TRIZ/USIT論文
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日本におけるTRIZ/USITの適用の実践
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中川 徹 (大阪学院大学)
TRIZCON2004:
第6回Altshuller Institute TRIZ国際会議, 2004年 4月25-27日, シアトル, ワシントン州,
米国
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[英文論文掲載: 2004. 5.13]
概要紹 介(和文): 2004年 5月12日
[掲載: 2004. 5.13
]
和訳 全文: 2004年8月10日 [掲載: 2004. 8.26]
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English pages, press buttons.
編集ノート (中川 徹, 2004年 5月12日)
標
記 のように2週間前に米国でTRIZCON2004国際会議が開かれ,
この論文を発表しました。英
文論文を本ホームページの英文ページに掲載しましたので参照下さい。
TRIZCON2004の学
会参加報告を別ページに掲載しました。(和文の概要と, 英文の詳細版です。) 学会参加報告にも書きましたように,
西側世界におけるTRIZの導入状況には, いくつかの成功事例
(特に最近の韓国サムソンの成功事例) がある反面で,
必ずしも進展がはかどっていない面があります。最も端的には米国が1990年代のTRIZ導入のアプローチから脱却できていないことです。それをどのよう
に克服すべきかを, 日本での実践を踏まえて論じてきたのが, 小生の一連の論文であり, 今回の論文もそれを一層明確にしたものです。
本論文では, 日本におけるTRIZ導入の戦略を, 3段階に分けて捉え, 初期の「革新的導入戦略」 (1990年代の米国での戦略),
中川の「漸進的導入戦略」,
そして2003年始めから中川が言い出している「着実な導入戦略」の考え方を説明しています。繰り返し述べていることは,
「TRIZの普及が遅い原因は, TRIZの教え方・適用のしかたが複雑すぎるからである。もっとすっきり,
やさしく, そして効果的なものを, 教え, 実地適用していくのがよい」ということです。その考え方の中心とて,
USITによる方法を中川は提唱してきました。
本論文の後半には, 日本におけるいろいろな企業と大学等での導入状況を紹介しています。ここでは,
いままでに日本IMユーザグループミーティングや本ホームページなどに公表された,
企業等の発表を参照させていただきました。その意図は, 日本でのTRIZ導入基盤が確かに整いつつあり, 企業等での実践が定着しつつあること,
そのバックに上記のような考え方があることを,
世界のTRIZコミュニティに対して紹介し, 参考にしてもらうことです。これらの公表資料のほとんどが日本語だけでしか発表されていず,
世界のTRIZの専門家やユーザにほとんど知られていないので,
それを知らせることが目標でした。
このような日本のアプローチを紹介し, 主張することは,
世界中全体でのTRIZ推進に日本が寄与するために大事なことだと考えています。いろいろな分野でいままでに起こってきたことですが,
日本が世界から吸収するとともに, もっと積極的に主張をし, 寄与をしていくことが大切なことだと思っています。
このページでは, 論文の要約部分だけを和訳してとりあえず掲載いたします。本文も和訳するとよいのですが,
いまは多忙でできません。いま集中してやろうとしていることは,
Darrell Mannの教科書「Hands-On Systematic Innovation」 (『TRIZ 実践と効用 (1)
体系的技術革新』) の翻訳です。すでに全体を何回にも渡って推敲し,
もうあと少しの仕上げと索引作りが残っているだけの段階になりました。
編
集ノート追記 (中川
徹, 2004年 8月23日)
Mannの教科書の翻訳・出版を完了し、夏休みになってようやく時間がとれ
ましたので、和訳して掲載いたします。上記のようにこの論文は、主として海外に向かって、日本の実践状況と考え方を紹介しようとしたものです。日本の
『TRIZホームページ』の読者の皆さんは、ここに紹介したものの多くを読んでおられることと思います。それでも、TRIZの中のいくつかの考え方をもう
一度整理して読み、考えることは大事なことと思います。私自身も、いろいろ書く中で少しずつ概念が明確になってきています。
(先週、11月のETRIA国際会議のための論文原稿を書き、また一段と進んだと思いました。その一部は
9月の修善寺でのシンポジウムで話したいと思っています。)
日本におけるTRIZ/USITの適用の実践
中川 徹 (大阪学院大
学)
TRIZCON2004: 第6回Altshuller Institute TRIZ国際会議, 2004年
4月25-27日,
シアトル, ワシントン州, 米国
要約
日本におけるTRIZの受容
は、1998年頃の初期の段階における熱狂と懐疑の入り交じった状況から、最近では理解がさらに進み、より実際的な適用試行へと変化しつつある。かっては
TRIZ知識ベースツールが企業のTRIZ導入のシンボルであったが、いまや社内で実地問題に対してTRIZを実際に適用する力、TRIZを社内で教育で
きる力こそが、TRIZの浸透度を測るより重要な尺度であると認識している。
筆者は1999
年に、日本に おけるTRIZ推進の戦略として、「漸進的
(Slow-but-Steady)
導入戦略」を提唱し、当時一般的であった「革新的導入戦略」に対置した。しかし、その後の近年のTRIZの発展を基盤にして、筆者はいま「着実な
(Steady)
導入戦略」を提唱している。この戦略の鍵となる要素は、学びやすくかつ企業での実地の問題に適用して効果的なように、TRIZ方法論を提供することであ
る。USIT (統合的構造化発明思考法)
が簡単で、統合的で、かつ強力なTRIZベースの問題解決プロセスであり、2日間のトレーニングセミナーでうまく習得可能であることを示す。
日本のいくつかの企業といくつかの大学などに
おけるTRIZ/USIT
の推進と適用の実践について、当事者の公表資料に基づいてここに紹介する。これらの経験は、多くの企業がTRIZ/USITの適用と訓練とに成功してお
り、日本におけるTRIZをめぐる一般的な状況は、TRIZ推進のつぎのステップとして「着実な戦略」を採用するための健全な基盤をすでに形成したことを
示している。
1. はじめに
日本におけるTRIZの受容は、1998年頃の初期の段階における熱狂と
懐疑の入り交じった状況から、最近では理解がさらに進み、より実際的な適用試行へと変化しつつある。かってはTRIZ知識ベースツールが企業のTRIZ導
入のシンボルであったが、いまや社内で実地問題に対してTRIZを実際に適用する力、TRIZを社内で教育できる力こそが、TRIZの浸透度を測るより重
要な尺度であると認識している。この尺度において、日本の多数の先駆的企業が、いまやTRIZの普及の新しい段階の初めに到達したように見える。
筆者は1999
年に、日本におけるTRIZ推進の戦略として、「漸進的 (Slow-but-Steady) 導入戦略」(B) を提唱し [1]、 当時一般的であった「革新的導入戦略」(A)
に対置した。しかし、2003年1月以降、筆者はいま
("Slow"という語を落として) 「着実な (Steady) 導入戦略」(C) を提唱している [2]。その論理は以下のようである。
1990年代から
つい最近まで、西側世界におけるTRIZの推進に関する支配的な戦略
(A) は、以下のようであった。
- (A1)
TRIZをもともとのロシアでの形で (物質-場分析やARIZなどを含めて) その全体 [3、4]
を導入せよ。なぜなら、それらはすでに有用であることがロシアで証明されているのだから。
- (A2)
問題解決プロセスを支援しガイドするために、TRIZのソフトウェアツール [5、6]
を使え。なぜなら、それらのツールは、TRIZ研究で蓄積されてきた、諸原理と諸事例の知識ベース、およびいくつかの技法を、最新のパソコンとネットワー
ク環境のもとに提供しているのだから。
- (A3)
TRIZの推進をできるだけトップダウンのやり方で組織し、必要なら外部のコンサルタントを使うとよい。なぜなら、そのような推進方式が、品質管理に関連
する諸運動において、いままでに最も効果的であることが実証されてきているのだから [7]。
しかしながら、この戦略は、以下のような深刻
な困難さを最近まで含んでいた。
- TRIZの全体は、十分に紹介/教育されてい
ず、西側の技術者の大多数にとっては学習が困難であった。その主たる理由は、ロシア語からの翻訳の言葉の壁であり、特に、TRIZの思想が独自で馴染みが
なく、またTRIZが知識と方法を膨大に蓄積している状況において、これが顕著であった。
- 思考の方法というのは、短時間で教える/学ぶこ とは常に困難なものである。また、TRIZのいくつかの鍵になる技法 (物質-場分析とARIZを含む)
が、多大のトレーニングなしには使うことが難しいことが分かってきた。
- TRIZのソフトウェアツールは高価であり、
問 題解決におけるプロセス (特に考える方法) をガイドするのに効果的でなかった。
- TRIZの教科書やソフトウェアツール中の諸
事 例が随分旧式のものであり、実問題での事例がほとんど発表されて来なかった。
- 各国、各企業において、TRIZの指導者や実践
者たちを育てるのに長期間を必要とした。社外と社内にそのような人々がいない状況では、どんなトップダウンの推進もうまく効果を挙げることができなかっ
た。
そこで、筆者は1999年に、「漸進的導入戦略」(B) を推奨した [1]。つぎのようである。
- (B1)
TRIZの理解できる部分を使い、問題解決プロセスとしてはTRIZをやさしくしたUSITを使って、始める。
- (B2)
TRIZソフトウェアツールを諸原理や諸事例の知識ベースとして使い、問題解決のプロセス自身はソフトウェアツールに頼らないようにする。
- TRIZの学習と適用を、企業の自発的な先駆
者
たちによる草の根方式で開始し、TRIZの有用性を自分たち自身で実証することを試みる。また、TRIZの推進者やユーザたちから成るTRIZコミュニ
ティから支援を得る。
TRIZの一般的
な理解およびTRIZを取り巻く状況が、この数年で、特につぎの諸点
で、進歩した。
- TRIZのさまざ
まな側面が、教科書として英語で出版されてきた。ロシアの専門家たちによるもの [8、9、10] の他に、特にDarrell Mann
によるもの [11] が最も重要である。
- TRIZに関する学会が、米国 [12]、欧州 [13]、および日本 [14] でも開催され、TRIZの専門家たちとユーザたちの
コミュニケーションと協力を助けた。また、『TRIZ Journal』 [15] を初め、多くのWWWサイト (その中には『TRIZホームページ』 [16] を 含む)
が、最新の論文発表やコミュニケーションに役立ってきている。
- TRIZでの考え方を、ある程度の数の人たち
が 徐々に習得し、問題解決の新しいプロセスが古典的TRIZの束縛から離れて形成されるようになった。その中には、USIT [17]、ASIT [18]、Ballのブレイクスルー思考法 [19]、そして日本におけるわれわれのUSITの拡張 [20] などがある。
- Darrell
MannとSimon Dewulf [21、22]
が最近、アルトシュラーのやり方を改良した方法で米国特許 (1985年〜2002年登録のもの)
を徹底的に分析し、矛盾マトリックスを初めとするTRIZ知識ベースの最も重要な部分を更新した。この仕事は、最新のテクノロジに体系的にアクセスする強
力な方法として、人々がTRIZを受け入れるのをずっと促進することであろう。
- TRIZのソフトウェアツールがより低価格で
商 品化されてきて、それらを主として知識ベースツールとして位置づけるべきであることが認識されてきている。
- TRIZの指導
者、専門家、そして実践者たちが、さまざまな国で、さまざまな産業や学界において、数の上でも質の点でも、成長してきている。
これらの状況を踏まえて、筆者は2003年1月から日本において「着実な (Steady) 導入戦略」 (C) を提唱してきている [2]。 その要点はつぎのようである。
- (C1)
TRIZの方法論/思想のエッセンスを理解し、TRIZにおける問題解決の簡単で統合されたプロセスとしてUSITを用いて、問題定義、問題分析、解決策
生成の全過程を行う。
- (C2)
TRIZのソフトウェアツールを、諸原理や諸事例の知識ベースとして用い、さまざまな分野の優れたアイデアを学び、またUSITプロセスに沿ってアイデア
を生成するのを支援させる。
- (C3)
自発的なTRIZの諸グループを奨励し、それらを [組織が上から]
承認/強化して、企業の実問題でTRIZの適用を進める。それによって、彼らは実践の中から成果を出し、積み上げていくことができるであろう。そのような
活動は、TRIZを取り巻く一般的な状況を土台にして、いまや、着実に、深く、そして広く進めることができるだろう。
以下の節には、この戦略を薦める理由について
議論し、同時に、日本におけるTRIZ/USIT の実践のいくつかのケースを紹介しよう。
2.
日本におけるTRIZの理解の進化
TRIZの日本
への導入
[1] は1996- 1997年に始まり、アルトシュラーの本 [3、4] の日本語訳の出版や、ソフトウェアツールとして
TechOptimizer (Invention Machine社)
[5] やIWB
(Ideation International社) [6]
の販売が行われた。入門的なセミナーが、米国在住の旧ソ連出身TRIZ専門家たちを招待して、多数開催された。これらの情報は、非常に新しく、企業技術者
の一部にとって、衝撃的であった。この初期の段階では、40の発明原理と矛盾マトリックスが、TRIZが達成した最高峰であると見なされていた。上記の二
つのTRIZソフトウェアツールは、1999年と2000年にそれぞれ日本語化された。しかし、これらのツールを使おうとした技術者たちの多くが困難に遭
遇した。その困難点は、自分たちの問題を矛盾マトリックス上に適切に位置づけることの困難、発明原理を自分たちのケースにうまく適用することの困難
(事例集が見るからに古いこともその理由と思われた)、そして、自分たちのシステムを機能分析図に適切に表現して役立てることの困難、などであった。
物質-
場分析がアルトシュラーの教科書やさまざまの入門記事に例示されていたが、それ
を使えるように習得することは大部分の読者にとって困難であった。発明標準解の全貌が紹介されたのは、Salamatovの教科書が和訳 [8]
されたときであり、それは2000年のことであった。ARIZのプロセスや物理的矛盾の利用も、認識されたのは同じころであった。1週間以上の直接の
TRIZトレーニングを受けた日本人は数えるほどしかいなかった。大部分の先駆者たちがTRIZを学習したのは、出版物と入門的なセミナーを通してだけで
あった。このようなわけで、こういった先駆者たちが、TRIZにおける考え方を理解し、自分の問題に適用できるようになるまでには長期間
(おそらく、2〜3年) かかった。
企業においては、研究所や技術部門や知的財産
部門などで、ボランティアの先駆者たちが、まずTRIZ
の学習を始め、TRIZのソフトウェアツールを使い、関心を同じくする人たちとのグループを作り、TRIZの専門家やコンサルタントを招いて入門セミナー
を組織し、実地の問題にTRIZを適用するなどのことを試みた。これらすべての「業務外」の活動をするためには、彼らはその上司を説得する必要があった
が、上司たちの多くはTRIZについてそれまでに何も知らず、また「超発明術」というキャッチフレーズには懐疑的でさえあった。かくて、これらの企業内先
駆者たちが、問題解決において実地に成果を出し、また仕事の中でTRIZを学習し適用していくことに興味を持つ仲間たちを数人から20人ばかり獲得してい
くのには、随分長い時間がかかった。筆者が、TRIZの推進に「漸進的導入戦略」 [1] を推奨したのは、このような時期であった。
いろいろな活動が日本におけるTRIZの推進に寄与してきた。日経BP社
[23] は、TRIZの教科書シリーズを出版し
[3、4、8、9]、その月刊誌『日経メカニカル』に多数の記事を掲載した。三菱総合研究所 [24] はInvention
Machine社のソフトウェアツールを販売し、定期的なユーザの研究会を組織した。産業能率大学 [25]
は、入門的なセミナーを行い、いくつかの企業でTRIZのコンサルティングを行った。『TRIZホームページ』 [16]
は、日本におけるTRIZハブサイトの役割を果たし、世界の優れた論文を選んで和訳し、ユーザが書いた事例研究や、本筆者の書いた記事などを多数掲載し
た。これらの活動と、日本および世界でのその他のいろいろな活動が、徐々に、日本におけるTRIZ普及の次段階のために、一般的な基盤を形成していった。
なお、日本におけるTRIZの理解において独自な特徴の一つは、TRIZでの問題解決 の「単純で統合されたやり方」を
(特にUSITの形で) 強調する点である。筆者がUSITを、Sickafusの教科書
[17] および彼の3日間トレーニングセミナーを通
じて習得 し、1999年以降日本に紹介してきている。筆者がUSITについて多数の講義をし、論文を書き、トレーニングセミナーをし [1、26、27]、それらのすべてをWebサイトに発表してき
たので、日本でTRIZに関心を持っている人たちのほとんどの人がUSIT
をある程度知っている。最近の中川・古謝・三原 [20、28、29]
の論文は、TRIZの諸解法の全体
(発明原理、発明標準解、進化のトレンドを含む)
を再整理して、単純なUSITの5種の解決策生成法にまとめた。多数の日本企業でUSITが適用されてきたことは、第4節に示すようである。
事例研究の発表が、TRIZCON 国際会議 (Altshulller Institute for TRIZ Studies
主催、米国、[12] 参照) や ETRIA
国際会議 (欧州TRIZ協会 (ETRIA) 主催、[13] 参
照)、TRIZ Journal (Webサイト) [15]、
および日 本IMユーザグループミーティング (三菱総研主催、[14]
参照)
などで行われて、TRIZのコミュニティがTRIZでの考え方を理解していくのに大いに寄与した。このような経過を経て、いくつかの日本企業が最近、自分
たちのTRIZの推進と適用の事例を (いまはまだ日本語だけであるが) 発表し始めている [14]。
日本におけるTRIZの理解に対する最近の大きな衝撃 (そして、今後より大きくなると予想されるもの) は、Darrell
Mannの新しい教科書『TRIZ
実践と効用 (1) 体系的技術革新』 [11] で
あり、新しい特許の研究を基礎にしてTRIZの知識
ベースの全体を刷新したCREAX社の仕事 [21、22]
である。複数企業に属する約20人の有志のチームが共同でこの教科書の日本語訳に取り組んでおり、それを通じてTRIZにおけるより深く、より柔軟性のあ
る考え方を学びつつある。CREAX社の特許研究の意義はよく認識されており、更新された矛盾マトリックス (すなわち、「矛盾マトリックス
2003」) について、実地適用の有効性が検証されてきた。
これらの最近の進歩をベースにして、筆者はTRIZ導入のための「着実な戦略」を 2003年1月から提唱してきているのである
[2]。
3.
USITとその実践について
日本におけるTRIZの実践について論ずる前に、USITについて、また
筆者によるその実践について、ここに簡単に紹介しておくことが適当であろう。
USIT
(統合的構造化発明思考法) は、Ed
Sickafusがフォード自動車社において開発したものであり、彼のUSIT教科書 [17] および最近の彼のe-book [30] に記述されている。USITの主要な特徴はつぎのと
おりである。
- 問題解決のプロセスは、3段階 (すなわち、問題定義、問題分析、および解決策生成)
で明瞭にガイドされていて、技術的な問題に対して複数の概念的な解決策を得ることをねらいとしている。
- USITは問題定義段階で、問題の焦点を一つ
に 絞って明確にするように問題解決者を導く。「適切に定義された問題」は、問題宣言文
(1〜2行)、望ましくない効果のメカニズムを図示するための問題状況のスケッチ (概略図)、および考えられる根本原因を記述していなければならない。
- システムを記述するのに、「オブジェクト、属
性、および機能」の概念を、USITの全プロセスを通じて使う。
- l現行のシステムを分析するのに、機能分
析 (「閉世界ダイアグラム」と呼ぶ) と属性分析 (「定性変化グラフ」と呼ぶ) を用いるが、それらのプロセスはともにきちんとした指針をもつ。
- Particles 法
(アルトシュラーの「小さな賢人たちのモデリング法」を改良発展させたもの)
は、問題解決者に理想の解決策のイメージをまず作るように要求し、そしてParticles
(すなわち、任意の性質を持ち任意の行動ができる魔法の粒子/「場」)
にその理想の解決策を達成するように頼むことをイメージするように要求する。Particlesが実行するだろう可能性のある行動を、ツリー構造にブレイ
クダウンし、ついでそれらの行動をするのにParticlesが持っているとよい性質をリストアップする。
- 空間と時間に関するシステムの特性を分析す
る。この分析はしばしば解決策のコンセプトを 誘発する (これはTRIZにおける空間/時間による
[物理的矛盾の] 分離原理によるアイデアの生成と対応している)。そのためSickafusはこのプロセスを、「ユニークネス
(Uniqueness)」と名付けて、解決策生成法に位置づけている。
- 複数の解決策を生成することを目指して、つぎ
の5種のオペレータを繰返し適用する。オブジェクトの複数化、属性の次元的変化、機能の再配置、トランスダクショ
ン (すなわち、機能の連結)、および総称化 (一般化) である。
- USITは、ハンドブックやソフトウェアツー
ル に頼らないで、技術者たちの考える力を刺激することにより、問題を見る新しい観点を創り出すことを試みる。
USITは日本に
導入され、筆者の一連の論文に記述しているように、さらに改良されてきた [1、26-29、20]。改良点はつぎのようである。
- 解決策生成のオペレータはつぎの5種に分類され た。オブジェクトの複数化、属性の次元的変化、機能の再配置、解決策の対の組合せ、および解決策の一般化。
- TRIZのすべての方法
(発明原理、発明標準解、進化のトレンド、分離原理を含む)
を一旦ばらばらにして、上記のUSITの5種の解決策生成オペレータに再整理した。かくてUSITは、解決策生成オペレータの階層的な体系を持つ
(全体は 5種、合計32のサブ解法からなる)。オペレータの個々のサブ解法には、明確で適用しやすいガイドラインが記述されている。
USITの3日間ト
レーニングセミナーの経験を文献 [27] に
詳細に報告した。さまざまな企業から来た8〜15人の参加者たちが、USITのプロセスに従ってグループ演習を行い、2〜4件の技術的な実問題を共同で解
決するのに成功した。最近では、企業内でのトレーニングとして、実質的に同じUSITトレーニングセミナーを2日間で実行している [2]。
トレーニング日数の短縮が可能になったのは、企業内組織者が予め問題と参加者を選定していること、企業内参加者たちが多少とも共通の背景知識を持っている
こと、そして講師 (すなわち、筆者)
の指導のスキルが向上したこと、などによる。図1にそのプログラムを示す。典型的には、15〜25人の参加者たちを同時に訓練し、3件の実問題を解く。参
加者のほとんどはTRIZ/USITについて初心者であり、少数のTRIZ/USITの推進者/実践者が加わる。このやり方のトレーニングは3重の意味で
非常に効率的である。参加者たちは3件の実問題を実際に深く解決し、その参加者たちは、TRIZ/USITの概要と、USITでの問題の解き方を理解し、
さらに社内推進者たちはUSITトレーニングセミナーをリードするしかたを習得する。
図1.
2日間USITトレーニングセミナーのプログラム
[2]
4.
日本におけるTRIZ/USITの推進/適用の事例
以下に、日本の産業界および学界におけるTRIZ/USITの推進と適用
のいくつかの事例を、公表されている資料に基づいて簡単にレビューする。もちろん、他に多くの優れた/重要な事例で、公表されていないため、あるいは単に
紙面の都合のために、ここに言及されていないものがあり得ることに注意されたい。
4.1
企業における事例
富士ゼロックス社
[31、32] は、
TRIZの活動と事例を公表することに最も積極的であった。1997〜1998年にTRIZの学習を開始して、社内にボランティアたちでTRIZ研究会を
作り、ソフトウェアツールを数セット導入し、社外のセミナーなどに参加している。その活動は2000年に強化され、全社的なTRIZ研究会を再組織し、社
内事例を定期的に報告/討論するとともに、社内コンサルティング活動を行った。入門的なセミナー多数の他に、5人がTRIZアドバンスコースに参加し、一
人がUSIT 3日間トレーニングセミナーに参加した。TRIZソフトウェアツールをネットワーク上にインストールした。
TRIZは主とし
て研究開発部門で使われてきた。2001年、2002年
には、毎年約10プロジェクトでTRIZ/USITを使った。最もよく使われたのは40の発明原理と物理的効果のデータベースであったが、TRIZの理解
が深まるにつれて、この2、3年は利用の重点がUSITに移りつつある。技術的問題を解いた事例が数件公表されている。その中には、コピー機のペーパート
レイ中にある用紙の紙厚の測定、ペーパートレイの湿気対策の改良、希ガス蛍光灯の黒化問題の解決、などがある。また、注目すべきなのは、TRIZをマネジ
メント関係に適用していることで、「キャリア・アドバイザ」という新制度の設置に関して適用している。この事例で使った指針は、TRIZの「セルフ-
X」、究極の理想解、およびリソースの諸概念であった。
リコー社
[33、34] に
おけるTRIZの導入もほぼ同様であり、1997年にボランティアの社内研究会を作り、ソフトウェアツールを導入
している。先駆的な技術者たちによる
TRIZ研究会は、1999年に品質管理関連の部門が推進して正式に組織化された。このグループが一層活発になったのは2001年のことで、社内TRIZ
トレーニングセミナーを定期的に開始したときである。コースのカリキュラムと教科書を自分たちで開発し、講師を努めた。2003年の日本IMユーザグルー
プミーティングで、「環境に配慮した梱包」の一部品の改良事例を報告している。この結果は、社内のTRIZ初心者コースを学んだ一人の技術者が、そのコー
スの後すぐに実際の自分の業務にTRIZを適用して得たものであるという。
富士写真フイルム社もまた、
文献 [35、29] に
簡単に記述しているように、TRIZ/USITの導入に積極的であった。初期の1996〜1998年に中村
敬氏の先駆的な活動があった後に、1998年から生産技術部門の古謝秀明氏と研究所の三原祐治氏が、ボランティアとしてTRIZの推進を始めた。かれらは
まず外部の講師を招いてTRIZとUSITの講演会をした。特記すべきは、彼らはすぐにUSITが最も有用であると判断し、TRIZを推進する戦略の中核
にUSITを選んだことである。TRIZの推進のために、初心者のためのTRIZ
(およびUSIT) のコース、およびTRIZソフトウェアツールの操作法と実践のコースを定期的に開いた
(大部分は外部のコンサルタントが講師)。そしてまた二人の推進者たちは、多数の実プロジェクトについてUSITを使った問題解決の社内コンサルティング
を行ってきた。彼らはまた、TRIZの諸解法をUSITに再整理し、それを利用する論文 [20、28、29]
において、中川の共著者となった。
彼らの努力の中心は、技術者たちがTRIZ/USITに馴染んで、彼ら自
身の問題にTRIZ/USITを適用する動機とスキルを持つように導くことであった。古謝 [36] は、
彼らがいままでに3段階を経て進んできたという。第一の段階では、技術者たちがUSITを知ると、それに興味を持つが、それを後で実際に適用してみる人は
1/10以下にすぎない
(そして、別の一部の人たちは懐疑的になることさえある)。その後、一部の技術者たちが推進者のところにやってきて、かれら自身の困難な問題に対して助言
を貰い、USITを使って問題を解く仕事を一緒にした。この第二段階では、繰返し来るユーザでさえ、自分たちだけでUSITを適用するだけの自信をまだ
持っていない。そして第三段階では、何度もUSITを経験したユーザが、自分たちで自分の問題にUSITを適用し始め、自分たちの部門内にUSITのリー
ダを育成しようとし始めた。富士写真フイルム社はこれまでにUSITを適用したのが約40プロジェクトあるが、この第3段階の初めにいまようやく到達した
と、古謝は言っている。
日産自動車社
[37] も
また、1996年にTRIZソフトウェアツールの英語版を導入したが、その後4年ほどは困難な時期であった。
2000年に、知的財産部門の中に一つの核に
なるグループが形成され、TRIZを積極的に推進し始めた。知的財産部門の者がTRIZを学習し、彼らが研究者や技術者たちの特許記述の改善や未解決問題
の議論の相談に乗っているときにTRIZを使う。このようにして、TRIZグループは知的財産部門内の人をつぎつぎと取り込み、「TRIZキーパーソン」
に訓練していった。現在16人のTRIZキーパーソンがいるという。知的財産部門の中期計画は、5年内に同部門の全メンバを訓練して、TRIZをその日常
業務で適用できる能力をつけさせることである。この知的財産部門は全社の研究開発活動を支援しているから、TRIZの有用性はきっと全社的に知られるよう
になることであろう。
日産の一人の特許専門家が2002年にTRIZグループの新しいメンバの
一人に指名された。彼は当初はTRIZに対して懐疑的で、TRIZは効率的でなく無用のものと考えていた。しかし、数ヶ月間学習し、三菱総研のユーザグ
ループの研究会でのコミュニケーションを通じて、TRIZの力が本物だと認識し、いまや社内で活発なTRIZ推進者になっている [37]。
日産 [37] は
TRIZの [日本での] 3種のアプローチ
(すなわち、IMと三菱総研のソフトウェアツール、産業能率大のTRIZ基礎コース、およびUSITのアプローチ)
をすべて経験している。同社はこれらを相補的に使っていこうとしている。同社はこの2年間で社内でのUSITトレーニングセミナーを3回行っている。第1
回と第2回は知的財産部門のリーダシップで開かれ、知的財産部門のTRIZキーパーソンと研究所の研究者たちを一緒にトレーニングすることが目的であっ
た。他方第3回は、技術部門の一つがリーダシップを取り、自分たちの実問題を解決する演習を通じて、その技術者たちにUSITのトレーニングを行ったもの
であった。
日立製作所 [38]
は、1997年以来、全社的な委員会活動の中で、もっと体系的なTRIZ導入のやり方をとってきた。1999年に日立製作所は「HiSpeed21
(Hitachi Innovation Program toward Super Process with Excellent
Engineering
& Digital Technologies for 21st Century)」の全社的推進を開始した。この運動では、品質機能展開
(QFD)、TRIZ、そして田口メソッドがCAD/CAE/CAMとともに推進された。この4年間の間に、延べ36,000人の技術者・研究者たちが、
QFD, TRIZ, あるいは田口メソッドのトレーニングを受けた
(ただし、この3者の中でTRIZは最も少ない)。2003年には、その運動はHiSpeed/Nextとしてさらに拡張されている。
林利弘氏 [38]
は、QFD、TRIZ、および田口メソッドの役割はそれぞれ、市場と顧客のニーズを適切に捉えること、新しい技術的コンセプトを創り出すこと、そして市場
での頑健な品質を評価し実装することである、という。そしてこれらの3方法がその特質として共通に持っているのが、個別の技術分野から独立していること、
問題の中心の本質を考えるように仕向けること、そして、個人知を組織知に転換することを促進すること、であるという。日立のアプローチは最も体系的で、
トップダウンのやり方であるように見える。そのさまざまな部門でTRIZの3種のアプローチの経験をもっているようであるが、[技術的な問題解決の]
事例研究はまだ一つも公表されていない。
JR東日本社
[39] は
最近、新幹線車両のトイレ空間の将来設計を開発するのにTRIZを適用した事例を報告した。JR東日本がTRIZ
を導入したのは2001年のことで産業能
率大学のコンサルティングを受けた。この例では、自分たちの従来からのVEアプローチにTRIZ-DEを統合している。利用者からの要望をアンケートで集
め、また女性だけのフリーディスカッションを特に開いている。TRIZの9画面法と技術進化のトレンドの知識ベースを用いて、新幹線車両内の「清潔で、快
適で、リフレッシュできる」トイレ空間の将来シナリオを創り出した。それらのシナリオをさらに展開してVE方式の機能の階層図を作成した。そして作り上げ
た模型は、優雅ですばらしいものであった。この事例は新製品を開発するのにTRIZが有能であることを明瞭に示した。
最も強力で成功したTRIZ推進例は、松下電器グループのパナソニック コミュニケーションズ社 [40]
で
ある。開発プロセス革新グループのマネジャである山口和也氏は、2001年にTRIZを学び、それ以後全力でその推進に当たっている。彼はその前にQFD
と田口メソッドを習得し、その時点ではすでに社内で推進していた。TRIZを理解し、その有効性を確信すると、彼は外部コンサルタントの支援を得て自分の
チームをTRIZに集中的に活動させた。2年間で500人の技術者たちにTRIZベーシックコースを教育し、いまや150人の技術者たちが自分たちの業務
でTRIZを使うことができ、特に彼の配下の15人のメンバがフルタイムでTRIZを用い、社内のさまざまな部門での問題解決プロジェクトを指導してい
る。山口氏は、一部のマネジャたちが前進しようとせず、革新的なやり方に抵抗を示すことに対して、闘いつづけてきた、という。マネジャに対するTRIZ
1日トレーニングを彼は実施してきた。松下電器のトップマネジメントがTRIZの有効性を認めるようになり、近い将来に新しい運動を開始するだろうと期待
される、と彼は言っている。
事例研究 [40]
では、電子記録白板の梱包サイズを半分にしたプロジェクトを報告している。機能分析を徹底して行い、矛盾マトリックスを用いて、問題のさまざまな側面で非
常に多数の解決策コンセプトを生成した。白板の主板を4つに折り畳めるようにすることが、解決策コンセプトの中心である。TRIZを適用後、さらにいろい
ろな配慮をして
(例えば、田口メソッドを適用して)
製品を設計・生産した。かくて、この製品の新型のものは、梱包体積を半分にでき、製造コストを10%削減できた。その結果、現在旧来の1.5倍の売り上げ
がある。
日本におけるTRIZ コンサルタントの 数は現在まだわずかである。三菱総研、産業能率大学、およびTRIZソフトウェアツールのディーラなどのスタッフが、その初期からの供給源である。VEや
TQCなどの仕事をしていた人たちで、TRIZを教えたりコンサルティングをしたりすることに興味を示す人たちがいくらか出てきているが、まだ数は少な
い。最近、企業内で先駆者としてTRIZを推進していた人たちの何人かが、企業を定年 (55〜60歳)
あるいはやや早期に退職し、豊富な技術経験を持ってTRIZコンサルタントになっている。
林
裕人氏 [41] は、TRIZと創造性思考の専門のコンサルタントで
あり、問題の考えられる根本原因を明かにし、機能分析をする彼の方法を発表している。彼が提唱しているのは、根本原因を多数明かにして、それらに対応した
多数の解決策コンセプトを生成することである。
政府や地方自治体のセンターなどにはまた、い
くらかの草の根の推進者たちが存在する。例えば、高知県工業技術センターの若い研究者
は、その地の企業の人たちと一緒になって「メカトロニクス研究会」 [42] を組織している。この研究会では、さまざまなアプロー
チのTRIZの指導者を招いてこの5年間で6回のTRIZ入門セミナーを開き、研究会メンバの企業での実問題に
TRIZを適用することを試みてきた。
4.2
学界および教育界での事例
大学関係においては、東京大学において、畑
村洋太郎教授 (現在工学院大学) と中尾政之教授が、TRIZを初期に紹介し、TRIZ
関連領域で2冊の教科書 [43、44] を出版して
いる。彼らの興味の中心は創造的な設計方法論とその実践にある。このため、これらの教科書では、TRIZを紹
介した上で、公理的設計および設計のナレッジマネジメントの観点からそれぞれTRIZを論じている。
芝浦工業大学の川面恵司教授は
大学院レベ
ルで機械工学を教えており、最近『創造的工学設計の方法』 [45]
という教科書を共編、出版している。この教科書は、P&B法、VE、QFD、TRIZ、USIT、田口メソッドを扱っており、そのうちTRIZに
最も重点がある。関東学院大学の飯塚晴彦教授もまた機械工学科で教え
ている。教授とその研究室の修士課程の学生は、この4年間毎年日本IMユーザグループミーティングでその研究事例を発表してきている [46]。彼らはUSITをSickafusのもとのやり方で
使ってきている。
筆者は大阪学院大学の情報学
部で学部生を教えている。「創造的問題解決の方法論」に関する13回の講義の資料を『TRIZホームページ』に公
表している [47]。
これは学部2年生のための選択科目 (科目名「科学情報方法論」)
であり、学生たちは情報科学/技術の基礎トレーニングを受けただけで、工学分野の専門トレーニングや企業経験などをまったく持っていない。それでもこの講
義は、科学技術において創造的に考える方法について、とくにTRIZ/USITの思想と諸方法での考え方について教えている。学部学生たちが達成したいく
つかの事例を近い将来にWebサイトに掲載したいと考えている。
日本の学界、あるいは諸学会は、TRIZ
の認識が随分遅い
(あるいは、TRIZを認識して貰うようにするわれわれの活動が遅いというべきか)。それらの中で、日本設計工学会はその会誌の2000年3月、4月号に
「TRIZによる設計の基礎」という特集を組んだ [48]
。そこでは
8編の招待記事が発表されている。この他に、VE、QFD、機械工学、創造性などの学会において、TRIZに対する関心とTRIZとの交流がいくらか存在
するようである。
このような状況の中で、日本Invention Machineユーザグループミーティング [14] が、 2000年から毎年、三菱総合研究所の主催で開かれてきて、TRIZ関連の仕事を発表し、TRIZユーザの間でコミュニケー
ションをとるための最も重要な
会として機能してきた。この会では発表やコミュニケーションが随分率直である。この参加者たちの大部分が、三菱総研主催のユーザグループの研究会で隔月あ
るいは毎月共同で討論する機会を持っていることが、寄与しているのだろう。多数の事例研究がこの日本IMユーザグループミーティングで発表され、その後
Webサイトに掲載されてきたことは、本稿の参考文献のリストからも明かであろう。
日本にはまだ統一的なTRIZの組織 (例えば日本TRIZ協会など) がない。近い将来にそのような可能性を考え始めるべきであろう。
高校、中学、あるいは小学校などの生徒に対す
るTRIZベースの教育は日本ではまだ試行されていない。Natalia Rubinaの
[ロシアでの] 小学校1〜3年生に対するTRIZコースの冊子テキスト
が、『TRIZホームページ』に英文で発表されている [49] が、
日本でこどもの教育にまだ使われたことがない。
学校の先生たちがTRIZ自身を理解し、TRIZの思想に基づいた創造性の教育を実践しようと試みるまでには、いまから数年かかることであろう。
5. まとめ
以上に述べた多くの企業での事例で分かるよう
に、日本におけるTRIZの
推進の初期には、衝撃と懐疑が入り交じった状態、ソフトウェアツール主導のアプローチにおける困難、先駆的技術者たちによるゆっくりだが着実な草の根の努
力、そしてTRIZを実問題に適用する能力が徐々に向上して、それを組織が少しずつ認めるようになってきたこと、などを経験してきた。TRIZに関する一
般的な背景情報
(特に、TRIZをどのように適用できるのか、競争相手がどれだけ使っているのか)
が、TRIZの推進を容易にする基盤を形成する。日本は国際的なTRIZのコミュニティから多くのものを受け取ってきて、それにいくらかを寄与してきた。
最近になって、組織内でいくらかトップダウン
にTRIZを推進する事例
が、少数の企業で現れてきた。それらのすべてのケースで、中間のマネジャがキーパーソンになっている。彼らはTRIZを独自に高いレベルまで理解し、確信
を得て、自分の配下にあるさまざまな活動を組織し、また、彼らのトップマネジメントから承認を得るように説得し、闘っている。(これらの種類の努力は、草
の根方式で働いているキーパーソンたちも同様にやっていることである。どれだけの承認、支援、権威付けを、直接の上司やトップから獲得できるかが違うだけ
である。)
そこで、これらのケースは、米国/欧州/韓国などのセンスの「トップダウン」方式とは異なり、「ミドル-トップ-ダウン」とでも呼ぶべきもので、日本企業
において特に適していることが知られている。中間にいるキーパーソンの地位が高ければ高いほど、(TRIZであれ何であれ)
推進はより効率的で、強力で、成功しやすい。このようなやり方の推進/普及がいくつかの大企業で起きると、他の企業がそれに追随することが多い。この意味
でも、日本におけるTRIZは、「着実な導入戦略」が適した新しい段階の初めに到達したといえる。
この新しい段階を成功させるためには、TRIZ方法論を、アクセスしやすく、企業の実
問題に適用して効果的なように、提供することが最も重要である。そこで、優れた教科書、入門の解説記事、問題解決のやさしいプロセス
(すなわち、考える方法)、そして知識ベースの使いやすいソフトウェアツールが、(新しい世代の)
TRIZに必須のセットになる。これらが、本稿で提案しているTRIZを導入する「着実な戦略」において、われわれが提供しそして使うべき必須の構成要素
の組なのである。
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注1) (英) は英文で記述、(和)
は和文での記述を示す。
最終更新日 :
2004. 8.26 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp