連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ | |
第16回 TRIZの基本概念(2) システムとは: 問題の体系と技術システムの概念 |
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中川 徹 (大阪学院大学) InterLab (オプトロニクス社), 2007年 4月号 (No. 102), pp. 31-34 |
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許可を得て掲載。無断転載禁止。 [掲載:2007. 4. 5] |
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編集ノート (中川徹、2007年 4月 1日)
本件は、研究・技術開発者のための情報誌『InterLab』誌に掲載している長期連載の第16回です。同誌のご好意によりここに掲載しています。連載の親ページ
。同誌の発行は前月15日で、本ホームページには当月1日以降の掲載を標準にしています。
同誌で発行された形のものは PDFファイルにしています。ここをクリック下さい
(PDF 269 KB) 。
また、ここにHTML形式のページを作り、いろいろなところへのリンクを張りましたので、ご活用下さい。
なお、このページはTRIZについて初心者の方のための、TRIZ紹介のページとしても位置づけております。TRIZ紹介の親ページ
その他の記事へも多数リンクしておりますので、ご活用下さい。
目次:
1.1 辞書に見る「システム」
1.2 「システム」のもつ性質3.1 システムの階層性
3.2 システムの構成要素の捉え方
3.3 技術システムの完全性の法則
3.4 道具から自動機械への進化
3.5 「最小問題」の捉え方
3.6 技術システムの完全性に関連する補助原理
3.7 9画面法(システムオペレータ)
第16回
TRIZの基本概念(2)
システムとは: 問題の体系と技術システムの概念
大阪学院大学 中川 徹
InterLab誌, 2007年 4月号 (No. 102), pp. 31-34
この連載
では、創造的な問題解決の技法TRIZについて、その概要説明FAQ、発展の歴史、やさしい適用事例、科学技術情報を整理し直したTRIZ知識ベース、導入・普及の勘どころなどを説明した上で、前回からTRIZの基本概念についての説明を始めました。
前回説明したのは、TRIZのエッセンスを(英文の)50語で表現したものでした
。
TRIZは、世界中の特許の分析を土台にして構築され、膨大な知識ベースを抽出し、沢山の高度な問題解決技法を創り出しました。その内容は膨大なものですが、それをさらに煮詰めていって、私はそのエッセンスを図1のように理解したのです。(再録)
その中身を前回にひと通り説明しましたが、今回から、ここに出てくる主要な概念について、もう少し具体的に説明していきましょう。
まず今回は「システム」および「技術システム」という概念です。
「システム」という語(英語ではSystem)は、技術・社会・日常まで、一般的に広く使われています。TRIZでの概念も、基本的にそれと異なるものではありません。TRIZは「システム」という考え方を、一層明確にしようとし、一層重視しようとしているのだと考えて下さい。
1. 「システム」という言葉
1.1 辞書に見る「システム」
まず、辞書に載っている一般的な理解を調べてみよう。『広辞苑』はつぎのように「システム」を説明している。
「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。」
また、私が(説明が明快だから)愛用している『Longman 現代英々辞典』はつぎのようである。
「(1)a group of related parts which work together forming a whole.
(2)an ordered set of ideas, methods, or ways of working.」念のために訳しておく。
「(1)関連する部分たちの一群で、一つの全体を形成して一緒に働くもの。
(2)考え、方法、働き方などの秩序づけられた組。」このLongman辞書の(2)の意味では、「体系」と訳す方が分かりやすいかもしれない。先ほどのTRIZのエッセンスで「問題をシステムとして理解し」といっているときの一つの意味がこれである。「システマティックに理解する」といってもよいし、「体系的に理解する」といってもよい。
一方、Longman辞書の(1)の意味は、広辞苑の説明ともほぼ対応しており、広い意味で「一緒に働く一つの集合体」を指している。自然界における動物や植物の個体がまずそのモデルであり、社会組織がそれになぞらえられる。また、その概念を人工物に適用しているのが、「技術システム」という考え方だといえる。
1.2 「システム」のもつ性質
Longman辞書の(1)の意味での、一般的な「システム」の理解をもう少し明確にしておこう。いくつかの辞書が共通して言っていることをまとめると、「システム」はつぎのような性質をもつ。
- 複数の構成要素からなる(構成要素、要素、部分、部品などと呼ぶ)
- 構成要素間に関係・関連がある(関係、関連、構造、秩序など)
- それらが一つの全体を作る(全体、組織体、有機体、システムなど)
- 各構成要素が全体のために働いている
- 全体が一つの働きを持っている(働き、機能など)
- この全体はその構成要素たちを単純に集めただけのもの(「和」)ではない。
TRIZにおける「システム」の理解も、これらの基本的な理解に反するものではない。これらにプラスして、考察しているのである。
なお、ここで大事なことは、上記の一般的な理解において、構成要素そのものの性質については何も限定していないことである。物であっても、人や動物であっても、社会組織であっても、あるいはこれらを組み合わせたものであっても構わない。また、大きくても、小さくても、まったく構わないのである。
2. 問題を体系として捉える
50語のTRIZエッセンス中で「問題をシステムとして理解する」という部分が、二重の意味をもち、その第一が問題の体系を理解する、すなわち、問題を体系的に捉えることである。
問題を体系的に捉えるとは、その問題をさまざまな重要な観点から多角的に考える、抜け、落ちがないように考えることがその一つである。
例えば、ある困難を生じている問題の原因を、そのメカニズムを考察することにより、さまざまな要素に目を配って(広く)考える、またその原因の原因を(深く)突っ込んで考えていく。
さらに、その問題解決の目標をどのように設定するのかを考える。その際には、目先の目標だけでなく、より大きなスケールでの(広い)目標、また将来のより長期の目標を考えることなどが必要である。
われわれは大抵、これらのことは観念的には分かっているつもりでおり、平生においてもそのように気をつけているつもりでいる。
しかし、例えば、TRIZ/USITで実地問題を使って問題解決トレーニングを行うときに、一番議論が分かれ、後の成果の程度を左右するのが、この問題を捉える段階である。問題の捉え方が目の前のことに限られ、また解決のための模索の方向が一度思い込んだ方向に限られてしまっている例をしばしば見る。その見方を広げ、問題の全体を「体系」として見た上で、大事な点に焦点を絞ることが、問題解決の最初で最大の課題である。
ここには実は二つの課題がある。第一は、問題全体の体系をきちんと書き出して、自分あるいはチームとしての共通理解を作ることである。そして第二は、そのような問題の体系のうちのどの問題を実際に取り上げるのかを決めることである。
大きな広く深い課題設定をすると、(解決すればその利益は大きいが)限られた時間と能力では解決できないことが多いだろう。反対に、小さく絞った現実的な課題設定は、それを解決したとしても得られる利益は小さいものになるだろう。だから、課題を大きく設定するか、小さく設定するかは、いつも議論になるのである。
これらの点は、具体的な状況を踏まえて、具体的な事例で考えないと、どちらが正しいとはいえない。その点で、一般的な指針を適切に伝えられない。
ただ、多くの場面で、課題を大きく取るか、小さく取るかを議論しているのに、その前提となる問題の全体的な体系(特にそのスケール)の共通理解ができていないという例を目にする。まず問題の体系を書き出して共通理解を作るべきである。
3. 「技術システム」の概念
さて、つぎに、1.2節に説明している意味での「システム」の概念をベースにして、TRIZで使う「技術システム」の考え方を、説明しよう。
3.1 システムの階層性
上記1.2節で説明したシステムの考え方を用いると、ある一つのシステム(例えば、自動車)の構成要素(たとえばエンジン)と考えたものが、実はそれ自身もシステムの性質を持っていることに気がつく。あるシステムの構成要素であるシステムを「下位システム」と呼び、逆に下位システムから見たときにそれを含むシステムを「上位システム」と呼ぶ。
図2が、システムとその構成要素の関係、そして一つのシステムを基準とした下位システム、上位システムの関係を模式的に示したものである。
このようなシステムの上位-下位の包含関係は、非常に一般的なことである。例えば、エンジン→ピストン→ボルト→鉄原子→...などと小さい側に何階層も続く。また、大きい側にも、自動車→タクシー会社→道路交通システム→運輸システム→...などと続く。
なお、一つの具体的なシステムの上位システムは、見方によっていろいろに変わる。これは一人の個人が、家族にも、会社にも、学校の同窓会にも、居住している市にも所属しているのと同様である。
3.2 システムの構成要素の捉え方
一つのシステムを取り上げたとき、何をその構成要素として考えるとよいのかは、実は一意的でない。自動車にしろ、テレビにしろ、数千点の部品から構成されているのだから、それらを個別に網羅しようとしても不可能であり、無意味である。
考えている問題に応じて、取り上げるべき構成要素が異なる。例えば、テレビの画像に影ができたり、ちらついたりするという問題なら、アンテナ、フィーダ線、コネクタ、チューナ、ブラウン管(あるいは液晶パネル)などを考えるだろう。テレビのリモコンでのチャンネル選択がうまく働かないという問題では、また別の部品/部分を考える。
要するにこれらは、問題を考える上で効率的であるように、必要なものだけを必要なまとまりごとに抽出しているのである。多くの場合に、機能的な関係が主として考えられ、構造的な関係がそのつぎに考慮されるであろう。
3.3 技術システムの完全性の法則
技術的なシステムが正常に機能するには、一般的につぎの6種の要素が必要であると、TRIZでは考え、これを「技術システムの完全性の法則」と呼ぶ。
(a)エネルギ源:もともとのエネルギの源
(b)エンジン部:エネルギを必要な形態に変換する
(c)伝達部:エネルギを作動部に伝達する
(d)作動部:作業対象(プロダクト)に作用を及ぼす(働きかける)
(e)制御部:技術システム全体の動作を制御する
(f)プロダクト:作業対象であり、作用の結果として出力されるものこれらの6種の要素は、機能的に図3の連結関係にある。また、この図に示すように、最も典型的には、(b)(c)(d)(e)で一つの機械(技術システム)を作り、(a)と(f)は機械の外部にある。
3.4 道具から自動機械への進化
人類の文化において、道具を使うようになり、次第に機械化し、自動化していくという発展は、上記の(a)〜(f)の諸要素が、人間の身体から人工物の方に移行していく過程である。
例えば、土地を耕すための道具/機械の場合はつぎのようである。
[1] 人が素手で土に穴を掘る:(a)〜(e)人間、(f)土
[2] 人がスコップで穴を掘る(道具の段階):(a)(b)人間、(c)人間+スコップ、(d)スコップの刃、(e)人間、(f)土
[3] 牛に鋤を引かせて土地を耕す(家畜を使った道具の段階):(a)(b)牛、(c)鋤の把手、(d)鋤の刃、(e)人間、(f)土
[4] トラクタで土地を耕す(機械を操作する段階):(a)軽油、(b)(c)トラクタ、(d)トラクタの刃、(e)人間、(f)土
[5] 自動運転のトラクタで土地を耕す(自動機械による段階):(a)電池など、(b)(c)トラクタ、(d)トラクタの刃、(e)トラクタ内のコンピュータ、(f)土
このように、人間や家畜などの外部のものを使ってもよいが、上記(a)〜(f)の6要素が揃って始めて、技術システムが有効に働く。
3.5 「最小問題」の捉え方
TRIZでは、技術システム全体を捉えるときに上記のように考え、図3の6要素を考える。しかし、問題になっている事象をもっと絞って考え、図4のように二つの構成要素とその間の作用(機能)の関係として捉えるとよいことも多い。
このときに、作用を及ぼす構成要素を「ツール」(道具の意)と呼び、作用を受ける構成要素を「プロダクト」(あるいは「オブジェクト」、「ターゲット」など)と呼ぶことがある。
これらは、図3でいえば、前節の[2] の道具を使う段階をイメージして、(d)作動部(「ツール」)と(f)プロダクトをクローズアップしたものといえる。
ただし、システムの階層の捉え方は任意だから、作用を及ぼし合っている任意の二つの構成要素をこの図式で捉えても構わないのである。
3.6 技術システムの完全性に関連する補助原理
3.4節に述べた法則はいくつかの補助原理を提供しており、技術システムの設計や問題解決を導くものである。
(1)(上記の6要素が揃っていない)完全でない技術システムは、正常に動作しない。
(2)エネルギが、(a)→(b)→(c)→(d)→(f)に順次流れる必要がある。このエネルギは、いろいろな形態(力学的、熱的、電気的、磁気的、電磁気/光的など)をとっても構わない。
(3)エネルギの流れをどこかで断絶/不完全にすれば、全体が適切に動作しない。
(4)制御のための情報が、制御部(e)から技術システムのすべてに物理的に到達していなければ技術システムは正常に動作しない。
これらの原理/補助原理は一見当たり前であるが、大事なものである。通常の工学の教育では、ここまで抽象的な言い方をしないので、このような原理が暗黙にしか教えられていない。
3.7 9画面法(システムオペレータ)
ここで、システムの階層的理解を活用して、あるシステム(例えば携帯電話)の将来像を構想するための方法を簡単に紹介しておこう。
それは図5のような3×3の画面を使う。まず@現在のシステムを中央に置き、それから、順次(推奨の)A〜Hの順番で考察していく。多人数で共通認識を創りながら、大きなビジョンを形成するのに適している。
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最終更新日 : 2007. 4. 5 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp