連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ | |
第15回 TRIZの基本概念(1) TRIZのエッセンス: 50語による表現 |
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中川 徹 (大阪学院大学) InterLab (オプトロニクス社), 2007年 3月号 (No. 101), pp. 45-48 |
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許可を得て掲載。無断転載禁止。 [掲載:2007. 3. 1] |
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編集ノート (中川徹、2007年 2月25日)
本件は、研究・技術開発者のための情報誌『InterLab』誌に掲載している長期連載の第15回です。同誌のご好意によりここに掲載しています。連載の親ページ
。同誌の発行は前月15日で、本ホームページには当月1日以降の掲載を標準にしています。
同誌で発行された形のものは PDFファイルにしています。ここをクリック下さい
(PDF 262 KB) 。
また、ここにHTML形式のページを作り、いろいろなところへのリンクを張りましたので、ご活用下さい。
なお、このページはTRIZについて初心者の方のための、TRIZ紹介のページとしても位置づけております。TRIZ紹介の親ページ
その他の記事へも多数リンクしておりますので、ご活用下さい。
目次:
1.1 50語で表現するに至るまで
1.2 50語でのTRIZのエッセンス2.1 TRIZのエッセンスは技術認識
2.2 「技術システムが進化する」という認識
2.3 進化は「理想性の増大」に向かう
2.4 「矛盾の克服」が進化の一歩
2.5 資源の導入を最小限に3.1 TRIZは創造的な問題解決のための思考法を提供する
3.2 弁証法的な思考法
3.3 問題を「システム」として理解する
3.4 「理想解」を最初にイメージする
3.5 「矛盾を解決する」思考法
第15回
TRIZの基本概念 (1)
TRIZのエッセンス: 50語による表現
大阪学院大学 中川 徹
InterLab誌, 2007年 3月号 (No. 101), pp. 45-48
この連載では、技術革新のための創造的な問題解決の技法であるTRIZについて、すでにいろいろな面から説明してきました。初心者のためのFAQ
、成立と発展の歴史、やさしい適用事例、特許の分析をべースに構築された多様な知識ベース、そして、前回は導入・適用の推進のしかた
を説明しました。
これらを通じてすでに、TRIZがどんなものか、どれだけ多くの科学技術の知識を体系化したものであるかは、ある程度理解いただけてきていることと思います。
ただ、これまでにいくつかのやさしい事例を通して説明しただけで、まだ本格的に説明できていない面が、大きくいって二つあります。一つはTRIZの基本的な考え方(「思想」)の面であり、もう一つはTRIZ(そしてUSIT)を使った問題解決のための具体的な考え方(「技法」)の面です。
TRIZが体系化した知識(TRIZ知識ベース)は、教科書やソフトツールによって学ぶことができます。また、ソフトツールの使い方や操作法を学ぶことは容易です。
それに比べると、「考え方」を習得することはなかなか大変です。一般的にいって、問題を解決するための「具体的な考え方」(要するに自分の頭脳の使い方)は、多くの場合に本を読んだだけではなかなか習得できず、マンツーマンのトレーングがずっと効果的です。さらに、「基本的(根本的)な考え方」としての「思想」は、通常、多くの本を読み、多くの実践を積んだ後に、「奥義」として会得するものです。
ですから、ロシア生まれで、米国経由で日本に紹介されたTRIZを、私たち日本人が理解するのに、最初は知識ベースとソフトツールから入り、その後徐々に技法と思想という「考え方」の方に進んできているのは自然なことです。初期の導入から約10年を経過して、ようやく日本でも自分のものとして、TRIZの「考え方」を体得し、それを実践している人たちが増えてきているといえます。
この連載では、いままでの準備を踏まえ、今回から約7回に渡って、「TRIZの基本概念」(TRIZの基本的な考え方)を説明しましょう。今回「TRIZのエッセンス」という題名でTRIZの基本的な考え方をかい摘んで説明し、その後の回で順次TRIZの柱となる概念を、例を挙げながら説明していく予定です。
1. 50語で表現したTRIZのエッセンス
1.1 50語で表現するに至るまで
ここに紹介する「(英文)50語によるTRIZのエッセンス」
は、2001年3月に私が米国でのTRIZ国際会議の発表スライドの1枚として提示し
、その後欧州での国際会議の論文に記述・解説した
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ものである(『TRIZホームページ』掲載、www.osaka-gu.ac.jp/ php/nakagawa/TRIZ/
)。
私は1997年5月に初めてTRIZに接し、1999年3月にUSITを学んで以来、TRIZをやさしく理解し、やさしく実践することが重要だと考えていた。SalamatovのTRIZ教科書を1年がかりで監訳したとき、その序文につぎのように書いた(2000年9月)
。
「…いままでに私たちが学んできたTRIZの問題解決法などは、発明のための“戦術”であり、それよりももっと重要なのは、技術システムの進化に関するTRIZの深い認識であり、それこそ発明のための“戦略”であるというのが、この本の主要なメッセージの一つである、と私は思います。このような深い認識でも、そのエッセンスは意外と簡明なものであり、一度理解すれば忘れないものです。私たちがそれを身につけると、TRIZの膨大な知識ベースや問題解決法の一々に頼らないで、もっと自由自在にTRIZの精神を使って創造的な技術開発が行えるのだと私は思います。読者の皆さんがそのような理解をされたときに、TRIZが企業や教育の中に本当に浸透するのだと思っております。…」
米国のTRIZ国際会議で、TRIZのやさしい適用事例を発表し
、その最後に「TRIZのエッセンスは意外と簡明なものだ」というために、1枚のスライドにTRIZのエッセンスを書いたのである。
当時(そして、かなりの程度、今もなお)、膨大な知識ベースと多様な技法こそがTRIZの特長であると考えられていた。そのため、このたった50語の「TRIZエッセンス」は一つの衝撃として受け止められ、米国の『TRIZジャーナル』(www.triz-journal.com)
をはじめ多数の所に掲載された。
1.2 50語でのTRIZのエッセンス
英文での表現と、その和訳表現を下記に記す。
以下にはこの内容を、トップダウンで説明していこう。膨大な数の特許の分析から出発して、ボトムアップに知識ベースを構築し、さらにそれを思想にまで高めたのがTRIZである。そのエッセンスを一文からスタートして、トップダウンに説明できるというのがこの表現の真髄である。
2. TRIZによる認識
2.1 TRIZのエッセンスは技術認識
TRIZの本質を一言でいうと、「TRIZは一つの認識を持った」ということである。膨大な知識ベースや多様な技法の集合ではなく、それらをベースにしてずっと抽象化した形で、根本的な一つの認識(すなわち、考え)を持っているというのである。
TRIZは当初、「発明をする方法」を模索したのだが、その探求の末に一つの認識にまで到達したのである。
2.2 「技術システムが進化する」という認識
TRIZの認識内容を一文でいえば、「技術システムが進化する」ということである。
人類の技術が歴史的に発展してきていることは、周知のことである。その発展が単に末広がりであるというのではなく、生物の進化と同様に、法則性を秘めていると考えている。
ここでのもう一つの特徴は、「技術の進化」といわずに、「技術システムの進化」といっている点である。技術システムとは、金槌だとか、洗濯機とか、自動車とか、インターネットとかの、ある目的と機能を持った一つの(ひとまとまりの)人工物を指す。それが生物における「種」と類似したように進化すると理解している。
2.3 進化は「理想性の増大」に向かう
技術システムの進化には、大きくとらえると一定の方向性があり、それを「理想性」が増大する方向であると考える。
古典的TRIZでは、理想性を「主有用機能/(物質+サイズ+エネルギ)」という形でとらえていた。もちろんこれは物理的な次元が合っていないから、定量的な表現ではなく、定性的な概念である。
物質の消費、空間の占有、エネルギの消費を極力抑える(減少させる)ことが理想性を向上させることであり、それが技術システムの発展の方向であると考える。これは、米国流の大量消費を是とする技術思想とは根本的に異なる。
最近のTRIZでは、西側の思想との融合が図られ、理想性を「効用/(コスト+害)」と表現されることが多いが、上記の本来の思想は銘記されるべきであろう。
2.4 「矛盾の克服」が進歩の一歩
技術システムは、いくつもいくつもの「矛盾」を克服して少しずつ進歩(進化)するのだと考える。技術を実現する上での本質的な困難(「壁」)がここでいう矛盾である。
一つの壁を越えてほんの少し進むとまた壁にぶつかる。われわれはその壁の前で右往左往し、壁の手前での最もよい所を探そうとする。西側諸国の科学技術は「最適化」の研究に膨大なエネルギを注いできた。それはある制約(すなわち、壁)の中で、その制約を前提として最良の解決策を求めることである。
「壁」を越えて初めて歴史的な一歩があると、TRIZは考える。そのような一歩一歩を積み重ねて、人類の技術の発展がもたらされたのだと、TRIZは理解しているのである。
2.5 資源の導入を最小限に
技術的な困難を乗り越える通常の最も確実な方法は、パワーを上げることであり、より多くの物資を使い、より複雑なしくみを導入することである。
しかし、それらは多くの場合に矛盾を克服(解消)していないというのが、TRIZの観察である。いままでのシステムに何らかのものを導入するのは最小限にするのがよい、既存のものを削減するとよいことも多い、というのがTRIZの認識である。これは、前述の理想性の理解とも補い合っているといえる。
3 創造的な問題解決の思考法
3.1 TRIZは創造的な問題解決のための思考法を提供する
このエッセンスの記述は、TRIZの技術認識をベースにして、TRIZが創造的な問題解決の思考法を提供しているのだと述べる。
TRIZの研究の歴史からいえば、これは順序が逆である。アルトシュラーは発明の方法、創造的な問題解決の方法(思考法)を見つけたいと思って研究し、TRIZを開発したのである。その研究の過程で上記のようなTRIZの技術認識を形成してきたのである。
しかし、でき上がったものをわれわれが理解するときには、その成立過程を理解した上で、もっとすっきり理解すればよい。すると、技術認識を基礎にして、思考法が作られているのだ、という理解が素直なのである。
TRIZでは、技術システムの進化を促進すること、理想性に向けて向上させることを是とする。
しかし、技術システムの進化の具体的な一歩は決して自明ではない。われわれの目の前にはいつも大きな壁がある。その壁は人類の智慧がまだ乗り越えたことがないものであり、だからどこからどのようにして乗り越えられるのかはだれにもまだ分かっていない。だから、その壁を乗り越えて問題を解決するためには、いつも「創造的」でなければならない。
TRIZが提供する最大のものは、「考える方法(思考法)」である。
3.2 弁証法的な思考法
TRIZの思考法を一言でいうと、「弁証法的な思考法」ということになる。その特徴は以下の3項目にある。ここで、哲学的な、思想史の用語にこだわる必要はない。それは後で説明しよう。三つの特徴を理解することの方が本質である。
3.3 問題を「システム」として理解する
考える方法の特徴の第一がこれである。ただここには、二つの意味が重なっている。
まず一つは、解決すべき「問題の体系(システム)」を理解することである。技術的な問題でも、あるいは社会を含むより大きな問題でも、問題は複雑に絡まっており、何が本当の壁(困難)になっているのかは自明でない。問題を体系的にとらえ、その体系の中で特定の部分に焦点を当てるべきか、あるいはもっと大きく捉えるべきかを、まず考えなければならない。
二つ目の意味は、問題の対象を「技術システム」としての観点から捉えることである。技術システムは、いくつかの互いに関係する要素から構成され、それらが機能的に連携して、全体として一つの有用な機能を果たすべきものである。技術システムのこのような特徴を理解し、固有技術分野での知識だけでなく、技術システムとしての一般論の理解を持つことがTRIZが薦める考え方である。
3.4 「理想解」を最初にイメージする
具体的な問題の解決に当たるとき、その問題の現状分析から始めて、その改良をいろいろと考えることが、通常の典型的な考える道筋である。
しかし、TRIZでは、最初の段階で理想解をイメージせよと薦める。技術システムが進化する方向が、理想性の増大する方向であると、TRIZでは知っているからである。それなら、いまのシステムがどの方向に進化するだろうかをまず考え、自分の解決策をその方向に探そうとするのは当然の戦略である。
TRIZには、各問題に対して「究極の理想解」という概念がある。それは、実行したい機能をもつが、コストも害もゼロのもの、存在しないで機能だけ果たすものである。そして究極の理想解から一歩ずつ後退しながらその実現策を考えるのである。
この他にもTRIZには、「ひとりでに」の解決策、「賢い小人たちによるモデリング」などの方法があり、理想の解を最初にイメージすることを助けている。
3.5 「矛盾を解決する」思考法
TRIZの特徴は、「矛盾を解決する」ための具体的な思考法を創ったことであり、その方法の適用性が極めて広く、かつ強力なことである。
この連載の第12回
で、「技術システムの一つの面を改良しようとすると、別の面が悪化する」という矛盾(「技術的矛盾」)を説明した。それを解決するのに、アルトシュラーが「矛盾マトリックス」という知識ベースを作り、39×39のマトリックス上のどの問題だったら、40の発明原理のうちのどれを使うとよいかを示唆するようにした。これは膨大な研究によって初めてでき上がった方法である。
さらにTRIZには、もっと強力な矛盾を解決する方法がある。そこで扱うのは、「技術システムの一つの面に対して、正・逆の相反する要求が同時にある」という形式の矛盾である(これを「物理的矛盾」と呼ぶ)。アルトシュラーは、この形式の矛盾を解決するのに、「分離原理」と呼ぶ3段階のプロセス(考え方)を創った。
「(1)正・逆の要求を、空間、時間、その他の条件で分離せよ。
(2)分離したら、そのそれぞれの条件下で要求を完全に満たす解決策を作れ。
(3)そして、それらを組み合わせて用いよ。」このプロセスの(1)(2)は大抵の問題で比較的容易に進む。そして、(3)でハタと困る。この段階で40の発明原理のいろいろなものが活用できる。40の発明原理を、このような形式での矛盾を解決する基本的な考え方として理解しなおしておくとよい。
本連載にまだこの「物理的矛盾」の解決例を示していないのが残念である。「水洗トイレの節水問題」が、非常に分かりやすいよい事例である(Kyeong-Won Lee他、2003年、和訳掲載:『TRIZホームページ』、2004年1月
)。水洗トイレの後部のS字管は必要であるが、同時に、節水のためには無くすことが必要であるという矛盾を扱っている。存在vs不在という矛盾であるが、それを時間帯で分離し、さらに、S字管の存在/不在ではなく、S字の状態(すなわち、途中を高くしている状態)の存在/不在と考えると、たちどころに矛盾が解決する。
問題を突き詰めて「物理的矛盾」を導出し、分離原理で解決することが、アルトシュラーが到達した創造的問題解決の方法の極致であり、彼はこれをARIZ(「発明問題解決のアルゴリズム」)の中核に位置づけた。これは応用力があり、かつ強力な方法である。
哲学でいう「弁証法」の中心は、「正と反の二律背反の命題に対して、それらを乗り越えた新しい「合」命題を創る」ことである。社会科学などの思想史において、弁証法はいろいろに論じられたけれども、矛盾を解決する方法がすっきりと示されたわけではなかった。
そのような状況で、技術の分野において、二律背反の矛盾(「物理的矛盾」)をほぼ確実に解決する思考法を創り出したことは、非常に重要なことである。アルトシュラーは、「(物理的)矛盾を解決する一般理論を具体的に示した」ことで、人類の思想史に残る業績を挙げたのだと、私は評価している。
以上が、TRIZが構築してきた膨大な知識ベースと技法と概念をとりまとめて、そのエッセンスを50語で表現したものとその解説である。
このエッセンスの中で簡単に説明したTRIZのいくつかの基本概念について、その活用法を交えながら、次回以後、6回ばかり説明していこう。
本ページの先頭 | 記事の最初 | 1. 50語のTRIZエッセンス | 2. TRIZによる認識 | 3. 問題解決の思考法 |
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第14回 導入・適用・推進法 (マネジャのために) |
第15回(今回)のPDF |
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最終更新日 : 2007. 3. 1 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp