001年11月22日   中川  徹

  「システム」とは:  構成要素とその関係, 階層性, 技術システム
 

目標:  「システム」という一般的な考え方を理解し, 構成要素間の関係と, システムの階
       層性を学ぶ。また特に「技術システム」の機能や完全性の法則を学ぶ。
 
 
前回:  「発想」とは何だろう?: 試行錯誤とひらめきと創造性

  目標:  問題解決の核心にある「発想」(思いつき, ひらめき) という心の動きについて
        考え, 「試行錯誤」の過程を反省し, 「発想」を引き出しやすくする方法を学ぶ。

要点:  「発想」= 「あっ そうだ!そうすればよいんだ!」 (思いつき,ひらめき)

         発想は, 思い出しとは違うが, 連想, 模倣, 転用, 創造的発想, 独創など含む。

        「ひらめき」は, 予備知識をもち, 長期間考えていて, ちょっとしたきっかけで
            思いつき, 明確な解決策にした場合が多い。いつ起こるか分からない。

        ともかくいろいろやってみる: 「試行錯誤」
            いろいろためしたつもりでも, 実際には範囲が限られてしまう。

        自由奔放なアイデア出し:「ブレインストーミング法」  (技術問題には不向き)

        本講義では, 問題解決の方法論をしっかり学び, 「発想」の方法を学ぶ。


 

1.  「システム」という言葉

  どんな問題でも, しっかり考えるためには, 「体系的」に考えることが重要である。
    それは, 「システム」(体系) という考え方を身につけた上で考えることである。

  「システム」という言葉は, 技術分野でも, 非技術分野でも, 非常によく使われる。

      社会システム, 学校教育システム, ...
      廃品回収システム, 冷暖房システム, ...
      コンピュータシステム, オペレーティングシステム, ...
      システムキッチン, システムズ・エンジニア(SE), ...

  「System」の訳語であり, 「体系」, 「...系」, 「システム」など

    "System"  (『Longman 英々辞典』による)
      (1) a group of related parts which work together forming a whole.
               (関連する部分たちの一群で, 一つの全体を形成して一緒に働くもの)
      (2) an ordered set of ideas, methods, or ways of working.
               (考え, 方法, 働き方などの秩序づけられたセット)

    「システム」  (『広辞苑』による)
         複数の要素が有機的に関係しあい, 全体としてまとまった機能を発揮している
         要素の集合体。組織。系統。仕組み。

  これらが共通して言っているのは, 「システム」はつぎのような性質を持つこと。
     (a) 複数の構成要素からなる。    「構成要素」,「要素」,「部分」,「部品」,
     (b) 構成要素間に関係・関連がある。  「関係」,「関連」,「構造」,「秩序」,
     (c) それらがひとつの「全体」を作る。  「全体」, 「組織体」, 「システム」,
     (d) 各構成要素が「全体」のために働いている。
     (e) 「全体」が一つの働きをもっている。  「働き」,「機能」,
     (f) この「全体」は構成要素たちを単純に集めただけ (「和」) のものではない。

    注意: ここで, 「構成要素」そのものの性質については何も限定していない。
             物, 人, 方法,

    つぎのものは, 「システム」を成しているだろうか?
      ・ ノートパソコン  1台
      ・ フロッピーディスク  1枚
      ・ シャープペンシル  1本
      ・ 店に陳列してある10台のノートパソコン
      ・ 大学の演習室に設置してある40台のパソコン
      ・ 一つのゼミの8人の学生たち
      ・ 駅のホームで電車を待っている100人ほどの人たち
      ・ 大阪学院大学の約1万人の学生たち
      ・ 一匹のミミズ

 

2.  「システム」の階層性

  何を一つの「全体」(すなわち「システム」) とみなし, 何をその「部分」とみなすかは,
    必要とする観点によって変わる。

    「システム」には, 大きさに限定がない。 (小さい方にも, 大きい方にも)
        だから, より細部を見ることもできるし, より視野を広く見ることもできる。

  例:  一本のもみじの木
         →  もみじの葉
            →  もみじの葉の細胞
               →  細胞の中の葉緑体
                  →  葉緑素の分子
                     →  炭素の原子
                        →  原子核内の陽子   ...

         [一方, より大きい側には,]
         →  一つの里山の草木と生き物が作る環境
            →  地球上のすべての生命が作る共同体
               →  地球という惑星
                  →  太陽系 (The solar system)
                     →  銀河系    ...

  すなわち, 「システム」の概念には, 「階層性」の概念が不可分である。

    ある一つのものを (全体としての)「システム」と考えたとき,
      その部分をなす「構成要素」もまた (より詳細に見ると) 「システム」を成している。
          これを「サブシステム」(「下位システム」, 「部分システム」)と呼ぶ。

    また, あるものを「システム」として考えたとき,
       (より広い範囲で考えると) 他のものと一緒になって働いていることが分かり,
          より大きな「全体」の中の一つの構成要素であることが分かる。
        このとき, この「より大きな全体」をなすシステムを
           「スーパーシステム」(「上位システム」, 「全体システム」) と呼ぶ。

    なお, ある一つのものについても, その「スーパーシステム」は一種には限定されない。
          観点が違えば, いろいろなスーパーシステムを考えることができる。

      例: 「自分」はどんな「スーパーシステム」に属しているか?

 

3.  「システム」として捉えた簡単な例

  いままでに説明した中で, 「問題」を「システム」として捉えた簡単な例がある。

  「高層ビルの火災対策, 特に避難階段の問題」  (第5回講義資料参照)
 
高層建築が増えている。(20階?100階など) 
→ 火災対策が必要
     → 避難および救命対策を取り上げる
        → 通常の手段を用いた避難
            → エレベータによる避難       × 煙突になるからだめ
            → 階段による避難             × 煙突になるからだめ
        → 消防による救出活動
           → はしご車による救出          △ 12階までしか使えない
           → 救助隊による救出 (ロープ, はしご, ヘリコプターなど)
                                            △ あまり期待できない。
           →  窓からの救出活動
        → 緊急避難の手段
           → 救命チューブによる緊急避難    × 誰にでもは使えない。
           → ビルチンスキーの重力エレベータによる緊急避難  × 改良の余地多い。
              → 新しい緊急避難方法の提案 

    これは, 「高層ビルの火災対策」という方法の「体系」(「システム」)を,
      簡単な「ツリー形式」で階層的に表現したものである。

  また, 「大学生活で何をしようとするのか?」を考えたときの
      「問題の体系」は以下のようであった。

  これらの表現は簡単であるが, 考察すべき範囲を理解するのに有用である。

 

4.  「ブラックボックス」としての「システム」の働き (機能) の表現

  「システム」を全体として理解 (表現) する一つの方法は,
      その内部 (すなわち「構成要素」) を一切見ないことである。

    このような見方を「ブラックボックス」(黒い箱) と呼ぶ。

    例えば, テレビの番組を見る場合に,
      スイッチを押し, チャンネルを選べば, それで映像が出てくる。

      これはユーザ (視聴者) の目から見た,
         「ブラックボックス・システム」としての テレビ (受信機)である。

  「ブラックボックス」の働き (「機能」(Function)) を表現するのには,
      つぎの基本的な形式を用いる。

    この表現形式は非常によく用いられる。つぎに例を示す。

        注:  数学では, 「関数」は一つの値だけを出す。
             プログラミングでも, 「関数」は一つの値だけを出す。
               「サブルーチン」は, 複数の値を出したり, 複数の作業結果を出せる。

  技術的な考察では, 「ブラックボックス」でも, もう少し詳しい扱い方がある。

    例:  「テレビ」についての, 技術的な見方での「ブラックボックス」表現:







    上記を一般化した表現は下記のようである。

  これらの例で示しているのは,
    「システム」が, 「結局, 全体として何をしているのか?」 を示している。
       これを (システム (全体) としての) 「機能 (Function)」, 「働き」という。

 

5.  技術的システムの捉え方

  装置・機械などの技術的なシステム (「技術システム」という) について,
    その内部の構成のしかたや内部での働き方まで考えよう。

  それには, いくつかの「構成要素」とそれらの「関係」を明確にする必要がある。

    ただし, 一つの「技術システム」を扱っても,
        考えるべき「構成要素」やその「関係」が一義的に決まるのではない。
        考えようとしている問題 (技術課題) に応じて, とりあげるべきものが異なる。
            (詳細に考えると構成要素はどこまででも詳しくできるが,
               問題を明確にするためには, 単純化 (「モデル化」) が必要である。)

    例: 自分の家の「テレビ」について:
          「画像に影ができたり, ちらついたりする」問題  ==>
                アンテナ, フィーダ線, コネクタ, チューナー, ブラウン管, ...
          「テレビが熱を持って, 過熱が心配」という問題  ==>
                電源, ブラウン管, 基板部品, 放熱板, 筐体, ラック (設置形態), ...
          「テレビのリモコンでのチャンネルの選択がうまく働かない」問題  ==>  ...
           ......

  まず, 上記の意味の「問題」に応じて, 大事な「構成要素」を列挙する。
    これらの「構成要素」は, (「製品」に対して) 「部品」と呼ぶこともあるが,
        もっとも一般的 (理論的) には, 「オブジェクト」と呼ばれることが多い。

  それから, それらの「関係」を考えるが, 「関係」にもいくつかの面がある。

    「構造的な関係」  (組み立て方, 物理的な位置関係など)
            この面は, 物を (分解して) 見たり, 設計図を見れば, 比較的分かりやすい。

    「機能的な関係」  (働きのしくみ, 全体の機能が実現できる仕組み)
            この「機能的な関係」が最も大事である。(そして表現が難しい)

  簡単な例: (a) ローソクによる明かり
 
火炎:  蝋が空気と反応して, 燃焼しているプラズマ。
           これが光を発する。
灯心:  融けた蝋を吸い上げる。火炎の支持体。
ローソクの蝋:  固形の蝋。原料であり, 灯心の支持体である。
ローソク台:  ローソクを立てる台。垂れてきた蝋の受け皿も。
空気:  環境 (まわり) にあるもの。燃焼反応に必要。

    例(b)  灯油ランプによる明かり
 
火炎:  灯油が空気と反応して, 燃焼しているプラズマ。
           これが光を発する。
灯心:  灯油を吸い上げる。火炎の支持体。
灯油:  原料。
ほや:  煙突状で空気の流れを作る。火炎を風から守る。
            手やカーテンなどが火炎に直接触れないようにする。
灯心の上下調節器:  火炎の大きさを調節する。
灯油容器:  灯油の容器, 全体の支持台。
空気:  環境 (まわり) にあるもの。燃焼反応に必要。

    例(c)  電球による明かり
 
フィラメント:  電気抵抗体, 発熱 (白熱) して, 光を発する。
フィラメント支柱:  電流の導体。フィラメントを支持する。
口金:   電球全体の土台となり, ソケットからの電流を伝導する。
ガラス球:  (周りの) 空気を排除し, 内部を真空に保つ。
ソケット:  電球を保持し, 電線からの電流を伝導する。
電線:      電流を流す。
スイッチ:  電流をオン・オフし, その結果光をオン・オフする。
空気:  環境 (まわり) にある。ガラス球内に入ると悪影響がある。

  上例のように, それぞれの「構成要素」が持つ「機能」を理解することが大事である。

    それには, このシステムが働く原理・「メカニズム」を理解している必要がある。

      この理解には, 「科学的知識」が必要である。
        専門家として技術開発したり, 問題解決するには, 高度な専門知識がいる。

        一方, 通常の使用や, 簡単な問題解決には,「常識」としての理解が必要である。
            大学時代や若い時にやはり広くしっかり勉強しておく必要がある。

 

6.  「技術システムの完全性の法則」という考え方

  技術的なシステム (上記の「技術システム」) が正常に機能するには,
    一般につぎの要素が必要である。
       (注: これらの要素がシステムの「構成要素」と一対一に対応している必要はない。)

    (a) エネルギー源:   もともとのエネルギーの源
    (b) エンジン部:     エネルギーを必要な形態に変換する
    (c) 伝達部:         エネルギーを作動部に伝達する
    (d) 作動部:         作業対象 (プロダクト) に作用を及ぼす (働きかける)
    (e) 制御部:         技術システム全体の動作を制御する
    (f) プロダクト:     作業対象であり, 作用の結果として出力されるもの。

    これらのうち, 最も典型的には, (b)(c)(d)(e) で一つの機械 (「技術システム」)を作り,
        (a) エネルギー源と (f) プロダクト は, 機械の外部にある。

  上記の6種の要素は, 機能的につぎの連結関係にある。

  人間が道具を使うようになり, 次第に機械化し, 自動化するにつれて,
    上記の(a)〜(f) の要素が, 人間から機械の方に移行していく。

  例:  土地を耕すための道具/機械の場合:

    (1) 人が素手で土に穴を掘る:
         (a)〜(e) 人間                                            (f) 土

    (2) 人がスコップで土に穴を掘る  (「道具」の段階):
         (a)(b) 人間    (c) 人間+スコップ  (d) スコップ刃  (e) 人間  (f) 土

    (3) 牛に鋤を引かせて, 土地を耕す  (家畜を使った「道具」の段階)
         (a)(b) 牛      (c) 鋤の把っ手      (d) 鋤の刃      (e) 人間  (f) 土

    (4) トラクターで土地を耕す  (「機械」を操作する段階)
         (a) 軽油  (b)(c) トラクター  (d) トラクターの刃    (e) 人間  (f) 土

    (5) 自動運転のトラクターで土地を耕す (「自動機械」による段階)
         (a) 電池など  (b)(c) トラクター  (d) トラクターの刃 (e) トラクター  (f) 土

  このように, 人間・家畜など外部のものを使ってもよいが,
    上記(a)〜(f) の 6要素がすべて揃ってはじめて「技術システム」が有効に働く。

    これを 「技術システムの完全性の法則」という。 (TRIZの法則の一つ)

      参考書: 前出 サラマトフ著『創造的問題解決の極意』(日経BP, 2000年) p. 88

  例: 前述の「灯油ランプによる明かり」や 「電灯による明かり」でも, 6要素がある。

    (a) エネルギー源:    灯油                     電源  (コンセントから)
    (b) エンジン部:      灯油                     電源
    (c) 伝達部:          灯心                     電線-ソケット-口金-支柱
    (d) 作動部:          火炎                     フィラメント
    (e) 制御部:          灯心上下調節器           スィッチ
    (f) プロダクト:      光                       光

  この「技術システムの完全性の法則」は, いくつかの補助原理を提供する。

    (1) (上記の6要素が揃ってない)「完全でない」技術システムは, 正常に動作しない。

    (2) 「エネルギー」が, (a)→(b)→(c)→(d)→(f) に順次流れる必要がある。
            この「エネルギー」はいいろの形態をとってもかまわない。
              力学的, 熱的, 電気的, 磁気的, 電磁気/光的など

    (3) 「エネルギー」の流れをどこかで断絶/不完全にすれば, 全体が適切に動作しない。

    (4) 制御のための情報が, 制御部(e) から技術システムのすべてに (物理的に)
            到達していなければ, 技術システムは正常に動作しない。

  これらは, 技術システムの設計や問題解決に当たって, 基本的な原理となる。
      (通常の「工学」の教育では, ここまで抽象的な言い方をしないので,
                                 このような原理は暗黙にしか教えられていない。)
 
 
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最終更新日 : 2002. 7.15   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp