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編集ノート (中川 徹、2024年10月 5日)
これは私がLinkedInに連載している解説の第5部です。和訳して掲載します。
神山真(東北工業大学名誉教授)らが日本地震予知学会(2023年12月)で発表した論文の紹介です。DNSS測位衛星を使って国土地理院が精密測定して毎日更新している、全国約1300の基準点の位置情報を使います。三角メッシュ法で解析して、各三角形領域の最大せん断歪みと面積歪み(膨張)係数を導いていますが、後者の方が理解しやすいでしょう。3件の地震の詳細なデータとその解析結果を報告しており、ここには北海道胆振東部地震(2018年9月6日、MJ 6.5) を取り上げました。震央付近の4つの三角形領域に注目して、その面積膨張係数を2011年から12年間分プロットして示しています。4つの三角形領域とも、初めは同じ速さでゆっくりと縮小していきますが、地震発生のときに2つの三角形領域が突然膨張し、地震後にはすべて以前と同じようにゆっくりと縮小していきました。2018年の1年間の時間軸を拡大して見ると、地震発生の3ヶ月前から、突然異常な変動が現れていました。2領域がプラス方向、他の2領域がマイナ方向に変動していますが、方向を無視すると変動のパターンはほぼ同じです。3ヶ月前から変動値が増大し始め、ピークになり、その後不安定な感じでゆっくり減少、地震が発生して急激に変化し、その後数日の微調整の後、異常変動は消えて行きました。
3件の地震で類似の異常変動が地震の前兆現象として観測されました。この前兆現象を使うと、異常変動が見られる領域の数と広がりから、予知地震の震源領域と地震の規模が推定できます。地震発生の時に関しては、現在数年〜数ヶ月の幅があり、地震の切迫を判断する手がかりはまだ得られていません。今後の事例の蓄積が望まれます。神山の方法は、地震の短期(数年〜数月)予知の方法として、現在最も有用・有望であると考えられます。
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TRIZの考え方に基づく 地震予知研究
(5) 神山の方法: GNSS衛星データを用いた地殻の歪みの観測
中川 徹 LinkedIn 英文掲載 2024.10. 4
『TRIZホームページ』 和訳掲載 2024.10. 7
この(5)部では、「神山の方法」を紹介します。それは、GNSS測位衛星データを用いた測地学的なアプローチであり、地震の短期予知に有用と考えられています。神山真教授(東北工業大学名誉教授)と東北工業大学・東海大学のグループは、2023年12月の日本地震予知学会の学術講演会で論文を発表しています。
国土地理院のGEONETデータを使っています。日本全国の約1,300の基準点の正確な位置が、GNSS衛星システムで常時精密測定されていて、30分ごとに公開・蓄積されています。 神山らは、全国の観測点の毎日の位置データを、三角メッシュ法で解析する方法を創りました(図(a)参照)。 観測データが整っている2,152の三角形領域を選択し、全国の観測点の毎日の位置データから、各三角形領域の最大せん断歪み(γmax)と面積歪み(膨張)係数に変換します。 これらの歪み係数は、各三角形領域ごとの平均値を表しています。
彼らは、(気象庁が報告している)2018年7月から2023年7月までの5年間の被害地震23件の中から、規模が大きい地震3件を選び、詳細な解析結果を報告しました。ここでは、(そのうちの最大規模の)2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震(Mj 6.5)を取り上げます。 震央の位置を図(a)の赤い星印(★)で示します。図(b)の拡大図では、三角形メッシュを示し、震央(★)と、その周辺の4つの三角形領域 A、B、C、Dを特記しています。
図(c)は、2011年7月から2023年7月までの12年間の、4つの三角形領域の(面積歪み)膨張係数を、毎日毎日領域ごとに異なる色でプロットしたものです。 膨張係数は、正の値では面積が拡大し、負の値では面積が縮小することを意味します。したがって、2018年9月6日の地震が発生する前には、震源付近の4つの三角形の面積が徐々に縮小していたことがわかります。また、地震発生時には、2つの三角形AとCの面積が急激に拡大しました。地震後には、4つの三角形とも、地震発生前と同じ速度で徐々に縮小しています。 全体的な緩やかな収縮運動は地殻内の大きな圧力を表し、地震発生時の2つの三角形領域の急激な拡大は、地震による部分的な再調整を表しています。
図(d)は、図(c)を部分的に拡大したもので、2018年1月から12月までの1年間を表しています。 垂直の黒線は、2018年9月6日の地震を示します。 はっきりと見て取れるように、2018年5月中旬から、4つの三角形領域の膨張係数が、それまでの緩やかな (ゆっくりと縮小する) 傾向から突然変化しました。領域AとBの膨張係数は増加 (すなわち面積が拡大) し、領域CとDの膨張係数は減少 (すなわち面積が縮小) しました。 変動のパターンは (変動の方向を無視すると)、4つの領域でほぼ同じです。すなわち、変動はゆっくりと増加し、ピークに達した後、ゆっくりとやや減少しました。その後、9月6日に地震が発生し、AとCの領域が急激に拡大しました。地震後、4つの領域は徐々に縮小し、その縮小速度は地震前と同じになりました。
図(c)と(d)の時空間データにおける最も顕著な発見は、4つの領域の膨張係数の異常な変動であり、これはMJ 6.7の地震の明確な前兆です。このような異常変動を前兆とみなすと、影響を受けている三角形領域の分布と広さから、迫り来る地震の発生地域と規模を推定することができます。 また、近傍の三角形領域における異常変動の拡大・縮小効果の配置から、切迫した地震の地殻変動の方向を推定することができます。
神山らは、他の2つの地震についても同様の詳細な分析を報告しています。2021年10月7日に千葉県北西部で発生したM5.9の地震の場合、異常変動は地震の2.5年前から観測され、3段階での増加が見られました。 2023年5月5日の能登半島地震(M6.5)では、異常変動は地震の3年前から始まり、その後徐々に増加しました。このように、前兆異常変動は、地震発生の開始時期(この3例では、3年前から3ヶ月前まで)についても、変動のパターンについてもさまざまな違いがあります。
まとめると、神山の方法は、GNSS衛星システムによって毎日(あるいはもっと高頻度で)測定された、多数の地上点の正確な位置データとその経時変化を使用します。データ解析のソフトウェアはすでに開発されていますから、観測システムは比較的容易に世界中に展開できるでしょう。
この観測データは非常に有用です。
(1) まず、対象とする地域全体 (国や地域など) をカバーする観測データを分析し、各地域の膨張・縮小率(とその変化)を把握します。これにより、地殻変動の一般的な方向と速度、変動率が大きい地域や変動方向が相反する地域、歪みの蓄積 (その地域で過去に起きた(最近の)地震から現在までの期間での蓄積) などの情報が得られます。 このような情報と過去の地震データとを併せて検討することで、特に注意すべき地震危険地域を知ることができます。
(2) そして、折にふれて(例えば毎週1回)、図(c)や(d)に示したような方法で、そのような危険地域のデータを観測・解析し、異常な変動がないかを探ります。
(3) 異常な変動が検出されたら、その周辺の地域のデータを頻繁に(例えば毎日1回)解析し、地殻変動の様子を把握し続けます。
(4) さらに、私たちは、地震発生の数週間から数日前に、迫り来る地震の明確な兆候を把握したいと考えますが、その手がかりは(神山の方法からは)まだ得られていません。もう一つの重要な課題は、異常変動の本質を理解することです。異常変動は、地震に際して見られているのではなく、地震の前(数年〜数ヶ月前)に観測され始めているのですから、ゆっくり滑りなどに関係しているのかもしれないと、神山らは考えています。
いずれにしても、神山の方法は、地震の短期予知に有用&重要なものです。今後、さらに多くの事例を観測し解析していくことが必要です。
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最終更新日 : 2024.10. 7 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp