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書評: 吉田彰顕著『地震前兆やいかに〜電波による複眼観測〜』 サイバー出版センター(2016) |
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掲載: 2024. 1. 4 |
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編集ノート (中川 徹、2024年 1月 4日)
これは私が最近読み終えたばかりの単行本『地震前兆やいかに〜電波による複眼観測〜』の書評です。7年余り前の出版なのに今まで気がつかず、初めて読んで、感激し、また反省しています。学ぶことが多い、素晴らしい本ですが、私たちが吸収して、乗り越えるべき本です。
ここにはまず、Amazonサイトでの出版情報を転載し、その後に、私の書評でAmazonサイトに寄稿したものを掲載します。
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吉田彰顕著『地震前兆やいかに〜電波による複眼観測〜』 サイバー出版センター(2016)
吉田彰顕(てるあき) (著)、 サイバー出版センター、(初版 2016/3)、オンデマンド版 2019/11/27、270頁、 ASIN : B081KQHK84 、単行本 2,530円(税込み)
「地震前兆は見つからなかった」
20年間に全国18か所で聴いた自然の声は 介護現場や土砂災害地域の監視など 新しい可能性の世界へと導いてくれた(まえがきより)
今日、地震予知に高い期待と関心が寄せられ、地震前兆としての電磁現象を捉えようと、いろいろな周波数帯で、多くの人達が地道に観測を行っています。
1995年1月17日、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)が発生し、電磁波異常を観測したとの報告が多数寄せられました。 当時私は、NTTで無線通信システムの研究開発に従事していましたので、地震と電磁波の関係に興味を持ち、1996年より業務の合間、横須賀研究所最上階の一角に観測系を構築し、一人で観測を始めました。
観測開始当初は、すぐに地震前兆現象をキャッチできるだろうと思っていましたが、観測点を増やし、かつ複数年の観測を継続すればするほど、地震以外の要因による電磁現象の方が、はるかに多いことに気付きました。
【主要目次】
まえがき
第1章 電波観測を始めるに当たって
第2章 自然電磁ノイズの観測
第3章 見通し外FM放送波の観測
第4章 地震との関連について
第5章 電波観測を終えるに当たって
第6章 大学を退職するに当たって
あとがき
書評: 中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授)
Amazonサイトに寄稿 (2024. 1. 4)、『TRIZホームページ』 (2024. 1. 4)
『地震前兆やいかに〜電波による複眼観測〜』
吉田彰顕著、サイバー出版センター、初版2016年3月、270頁、税込み2,530円。
素晴らしい研究実践、詳細で明快な実データの提示、感動的な教育実践。
-- しかし、本書よりも直接的な他の観測方法で地震前兆予知の光明が見え始めている。
本書の研究のねらいは、「見通し外からのFM放送電波が、電離層によって反射されて到達する場合があることを利用して、地震が電離層に与える影響を観測し、特に地震の前に現れる特徴的な現象(前兆現象)を見出し、地震の短期/直前予知の方法を創りたい」と要約できるでしょう。
このために著者は、1995年〜2016年の20年余にわたり、NTT横須賀研究所および広島市立大学において、観測システムの構築と複眼的な観測を行い、その実測データを詳細でコンパクトな多数の図にして、本書に報告しています。
特に尽力しているのは、観測系の(人工起源と自然起源の)ノイズを極力減らし、それでも避けられないノイズを識別・除外するためのノウハウを創りだしていることです。
装置の周りの機械的/電気的ノイズを避けることはもちろんですが、観測地点の選定も大事です。
観測対象のFM放送波(fr)に並行して、どの放送局にも割り当てられていない80.1 MHz (fn) をも観測し、両者が同時に強く観測される場合(広帯域の電磁ノイズ)を除外し、fr だけが強く観測される場合を有意の信号と判断しています(二周波法)。
その結果、雷や太陽フレアはもちろんのこと、流星や飛行機の機体からの反射を識別し、気象条件に関連して形成される(電波の屈折による)「ダクト伝搬」も識別しています。
さらに、いて座方向にある銀河中心からの微弱な電磁波(「銀河ノイズ」)をも(季節と時間変動を捉えて)明確に受信しており、観測系の測定限界(電磁波エネルギー)は -120 dBm (すなわち、10の15乗分の1 W) であると示しています。このような性能の装置を備えた(受信)観測点を計18か所設置して、各地の見通し外FM放送局からの電波を常時受信するシステムを構築して、運用・解析しています。
そして、"たまたま" 起こった地震の前後の観測データを分析しようというのです。
受信観測点から見て、見通し外にある(すなわち遠隔の)送信FM局で、地震の震央がほぼその中間にあるような局の、受信データを使います。分析の客観性を保証するためには、このような受信観測点と送信局の対が複数得られることが有効です。本書には、主に3つの地震について、詳細な観測データが示され、観測結果の解釈が示されています。
(a) 2004年新潟県中越地震(M6.8、深さ13 km):野辺山観測点←NHK-FM新潟(82.3 MHz):地震に関係する現象は検知されず。
(b) 2007年能登半島地震(M6.7、深さ11 km):広島市立大学←NHK-FM秋田(86.7 MHz): 信号は静穏、地震に関連した電離圏擾乱は検知されず。
(c) 東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0、深さ約24 km): (野辺山、横須賀、日立)←NHK-FM仙台(77.1 MHz): 地震のP波到来と共に(広帯域の)電磁ノイズが観測され約3時間持続して減衰、しかし前兆現象と思われるものは観測されなかった。
これらの研究結果を総括して著者は、
「地震動の到達と共に広帯域の電磁ノイズがしばしば観測された。しかし、電離層擾乱など、地震に関連した前兆現象は検知できなかった。」
と結論しています。注目されるのは、p. 201の記述です。
「地震は地下で起きる現象です。私が取り組んできた、地表・地上・電離層との関係から地震電磁現象を観ようとする方法は、やはり間接的手法と言わざるを得ません。物事の本質に迫るには、何よりも対象を直接観ることが肝要です。その意味で、地震に関しては、地下を直接観ることがよい結果につながると思います。」
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私 (中川) は、地震の専門家ではありませんが、2015年に日本地震予知学会に入会し、その学会発表をずっと聴いてきました。約8年間は地震の前兆現象を捉える確たる方法が分からず、暗中模索の感がありました。2022年12月末および昨年末の学会で、光明が見えたと感じました。それは次の3つの方法です。
(1) 国土地理院が提供しているGEONETデータ(測位衛星システムGNSSを使い、全国1300余の基準点の位置の精密データが連続的に公表されている)を使い、三角網を構成して、地域ごとの地殻の歪の時間変化を観測する。
多数の被害地震で、地震の3年〜3月前から歪の顕著な変化が観測されていたことが分かった(神山真ら、2023)。(2) 人工ノイズの少ない地点(紀伊半島南端の小島)を選び、地中に深さ150 mのボアホールを造り、長さ100 mのDC電場センサーを設置し、地中の垂直直流電場を1秒間隔で連続観測した。
宮城沖の地震(2021年5月1日、M6.8、深さ50q)の場合、地震の約3時間前から46分間顕著で激しい±の変動を観測、鎮静後地震時にスパイク状の信号、また約8時間半後に68分間の激しい±の変動を観測した。ノイズレベルは約5μV/m、変動のS/N比は10~20程度(筒井稔、2022)。(3) 連続GNSSシステムによって観測されている電離圏全電子数(TEC)の変化を分析すると、
2011年東北沖太平洋地震を初めとして多数の被害地震で、地震の1分〜1時間程度前から、地震後の同程度の時間にわたって、TECのグラフに5%程度の増加が観測された。これは前兆現象というよりも、地震プロセスそのものを観測していると理解される(日置幸介、2011, 2023)。これらの方法は、まだ事後分析で地震の前兆と考えられるものを確認・蓄積している段階です。
本当に地震との相関関係を実証し、広範な観測システム網を構築し、地震を確実に予知できる技術体系を創るには今後20年とか30年とか掛かるでしょう。迫りつつあると考えられている東南海トラフの大地震に間に合うかどうかは分かりません。
地震予知の研究・実用化と、地震(津波や火災を含めて)の減災(防災)の対策とを、車の両輪として推進していくべきことと思います。そこでこのたび、私の『TRIZホームページ』に、「地震予知の研究と実用化」を新しい柱として建てました。
本書の研究実践は素晴らしい、研究成果(実データ)の提示も素晴らしく明快ですし、巻末の教育実践も感動的です。
地震の予知に関心をお持ちの多くの皆さんにお薦めします。
それらを吸収して、導かれ、さらに乗り越えて行くことができれば、と思います。
編集ノート 後記 (中川 徹、2024年 1月 4日)
本書、本ページ、さらには本件のテーマに関連して、ご意見・ご感想・ご寄稿などをお寄せいただけますと幸いです。「読者の声」のページ、その他適切な形式で掲載せていただければ、ありがたいことです。
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最終更新日 : 2024. 1. 4 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp