地震予知研究-LinkedIn-2024-3 | |
TRIZの考え方に基づく 地震予知研究 |
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掲載: 2024. 7.21 |
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編集ノート (中川 徹、2024年 7月21日)
これは私がLinkedInに連載している解説の第2部です。和訳して掲載します。
概要:
現在の地震学では、さまざまな地震の物理的状況が未解明であり、地震という破壊現象の起こるタイミングを予知できず、破壊の過程やそれに伴う諸現象を解明できていない。そのため、地震の短期予知の研究は「実験科学」の方法に従い、種々の前兆現象の探索、有望な前兆現象の選択、その現象の観測・解析による予知方法の開発へと進む。われわれはいまや、選択と開発へと進む段階にある。図は、前兆現象を選択するやり方を示している。
第1のカテゴリは力学的現象である。地殻の相対的移動、圧力、歪みなどがあるが、変化は極めて遅くいつ破壊が始まるかを予知できない。変化速度が地震の前に変わった例が、測地衛星データの解析で見出され(神山ら)注目される。
第2のカテゴリは電磁気的現象である。二次的効果であるが、測定法の多様性・高感度などが有利であり、技術進化の大きな方向にも沿っている。地上で、(地震からの)電場の観測、種々の周波数の電磁波の観測、電離層での電波の反射の観測などが、行われたが、地上・上空での種々の自然起因/人工起因のノイズで妨害され、成功していない。GNSS衛星による電離層の全電子量(TEC)の観測/解析で、地震前後数時間の増大が観測され(日置)、グローバルな適用の可能性が注目される。筒井が地中深くの垂直電場を観測し、地震の直前数時間から直後数時間までの明瞭な変動を観測した。遠方750km、M6.8の地震に対し、S/N比30以上、激しい微細構造を持つ、時間分解能1秒の連続観測データを得た。地震の直前予知の可能性を明示した画期的な方法である。
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TRIZの考え方に基づく 地震予知研究
(3) 地震前兆現象として有望なものを選択する
中川 徹 LinkedIn 英文掲載 2024. 7. 6
『TRIZホームページ』 和訳掲載
前回の投稿(2)で述べた地震前兆現象の判断基準を用いて、信頼でき/有用な前兆現象として将来に期待されるものを、選択することを議論しよう。
最初に、多様な前兆現象を論じる前に、地震の短期予知が困難である根本の原因を振り返っておこう。
(a) 地震の歪みエネルギーの蓄積には数千年から数十年という長時間を要するが、地震は、エネルギーの放出を伴う破壊現象であり、数秒から数分しかかからない。そのため、地震が起こるタイミングを事前に知ることが非常に難しい。
(b) 震源地付近の物理的状況は、さまざまに異なり、複雑で、未解明である。
(c) 地震の直前/最中/直後の破壊過程がよく分かっていない。
(d) 地震の直前/最中/直後にどのような現象が生じるかがよく分かっていない。
―- このような状況にあって、
われわれはまず準備段階として、さまざまな(前兆)現象を探索し、
次いで、その中から信頼性の高い/有用な前兆現象を選択し、
その現象を計測/解析して地震を予知する方法を開発すること
が必要である。ここでわれわれは、
地震短期予知(EQP)の研究が、前兆現象を探索する段階から、
いまや、前兆現象を選択して予知方法を開発する段階へと移行する時期にある
ことに、注意するべきである。そこで、新たな段階での判断基準として、前回の投稿(2)で述べた地震前兆現象の要件を用いる。
初期段階では、動物の異常行動、雲の異常な形、地下水位の変化、大気中のラドン放射の増加など、さまざまな現象が報告され、研究されてきた。
動物の異常行動の研究により、動物の新しい能力が明らかになるかもしれないが、それを地震予知の新しい技術体系にするには長い時間がかかるだろう。
地下水位やラドン放射線の観測は、地震の多様なケースに広く役立つとは考えがたい。
--- 以上のことを考慮し、今後さらに追求するべき地震前兆現象の候補としては、これらを選択しない。
先頭の図は、さまざまな前兆現象の候補を分類して、その観測方法を示したものである。
最上段では、最も大まかな分類として、一次的効果として生じる力学的現象と、二次的(またはそれ以上の)効果として生じる電気/磁気/電磁気的現象とを、示している。
第2段には、各現象をその属性と置かれている状況との観点で、さらに分類している。そして、
第3段で、その代表的な観測方法を示し、
第4段で、観察方法についてのコメントを示している。
第1のカテゴリーは、力学的現象全般である。これらは地震で発生/観測される主要な効果だから、歴史的に非常に多く研究されてきた。
多数の観測点の水平/垂直方向の動き(移動)は、かつては手間のかかる三角測量で測定されていたが、最近では測地衛星を使って、より簡単/精密/体系的な方法で測定されている。
ある地点(または地域)の隣接する地点に対する相対運動は、将来のある時点で地震を起こす可能性があるが、それがいつ起こるかは分からない。このような相対運動の蓄積は、地下深くの地殻の圧力や歪みとして観測することもできる。体積歪みゲージの感度は10の9乗分の1のオーダーであるという。
--- これらの力学的特性(運動、圧力、歪みなど)は、徐々に非常にゆっくり増加するのを観測できるが、それらがいつ崩壊の「未知の」閾値(すなわち地震)に達するかは分からない。
地震の長期/中期的な確率論的予測は可能だが、短期的予知ができないのは、この理由に因る。短期予知は、このような力学的特性の変化率の変動が明確に観察された場合にのみ可能となる。そのような例として、神山ら(2023)の観測については後述する。
地震の後になって、われわれはしばしば、その地震の前に一連の(より小さな)「前震」があったことを知る。
しかし、一つの地震が起きたばかりの時には、より大きな地震(「本震」)がごく近いうちに(1週間から1ヶ月以内に)起きるかどうかを、現在の地震学では知ることができない。
このような判断を下すには、この地震が引き金になって、近隣にあるプレート境界や断層が、短時間の後に、蓄積した応力エネルギーを放出して、さらに大きな地震を生じるかどうかを知る必要がある。--- このように、地震学の現状では、「前震」(すなわち、いくつかの(小さな)地震)を、地震の前兆現象としては信頼することができない。
地震前兆候補の第2のカテゴリーは、電磁気現象全般である。
圧電効果が、地殻内の岩石の圧縮応力を電場に変換し、さらにさまざまな形の電気/磁気/電磁気現象に変換するが、(地震に際しての)その生成過程の詳細はまだよく分かっていない。
この電磁気的エネルギーは、力学的エネルギーに比べてはるかに(おそらく数桁)小さい。
しかし、さまざまな電磁気的現象を任意の(離れた)場所で観測することができ、震源域全体からの信号を受信することで、結果として大きな信号エネルギーを得ることができる。信号を検出/測定/分析する上で電磁気的技術が非常に有利であるのは、
さまざまなモード、さまざまな周波数帯域、遠隔地での観測、多用途、高感度な方法、などの点である。機械的(力学的)方法から電磁気的方法に転換することによって、科学技術が大きく発展してきたことは、歴史上よく知られた事実である。(創造的問題解決の方法であるTRIZは、この技術の進化を強調している)。
電磁気的な前兆現象を観測するさまざまな方法は、観測場所と対象とする現象によって分類できる。
「地上」がもちろん、最もポピュラーで観察しやすい場所である。
地震前兆信号を探索するために、地上(あるいは地中浅い場所)で電界を観測する試みが行われてきたが、自然ノイズや人工ノイズの干渉を受け、成功した例はない。
また、さまざまな周波数の電磁波を観測し、震源域からの信号をキャッチしようとする試みも行われているが、ノイズによる妨害が多く、これも成功していない。
また、遠方の直接には見通せない放送局からのFM電波を、中間地点の電離層での(何らかの擾乱に因る)反射を利用して観測する方法も試みられている。FM波の反射は数多く観測されており、太陽フレアや雷などのノイズを除去した結果、流星や飛行機などからの反射も観測されているが、明らかに地震に関係する反射は観測されていない。
--- まとめると、地上サイトでさまざまな電磁気現象を利用して地震の影響を観測する試みは、自然ノイズや人工ノイズによる不可避な妨害が多いため、いままで明瞭な成功例がない。
GNSS衛星を利用して、地震によって引き起こされる可能性のある電離層の擾乱を観測する試みが近年増加している。
電離層の全電気量(TEC)の変動を観測して、地震との相関が見出された(日置幸介、2011, 2023)。
この方法は、大規模地震(M>7)に対して地震の前後数時間観測され、ほぼ全世界で適用可能であることが分かった。地中深くの電場の観測が、筒井稔(2022)によって報告された。
彼は、自然的および人工的ノイズをできる限り避けるため、遠隔地の閑静なサイトを選び、地下150mのボアホールに直流ダイポール検出器を設置した。
震源域からの直流電場の信号が、地圏を通して直接検出されるから、地上の自然/人工ノイズと混ざることが少ない。
毎秒の連続観測により、地震の直前数時間から直後数時間まで、高いS/N比と微細構造を持った信号を観測した。--- この筒井のレポートは、今後の地震直前予知の可能性を示す優れたものである。次回の投稿をご覧下さい。
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最終更新日 : 2024. 7.21 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp