TRIZ/USIT論文
USIT解決策生成法の使い方
-- TRIZを簡易化・統合化したシステム
 中川 徹 (大阪学院大学),
 古謝秀明・三原祐治 (富士写真フィルム) , 
  2002年 12月25日
 TRIZCON2003投稿論文:   第5回Altshuller Institute TRIZ国際会議,  2003年 3月16-18日, フィラデルフィア, ペンシルバニア州, 米国 ; 訳 2003年 1月 3日   [掲載:  2003. 1.22 ]
   [英文論文を掲載: 2003. 4. 3]
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編集ノート (中川  徹, 2003年 1月22日)

この論文は, 標記のように今年の3月に米国で開かれる予定のTRIZCON2003国際会議に投稿した英文論文の和訳です。英文は12月25日に原稿完成, 和訳は1月3日に原稿完成ですが, 社外発表許可を得て投稿し, また本日和訳掲載が可能になりました。

この論文は, 昨年秋のETRIA国際会議 (TRIZ Future 2002) で発表したわれわれ 3名連名の論文をさらに発展させたものです。どんな技術システムでも, 拡大発展の時期には機能・効用を増大させる反面で複雑性の増大が進みます。これがあるレベルに達すると, 自分自身の複雑さのために効用・普及が阻害されるという矛盾が顕れます。そこで, 複雑性を減少させ, それでいていままでの機能・効用を実現するような方法が必要になり, 「簡易化と統合化」によって新しい段階の発展が始まります (これは, いわゆる「軽薄短小」をTRIZで理論的に理解したものです)。TRIZ自身も同じ状況にある, 「TRIZ自身の簡易化と統合化」が必要なのだというのが, 本論文の前半で説明していることです。

そして, 論文の後半には, 上記論文の付録として昨年9月に発表した「USITの解決策生成法の体系」の具体的な使い方の例を示しました。「額縁掛けの問題」という分かりやすい問題で, USITの方法を一つ一つ適用していくやり方とその結果を示し, その有効性を実証することができました。自分自身でも, 「ああ, こうすれば確実にそして多数のよいアイデアが創れていくのだ」と実感した次第です。TRIZの学習の初期に中川自身がそのような実感を持ったのは, 1997年12月にフォード社の事例を読んだ時でした。そのとき, 「そうだ!このようにやればよいのだ!」と書きました。いまは, USITを利用して, もっと確実に問題を分析でき, もっと確実にアイデアが出せる, そしてその方法を明快に説明できる, と言えるようになりました。

また, このようにTRIZ/USITを使う方法がはっきりしてきましたので, 日本におけるTRIZ/USITの企業への導入も新しいやり方ができるようになってきたと考えています。本論文では富士写真フィルム株式会社におけるTRIZ/USITの導入のしかたを紹介しており, ゆっくりだけれども着実に定着してきています。これは, いままで中川が提唱していた「漸進的導入」 (Slow-but-Steady Strategy) に沿うものです。このような地道な活動とTRIZ/USITの理解の進展をバックにして, これからはもう一歩進んだ形態の「着実な導入」 (Steady Strategy) が可能になってきたと思います。この点についてはまた改めて書きたいと思っています。

著者,所属機関,および連絡先は以下のようです。
      著者:    中川  徹  (大阪学院大学)    E-mail: nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp
              古謝 秀明  (富士写真フィルム株式会社, 足柄工場) E−mail: hkosha@ashi.seigi.fujifilm.co.jp
              三原  祐治  (富士写真フィルム株式会社, 足柄研究所)   E−mail: yuuji_mihara@fujifilm.co.jp
   所属機関: 大阪学院大学 (大阪府吹田市)   公式ホームページ:  http://www.osaka-gu.ac.jp/
                         富士写真フィルム株式会社 (本社: 東京都港区)  ホームページ:  http://www.fujifilm.co.jp/

 [追記 (中川, 2003. 4. 3):  英文論文を掲載しました。]
 

本ページ先頭 0.要約, 1. はじめに 2. TRIZからUSITへの集約 3. USITの問題解決手順 4. 企業での適用 参考文献 英文論文

 
中川 ETRIA2001
TRIZの簡易化の必要
中川 TRIZCON2002
USITの詳細
中川他 ETRIA2002
TRIZからUSITへ再整理
中川他 2002
USIT解決策生成法
英文論文




 

要約

著者らはTRIZの解決策生成法の全体 (発明原理, 発明標準解, 進化のトレンド, および分離原理を含む) を再整理して, USIT (統合的構造化発明思考法) の枠組みで統合した。USITの解決策生成法は 5種だけである。それらは, オブジェクトに対する複数化, 属性に対する次元的変化, 機能に対する配置, 解決策の要素に対する組合せおよび一般化, という操作 (オペレータ) である。これらの操作のそれぞれは, いくつかの変法をもっているが, 明確な指針が記述されており, TRIZのノウハウによって強化されている。よって, USITの解決策生成法は, TRIZ方法論全体の簡易で統合化された体系を成す。それらを有効に使うには, 問題解決者は問題定義および問題分析の段階で, 問題とするシステムのメカニズムに対して, 空間と時間およびオブジェクト-属性-機能というUSITの基本概念に基づき, 明確な理解を予め作り上げるべきである。この方式を用いて, われわれはさまざまの技術的問題にUSITを適用してきた。その利用法を「額縁掛けの問題」について例示する。また, 一つの日本企業におけるTRIZ/USITの推進と適用の経験を記述する。
1.  はじめに

TRIZ(発明問題解決の理論) [1-5] を, 企業にもっと受け入れやすくかつ有効にするために, 著者たちはつぎの諸点を主張してきた [6-10]

これら3点はすべて同じことを言っている。
ほぼ50年に渡って蓄積されてきた, TRIZの問題解決技法や知識ベースの豊富さが, TRIZの強みであると, 伝統的に信じられてきた。その中には, 40の発明原理, アルトシュラーの矛盾マトリックス, 物理や化学の「効果」, 物質-場分析法, 76の発明標準解, ARIZの手順, 技術システムの進化のトレンド, などがある。これらの一つ一つがハンドブックのようになっている。そのため, TRIZの訓練とは, これらの技法や知識のすべてを繰り返し教えて, それらを暗記してマスターするか, あるいは少なくとも, ハンドブックやソフトウェアツールを手元に置いて, それらの技法を使えるようにする, ことであると考えられてきた。この方式の訓練はロシアでは有効であった。そこでは, 学生たちが大学院レベルの2年間の課程で自発的に学んだ。

しかしながら, 1990年代にTRIZが世界に広がって以来, そのような長期の訓練は, 企業には受け入れられなかった。企業における技術者たちや経営者たちは, どんなに良い方法でも, もっと短期間で習得できることを望んだ。伝統的なTRIZの導入部分あるいは簡単な要約を, 短期間 (例えば 3日間) のセミナーで教えると, 学生たちはTRIZのエッセンスをまだ理解できず, 新しい方法を自分で適用する自信がなく, ときにはTRIZにむしろ懐疑的になった。このような状況が現段階のTRIZ推進の最も普通のケースであると思われる。

もっと短期間で有意義なTRIZの訓練をするために, TRIZ推進者がしなければならないことは, 教えるべきTRIZのエッセンスを抽出し, 企業の実問題に適用できるように問題解決手順を組み立て直すことである。これは通常「簡易化」と呼ばれ, TRIZ推進者たちの一部は, そのようなアイデアを, 「情報の損失」 (あるいは, 「力の損失」, 「豊富さの損失」, 「先進性の損失」など) の理由で拒否している。

しかしながら, 技術システムの進化のトレンドにおけるTRIZの最も重要な発見が「技術システムの集約 (convolution)」であったことを, われわれは思い出すべきである。TRIZ自身を対象技術システムとして, サラマトフの教科書 [文献2, 154頁] の下記の記述を読んでみてほしい。

『... その一番初期から, システムはその主有用機能を増大させるように進み, 単純性を犠牲にして多数の補助下位システムを ”選び取る”。これは技術システムの発展期 (expansion period) である。
  その後, 進化はシステムの物理的, 経済的, 生態学的な複雑さに関して客観的な制約に直面し, そこで技術システムの集約期 (convolution period) が始まる。[技術システムの集約過程は] 表面的には簡素化のように見える。だが, 実際には, それまでの段階で得られ, 補助的な下位システムにより実行されてきた有用機能が, “知的な” (理想的な) 物質により提供され始めることである。...』
この意味において, 伝統的なやり方 (すなむち, 拡大と複雑さの増大を伴う発展) でのTRIZの進化が, いまや, 学習と適用の複雑さの制約に直面している。かくて,TRIZの集約が始まる。それは, 表面的には簡易化のように見えるが, 実際には, いままでに獲得され, さまざまの下位技法として実行されていたTRIZの有用機能が, 新世代のTRIZのより知的な一つの方法として提供されるのである。

歴史的に, TRIZの簡易化は, 1980年代にイスラエルでGenedy Filkovsky がSIT (体系的発明思考法) を作ったときに始まった。(SITは現在ではASIT (高度構造化発明思考法) という名前で推進されている [12]。) そして, 1995年にEd Sickafus   がフォード社でSITを採用してUSIT (統合的構造化発明思考法) を開発し, さらに問題解決手順の全体を「オブジェクト-属性-機能」の概念で統合した [13]

本論文の著者らは, この線に沿って最近 4編の論文を発表してきた。中川は [7] で, TRIZの簡易化の必要性を議論し, 「50語によるTRIZのエッセンス」を提示し, 簡易化された手順としてUSITの有用性を例示した。文献 [8] は初心者向けのTRIZの短い紹介である。USITを学び実問題に適用するための, 現在の改良法を詳細に述べたのが [9] である。そして, [10] では, TRIZの解決策生成法の全体を再整理して, USITの簡単な 5種の方法にまとめた。

本論文では, TRIZがどのように「集約」(すなわち, 簡易化と統合化) されて現在の改良した形のUSITになったか, そして, USITの学習と適用がいかに容易にできるかを, 説明しよう。

 

2.  TRIZはどのように集約されてUSITになったか?

2.1  USITの枠組み

USITは, 企業の実際の状況の中で技術分野の問題を創造的に解決するための手順として, Sickafus が開発した [13]。問題解決者たちがそれぞれの専門分野での工学的な訓練を受けた技術者たちであると前提して, Sickafusが最も重点をおいたのが, 問題の根本原因に焦点を絞ること, システムのメカニズムについての洞察を得ること, そして, 壁を打ち破る解決策を思いつくための新しい観点を作ること, であった。USITの枠組みはつぎのように特徴づけられる。

(a) 問題の焦点:  問題解決の最初の段階で, USITは問題解決者に自分の問題を簡潔・明瞭に記述するように強制する。明瞭な問題定義の一文, 概念的なスケッチ, 考えられる根本原因の記述文, および最小限の関連オブジェクト群, という一組で問題を明瞭に定義しなければならない。

(b) 問題解決手順の 3段階:  問題解決手順の全体が, 直列的な 3段階で構成される。すなわち, 問題定義, 問題分析, および解決策生成の 3段階である。それらの各段階では, 明瞭な指針に従い, ステップごとに進んでいけばよい。(一方, 伝統的なTRIZでは, 分析と解決策生成のプロセスが, 並列で分離した複数ルートからできていることに, 注意すべきである。「TRIZツール群の直列化」が, HoneywellのLarry Ball による『ブレークスルー思考 (Breakthrough Thinking)』[14] での新しい戦略である。)

(c) 「オブジェクト-属性-機能」の基本概念:  技術システムのメカニズムを理解するためには, 機能分析 (すなわち, オブジェクト間の機能的関係の分析) が, TRIZだけでなくVEやその他の多く方法で, 広く使われている。一方, 属性 (すなわち, オブジェクトの性質) の分析はTRIZでは弱い。USITはシステムのメカニズムを理解するための基本要素の一つとして, 属性を導入した。「オブジェクト-属性-機能」の基本概念が, USITの問題解決の全手順を通じて統一的に使われている。

(d) 空間と時間:  空間および時間に関する特性は, システムのメカニズムを分析し, 解決策を見出すためにいつも必要で望ましい, もう一つの側面である。

(e) 概念化, 一般化, および理想性:  USITでは, 概念レベルで考え, 一般化した視野で考えることを常に奨励する。これは, 心理的惰性を破り, より深い洞察とより広いアイデアを獲得するための方法である。具体的/技術的な用語を中立的/総称的な用語で置き替えることにより, ありきたりの思考から解放されて, より広い視野を獲得できる。USITはアルトシュラーの「小さな賢人たちのモデリング」を採用して, Particles法に改良し, 理想のイメージをまず作り, それからいくつかの実現可能な解決策コンセプトを導く具体的な手順を作り上げた。

(f) 解決策生成のオペレータ:  USITは強力な解決策生成法を持っている。特に, 改良された現在の形では, それらは解決策生成のオペレータの体系であるとみなせる。これらの各オペレータは, オブジェクト, 属性, 機能, 解決策, および解決策の対のどれか一つに適用できる。適用するたびに, なんらかの新しいアイデアに導くような, 意味のある示唆が問題解決者に与えられる。よって, システム中のさまざまの操作対象に対してこれらのオペレータを繰り返し適用することにより, 多数の解決策コンセプトを生成できる。

(f) 一歩一歩進む生産的な手順:  USITの全手順を, 図1のフローチャートに示す。各プロセスの指針は明快であり, 容易に学んで記憶できる。これらのプロセスをたどって一歩一歩進むことにより, 問題解決者たちは, 複数の解決策を必ず生成できる。そのような解決策の質は, USITのスキルだけでなく, 問題解決者の科学的/技術的な素養とともに向上する。だから, 知識ベースの利用によって, 解決策を強化する可能性が存在する。

図1:  USITにおける問題解決手順のフローチャート





2.2  解決策生成法におけるTRIZからUSITへの再構築

最近のETRIA2002国際会議の論文 [10] において, われわれはTRIZの解決策生成法の全体を再整理して, USITにまとめなおした。これは, TRIZからUSITへの集約の最近のフェーズである。その集約の仕事は, イスラエルで始まり, Sickafusが大部分を成し遂げ, われわれが改良した。ここには, TRIZからUSITへの集約について, まず最初に最も明瞭な解決策生成段階について記述し, その後, 問題分析段階, そして問題定義段階について記述する。

われわれはTRIZ文献として, Darrell Mannによる新しい教科書 [5] を用いた。表1にMannの体系でのTRIZツール群を示す。しかしながら, USITの観点からは, これらのツール群は, 表1の右欄に示すように再グループ化する必要がある。

表1.  Mann [5] におけるTRIZツール群と, USITの観点からの再整理

Mann [5]におけるTRIZツール群  USITの観点からの再グループ化
[問題解決の段階]
フェーズ  TRIZツール群 [章の表題]
問題の定義  3. 心理学  1. 問題定義 (予備的)
 4. システムオペレータ (9-画面法)  1. 問題定義 (予備的)
 5. 問題/機会探索  1. 問題定義
 6. 機能/属性分析  2. 問題分析
 7. S-カーブ分析  1. 問題定義 (予備的)
 8. 窮極の理想解  2. 問題分析
ツールの選択  9. ツールの選択        -- USITでは不要
問題の解決   10. 技術的矛盾/
         発明原理
 2. 問題分析/
 3. 解決策生成
 11. 物理的矛盾/
         (分離原理) 
 2. 問題分析/
 3. 解決策生成
 12. 物質-場分析/
         発明標準解
 2. 問題分析/
 3. 解決策生成
 13. 技術進化のトレンド   2. 問題分析/
 3. 解決策生成
 14. 資源  3. 解決策生成
         (支援するための知識)
 15. 知識/「効果」  3. 解決策生成
         (支援するための知識)
 16. ARIZ  2. 問題分析/
 3. 解決策生成
 17. トリミング  3. 解決策生成
 18. 窮極の理想解  2. 問題分析/
 3. 解決策生成
 19. 心理的惰性のツール  3. 解決策生成
 20. 破壊分析  2. 問題分析/
 3. 解決策生成
解決策の評価  21. 解決策の評価  3. 解決策生成/ USIT以後

 (USITでいう) 解決策生成段階においては, TRIZが 3つの最も重要な方法 (あるいは 3種の方法集) を持っていることが分かる。すなわち, 40の発明原理, 76の発明標準解, そして技術システムの進化のトレンドである。われわれはこれらの 3方法集のすべての個別の方法 (サブメソッド) を一つ一つ検討し, USITの方法 (サブメソッド) に1対n の方式で写像し, さらに, USITの解決策生成法として一つの階層的な体系を成すように再整理した。解決策生成段階でのTRIZのあと 3つの個別の方法 (すなわち, 分離原理, トリミング, および窮極の理想解の利用 (あるいは, 「セルフ-X」原理) ) についても検討して, USITの方法の中に適切な位置を見出した。

表2はこのようにして得られたUSITの解決策生成法 [10, 11] を表した 1ページの備忘メモである。「オブジェクト-属性-機能」という統一的な概念を基礎にして, USITの解法の最初の3種は, オブジェクトに対する複数化, 属性に対する次元変化, および機能に対する配置のオペレータ群である。USITの第4の解法は解決策の対に適用する組合せのオペレータである。空間および時間についてのシステム特性は, これらの4種の解法のすべてでフルに活用できる。USITの第5解法, すなわち, 解決策一般化法は, 概念的な解決策空間を十分に探索すること, また, 可能性のある解決策の階層的体系を作り上げることを保証する。このようにして, TRIZの解決策生成法の全体は, いまやUSITの明瞭なオペレータの体系に集約された。USITの各解法 (サブメソッド) は, 適用のための簡単で有効な指針を持ち, 関連するTRIZのサブメソッドへの参照が与えられている [11]

表2.  USITの解決策生成技法  (備忘メモ/掲示用)

1)  オブジェクト複数化法
  a. 消去する
  b. 多数 (2, 3, ... , ∞個) に 
  c. 分割 (1/2, 1/3, ... 1/∞ ずつ) 
  d. 複数をまとめて一つに 
  e. 新規導入/変容 
  f. 環境から導入
  g.  固体から, 粉体, 液体, 気体 へ

2) 属性次元法
  a.   有害属性を使わない 
  b.  有用な属性を使う 
  c.  有用を強調, 有害を抑制 
  d.  空間属性を導入, 
           属性(値)を空間変化
  e.  時間属性を導入, 
           属性(値)を時間変化 
  f.  相を変える, 内部構造を変える
  g.  ミクロレベルの属性
  h.  システム全体の性質・機能

3) 機能配置法
  a.  機能を別オブジェクトに
  b.  複合機能を分割、分担
  c.  二つの機能を統合
  d.  新機能を導入
  e.  機能を空間的変化, 移動/振動
  f.  機能を時間的に変化
  g.  検出・測定の機能
  h.  適応・調整・制御の機能 
  i.  別の物理原理で

4)  解決策組み合わせ法
  a.  機能的に 組み合わせる 
  b.  空間的に 
  c.  時間的に
  d.  構造的に
  e.  原理レベルで 
  f.   スーパーシステムに移行

5) 解決策一般化法
  a.  用語の一般化と具体化
  b.  解決策の階層的な体系

2.3  問題分析段階に対するTRIZからUSITへの集約

TRIZからUSITへの集約の関係は, 問題分析段階に対しては比較的明瞭であり, 図2に示したようである。問題分析段階におけるUSITの設計の基本意図は, オブジェクト, 属性, 機能, および空間と時間を用いて, システムおよび問題のメカニズムを明らかにすることである。

図2.  問題分析段階に対するTRIZからUSITへの集約





伝統的なTRIZにおける問題分析ツールの主要なものが「物質-場分析」である。そこでは, ただ二つの物質 (すなわち, USITでのオブジェクト) とその間の機能とに焦点を絞って考える。USITでは, 機能分析は閉世界ダイアグラム法として定式化されており, オブジェクトを二つに制限することをやめ, 複数の重要なオブジェクト群の間の関係を一緒に考えることができる。問題分析者は, 関連するオブジェクト間の諸機能を, 特にそのシステムの本来の設計意図に沿って, 明らかにするように導かれる。

属性の概念は伝統的なTRIZではあまり強くない。そこでは, 技術的矛盾を同定し, 矛盾マトリックスを使うことが, 属性について考える方法である。しかしながら, 矛盾マトリックスを使うためには, 問題分析者は, 性質の諸カテゴリを予め指定された39種の標準パラメタの枠組みで表すように訓練され, もっと意味のあるやり方で関連する属性を検討することがない。一方USITにおいては, 定性変化グラフを作る過程において, 問題とする効果と増大関係または減少関係にある諸属性をできるだけ多く列挙するように, 問題分析者は要求される。これによってわれわれは, 関連するオブジェクトのさまざまな属性の用語で問題の根本原因を分析し,問題の効果を増強あるいは抑制するいろいろな可能性を, 広い視野で明らかにできる。(TRIZで) 矛盾マトリックスを使うときには, 対立関係にある二つの属性を見つけるように導かれる。しかし, USITでは, 諸属性と問題とする効果との関係を考え, よりまっすぐなやり方でブレークスルーの解決策を見出すように導かれる。SickafusのOAFダイアグラムは, これらの属性を用いて諸機能を記述するツールである。

空間と時間はシステムにおいて重要な要因である。ARIZの初期ステップで, 作用空間 (Operational Space) および作用時間 (Operational Time) を指定する。USITには, 簡単なグラフを描いて, 空間および時間におけるシステムの特性を明らかにするための過程がある。

理想性と技術進化の方向とは, TRIZにおける重要な概念であるけれども, 問題とする具体的なシステムについて, それらを明らかにする (あるいは分析する) (短時間での) 方法は, TRIZではまだ明瞭でない。「小さな賢人たちによるモデリング」が, 感情移入を用いて理想的解決策のイメージを作るためのアルトシュラーの技法である。USITはこの方法を「Particles 法」という名で用い, さらに論理的なAND/ORツリーダイアグラムを導入して, そのエージェント (すなわち, Particles) によって具体化したい行動と性質とを分析するように拡張した。
 

2.4  問題定義段階に対するTRIZからUSITへの集約

問題定義段階においては, TRIZからUSITへの集約関係はあまり明瞭でなく, 図3に示したようである。問題定義段階でのTRIZツール群は, [5] に示されているように, 焦点を絞っていない, 一般用途の導入ツール群からなっている。その一方, USITは, 解くべき問題に鋭く焦点を絞ろうとする一つの方法からなっている。
 
 

図3.  問題定義段階に対するTRIZからUSITへの集約





TRIZにおける心理的惰性を避けるための諸方法は, USITにおいては一般化原理 (すなわち, Sickafus [13] の「総称化 (Generification)」) に最もよく採用されており, それはUSITの全手順の土台になっている。問題宣言文においても, オブジェクトの名前においても, 特定の具体的な名前の代わりに, 総称的な用語を用いることが薦められている。

TRIZの9-画面法 (すなわちシステムオペレータ) は, USITでは陽に使われていない。しかし, システムの概念とシステムの階層性の概念はUSITではフルに使っている。9-画面法の時間的進化の部分は, あまり直接的でないので, 予備的な討論で使う可能性がある以外はUSITでは使わない。S-カーブ分析も同じ意味でUSITでは使っていない。

問題/機会探索が, この段階に対して [5] に記載されている中の主要プロセスである。その4つの構成要素のすべてが, 対応するものをUSIT中に持っている (図3に示す)。利益分析は, 問題宣言文を設定するための討論の一部を成すべきである。資源 (リソース) の同定は, 最小限のオブジェクト群を列挙するときに行う。制約および「問題点」は, 考えられる根本原因を見つける過程で明確化する。

これらのTRIZツール群に比べると, 問題定義段階におけるUSITのプロセスは, ずっと明確な目標と指針を持っている。目標は, USITで解決しようとする問題を定義する (すなわち, 特定する) ことである。問題を (利益分析におけるように) 「問題の階層的体系」の中で考え, また, 「技術システムの階層の中における一つのシステム」として考えて, 解決すべき問題を1, 2行の明確な宣言文により定義する。USITはシステムおよび問題のメカニズムを理解することに重点を置くので, 概念的なスケッチを描き, (技術的な基礎の上で) 「考えられる根本原因」を明確に述べることを, 問題解決者に要求する。「最小限のオブジェクト群」を列挙することは, つぎの段階 (すなわち, 問題分析段階) においてさらに分析するための基礎である。

 

3.  USITの問題解決手順

TRIZの解決策生成法を再整理し, USITにまとめ直したわれわれの最近の研究の結果として, USIT手順の枠組みは変わらずに, その解決策生成段階がずっと強化された。また, 問題定義および問題分析段階における個々のステップの意味と重要性が一層明瞭になった。それらはすべて, 問題とシステムのメカニズムを, オブジェクト-属性-機能, 空間と時間, および理想性の概念を使って理解する基礎を作ることであり, それは解決策生成段階でブレークスルーのアイデアを創り出すことを目的としている。

USITの手順は, 図1のフローチャートに図示し, 文献 [9] に詳細に記述している。USITの利用法を例示するために, 「額縁掛けの問題」をここに再び使おう。この問題は, Sickafus の教科書[13] に記述され, さらに詳しく [9, 15] で議論したものである。

3.1  USITにおける問題定義と問題分析段階

このケースにおける問題宣言文は, 「絵を掛けるための, 釘と紐と二つのフックからなる現在のシステムを改良して, 絵が傾かないようにせよ」である。(USITでの機能分析である) 「閉世界ダイアグラム」を図4に示した。本問題にとっての主たる機能群を図に実線で示し, 一方, 補助的な機能群を破線で示した。この問題において, フック, 紐, および釘の主機能が, 額縁の荷重を支えることではなく, 額縁を正しく配置することである点に注意されたい。

図4.  USITにおける機能分析 (額縁掛けの問題)

図5の「定性変化グラフ」では, 額縁の傾きやすさと増大関係あるいは減少関係にある諸属性を列挙している。問題の根本原因に関係しているすべての属性, および, 問題を防止/抑制する可能性のある諸属性が, これらのグラフに効果的に持ち込まれ, 明確な考慮の対象となっていることに, 注意すべきである。

図5.  USITにおける属性分析 (額縁掛けの問題)





3.2  USITにおける解決策生成段階

このシステムでのオブジェクト-属性-機能をこのように理解した上で, 表2に示した解決策生成法を繰り返し適用した結果, いままで知られていたものに加えて, 多数の新しい解決策のアイデアを得た。例として, (オブジェクト複数化法の) サブメソッド1c (すなわち, 「オブジェクトを分割する」方法) を諸オブジェクトに一つ一つ適用した結果を表3に示す。この方法の指針に従い, 表に示したように, 多数のアイデアを能率よく生成できた。

表3.  オブジェクト複数化法 (サブメソッド 1c) を適用した結果

方法/サブメソッド:  (1) オブジェクト複数化法
  (1c) そのオブジェクトを, 分割 (1/2, 1/3, ..., 1/∞ ずつに) する
指針: 現在のオブジェクトを複数の部分に(1/2, 1/3, ..., 1/∞ ずつに) 分割し, 分割した部分部分に (少しずつ, 互いに異なる)変更を加えて, 再統合して一緒に用いる。
適用結果:
  釘オブジェクトに適用:
(1) 釘の半分の部分を調節のために滑りやすくし, 他の半分を滑らずに保持できるようにざらざらにする。
(2) 釘の長さの半分にゴムの筒をかぶせて, 紐を保持している間に滑らないようにする。
(3) 釘にスリットを作っておき, 額縁の配置を調節した後に紐をそのスリットにしっかりと止める。
  紐オブジェクトに適用: (1) 紐を (2本の) 縒り紐 (または 3つ編み紐) とし, 釘を縒った紐の間にセットする。
(2) 紐を半分ずつに切り, その相対的な長さを調節した後に釘に縛りつける。
(3) 紐の中程に, ゴムの筒のような, 軟らかくて粘着性のあるものをセットし, 額縁を保持している間に紐が釘上で滑らないようにする。
  フック・オブジェクトに適用:  (1) フックの上部を調節可能にして, その有効位置を調節する。
(2) フックの上部を調節可能にして, その有効位置を調節し, さらにネジを設けて, その位置で固定できるようにする。
  額縁オブジェクトに適用: (1)  額縁の一部をその背面で水平に (左右に) 動かして, 重心の位置を調節できるようにする。

同様に, 表4と表5に, サブメソッド2e および3aの適用結果をそれぞれ例として示す。USITのさまざまの異なる方法を繰り返し使うことにより, 多数のアイデアを生成できるが, そのうちのいくつかは同じものになることに注意されたい。この事実は, 冗長だから欠点であるとみなすべきではなく, むしろ, 多数の重要な解決策をさまざまの観点から確実に生成できる長所であるとみなすべきである。文献 [9] で議論したように, 「Sickafusの釘」(すなわち, 釘の半分の表面を滑らかにし, 他の半分を粗くする) のアイデアは, USITの異なる 4解法およびTRIZの分離原理の適用結果であるとしてそれぞれに説明できる。

表4.  属性次元法の適用結果 (サブメソッド 2e)

解法/サブメソッド:  (2) 属性次元法
  (2e) 時間に関する属性を導入・拡張し, また, (有害/有用な) 属性およびその値を, 時間的に配置/変化させる。
指針:  システムの動作段階, 処理時間, 時間周期などの時間に関する諸属性を導入・拡張し, また, それらに応じて, ある時と別の時とで, 異なる属性を活性化したり, 属性の値を変化させたりする。
適用の結果:
  釘オブジェクトの属性に適用: 
(1) 釘の表面の摩擦を時間によって変化させる。調節している間は摩擦を小さくし, 調節後, 保持している間は摩擦を大きく, あるいは粘着/固着させる。例えば, 接着剤を用いて, 紐を固定あるいは強く貼り付ける。
(2) 調節の後で, 釘は紐をしっかりと保持する属性を持つ。例えば, 一種のクリップを使う。
(3) 釘を大きくして, 紐を調節した後で, ネジを使って紐をしっかり止めるようなしくみを組み込む。
  紐オブジェクトの属性に適用:  (1) 紐を釘の周りに一周させ, 調節後紐が固まるようにする。紐に何らかの液体をつけ, その液体が後で固化する。固化したものはそれほど強くなくてよく, 必要ならいつでも壊すことができる。
(2) 釘のところで, 紐にプラスチックの材料をつける。調節時には, プラスチックを温めて軟らかくしておき, その後は室温で固くなる。
(3) 紐の厚み (または径) を調節時には (例えば, 予め指で押さえて) 小さくしておき, 調節後 (例えば, 放置すると自然のサイズになって) 大きくなり, 紐が釘の細い溝で固定されるようにする。
  フックオブジェクトの属性に適用: (1) フックの位置が調節可能で, 調節後には, ネジで, 糊やワックスで, あるいはクリップなどで固定する。
額縁オブジェクトの属性に適用:  (1) 額縁の重心の位置を, 背面で重りを横に滑らせて調節可能にし, 調節後は, 重りを固定 (すなわち, もはや動かなく) する。
(2) 額縁の底辺を, 調節後に, 壁にくっつく (粘着する) ようにする。
(3) 額縁の底辺を, 調節後に, 壁に固定する (ネジで, 接着剤で, 磁石で, など)。

表5.  機能配置法の適用結果 (サブメソッド3a)

解法/サブメソッド:  (3) 機能配置法
  (3a) ある機能を, 別のオブジェクトに担わせる
指針:   既存の機能を, より適切な別のオブジェクト (既存または新規導入のもの) に移す。
適用結果:
  釘オブジェクトの機能に適用:
  (1) 釘の調節機能をフックに担わせる。釘には2本の紐をつけ, 紐の長さはフックのところで調節する。
(2) 釘の調節機能を紐に担わせる。釘には2本の紐をつけ, 紐の長さは紐に調節させる。紐には, バンド止めのような調節のしくみを備える。
  紐オブジェクトの機能に適用:  (1) 紐のぶら下げ機能をフックに担わせる。二つのフックが額縁を直接2本の釘にぶら下げ, 調節機能も持つ (例えば, その有効な長さ (垂直方向) を変える)。
  フックオブジェクトの機能に適用:  (1) フックがもつ荷重を支える機能を, 額縁に担わせる。額縁の裏面が壁にくっつき, 重さを支える。額縁の傾きは, それがくっつく直前に調節する。
  額縁オブジェクトの機能に適用: (1) 額縁が持つ額縁の傾きを示す機能を新しいオブジェクト(あるいはしくみ) に担わせる。水準器を額縁の上部に取り付け, 傾きを精密に表示させる。

解決策一般化法の指針は, このケースに対してもまた生産的であった。表6は解決策の階層的な体系をまとめたものであり, 本研究で新たに作り上げたものである。「額縁掛けの問題」に対する解決策空間の全体は, 釘, 紐, およびフックのそれぞれの個数によって特徴づけられ, 8タイプの解決策 (あるいは解決策領域) に分類できる。

表6.  額縁掛けの問題に対する解決策の階層的体系

タイプ
釘の数
紐の数
フックの数
  調節し, その後固定する属性
A
0
0
0
 ・ 額縁を乗せる棚の傾き
B
0
0
1
 ・ フックの位置 (水平)
C
1
0
0
 ・  額縁を支える位置 (水平)
D
2
0
0
 ・  釘の相対位置 (垂直)
E
1
1 (or 0)
1
 ・  フックの位置 (水平方向)
F
1
1
2
 ・  紐の相対的な長さ
 ・  フックの位置 (水平方向)
G
1
2
2
 ・  1本の紐の長さ
 ・  フックの位置 (水平方向)
H
2
2 (or 0)
2
 ・  1本の釘の位置 (垂直方向)
 ・  1本の紐 (またはフック) の長さ
 ・  フックの位置 (垂直方向)

 (この表の) 最初の 4種は極めて単純である。タイプAでは, 釘, 紐, フックを一切使わず, 絵の額縁は壁面の棚 (あるいは同様のもの) に置かれるだけである。タイプBでは一つのフックを使って額縁を直接壁に掛け, タイプCでは壁面につけた1本の釘に額縁を直接掛ける。これら二つのタイプでは, 額縁に対するフックまたは釘の水平位置を調節して, 正しい向きにバランスさせる。タイプDでは, 2本の釘を使うが, その中の1本の釘の垂直位置を調節する必要がある。

タイプEでは, 額縁は一つのフックを使って1本の釘に掛け (紐は使っても使わなくてもよい), 額縁上でのフックの水平位置を調節する。タイプFが典型的な (この問題の元の) ケースであり, 1本の紐を使って, 2つのフックのついた額縁を1本の釘に掛ける。われわれは紐の二つの部分の相対的な長さを調節するか, あるいは一つのフックの位置 (本質的には水平方向) を調節する必要がある。タイプGでは, 2本の紐を使い, 額縁の2つのフックを1本の (共通の) 釘に掛ける。一つの紐の長さ, あるいは, 一つのフックの水平位置が, われわれが調節すべき属性である。タイプHでは, 釘と紐とフックを組にして, 2組の分離したものを用いる (紐は使っても使わなくてもよい)。われわれが調節すべきものは, 釘, 紐, フックのうちのどれかの垂直位置 (あるいは長さ) であり, それを他方の組の対応する要素に対して調節する。

この問題のエッセンスは, 「表6の右欄に示した諸属性のうちのどれか一つを, 額縁を正しい位置に掛けるために, スムーズにかつ精密に調整し, そして, 調節後は, その同じ属性を調節した値のまま長期間固定し, 釘や壁からの振動, 風, 人の接触, などの外的な攪乱にも関わらず不変に保つ」ことであると分かった。そこでわれわれは, その属性の値をスムーズに変えて調節し, そして, 調節後には, その属性の値を意図的に固定し, その後望む限り長く維持するメカニズムを考え出すことが必要である。上記のようにわれわれは, USITの助けを得て, 関与する属性を明確にできたので, そのようなメカニズムを容易に考えることができるようになった。

 

4.  企業におけるUSITの利用

Ed Sickafus は, 何のために, またどのようにして, 1995年にフォード自動車社でUSITを開発したか [16], そして, 彼のUSITチームがどのように技術者たちを訓練し, 多数の実地の企業課題にUSITを適用して成功したか [17] を報告している。日本においては, 中川が1999年にUSITを導入し, 産業界と学界でUSITを教え, 適用することを試みてきている (文献 [7, 9] 参照)。ここには, 日本企業における先駆的な例として, 富士写真フィルム(株) におけるTRIZ/USITの推進活動の経験を報告する。

4.1  富士写真フィルム(株) におけるTRIZ/USITの推進

日本におけるTRIZ導入の極めて初期の段階で, 先駆的な技術者 中村 敬 が1996年にTRIZに興味を持ち, 矛盾マトリックスと40の発明原理を社内の100件以上の実地問題に適用して, その結果を同僚たちに示す活動をした。社内の人々は彼の才能に敬意を払ったけれども, TRIZに対してはまだ懐疑的であった。中村は1998年に退社せねばならなかった。

本稿の著者の古謝秀明と三原祐治は, それぞれ1997年と1998年に, 各種の記事, Web情報, セミナーなどを通じて, TRIZに関心を持ち, 独自に学習を始めた。1998年には, 三原が社内のTRIZ推進者 (ハーフタイム) に自発的になり, また, 古謝が別部門でTRIZに専念することを許された。USITについての中川の講義や3日間トレーニングセミナーに出席して, 古謝と三原はUSITの容易性と有効性を認識し, USITを中核に取り入れつつTRIZを共同で推進していくことを決めた。

まず最初にしたのは, できるだけ多くの技術者や管理者たちにTRIZを知ってもらうことであり, そのために, イントラネット上にTRIZのホームページを開設し, 古典的TRIZやUSITの外部講師による講演会を組織した。それから, マネジメントの承認を得て, 古典的TRIZの2日間トレーニングプログラムや, TechOptimizerの利用法の1日コース, また, TRIZ適用演習のための 3日間セミナーなどを設けた。

これらのセミナーの他に, 三原と古謝は, 実地問題にTRIZ/USITを適用する小規模なプロジェクトグループを複数組織した。さまざまの部門の技術者たちや管理者たちと話をして, 解決するのに適した問題と, 新しいTRIZ/USITの方法論を自分たちの問題に適用することに興味を持つ人々のグループを見つけていった。これらのプロジェクトでは, チームは2, 3週間の間隔を置いて, 数回集まり, USITのセッションを行う。USITのコース教材は, 中川の各種の記事を取り入れて作り, オンザジョブトレーニング (OJT) で実践的に教授した。TRIZのソフトウェアツール, すなわち TechOptimizerは, 大抵セッションの外で用い, また, セッション内で用いるときにも, デモの目的でリーダだけがツールを操作するようにした。

これらのプロジェクトの結果, われわれは12以上の問題をTRIZ/USITで解決することに成功し, 特許を申請し, また製品および製品プロセスに実装しつつある。その中の一つのケース, すなわち「(分析装置のために) 全血から血漿を分離するためのガラスフィルターの改良」の問題について, 2001年9月の第 2回日本IMユーザグループミーティングで発表した [18, 19]。このケースでは, 問題のシステムのメカニズムを (特に属性の観点から) 吟味する, USITの指針が有効であった。USITのセッション中に新たに認識されたのは, 「血球がガラス繊維で捉えられてそのままなのではなく, 流れに沿ってガラス繊維に捉えられては離れてまた捉えられることを繰り返している」ことであった。その結果, 大口径, 稠密, 薄手であったガラスフィルターを, 小口径, 低密度, 厚手 (パスに沿って長手) のものに変えた。それは, まさにクロマトグラフィの小さなカラムのようである。

富士写真フィルム(株) におけるTRIZ/USITの活動は, TRIZ/USITに興味を持ちその適用に関与する人々のグループを作り出してきた。約20名からなるTRIZ研究会を組織し, 社内で正式に活動を始めている。それらの人々を, 各部門でのTRIZ/USIT適用のキーパーソンに育つように, 奨励しているところである。
 

5.  結論

TRIZの簡易化と統合化の方向が, TRIZの進化の現段階では自然で必要であるを見出した。それはTRIZの「集約期」である。TRIZが旧ソ連で開発・樹立されたのち, 現在, 自分自身の複雑さのために, その普及の困難に直面している。TRIZを集約して, ずっと簡単で統合化した方法論にした一つのケースが, USITであることを示した。われわれはTRIZの解決策生成ツール群を, 明確なやり方でUSITの解法群に再整理した。また, 問題定義段階および問題分析段階においても, TRIZツール群からUSITへの集約関係を説明した。

USITの適用例を「額縁掛けの問題」について例示した。USIT解決策生成法の新しい体系が, 創造的アイデアを体系的に生成するのに有効であることを示した。さらに, 一つの日本企業におけるTRIZ/USITの推進活動において, 企業の実問題にTRIZ/USITを適用することの関心と能力が着実に成長していることを示した。

 

参考文献 1)

[1] Genrich S. Altshuller: "The Innovation Algorithm", Technical Innovation Center, Worcester, MA, USA, (1999) (E).

[2] Yuri Salamatov: "TRIZ: The Right Solution at the Right Time", Insytec, 1999 (E); 中川 徹監訳, 三菱総研訳: "超"発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」, 日経BP社刊, 2000年11月。[同出版案内と資料: TRIZホームページ, 2000年11月]

[3] Ideation International Inc., "Tools of Classical TRIZ", Southfield, MI, USA, (1999) (E).

[4] Semyon D. Savransky: "Engineering of Creativity: Introduction to TRIZ Methodology of Inventive Problem Solving", CRC Press, Boca Raton, FL, USA, (2000) (E).

[5] Darrell Mann: "Hands-On Systematic Innovation", CREAX Press, Ieper, Belgium, (2002) (E).

[6] 中川 徹編, 『TRIZホームページ』 (英文名: "TRIZ Home Page in Japan"), WWWサイト, URL: http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/ (日本語), http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/eTRIZ/ (英語)

[7] 中川 徹, 「TRIZのエッセンスをやさしいUSIT法で学び・適用する」, ETRIA 国際会議, TRIZ Future 2001, バース, 英国, 2001年11月7-9日; TRIZホームページ, 2001年11月 (E); 和訳: TRIZホームページ, 2001年8月 (J)

[8] 中川 徹, 「TRIZ(発明問題解決の理論)の紹介 - 創造的問題解決のための技術思想 -」, 日本創造学会第23回研究大会,2001年11月3-4日, 東洋大学; TRIZホームページ, 2001年11月 (J); 英訳: TRIZホームページ, 2002年1月

[9] 中川 徹, 「やさしいUSIT法を使ってTRIZのエッセンスを教え・適用した経験」, TRIZCON2002: 第4回Altshuller Institute TRIZ国際会議, 2002年 4月28-30日, セントルイス, ミズーリ州, 米国; TRIZホームページ, 2002年 5月 (E); 和訳: TRIZホームページ, 2002年 1月 (J)

[10] 中川 徹, 古謝秀明, 三原祐治:「TRIZの解決策生成諸技法を整理してUSITの5解法に単純化する」, ETRIA国際会議, TRIZ Future 2002, ストラスブール, フランス, 2002年11月6-8日; TRIZホームページ, 2002年11月(E); 和訳: TRIZホームページ, 2002年 9月(J)

[11] 中川 徹, 古謝秀明, 三原祐治:「USITの解決策生成技法 −TRIZの解決策生成諸技法を整理してUSITの5解法に単純化した」, ETRIA国際会議発表論文付録, TRIZ Future 2002, ストラスブール, フランス, 2002年11月6-8日; TRIZホームページ, 2002年11月 (E); 和訳: TRIZホームページ, 2002年 9月 (J)

[12] Roni Horowitz: "From TRIZ to ASIT in 4 Steps", TRIZ Journal, Aug. 2000; 中川  徹訳: 「イスラエルのSIT法とその利用(1) TRIZからASITへの 4ステップ」, TRIZホームページ, 2001年 9月

[13] Ed. N. Sickafus: "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent", NTELLECK, Grosse Ile, MI, USA, (1997).

[14] Larry Ball: 'Breakthrough Thinking: A Linear Sequencing of TRIZ Tools', TRIZ Journal, Mar. 2002.  [翻訳掲載 : 2003. 3. 5] 

[15] 中川 徹, Ed Sickafus: 「「額縁掛けの問題」への解説」, TRIZホームページ, 2001年7月(J); 英訳: TRIZホームページ, 2001年8月(E).

[16] Ed Sickafus: "A Rationale for Adopting SIT into a Corporate Training Program", TRIZCON99: First Symp. on TRIZ Methodology & Application,  March 1999, Novi, Michigan; 中川 徹訳: 「SITを企業研修プログラムに採用した論拠」, TRIZホームページ, 1999年5月

[17] Ed Sickafus: "Injecting Creative Thinking into Product Flow", First TRIZ International Conference, Nov. 1998, Industry Hills, California; 中川  徹訳: 「製品フローに創造的思考を注入する」, TRIZホームページ, 1999年1月

[18]  三原祐治: 「TRIZの社内展開の方法」, 第2回日本IMユーザグループミーティング, 2001年 9月12-14日, 滋賀県守山市; TRIZホームページ, 2001年11月

[19] 篠原 司: 「富士写,血液から血漿を抽出するフィルタを改善。フィルタを円盤形から細長に変えて血球を詰まらせない」, 日経メカニカル, 2001年11月号 (No. 566), pp. 72-73。

注1)  (E): 英文, (J): 和文.
 

著者について:

中川  徹:  現職: 大阪学院大学情報学部教授。1997年5月に初めてTRIZに接して以来, 当時在職中の富士通研究所においてTRIZの導入に努めた。1998年4月に現職の大学に移り, TRIZを日本の産業界と学界に導入することに努力している。1998年11月に公共的なWWWサイト『TRIZホームページ』を創設し,編集者を勤めている。特に最近は, TRIZのエッセンスをやさしく実現するUSITの普及を進めている。 -- 1963年に東京大学理学部化学科を卒業後, 同大学院博士課程で学び (1969年理学博士), 1967年に東京大学理学部化学教室助手。物理化学の研究, 特に, 高分解能分子分光学の分野で実験と解析を行った。1980年に富士通株式会社に入社し, 国際情報社会科学研究所にて, 情報科学の研究者として, ソフトウェア開発の品質向上の研究などに従事した。その後, 同研究所, さらに富士通研究所企画調査室において研究管理スタッフとして仕事をした。 E-mail: nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp

古謝 秀明:  1981年慶応大学大学院応用化学科修士過程修了, 同年富士写真フィルム株式会社に入社。磁気記録研究所で磁性体と無機添加剤の研究をし, 1989年より生産技術部でVE (Value Engineering)の推進を担当。1997年にTRIZ, 1999年にUSITを学び, 2000年に三原と共にUSITの社内トライアルプロジェクトの推進を開始した。現在までに20数件の社内USIT実地適用プロジェクトを指導した。Email: hkosha@ashi.seigi.fujifilm.co.jp

三原 祐治:  1946年生まれ, 1971年北海道大学大学院化学専攻修士課程修了, 同年富士写真フィルム株式会社に入社。同社足柄研究所にて, 感光材料の基礎研究, 商品開発を経て, 現在, LAN管理およびTRIZ/USITの普及を担当。TRIZを1998年に学び, 2000年に中川のUSIT3日間トレーニングセミナーでUSITを習得。2000年より, 社内でTRIZ/USITの適用プロジェクトを推進し, USIT教育を行う。また, 2000年と2002年に三菱総合研究所知識創造研究会創造手法分科会の主査を勤める。Email: yuuji_mihara@fujifilm.co.jp


 
 
本ページ先頭 0.要約, 1. はじめに 2. TRIZからUSITへの集約 3. USITの問題解決手順 4. 企業での適用 参考文献 英文論文

 
中川 ETRIA2001
TRIZの簡易化の必要
中川 TRIZCON2002
USITの詳細
中川他 ETRIA2002
TRIZからUSITへ再整理
中川他 2002
USIT解決策生成法
英文論文

 
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最終更新日 : 2003. 4. 3   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp