地震予知研究の進め方− 実用(公的地震予知警報)を見据えて着実に |
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掲載: 2024.12. |
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編集ノート (中川 徹、2024年12月26日)
これは12月22日に日本地震予知学会の学術講演会で発表したものです。
本ページには、以下の資料を掲載しています。(英文ページも作りたいと考えていますが、未完です。)
発表スライド(2024.12.20 作成) 和文スライド(11枚) 本ページ(html)
、 (pdf 4スライド/ページ)
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本発表の要点:
直接の聴衆・読者は、地震予知学会の会員の人たちであり、(研究者が半数弱、アマチュアの人たちが半数強ですが、)それぞれに自らいろいろな方法を試行/実験/研究して、この学術講演会でも発表している人たちです。その人たちに向けて、今後の地震予知研究の進め方について、私が呼び掛けていることの要点は、以下のようです。
* 地震予知研究は、いままで、日本でも世界でも、暗中模索の状況にあり、(日本の地震学界では特に)悲観論が多くあった。
* しかしこの1-2年で、日本の地震予知研究には、明確な前兆現象を捉えたもの(神山らの方法、筒井の方法など)が報告され、新しい段階に入った、といえる。
* 地震予知研究を進めていくにあたって、(出発段階のいま、)その最終目標(公的な地震予知注意報/警報の発出)をイメージし、それを段階的に達成していく過程と課題と方法(組織も)などを構想しておこう。
* 現在は、模索段階(0)を過ぎ、(先進の方法が)一研究室による方法の開発と実現の段階(1)を越えて、段階(2) に差し掛かっている。そこでは、複数の研究グループが協働して、方法を検証することが課題である。
* すなわち、現在するべきことは、明確な見通しを持ち始めた有望な方法の共通認識を持ち、複数の研究グループが協働する研究プロジェクトを興して活動することである。
* この研究プロジェクトは、地震予知学会が主導し、自前で資金調達ををする必要がある。このため、地震予知学会の分身として、新たに(仮称)「(一般財団法人)地震予知研究基金」を設立し、活動することを提案している。
* この後に、 方法の大規模展開段階(3)、予知の技術システムの確立段階(4)を経て、地震注意報/警報の公的運用段階(5)を達成するには、(各段階5年として)約20年を要するだろう。
* 私たちは、日本地震予知学会に結集し、協力して、この任務を果たして行こうではありませんか。
なお私は、昨年の末から、この1年間余で次のような一連の発表活動をしてきました。モチーフは一貫していますので、重複しながらも、新しい情報を得、新しい考察を加え、対象の聴衆・読者向けに発表の構成を変えるなどして、発展させてきました。本論文が、(いまの段階で)最もきちんと大きなビジョンで記述しています。本ページの末尾に「追記」として、それらの関係を補足しておきます。
地震予知学会2023: 「地震予知研究の発展方向を考える」 (2023.12.22 発表) HP掲載: 和文
英文
LinkedIn 連載: 「TRIZの考え方に基づく 地震予知研究 (1)〜(5)」 (2024. 4.28〜10. 3 発表) HP掲載: 英文和文
日本TRIZシンポジウム2024: 「地震短期予知の研究に TRIZの考え方を導入する」 (2024.8.29 発表) HP掲載: 和文英文
ETRIA TFC-TRA2024:「TRIZ思考に基づく - 地震短期予知の研究」 (2024.11. 8 発表) HP掲載: 英文和文
地震予知学会2024: 「地震予知研究の進め方− 実用(公的地震予知警報)を見据えて着実に」 (2024.12.22 発表) HP掲載: 和文
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英文ページ |
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発表スライド ==> スライド PDF (4スライド/ページ)
2. 最終目標をイメージする
3.地震予知の方法に対する要件および諸方法の状況と選択
4.地震予知研究を推進するための5段階(提案)
5.注目する3方法: 神山らの方法、筒井の方法、日置の方法
6.日本地震予知学会の研究体制への提案
7.結び
発表論文: ==> PDF (予稿集、pp. 72-77)
地震予知研究の進め方 ― 実用(公的地震予知警報)を見据えて着実に
中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授; クレプス研究所 代表)
日本地震予知学会 2024年度学術講演会 (2024年12月21-22日) 予稿集24-19 (pp. 72-77)
要旨
地震予知の研究は永らく暗中模索の状況にあったが、この2年ばかりで明確な光明が見えてきた。筒井による地中電場の観測が地震直前直後の電場の変動を明確に捉え、神山らが人工衛星による地殻の経時変動データを解析して、地震の数年〜数月前からの異常変動を捉えたからである。これらを手掛かりにして、地震予知の研究を実用にまで高める方策を考察した。
実用段階では、公的機関が地震予知の注意報(1 年〜1月前)、警報(10日〜1日前)、緊急警報(2 時〜10分前)を発出し、人々と社会が地震被害を極力減らす対応をする。それに至るまでに、地震予知方法の開発/実現(段階1)、検証(段階 2)、大規模展開(段階3)、技術システム確立(段階 4)、公的運用(段階 5)を考え、各段階の課題を明確にする。
我々は今、複数研究グループが協力して先駆的方法を検証する段階2に入りつつある。研究プロジェクトの運営のために、当学会の分身として一般財団法人の研究基金の設立も必要であろう。段階 3 では科研費のプロジェクトが主体になり、段階4では国家プロジェクトが主体になるだろう。各段階に 5年とすると、公的実用の達成までに、20 年を要する。大きなビジョンと覚悟で進みたい。
1.はじめに: 本発表の趣旨
筆者は、物理化学→情報科学→創造的問題解決の方法論と、分野を変わり(変え)つつ研究を続けてきた。2015 年 2 月に地震予知学会に入会し、ずっと学術発表を聴いてきて、地震予知研究が暗中模索の状況にあると感じていた。2022 年末の当学会学術講演会で、筒井稔の地中 DC 電場の観測の報告に接し、明確な光明を見た。そして、「地震を予知し、被害を減らせる方法の、明確な手がかりが一つ得られた。地震予知の研究を支援・推進し、日本(そして世界)の地震災害の減少に貢献しよう」と決心した [1]。さらに 2023 年末の学術講演会で、神山真らの方法、日置幸介の方法などを知り、地震予知の研究が、暗中模索の段階を越えて来たことを確信した。
では今後、「地震予知研究を、どんな方向にどんな段階を経て、推進していけばよいのか」と考えた。地震予知の実用化とは、(確率論的な長期/中期の地震予測とは違って、)何らかの明確な前兆現象を観測し、(従前の多数の同様事例から類推して)予知地震の発生の短期間前(数年〜数日前)および直前(数時間〜半時間前)に、地震発生の注意報/警報を出すことである。その注意報/警報が実効性を持つためには、国民一人ひとりも社会全体も適切に対応する(できる)ことが必要である。もしその注意報/警報が不適切(空振り、発生の時が違う、など)であれば、社会の負担は大きく、予知研究は批判を受けるだろう。一方もし、注意報/警報無しで、大きな地震が発生すれば、被害はもっと甚大になる。このように、地震予知研究は、予知の技術的困難さに加えて、予知結果の信頼性に重大な責任を負っている。この自覚の下に、「地震予知研究の推進方向と段階」について考察する。
2.最終目標をイメージするー地震予知注意報/警報の公的/社会的運用
地震予知の最終目標は、予知した個々の地震について、注意報/警報を公的に社会全体に公表して、社会と国民が防備や避難の体制を速やかにつくり、地震被害をできるだけ小さくすることであ る。筆者は、次の 3 段階の公表が適当だと考える。
地震予知注意報: 「前兆現象 p1 が観測され、x1 地域で、震度 y1 程度の地震が、今後 t1 頃に起こ る可能性が高いことが、見出されました。関連地域の諸機関(政府/地方自治体、防災組織、…)は、 事前注意の体制を整えてください。国民の皆さんは、落ち着いて、今後の地震予知警報に注意ください」。 この発表の時期 t1 は、(確実さと早さの両方を重視し)1 年〜1 カ月を想定する。
地震予知警報: 「前兆現象 p2 が観測され、x2 地域で、震度 y2 程度の地震が、今後 t2 頃に起こる 可能性が非常に高くなりました。関連地域の諸機関(政府/地方自治体、防災組織、交通、病院、…) は、速やかに防災体制を整えてください。国民の皆さんも、身の周りの防災/避難を準備してください。 今後の「地震予知緊急警報」に十分注意下さい。緊急警報は地震の2 時間〜半時間前にしか出せません、夜中や早朝になる場合もありえます」。この発表時期 t2 は、10 日〜半日前を想定する。
地震予知緊急警報: 「前兆現象 p3 が観測され、x3 地域で、震度 y3 程度の地震が、今後 t3 頃に起 こる危険性が非常に高くなりました。関連地域の諸機関(政府/地方自治体、防災組織、交通、病院、 …)は、緊急に防災体制に移行ください。国民の皆さんも、速やかに防災/避難をし、身の安全を図っ てください。地震の発生が検出されたときには「緊急地震速報」が出されます。十分注意下さい」。ここで、発表時期 t3 は、2 時間〜10 分を想定する。
地震予知注意報/警報/緊急警報の発出は社会全体に大きな影響を与えるから、当然国会等でも議論され、公的に制度化される必要がある。その議論をリードするのは(個々の注意報/警報の発表を決めるのも)、公的な専門家会議の人々(主体は地震学会のリーダの人々)であろう。だからそれ以前に、地震予知の方法が地震学会および広く学界一般に理解/賛同されている必要がある。
さらに、地震予知の注意報/警報が出されたときに、社会の諸組織や国民が適切に対処できることが、地震予知を実効的にする鍵である。それには地震予知の方法が、メディアを通じて多くの国民に理解され、社会の諸組織に浸透し、地方自治体や政府の理解/賛同が得られていなければならない。
これらすべての前提として、地震予知のしっかりした方法/技術システム/検証実績を作り上げて おかねばならない。注意報のためには神山らの方法が、緊急警報のためには筒井の方法が、有望だと 考えられるが、警報のために有効な方法がまだ分からない。また、被害を起こす規模(例えば、M 5.5 以上)の種々のタイプ(海溝型、内陸型、群発型、など)に対応しているかも検証を要する。地震学 の観測結果や認識との擦り合わせも必要で有効だろう。
3.地震予知の方法に対する要件 および 諸方法の状況と選択 [1]
地震予知方法が満たすべき根本の要件は、「地震の前兆現象」を捉えることであり、その現象が地震に付随して起き、その現象の短時間の後に地震が起きることである。しかし、この要件は広範な観測/解析の後でないと判定できない。そこで、次のような実際的な要件を満たす予知の方法を順次創って行く。
(1) 明確に観測/測定でき、できるだけ高い S/N 比である。ノイズで隠れる時間帯が少ない。
(2) 多くの地震について、複数サイトで同様に観測でき、予知したように地震の発生がある。
(3) 測定が自動的/安定的/連続的に行え、地震がどこで、どの規模で、いつ起きるかを推定できる。
(4) 諸方法を統合し、種々のタイプの地震をも予知できる。地震発生プロセスと関連づけできる。
(5) 地震予知注意報/警報のシステムを、信頼できる(される)形で運用できる。
これらの要件は(後述の)地震予知研究の 5 段階に対応しており、順次全件を満たす必要がある。
図1に現在研究されている諸方法を、対象とする前兆現象の種類と測定方法で分類して示す。
図 1. 種々の地震予知の方法:前兆現象と観測法による分類 [1] 一部編集
前兆現象の候補の第一のカテゴリは力学的現象である。地殻の移動、地中の歪、前震などが従来から調べられてきたが、地震という破壊現象が起こるタイミングを予知(推定)できなかった。最近、測地衛星を用いて地殻の移動が全国的に、高精度で継続的に繰り返し測定/公表されてきて、神山らがこれを解析する新しい方法を作った [3]。
第二のカテゴリは、電磁気的現象である。地震においては二次的効果であり、エネルギー的には数桁小さくなるが、震源領域の大きさと、電磁気的現象の多様性、観測方法の多様性と高感度により、新規の大きな可能性がある。地上での観測が広く研究されてきて、水平電場、電磁波、電離層の電気的性質の地上での観測などがある。観測法は多様・高感度・容易だが、自然起因/人間活動起因のさまざまなノイズが重なって来るから、明瞭で高い S/N 比の信号を得ることが難しい。一方、最近筒井が、地中深くの垂直電場を連続測定して、震源地域からの信号をノイズフリーで明瞭に観測し、地震直前の前兆が明確になってきた [2]。また、日置が人工衛星による電離層の電気的性質の観測を連続解析する方法を開発し、大規模地震の直前予知の可能性を示した [4]。
なお、以上には、模索段階にあるさまざまな現象(地下水位の変化、ラドンの放出、発光現象、動物の異常行動、など)を採り上げていない。要件(1)〜(5)を満たす見込みが極めて低いからである。
4.地震予知研究を推進するための5段階を提案する
地震予知の方法を種々開発して公的実用に至るまでには、次の 5 段階を経ることを提案する。
段階0: 模索/検討/準備段階: 主体は研究者個人。予知の目的を考え、(従来研究を参考にした上で)対象とする現象、測定の方法と装置、ノイズの除去法、実現性などを検討して、準備する。
段階1: 方法の開発/実現段階: 主体は一研究グループ。一つの方法を一つの観測サイトで開発/実現し、複数の地震に対し、地震の前に特徴ある現象が実測された(されていた)ことを示す。
段階2: 方法の検証段階: 主体は複数研究グループによるプロジェクト。同一(同様)の方法を、複数の観測サイトで並行実施し、一つの地震に対して同様の信号を得て、ノイズでないことを示す。多数の地震について検証し、(ある種の)地震の前兆現象を捉えていることを確認する。
段階3: 方法の大規模展開段階: 主体は科研費によるプロジェクト。この方法を全国規模に展開し、各地での多数の地震の前兆現象を観測する。その結果から、予知した地震が起こる地域/規模/時を(事前に)推定する方法を創り、どのタイミングでどのような地震予知情報が出せるかを検証する。また、この方法の特長と適用限界を確認する。
段階4: 地震予知の技術システムの確立段階: 主体は国家プロジェクト。複数の方法を統合して、多様なタイプの地震に対して、地震予知の注意報/警報/緊急警報を適切に発出できる技術システムを構築する。また、過去および現在進行中の多数の地震に対して、この技術システムを(シミュレーションで)適用し、その信頼性を検証する。
段階5: 地震予知注意報/警報の公的運用段階: 主体は公的機関。地震予知の技術システムを常時運用し、被害地震を予知したときには、地震予知注意報/警報/緊急警報を適時公表し、国民および社会全体が地震被害を減少させる行動を取るよう、要請/指示する。(2.節参照)
複数の方法がそれぞれのペースでこれらの段階を登る。各段階で、確実に研究/開発/実証を進め、その構想や成果を発表し、国民、学界(特に日本地震学会)、メディア、社会(地方自治体や企業にも)、国などに働きかけて、次々の段階の準備をしていく。主導的方法が先導して各段階を実現させて行くのに、各段階に5年程度を要するであろう。
5.注目する 3方法: 段階1の成果と段階2への課題
段階1をすでに達成し、段階 2 への移行が望まれる 3 方法に注目する。各研究の一昨年末/昨年末の当学会での発表を使い、簡単に紹介して、今後(段階 2)の課題を考える。(新しい報告に期待)
神山らの方法: GNSS 衛星データを用いた地殻の歪みの経時観測: 短期予知の方法 [3] (図2)
国土地理院が観測/公開している全国1300余の地点の精密測定位置とその経時変化を使い、三角メッシュで解析する。
図 2. 神山らの方法: 2018 年 9 月 6 日の地震(MJ 6.5)の例。[3] 構成を編集
例は2018年北海道胆振東部地震、★印が震源。周辺の4つの三角形について、(共通時点からの)各面積の比率を(毎日1点で)グラフ化。(c)は 2011〜23 年の12 年間、(d)は 2018 年 の 1 年間の詳細図。ゆっくりと縮小している面積が、2018/9/6の地震 (MJ 6.5)で、AとCの面積が突然拡大した。詳しく見ると、地震の 3 カ月前から、4 つの三角形とも異常な変動(縮小/拡大の符号を除けば同一のパターン)を示した。発表[3]では地震3例を報告し、異常は、3年前、2.5年前、3ヶ月前に現れ、そのパターンは段階的増大、増大後停滞など、多様であった。
――今後の課題は:
・ 過去の全国の被害地震について同様の解析を行い、異常変動の開始時期とパターンを調べる。
・ その結果を用いて、予知地震の地域、規模、時期を予め推定する方法を創る。
・ 各地域の、過去データの概要プロット(月1点)、異常時の詳細プロットのソフトを作る。
・ そのソフトをも活用して、全国の地域を巡回して、地震予知注意報の該当地域を判断させる。
筒井の方法: 地中の直流電場の観測法: 地震の直前予知の方法 [2] (図 3)
図 3. 筒井の方法:(a) 装置、(b) 2021 年 5 月 1 日の実測データ、(c) 地震の震源位置 [2]
紀伊半島の南端の島にサイトを造り、深さ150mの竪穴に長さ100mのダイポール型直流電場センサーを設置した。信号を毎秒連続測定し、PC に記憶させた。図(b)は 2021/5/1 の 24 時間の実測データ。定常的なノイズが見られ、急激な(±)の変動が 46 分続き、55 分間静穏な後、10:27 にパルス状の信号、さらに約 8 時間静穏な後に、激しい(±)の変動が 68 分あって、静穏に戻った。―― 10:27 には宮城沖(直線距離 750km)で M 6.8 の地震があったので、この信号は地震由来であることが明瞭。クリアで高い S/N 比、時間分解能1秒の連続測定、精緻な微細構造など、まさに画期的なデータである。筒井名誉教授が、自己資金で孤軍奮闘中。段階 2 での速やかな検証が必要。
――今後の課題は:
・ 筒井の技術とノウハウを速やかに継承して、第2、第3…の研究グループ/観測サイトを作る。
・ サイトの選定、竪穴の構築、装置の維持管理などに難題があり、多額を要する。要検討。
・ 今後、多数の実測例を作り、信号のパターン(特に前兆の発生時期)を蓄積することが有用。
・ 信号の微細構造の理解(DC と ULF 帯の分離、地震プロセスとの関連付け)が必要で有意義。
・ 予知地震の地域/規模/時期を(予め)推定する方法を創ることが大事。特に、DC電場の岩盤中の速度が光速の1/2程度であり、通常の震源推定法(複数サイトでのP 波の到達時間差を利用)が使えない。震源が不確定だと、規模も不確定になる。何らかの追加の観測データ/装置が必要。
日置の方法: GNSS 衛星データを利用した電離層の電子量の変動の観測: 直前予知の方法 [4] (図 4)
図 4. 日置の方法:(a)(b)(c) 中国雲南省の地震(MW 7.8)例、(d) 既報約 20 例の結果のまとめ [4]
多数周回している GNSS 衛星では、多数の地上局との間での直線上の全電子量 TEC を測定できる。電離層の高さを200kmと想定して、そこに直線上の全電子があるものと仮定し、地上に投影して考える。図4(a) に、震源(上中央)とそのとき周回していた多数の衛星の(高度 200km 換算の) 航路を示し、衛星G09 を選んだ。図(b)に、周辺の複数の地上局から衛星 G09 を見たときの(高度 200km換算の) 航路を、地上に投影した位置を示す。図(c)はこれらの地上局で観測された TECの経時変化である。通常は2次曲線に乗るが、短時間数%の上昇が見られた。地上局 meigのデータでは、変動は地震の35分前から生じ、上昇は約5%である。図(d)は、日置が 2011年(以前)から解析した約20例について、前兆の先行時間(上)と異常の上昇率(下)のマグニチュード依存性を示す。
――今後の課題は:
・ 実用のためには、地震を監視したい領域の複数の地上局で、(入れ替わり)視野に入ってくる複数の衛星をモニターし、TEC のグラフの二次曲線からの「ハズレ」を、迅速に判断する必要がある。
・ 全世界の大規模地震(M7 以上)に対して、地震の直前予知に適用可能であろう。
・ ただ、TEC の上昇率が小さく、他の要因(地磁気活動や太陽フレアなど)に紛れる恐れがある。
6.日本地震予知学会の研究体制への提案
上記の発展のために、日本地震予知学会が今から取り組むべきことを考える。
研究協力の基盤づくりと学会活動の活性化:
まず、学会の会員名簿を作る(有用性とプライバシーの両立を考え、学会事務局のための名簿と学会HP(会員専用ページ)掲載名簿を作り、後者では項目ごとに掲載の詳しさに会員の判断を許容する)。
年1回の学術講演会に加えて、年 3回の発表&討論会を会場&オンラインの形式で開く(発表は非公式扱いとする)。
学会がZoomソフトを導入し、会員間の会合にも使用させる。これらにより、会員間の意思疎通と協力関係を増進し、学会活動を活発にする。
「(一般財団法人)日本地震予知研究基金」(仮称)を設立する。これは、4.節の段階2 の研究プロジェクトを運営するための(法的)組織であり、(一般社団法人)日本地震予知学会の分身と位置づける。段階2 では、数千万円を越える研究費(例えば、筒井の方法の観測サイト一つの設営に 1~2 千万円)を必要とする。(当面、科研費認可が無理と思われるので)地震予知学会が主体的に、独自で資金を調達/運営し、大学の研究室などのプロジェクト参加を促す。当学会が「研究基金」の設立の主体となり、その理事/評議員には当学会の指導者が加わり、また外部から運営の適任者を招く。
図 5 に「研究基金」と当学会との協力関係(の私案)[5]を示す。「研究基金」が研究プロジェクトの運営の責任を持ち、当学会はその研究内容の計画や成果の評価に深く関わる。図には、(筒井の方法を想定した場合の)プロジェクト本部と各研究グループおよび当学会の関係、それらを繋ぐデータ情報と制御情報の流れを例示し、必要な(ハードとソフトの)システムの構築も目指す。
図 5.(一社)地震予知学会と(一財)地震予知研究基金(仮称)によるプロジェクト運営私案 [5]
学界での成果発表と対外的な働きかけを強める。当学会(員)がその研究成果を(対外的に)発表し、研究基盤を強化して、研究を一層進めることが必要。研究プロジェクトの運営のためにも、科研費を得る(段階 3)ためにも、今から準備・行動するのがよい。学会のホームページの活性化も有効。
7.結び
地震予知の研究の最終目標/実用段階では、公的機関が地震予知の注意報/警報/緊急警報を発出し、国民と社会全体がそれに従って被害減少のための適切な行動を取る。そのためには、地震予知のしっかりした技術体系が必要である。そのためには...と考えて、5段階の発展段階を構想した。各段階で達成するべき課題を明示し、活動の主体が段階ごとに大きくなるべきことを示した。
方法の開発と実証(段階1)を達成している3方法(神山ら、筒井、日置の方法)を改めて紹介し、方法の検証(段階2)に進むべきことを示した。段階2では、研究プロジェクトが活動主体であり、その運営のために、当学会の分身として「(一般財団法人)日本地震予知研究基金」(仮称)の設立を提案した。
現在見透せる予知技術としては、注意報のための短期予知に神山らの方法、緊急警報のための直前予知に筒井の方法が有望だが、地震の10日〜半日前に出す警報のための方法が見当たらず、地震予知研究の大きな課題である。
各段階に約5年を要すると、目標の段階5の達成には、順調に進んで 5 x 4 = 20 年掛かる。南海トラフ の大地震に間に合うかどうか、危惧される。
参考文献
[1] 中川徹:地震予知研究の発展方向を考える、日本地震予知学会2023年度学術講演会、2023 年 12月 22-23 日、電気通信大学&Zoom、アブストラクト集、論文 23-12 (2023)。
[2] 筒井稔:地中における電場観測による地震予知の可能性、日本地震予知学会 2022 年度学術講演会、2022 年 12 月 23-24 日、京都大学&Zoom、アブストラクト集、論文 22-22 (2022)。
[3] 神山真ら:地殻ひずみの時空間変動にみられる被害地震発生前の予兆特性、日本地震予知学会2023 年度学術講演会、2023 年 12 月 22-23 日、電気通信大学&Zoom、論文 23-20 (2023)。
[4] 日置幸介:2008年 Wenchuan地震直前の電離圏変化、日本地震予知学会 2023年度学術講演会、2023 年 12 月 22-23 日、電気通信大学&Zoom、アブストラクト集、論文 23-09 (2023)。
[5] 中川徹:「地震の短期/直前予知の研究プロジェクト」編成概念図(私案)、2024年 2月 26日。
編集ノート 後記 (中川 徹、2024年 12月25日)
なお私は、昨年の末から、この1年間余で次のような一連の発表活動をしてきました。モチーフは一貫していますので、重複しながらも、新しい情報を得、新しい考察を加え、対象の聴衆・読者向けに発表の構成を変えるなどして、発展させてきました。本論文が、(いまの段階で)最もきちんと大きなビジョンで記述しています。ここに「追記」として、それらの関係を補足しておきます。
学会など |
発表時期 |
タイトル |
要点 |
HP掲載 和文 |
HP掲載 英文 |
@ 地震予知学会 学術講演会2023 |
2023.12.22 |
地震予知研究の発展方向を考える |
地震の非専門家である私の、地震予知研究関連の最初の発表。予知研究の役割を考察した上で、実験科学とTRIZ(特に力学的技術から電磁気学的技術への発展)を予知研究の発展方向としている。筒井の方法に注目した。発表ビデオをHP掲載。 |
論文概要 |
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A LinkedIn 連載 |
2024. 4.28〜10. 3 |
TRIZの考え方に基づく 地震予知研究 (1)〜(5) |
海外のTRIZ研究者/ユーザに対して、地震予知研究の重要性、新しい可能性と方向@を解説した。英文&和訳をHP掲載。 |
論文(1) ,論文(5) |
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B 日本TRIZシンポジウム2024 |
2024.8.29 |
地震短期予知の研究に TRIZの考え方を導入する |
私の1997年以来の活動分野であるTRIZの人々に、地震予知研究に進んでTRIZを(深い意味で)活用する所存であることを発表した。筒井の方法を進展させ、実用段階にまで進めるための考え方を述べた。 |
論文概要 スライド |
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C ETRIA TFC-TRA2024 |
2024.11. 8 |
TRIZ思考に基づく - 地震短期予知の研究 |
Bと同様の趣旨を、海外のTRIZリーダ/ユーザに説明した。論文として、地震予知の研究/展開方針をきちんと論理立てて述べ、それが根底において実験科学とTRIZの思想で支えられていることを示した。次のDの準備にもなっている。 |
論文 |
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D 地震予知学会 学術講演会2024 |
2024.12.22 |
地震予知研究の進め方− 実用(公的地震予知警報)を見据えて着実に |
@〜Cを集大成した論文である。最終目標として、地震を予知した注意報/警報/緊急警報を公的に社会に発出する場面を描いた。そしてそれを実現するために、必要な要件、前兆現象と方法の選択、方法を開発確立するための5段階を提案した。現在、神山らの方法と筒井の方法が、開発と実証(段階1)を達成し、複数研究グループによる検証の段階2に差し掛かっていると評価した。そしていまや、複数研究グループによるプロジェクトを、地震予知学会が主導して興すべきときであると述べ、学会の皆さんによる協力を呼びかけた。 |
本件のテーマ(あるいは本ホームページ全体)に関連して、ご意見・ご感想・ご寄稿などをお寄せいただけますと幸いです。「読者の声」のページ、その他適切な形式で掲載せていただければ、ありがたいことです。
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英文ページ |
地震予知研究フォーラム2024 |
LinkedIn-4 |
LinkedIn-5 |
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EQP: TRIZシンポ 中川発表 |
ETRIA TFC2024 中川発表 |
ETRIA TFC2024 中川発表 |
EQP: 地震予知学会学術講演会2024 中川発表 |
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最終更新日 : 2024.12.28 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp