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TRIZの考え方に基づく 地震予知研究
    (4) 筒井の方法: 地中の直流電場の観測

中川 徹 (大阪学院大学)、LinkedIn 英文掲載 2024. 8.13 ; 『TRIZホームページ』 英文ページ 2024. 8.31

和文掲載: 『TRIZホームページ』 (2024. 8.31) 

掲載: 2024. 8.31

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  編集ノート (中川 徹、2024年 8月31日) 

これは私がLinkedInに連載している解説の第4部です。和訳して掲載します。

筒井稔(京都産業大学名誉教授)の日本地震予知学会(2022年12月)での発表を紹介しています。(地下の)震源からの電磁気的信号を、(ノイズの多い地上を経由せずに)遠方の地下で直接に検知しようとする方法です。
紀伊半島の南端の小島で、深さ150mのボアホールを造り、長さ100mのDC電場センサーを設置して、低ノイズ・高感度、そして毎秒連続観測のデータを取りました。2021年4月〜7月の観測結果から2例を発表しています。その第1例は、静穏な定常ノイズの後に、急激な(±)の変動(S/N比30以上)が46分続き、一旦(55分間)静穏化して、10:27にポンとパルス状の信号があり、 その後約7時間半静穏で、再び68分間の激しい変動を記録しています。後日に分かったのは、10:27に宮城沖(水平距離約750km) で、M6.8の地震があったことです。時刻の完全な一致から、一連の信号はこの地震に起因するもので、前兆、地震時、そして「後兆」であると思われます。遠方の地震について、地震の1時間半前から、高いS/N比で、顕著で複雑な微細構造を持った、時間分解能1秒の連続スペクトルを得たことは、実に画期的です。

私はこの方法を非常に高く評価し、これを基盤にして、地震予知の(一つの)方法を創り上げるための、共同研究プロジェクトを地震予知学会内で提唱しています。現在(第1段)の「孤軍奮闘」の状況を支援し、(第2段)復数サイトでの並行観測を行い、さらに(第3段)数十サイトを全国展開して、地震予知(「いつ、どこで、どの規模」)の技術システム(とその実施体制)を創り上げること、その課題とプロセスを考察しています。
筒井の方法は、おそらく、地震の数時間〜半時間前の(公的な)「地震予知緊急警報」の中核技術になるものです。それが実用になるためには、他の方法を統合して、(地震の)1年ほど前の(関係機関内での)「地震予知要注視連絡」、地震10日〜1日前の(公的な)「地震予知注意報」が先行することが、全社会と国民の安全・減災のために必要でしょう。

 

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    (4) 筒井の方法: 地中の直流電場の観測

中川 徹 LinkedIn  英文掲載 2024. 8.13
             『TRIZホームページ』 和訳掲載 2024. 8.31

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さてここで、京都産業大学名誉教授の筒井稔氏の優れた研究を紹介したい。同氏は1998年から地震の電磁気的現象の検出に取り組んでおり、2015年の定年退職後も今なお継続している。2022年12月に開催された日本地震予知学会(EPSJ)の学術講演会での同教授の報告は注目に値する:

上図(a)は、地中深くの直流電場を観測するための彼の装置である。彼は紀伊半島の南端に近い小さな島(すなわち、京都のはるか南の太平洋岸)を、自然ノイズや人工ノイズを避けるために選んだ。直径20cm、深さ150mのボーリング孔を掘って、長さ100mのダイポール直流電場センサーを設置した。差動増幅器を地中に置き、60Hzのノッチフィルター(電源周波数の除去)とローパスフィルターを設置している。信号を毎秒サンプリングし、PCに記録している。さらに、地上8mの高さに長さ5mのセンサーを2つ設置し、水平電場(東西と南北)をモニターしている。

この装置は2021年4月から7月まで稼働し、2つの形の貴重な観測データを得た:

図(b)2021年5月1日に観測された信号で、(定常的な小さなノイズの後に、)08:50から46分間、S/N比が30以上の急激な(±)の変動、10:27に鋭いスパーク、19:00から68分間の2度目の急激な変動を観測した。
後になって、彼は同じ時刻(10時27分)に宮城県沖(水平距離約750kmの遠方)の深さ50kmで、M6.8の地震があったことを知った。彼は、最初の急激な変動は10時27分の地震の前兆であり、2番目の急激な変動は「後兆」である可能性が最も高いと見ている。
地上の水平電場センサーは、上記の2つの変動時間中、東西方向と南北方向の両方で同様の変動を観測した。ただし、電離層の電場の日周変化により、緩やかな変動のノイズが重なっている。

図(c)2021年5月6日に観測された信号である。平均電場が、05:25に 0 から +2μV/m(S/N比は約4)まで緩やかに上昇し、約5時間続いた後、ほぼ0まで低下して約3時間静止し、13:30に突然+2μV/mまで急上昇し、その後約6時間かかって(多少変動しつつ)、0 電位まで戻った。
彼は 後に、13時30分に紀伊水道の深さ50kmの所で(水平距離約100km)、M3.7の地震が発生したことを知った。
地上の水平電場センサーは、日中緩やかな変動のノイズを示し、地下電場のデータに対応する情報は隠れている。

私たちは、「この2形態の観測データは、地震の前兆として、地震の発生に関係していること」、そしてまた、「この観測方法が、遠方の陸地や海洋の地下で発生した地震を検出するために貴重であり、特に、地震の数時間前から数時間後までをカバーした、高いS/N比と微細構造を持つ信号を得ていること」を、確信している。
そこで私は、地震予知学会内で共同研究のプロジェクトを立ち上げ、「筒井の方法を基礎にした短期/直前地震予知方法」を確立することを提案する

段階(1):  われわれは、彼をサポートして、さまざまな困難を解決するべきである。例えば、彼の機器のメンテナンス(PCが一度ハッキングされ、一度クラッシュしている)、遠隔のサイトから自宅PCへのデータ転送システムの導入、など。彼は豊富な実験ノウハウを持っており、また2021年以降の未発表の観測データを持っている。その中には、いろいろ異なる地震プロセスを反映した異なる信号パターンが含まれている可能性がある。

段階(2):  共同研究プロジェクトで、複数の観測サイトを並行して運用する。われわれの課題は以下の通りである:

(a) 複数の観測サイトを立ち上げ、並行して運用する。全観測地点のデータをまとめてレビューし、有意の信号とノイズを区別する。

(b) 観測データを、公表されている地震の記録と比較し、相関のある場合、相関のない場合、無観測の場合を区別する。そして、地中の直流電場の変動の(ある種の)パターンと、(あるタイプの)地震との相関関係を明らかにする。

(c) 予知した地震の発生の時、所、規模を推定する方法を開発する。
注意: 電場が岩石圏を伝わる速度は光速の約半分である。そのため、震源位置を推定する通常の方法(すなわち、P波(秒速7km)の地震信号を3箇所(以上)で受信し、その受信時間の違いを使って計算する方法)を使うことができない。電場信号の到来方向などの、追加情報が必要である。

(d) (事前の)推定法をテストし、予測した値が、直後に発生した地震とどの程度一致するかを確認し、さらに予測法を改良する。

このプロジェクトを開始するためは、地震予知学会内での議論が必要で、この研究プロジェクトに真剣に取り組む決心をする、第2の、そしてさらに復数の研究グループを得る必要がある。技術的な課題としては、ノイズのない遠隔地にボーリング孔を建設すること、ネットワークシステムを構築して、全観測地点の観測データをアップロードし、プロジェクトセンターと各研究グループで解析すること、である。
明らかに、われわれはプロジェクト組織を必要としており、研究戦略を決定/指導し、資金を獲得し、学界にプロジェクトを推進していくことが必要である。

段階(3): 地震予知の技術的方法/システム。 われわれの予知方法が段階(2)を成功裏に通過したならば、その方法/システムを全国規模で展開する。日本全国に数十カ所の観測サイトを構築し、それらを自動的/安定的/信頼的に運用してネットワークシステムを形成し、いつでもどこでも発生する(可能性のある)(ある程度以上の規模の)地震を監視し、差し迫った(可能性のある)地震を予知して、プロジェクト内で注意喚起を行う準備を整える。地震予知学会を基盤とし、多くの研究グループの参加を得た研究プロジェクトを樹立し、学界(特に日本地震学会)と政府機関から公的な支援を得るべきである。地震予知方法の、実際的な有用性と信頼性は、この段階で初めて明らかになる。

われわれはさらに進んで段階(4):(補完的な諸方法を統合して)地震予知の技術体系の完成、段階(5):(学界、社会、政府の理解と承認を得て)短期/直前地震予知警報の公的な運用、へと進む必要がある。

これらについては、もうあと2つの地震予知方法を紹介した後に、論じよう。

 

 

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最終更新日 : 2024.10. 7      連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp