TRIZ論文(翻訳) 
問題解決システム:TRIZのつぎは何だろうか? (心理的慣性および創造性に対するその他の障害についての序論を兼ねて) 
     James Kowalick (Renaissance Leadership Institute)
    第1回TRIZ国際会議,
    1998年11月17-19日, ロサンジェルス

   訳: 中川 徹 (大阪学院大学, 1999. 1. 5)
    (ASI, TRIZ Institute, および著者の許可を得て, 翻訳し, 
    本ページに掲載 1999. 1. 8)
   要点をまとめた表をまえがきに追加 (中川, 1999. 4.20)

 For going back to the English page, press: 


まえがき  「TRIZ ホームページ」への翻訳・掲載にあたって (1999. 1. 6.  中川) (1999. 4.20 追加, 中川)

 本論文の原題および出典は以下のようである。

  "Problem-Solving Systems:  What's Next after TRIZ?
   (With an Introduction to Psycological Inertia and Other Barriers to Creativity)"

    James Kowalick, President, Renaissance Leadership Institute
    Voice: (530)692-1944,  FAX: (530)692-1946,  E-mail: headguru@oro.net

  Proceedings of 4th Annual International TPD Symposium - TRIZ Conference,
  Held at Industry Hills, California, USA, on Nov. 17-19, 1998, pp. 67-86.
  Co-sponsored by American Supplier Institute and The TRIZ Institute.

本論文の翻訳および本ホームページへの掲載については,
  American Supplier Institute  のDr. Shin Taguchi,
  The TRIZ Institute (The TRIZ Journal)  のDr. Ellen Domb,  および
  著者 Mr. James Kowalick
から,それぞれ電子メールにより許可を得た。快諾いただき感謝する。

本論文に対する訳者の所感は, 第1回TRIZ国際会議参加報告に記したとおりであるが,
今回の翻訳作業の中で, TRIZの現状分析と今後の方向に関する本論文の大局的
な見方と含蓄とを改めて学び, 大変有益であった。日本の読者が, 原著者の心を
読み取られることを願って, ここに掲載する。

追補 (1999. 4.20 中川)  

本論文は, 長文であり, いろいろな要素が記述されているので, やや読み取り難い点がある。
そこで, (III)の「TRIZの限界と問題点」の章を中心として, その要点を表にまとめた。
参考にしていただきたい。
 
    従来のTRIZの限界と問題点     今後の方向 









問題システムのモデル化の
   表現力が不十分。
     (物質- 場分析) 
機能分析を米国で導入・発展した。
    Kowalick: Triads モデル
    IM社: 標準的な機能分析
    Ideation社: 原因・結果分析 
問題解決技法ARIZが複雑すぎ,
    「最良解」を指向している。
簡素化が必要。問題解決を速く。
    複数解を迅速に出して, ふるいにかける。
ソフトツールが未発展。 
   Effects などの事例集
ソフトツール化が米国で非常に発展した。
    さらに便利に, ユーザのニーズに応じて。
しかし, 現在は無競争で高価すぎる。
   個人でも手が届く価格が必要。 
独立の技法  他の方法の取り入れ。 (ブレーンマッピングなど)
 (米国で) 教科書ベースのトレーニング 実験ベースのトレーニングが有効。





創造事例の「結果」から 
   創造性にアプローチ。
心理プロセスに基づいた「創造性」の探索。
    レオナルドダビンチなどの研究。
「心理的惰性」を人間の心理・機能から
    理解できていない。 
もう二つの面を考える。
    「普通の想像」 (制御されない精神活動) 
    「同一化」 (とらわれ, 感情移入)
「創造的人格」の実践方法が, 
     広がりの強化で, 質の強化が弱い。
個人の創造性を質の面から増強するための
    人間心理学の実践的理解が必要。



 

(I) 序論

問題解決のためのシステム,技法,アプローチについての一つの歴史が,「ある発明
の誕生(Birth of an Invention)」[1]という,1995年にモスクワで出版された本に
記されている。その本には,TRIZアプローチが発展を続けていることを示す図が載
せられている。「Triads (三つ組み)」についての最近の論文[2]もまた,もう一つの強
力な問題解決アプローチを提示している。これらのアプローチはそれぞれ,「問題解
決に使われるシステムたち」に対する一組のS-曲線[3,4]のどこかの位置を占める。

一つの旧来の技術システムのユーザや開発者にとっては,新しいシステムがやってき
たとき,それを歓迎することは難しいものである。このことは,それ自身一つの技術
的システムをなしているTRIZアプローチにとっても例外でない。この問題解決アプ
ローチに熟練しているユーザたちは,彼らが現に使っているシステムが「究極のもの」
だと信じたがるかもしれない。しかし,進歩はだれにとっても止まることはない。シ
ステムの進化の概念が意味することは,「何かより良いものがやってくる」というこ
とである。何かが現行のアプローチの欠陥を正し,以前のものよりも優れた機能を提
供する,ことである。

TRIZは「歳を経た("old")」システムであり[5,6],50年以上に渡って開発され,使
われてきた。それは西側諸国ではまだ相対的に新しいシステムであるけれども,TRIZ
のS-曲線上では,「成熟した("mature")」アプローチのステータスにある。

TRIZが成熟したシステムであることの一つの徴は,(問題解決プロセスを単に加速す
るだけの)ソフトウェア[7]の使用によってその性能が強化されつつあることであ
る。TRIZシステムが成熟しているもう一つの徴は,実践中のTRIZ専門家たち
("TRIZniks") に最近「標準化」の必要が出ていることである。新しい,「ブレークス
ルー」アプローチ[8]が,TRIZアプローチの一部または全部を置き替えるだろうこと
が,期待される。

製品を市場に出している企業にとっては,新しいシステムがTRIZを置き替えようと,置き替
えまいと,全く構わない。彼らが注意を払うのは,彼らが,迅速かつ効果的に問題を
解決し,ブレークスルーを含む設計を作り出すことができるかどうかである[9,10]
そのような能力は,かれらのビジネスにおいて,彼らを強力に助けるであろう。

筆者は企業クライアントからしばしばつぎのように尋ねられる: 「新しい,より
良い問題解決システムで,どんなものが将来に見えて来ているか?」,「TRIZを置き
替えるか,そのパフォーマンスをずっと改良するのは,どんなシステムだろうか?」,
また,「TRIZを越えるものは何か?」

本論文の目的は,つぎの点を検討することである。

1. TRIZの中心的な能力

2. TRIZで改良を必要とする領域[11](すなわち,現行のTRIZアプローチの「欠
       陥("deficiencies")」

3. 競合する,あるいは,より良い問題解決アプローチで,TRIZアプローチを置
      き替え,または,統合することができるもの

4. 「古典的TRIZ」からの発展の方向で,現在の開発者たちがすでに採用してい
      るもの。

これらの4領域について論じる前に,TRIZアプローチの歴史を非常に簡単に示して
おこう。
 


(II) TRIZとその西側への導入の歴史

TRIZの物語は興味深く,特異である。その歴史はさまざまのロシアのソースにロシ
ア語読者向けに書かれてきたが,英語ではあまり提示されて来なかった。

1. TRIZが最初に現れたとき,既存の問題解決アプローチよりも優れていた。
それは旧ソ連で開発されたが,その国の政府はその価値を認めず,支援らしい支援
をしたことがなかった。TRIZは長い間,政府にとって(そして,その結果,政府が
運営する諸組織にとって)政治的に不都合なものであった。ある点では,それは「地
下("underground")」運動であり,生まれつき学術的で知的な運動であった。恐らくこれが,
あのようなすばらしいアプローチの開発を支援する恰好の環境だったと思われる。

2. TRIZは,旧ソ連においては,主流の,商業的なテクノロジーを支援するのに,
利用することはできなかった。なぜなら,本質的に,旧ソ連では広範な商業的(自由
企業の)テクノロジーは存在しなかったからである。事業を興して運用する能力は禁
止されていた。顧客のニーズを判断し,満足させるという考えは,旧ソ連では実際的
でなく,文化の一部でさえなかった。

3.ずっと後になって西側諸国に輸出されるまでは,広範な分野のテクノ
ロジーと非常に多様な製品に対してTRIZを適用して,広くテストすることができなかった。
(例えば,TRIZの旧来のデータベースは,「エレクトロニクス」の効果やエレクト
ロニクス製品については全く貧弱であった。この分野のTRIZデータベースが本格的
に更新されたのは,TRIZが米国に来てから後であった。)その時までに,TRIZはす
でにほぼ40歳になっていた(1940年代後半のAltshullerによる最初の発見から起算
している)。

4. 1990年代初期,TRIZアプローチが企業の注目を引き始めたときに,その広
範で明晰な能力を直ちに認識したのは,極めてわずかの西側人(筆者を含めて)であ
った。TRIZについて少しでも聞いたことのある企業はほとんど皆無で,主流の技術
世界の少数の個人が聞いたことがある程度であった。今日でさえ,大部分の西側の企
業は,TRIZについて聞いたことがないか,あるいは,それが何であるかを理解して
いない。米国においては,TRIZは,問題解決の創造的アプローチとして,そ
の「幼児期」にある。

5. 米国において,企業に対するTRIZ教育の機会は初期には極めて限られていた。
公開のTRIZ入門コースが企業向けにコネチカット大学で開かれていた。これらのコ
ースの講師たちは,聡明でTRIZについての高い知識をもっていた。しかし,彼ら
のマーケッティングとトレーニングのアプローチは最適なものではなかった。
1990年代初期, TRIZが急速に「人気が出る("catch on")」ことはなかった。これは,
米国において,TRIZがその幼児期にあった(そして,いまなお幼児期にある)こと
のもう一つの徴である。

6. 米国でのTRIZの採用が遅い立ち上がりとなったもう一つの理由は,少数の
TRIZ組織が,そのクライアント組織や投資家とビジネスをしていく際に,無分別な
約束をし,過剰に積極的で,「すぐ金持ちになろう("get rich quickly")」という振る
舞いをしたことである。米国の一つの「先駆的」な企業が,この理由から,自分たち
はすでにTRIZに "bitter taste"(「真髄,隠し味」)を開発したと非公開で開示した。
これは,そのアプローチそのものは大変強力であったけれども,TRIZの発展にとっ
て少し障害となった。「買う側が注意しなければ("buyer beware")」という態度が,
TRIZの潜在市場の一部に今なお強く残っている。

7. そのような米国でのTRIZの初期時代に,(最近,フォーチュン誌で紹介され
た)二つの企業[13]が,カストマに高品質の製品とサービスを提供することを目標に
して,TRIZ市場に参入した。その一つが筆者らの企業,ルネッサンス・リーダシッ
プ・インスティチュート(RLI)であった。RLIは,企業内専門家への公開/社内の
TRIZトレーニングとコンサルティングを,1991年に提供しはじめ,そして,カリ
フォルニア州パサデナのCal Tech (カリフォルニア工科大)の産業協力センタにおい
て,エグゼクティブのためのTRIZ概論コースを設立した。このコースは何百人もの
エグゼクティブたちにTRIZアプローチを紹介した。

8. 1990年代初期に米国のTRIZ市場に参入した他方の企業は,インベンション・
マシーン社であり,各種のTRIZソフトウェアパッケージの開発プログラムを開始し,
それらは現在世界中で販売されている。古典的TRIZアプローチの教育を受けたグル
ープにとっては冒険的な手であったが,IM社はそのソフトウェア製品の販売にあた
って「TRIZ」の名前を使うことをやめて,問題解決に「機能分析("functional
analysis")」アプローチを採用した。それでも,彼らのソフトウェアはTRIZを基礎
としている。そしてまた,従来のTRIZ技法に機能分析を適用したそのやり方によっ
て,多くの価値が付加された。インベンション・マシーン社の製品については,本論
文でさらに言及するだろう。

9. 1990年代初期にTRIZトレーニングの提供に参入したもう一つのものが,ASI
(アメリカン・サプライア・インスティチュート)であり,本国際会議の共催者である。
ASIは,田口メソッドを,北米の自動車産業,そして後には多くの他の産業,に導入
したことで有名である。そのため,彼らにとってTRIZトレーニングを始めるのは自
然なことと思われた。

10. このような初期時代から,筆者は米国市場に,TRIZ Certification (TRIZ認定
資格),アドバンスドTRIZ,およびTRIZ技術予測を持ち込んだ。メルロー-インガ
ーソル・ランド(Melroe-Ingersoll Rand)を含む少数の企業が,これらのアプローチ
を有効に利用した。

11. 1996年に,筆者と Ellen Domb博士が,(本国際会議の共催者である)TRIZ
インスティチュートを形成し,World Wide Web上にTRIZジャーナルを誕生させた。
そのときから,全世界がTRIZアプローチを知るようになった。

12. 今年(1998年)では,12以上の公認のTRIZコンサルティング/トレーニン
グ企業が存在する。しかし,米国および西ヨーロッパにおいては,企業実践の面で見
ると,TRIZアプローチはまだその幼年期にある。12以上のTRIZコンサルティング
/トレーニング企業のうちで,最高水準でTRIZを教え・適用する能力を持つものは
少数である。

13. TRIZを上手に使うことを習得した少数の企業[14,15]は,多くの恩恵を受けて
いる。それらのうちの一つに,筆者のクライアントである,インガーソル・ランドの
メルロー社がある。ボブキャット〔注: パワーシャベルの商品名〕他の一連の製品の
メーカである。この会社は,最先端のツールやアプローチ(TRIZ, QFD, およびロバ
スト設計を含む)を,自社の全製品開発プロセスに,統合したやり方でうまく利用す
る方法を(社内ベースで)知っている,極めて少数の組織の一つである。会社主導の
動きは,ノースダコタにあるメルローの本社の経営トップによって開始され,いまも
支援され続けている。この会社が成功した一つの理由は,「社内コンサルタント
("internal consultant")」のグループを作り上げたことである。グループの各人は,
最先端の設計ツールと経営アプローチのうちの一つまたは複数についての専門能力を
持っている。メルロー社は,そのTRIZ活動について,本国際会議で論文を発表する
予定である。
 


(III)  TRIZの限界と問題点

いくつかの論文と少数の本が出版され[16],TRIZアプローチの長所を述べている。
しかし,これらのうちでTRIZを批判的な目で検証したものは極めてわずかしかない。
われわれはここに,TRIZアプローチ(TRIZトレーニングとソフトウェアを含む)
に付随している限界,欠陥,そして問題点について,いくつかを見ておこう。
 

(III-1) 複雑さ

「発明型の」問題を解決するためのTRIZの主要な手続きは,ARIZ (「発明型の問題
の解決のためのアルゴリズム」)と呼ばれる。ARIZの使用は大変有効である。筆者
とそのクライアントたちは,それを非常に難しい問題を解くのに使っている。しかし,
他の技術的手続きについて判断するのと同じ基準を用いてARIZを判断するならば,
「ARIZは非常に複雑なシステムであり,比較的短時間で学ぶのは容易でない」と言
わざるをえない。TRIZ専門家の中には異議を唱えて,「オー,だけど自分は非常に
効果的に教えているよ」とか,「君は何を期待しているんだ?なにか価値があるもの
を学ぶには,当然学生が努力せねばならないよ!」とか言うだろう。確かに,そのよ
うな意見にはいくらかの真理がある。しかし,それでも,本当に「最良の」システム
は,過剰に複雑ではなく,学ぶのにあまりにも困難で時間を要するものではない。そ
の意味で,「エレガントな」システムなのである。この課題(challenge)に対する対
応は,「システムを簡素化する」ことでなければならない。そして,それこそ,TRIZ
開発者やインストラクタたちが,過去数十年に渡って行なってきたことなのである。
 

(III-2) 物質-場によるシステム表現

TRIZにおいては,物質-場分析および物質-場モデルが,問題を照らして明確にす
るために,そして解決策の探索を容易にするために,用いられてきた。TRIZによれ
ば,物質-場は技術システムを表現する(実際には,技術システムの機能を表現する)。
しかしながら,物質-場の実際的な問題点は,その機能が存在するのに必要な,不可欠
のシステム要素(あるいは部品)[17]を記述するのに不十分なことである。その結果
として,解決策の可能性のドメインが,人為的に狭められている。物質-場だけを用
いたTRIZアプローチは,必ずしも, ある程度以上の高度な解決策を与える問題解決
技法にならない。

TRIZで定義されている物質-場は,すばらしく,また有用なコンセプトであるが,
まだ十分拡張されていない。物質-場モデルが典型的に表現するのは,二つのシステ
ムオブジェクト間の相互作用である。このように理解すると,物質-場モデルは問題
解決法にとって有用である。しかし,問題解決法は,"Triads" (「三つ組み」)を適用
すると一層有用になる。一つのTriadは,一つのシステム機能を表現し,3個までの
物質-場をその中に含んでいる。

上記の議論からは一つのTriadが一つの物質-場と大して違わないと見えるかもしれ
ないが,物質-場とTriadとを良く理解して統合的に使う実践家には,問題解決が顕
著に強化される。
 

(III-3) 個人的創造性 (personal creativity)

TRIZの利点の一つに,TRIZの実践は,人々が考えるしかたにブレークスル
ーを起こさせることが主張される。TRIZの実践は実際に個人の創造性を,精神の能力を
有意に拡大するように,強力に変える。これは,TRIZの哲学と実践とを理解し適用
することの結果である。

TRIZ専門家たちによって,精神の創造力を増強することを目指した,一連の練習と
実践が作られてきた[1]。このアプローチは「創造的人格("creative personality")」
に導く。しかしながら,TRIZの実践が,個人の創造性の「レベル」を有意に向上させな
いままで, 創造力を強化することになりがちである。創造性を拡張する大規模なツ
ールや技術が すでに存在しており,それがTRIZアプローチの一部でもある。しかし,
筆者の意見 では,これらが実践者の創造力を拡張するのは,第一義的には,
「横("lateral")」方向であり,「垂直("vertical")」方向でない。

TRIZの後継システムは,より高水準の個人の創造性を開発することにさらに進むで
あろう。TRIZがひき出さないままでいた人間の潜在能力をひき出すだろう。次世代
の創造性システムは,人間心理学についてのより優れた理解を土台にするだろう。
TRIZの誕生の最初から,人間心理学は真剣に考慮されなかった。なぜなら,心理学
が創造性や問題解決に関しての理解をもたらすことがなかったからである。

個人の創造性を有意に増強する手段として,人間心理学の実践的な理解が重要である
ことを,筆者は自ら検証した[18]。ある種の心理学的な実践と練習が,より高度な創
造力の開発に実際に導く[19]。このような実践と練習は,おそらく,次世代の創造性
システムの一部分となるであろう。
 

(III-4) 心理的惰性(Psychological Inertia)

心理的惰性(PI)は,Altshullerにより発見され,その後,ZlotinとKowalickによっ
て精緻化された[20,21,22],概念である。心理的惰性は,より高度な思考を阻害する
ものを非常に的確に記述する,強力な概念である。本論文では,現行の問題解決シス
テムの観点から,心理的惰性を議論する。TRIZアプローチでは,心理的惰性が,創
造的思考の「主要な」障害であるとされている。

TRIZ哲学の問題点の一つは,心理的惰性について組織だったやり方で表現し
ていないことである。さらに,心理的惰性と人間の機能との関係が,よく確立されて
きていない[21,22]

将来の問題解決システムは,心理的惰性を,創造的問題解決に対するいくつかの主要
な障害のうちのただの一つであると,認識するであろう。もう二つの障害は,人類に
非常に広がっているので,ここでさらに議論しておく必要がある。それらの障害とは,
「普通の想像("ordinary imagination")」と「同一化("Identification")」である[23]。
 

(III-5) 普通の想像(ordinary imagination)

創造性に対する主要な障害の一つは(心理的惰性の他に),「普通の想像("ordinary
imagination")」[24]である。それは,実際,「白昼夢("day-dreaming")」あるいは
精神の制御されていない彷徨い歩きの一つの形態である。これはほとんどすべての人
に,ほとんどいつでも起こるものである。それの虜になった人には,それが創造性に
対して有害な影響を持っていることを観察する機会は少ししかないだろう。しかし,
それを観察し,それに対抗することは可能である。

一人で静かに車を運転しているとき,同じ考えが,同じ型の主題に関して,自分の心
の中で繰り返し(なんども,なんども,なんども)流れ過ぎてゆくのに気がつく
かもしれない。その主題は人ごとに違っているかもしれないが,それぞれの人に
とっては,同じ,いわゆる「考え("thoughts")」,が繰り返されていく。これは普通
の想像の,制御されていないプロセスである。これを行なうためには,一定の「エネ
ルギー」が必要である。このエネルギーは,創造的エネルギーの限られた貯蔵庫から
取られる。

(人間の)創造的エネルギーが,普通の想像のために消費されることは,より高度な
より創造的な機能に使えるエネルギーが少なくなることを意味する。普通の想像は,
それが制御されていないものだから,大変強いものである。人間には,自分で意図せ
ずに,「ひとりでに起こってしまう」のである。普通の想像から逃れることを目的と
した練習がある[19]。このような練習は効果があり,TRIZの後継システムの一部と
なるであろう。ここでは,普通の想像が,「創造的な想像("creative imagination")」
とはまったく違うことを強調しておく必要がある。前者のプロセスは制御されないも
のであり,後者のプロセスは制御されたものである。
 

(III-6) 同一化 (Identification)

創造性に対するもう一つの主要な障害は(心理的惰性の他に),物,考え,感情,人々,
概念,そして一般に状況,が持つ力であって,人間の注意を引きつけ,人間に創造的
で意思的なしかたで注意を払うことができないようにしてしまうものである。普通の
想像と同じように,これも人間から,より高度なより創造的な機能に使えたはずのエ
ネルギーを奪うのである。このプロセスを適切に記述する語が,「同一化
("Identification")」[24]である。その意味は,物,考え,感情,他人,などの力が非
常に強力であり,その結果,その「犠牲者("victim")」が,引きつけられているとこ
ろの物,考え,感情,他人,などに実際になってしまう,ことをいう。この創造性を
遮るプロセスの事例を,日常生活の中から何百と思いつくことは大変簡単である。

同一化の一つの例として,筆者はつぎのような光景を最近見た。車の運転者が,パン
クしたタイヤの直ぐ横に立っていて,タイヤを蹴って,大きな声で,あたかもタイヤ
に耳があるかのように,タイヤ向かって叫んでいるのであった。タイヤはその「報復
("revenge")」を受けた。しかし,それは運転者から,もっと賢いやり方で使うこと
ができたはずのエネルギーを奪った。ある人が「同一化」されてしまった,いかな
る物,考え,感情,人々,などについても,同じことが言える。例えば,会議におい
て自分のコントロールを失ってしまうと,エネルギーを同様に損失する結果になる。
それは一つの対立(contradiction)である。そこそこ創造的な人々でさえ,もし彼ら
が単に自分の機嫌(temper)をコントロールできさえすれば,もっともっと創造的
になれたであろう。しかし,彼らが変わることは通常不可能である。なぜなら,自分
の機嫌を愛していることがしばしばだからである。

普通の創造と同一化の他にも,創造性に対する障害がある。これらの障害がどんなも
のであり,それがどのように働いており,それに対抗したり,除去するにはどうすれ
ばよいか,を十分理解することが,より高い創造力に導くであろう。TRIZの後継シ
ステムは,創造性に対するこれらの障害を克服したところに,基礎を置くだろう。
 

(III-7) TRIZトレーニング

「歴史」についての前節で述べたように,1990年代初めでは,TRIZアプローチに
ついて受けることができるトレーニングは,相対的に非効率であった。これには,い
くつかの理由があった。一つは,単に,良い英語で提供されなかったため,英語を話
す学生たちには非常に分かり難かったことである。第2に,トレーニング資料が明快
とはほど遠かったこと。第3の理由は,トレーニングが実験を伴わなかったこと。す
なわち,トレーニング中で事例紹介だけが提供された。トレーニングの参加者が教室
に持ち込んだ「現実の ("real")」問題について,トレーニング中に作業することが不
可能であった。

この状況はカストマの需要によって相当に変わってきた。ただ,TRIZトレーニング
の初期の,元からのプロバイダの中には,変化が遅かったり,全く変化しなかったも
のもある。TRIZトレーニングに最も大きな積極的な変化をもたらせたのは,実験ベ
ース("experiential")TRIZセッションを提供したトレーニング・プロバイダたちで
あった。そこでは,参加者は,トレーニングセッションに現実の問題や設計課題を持
込み,そしてその解決策コンセプト(しばしば,特許申請可能なもの)を持って帰る
のである。

次世代の問題解決システムは,今日のシステム(すなわち,ブレーンストーミング,
試行錯誤,およびTRIZ)よりも,問題解決プロセスをもっと迅速にしなければなら
ない。トレーニングセッションは,実験ベース(experiential)でなければならない。
すなわち,参加者たちが,単なる知識以上のものを持って帰ること, を意味している。
参加者たちは,自分自身にかかわりがある(of interest)現実の問題について,作業
し,問題を解いた経験を持って,セッションから帰っていく必要がある。これらの需
要は,情報をさらによく吸収し,より短いトレーニング期間を要請している。
 

(III-8) 創造性ソフトウェア (Creativity Software)

 発明のためのソフトウェアの世界においては,一つの矛盾がある。今日,TRIZソ
フトウェアを二つのキーパラメタが特徴づけている。品質と価格である。その矛盾と
は,競合がほとんどない現市場において,入手可能なソフトウェア(高品質のソフトウ
ェアで,一般の人たちがぜひほしいと思っているもの)は,歴史的に,それによって
多大の利益を受けるだろう人たちが手を出せる価格帯をはずれている,ことである。
発明のためのソフトウェアのもう一つの問題は,それがまだ十分「ユーザフレンドリ」
でないことである。

将来における発明および問題解決のソフトウェアは,現在のソフトウェアよりも,も
っとユーザに対してフレンドリで,もっと多くの価値を提供するものでなければなら
ない。ソフトウェアはまた,「面白さ("fun")」の要素も持っていなければならない!
グラフィックスがすばらしくなければならないし,アニメーションも適切に提供され
る必要がある。チュートリアルは,「ソフトウェアの使い方」をカバーするだけでな
く,ソフトウェアが基礎を置いている基本的な創造性アプローチのバックグランドを
も与えるものでなければならない。チュートリアルによって,ソフトウェアの使い方
は自明になっている必要がある。すなわち,実践者(practitioner)がソフトウェアを
「理解」するのに,別途「トレーニング・パッケージ」を必要としないものである。

ソフトウェアの価格は,大量使用ベースでの市場にアッピールするもので,中小企業
や個人でも手が届く価格を含むものでなければならない。このことは,発明のための
ソフトウェアは,(筆者の推定では)1200ドル以下で売られる必要がある。そのよう
なソフトウェアを提供できる組織が,これからの新しい市場において,
最大のシェアを獲得するであろう。(非常に多数の潜在的ユーザが,今日の問題解決
アプローチの力量を,まだ知っていない。)

筆者の会社(ルネッサンス・リーダシップ・インスティチュート)は,クライアント
企業と一緒に使う発明のアルゴリズム・テンプレートを,創った。これらのテンプレ
ートはソフトウェアとして入手可能で,技術専門家が問題を解決するのを,非常に効
果的に支援する。そのテンプレートは「機能的 ("functionally")」ベースである。そ
の意味は,実践者(practitioner)は問題分析と定義の最初のいくらかの過程を実施し
て,対象とする機能にまで到達しなければならない。実践者がここまでを達成すれば,
そこからアルゴリズム・テンプレートが「引き継ぐ ("takes over")」。テンプレート
は,(1) genericな(一般形の)発明的解決策のプロンプトか,あるいは,(2) 実践者を特
定の創造的パスに沿って誘導する("steer")助言か,を提示する。

テンプレートの一つは,問題の選択段階を支援するものである。それは,機能の相関
図と,技術チームが優先順位づけできる目標宣言の集まりとを,一緒に生成する。チ
ームは,利益/リスク比や市場(およびビジネス)関連性などの観点から優先順位を
判断する。このテンプレートをあるコンピュータソフトウェア会社で使ったとき,従
業員の維持(retention)に関わる問題に対して,彼らはいくつかの代替解決策
を導きだした。

もう一つのテンプレートは,選択された機能を改良するために,40の発明の原理の
それぞれに基礎を置いた,解決策のプロンプトを提示する。これらのプロンプトを,
「ある種の薬分子を皮膚層を通して,血流の中まで配送するにはどうしたらよいか」
という,パッチシステム(transdermal patch system)に適用した。その結果,これ
らのプロンプトはいくつかの宝石("gems")を含んでおり,それぞれが最良の解決策
に採用された。

さらにもう一つのテンプレートは,「技術予測("technology forecasting")」の観点か
ら,解決策のプロンプトを提示する。これらのプロンプトは,11の「技術システム
の発展の法則("Laws of Development of Technical Systems")」を基礎にしている。
このテンプレートを補完するテンプレートがあり,さらに詳細に,技術システムがそ
の「生涯("lifetime")」に渡って進化するにつれて起こる,主要オペレーションに基
づいた,一般形の発明のプロンプトを生成する。このテンプレートは,水力システム
についての技術予測を行なったある会社の技術スタッフにとって,すべてのテンプレ
ートの中で最も効果的だったものの一つであった。

最後に,さらに二つのテンプレートは,"inventive memory jogs" (「発明の記憶の助
走(?)」)として働く。実践者に,すべての技術システムが4個の主要部品("parts")を
持っていること,および,すべての技術システムがその生涯の間に4つの段階
("stages")を経ていく可能性があること,を強制的に思い出させる。これらの二つ
のテンプレートは,実践者に,自分の技術システムに関して,「弱点("weak points")」
や「発明の機会 ("inventive opportunities")」を考えさせる。
 

(III-9) 問題解決手続きの哲学

問題解決に対するTRIZアプローチは,焦点を絞ったアプローチであり,(問題の状
況に関連した制約に依存して,)いわゆる「最良の("best")」解決策(あるいは少数
の「最良」解決策)に,どちらかというと直接的に導くものである。TRIZは,つぎ
の二つが関わる手続きを無視する傾向にある。
  1) 「多数の可能な解決策 ("many possible solutions")」を生成し,ついで,
  2) ふるいにかけて選択する手続き

筆者とそのクライアントたちは,どちらかというと直線的なアプローチだけを持つ手
続きは,恣意的であるだけでなく,優れた解決策の可能性を見逃す傾向にあることを,
見つけた。mind-mappingやPugh Analysisのようなツールを,TRIZと一緒に使う
ことは,複数パスの問題解決アプローチを有意に加速し,より高水準の解決策に導く。

高水準の解決策を得るための手続きとして,TRIZの解決手続きは「悪く」はない(not
"bad")が,それが唯一のものでも,最良のものでもない。複数のパスは,単一のパス
よりも優れている。それは,複数のパスがタイムリでコスト・エフェクティブに探索
できる限り,また,得られる解決策の質が高い限り,そうである。発明用ソフトウェ
ア,mind-mapping,Pugh Analysis, およびその他のよく知られたツールを使用す
ると,「複数パス("multi-path")」のアプローチが容易に実行可能になり,また,高
水準の解決策が得られる。
 

(III-10) 物理・化学・幾何の効果を発明的なやり方で適用すること

TRIZデータベースは,多数の実地事例を含んでおり,さまざまの物理的・化学的・
幾何学的な効果(effects)が,(発明された)結果を達成するのに,どのように発明的
に使うことができたかを示している。これらの効果は,必要とされたシステムの動作
や機能と関連づけられ,また,お互いに,場に対して,「物質("substances")」に対
して, そしてさらにいくつかのやり方で,関連づけられている。問題解決者あるいは
発明家は,これらの効果を自分の問題に適用する。

TRIZのこの分野は,米国において非常に進歩した。効果および上述の諸関係は,大
変優れた一つのデータベースに凝縮された。それは,以前の"effects"アプローチより
も,はるかにユーザフレンドリなものである。

将来のアプローチは,"effects"データベースをさらに数歩先に進めるだろう。そして,
さらにずっとユーザフレンドリになるだろう。これらのアプローチは,もっとユーザ
のニーズに合わせて調整され,カストマイズされるであろう。もっとエキスパートシ
ステムのように運用され,ユーザから情報を聞き出して,ユーザの特定のゴールに合
わせて出力をカストマイズするであろう。
 

(III-11) 機能分析

機能分析は本当はTRIZの一部ではないが,TRIZアプローチと連結して使われて
いる(物質-場分析は実に,機能分析の一つの進んだ形態である)。機能分析は,TRIZ
アプローチと関係するにつれて,二つの大きな方向に成長した。

1. インベンション・マシーン社は,彼らの後続のソフトウェアで,物質-場分析
   を使うことをやめて,より純粋な機能分析アプローチを採用し,人工知能における標
   準化された機能の言語を用いた。彼らのソフトウェアは,技術システムの発展の法則
   を使い続けている。彼らの "Predictions"プログラムは,(彼らはその出典を標準解決策ア
   プローチだと明示していないが,)実際,TRIZの「標準解決策アプローチ」に基づ
   いたものである。

2. いくつかの米国の組織は,フローチャート関連図(flow-chart relationship
   diagram)を採用し,システムの事象や部品間の,有用なあるいは望ましくない(ま
   たは「有害な("harmful")」)相互作用を記述するツールにした。これは,問題にして
   いるシステムの明快な図を与えるので,非常に強力である。それには,問題解決と目
   標選択のオプションがあり,さらに,高水準の目標記述を生成するのに使うことさえ
   できる。この目標記述はいろいろな使い方ができる。
 

(III-12) より優れた創造性プロセスの探索

TRIZの初期の形成期において,Altshullerは,問題解決者たちの努力の結果を学び,
それらの結果を注意深く観察し分析して法則やパターンを検出することによって,改
良した問題解決プロセスを開発できるであろう,というアイデアを抱いた。これは,
科学の古典的なアプローチである。特定の事例群(例えば,世界中の特許データベー
スからの多数の個別の発明)から,一般化された結論群(法則やパターン)を推論す
るのである。Altshullerとその協力者たちの仕事は,そのスコープにおいても,その
深さにおいても,桁はずれのものであった。

Altshullerの探索は「創造性の科学("the science of creativity")」を求めたもので
あった。その探索を行なうにあたって,彼は「一つのパス」を選択した。創造性の結
果に基づいて,法則や原理やパターンを探すことであった。彼は,創造的プロセスを
発見するのに,人間心理の理解を利用するというパスを放棄し,「結果」のパスを選
択したのである。

TRIZの福音による「創造性("creativity")」は,TRIZアプローチとその種々のツー
ル,技法,手続きに関する,知識とそれを使うことである。しかし,実際は,これら
の創造的な手続き,ツール,および技法は,創造性そのものを表してはいない!創造
性はまだ神秘のままである。Altshullerがその晩年に,「創造的人格("creative
personality")」とそれがいかにして発展するかの研究を開始した,ということを受け
入れてもなお,その研究で採用されたアプローチが,本当の創造性の秘密に導くもの
ではなかった。

創造性そのものをよりよく理解することは,より優れた問題解決と,より優れた創造
的設計に導く。「人間システム(the "human system")」は,創造性を可能にするサ
ブシステム群を持っている。人間は,通常しているよりも,ずっと高水準の創造性を
もって,創造的に仕事をする能力を備えている。これは実際,いわゆる「閃き
("enlightenment")」の事例において,たびたび示されてきたことである。そのよう
な条件は,それがいかに短く,説明できないものであっても,高水準の知性の事例で
ある。

問うべきことは,つぎの3部分からなる質問である。「創造的な『閃き
('enlightenment')』と呼ばれる条件を,その持続時間,頻度,および深さにおいて,
増すことは,どのようにしたら可能だろうか?」

TRIZアプローチが基礎をおいている技法・パターン・手続きは,その人の創造的な
"capacity" (「容量,能力」)に貢献するが,精神の創造性のレベルを有意に向上させ
ることはない。TRIZは,まことに,「創造性の科学」である。しかし,精神の創造
性のレベルを向上させることは,他人の創造的な成果を分析することには依存しない。
それは,その人自身の,生来の知性を向上させること,より高水準の思考の障害とし
て働いているドアを開けることを必要とする。

次世代の問題解決アプローチは,より高水準の思考を基礎にするだろう。より高水準
の思考は,より高水準の精神活動の,頻度,持続時間,および深さを増すことによっ
て実現されるであろう。次世代アプローチは,TRIZアプローチよりもずっと強力な
ものと期待できる。それらのアプローチは,人の創造性をより高くする,なんらかの
練習や実践[19]を含むであろう。

そのような練習や実践はどんなものだろうか?それらは二つの一般的なカテゴリに分
類できる。
 1. より高水準の思考に対する障害を,消去,減少,あるいは防止するための,
    実践と練習
 2. 創造的思考のレベルを向上させるための,実践と練習

前者のカテゴリは創造的エネルギーの損失をなくすための技術を含む。後者のカテゴ
リは,創造的エネルギー自身の「生産性("productivity")」を向上させる技術を含ん
でいる。

筆者は20年以上にわたって,(人の創造性のレベルを向上させるという)この一般
的な分野に興味を持ってきた。そのような技術がすでに存在するだけではない。それ
らは永年にわたって存在してきた。このような技術のいくらかを知って,実践した,
一人の歴史的人物がレオナルドダビンチであった(彼のノートブック[25]を注意深く
分析すると,そのいくらかを明らかにできるだろう)。

他の歴史的人物もまたそのような能力のいくらかを持っていたけれども, そのような
創造的な人物の生涯における主要な「できごと("event")」や「傾向("trends") 」を研
究するだけで,それがどのような能力であったかを十分発見することは不可能であ
る。しかし,それらの秘密を発見する,他の技術もある。

(IV) 新しい問題解決アプローチと先進的発展

TRIZ,ブレーンストーミング,および試行錯誤の各アプローチは,百年以上の歴史を
持っている。TRIZの発展はよく文書化されている[1]
 

(IV-1) ブレーンマッピング(ブレーンストーミングの進化の成果)

ブレーンストーミングのつい最近の発展は,恐らくあまりよく文書化されていないが,
この創造性ツールをさらに一層強力で迅速なものにした。

ブレーンストーミングの一つの卓越した発展は,「ブレーンマッピング
("Brain-Mapping")」と呼ばれ,ブレーンストーミングをはるかに強力にした。ブレーン
マッピングは,原形のブレーンストーミングと,品質管理ツールの一つとをマージさせ
た結果である。それは,魚の骨の図(fishbone diagram) (また,「原因-結果図
("cause and effect diagram") 」あるいは石川ダイアグラム(Ishikawa diagram)と呼ば
れる) である。筆者は最近, 筆者のカリフォルニア工科大における2日間TRIZエグゼ
クティブコースを完全に組み替える際に,ブレーンマッピングを補助に用いた。簡単
なブレーンマップから始めて,最後には,コースの内容の随分しっかりしたブレーン
マップができた。このブレーンマッピングは,TRIZコースの組み替えのすべての側面
を明確にするのに有用であったばかりでなく,コースのアウトラインを作るのにも役に
立った。筆者のブレーンマップの結果は,下記の二つの図に示す。
 


 

上に示すブレーンマップは,「創造性("creativity")」の主題から始めて, いくつかの方
向に枝分かれし, つぎのトピックスに注目した。創造性の応用, 問題について,個人
の創造性の理論, 創造性に対する障害, および種々の創造性アプローチ,である。こ
れらの「主要トピックス("main topics")」のいくつかは, その後さらに, 他のトピックスに
分割された。例えば, 個人の創造性の理論は, 「脳の諸センタと機能」, 人格
(personality) , および, エッセンス, という主題に分化した。「創造性アプローチ」の主
題は,さらに分割されて,「伝統的な,通常のアプローチたち」,「新しい,革新的アプ
ローチたち」,および「TRIZと他のアプローチとの統合」になった。

これらはまた,どんどん分割されていき,結局,下に示すような一層完全なブレーン
マップが創り出された。
 

図2  (略)
 

ブレーンマッピングがTRIZアプローチの種々の側面と組み合わされると,その結果
はさらに強力なものになった。そのような統合システムが,Melroe-Ingersoll Rand 社
で社内的に使われ, 顕著な成功をおさめた。この会社は, 前述のように, 今回の国際
会議で発表をする予定である。この組み合わせた利用法については,それがプロプ
ライエタリである (企業機密に属する) ので, 筆者はこれ以上言及しない。
 

(IV-2)  Triads (「三つ組み」)

Triadsは問題解決システムにおける最新の発展である[2] 。Triadsは従来の問題解
決アプローチのどれをも無視してはいない。実際,Triadsは(TRIZを含む)従来の問
題解決アプローチと一緒に,統合したやり方で適用するのが普通であり,その結果,
高水準の解決策と次世代設計が得られる。設計解決策が迅速に得られる。Triads
の最新のバージョンは,筆者とその会社(Renaissance Leadership Institute) により
開発された。

簡単な事例を紹介して, 読者がTriadsの概要を知れるようにしよう。問題として, ステ
ンレスのパイプネットワークの内側を十分に洗浄する問題を考えよう。洗浄プロセス
終了後には,システムには汚れがなく, 完全に乾燥していなければならない。現行シ
ステムは, 高圧の洗剤水溶液を使い,その後,水で洗い,水蒸気を通し,ついで,熱
い空気で乾燥させる。このプロセス中の「時間的隘路("time bottleneck")  」は熱い
空気での乾燥段階である。この乾燥にあまりにも時間がかかりすぎる。問題は洗浄
の全体時間を短くすることであり, システムを複雑にしたり,余分のコストを加えない
ことが条件である。もう一つの制約は,パイプネットワークの内部の殺菌のために水
蒸気洗浄が必要なことである。

水蒸気洗浄後の問題状況を分析して,目標を「水蒸気洗浄で残っている,清浄な水
滴を乾燥させる速さを増すこと」とした。

水による洗浄後の問題状況を分析すると,目標は「水洗浄に続く水蒸気の適用の結
果として,清浄な水滴が残存しないこと」となった。

第二の目標文は第一のものより難しそうに見えたが,Triadsアプローチをこれに適
用した。「すべての機能(functions)は,  (それが存在するためには)  3つのオブジェク
ト, すなわち, 受動オブジェクト(a passive object), 能動オブジェクト(an active object),
可能化オブジェクト(an enabling object), から構成される」というのが法則である。受
オブジェクトとは, 能動オブジェクトによって「作用を受けたり, 変えられたり, 修正さ
れたり,除去されたり」するオブジェクトである。可能化オブジェクトとは, それがなけ
れば,能動オブジェクトと受動オブジェクトとの間に望ましい相互作用が生じないよう
なオブジェクトをいう。

この例では, 残存する水滴 (これが受動オブジェクト) が, 水洗浄の結果として, パイ
プラインの内部に存在する。これらの水滴を除去しなければならない。問題で与えら
れているように, 水蒸気 (これが能動オブジェクト) がパイプラインに入り, 内壁を殺菌
し,水のいくらかをシステムを通して移動させる。だが, 少量の水が残る。能動オブジ
ェクトと受動オブジェクトの間の望ましい相互作用は,「水蒸気が残存する水を完全
に除去する」ことである。しかし,これは起こっていない。

この不完全な作用における「可能化オブジェクト("enabling object") 」は何だろう? こ
の質問の別の聞き方は, 「それがなければ, 水蒸気と残存水滴とが望ましいように
(すなわち, 残存水滴を除去するように) 相互作用を起こさない, というオブジェクトは
何だろう? 」である。自明ではないかもしれないが,この可能化オブジェクトは, 残存
水滴と水蒸気を入れている「容器システム ("container system") 」である。もし容器
システム (すなわち, パイプ, 水蒸気の容器など) がなければ,残存水滴と水蒸気は
互いに接触するようにならない。得られたTriad を下に図示する。

このTriad が 3つの相互作用 (それぞれを, 物質-場とみなすことができる) を含む
ことに注意されたい。

問題に戻ろう:   殺菌をより良くすることは,この「既存("already existing") 」
システムにとっての問題ではない。問題は残存水滴をいかにして除去するかである (上
記の既存システムは残存する水を, 液体または気体の形で, 部分的に運び去っている) 。
「残存する水を除去する」機能の, この「部分的で不完全な実行」は, 上図において, 水
蒸気と残存水滴との相互作用を破線にして示している。

このTriad の図式は, すでにいくつかの一般形の解決策 (generic solution) を示唆
している。 1) 容器の性質を変える。 2) 水蒸気自身の性質を変える。「残存する水を
もっと除去する」ために, 容器システムおよび/ または水蒸気の性質を, 一体どのよ
うに変えることができるだろうか? その答えは, 「水が去っていくように動機づける
やり方で」である!この一般形の方法("generic ways")のうちの二つを考えてみよう。

A.容器システムを修正して,それが真空になるようにし,残存する水滴をシステム  
     外に引きつけるようにする。
B.水蒸気を修正して,それが残存する水を引きつけ,すべて持っていってしまうよ  
     うにする。

これらの二つの一般形解決策だけでも,いくつかのもっと限定した解決策(specific
solutions) に導いてくれる。

C.容器システムに真空室をつける。これにより,水滴が蒸発して,乾燥時間を減   
      少できるだろう。
D.容器システムを加熱する。これにより,残存する水が蒸発して,乾燥時間を減少  
      できるだろう。
E.既存の水蒸気容器を加熱して,水蒸気が "superheated" (過加熱) 状態でパイプ
      ラインに入るようにして, 残存する水滴をすべて, 自動的にその場で吸収するよ
    うにする。

限定した解決策のC とD は, 高価でシステムをさらに複雑にするかもしれない。しか
し, 解決策E はすばらしい。なぜなら, 既存のシステム資源を使っており, エネルギ
ーを大変効率的に使うからである。この後の「高温空気乾燥」段階は必要なくなる!
乾燥時間は,非常に長時間であったものが,非常に迅速になる。

注意: この面白い(challenging)問題にTriad を使ったことで, いくつかの可能性
のある解決策が, 問題解決者にほとんど自明なものになった。もし, 限定した解決策
がそれほど自明でなかったら, Triad の 3つの相互作用のそれぞれを, 物質?場とし
て分析し, 種々のTRIZ解決技法を使って候補の解決策に到達したことであろう。問題
解決者や設計者がTriadsアプローチを (必要に応じてその他の解決アプローチやツー
ルと一緒に) 適用すると, 問題解決の能率と問題解決の生産性が, 明白に向上する。
「物理的矛盾("physical contradiction")」の観点からは, この問題は, 「熱い空気
が (乾燥の目的に) 望まれるが,熱い空気は (乾燥時間の理由から) 望まれない」と
表現できる。一つの観点からは,理想的最終結果は「殺菌と乾燥」の 2段階を, 一つ
のシステムに結合してマージすることである。それは「Super-heated steam」(飽和蒸
気と不飽和蒸気が,一つになったもの)だ!そのような統合によって,処理時間は有
意に圧縮され,最後の高温空気の段階の必要が除去された。

筆者はTriadsアプローチを,(TRIZを含む)その他のアプローチを一層効果的に統合
する「上位システム("super-system") 」アプローチであると考えている。この意味
で, それは, 他の問題解決アプローチの「親 ("parent") 」アプローチである。
 

(IV-3) 「伝統的な」TRIZおよびARIZ教育問題の解決へのTriadsの利用

TRIZ専門家がTRIZおよびARIZを学生に教えるときに, 二つの古典的な問題を用いて
きた。

1.反応性の高い種々の液体を,小さな立方体の種々の金属合金に反応させる実験を  
      行なうために,固体の,機密性のある金属容器が使われている。この反応容器は,
      反応性液体と反応してはならないので,非常に高価である。この容器を使わなく
      て済むことが望ましい。何ができるだろうか?

2.ラジオアンテナはラジオ波を受けるが,雷から防御する必要がある。しかし,避  
      雷針(lightening rod) を使うと, それが入力ラジオ信号と不都合な相互作用を  
      する。もし,避雷針を使わないと,雷がラジオアンテナを破壊する恐れがある。  
      何ができるだろうか?

Altshullerは,その有名な著書『厳正科学としての創造性(Creativity as an Exact
Science) 』[26]において,上記の問題を解くために学生が学ばなければならないARIZ
(発明型問題の解決のためのアルゴリズム) の長くて様々なステップ (その各ステッ
プには種々のルールを参照している) を記述している。彼は, 最良の解決策から学生
を逸らせてしまう多くの落し穴があることを強調している。彼はまた, 最初の問題 (気
密密閉容器の問題) にはただ一つの解決策しかないと, 言っている。

Triads [2]を利用すると, これらの問題の解決はずっと簡単になる。

(IV-3.1) 反応容器の問題

第一の問題においては, 能動オブジェクトは「高反応性液体 (aggressive liquid)」
であり, 受動オブジェクトは「金属立方体(metal cube)」である。相互作用は, 「高
反応性液体が, 金属立方体と反応する」と記述できる。しかし, もし「可能化オブジ
ェクト(enabling object) 」が液体と立方体を一緒にして, それらが反応するために
接触できるようにしなかったならば, その反応は起こらない。この可能化オブジェク
トは, 「高価な金属容器」である。このTriad はつぎのようになる。

     
   
問題は高価な金属容器が望ましくないことである。そこで,これは「枝刈り("prune")」
[17]されうる。しかし,不幸なことに, 高反応性液体が金属立方体または選択され
た金属合金に反応するという機能(Triad)は,3つのオブジェクト(すなわち,能動,
受動,可能化オブジェクト)が機能を作り上げない限り,起こらない。もし,高価な
金属容器が「枝刈り」されるならば,何か他のオブジェクトが,(上図のTriad に示
すように) その「容れる("containment") 」機能と「包含 ("enclosure")」機能とを
置き替えなければならない。これをする最もありえそうなオブジェクトは, 金属立方
体自身か, あるいは, 高反応性液体である。これらのそれぞれが, 実際に, 解決策で
ある。これらの解決策に対する "Triads" を以下に検討しよう。

    
   
   解決策A.  合金立方体自身が (容器の形をして) 高反応性液体をいれ,液体はこ
         の内壁と反応する。
 

      
 
  解決策B.  高反応性液体自身が (凍結して固体となり) 反応対象の金属立方体お
         よび液体の高反応性液体をいれる。

解決策A(上図) は単純である。テスト対象の合金を「容器」の形にして (可能化オブ
ジェクト),  高反応性液体 (能動オブジェクト) を入れ,この高反応性液体がテスト
するべき合金の壁(受動オブジェクト)と反応する。

解決策B(上図)もまた単純である。高反応性液体が凍結されて,「容器」の形をした
固体となり(可能化オブジェクト),  それが液体の形の「高反応性液体」( すなわち, 能
動オブジェクト) を入れ, それがこんどは金属合金立方体 (受動オブジェクト) と反
応する。

Altshullerがその著書[26]で言っているのと異なり, ここには, 一つだけでなく,
二つの解決策がある!この特定の問題は学生たちにTRIZを教えるのに何年にも渡って
使われてきた。

問題の制約条件に応じて,上記の解決策のどちらかを選べばよい。 (大抵の場合に解
決策Aを選択しそうであるけれども,選択は実際に問題の制約に依存するのである! )
注目してほしいのは,Triadsを用いたこれらの解決策が実に簡単であって, ARIZの手
続きでこれらの解決策を得る場合に普通必要とされるような, 持って回ったルールや
手続きを全く必要としなかったことである。伝統的なTRIZ/ARIZ によるより複雑な手
続きの代わりに, Triadsと (機能分析の操作の一つである) 枝刈りの組み合わせが, 高
度に有効なやり方で使われたのである。

(IV-3.2) 避雷針の問題

第二の問題においては, 能動オブジェクトは「雷 ("Lightning")」であり, 受動オブ
ジェクトは「避雷針("Lightning rod") 」である。避雷針は, ラジオアンテナの近所
で雷が落ちる場合には,その雷を引きつけることを意図している。相互作用は, 「雷
が避雷針に落ちる (放電する) 」と記述できる。しかし,この反応は, 一つの「可能
化オブジェクト("enabling object") 」が雷と避雷針とを一緒にさせない限り, 起こ
らない。この「可能化オブジェクト」は, 雷が通過しなければならない「媒体
("media")」, すなわちイオン化した空気である。Triad はつぎのようになる。

  
   
ここの問題は, 避雷針がラジオ波の受信に対して「有害な効果 ("harmful effect") 」
を持っているために, 使えないことである。そこで, 避雷針を「枝刈り ("Pruned") 」
[17]しなければならない。しかしながら,不幸なことに,「雷が,ラジオアンテナの
代わりに,避雷針に落ちる」という機能 (Triad)は, この機能を構成する 3つのオブ
ジェクト (すなわち, 能動, 受動, と可能化オブジェクト) が存在しない限り, 起こ
らない。もし, 避雷針を「枝刈り」したら,何か他のオブジェクトが,  (上図のTriad
に示されているように) 「雷を引きつける("attracting lightning")」という作用を
置き替えなければならない。これをする可能性がもっともありそうなオブジェクトは,
雷自身か, イオン化した空気かの, どちらかである。イオン化した空気は「エアタワ
ー("air tower")」の形を取ることができ,それは, 雷があるとき (すなわち, ラジ
オアンテナの近傍にあるとき),雷を引きつける。しかし,雷が無いときには,エアタ
ワー内のイオン化していない空気は,ラジオ波の受信に不都合に反応することはない。
これで,問題が解けた(Triad を下図に示す) 。

 

ここでもまた, 解決策は単純である。空気の塔 (受動オブジェクト) をラジオアンテ
ナの傍に建てる。雷 (能動オブジェクト) が起きると, 雷の周りの大気中の空気 (可
能化オブジェクト) が雷によってイオン化される。もし雷のパスがラジオアンテナの
近くにくると, 塔内の空気が雷によって (半導体のように) イオン化され,雷が落ち
た後は速やかに脱イオン化される。このようにして, 塔内の非イオン化空気はラジオ
の受信になんらの脅威をも与えない。

この特定の問題もまた, TRIZの学生たちを教えるのに永年使われてきた。この, Triads
を使った解決策が, 問題を解くのに, ARIZの手続きに通常伴うすべてのルールや手続
きを通っていくことを必要としなかったことを, ぜひ注目してほしい。伝統的な
TRIZ/ARIZ のより複雑な手続きの代わりに, Triadsと (機能分析の操作の一つである)
枝刈りの組み合わせが, 高度に有効につかわれたのである。
 

(IV-4)  Triad の機能分割の一般形
            (Generic Functional Decompositin of a Triad)

機能分析の方法を実践する人々は, 機能を, 一連の系列またはプロセスを表すステッ
プに, 規則的に細分化していく。これをするにあたって, 同じシステム機能について
も, 二人の設計者が全く同じように (すなわち, 同じ数の同一の機能ステップに) 細
分化することはないであろう。

機能の例として, 「虫歯の補修 ("Repairing a decayed tooth")」を考えてみよう。
この機能はさまざまの機能ステップに細分化できる。例えば, 「虫歯の部分をドリル
で穴を開ける」, 「空洞を洗う」, 「充填合金の材料を集めて調整する」, 「充填合
金の材料を混合する」, 「柔らかい合金を空洞に入れる」, 「合金に細工して, 歯の
内部で形ができ固くなるようにする」, 「硬化充填物を削り, さらにメカニカルに成
形する」, および「歯を洗い, きれいにする」であり,下図に示すようである。
 

          ┌──  虫歯の部分をドリルで穴を開ける
          |
 虫歯の補修 ─┼── 空洞を洗う                             
          |
          ├── 充填合金の材料を集めて調整する                   
          |
          ├── 充填合金の材料を混合する                      
          |
          ├── 柔らかい合金を空洞に入れる                     
          |
          ├── 合金に細工して, 歯の内部で形ができ固くなるようにする        
          |
          ├── 硬化充填物を削り, さらにメカニカルに成形する            
          |
          └── 歯を洗い, きれいにする 
 

これらの 8個のシーケンシャルなサブ機能は, どちらかというと任意に選ばれたが,
それらは「歯の補修」という技術システムに対応する「階層的機能樹図 ("hierarchical,
functional tree diagram")」における, つぎレベルの機能の一つのバージョンを表し
ている。

ここで, つぎの質問を考える価値がある: 「選択されるサブ機能の数とシーケンスを,
普遍的で '一般形 (generic)' になるようにすることは, 可能だろうか? 」すなわち,
「機能分割を一般形にし, かつ, ただ一つの可能な (普遍的な) サブ機能群のシーケ
ンスしか存在しないことが, 可能だろうか? 」

筆者は, 機能を「標準プロセス ("standard processes") 」に分割する一般的方法
( generic way)を発見した。一般形機能分割の最初のステップは, 主機能 (primary
function) のTriad を形成することである。つぎのステップは,主機能のTriad 中の
「側面("side")」相互作用のそれぞれに対して, Triadsを形成する。このプロセス
は下図のダイアグラムで一般形を使って示されている。
 

   
        
元のTriad ( 機能) は中央の三角形で示されている。関心がある主相互作用は図に記
入されている。側面相互作用のそれぞれに対するTriadsを「完成させる」ことにより,
さらに二つのTriads (機能) が生成される。それらはすべて, 主相互作用が起こるの
に必要である。このようにして生成された台形の図は, 3 個の三角形あるいは 7個の
相互作用から構成されている (三角形の各辺が一つの相互作用である) 。これらの 7
個の相互作用が, 全体の (主の) 機能を構成する("comprise")。これらの 7個の相互
作用には,一つのシーケンス (順序) がまた存在する (この図に示した順序でなくて
もよい) 。この順序は, 選択された特定の主機能に依存して, 論理的な原因- 結果の
順序であるか, あるいは, 時間的な順序であるかの, どちらかである。

TriadsとTriads分解という主題では, 一冊の本ができるほどである。この主題分野
はまだ筆者によって発展中である。それにも関わらず, 上で論じた二つの「法則
("Laws") から, いくらかの重要な帰結が得られている。 (二つの法則はつぎの通り:
Triadsの法則: 「すべてのシステム機能は完結するために 3個のオブジェクトが必要
である。能動オブジェクト, 受動オブジェクト, および可能化オブジェクトである。」,
Triad 分解の法則: 「一つのシステム機能は 7個の一般形 'サブ機能' ( そのそれぞ
れがTriad である) に細分化, あるいは, 分解できる。」)
  〔訳注:  ここの「Triad 分解の法則」の要約文は, 原文を直訳しているが, 内容
     的に原文が不正確である。筆者が言いたいことは, 前段のパラグラフにより
         詳 しく表現されている。〕

システムの問題解決あるいは改良システムの創作において, 改良されるべきシステム
はしばしば一つあるいは多くの機能を持っている。設計者や問題解決者が, どの機能
を「改良する ("improve")」かを決めると, その機能を一つのTriad として表すこと
ができる。この「主」機能は,さらに分割 (分解) されて, 一連の機能にすることが
できる。もしこの「機能の系列」が一般形であれば,実践者(practitioner)は, シス
テム全体の改良に対して, どのサブ機能の改良が最も貢献するかを, 同定することが
できる。機能分解は, 「解くべき真の問題("real problem to be solved") 」に焦点
を絞ることにより, 問題解決を組織化する。

筆者とGernot Mueller博士[14]が選んだ最初の機能分解の応用のひとつが, 元素の
周期律表から出てきた問題に関わっている。周期律表は, 1869年にロシアの化学者
Dimitri Mendeleev によって発見された。Mendeleev は, 元素の物理化学的性質がそ
のプロトンの数の周期的関数であることを, 発見した。Mendeleev の発見の大きな成
功は, 未発見で未知の元素たちの化学的物理的性質を予測した能力であり, それらの
性質は後になって初めて実験的に確認された。しかしながら, Mendeleev の時代以来,
この性質の周期性に関していくつかの基本的な質問が答えられないまま残っている。
それらの質問は:

1.元素の性質が周期的なのは,なぜか?
2.元素の周期律表で観測されるように,周期性が一定でない(not consistent) の
   は, なぜか?
3.この周期的振る舞いのすべてを満足に記述する物理法則があるか?

Mendeleev の発見以来, これらの基本的な質問に, 満足な答えはなかった。それにも
関わらず, 上記の3 つの質問のすべてに対する答えが, 上で議論した「機能分解の普
遍的法則("Universall Law of Decomposition of Functions")」によって説明できる。
周期律表で一つの元素から次の元素に移ることに関わる「機能("function")」は, 単
純に,「もう一つの電子を原子の外側のエネルギー順位に加える」ことである。この機
能により,新しい元素は,先行する元素とは有意に異なる性質と振る舞いを示すに至
る。

Mendeleev の問題, そして彼の後継者たちにとっての問題は, 「同様な振る舞いを繰
り返す周期」の元素の数が, 最初の 8元素を越えて増えるときから始まった。すなわ
ち, 周期律表の各行に, より多くの元素を詰めこまなければならない。いわゆる「希
土類」のように, いくつかの元素がひとつのグループをなし, その性質や振る舞いが
互いに極めてわずかしか違わず, 物理的に分離することが非常に難しい。それらがど
うしてそんなに性質や振る舞いが「近い」のか? どうして, そんなに多くが同じ「周
期」 (あるいは行) を占めるのか?

科学者たちを永年に渡って悩ませたこれらの問題に対する答えが, Triad 分解のアイ
デアの中にある。周期律表の特定の一つの位置に, 予期されたように「一つ」の元素
がある代わりに, それは, 問題の元素/ 機能を 7個のサブ- 機能/ 元素のグループに
分解したものを表現する元素たちによって置き替えられている。

機能分解のもう一つの応用が医学分野にある。医療器具分野のシンクタンク会社であ
るBioFutures社は, 次世代医薬分子を予測するために機能分解を適用した。この会社
がした発見は, 夢の新薬を追い求めている製薬会社が現在行なっている研究開発プロ
セスを革命的に変えることを約束している。BioFuture の発見[15]は,医療器具と
製薬産業分野の問題に,Triadsを適用したことから始まった。

TriadsとTriad 分解の概念が,それを最初に聞いたときには,「消化("digest")」し, 理
解するのが難しいことを,筆者は認識している。それは,TRIZの技術のいくつかを最
初に聞いたときと同じことである。それにも関わらず,筆者は,今回の会議の参加者
が,これらの新しい概念を,少なくとも入門的には,知っておくのがよいと考えてい
る。これらの概念についてより詳しく筆者に尋ねたいと思う人を筆者は歓迎する。こ
れらの観念が次世代問題解決アプローチの研究の最先端にあると,筆者は考える。
 

(IV-5)  より高水準の創造性の自己開発

次世代の創造性システムは,より高いCQ(creativity quotient,  「創造性指標」) を
各人が開発することにチャレンジするだろう。その開発は (上記のような) ある種の
練習と実践を通して行なわれる。そのようなシステムは人間の機能をより明確に理解
することに依存する。この創造性開発プロセスは人間を一つの技術システムとして研
究することから始まる。人の創造的な力を増すという目標に関連した人間の機能に焦
点をあてる。人間の機能については最近の文献で議論されている[18,22]

個人の創造性の, 容量だけでなく, 「レベル」を上げるというこの目標が, 「システ
ム」の観点から見たときに, 人間の中で起こっている二つの一般的なプロセスを考え
ることによって, 達成できることを筆者は検証した。すべてのシステムは, なんらか
の操作をするのに必要なエネルギーを作り出すために, 燃料を消費している。このエ
ネルギーのいくらかは「有用な生産物」に寄与している。これが第一のプロセスであ
る。エネルギーのいくらかは, 「有害または望まない生産物」に寄与している。これ
が第二のプロセスであり, 「エネルギーの損失」を表している。

第一のプロセスは人の創造的な出力を増大することに導く。これを達成するための練
習や実践が存在する。これらの練習や実践は, 意思性(intentionality)を制御して適
用することと関連している。

第二のプロセスは, 人間の創造性に使えるはずのエネルギーの損失を防止するプロセ
スである。 (数種のエネルギー損失について, 心理的惰性, 普通の想像, 同一化の各
節ですでに議論した。) これらの創造性の障害/損失のそれぞれに対して,その創造
的エネルギー損失を減少させるために実践できる練習が,一つまたはいくつかある。
これらの練習もまた意思性の応用に関連している。

個人の創造性に対する障害は「つぶす("crushed")」か除くかしなければならない。
この「つぶす」プロセスは, いろいろな食べ物の「味見("tasting") 」をするプロセ
スとそう違わない。筆者は最近, D. Stam が「タイム("thyme") 」というハーブにつ
いて書いているのを読んだ: 「タイムはつぶされたときにだけ, そのかぐわしい香り
を放つ」。この譬えは創造性への障害についても当てはまる。

興味を持った読者は, 自分自身の創造力 (容量) についていくらかのことを容易に検
証できる。それには, つぎの質問に注意深くかつ正直に答えてみればよい。「私の創造
力は一定だろうか, それとも時間とともに (すなわち,一日の24時間の間, あるいは
一週間の間, など) 変動するだろうか? 」「もし私の個人的な創造力が実際に変動して,
ある最低値からある最高値まで変わり, ある「平均("average") 」レベルの創造力を
つくりだしているとしたら, この平均値を自分の最高の創造性の方向に動かすことが
できるだろうか? 」「どんな状況のときに私の創造力は非常に低いだろうか? 」「どん
な個人的状況のときに私の創造力はより高いだろうか? 」

自分の創造性の「レベル」をぜひとも向上させたいという読者は, つぎの一つのカテ
ゴリの練習をすることができる。このカテゴリの言葉練習 (word exercises) にはい
くつかの目的がある。
  1.  実践者に「パターンからはずれる("out of pattern")」練習をさせる。
  2.  一般的な注意のレベルを上げることを実践者に要求する。
  3.  創造的エネルギーの「源を創る("source-generator")」役割を果たす。

その練習は, 非常に簡単に書けるが, 実践するのは難しい。筆者の (TRIZ資格プログ
ラムにおける) 学生に対する指示には,つぎの注意がある。(A) プログラムに入って
いない人には,練習のことはなにも話さない。(B) 他人はだれもこの練習のことに気
付かないやり方で練習を試みよ (すなわち, 第三者には, 練習が普通のことからはず
れた, 変わったことだと見えないようにせよ) 。(C) プログラムに入っている他の人
がもし「禁句 ("veboten" word) 」を口にしたら, 言ってしまったよと気付かせてや
れ。そのような練習の典型的なもので, 読者が実践できるのは, 例えばつぎのもので
ある:
    「一ヶ月間, つぎの特定の語を一切使うな:  "the"  」

このような練習をマスターすることは, ひとが機能するレベルを究極的に上げる。こ
の単純な試行練習を, 自分の創造性の向上を目標として行なった人からの, フィード
バックを歓迎する。ただ, プログラムの練習がみんな言葉練習というわけではない。
いくつかの練習は, 知的機能以外の人間の機能に関係しているが, 知的機能が人間の 4
つの基本的な機能のうちで一番遅いのである[18,22]
 

(V) まとめ

他の技術システムと同じように, TRIZ自身もまた, 技術システムとして, 進化してき
た。TRIZアプローチのいくつかの部分は, 1940年代後半に発見されて以来, もうすで
に置き替えられている。TRIZはきっと他のシステムと究極的にマージしていくであろ
う。なぜなら, それはすでに, 「進化の Sカーブ ("S-Curve of Evolution") 」の頂
上あるいは頂上付近にあるのだから。次世代の問題解決システムは, 問題解決者を助
けて解決策をもっと迅速に達成するだろう, より高水準の解決策を生み出すだろう, そ
してまた, もっと容易に適用できるだろう。
 


文献

1.  Gasanov, et al., Birth of an Invention, Published by Interpraks, Moscow, 1995.

2.  Kowalick, James, Triads: Their Relationship to TRIZ, TRIZ Journal, June 1998.

3.  Kowalick, James, The TRIZ Approach, TRIZ Journal, November 1997.

4.  Kowalick, James, 17 Secrets of an Inventive Mind: How to Conceive World Class
  Products Rapidly Using TRIZ and Other Leading-Edge Creative Tools,
    TRIZ Journal, November 1996.

5.  Kowalick, James, Editorial, TRIZ Journal, May 1998.

6.  Kowalick, James, Altshuller's Great Discovery - And Beyond, TRIZ Journal,
  August 1997.

7.  Kowalick, James, No -Compromise Design Solutions to the Air Bag Fatalities
  Problem: Problem Analysis with TRIZ Using Invention Software,
    TRIZ Journal, April 1997.

8.  Kowalick, James, Advanced TRIZ Developments, TRIZ Journal, March 1998.

9.  Kowalick James and Domb, Ellen, How to Bring TRIZ Into Your Organization, TRIZ
   Journal, October 1997.

10.  Kowalick, James, TRIZ and Business Survival, TRIZ Journal, November 1996.

11.  Interview with a TRIZ Pioneer, TRIZ Journal, August 1997.

12.  Kowalick, James, Creating Breakthrough Products, Two-Day Executive Overview
   Session on TRIZ, California Institute of Technology, Industrial Relations Center,
   Pasadea, California.

13.  Bylinsky, Gene, Editor, Forutne Heroes of U.S. Manufacturing (Industrial
   Management of Technology), May 25, 1998.

14.  TRIZ Journal Interview wiht Dr. Gernot Muller, President, BioFutures, Inc.,
   TRIZ Journal, November 1997.

15.  Mueller, Gernot, M.D., Rapid Conception of Next Generation Trandermal Drug
   Delivery Systems and Next-Generation Drugs: The End of Technology Chaos,
       TRIZ Journal, December 1997.

16.  Breakthrough Press, Sacramento California, Ph:(916) 974-7755, Books and
   Reports on the TRIZ Approach (direct-mail sales catalogue).

17.  Kowalick, James, Tutorial: Use of Functional Analysis and Pruning, with TRIZ
   and ARIZ, to Solve "Impossible-to-Solve" Problems, TRIZ Journal, December 1996.

18.  Kowalick James, Human Functions, Languages and Creativity, TRIZ Journal, May
   1998

19.  Kowalick, James, TRIZ Certification Program (See "Calendar" Section in the
   TRIZ Journal).

20.  Zlotin, Boris, Private Translation by the TRIZ Institute.

21.  Kowalick, James, Psychological Inertia, TRIZ Journal, August 1998.

22.  Kowalick, James, Human Functions: The Source of Psychological Inertia, TRIZ
   Journal, August 1998.

23.  Zannos, Susan, Human Types, Weiser Press, Maine (Available through
   Breakthrough Press -  文献16参照).

24.  Nicoll, Dr. Maurice, M.D., Psychological Commentaries (6 volumes), London,
   1972, Robinson & Watkins Publishers.

25.  Linscott, Robert, The Notebooks of Leonardo da Vinci, translated in 1957 by
   Modern Library from the Italian language.

26.  Altshuller, Genrich, Creativity as an Exact Science, Gordon and Breach, New York, 1988.

                
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最終更新日 : 1999. 4.20    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp