TRIZ解説論文: USIT |
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USIT -- 簡易化TRIZによる創造的問題解決プロセス | |
中川
徹 (大阪学院大学)
設計工学 (日本設計工学会誌), 35巻 4月号 (2000年), 111-118頁。 [1999年 9月 3日受理, 2000年 4月 5日発行] [日本設計工学会の許可を得て, 本ページに掲載 (2000. 4.24 ) ] |
まえがき(『TRIZホームページ』への掲載にあたって)
(中川 徹,
2000. 4.24)
本論文は,日本設計工学会編集委員会からの要請に応じて,1999年 9月に執筆したものである。同学会の会誌「設計工学」は, 2000年 3月号と 4月号に, 「TRIZによる設計の基礎(1)(2)」という特集を行い, 8編の論説を掲載した。本論文はその中の一つとして, 4月号に掲載された。この特集号は, 日本における学会誌がTRIZを本格的に取り上げて解説をした初めてのものであると思われる。いままで日本においては産業界を中心にしてTRIZが広がってきたが, 今後, 学界にもTRIZが広く,正しく認識され, 研究・教育が行われることが期待される。
本論文は,
日本設計工学会の許可を得て, 和文および英文の両方で, 本ホームページに掲載するものである。この掲載許可に関し,
同学会に感謝する。
日本設計工学会
http://www.intermesse.ne.jp/jsde/index.html
なお, 本論文は,
USITについて, その方法論の全体を, 読みやすい論文として記述した最初のものである。(USITの開発者Sickafus博士は,
USITの詳しい教科書を出版しているが, いままで方法論の論文の発表をFord社から認められなかったという。)
USITは, TRIZのエッセンスを抽出し, 非常に使いやすい方法論として再構成したものである。読者の皆さんがUSITを理解して,
実地の問題解決に適用し, 成果を挙げられるのに役立つことを願っている。また,
(本論文執筆後の) 最近の筆者の経験を, USITトレーニングセミナーの試行報告(2)として,
本ホームページに掲載しているので参照されたい。
本ぺージの先頭 | 2. USIT概要 | 3. 問題定義段階 | 4. 問題分析段階 | 5. 解決策生成段階 | 6. USITの評価と導入法 | 参考文献 |
1. TRIZの簡易化が普及のカギ
TRIZ( 「発明問題解決の理論」) は, 旧ソ連において開発され,創造的な技術革新に役立つ多様な知識ベースと問題解決の方法論の体系を確立した[1, 2] 。冷戦の終了後にTRIZを知った西側諸国にとって, それは驚くべき深さと広さを持った知識と方法論の体系であった。それを用いれば, 技術革新が一層速く・広く・高度になると思われた。
しかし, TRIZの普及には長期の時間がかかることがわかってきた。TRIZの思想が深く膨大であり, ロシア語の言語の壁が高いためである。また, 旧ソ連諸国でも,TRIZの思想は一部の自覚した人々が学んだものであり, 企業内の多くの技術者を巻き込んだ一般的な普及の経験を持たなかったからである。激しい技術競争をしている産業界に導入することは,あらたな課題であった。
最近はTRIZの教科書が英語や日本語で翻訳・出版され, WWW 上で多くの情報が入手でき, 膨大な知識ベースもソフトウェアツール化されて便利に使えるようになってきた[1]。これらがTRIZの普及に大きく貢献するであろう。
それとともに, 技術の主要な担い手である企業技術者たちに, TRIZの何を教えるのか, TRIZをどのように使うことを教えるのかが, 普及させる側の大きな課題になってきた。TRIZの本当のエッセンスを, 使いやすい形にして, もっと簡易にそしてもっと広範囲に普及させることが, あらたに模索されている。
この簡易化を明確にしたのが, 1980年代初めにイスラエルでつくられた, Systematic Inventive Thinking (SIT, 体系的発明思考法) である。問題解決のプロセスが明示され, 解決策の生成技法も (TRIZの40の発明の原理に対して) 4種に集約された。
1995年に米国のFord社がこれを導入し, 改良してUSIT法 (Unified Structured Inventive Thinking, 統合的構造化発明思考法) と名付けた。同社では, シカフスが中心となってUSITチームをつくり, 毎月社内研修セミナーをして約 800人に教え, 企業内の技術課題の創造的解決に効果を上げている。活動状況が詳細に公表されており,TRIZを導入した諸企業のうちの最も成功した例である。
筆者は, 日本におけるTRIZの企業内導入にあたって,まずこの簡易化した形のUSITを理解し使いこなしていくことが得策であると考える。本稿は, USITの考え方の概要を, その問題解決のプロセスに従い, 適用事例をまじえながら解説する。より詳細は, 筆者が編集している『TRIZホームページ』[1] に掲載した関連記事を参照されたい。
2. USITの概要
USITの目標と特長は以下の点である。
(a) 技術開発の最初の過程である「コンセプト生成過程」に集中した技法である。最も創造性が要求される段階であり,従来適用できる技法がほとんどなかった。(b) 実地問題に適用して,複数のコンセプトを迅速に生成することをねらう。アルトシュラーが,より一層困難な問題の解決を目指し,「発明」の技法を目標にしたのとは異なる。USITでは企業の実地問題を創造的に解決するのが目標であり,必ずしも人を驚かせる発明を強調しない。
(c) 技法の使用に明確なプロセスがある。技法全体は「問題定義」「問題分析」「解決策生成」の 3段階から構成され,図表-1に示すフローチャートに従って進む。
(d) システムを記述するのに, 「オブジェクト」「属性」「機能」の概念を用い, これらを明確に定義して使用している。
(e) 各要素技法は単純化され,ガイドラインが明示されている。たとえば, 解決策生成技法は 4種のみで, オブジェクト, 属性, 機能の概念に対応して, 利用される。
(f) 知識ベースやソフトウェアツールを一切用いない。技術者が容易に学習・記憶できる技法であり, 技術者がグループで問題解決に使うと効果が大きい。
(g) 技術の詳細, 数値, 図面, 仕様, コスト, 納期などは, この段階では考慮の外に置く。できるだけ自由に, 広く考えるためである。コンセプト生成後に, 後続の技術的検討・ビジネス的検討の段階で, これらの要素を考慮して, 適切な選択・拡張を行う。
以下には, 図表-1のフローチャートを参照しつつ,
USIT法の問題解決のプロセスを説明する。この際, シカフスによる説明[3,4]
とともに, 筆者自身の適用事例 2件[5, 6]と研修セミナーの試行経験をまじえて記述する。
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図表-1. USIT法のフローチャート(Sickafus の原図[4] を筆者が修正したもの) |
3. USIT法の問題定義のプロセス
USIT法では, 解くべき問題を明確にする「問題定義」の過程を重要視する。実地適用の成否は, 問題定義が適切だったかどうかで決まる。
図表-2と-3は, シカフスのUSIT研修セミナー(3日間)
で筆者が行った適用事例A (「ゲートバルブからの漏水の検出」)
[5] とB (「樹脂シートの発泡倍率の増大」) [6]
について,問題定義の段階の記録(OHP シート) を示す。
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図表-2. USIT法の適用事例A(ゲートバルブからの漏水の検出)の問題定義 |
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図表-3. USIT法の適用事例B(樹脂シートの発泡倍率の増大)の問題定義 |
この段階は,(グループでの討議を踏まえて)つぎの項目を明確に記述する。
(a) 問題設定: 解くべき問題を 1〜2 行の文で定義する。目標, 課題, 制約状況など
(b) 図解: 問題状況を理解するための簡明な概念図
(c) オブジェクト群: 問題のシステムを構成するオブジェクトを列挙する。
(d) 根本原因: 問題を生じている根本の原因を記述する。 1項目 (ときには複数)
(e) 最小限のオブジェクト群: 問題を必要最小限に絞ったときのオブジェクト群
問題設定(a) の記述は, 簡単そうに見えるが,
ちょっとした言葉で問題解決の方向が大きく変わる。たとえば, 事例Aについて,下記の草稿文を比較してみるとよい。
・ 石油パイプライン用の高圧ゲートバルブの漏れの検査法を見出せ。
・ 石油パイプライン用の高圧ゲートバルブを製造した。漏れの検査法を見出せ。
・ 高圧ゲートバルブのゲートプレートの工作精度の検査法を見出せ。
・ 高圧ゲートバルブの製造検査で,水を使って漏れ検査をする。検査法を見出せ。
・ 高圧ゲートバルブの製造検査で,水を使って漏れ検査をする。毎分2〜3滴程度まで検査する方法を見出せ。
・ 高圧ゲートバルブの製造検査で,水を使って漏れ検査をする。毎分2〜3滴程度までを迅速に検査する方法を見出せ。
・ 少量の漏水(毎分2〜3滴程度)の迅速な検査法を見出せ。
根本原因(d) の記述も同様にデリケートである。事例Aでのつぎの文を比較せよ。
・ 水は透明で目にみえないから。
・ 水の漏れの位置が予め特定できないから。
・ 漏れが少量だから。
・ 水が「透明」(多くの検査法に対して不感性・中性)だから。
「根本原因」は,効果的に問題の焦点をしぼり,問題を能率的に解決するのに有効である。それは,「意味がある」解決策かどうかの判断を規定する。その結果,「根本原因」の記述は,問題状況を解釈するときのバイアスとして働き,問題を見る目を限定する。このような効果と副作用があるので,問題定義と根本原因の記述が,問題解決のすべての方向を決めるものとして大事なのである。
USITはこのように「一つの問題」に焦点を絞ることを重視する。もし, 絞りきれないなら,複数の問題があることを明確にし, その一つずつをUSITで問題解決していくのがよい。
4.USITの「問題分析」のプロセス
図表-1のフローチャートに示すように, USITの「問題分析」の過程は, 2本の流れに分かれ, どちらを使ってもよいし, 両方使ってもよい。第 1の流れは, 「閉世界法」と呼び, 問題を抱える現在のシステムの記述からスタートする。一方第 2の流れは, 「Particles 法」と呼び, まず理想解を考え, その後で理想解の実現法を検討する。これらの 2本の流れは合流して, 空間・時間特性を分析する「Uniqueness分析」をその後に行う。
4-1. USITにおける基本概念の定義
USITにおけるつぎのような基本概念をまず理解しておこう
[3, 4]。
「オブジェクト」: 名詞で表わされ, それ自体で存在し, 空間を占め, 他のオブジェクトと相互作用して属性を変化/ 変化防止する。例: 水, パイプ, 電子, 光子。オブジェクトでない例: 穴, 熱, 電流など。例外: 「インフォメーション」は特別にオブジェクトとみなす。「属性」: 形容詞で表わされる概念で, オブジェクトの特性 (characteristics) のカテゴリのことである。例: 色, 重さ, 膨張率など。属性でない例: 赤色, 30kgなど (これらは属性の値であり, 特性値(metrics) である) 。USITでは, 技術の詳細に立ち入らず, 特性値を扱わない。
「機能」: 動詞で表わされる概念で,属性を変化させる(または変化を防止する)。例:色を変える,加速する,容れる(contain) 。機能は最も一般的にはつぎの形式 [図表-4] で表現されるが, オブジェクトA, B, C は同じものでも, 違うものでもよい。
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図表-4. 機能の作用形式 (オブジェクトと属性との関係) |
4-2. 「閉世界法」による問題分析のプロセス
4-2-1. オブジェクトと機能の関係を「閉世界ダイアグラム」に記述する
まず最初に, 現在のシステムの本来の設計意図を,
機能分析により明確にする。このために, つぎのルールで「閉世界ダイアグラム」を構成する。
・ 問題定義で得た「最小限のオブジェクト群」だけを扱う。
・ 最上位のオブジェクトA (このシステムで最も重要なオブジェクト) を決める。
・ ついで他のオブジェクトB, C, ... を, 「上位のものに好ましい機能的関係にある順」に下位に配置する (詳細後述) 。
・ 一つのオブジェクトを重複して配置してはいけない。
・ すべてのオブジェクトを配置する。記述し残ったオブジェクトは傍系のダイアグラムとして表現 (または冗長だとして削除) する。
・ 直接の上下関係にあるオブジェクト間に, 「好ましい機能的関係」を代表する機能を一つだけ記入する。
上記で, オブジェクトA を上位とし,
オブジェクトB を直接の下位とするためには,つぎの条件をすべて満たしているものとする。
・ B はA に好ましい関係にある (B が Aを生成する, Bが Aのパラメタを変化させる, または Bが Aを取り除く) 。
・ B は Aと物理的に接触しており,そうでないと作用できない。
・ 設計者の意図として, A が Bより先にきた。 Aが Bより重要である。
・ もし Aが除かれると Bは不要 (冗長) になる。 Bの主要な存在理由が Aである。
機能の記述は, このような上下関係の吟味の中で明確にするものであり,
上下関係にあるオブジェクト間に一つの機能だけを書く。これはかなり強い制約である。この制約は,
設計意図 (すなわち本来の働き) を明確に把握するためのものである。
例えば, TRIZの教科書問題で, 月面探検用の電球のガラスを壊れなくする問題がある。答えは,
「たま (ガラス) をなくす」である。シカフスは, 電球の閉世界ダイアグラムが図表-5のように表わされるから,
この答えが自然に出てくるという[4] 。
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図表-5. 閉世界ダイアグラムの例: 電球 |
水漏れ検査の上記事例の場合には,閉世界ダイアグラムは,
図表-6のように表わされた。「インフォメーション」を特別にオブジェクトの一種として扱っているために,
この検査システムの意図をよく表現できている。
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図表-6. 閉世界ダイアグラムの例 (事例A) |
4-2-2. オブジェクトの属性を列挙する
ついで, 閉世界ダイアグラムに表わされたすべてのオブジェクトについて, オブジェクトの属性を列挙する [図表-6下] 。この段階は考えを広げることが主目的である。問題に関係しそうかどうかを強く意識して, 属性の列挙を絞り込むのはよくない。意外な属性が後で役に立ち, 創造的な解決策ができることがある。
4-2-3. 「定性変化グラフ」の形式で関与する属性を分類する
「定性変化グラフ」は, 図表-7の形式で表現する。このグラフのもとの意図は,
問題を生ずる (悪い) 効果を縦軸にし, それを起こす要因となる属性を横軸にして,
相関関係を図示することであった。USITの発展とともに, グラフを詳細に
(定量的に) 描くのでなく, 大づかみに (定性的に) 描くことの重要性が認識された。左右の図の斜めの直線も,
単純に, 増大か減少かを区別するだけのものと理解するとよい。
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図表-7. 閉世界法の定性変化グラフの記述形式 |
この表現で作業することは, 列挙された諸属性を順番にチェックして, 問題を生ずる効果 (縦軸) に対して関与あるいは相関関係にあるものを明らかにすることである。相関が増大関係か減少関係かを区別して, オブジェクトごとに書き並べる。相関がない属性は無視する。この分類により, 問題を減ずるには, どのような属性をどの方向に変化させるのが望ましいのかを一目で見ることができる。なお, 縦軸をシステムの目標とする機能 (例えば, 漏水の検出) で表現してもよい。
この表現を用いると, TRIZでの「技術的矛盾」 (ある側面 (属性) を改良しようとすると, 別の側面 (属性) が悪くなるという矛盾) の多様なケースを容易に読み取ることができる。
4-2-4. オブジェクト- 属性- 機能宣言文
閉世界ダイアグラムで記述した諸機能について, それに関与するオブジェクトと属性を図表-4の形式で明確に記述する。さらに, それらの記述を, オブジェクトと属性とで整理した「OAFダイアグラム」にまとめる。ただし,この分析法はかなり難しいので,省略してもかまわない。
4-3. 「Particles 法」による問題分析
Particles 法は, アルトシュラーによる「Smart Little People 法」を取り入れたものである。「理想解」をまず考えるというTRIZの哲学を実践するものである。つぎのプロセスで進む。
4-3-1. 現在の問題状況を描く
ここには,「樹脂シートの発泡倍率の増大」の事例[6]
を図表-8左図に示す。問題の焦点である発泡のメカニズムに関連した部分だけを拡大して描いている。
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図表-8. Particles 法による分析の例 (事例B) |
4-3-2. 「理想解」の状況を描く
TRIZでいう「理想解」とは, 「完全に機能し, コストはゼロであり, 存在しない (無から有を生む) 」ものである。そこまで行かないまでも,理想と思う状況を簡単に描く [図表-8中図] 。その実現方法を描きこもうとしてはけない。理想の結果だけを描く。
4-3-3. 「Particles 」を図中に描く
問題状況と理想解とを見比べ, 両図で変化がある位置に x印を描き, これを「Particles 」であると考える [図表-8右図] (注: この図には描いていないが, 樹脂の外側にも x印を描いてもよい。)
Particles は, 「任意の性質を持ち, 任意の行動ができる, (魔法の) 物質/ 「場」」である (TRIZでは, 力, 相互作用, 場, エネルギーなどを総称して「場」という) 。このParticles にどんな行動をしてもらうとよいのか, それにはどんな性質を持てばよいのかを, これから考えようというのである。魔法のようなものであるが, 最終的には自然法則に従う物質あるいは「場」で実現する点が, おとぎ話とは異なる。
アルトシュラーの「Smart Little People 」をParticles と呼び替えたのは,イスラエルの人々であり, peopleを過酷な状況下に置きたくないという分析者の無意識のバイアスを避けるためだという。TRIZの (とくに子供むけの) 教科書で小人の絵を描きこんでいるのと比べると, (○印でなく) x印にしたことは抽象性を上げるのに貢献していると思う。
4-3-4. Particles に託す行動をAND/ORトリーに表現する
Particles にしてほしい行動を簡潔な文で表現し,
その表現を段階的に要素行動に分解していく [図表-9上] 。再上部は, 「理想解」を
(図から変換して) 文で表現したものといえる。要素に分解するときに, 分解した要素行動が必ず同時に必要なのか
(AND), あるいはどれかの要素行動があればよいのか(OR)を判断して記入する (このためAND/ORトリーと呼ぶ)
。下段の要素を分解するときに,隣の要素を意識する必要はない。
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図表-9. Particles に託す行動と性質を描いた例 (事例B) |
行動の表現には,技術用語を使わず, 日常の平易な言葉を使うのがよい。技術用語は明確な技術概念をバックにもっており, それが以後の実現手段の考察を制約してしまうからである。例えば, 図表-9で, 「泡にガスを集める」と表現して泡の内部からの諸行動を示唆し, 「泡の周りからガスを絞り出す」と表現して泡の外側からの諸行動を示唆しているのは, 良いほうの例である (ここの「絞り出す」は比喩的な意味である) 。
4-3-5. Particles が持つとよい性質の候補を列挙する
各行動要素の下に, それぞれの行動をするためにParticles が持っているとよいと考える性質を思いつくままに列挙する [図表-9下] 。この段階ではまだ, 抽象的な性質であってかまわない。図表-9の例では, ガスを表面でブロックするためには,容器の壁があればよいだろう, 圧力が外で高ければよいだろう, 電場で (ガスに電荷があるとして) 押し戻せばよいだろう, などと考えている。これらの例から, 「性質 (property) 」と言っているのは,「属性」よりももっと広い緩やかな用語であることを理解されたい (同様に, 「行動」は「機能」よりも広い意味である) 。
これらの「性質」を記述している際に,分析者の頭の中には,その実現法の断片的なアイデアが思い浮かんでいるものである。それらのアイデアは次のコンセプト生成の段階に結びつくものであり, 記憶するとともに, 「性質」の表記に (具体化しすぎないレベルで) 簡単に表現しておくとよい。
4-4. 空間・時間特性の分析 (Uniqueness分析)
閉世界法とParticles 法のどちらで分析した場合にも,
その後でこの分析を行う。縦軸に問題となる効果 (または目標とする機能) を取り,
その空間および時間に関する特徴を定性的なグラフで表現する [図表-10]。
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図表-10. 空間・時間特性のUniqueness分析の例 (事例B) |
適用事例B の場合に, 空間を表わす横軸には押し出しノズルからの距離をとった。泡の増大・成長の過程をグラフ化するとともに,樹脂の密度分布の変化を示した。ガスが樹脂表面から逃げないという条件を思い起こし, 樹脂の表面には泡をつくらないという方針を立て, 樹脂内部と表面層との密度の違いをグラフに表現した。図表-10 右上図は, 膜厚方向の距離による変化を表わし, 内部と表面の違いを一層明確にした (泡の分布を表面層でも同じという条件にすると, 部分的に異なる解決策が必要になる) 。
時間特性を示すには,樹脂の小部分に注目し, 溶融状態からノズルで押し出され, 発泡して固化するまでの変化を描いた。グラフそのものは軸方向の空間特性の図と同様になるが, 泡が増大し成長していくのに時間がかかることを明瞭に意識させる。
TRIZによる問題解決の中に, 「物理的矛盾」を導出してそれを解消する方法がある。「物理的矛盾」とは, 「システムのある側面について, ある場合には正の方向に, 別の場合には逆の方向にすることが, 同時に要求される」矛盾である。このような矛盾に対して, われわれは「それは不可能だ」と思うことが多い。このとき,TRIZは目を見張るような解決策を与える。その解決策は「空間・時間・その他の条件による分離」の原理による。Uniqueness分析における空間・時間特性の分析は, この分離原理を用いるための基礎でもある。
5. USITにおける「解決策コンセプト生成」の段階
USITの第 3段階は, いままでの分析を踏まえて解決策のコンセプトを生成し, 最終的な提案書にまとめる。図表-1のフローチャートに示すように, 4種の解決策生成技法と解決策の一般化の技法を繰り返し用いて, 解決策を広げ・深めていく。
5-1. 属性に注目し操作する: Dimensionality法
オブジェクトの属性に注目する方法である。シカフスは一般論としてつぎを挙げる。
・ ある属性を活性化する/ 不活性化する
・ 可変 (変動) 属性を不変 (固定) にし, あるいは不変属性を可変にする
・ 空間属性から時間属性に, 時間属性から空間属性に変換する
漏水の検査法の事例では, 検知対象である水の諸属性に注目し,
分析段階でリストアップした各属性 [図表-6] を使って, 一つ一つ検出法を考えていくことが有効であった
[図表-11]。例えば, 蒸発熱という属性が, 水の蒸発の現象を想起させ, 熱い棒を接触させればジュジュジュと音がするから,
その音を聴くとよいという方法を着想させた。水和という反応 (イオンなどの周りに水分子が集まり結合すること)
が属性としてリストアップされていたので, 水を吸って発色する試験紙をつくる着想が得られた。これらは,
日常生活の中の技術や現象を連想することによって豊かになった例でもある。
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図表-11. Dimensionality法による解決策生成の例 (事例A) |
5-2. オブジェクトに注目し操作する: Pluralization 法
オブジェクトに注目し, 操作する方法としては,「複数化」という方法がある。
・ オブジェクトを多数にする(multiply)/ 分割する (divide)
・ オブジェクトの数をゼロから無限大までとし, 両極端を考える
漏水の検査法の事例では, 1箇所で検査する方法だと,
バルブの内側の円周に沿って順次検査しなければならない。これを「複数化」することを考える。円周に沿ったあらゆる点で,
同時並行的に検査する方法を提案できた [図表-12]。
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図表-12. Pluralization 法による解決策生成の例 (事例A) |
5-3. 機能に注目し操作する: Distribution法
システム内の諸機能 (とくに閉世界ダイアグラムに現われる機能)
に注目する。
・ 機能をオブジェクト間 (新規導入のオブジェクトを含む)
で再配置する
・ 機能の切り替え, 変更, 重ね合わせ,
分離, 複合など
5-4. 機能と属性に注目する: Transduction法
一つの機能にもう一つの機能をシーケンシャルにリンクする方法である。機能([図表-4])を簡略に, 「属性→機能→属性」ととらえると, ある一つの属性を仲介として, 「属性→機能1 →属性→機能2 →属性」の形に機能をリンクできる。実現手段を複数段に組み合わせて, 効果を発揮させる方法である。
図表-11 の例でも, この方法はほとんど無意識の中に使われている。例えば, 「熱い棒を接触させて水を蒸発させる → 蒸発のときの音を聴く → 小型マイクで拡大して聴く」は, 機能を 3段階にリンクさせているのである。
5-5. コンセプトの一般化 (Generification)
USITでは, 一つ一つの解決策を書き留めると同時に, それらを一般化した言葉で表現することを勧める。技術の (具体的な) 詳細でなく, できるだけ一般性がある概念レベルで創造的な解決策を出そうというねらいからである。
この一般化の方法をさらに積極的に利用するとよい。それは下図の矢印の順に,
解決策を展開するのである [図表-13]。この方法は, ロードマップとかマインドマッピングとか呼ばれ,
フォード社のTRIZ事例報告[7] でも用いられている
(この方法単独でもブレーンストーミングよりもはるかに生産性が高い) 。
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図表-13. 一般化(Generification)を活用したロードマップの作成の方法 |
5-6. 解決策コンセプトのまとめと報告書作成
上記の 4種の技法とその一般化の方法とを, 繰り返し繰り返し用いて, 得られた解決策を列挙していく [図表-1] 。このとき, 4種の技法が, オブジェクト・属性・機能のそれぞれを操作対象としていることに注目し, 分析段階で列挙したものを順次操作対象として考察していくとよい。また, ロードマップ [図表-13]の形式に整理していくと良い。最後にこれらの解決策のコンセプトを体系化・概念化して, 報告書をつくる。この報告書の作成までがUSITの一貫したプロセスである。
事例B の問題で作成した解決策コンセプトを図表-14
に示す。この事例はParticles法で分析しており, 分析過程から自然に (上記の
4種の解決策技法をあまり意識せずに) これらの解決策の着想と体系化を実行できた。Particles
に託す行動と性質のダイアグラム [図表-8] は「理想解」をトップダウン的に分析したものだから,
ロードマップとも近い表現になっている。このため, 行動の末端部と性質の項目とを,
ある程度の実現可能性の判断も交えて技術的アイデアにまとめていくと, 自然に解決策コンセプトの体系が得られると考えられる。
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図表-14. コンセプト生成の例 (事例B) |
6. USITの試行評価と導入法
USITを開発・実践しているフォード社から, 活動の具体的な形態・考え方・実績などが発表されている[8,9] 。筆者は, 同社のシカフス博士によるUSIT研修セミナー(3日間) に参加して指導を受け, 上記の適用事例を自らつくった[10]。その後, 国内A 社で 4件の適用を個別に指導し, また国内B 社で 3日間のUSIT研修セミナー[11]を開催して 4件の実地適用事例を指導した。
これらの体験から得たUSITの評価は以下のようである。
・ 用語・概念・技法・プロセスなどが明瞭に定義されており, 学びやすい。
・ 全プロセスのフローチャートが明確で, 各段階に無駄がなく, 有効である。
・ Particles 法は初めてでも十分に使える。これを中心に使うことも考えられる。
・ 閉世界法の理解はやや訓練を要する。解決策生成技法の基礎でもあり, 理解し使用していくことが望まれる。
・ 4種の解決策生成技法については, より多くの事例を学んで, 具体的な思考の方法を明確にする必要がある。
・ 実地問題に適用して, スムーズに質の高い解決策のコンセプトが得られた。
・ USITの実施後に, 解決策の拡張・補強と技術的検討を行うとよい。この段階にTRIZの知識ベースやソフトツールが有効に利用できる。
・ USIT技法のエキスパートと技術者グループとで共同問題解決を図ると有効。
・ フォード社をモデルに, USIT社内エキスパートを養成し, 活動するとよい。
結論として, TRIZのエッセンスを受け継いだ,
簡明で実践的な方法として, USITによる創造的なコンセプト生成を, 筆者はまず推奨する。TRIZの学習と実践はこのUSITの実践中で随所に生かされるであろう。最後に,
USIT法の開発者Ed Sickafus博士の指導と激励に感謝する。
参考文献:
[1] 『TRIZホームページ』
("TRIZ Home Page in Japan"), 編集: 中川徹 (URL: http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/
)
[2]「創造的な問題解決の方法論「TRIZ」を知ろう!」,
中川徹, プラントエンジニア, 31巻, 1999年 8月号, pp. 30-39
[3] "Unified
Structured Inventive Thinking: How to Invent", Ed. N. Sickafus, NTELLECK,
Grosse Ile, Michigan, 1997, p. 488
[4]
USIT Training
Seminar (USIT-01) Course Materials, Ed. N. Sickafus, NTELLECK, Mar.
1999
[5]「USIT法の適用事例報告(1)
ゲートバルブからの少量の漏水の検査法」, 中川徹, 『TRIZホームページ』に掲載,
1999年 7月
[6]「USIT法の適用事例報告(2)
高圧ガス入り溶融ポリマーから多孔性樹脂を成形する場合の発泡倍率の増大」,
中川徹, 『TRIZホームページ』に掲載, 1999年7月
[7]「ウインドシールド/
バックライトのモールディング -- きしみとバズ音のプロジェクト (TRIZ事例研究)
」, M. Lynch, B. Saltsman, C. Young, ASIトータル製品開発シンポジウム,
1997年11月, デトロイト; TRIZ Journal, Dec. 1997; 訳: 中川徹, 『TRIZホームページ』に掲載,
1999 9月)
[8]
「SITを企業研修プログラムに採用した論拠」,Ed Sickafus, TRIZCON99:
第1回TRIZ方法論と応用シンポジウム, 1999年 3月, デトロイト; 訳: 中川徹,
『TRIZホームページ』に掲載, 1999年 3月
[9]「製品フローに創造的思考を注入する」,
Ed Sickafus,第1回TRIZ国際会議, 1998年11月, ロサンジェルス; 訳: 中川徹,
『TRIZホームページ』に掲載, 1998年12月
[10] 「USIT法研修セミナー参加報告
(講師: Ed Sickafus, 1999 年 3月) 」, 中川徹, 『TRIZホームページ』に掲載,
1999年 3月
[11] 「USIT法研修セミナーを試行して(
報告) 」, 中川徹, 『TRIZホームページ』に掲載, 1999年 9月
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