TRIZ論文 (翻訳) 
SITを企業研修プログラムに採用した論拠
     Ed Sickafus  (Ford Scientific Laboratory) 
    TRIZCON99: 第1回TRIZ方法論と応用シンポジウム
    1999年3月7-9日, デトロイト

  訳: 中川 徹 (大阪学院大学, 1999.3.20)
    (Altshuller Institute, および著者とFord Motor Co.の許可を得て, 翻訳し, 
     本ページに掲載 1999. 5. 8)

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訳者まえがき  ("TRIZ Home Page in Japan"  への和訳掲載にあたって, 中川 99. 5. 8)

本論文の原題および出典は以下のようである。

      A Rationale for Adopting SIT into a Corporate Training Program
       Ed Sickafus (Ford Scientific Laboratory)
       TRIZCON99:  First Symposium on TRIZ Methodology and Application
       Held by Altshuller Institute for TRIZ Studies
       on March 7-9, 1999 at Novi, Michigan, USA.

本論文の翻訳および本ホームページへの掲載については,
   The Altshuller Institute for TRIZ Studies の会長 Lev Shulyak氏, および
   著者 Dr. Ed Sickafus と Ford Motor Company
から,それぞれ電子メールにより許可を得た。快諾いただき感謝する。
(なお, 本ホームページを許可なく複製・転載することは禁じられている。)

Ford社のSIT法 (またはUSIT法) のアプローチについては, 訳者は非常に適切で重要
であると思う。 昨年の第1回TRIZ国際会議でのSickafus論文に引き続き, 今回のSickafus
論文もFord社へのSITの導入の考え方と実践を具体的・論理的に記述している。
翻訳して本ページに掲載することの許可をえることができたのは, 日本でのTRIZの普及
にとって喜ばしいことである。

Sickafusの論文は, 文章が簡潔で含蓄が多いので, 読者には読みにくいかもしれない。
一見あたりまえのように見えることを, もう一度問いなおして, 実はそうでないと言っている
ところがいろいろある。このような逆説的な論理の真実の意図を読み取っていただけると
幸いである (もちろん, 原文を読んで頂いて, 訳の不適切なところがあれば教えていただ
きたい)。文中の赤の太字は読者の便宜のために訳者がつけたものである。

なお, Dr. Sickafusが指導したUSIT研修セミナー (1999. 3.10-12)の参加報告(中川)を別ページに
掲載した。小生が理解したUSITの概要をも記述しているので, 本論文とともに参照されたい。



要約:

構造化発明思考法(Structured Inventive Thinking, SIT) は, 工学型の設計問題
に対する問題解決の方法論である。それは, イスラエルにおいて, TRIZ方法論を単純化し
使いやすくするプロジェクト中で開発された。その後, 著者によって1995年にFord  Motor
Co. に実験的訓練プログラムとして導入され, 企業プログラムにまで成長した。新しい問題
解決方法論に興味を持つに至った動機, SIT を選択した論拠, およびFordに導入したプロ
セスについて, 論じる。

1.  序論

SIT がFord  に持ち込まれたのは, 必要を認識した結果ではなかった。カリフォルニア大学
バークレイ校における方法論のデモンストレーションにおいて, その潜在的可能性が認識さ
れた。これが後にFordへの導入 (1995年) を導いた。言い換えると, 解決策が問題よりも先に
来たのである。

FordにおいてSIT は,問題解決の実験的コースとして始まったのであり, あらかじめ認識された
必要に対する対応として起こったのではなかった。草の根レベルで徐々に受け入れられてい
った結果, 経営者の好奇心を惹き, やがて, 経営者に指示された専門家チームが, フルタイム
で企業レベルの問題にその方法論を適用するにいたった。

Fordのための問題解決方法論を検討した動機, SIT を選択した論拠, およびSIT を社内に
導入したプロセスについて, 以下に論じる。

2.  動機

問題解決方法論を検討するという動機は, 1993年に, 「体系的発明思考法 (Systematic
Inventive Thinking, SIT) 」というイスラエルの方法に偶然に触れたことから始まった。カリフォ
ルニア大学バークレイ校におけるデモンストレーションに出席する機会があり, その方法の
強力な能力は直ちに明確になった。その結果, その一般的な受容度合いを探るために,
Ford研究所において, 1週間のSIT デモンストレーションコースを20人のFord技術者に教える
ことが行われた。講師がイスラエルに帰った後は, 不幸にも, 初心者が助言を求めたり, プロ
セスのより詳しい指導を求めたりできる社内のエキスパートは誰もいなかった。

その次に動機づけになったイベントが, その数ヶ月後にFordの旧Electronics Division (現
Visteon) において起こった。あるTRIZコンサルティング企業の粘り強いセールスの結果,
TRIZの概要の一日間デモンストレーションが, 40人の管理職レベルの人々に対して計画され
た。後になって, SIT デモンストレーションがFord研究所ですでに行われたことが判明した。
そして,どの方法論を選択すべきか, また, どのようにして導入すべきかを提案する課題が,
私に課された。

この当時 (1994年),  TRIZは米国では大部分がコンサルティングサービスの形でマーケッ
ティングされていた。そのやり方は,一人のコンサルタントまたはコンサルタントチームが,
企業と委託契約を結んで, 会社の建物にやってきて, 問題を学び, 会社のエキスパートから
技術的課題についての助言を受け, それから, 帰っていってTRIZ方法論を使って問題を
解く仕事をする。彼らの仕事が完成すると, 彼らは会社に再びやってきて, 彼らの報告書を
提出して, それを説明・弁明する。その報告書は,委託した問題に対する複数の解決策コン
セプトを含むという約束になっている。このプロセスはうまく機能すること, また, 関与する
TRIZ専門家 (通常は旧ソ連からの移住技術者たち) は非常に有能なエンジニアであること,
の証拠があった。しかしながら, このプロセスには,いくつかの欠点が見出された。その結果,
Fordにおいてどんなプログラムが現に提供されているのか, 最も効果的なプログラムにするに
はどうすればよいのか, を再検討する必要があった。

社内の複数の部所で機密情報の規制に関する (実際のものと想像上のものと両方の) 課題
が生じて, 外部のコンサルタントと能率的に仕事をすることに, 否定的なインパクトを与えた。
ある人々は, 機微な情報を保護する必要が協同プロセスを妨げていると感じた。また, ある
人々は, 社内の人間の中の技術的な知識ベースと, 社外コンサルタントの中のTRIZ知識
ベースとを分離することを認めるのが嫌だった。このため, 社内のエキスパートがTRIZ専門
家を訓練し, それから, 彼らが既に発見しているのと同じコンセプトのいくつかを含んだ報告書
を [TRIZコンサルタントたちが] 持って戻ってくるかどうかを見守る必要があった。少数の人々
は, コンサルタントの報告書の解決策のコンセプトが, しばしば関係のない通常でない効果を
含むことに関して, 強い懸念を表明した。その上, TRIZ専門家が去っていくときには,彼らは
その専門知識を持って帰ってしまった。訓練は一方向的であった。これらの観察の結果, 訓
練プログラムは, 社内のリソースを確立することを目的として, 社内の技術者をTRIZまたはSIT
で訓練するように, 開発することが決定された。そこで, 最初に決めるべきことは, どちらの方法
論を選択するかであった。

以前のSIT 社内デモンストレーションコースは, 良く受け入れられ, そのような方法論をす
みやかに適用することについてかなり有望であることを示していた。しかしながら, どの新し
い問題解決方法論についても, それを熱心に実践しようとする人に対して, 社内の専門家
が相談に乗る必要があることを, それは示していた。この必要は,  (SIT に対して) 英語で
の教科書がないため, 一層強調された。

3.  SITを選択した論拠

TRIZを簡単化して使いやすくする(simplify and streamline) プログラムの中でSIT を始め
たのだというイスラエルの人達の主張をまず検討することが必要であった。彼らは本当に,
学びやすく, 教えやすく, 適用しやすくすることに成功したのだろうか?

見てすぐに分かる成功は, TRIZの40以上の解決手法を, SIT では 4種に減少させたこと
である。それらは, 乗算 (Multiplication),  次元の増加 (Increased Dimensionality),  分割
(Division),  およびユニフィケーション(Unification) である。

つぎに顕著な修正は, Effects [自然科学の原理] や従来の知識に関する一切のデータベー
スの使用をやめたことであった。

これらの二つの変化が意味することは, より簡潔で記憶可能なシステムが可能になった
ことであり, 一人の技術者 (technologist) を, 補助的なシステムなしで運用できる, 自立し
た問題解決者とできることである。

TRIZの土台石, すなわち, Altshullerの技術的/ 物理的矛盾の同定と分離は, 消去され
なかった。その代わりに, それは, 解決策の探索を助ける特定の技法によって補佐された,
より単純なコンセプトとして表現された。すなわち, SIT のヒューリスティック (試行手順) の
一つである「定性変化グラフ(Qualitative-Change Graph)」を使って表現されている。そこ
では, 一つの問題特性, すなわち望ましくない効果, がシステムの従属パラメタに対してプ
ロットされる。このアプローチが実際に,共通のパラメタを介した二つの効果の矛盾を分離
する。さらに,これは分析者に発明的解決策のための二つの好機を提示する:  パラメタを
消去するか,あるいはそれを役立てるようにするかである。

TRIZのヒューリスティックな方法である物質−場分析は,他の方法(後述)を優先して,
除去した。

物質−場の最小技術システムは,SIT では選択したオブジェクトの「閉世界 (Closed
World)」によって置き替えられる。後続の分析や問題解決はすべてこの中に限定して行わ
れる。

二つのアルゴリズムがSIT に導入され, 問題解決への非常に異なるアプローチを許してい
る。「閉世界アルゴリズム (Closed-World Algorithm) 」と「Particles Method Algorithm
(粒子法アルゴリズム?)」とである。どちらの方法も一般にどんな問題にも利用可能であるが,
アルゴリズムの本来の性質からつぎのような言える。前者の方法は, 解決策があるがもっと
良い解決策を必要としているような問題に対する出発点として優れており, 後者の方法は,
解決策がまだ知られていない問題に対する出発点のアルゴリズムとして推奨される。
AltshullerのTRIZの「smart little men (賢い小人たち) 」が, Particles Methodの「magic
particles ( 魔法の粒子) 」として採用されている。

SIT の閉世界アルゴリズムは二つの補完的なヒューリスティックを持っている。閉世界ダイ
アグラム(Closed-World Diagram)が, 適切に機能しているシステムを, オブジェクト間の機能
的結合を通して見るみかたを探究する。そして, 定性変化グラフ (Qualitative-Change
Graph) が, うまく機能していないシステムのすべての特性を探す。

SIT のParticles Method Algorithmは, 簡単な図 (cartoon)を描いて, 問題状況から (TRIZ
のコンセプトである) 理想的解決策への, 図的遷移を使う。その図で, 遷移を保証するよう
な戦略的な位置に, 仮想的な粒子を配置する。ついで, その仮想的な粒子に必要とされる
行動と性質を同定するために, 論理的で直感的な「AND/OR Tree 」を構築する。この分析
においても矛盾が発見される。

どちらかのアルゴリズムを完成した後に, その結果に 4種の問題解決手法を適用する。

この比較の結果, 「TRIZの非常な単純化が達成され, 簡潔で, 記憶可能で, 直接的に
適用可能な, ヒューリスティックと問題解決手法のセットが得られた」ことの, 説得力のある
証拠が得られた。

しかし, それはより学びやすく, より教えやすいだろうか?

TRIZとSIT の両方を教えたことのあるインストラクタとして,  (われわれが) 同定でき接触で
きたのは, ただ一人, すなわちGenadi Filkovskyであった。彼はTRIZエキスパートで,
イスラエルでSIT プログラムを人であったため,  TRIZとSIT のメリットの比較について
(われわれは) 彼に意見を求めることはしなかった。

一つの方法が他の方法に比べて学びやすいだろうかという質問は, ある種のしっかりした
研究をしないで答えるにはやや複雑すぎる。なぜなら, もし両方の方法を学ぶなら, 二番
目のものを学習するプロセスは, 最初のものから利益を得るからである。

われわれは, 社外のTRIZコンサルタントと特定の問題を解決する委託契約をした例を,
Ford内でいくつか持っていた。だから, TRIZの生産物とその効率についてはいくらか知っ
ていた。しかし, SIT については, 当時そのような情報は全く得られなかった。これは, イス
ラエルの 3つの会社の代表にインタビューすることにより, 部分的に解決できた。それらの
会社は, 訓練を受けた技術者で, 会社での自分の問題にSIT を適用している人達を持っ
ていた。イスラエルのMotorola, イスラエルのIntel,  および  Scitexである。これらのインタ
ビューの結果は, SIT の有効性と, その方法論に対する技術者の受容に対して, 一貫して
高い評価を与えた。

このようにして, TRIZの単純化, SIT の (流れるような) 使いやすさ(streamlined nature),
独立・自立した問題解決者の可能性, および, 独立企業からの支持, がSIT を選択する
という決定に味方した。

4.  SITをFordに導入したプロセス

部門全体への (division-wide)  SIT 研修プログラムの提案書が作られ, 所長レベルでの
評価のために提示された。最初の応答は提案をほとんど振り出しに戻す(near set-back)
ものであった。所長は, つぎのようなchallenging な質問をした。「Fordは問題解決方法論
の開発と採用 (adopt)にすでに何百万ドルも費やしており, 研修施設の開発に時間と金を
掛けており, 問題解決法の社内コースがすでにいくつも利用可能である。これらのことを
考えたときに, なぜ, いまもう一つの方法を導入したいと思うのか? 」 この質問に刺激され
て, 適切な需要(niche-need)を特定し, SIT がいかにユニークにその需要を満たすかを
示すことを, 研究し始めた。

研究すべき最初の問いは, 「SIT が技術者に提供するもので, 他の問題解決方法論が提
供しないような, ユニークなものは何か? 」である。「SIT が与えるユニークな解決策」という
のは, 受け入れられる答えでないことが明らかであった。これは二つの理由から真である。
ひとつには,SIT が問題に対する答えを「与える」ことはない。実際, いかなる創造的問題
解決方法論も答えを与えはしない。分析者が解決策を発見しなければならないのである。
第二の理由は, 解決策は問題に所属する(belong)ものであり, 問題解決方法論に所属す
るものではない, ことである。

他方, SIT が提供するものは, 焦点を絞った分析, 迅速な分析, 複数の解決策コンセプト,
十分な分析, および発明的解決策コンセプトである。これらは,ちょっと聞いたところでは,
メトリックとして快よい響きをもっている。しかしながら, より詳しく調べてみると, それらは,
事実であるより以上に宣伝文句であり, それらを支持して証明する証拠を欠いているように
見える。SIT はまだ新しく, プロフェッショナルな実践者の第一世代の段階にあり, これらの
主張を支持する証拠をひき出すことができるような独立したドキュメントデータがまだ存在し
ない。それらは, まだなお, 十分検証されたメトリックスとは言えない, SIT 実践者たちの個人
的な経験なのである。このため,(我々は)これらの主張を用いたけれども,主張者たちが
直感に基づいて述べていること (respectful submission to the hunches) という以上の重み
を置かなかった。

第二に研究するべき問いは, 「技術者の問題解決手法群の道具箱の中で, SIT はどこに
適合しているのか? 」である。これが所長からの挑戦であった。その答えはSIT が機能する
(works) しかたから来る。概念的な問題(conceptual problems) に対して概念的な解決策
(conceptual solutions)を見出すようにSIT は設計された。だから, SIT を適用できるのは,
問題解決の前工学段階 (pre-engineering phase)であり, そこでは工学的に検討するべき
概念(concept to be engineered)を求める。製品・プロセス開発の工学段階(engineering
phase) に対しては, 伝統的な技術者トレーニングが, 適用可能な技術的問題解決手法を
幅広く持っている。しかし,前工学問題(pre-engineering problem) に対しては, 極めてわず
かしか技術者学生に提供されていない。

SIT のセールスポイントとして可能であったものの一つに, 「発明に焦点を当てていること」
があった。TRIZは発明を強調し,SIT はイスラエルでは発明に重点を置いた学術コース
である。この潜在的可能性を考えたが, 現実の認識に引き戻された。発明は企業の技術者
にとって主要なモチベーションではないのである。だから, 「いかに発明するか? 」というコー
スを提供することは,大学においては良い動機づけになるにしても,企業技術者の中核部分
から多くの学生を引きつけることにはなりそうもない。

もちろん, 企業経営者や企業の法務スタッフからは発明は高く評価されている。しかし,
「塹壕の中で」働いている技術者たちにとっては, 優先処理リストの中で発明は下の方で
しかない。これにはいくつかの理由があるだろう。明白な理由は, 技術者たちの日常業務
が, 納期に合わせることと「火消し」とのストレスの多い仕事だということである。面白くもない
そして難しい工学的問題たちを早急にかつ予算内で解決するように努力している。「発明
などしている時間がないよ」。もう一つの理由は, 多くの技術者たちが, 自分は発明家にな
る力量はないと思っていることである。なぜなら, 発明家は並みはずれて有能な人々の選
ばれたグループであると思っている。またもう一つの理由は,日常の問題に対する賢明で,
ユニークで,驚くような解決策が発明になりうると,多く人達が知らないことである。ストレス
のことがあまりにもしばしば話されるので,われわれは, 訓練の動機づけとしての発明の重
みを抑え(down play),  その代わりに, 問題の迅速な解決と複数の解決策コンセプトを強調
することに決定した。

このようにして, SIT を, 全社の学卒の技術者に向けた, 補完的な問題解決方法論として提
示した。それは, 前工学段階にある問題に解決策コンセプトを作り出すものであり, 速やかな
問題の絞り込み, 迅速な分析, 複数の解決策コンセプト, 解決策空間の十分な探究, および
発明的解決策コンセプトを約束するものとして, 設計された。

準備のしごとの最後の課題は, 資格を持ったインストラクタを得ることであった。以前の 1週
間のデモンストレーションコースには,イスラエルのThe Open University がインストラクタ
(Dr. R. Horowitz)を供給した。そこで, 彼らとコンタクトをとり, もう一度Fordに来て, こんどは
トレーナ養成コースを教えて貰えないかと, 打診した。ちょうどそのころ, イスラエルの企業で
SIT のトレーニングを受けた技術者の総数が約3000名に達して, いくつかの会社では彼ら自
身で社内研修プログラムを始めたいと望んでいた。初めてのSIT トレーナ養成コース
(Train-the-Trainer course) がちょうど行われたところであった。ヘブライ語で行われたその
コースを, われわれの便宜のために英語に翻訳して行おうという申し出を受けた。かくて,
Fordから 2名の物理学のPh.D. がイスラエルに行き, コースを取り, Fordにおけるインストラクタ
になった。

5.  Fordへの適応のためのイスラエルのSIT の修正

社内研修プログラムとしての動機づけ, 目標相手, ニッチの需要 (niche)が得られて, 残され
た問題は, このニッチの需要に合うように方法論を調整することであった。イスラエルのSIT
(Systematic Inventive Thinking, 体系的発明思考法) をいくらか修正して, Structured Inventive
Thinking(構造化発明思考法) と呼ぶことにした。このプログラムは, つぎのように設計されて
いる。

   ・  前工学問題(pre-engineering problems)向け ---  数字, 数式, 仕様が不要

   ・  焦点を鋭く絞る ---  問題を表現するのに最小限のオブジェクトを選ぶ

   ・  迅速な分析 ---  二つの簡潔なアルゴリズムが洞察力のある分析を提供する

   ・  複数の解決策コンセプト ---  4 種の問題解決手法

   ・  解決策空間を十分に調べる --- オブジェクト, 属性, 機能を調べる

   ・  発明的解決策コンセプト ---  矛盾の解決を組み込む

6.  FordのSIT プログラム

SIT 研修プログラムは1995年春に開始されて, 毎月 1回の 3日間のクラスとして, 今日まで
続いている。現在まで 800人を越える卒業生がいる。受講者はこれらのクラスにそれぞれ
2個の会社の問題を持ち込み, SIT の 2種のアルゴリズムで分析する。クラスを教えているの
は,Ford研究所のスタッフメンバである, 二人のインストラクタである。修了者には,毎週
1時間半のSIT ユーザグループミーティングを通して, 継続的なサポートを行っている。修了
者から持ち込まれた一つの社内の問題が, これらのミーティングの出席者に提示される。
毎年一つの月に, ドイツと英国のFord技術施設でクラスが教えられている。今日まで, クラス
はFordの従業員に限定されてきた。

1998年に, 4 人のSIT 専門家チームが形成され, SIT をフルタイムで (保証, 品質, および
知的財産権に関する心配なしに) 社内の問題に適用している。このチームはFord研究所の
外に出て運用している。また, Quality Centerには,  2人のチームがSIT を適用している。
Ford研究所のSIT チームで訓練された一人の技術者が, Advanced Vehicle Technology
Division のSIT 専門家の職に指名された。

7.  結論

創造的問題解決の社内資源 (corporate resource) がFord Motor Companyで確立された。
この資源は, 社内研修プログラム, フォローアップサポート, および方法論の適用の専門家
のチーム群を含む。プログラムの開始には,ニッチの需要を確立し, その需要に適合する
ための調整を必要とした。TRIZとSIT を比較し, SIT を使っている会社にインタビューした
後に, このプログラムのためにSIT 方法論を選択することを決定した。

8.  より詳しい資料:

http://ic.net/~ntelleckを参照。Unified Structured Inventive Thinking (USIT,  統合構造化
発明思考法) についての書評およびエッセイあり。

以上

             
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最終更新日 : 1999. 5. 8     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp