和訳掲載にあたってのまえがき
(中川,
2001年 2月28日)
この論文は, 昨年5月のTRIZCON2000で発表したものです。発表後すぐに, 英文のまま本『TRIZホームページ』の英文ぺージに掲載し, また, 学会報告を和文で掲載しました。この論文は, それまでに本ホームページで書いてきたことをベースにして, 日本におけるTRIZ導入のアプローチ (特に著者自身のアプローチ)をまとめ, 主として海外に向けて発表・主張することを目標としておりました。多忙であったことと, 日本の読者の皆さんには本ホームページでの記述と重複するところが多いと考え, 昨年5月の段階では和訳をしませんでした。
それをいま, 和訳して紹介することを思い立ったのは, 小生がその後も繰り返し書いたり話したりしていることがこの論文に最もよくまとめてあるからです。国際会議での発表論文ですから, 主対象が海外のTRIZ専門家でしたが, それでもやはり, 日本の読者の皆さんに, TRIZの全体像を日本語で読んでいただけるようにするのがよいと思いました。
この論文を執筆してから丸一年が経っています。小生がその後にTRIZについて新しく理解したことも沢山あります。そのような新しい理解を分かりやすく書きたいと考えていますが,
そのためにも昨年の時点での理解を和文で定着しておくことが必要と考えた次第です。
英文掲載時のまえがき (中川, 2000年 5月 8日)
本論文は, 先週ボストン近郊で開催されたThe Altshuller Institute for TRIZ Studies 主催の国際会議TRIZCON2000で発表したものです。会議が2会場並行のため聴衆の数は多くありませんでしたが, 本発表に対して出席者から多くの質疑をいただきました。この論文を本ホームページに掲載し, より多くの人々に読んでいただけることは, 著者兼編集者としてうれしいことです。Altshuller Instituteは, 発表論文に対して排他的な著作権は主張せず, 著者の判断でより広く出版・配布することを認めております。本件の掲載許可に対して, Altshuller Instituteに深く感謝いたします。
Altshuller Institute for TRIZ Studies http://www.aitriz.org/
本論文は,
日本におけるTRIZ導入の歴史と活動を簡単にレビューした上で, TRIZが企業に普及するときの最大の困難点が,
問題解決のTRIZ流の思考方法をマスターする難しさにあることを述べています。そのため,
TRIZにおける問題解決プロセスを簡単にすることが, 初心者向けに特に必要であることを主張しています。そしてその目的のために,
フォード社で開発されたUSIT法 (統合的構造化発明思考法)を推奨しています。日本の企業へのTRIZ導入に当たって,
TRIZがまだ普及の初期段階にあることを考慮し, 「漸進的導入戦略」を推奨しています。
このような「漸進的導入戦略」は, 日本だけでなく, 世界中の多くの国や企業についても当てはまると著者は考えています。TRIZの導入の方法について, いろいろな国や企業の読者の皆さんからコメントや討論をいただけますと幸いです。
TRIZCON2000に対する中川の個人的な学会報告を日本語で今日掲載しました。ただ,
学会報告を英訳する予定はありません (本論文を和訳する予定もしばらくありません)。
本ぺージの先頭 | 2. 歴史 | 3. 古典的TRIZ | 5. USITによる問題解決 | 6. USITのトレーニング | 7. TRIZ導入のための漸進的戦略 | 参考文献 | English page |
要約:
日本におけるTRIZ導入の歴史と活動についてまとめている。TRIZが日本に紹介されてから3年になり, 企業における先駆的な技術者たちの間で徐々に人気を得てきている。しかし, 日本のTRIZ学習者/実践者たちは, TRIZの思考法を身につけること, 自分たちの実際の問題にTRIZを適用することにはまだ多くの困難を感じている。このような困難を克服するために, 日本語ですでに数冊のTRIZ教科書が出版され, 公共的なWWWサイト『TRIZホームページ』が運用されている。創造的問題解決のためにもっと簡単なプロセスが必要であることが認識され, フォード社で開発されたUSIT法 (統合的構造化発明思考法) が簡易化TRIZ技法として導入されている。USITの事例研究と訓練の実践とを紹介する。日本企業へのTRIZ導入法として, 「漸進的戦略」を推奨する。1. はじめに
TRIZが最近 (1996年〜1997年)に日本に紹介されて以来, 数冊のTRIZ教科書がすでに日本語で出版され, TRIZソフトウェアツールの完全日本語版が販売され, また, TRIZソフトウェアツールの入門・訓練セミナーが多数開催されるようになった。技術者たちや諸企業がTRIZを徐々に認知してきて, 革新的な技術開発の新しい方法論として導入の試行を始めている。
しかし, 日本企業におけるTRIZ学習者や実践者たちは, 彼らの実問題にTRIZを適用することに, まだ多くの困難を感じている。その方法論の理解, すなわち思考方法の理解が, ソフトウェアツールの使用法の習得よりも, もっと重要でもっと困難なのである。
現代技術での実問題での事例研究が企業機密のためにほとんど発表されることがないという状況において, TRIZの初心者たちはTRIZをどのように適用するのかを学ぶ機会が不足している。このため, 企業における先駆的なTRIZ実践者たちでさえ, TRIZの適用の成功体験をまだあまり持っていないのが日本の状況である。
この状況を改善するために, 著者は『TRIZホームページ』 [1] を創設し, TRIZの情報交換のための公開の場として非営利で運用している。このWWWサイトは, 大学をベースにボランティアで運用され, 企業からは独立して, なおかつ主として産業界に向けて寄与しているという点で, ユニークな位置を占めている。
著者はTRIZが三つの主要な側面を持つものと理解している。すなわち, (a) 技術を見る新しい観点としての方法論, (b) 問題解決の思考方法としての方法論, および (c) 方法論(a)を実装する事例集としての知識ベースである (表1参照)。
TRIZを技術界・産業界に導入するためには, これらの三つの側面が共に重要である。TRIZソフトウェアツールは本来的に知識ベース(c)に重点がある。教科書は方法論(a)を学ぶのに有用であり, さらにもっと出版されることが望まれる。方法論(b)を学ぶための方法と教材が, 日本におけるTRIZの推進のための当面の主要課題である。
表1. TRIZの 3側面と推奨する教材
TRIZ = 方法論 + 知識ベース 学習・適用のために推奨する素材 方法論(a) 技術を見る新しい見方 TRIZ教科書 方法論(b) 問題解決の思考方法 簡易化TRIZ技法 (USIT) 知識ベース 方法論(a)を実装する事例集 ソフトウェアツール (TechOptimizer)
ゲンリッヒ・アルトシューラーは, 問題解決のための思考法として非常に多くの方法を開発し,
いくつもの版のARIZとしてまとめあげた [2]。しかしながら,
残念なことに, ARIZはあまりにも複雑で, TRIZの創始者やTRIZエキスパートのもとで長期間の集中したトレーニングを受けないと,
習得できない。この困難がTRIZの普及の主要なボトルネックであり, 特に,
言語の壁のためにTRIZエキスパートからの直接のトレーニングを受ける機会がほとんどない日本で顕著である。
TRIZの方法論(b)の側面を実現するのに,もっと容易でもっと実際的な方法が必要である。このような観点から,フォード自動車社のエド・シカフスによって開発され適用実績を上げた, USIT法(統合的構造化発明思考法)[3] が, 適したモデルとして認識された。このようにして, 本著者がUSITを日本のTRIZコミュニティに導入した。USITのトレーニングセミナーが実施され, 成功してきている。
本論文では, 日本におけるTRIZの歴史と活動を簡潔に紹介し,
日本企業へのTRIZ適用の種々のアプローチを述べ, 議論する。
2. 日本におけるTRIZ導入の歴史と活動
TRIZが最初に日本に紹介されたのは, 1972年という早い時期であった。アルトシューラーの教科書「発明のアルゴリズム」の1969年版が, 『発明発想入門』 [4] という題で, 技術ジャーナリストによって日本語に翻訳されて出版された。それはいくらかの人々に読まれたようであるが, 強い影響を与えるには至らなかったようである。その理由は, (原著者との) 個人的なつながりがなかったことと, その後長年に渡ってそれ以上の情報が入って来なかったためであろう。
1996年4月に, 日本語の月刊誌『日経メカニカル』が, グレン・マズールのTRIZ紹介論文 [5] を日本語訳して, 「"超"発明術」というキャッチフレーズで掲載した。この記事が日本へのTRIZの最近の導入のきっかけとなった。同誌は, 副編集長篠原司の尽力により, TRIZの事例紹介を1997年3月に掲載した。そしてその後, 毎号に, TRIZの連載講座 (はじめはビクター・フェイとユージン・リビンによるもの, 後にはボリス・ズローチンとアラ・ズスマンによるもの) を掲載してきている。日経BP社は 3種のTRIZ教科書を日本語に翻訳して出版した [6-8] 。
東京大学の畑村洋太郎教授のグループは, 機械工学分野の創造的設計原理について研究してきており, 数年前からTRIZを知るようになった。畑村研究室出身のトヨタ自動車の技術者である井形弘は, 1995年頃MIT留学中にインベンション・マシン社のソフト Invention Labのテスト版を試用した経験を持ち, TRIZを紹介する個人WWWサイトを開いた。畑村グループは教科書『TRIZ入門』 [9] を1997年11月に出版した。それは二部から構成され, 一つはフェイとリビンによる最近の教科書 [10] の日本語訳であり, もう一つは彼ら自身のTRIZ紹介であり, この[10] に対する批判的な議論をも含むものであった。畑村グループは最近もう一つの教科書 [11] を出版しており, TRIZと彼ら自身の「創造的設計原理」とをより統一した形で紹介している。
1997年7月には, 日本の代表的なシンクタンクである三菱総合研究所 [12] が, インベンション・マシン社の日本総代理店になり, TRIZ普及活動を開始した。同社は, ソフトウェアツールTechOptimizerの販売にあたって, 企業へのデモや入門セミナーを推進している。また, 企業ユーザを, コンソーシアムや研究分科会などに組織している。同社のコンソーシアムの支援を得て, IM社はTechOptimizer 3.0の完全日本語版を1999年 1月に市場に出した。三菱総研は, 100社以上のユーザ企業を持ち, 日本における最も活発なTRIZ推進センターである。
産業能率大学 [13] は, ビジネス指向の教育と企業コンサルテーションというユニークな活動で知られているが, 1998年4月にアイディエーション・インタナショナル社の日本総代理店としてTRIZ推進活動を開始した。同大学のTRIZ専門家たちは, TRIZの公開/企業内セミナーを開き, また企業内コンサルテーションの活動を行ってきた。彼らはまた, TRIZを技術分野だけでなく, 経営的分野の問題にも適用することを目指している。
このようにして, 1997年〜1998年の段階で, 日本における製造業の大企業数十社はTRIZに関する最初の知識を得ている。それらの企業で典型的には, 一人あるいは数人の先駆的な技術者たちがTRIZの学習を始め, 外部講師によるTRIZセミナーを社内で開き, TRIZソフトウェアツールの導入を試みてきた。そのような企業において, 「"超"発明術」というキャッチフレーズは最初は非常に注目を引いたけれども, それと同時に広範囲の懐疑的反応に直面せねばならなかった。TRIZ教科書 [6, 7, 9] 中, および当時のTRIZソフトウェアツールの中の事例の古さが, このような日本におけるTRIZ推進の初期段階において, 懐疑と失望を増幅した。
企業のパイオニアたちにとってさらに困難であったのは, TRIZ流の考え方を学び, 自分たちの実際の問題を解決する方法を学ぶことであった。彼らに対してさえ十分なトレーニングセミナーなどが与えられなかった (近年の日本経済の不況のために訓練経費が削減されていることも響いた)。高価なソフトウェアツールが購入されても, あまり活発に使われないことが多かった。現在の主流のTRIZソフトウェアツールは, 厖大な知識ベースと使いやすいユーザ・インタフェースを持っているけれども, その使用をガイドする機能は非常に弱い。このため, ユーザたちはソフトウェアツールを使って問題を解決する効果的な方法を知らなかった。
インタネットから得られる情報が, 近年ますます重要な役割を果たしてきている。TRIZのように新しく興りつつある分野においては, 迅速な公表と容易なアクセスができるから, インタネットは特に重要である。『TRIZ Journal』 [14] が, 日本の先駆的なTRIZ学習者たちの間で, 英語での信頼できる情報源として知られてきた。
1998年11月に, WWWサイト『TRIZホームページ (英文名: TRIZ Home Page in Japan)』 [1] が開設された。これは本著者がボランティアとして編集・運用しているけれども, TRIZに関する情報交換を非営利で行うオープンなフォーラムを意図したものである。主として本著者が書いた多くの記事を掲載し, いくつもの優れた論文を日本語に翻訳して紹介してきており, 日本におけるTRIZのハブサイトとみなされてきている。このサイトは日本語ページと並行して英語のぺージを持ち, 世界的に規模で, 日本からの, そして日本への開かれた窓として機能している。
TRIZの国際会議が二つ, 米国で1998年11月と1999年3月に開催された。これらは, 日本のTRIZ学習者たちにとって, 米国および西側諸国におけるTRIZの全体的な状況を把握するのに役立った。ロシアおよび白ロシアにおける活動は, 本著者の私的な調査旅行の結果として, そのWWWサイト上で紹介された [15]。
これらのイベントを通じて著者は, フォード社で開発されたUSIT法 [3, 16, 17] が, TRIZのエッセンスを備えた適用しやすい問題解決プロセスとして, 導入するのに最も適していることを見出した。エド・シカフスが主宰した最初のフォード社外のUSITトレーニングセミナーで学んで, 著者はUSITの紹介記事 [18] と 2件の適用事例報告 [19, 20] をWWWサイトに掲載した。著者はまた, これまでに, 3日間USITトレーニングセミナー [21] を日本で 3回行った。このようにして, USIT法は日本のTRIZコミュニティに知られてきている。
日本企業の中での活動は公表されていない。多くの大企業はすでに初期の懐疑的な段階を克服し, 従業員の中に何人かの先駆的なTRIZ実践者を徐々に育ててきている。そのような企業は, 機械, 自動車, 家庭電気製品, ハイテクの情報産業, 化学, その他の多くの業界に属している。しかしながら, 実践者の大部分は, まだ社内でTRIZを推進することを上から十分に認められていず, 実問題にTRIZを適用することに多くの困難を感じている。
大企業以外でも, TRIZを教科書で個人的に学び, 自分の問題に適用しようと試みている人々が多数存在する。これらの人々が日本でのTRIZの今後の浸透の基盤をなしており, それは品質管理運動の歴史において見られたのと同様である。
日本企業におけるTRIZ適用の成功事例として製品やプロセスが報告されたことはまだない。TRIZの適用法を理解するために, 実問題にTRIZを用いた事例発表が日本では非常に望まれている状況である。
要するに, 日本はいまTRIZ導入の幼児期にあると言える。そこで,
TRIZの導入に当たって, 「漸進的戦略」 [22,23]
をとるように, 著者は日本企業に推奨している。 企業内のTRIZ先駆者たちは,
彼らの実問題にTRIZを適用していくための適切な方法を自分で見つけていかなければならない。それでも,
いまからもう数年たてば, 日本はTRIZの勃興期/成長期に達するであろう。
3. 古典的TRIZ (理解したままに)
TRIZは, ゲンリッヒ・アルトシュラーとその弟子/協力者たちによって,
50年以上かけて, 開発・確立されてきており, 広くて深い知識の体系をなしている。本節で述べるのは,
「古典的TRIZ」と言われるもので, 1985年までに開発されたTRIZについてのラフ・スケッチであり,
本著者が理解したままに記す [22, 23]。
3.1 方法論(a): 技術を見る新しい観点
TRIZの最も重要な寄与は, 技術と科学を見る新しい観点を確立したことであり, それは, 技術を基盤としたボトム・アップのアプローチを特徴としている。その主要な特徴をあげると以下のようである。
(1) 具体的な知識と抽象的な概念との共存。 専門家の実践と科学者/技術者の学術的研究との間の橋渡しをする。3.2 方法論(b): 問題解決の思考方法(2) 技術の歴史に対する洞察。技術の進化におけるトレンドを解明する。
(3) 目標から手段への探索。目標機能の階層的な分類を用い, 科学技術の知識を集約して, 科学技術に対する逆引きデータベースを構成した。
(4) 発明的思考のパターンをまとめて, 「40の発明原理」とした。
(5) 「技術的矛盾」と39のパラメタの概念を用いて, 諸問題を「矛盾マトリクス」の形式に定式化し, よく使われる発明原理の形で解決策に対するヒントを与える。
(6) 「物理的矛盾」の概念で諸問題を定式化し, 「分離原理」を解決策のヒントとして与える。
(7) 「物質-場分析」により諸問題を定式化し, 「76の標準解決策」をヒントとして与える。
(8) 問題とその解決策の抽象化モデルの利用。すなわち, まずユーザの実問題に対する抽象化したモデルを見出し, ついで, そのモデルの解決策を実問題の解決策に変換して実現することを試みる。(9) まず目標をイメージすること。特に, 「究極の理想解」の概念を使って目標をイメージし, その後に解決手段に戻って来ることにより, 試行錯誤の探索を無しですませる。
(10) 問題の中の矛盾を明確にし, 妥協でないブレークスルーの解決策を見出すことを試みる。
そしてさらに多くの方法, 例えば, 小さな賢人たちによるモデリング法,
システム・オペレータ (または多画面法), STCオペレータ (サイズ-時間-コストオペレータ),
などがある。これらすべての方法はARIZ [2] に組み込まれており,
それは困難な発明的問題を解決するために多くの繰り返しのサイクルを含んでいる。
3.3 知識ベース
上記の3.1節に列挙した概念や観点の体系のすべてに対して,
世界中の特許や科学知識や技術を分析して, 事例集が蓄積された。これらの知識体系は,
後に, TRIZソフトウェアツールのデータベースの中に実装されてきた。
3.4 全体スキーム
TRIZが確立した問題解決の全体スキームは図1のように表すことができる
[22]。上段は科学技術の情報の世界を示し, 下段はユーザ自身の問題の世界を示す。ユーザにとって自分の問題を解決するのに科学技術をうまく利用するのは容易でない。いまTRIZが科学技術から種々の情報を抽出して提供したことによって,
ユーザの問題からその解決策に至る道をずっと容易にユーザが見出すことができるようになった。
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図1. 問題解決のためのTRIZ方法論のスキーム |
図1のこのスキームからデザインして, 『TRIZホームページ』
[1]のシンボルマークを図2のように作った。
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図2. 『TRIZホームページ』のシンボルマーク ((C) 1998) |
4. TRIZの現代化を目指して
1985年頃から, すなわち, 旧ソ連のペレストロイカ期から, TRIZ専門家の多くのグループがTRIZを現代化する独自のアプローチを開始した。旧ソ連の社会主義社会から, 現代の西側のビジネス競争社会にTRIZを移行させることが, TRIZの現代化を要請した。TRIZは現在, 企業にどのように浸透するのか, すなわち, 産業界の厖大な数の技術者たちにどのように浸透するのかという問題に直面している。
日本のTRIZコミュニティに大きな影響を持っている三つのアプローチをここに簡単に述べる。
4.1 アイディエーション・インタナショナル社のアプローチ [24]
アラ・ズスマンは [25] で, 「TRIZの現代化の最も重要な課題は, アルトシュラーが開発した種々の方法を利用する簡単なプロセスを見出すことである」と述べている。
かれらの解決策は, 新しいネットワーク型のダイヤグラムであり,
問題の中の原因-結果の関係を, 有益な効果と有害な効果の区別をつけて表現することである。このようなダイヤグラムを入力することにより,
II社のソフトウェアツールは, 問題に関する可能な観点をチェックリストとして出力する。ユーザは,
それらのすべての観点に対して順番に, もともとのTRIZのアルゴリズムの中の適当な方法を適用して考察することが薦められている。因果関係のネットワーク図は,
技術的問題にも非技術的問題にも同様に適用可能だから, TRIZの適用分野を拡張することができる。
4.2 インベンション・マシン社のアプローチ [26]
IM社は, パソコン上で動き, ユーザに使いやすいインタフェースを持った, TRIZ知識ベースのソフトウェアツールを開発した。特に, Effectsデータベースは, 継続的に拡張されており, 関連する物理/化学的原理や技術的手段を学ぶのに有用である。
IM社のバレリ・ツーリコフは, そのソフトウェアツールTechOptimizerを知的にすることに多大の努力を傾注している。そのツールは, ユーザが与えたキーの技術に対して, それを最終段に使って複数技術をシーケンシャルに繋いだ複合技術を自動的に生成して提案することができる。これは, 技術者が新しい技術を考案するときの典型的な設計思考法に対応しており, 技術者を助ける。IM社は, このような人工知能的技術の基礎として, 概念辞書と概念のネットワーク型表現技術を開発したという。
IM社のソフトウェアツールは, すでに産業界での応用に実際的な効率性を持つレベルにまで開発されており,
米国その他と同様に日本でも産業界に広範に浸透しつつある。
4.3 フォード自動車社におけるUSITのアプローチ
フォード自動車社では, TRIZへの別のアプローチがエド・シカフスによって開発され実践されてきた [16, 17]。 そのアプローチUSIT [3] は, 創造的問題解決のためにTRIZをずっと簡略化したものである。
1980年代にイスラエルで, ゲネディ・フィルコフスキーが, 研修と実践をもっと易しくするために, TRIZを簡略化する必要を認識した。彼は, アルトシューラーの40の発明原理をわずか4種の解決策生成技法に簡略化し, SIT法 (体系的発明思考法) を開発した。SIT法は最近ロニ・ホロウィツらが論文発表しており [27], 「閉世界」の中で解決策を考えることを強調し, 「発明のための十分条件」として「定性的変化」を満たすことを唱えている。
シカフス [17] は, (TRIZと詳細に比較した後に) SIT法を採用し, 1995年にUSIT法の研修プログラムを始めた。製品/プロセス開発の最上流段階にある創造的なコンセプト生成のための容易に実践できるプロセスとして, このUSIT法を開発している。USIT法では技術的 (工学的)詳細を扱わないので, 技術データベースやソフトウェアツールを使用しない。USIT法の主目標は, 企業技術者たちが複数のコンセプトをできるだけ迅速に, 自由に, そして創造的に生成できるようにすることである。このためシカフスは, TRIZにおける発明の探求を強調することを少なくし, より広い実際的な適用を優先した。
フォード社におけるUSITの実践活動は学会で報告されている
[16]。それらは, いままでに発表された中で最も成功した事例のようであり,
TRIZを企業に導入する際の優れたモデルを提供している。
4.4 TRIZの現代化の諸課題
ジェームズ・コワリックによる最近の総説 [28]
が, TRIZの現代化の必要性と種々のアプローチを理解するのに有用である。彼はTRIZの二つの面を論じている。その一つは問題解決の方法論であり,
他は創造性を強化する方法論である。ここでは, 第一の側面に焦点を絞ろう。表2はコワリックの見方をまとめたものであり,
(A)欄は従来のTRIZの限界と問題点を示し, (B)欄に将来の方向を示している。
表2. 従来のTRIZの問題点と将来の方向 | |||||||||||||||||||||
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著者による現在のアプローチを表1の右欄に示した。それらはまた, 表2の(C)欄に示すように, コワリックのいう将来の方向に近いものであり, 以下の節にさらに詳しく述べる。
5. USITによる問題解決
著者のアプローチを述べるにあたって, USITを用いた問題解決のプロセスについていくつかの例を示しておくことが必要であろう。その理由は,
USITの大部の教科書 [3] が出版されたにもかかわらず,
USITのプロセスそのものについてシカフスによるコンパクトな論文がまだ発表されていないからである。本著者のWWWサイトに掲載した記事が,
USITのプロセス [18] および適用事例 [19,
20]についての分かりやすい文献である ([29]
も参照されたい)。
5.1 USITのプロセスのフローチャート
USITは図3に示すような明確に定義されたプロセスの枠組みを持っている
(この図はシカフスの図を一部修正して, 著者が描いたものである)。プロセスは3段階からなる。問題定義段階,
問題分析段階, および解決策生成段階である。
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図3. USITのプロセスのフローチャート |
5.2 問題定義段階
図4は, 問題定義段階の生成物の例
[20] であり, 1999年3月に著者がシカフスのUSITトレーニングセミナーにおいて取り扱った実際的問題に対するものである。この段階でつぎの項目を記述するように問題解決者は要求される:
すなわち, 問題宣言文 (1〜2行), 問題状況の簡単な図, 根本原因 (一つまたは複数の考えられる原因),
および問題のシステムの中のオブジェクトのリストである。
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図4. USITの問題定義段階の出力例 |
この課題はちょっと見ると非常に簡単なように見える。しかし,
このように短い問題宣言文と根本原因の文を書くことは, 問題を明確に定義し,
問題解決の努力の焦点をシャープに絞ることを問題分析者に要求する。USITセミナーの参加者たちの研修後の感想では,
「問題解決の成果を得るのにこの問題定義段階が最も重要であることを, 最後になってよく理解した」
ということが多い。
5.3 問題分析段階
図3に示すように 3種の分析法がある。(a)閉世界法と (b) Particles法のどちらか一方または両方を適用し, その後に (c) 空間・時間特性分析法を適用する。
5.3.1 閉世界法
この方法は問題にしている現状のシステムの分析からスタートする。この方法はイスラエルのSIT法のアイデアを強く残しているが, オブジェクト, 属性, 機能という概念のより明確な定義が(シカフスにより) 導入されている。
最初に, 閉世界ダイアグラムを作り, もともとの設計者が意図した観点からオブジェクト間の機能的関係を表現する。関連するオブジェクトは縦に配置され, 最も重要なオブジェクトを最上位において, その他のものを上位のものに対して好ましい機能的関係になるように順次下位に配置する。このダイアグラムを記述する際に, かなり厳しいガイドラインをシカフスは設定している。 (一つの弱点: このダイアグラムには, 有害機能や不十分機能の表現が欠如している。)
ついで, 定性変化グラフを描く。実際には, 増大関係と減少関係とを表す二つの固定したグラフを使う。分析者の課題は, これらの縦軸として適切な (問題になる悪い)効果または (目的の)機能を選択し, 横軸の方に, 関連する種々の属性をリストアップすることである。この課題を遂行する過程で分析者は, システムの諸オブジェクトについての多数の属性を認識し, それらが問題となる悪い効果や意図する機能とどのような関係にあるかを考える。
イスラエルのSIT法 [27]では, 分析者はここで二つの制約条件を守って発明的な解決策を考えるように薦められる。その制約条件は, 閉世界に異なる種類のオブジェクトを持ち込まないこと, そして, 解決策が何らかの属性に関する増減関係に定性的な (質的な) 変化 (すなわち, 増大関係が減少あるいは不変関係になったり, その逆など) を持たらすことである。
USIT法ではSIT法のこの二つの制約条件をあまり強調しない。それは, 創造的/実際的な解決策を多数得ることを目的とするからである。閉世界ダイアグラムと定性変化グラフは, さまざまの属性の関数関係と定性的な依存性を明確にするための手段であるとみなしてよい。閉世界法の適用事例は [19] を参照されたい。
5.3.2 Particles法
Particles法はアルトシューラーの「小さな賢人たちによるモデリング」 を採用したものである。それは分析者に, 現在のシステムを分析しようとするのでなく, まず最初に理想的な結果を想像するように要求する。図5と図6は, 図4の問題についてこの方法を適用したときの成果物を示している。
最初に問題の状況を描くと, 図5の上段左に示すようである。ノズル部分での拡大図を描いており,
泡の生成のメカニズムと問題とを明確にしようとしている。
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図5. USIT法のParticles法におけるスケッチの例 |
ついで, 理想的解決策の状況を想像し, 図5の上段右のように描いた。この段階では, 理想的な結果を単純に描くのであり, それを実現するための手段を考えたり描いたりしてはいけない。それから, これらの二つのスケッチ中の違いが生じている位置に x印を描き, それらを「Particles (粒子)」と呼ぶ。Particlesは, 「魔法の物質/「場」」であるとみなされ, 任意の望ましい性質を持ち, 任意の望ましい行動ができるものと考える。(USIT法で)Particlesに x印を用いた結果, 「小さな賢人たちによるモデリング」の小人の絵よりも, 抽象的な (自由な) 思考をするのにより有用になった。
つぎのステップとして, Particlesにどのような行動をして貰うように頼めば良いかを考えるように,
分析者は要請される。その望ましい行動をブレークダウンしていって, 階層的なダイアグラムにしたのが図6である。ここでは下位のノードの要求についてのAND/OR条件を明示している。そのつぎに,
個々の望ましい行動要素に対して, Particlesが持っているとよいと思われる諸性質を,
できる限り自由に列記する。
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図6. USIT法のParticle法において, 望ましい行動と性質を描いた例 |
ここで望ましい行動を記述するにあたって, 技術用語ではなく, 平易な日常語を使い, 旧来の技術的な思考の制約からできるだけ自由になることが薦められる。Particlesの行動/性質ダイアグラムを作成している過程で, 分析者はさまざまのアイデアの要素を思いつくことが多いので, それらのアイデアを記憶しておくとよい。
5.3.3 空間・時間特性分析
つぎに, 問題状況または理想状況について, その空間に関する特性と時間に関する特性を分析する。グラフの縦軸には,
問題となる悪い効果またはシステムの機能的な性能を選ぶ。そして, 横軸として,
空間および時間に関する何らかの適切な座標を選択し, システムの特性を模式的にグラフに描く。図7が本件の事例について描いたグラフである。
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図7. USIT法における空間・時間特性分析の成果物の例 |
5.4 解決策生成段階
USIT法は解決策生成のために4つの技法を持っており, それらを繰り返し使うとともに, 解決策を一般化する過程を図3のフローチャートに示すように行う。
5.4.1 4種の解決策生成技法
4種の技法は, システム内のオブジェクト, 属性, そして機能に対する操作に対応しており, つぎのようである。
(a) 属性次元法: 属性に対して操作する。属性の活性化/不活性化, 属性の時間依存性の変化, 属性の特性の質的な変化, など。(b) オブジェクト複数化法: 各オブジェクトを多数化あるいは分割, ゼロ (すなわち, トリミング)から無限大まで。
(c) 機能配置法: 機能を再配置する, 別のオブジェクトに, 機能を置き換えたり統合したりして, など。
(d) 機能連結法: 複数機能をシーケンシャルに連結して, 新しい/強化した効果をもたらす。
5.4.2 解決策の生成
USIT法では, それぞれの解決策についてより一般的な用語を用いて一般化し,
一層広い観点からの連想思考を強めることを推奨している。この一般化により,
解決策のアイデアは図8に示すような図式で増強される。このスキームは単純であるが,
新しいアイデアを拡張したり, 解決策の探索空間を系統的に見たりするのに強力である。(このスキームは,
ロードマップ [30] やマインドマッピング
[28] など, いろいろな名前で呼ばれている。)
. |
図8. USIT法における一般化のスキーム |
5.4.3 解決策生成の実際
これらの4種の解決策生成技法はどんな順番で使ってもよく, システム中のすべてのオブジェクト, 属性, 機能に対して順番に適用してみることが薦められている。問題分析段階に閉世界法を使った場合には, これらの4技法をシステムの構成要素に一つずつ適用していくことが比較的容易である。他方, 分析段階でParticles法を使った場合には, そのように意識的/解析的に4技法を適用しないでも, 解決策のアイデアがもっとスムーズにかつ豊富に出てくることが多い。
図9は本件の事例に対して得られた解決策のコンセプトを示している
[20]。この結果は, シカフスのUSIT法トレーニングセミナーにおいて実質的に
1日で得た。これらの解決策コンセプトは, 図6〜図8に示した分析をベースにしてスムーズに書き下ろしたものである。
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図9. USIT法で得られた複数の解決策コンセプトの例 |
6. 日本でのUSIT法トレーニングの実践
エド・シカフスが指導したUSIT法トレーニングセミナー
[18] に参加した後, 著者は日本において同様のトレーニングセミナーを行ってUSIT法の導入を試みた。3日間のUSIT法トレーニングセミナーを
3回行った。内 2回はそれぞれ別の企業内であり, もう 1回は, 三菱総研においていろいろな企業から集まった技術者に対して行った。ここには,
後者の例をモデルケースとして報告する [21]。
6.1 開催準備と守秘契約
1999年12月に, 三菱総研が主宰する創造手法研究分科会において, 日本のいろいろな企業からきた45名のTRIZ先駆者に対して, USITについて 3時間講演した。ついで, 翌 1月に三菱総研が主催し, 著者が講師をして, 3日間のUSIT法トレーニングセミナーを開催した。10の企業から合計12人の技術者が参加した。その内 8名はそれぞれの企業でのTRIZパイオニアであり, 残りの 4名は比較的最近TRIZの学習を始めた人たちであった。
セミナーの目的は, 実問題に適用するグループ演習を通じて, USIT法を習得することであった。このような方式のトレーニングは, 講義と教科書問題での演習だけのものに比べて, ずっと効果的であると考えられている [28]。自分の実問題をセミナーに持ち込むことは, 参加者の動機づけにずっと良い貢献をすることは当然であろう。しかし, それは, 企業の機密と知的財産権を守るために所属企業から抑制されることが多い。この問題を予め克服しておく必要があった。
これに関連して, TRIZの普及を妨げている一つの矛盾が長年の懸案になっていた。「初心者がTRIZを学ぶには, 優れた適用成功事例を学ぶことが役に立つ。しかし, 適用結果が優れていればいるほど, 企業機密に遮られて発表される機会が少なくなる。かくて, 初心者は優れた事例を学ぶ機会がなく, 初心者のまま留まる」。この「TRIZ適用事例の矛盾」は, 米国, 欧州, 日本, などで明瞭になってきた。この矛盾を回避するための米国における解決策は, 多くのTRIZエキスパートによる直接のトレーニングであり, 最初はロシアのエキスパートたちそしてアメリカ人のエキスパートたちによるものである。この矛盾の克服に対して日本は別の解決策を見つけねばならない。
われわれの解決策は, セミナーに実問題を持ち込むことと, 「TRIZ適用事例の矛盾」を克服することの両方を同時に狙ったもので, 事前にアナウンスしてUSIT法トレーニングセミナーの関係者全員が署名した「守秘義務契約」からなる。その概要は以下のようである [21]。
セミナーの参加者はすべて, 各自の実問題で非機密の問題をセミナーに持ち込む。それらの持ち込み問題の中から, セミナーで演習するものを数件セミナー参加者全員で選択する。各問題についてのセミナーでのすべての成果は, 問題提案者とその所属企業に, セミナー終了後 6ヶ月間独占的に使用することが許される。例えば, 特許を申請してよい。もし他のメンバーの寄与が本質的であった場合には, そのようなメンバーは発明者として連名にするが, 商業的権利は一切, 何の対価も要求せずに, 問題提案者とその所属企業とに譲渡される。提案者以外の他の参加者 (講師・事務局を含む)は, その問題の技術的内容について, 6ヶ月間, 漏洩したり自社内であっても報告したりしてはならない。セミナーから6ヶ月経過後は, すべての参加者 (講師・事務局を含む)は, セミナーの技術的内容を報告/発表することが許され, セミナーの成果を各自の目的のために利用することが許される。
この契約によって, 持ち込まれた実問題の4件がセミナーでの問題解決に選択され,
すべての参加者がその問題を活発にかつ協力的に議論することができた。
6.2 USIT法のトレーニング・プログラム
3日間トレーニング・プログラム
[21] の概要は図10に示すようである。TRIZとUSITについての入門的な講義の後に,
4件の実問題を並行して解決するグループ演習を, USIT法のプロセスに従って順次実行した。
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図10. USIT法トレーニングセミナーのプログラム |
グループ演習の各セッションはつぎの 3要素からなる。
- そのステップに関する短い講義
- 割り当てられた実問題についてのグループごとの並行演習
- 各グループが順番に全メンバーに発表し, 講師による指導と全員の討論を行う。
この演習方式はシカフスのセミナーに習ったものであり,
参加者に高い動機付けをするのに効果があった。各参加者は一つの問題を 3人グループで解決し,
それと同時に, 他の 3問題についても発表と討論とに参加した。
各問題の分析は, はじめに閉世界法で分析し, ついでParticles法で分析した。解決策生成段階に対しては, 参加者は以下のプロセスをとるように助言された。
- 最初に, Particles法と空間・時間特性分析の結果を用いて, むしろ自由な感じで解決策を生成する。
- ついで, 閉世界法の結果に対して4種の技法を使って, さらに考察する。
- 第二セッションに入ると, 一般化の方法を用いて解決策を体系化して調べる。
- 最後に, 得られた解決策の中から最も有望そうなもの数件を選択し, それらを拡張・補強する。
参加者たちは, 持ち込まれた 4件の問題に対して,
それぞれ複数の解決策を出すのに成功し, USIT法のプロセスが簡便で効果的であることを見出した。来る8月になれば,
これらの適用事例がその技術的内容をも含めて, 公表・報告されることであろう。
6.3 USIT法の日本における評価
USIT法は, 日本において, 上記の諸セミナーの聴衆・参加者たちにより, 高い評価を受けている。
(1) USIT法の学習はTRIZよりもはるかに容易である。
=> 各企業で一人または二人のUSIT法エキスパートを育て, 彼らが多数の技術者に社内トレーニングプログラムで研修を行いUSIT法を理解させるとよい。(2) USIT法はグループの共同作業に適している。
=> USITの社内エキスパートが, 問題を持ち込んだ部門の技術者たちと臨時の共同チームを作り, 共同で問題を解決するとよい。フォード社のモデルに習う [6]。(3) USIT法は実問題に適用可能である。
=> 企業の実問題に対して, そのコンセプト生成段階に適用することを積極的に試みるとよい。(4) 技術的課題の詳細をUSIT法の後に検討すべきである。
=> (フォード社のUSITグループは陽には関与していないけれども,) USIT法適用の後の段階のプロセスを検討する必要がある。特に, TRIZソフトウェアツールや他の設計/品質方法論との関係も加えて考慮すべきである。
7. 「漸進的」戦略
TRIZを日本の企業に導入するにあたって, 著者は「漸進的」戦略をとるように薦めている。これは,
より急速な, より強制的な戦略と対照して, 表3に比較して示す。
表3. TRIZの導入にあたっての二つの戦略の比較 | ||||
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企業の中での実際的なプロセスは表4に示すようであろう。ここの要点は,
個人や組織に対して, TRIZをなんらかの特定のしかたで使うように「強制しない」ことである。
表4. 企業へのTRIZ導入のための, 「漸進的」戦略の実際 | |||||||||
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注意すべきことは, ここに推奨している戦略が, 全社的品質管理 (TQC) や関連する運動において現在典型的な戦略とは, 全く対照的に異なることである。著者の戦略を選ぶ主要な論拠は以下のようである。
- TRIZが日本においてはまだ普及の幼児期にあり, まだよく理解されていない。
- TRIZは本質的に技術の方法論である。一方, 品質管理運動は, 技術そのものではなく, データ解析 (統計) と組織論の方法論を基礎にしてきた。
- 草の根の普及活動は, アルトシューラーが確立したTRIZ固有のやり方である。
- 人々が創造的に考えるようにするためには, TRIZを用いて思考することを強制すべきでない。
- せっかちで押しつけ的な戦略は, 長期的に見ると, 消化不良と有害な副作用とを引き起こすであろう。
TRIZの方法論は非常に深くかつ広い。そこで,
普及の初期の段階にある日本においては, TRIZの本当のエッセンスを理解するために時間をかける必要があり,
技術と産業への導入にあたって, ゆっくりだが着実な「漸進的」戦略をとることが薦められる。
謝辞:
著者は, フォード自動車社のエド・シカフス博士に深く感謝する。USIT法を日本に導入するにあたって,
博士は著者を懇切に指導され, 継続して激励くださった。
参考文献
[1] 『TRIZホームページ』 (英文名: "TRIZ Home Page in Japan"), WWW サイト, 中川徹編。 URL: http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/ (日本語), http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/eTRIZ/ (英語)。
[2] "The History of ARIZ Development", Genrich S. Altshuller, Journal of TRIZ 3, No. 1, 1992; 英訳: Bolis Zlotin and Alla Zusman, Technical Papers, Ideation International, URL: http://www.ideationtriz.com/。
[3] "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent", Ed. N. Sickafus, NTELLECK, Grosse Ile, MI, 1997, 488p.
[4] 『発明発想入門』, G.アリトシュルレル著, 遠藤敬一・高田孝夫訳, アグネ社刊 (1972)。
[5] 「超発明術"TRIZ"の実像 (上) だれでも導出できる独創性, (下)問題を一挙に解決する」, Glenn Mazur,日経メカニカル, No.477, pp. 38-47; No. 478, pp. 47-54 (1996)
[6] 『超発明術TRIZシリーズ1, 入門編「原理と概念に見る全体像」 』 , G.アルトシューラー著, 遠藤敬一・高田孝夫訳, 日経BP社, (1997年11月), 187頁。(原書は"Algorithms of Invention", Genrich Altshuller, 1969).
[7] 『超発明術TRIZシリーズ2, 導入編「やさしい事例に見る活用法」』 , G. Altshuller 著, 三菱総研IMプロジェクト推進室訳, 日経BP社 (1997年10月), 177 頁。(原書: G. Altshuller: "And Suddenly The Inventor Appeared" (1984)の英訳 (L. Shulyak, 1997) )。
[8] 『超発明術TRIZシリーズ3, 「図解 40の発明原理」』 , G. Altshuller原著, L.Shulyak編著, 日経BP社訳, 日経BP社, 1999年1月。160頁。(原書: "40 Principles: TRIZ Keys to Technical Innovation", Genrich Altshuller, with new materials by Lev Shulyak, Tech. Innovation Center, 1997。日本語版は, 日経メカニカル誌の記事から多数の技術的事例を追加している。)
[9] 『実際の設計選書, 「TRIZ入門」思考の法則性を使ったモノづくりの考え方』, V.R. Fey, E.I. Rivin著, 畑村洋太郎, 実際の設計研究会編著, 日刊工業新聞社刊, (1997年12月)。
[10] "The Science of Innovation", Victor R. Fey and Eugene I. Rivin, TRIZ Group, Southfield, MI, USA, 1997, 82p.
[11] 『実際の設計選書, 「設計のナレッジマネジメント -- 創造設計原理とTRIZ」』 , 中尾政之・ 畑村洋太郎・ 服部和隆著, 日刊工業新聞社, (1999年12月), 210頁。
[12] 三菱総合研究所 「革新的創造・設計手法: ITD/TRIZ」 ホームページ。 http://www.internetclub.ne.jp/IM/ (日本語と英語)。
[13] 産業能率大学, TRIZ研究プロジェクト ホームページ: http://www.hj.sanno.ac.jp/triz/。
[14] "TRIZ Journal", WWW サイト, Ellen Domb and Michael Slocum 編. URL: http://www.triz-journal.com/
[15] 「TRIZの母国を訪ねて (1999年8月, ロシア&白ロシア訪問記)」, 中川 徹, TRIZホームページ, 1999年 9月 (英語と日本語)。
[16] "Injecting Creative Thinking into Product Flow", Ed Sickafus, First TRIZ International Conference, Nov. 1998, Industry Hills, California。 (和訳: 「製品フローに創造的思考を注入する」 , 中川訳, TRIZホームページ, 1999年1月。)
[17] "A Rationale for Adopting SIT into a Corporate Training Program", Ed Sickafus, TRIZCON99: First Symp. on TRIZ Methodology & Application, March 1999, Novi, Michigan。(和訳: 「SITを企業研修プログラムに採用した論拠」, 中川訳, TRIZホームページ, 1999年5月。)
[18] 「USIT法研修セミナー参加報告 (講師: Ed Sickafus, 1999年3月)」, 中川 徹, TRIZホームページ, 1999年3月 (日本語と英語)。
[19] 「USIT法の適用事例報告(1) ゲートバルブからの少量の漏水の検査法」, 中川 徹, TRIZホームページ, 1999年7月 (日本語と英語)。
[20] 「USIT法の適用事例報告(2) 高圧ガス入り溶融ポリマーから多孔性樹脂を成形する場合の発泡倍率の増大」, 中川 徹, TRIZホームページ, 1999年 7月 (日本語と英語)。
[21] 「USIT法トレーニングセミナー(3日間)の試行報告(2)」, 中川 徹, TRIZホームページ, 2000年2月 (日本語と英語)。
[22] 「TRIZ(発明問題解決の理論)の 意義と導入法」, 中川 徹, 大阪学院大学『人文自然論叢』第37号, (1998年9月), 1 - 12頁; TRIZホームページ, 1998年11月 (日本語と英語)。
[23] 「創造的な問題解決の方法論「TRIZ」を知ろう!」, 中川 徹, プラントエンジニア, 31巻 (1999年 8月号), pp. 30-39; TRIZホームページ, 1999年9月 (日本語と英語)。
[24] Ideation International Inc., WWWサイト: http://www.ideationtriz.com/。
[25] "Progress in TRIZ: Roots, Structure and Theoretical Base", Alla Zusman, TRIZCON99: First Ann. Altshuller Inst. Conf. on TRIZ, Novi, Michigan, Mar. 7-9, 1999。
[26] Invention Machine Corp., WWW サイト: http://www.invention-machine.com/。
[27] "Creative Design Methodology and the SIT Method", Roni Horowitz and Oded Maimon, 1997 ASME Design Engineering Technical Conference, Sacramento, California, Sept. 14-17, 1997。(和訳: 「創造的設計方法論とSIT法」, 中川訳, TRIZホームページ, 2000年3月。)
[28] "Problem-Solving Systems: What's Next after TRIZ? (With an Introduction to Psychological Inertia and Other Barriers to Creativity)", James Kowalick, 4th Ann. Intern'l. TPD Symp. - TRIZ Conf., Industry Hills, California, Nov. 17-19, 1998, pp. 67-86。 (和訳: 「問題解決システム:TRIZのつぎは何だろうか? (心理的慣性および創造性に対するその他の障害についての序論を兼ねて) 」, 中川訳, TRIZホームページ, 1999年 1月。)
[29] 「USIT -- 簡易化TRIZによる創造的問題解決プロセス」, 中川 徹,設計工学 (日本設計工学会誌), 35巻 4月号 (2000年), 111-118頁。(TRIZホームページ, 2000年4月 (日本語と英語)。)
[30] "Windshield/Backlight
Molding -- Squeak and "Buzz" Project -- TRIZ Case Study", Michael
Lynch, Benjamin Saltsman, and Colin Young, American Supplier Institute
Total Product Development Symposium, Nov. 5, 1997, at Dearborn, Michigan,
USA; The TRIZ Journal, Dec. 1997。(和訳: 「ウィンドシールド/バックライトのモールディング
-- きしみとバズ音のプロジェクト (TRIZ事例研究)」, 中川訳,
TRIZホームページ, 1999年9月。)
著者略歴
中川 徹: 現職: 大阪学院大学情報学部教授。1997年5月に初めてTRIZに接して以来, 当時在職中の富士通研究所においてTRIZの導入に努めた。1998年4月に現職の大学に移り, TRIZを日本の産業界と学界に導入することに努力している。1998年11月に公共的なWWWサイト『TRIZホームページ』を創設し, 編集者を勤めている。1963年に東京大学理学部化学科を卒業後, 同大学院博士課程で学び (1969年理学博士), 1967年に東京大学理学部化学教室助手。物理化学の研究, 特に, 高分解能分子分光学の分野で実験と解析を行った。1980年に富士通株式会社に入社し, 国際情報社会科学研究所にて, 情報科学の研究者として, ソフトウェア開発の品質向上の研究などに従事した。その後, 同研究所, さらに富士通研究所企画調査室において研究管理スタッフとして仕事をした。
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最終更新日
: 2001. 2.28 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp