連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ | |
第19回 TRIZの基本概念(5) リソース(資源)とその活用 |
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中川 徹 (大阪学院大学) InterLab (オプトロニクス社), 2007年 7月号 (No. 105), pp. 39-42 |
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許可を得て掲載。無断転載禁止。 [掲載:2007. 7.22] |
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編集ノート (中川徹、2007年 7月22日)
本件は、研究・技術開発者のための情報誌『InterLab』誌に掲載している長期連載の第19回です。同誌のご好意によりここに掲載しています。連載の親ページ
。同誌の発行は前月15日で、本ホームページには当月1日以降の掲載を標準にしています。
同誌で発行された形のものは PDFファイルにしています。ここをクリック下さい
(PDF 264 KB) 。
また、ここにHTML形式のページを作り、いろいろなところへのリンクを張りましたので、ご活用下さい。
なお、このページはTRIZについて初心者の方のための、TRIZ紹介のページとしても位置づけております。TRIZ紹介の親ページ
その他の記事へも多数リンクしておりますので、ご活用下さい。
目次:
1.1 日常用語の「リソース (資源)」
1.2 TRIZの「リソース」の定義2.1 TRIZで「リソース」を考える目的
2.2 さまざまな「リソース」
2.3 「進化のポテンシャル」というリソースの考え方3.1 「理想性」から来る削減要求
3.2 「導入」と「削減」の両立4.1 トリミング
4.2 「空孔」(void、無) の導入
4.3 ASIT の「閉世界」の考え方
4.4 使っていないもの/廃棄物を使う
4.5 害を益に変える
4.6 進化のトレンドを使う
第19回
TRIZの基本概念(5)
リソース(資源)とその活用
大阪学院大学 中川 徹
InterLab誌, 2007年 7月号 (No. 105), pp. 39-42
TRIZは、世界の特許の分析から発明のエッセンスを抽出し、それを分類・整理することによって構築されてきたものです。科学技術を技術の立場から見直し、技術に対する新しい認識(まとまった見方)を創り、さらに技術を発展させるための思考法(考える方法)を創ってきました。
この過程で、膨大な知識ベースを構築し、問題解決のためのさまざまな技法を創り出しています。それらの知識ベースと技法が、他に比べてずっと豊富で強力であることが世界で認識され始めてきて、技術革新のための一つの「道具」としてTRIZが注目されてきています。
ただ、それがモノとしての「道具」ではだめで、それを使う人の頭の中の「考える力」になることが必要なのだと思っています。この連載は、TRIZが読者の皆さんの考える力になっていくことを願って、説明していきたいと思っています。
そこで第15回から、TRIZの基本概念を説明してきています。TRIZのエッセンス
について、前回に書いた形(英文50語のものを少し補足したもの)で再録しましょう。
「TRIZの真髄はその技術認識にある。あらゆる技術システムが進化(進歩発展)していく、その進化の方向は理想性が向上する方向であり、何らかの矛盾を克服したときに初めて(歴史的な)小さな一歩を進める、またこのとき資源の利用は最小限であるのがよいと分かった。
この技術認識に対応して、TRIZは創造的な問題解決の思考法を創りあげた。その思考法の特徴は、第一に技術をシステムとして理解すること、第二に(現状の改善からだけでなく)まず理想をイメージすること、そして第三に矛盾を解決する明確な技法を持つことである。」
いままで4回に渡ってこの中の基本概念を順次説明してきました。第16回に(技術)システムの概念
を説明し、第17回にはシステムの働きを記述する(さまざまな力や相互作用を包括した)「場」の概念
を説明しました。そして前回に「理想性」とその向上のさせ方(「進化」)
を説明しました。
今回説明するのは、「リソース(資源)」についてです。TRIZでは、いま考えている一つの技術システムにとって、「まだ有効に使われていないすべてのもの」がリソース(資源)であると考えます。
そして、自分の技術システムを発展させるには、「まわりにあるすべての資源を取り込むことを考えよ」とTRIZは教えます。ただし、「資源の利用は少ないほどよいのだ、資源の利用を削減する方が理想性は向上するのだ」とTRIZはいうのです。
この一見矛盾した要求に対して、指針を与えるのがTRIZです。資源利用の量を拡大するのではなく、いままで使われていなかった意外な資源をうまく使うことに真髄があります。
コスト削減、環境対策、省資源、などの観点に繋がるものですし、まずなによりもシステムの適切な機能実現を導くものです。
1. TRIZでいう「リソース」とは
1.1 日常用語の「リソース(資源)」
Resource(リソース)という語をLongman の英々辞典では、「人あるいは組織(特に国)がもっているさまざまなものあるいは質」と表現している。また、広辞苑では「資源」という語を、もう少し踏み込んで、「生産活動のもとになる物質・水力・労働力などの総称」と記述しており、地下資源とか、人的資源とかの用例をあげている。日本語での資源は社会的なスケールでいう語であり、英語のリソースも基本的には同様であるが、個人のスケールでいう場合があることが分かる。
1.2 TRIZの「リソース」の定義
これに対して、TRIZでいう「リソース」は、いま取り上げている具体的な一つの(技術)システムに関していう言葉である。TRIZでの定義は、
「リソースとは、いまのシステムでまだ有効に使われていないすべてのもの」
である。それはどこにあってもよい。システムの構成要素の一つ、あるいはその内部のものでもよいし、すぐ周りにあってもよいし、離れた所にあるものでもよい。それは、材料としての物質であってもよいし、道具としての機材であってもよいし、まわりの空気でもよい。また、光とか音とか磁力とかエネルギとかの「場」であってもよい。
さらに、空間的な余裕や場所のこともあり、位置関係などでもよく、また、時間的な余裕やチャンスなどをも含む。
信号とか、知識とかの情報ももちろん大事なリソースの一つである。
また、物そのものよりも、物の特性(たとえば、表面の形状、大きな潜熱、反応性など)に注目することもある。
さらに、現在、システム中にあって、有害で困っているもの(たとえば、廃棄物、廃熱、毒性副産物など)も、「有効に使っていない」のだから、TRIZで注目するリソースの中の一つである。
ともかく、このような意味で、いまの自分のシステムで有効に使っていないすべてのもの、を意味するのがTRIZでの「リソース」である。
2. さまざまな「リソース」の導入
2.1 TRIZで「リソース」を考える目的
上記のように「リソース」を考える目的は結局、「これから、自分のシステムに新たに有効に使える可能性があるすべてのもの(候補)」を考え出すためである。
そこで、現在のシステムの改良のために、「新たに有効に使える可能性があるすべてのものを考え出す」プロセスを、TRIZでは「リソース分析」と呼ぶ。
リソース分析は、問題を定義する段階でまず行い、さらに解決策を検討す段階でもう一度行う(リソースの一つずつを用いて解決策を考える)のがよい。
2.2 さまざまな「リソース」
できるだけ多くの「リソース」に着目し、かつ効果的なものを導入するためには、TRIZには明確な指針がある。
その指針の第一は探す場所の順序に関係する。基本的に、現在のシステム内にあるもので有効に活用されてないものを第一に考え、つぎにシステムの周りに通常あるもの(これを「環境中にあるもの」という)(例えば、空気とか水とか太陽光とか)を考え、そして上位システム中にある要素を考える。これらの後に、それ以外にあるものの導入を考えるのである。このような順番は、アルトシュラーが作った「76の発明標準解」の根底にあるひとつの共通の指針といえる。
これらのさまざまなものを「リソース」として見つけ出すための一つの方法は、ハンドブックを参考にすることである。例えば、Darrell Mannの教科書(『TRIZ 実践と効用(1)体系的技術革新』、中川 徹監訳、創造開発イニシアチブ刊(2004年))
にはつぎのような一覧表がある。
- 環境中のリソース
- 低コスト/豊富なリソース
- 製造プロセスのタイプのリソース
- 材料のリソース
- 特殊な性質と性質の変更のリソース
なお、これらの他にも、機能を実現するための種々の物理・科学的効果、さらに、さまざまな属性(性質)とそれを変化・制御・測定するための諸方法などの知識ベースも、参考になる。
2.3 「進化のポテンシャル」というリソースの考え方
TRIZの考え方でもう一つユニークなのは、本連載の第9回で説明した、「技術システムの進化のトレンド」の知識ベース
を利用して、「リソース」を見つけることである。
例えば、「進化のトレンド」の知識ベースによれば、システム中の構成要素は、「中実(単一)の固体 → 中空構造 → 複数空洞構造 → 細管/多孔質構造」というように発展していくことが、多くの事例から知られている(図1)。
図1. 進化のトレンド「空間の分割」
そこで、現在の自分のシステムで、その構成要素が単一の固体であるものは、今後、中空構造に発展していく潜在的可能性(ポテンシャル)を持っていると考えられる。それは、まだ有効に活用されていない「リソース」なのだと考えるのである。
この考え方が分かりやすいのは、「進化のトレンド」を導きだすのに使った多くの事例が蓄積されて、例示されており、一つの流れとして理解できるからである。
例えば、建築の壁材としての石から、中空ブロックや、発泡コンクリートなどに発展していったことの利点はよく理解できる。すると、ガラス窓も、一枚のガラスから、中空のガラス(真空張り合わせガラスなど)、多孔質ガラス(?)などができるのかもしれないと考えるのである。
3. 「リソースを導入し、削減せよ」
以上のように、「新たに有効に使える可能性があるものを積極的に導入する」ことが、TRIZでの大事な指針である。できるだけ広く考え、意外なものを導入することが、TRIZの醍醐味でもある。
しかし、TRIZでは同時に、「リソースの導入は最低限にせよ、あるいは積極的に削減せよ」ともいうのである。
3.1 「理想性」から来る削減要求
「使用するリソースを最低限にし、積極的に削減せよ」という指針は、前回に説明した「理想性」の考え方
に由来している。
TRIZでの「理想性」の古典的な定義は、「主有用機能」を分子とし、「使用物質量 + 空間サイズ + エネルギ」を分母として割ったものである。この分母は1.2節に述べたように、すべて「リソース」として考えられるものである。すなわち、TRIZでいう「理想性」は「使用しているリソース」と逆比例しているのである。
そこで、TRIZの指針は、「新たなリソースの導入を最小限にせよ、すでに導入してあるもので削減できるものは削減せよ」ということになる。これはコスト削減の要求に通じるものであり、省資源化の要請にも通じるものである。
3.2 「導入」と「削減」の両立
このように、「あらゆる可能性を考えてリソースを導入せよ」という指針と、「使用するリソースをできる限り削減せよ」という一見矛盾した指針とを、両立させることがTRIZの本質なのである。
この二つの矛盾した要求は、(TRIZだからあるのではなく)技術課題としては常に存在する。その矛盾した要求に正面から取り組み、明示的に扱っているのがTRIZであり、そのためにTRIZを理解することが難しく感じられ、同時にTRIZを活用したときの強さになるのである。
この矛盾した要求を両方とも実現させるには、意外なものを「リソース」として見出し、活用することである。その基本的な方法は2.2-2.3節に述べた。次節にそれをもう少し具体的に述べよう。
4. 導入と削減の両立の方法
4.1 トリミング
一つのアプローチは、まず削減することから考え始めることである。トリミングとは、植木の「剪定」にも使う言葉である。このTRIZ技法では、現在のシステム中の(通常は必要だと思われている)構成要素をばっさりと削除して、その上でシステムを成り立たせる方法を考えよという。
これは荒っぽい方法であるが、うまくいくと驚くほどの効果がある。特に効果があるのは、システムがS-カーブの成熟段階になり、いろいろな「改良」が繰り返されて、複雑になったシステムである。ばっさりと構成要素を削除してみると、固定観念が外せて、驚くようなすっきりしたものができることがある。
4.2 「空孔」(void、無)の導入
2.3節で説明した、一つの固体から中空構造に進む例は、TRIZでは「空孔の導入」としてよく知られている。この一つの理解のしかたは、「空孔(void)」もまた「リソース」の一種だということである。われわれはつい、「もの」を導入するのだと考えるのだけれども、「無」を導入することにより、「もの」の形状を変え、その性質を変えることが有効なことが多いのである。
単純に考えると、空孔の部分は(固体)物質を使っていないのだから、無料であり、安価になる。ただ実際にはそのような構造を作るために、製造段階での工夫が必要であり、それがこのトレンドに沿った進化の実現を遅らせる要素になる。その製造の問題が解決できる段階になると、軽量性、断熱性、省資源性などの特性の優位性がこれを進める力になる。
4.3 ASITの「閉世界」の考え方
イスラエルのASIT法
(TRIZを大幅に簡略化した方法)では、リソースの導入に対して、より明確な指針を掲げている。すなわち、現在のシステムの構成で必要最小限のもの(最小限のオブジェクトの組)を考え、その機能の関係の図を描き、導入するオブジェクトはつぎの性質をもつものに限定しようとする。
- いまのシステム中にあるものを複数化してもよい。このとき、複数化したものの性質を変えて使ってもよい。
- 「環境中」にあるオブジェクト(このシステムが動作しているときに、そのすぐ周りにあるもの、とくに安価で豊富なもの)を導入してもよい。
- それを導入することによって、システムの性質に質的な変化を与えることができるもの(害をなしていた性質がもはや害にならないなど)。
これらの条件のうちの最初の二つのような限定のしかたを、「閉世界制約」という(閉じた世界、限定した世界という意味)。リソースを限定的に導入していこうという方針を明示したものである。
4.4 使っていないもの/廃棄物を使う
まわりにあって使っていないで、あるいは使いものにならないと思っているものをうまく使う、特に、廃棄物/廃物/廃熱などをうまく使うことができるとよい。
古来からの日本の文化はこれをうまくやってきた。また、現在も、環境問題や省資源対策の中心課題がここにある。いろいろな事例があると思うが、私自身が書けるものがないので、他の文献をお読みいただきたい。
4.5 害を益に変える
TRIZの発明原理22がこれを強調している。諺の表現では「災いを転じて福となす」、あるいは英語の諺では、「レモンをレモネードにする」。
4.3節で説明したASITの人達が好んで使っている例
を紹介しておこう。
問題:「野戦で移動式アンテナを立てるが、氷雪が強く倒れてしまう。倒れない方法を考えよ」(図2)。
図2. 野戦で立てるアンテナ
すぐに「柱を太くすればよい」と思いつくが、すると一人で持ち運べなくなる。「ヒーターで温めればよい」と思うが、野原では熱源がない。・・・
これらの案の根本の弱点は、ある程度の氷雪には耐えても、さらに氷雪がひどくなると、結局はだめになる。「氷雪が(アンテナの倒れやすさに関して)害をなす」ことには変わりがない。4.2節で述べたASITの指針は、「閉世界制約」を守り、かつ、上記の関係を根本的に変える(「質的変化の条件」)ことが必要だという。
彼らの回答は、「氷雪でアンテナの柱部分もどんどん太くさせる」というものである。実際には、何本かの紐をアンテナの上部や柱から地面に張ればよいであろう。氷雪がひどくなると、柱もどんどん太くなって、倒れない。
これは、システム中にあって害をなしていたものを使い、かつ、その害を益に変えたのである。これが、TRIZやASITが目指す発明なのである。
4.6 進化のトレンドを使う
2.3節に述べた、「進化のトレンド」の考え方を使う方法は、実は「リソースの導入と削減」という(矛盾を含んだ)要求に対しても、十分対応している方法なのである。
「進化のトレンド」は技術の(段階的な)発展を記述したものだから、それは「矛盾する要求を乗り越えてきた結果」をまとめている。結果をまとめたものをみると、後の人は「矛盾」を克服したものだと意識しないことが多い。
例えば、一つの物に空洞を開けただけ、その空洞を多数にしただけ、空洞をうんと小さくして多孔質にしただけと思う。しかし、それは、「リソースの導入と削減」という観点からみれば、「無」という意外なものを導入し、それまでの物の使用量を大幅に削減した優れた結果なのである。
次回には、いよいよTRIZの真髄である「矛盾とその克服」について説明しよう。今回の 4節は自分でも当初予想していなかったほどに、次回との繋がりの強いものになった。
本ページの先頭 | 記事の最初 | 1. TRIZでいうリソース | 2. さまざまなリソースの導入 | 3. 導入し、削減せよ | 4. 導入と削減の両立の方法 |
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第14回 導入・適用・推進法 (マネジャのために) |
第15回 TRIZの基本概念(1) TRIZのエッセンス |
第16回 基本概念(2) 技術システム |
第17回 基本概念(3) 「場」 |
第18回基本概念(4) 「理想性」 |
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最終更新日 : 2007. 7.22 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp