地震予知研究の進め方の考察(3)--明確になりつつある諸方法の概観(中川 徹、2025.12)

 

地震予知研究-2025.12-地震予知学会-発表
地震予知研究の進め方の考察(3)--
  明確になりつつある諸方法の概観

中川 徹 (大阪学院大学)、日本地震予知学会学術講演会2025
2025年12月20日 - 21日、 品川 ふれあい貸会議室&Zoom

『TRIZホームページ』掲載 2025.12.30 、     英文ページ 

掲載: 2025.12.30

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  編集ノート (中川 徹、2025年12月28日) 

これは12月20日に日本地震予知学会の学術講演会で発表したものです。

本ページには、以下の資料を掲載しています。(英文ページも作りたいと考えていますが、未完です。)

発表スライド(2025.12.18 作成)  和文スライド(14枚)  本ページ(html) 、    (pdf 4スライド/ページ)  

 発表ビデオ (2024.12.19 収録、12.20発表)  和文 (mp4, 16分25秒、43.7MB)(2025.12. 28)

発表論文 (2025.11.23 提出)  (HTML 本ページ)   学会予稿集掲載(PDF) (2025.12.28)

本発表の要点:

直接の聴衆・読者は、地震予知学会の会員の人たちであり、それぞれに自らいろいろな方法を試行/実験/研究して、この学術講演会でも発表している人たちです。その人たちに向けて、今後の地震予知研究の進め方について、私が呼び掛けていることの要点は、以下のようです。

* 地震予知研究は、少し前まで、日本でも世界でも、暗中模索の状況にあり、(日本の地震学界では特に)悲観論が多くあった。
* しかしこの2-3年で、日本の地震予知研究には、明確な前兆現象を捉えたものが報告され、新しい段階に入った、といえる。
*  私は、地震予知研究の最終目標(公的な地震予知注意報/警報の発出)を明確にし、それを段階的に達成していく過程と課題と方法(組織も)などを提案してきた。
*  現在は、模索段階(0)を過ぎたことは明瞭である。昨年12月に私は、3つの方法が段階(1)(一研究室による方法の開発と実現)を越えて来ていると紹介したが、今回もう4つの方法が段階(1)を超えてきていることを認識し、紹介する
* 上記の7つの方法は、その前兆検出時期で見ると、注意報(2件)、警報(2件)、緊急警報(3件)に対応しており、それぞれまだ不十分な点を持ちつつも大いに期待される。
* いま私たちは 段階(2) の出発時期にあり、これらの方法を検証するために、地震予知学会が主導して、複数の研究グループでの協働(すなわち研究プロジェクトを興していく必要がある。
* また、この研究プロジェクトには、人材と資金が必要であり、地震予知学会の分身として、新たに(仮称)「(一般財団法人)地震予知研究基金」を設立し、活動することを提案している。
*  この後に、 方法の大規模展開段階(3)予知の技術システムの確立段階(4)を経て、地震注意報/警報の公的運用段階(5)を達成するには、(各段階5年として)約20年を要するだろう。
* 私たちは、日本地震予知学会に結集し、協力して、この任務を果たして行こうではありませんか。

 

なお私は、2023年と2024年の地震予知学会で発表していますが、それらを含めた地震予知研究に関する考察や発表は、「地震予知研究と防災(減災): 索引ページ [地震関連フォーラム(第3次親ページ)]」を参照いただけますと幸いです。

 

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編集ノート 

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地震予知研究と防災(減災): 索引ページ

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1. 地震予知研究の進め方の目標と方針

 

2. 日本における地震予知研究の諸方法の概要: 注目する7つの地震予知方法

 

2A. 地震予知注意報(1年〜1月前)のために有効な方法

 

2B. 地震予知警報(10日〜半日前)のために有効な方法

2C. 地震予知緊急警報(2時間〜10分前)のために有効な方法

 

3. まとめ: 今後の改良・発展のために (諸方法(技術面) と 予知学会(組織面))


 

  発表ビデオ  (mp4、16分25秒、43.7 MB) 

 

 


 

 発表論文:                                           ==> PDF (予稿集、Sec. 25-06)

 

地震予知研究の進め方の考察(3)--明確になりつつある諸方法の概観
中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授)

日本地震予知学会 2025年度学術講演会 (2025年12月20-21日)  予稿集25-06

 

要旨  

筆者は前報 [1, 2] において、地震予知研究の目標として、地震予知(A)注意報/(B)警報/(C)緊急警報を公的/社会的に発出し、社会と人々が地震被害を減少できるようにすること(実用の段階5)を提案した。それに至るために、地震予知方法の模索(段階0)、一研究グループによる開発と実証(段階1)、複数研究グループによる検証(段階2)、科研費プロジェクトによる全国展開と各方法の確立(段階3)、諸方法の統合と地震予知技術システムの確立(段階4)を構想した。また各段階で諸方法が満たすべき要件を提示し、研究されてきている諸方法の中で、3つの方法が段階1を達成しており、段階2に進むべきことを見出した。
本報では、もう4つの方法が段階1を満たしていることを見出し、紹介する。これらを含めて、現在の地震予知研究の状況を概観し、段階2での地震予知学会の活動について考察・提案する。

 

1. 地震予知研究の最終目標: 地震予知の注意報/警報/緊急警報の公的発出による減災 [2]

 昨年12月の地震予知学会学術講演会において、筆者は地震予知研究の最終目標として、表1に示す地震予知注意報/警報/緊急警報の公的/社会的発出を掲げた[2]。これらの3段階の警報類は、人々と社会全体が、地震被害の減少のために、適切に対応できる心理的/時間的余裕を考慮して設定した。そして、地震前兆を捉える技術がこれらの時間帯で特徴づけられることが分かってきた。

表1.実用段階(段階5)で公的に発出する地震予知の注意報/警報/緊急警報 [2]

これらの警報類は、地震(予知)の専門家(会議)の進言に基づき、国の機関が全社会に発出する。適切であれば減災に大きな寄与をするが、(予知が外れるなど)不適切だと社会に大きな負担をかける。責任重大である。これが適切に運用され成功するには、まず第一に、被害が予想される地震の前兆を検出し、震源地域/規模/時を推定する方法の体系が、技術システムとして確立できなければならない。その任務は地震研究に関わる多くの人々、特に私たち日本地震予知学会にあり、本編はその推進法を考察・提案する。


上記の運用には、さらに大きな(本編では扱わない)課題が多数ある。科学・技術面では、広範な地震研究(地震の観測と分析、地震の長期・中期予測、メカニズムの解明、被害予想など)と、その知識・情報の社会への普及(学界、マスメディア、防災・行政関係者など)。地震予知警報類の発出の基準・プロセス・体制の明確化と公的整備。防災の長期・中期的対策と連携した、短期的・緊急的な減災対策の事前準備と実施などである。

 

2. 地震予知の研究開発から実用化までの5段階 [2]

 地震予知研究の模索(段階0)から、一方法の開発実現(段階1)を経て、実用(公的運用 段階5)に至るまでの全過程についての構想を、前報[2]から再掲して、表2に示す。

表2. 地震予知研究の模索(段階0)、開発(段階1)から、実用化(公的運用 段階5)までの全過程 [2]

表の各行が一つひとつの段階を示しており、その段階でするべき活動と達成するべき課題を記している。その要点を左欄の段階名としている。段階1から段階3までは、一つの方法の開発から確立までを述べており、諸方法が時間的に前後してこれらの段階を進む。各方法には、適用できる地震のタイプや規模や検出時期などに適/不適があるから、(段階4で)複数の方法を統合した技術システムを創り、公的運用(段階5)に進むことが大事である。これらの段階ごとに活動主体が(前段階の複数の活動主体を含む形で)階層的に大きくなる必要があり、人材・資金・組織・運用などの全ての面で、新しい展開と構築を必要とする。この段階的移行を積極的にできるように、関係組織に働きかけていくことが、地震予知研究を国家的に役立てる(実用化)のに必要である。

 

3. 地震予知の諸方法が満たすべき要件 [2]

 従来から行われてきた(中/長期の)「地震予測」は、各震源域での過去の地震の痕跡や記録、あるいは近年の地震活動(前震?や余震)の状況から、統計的推論により、「今後30年間に規模y程度の地震が起こる確率が10〜30%」などと述べる。それに対して「地震予知」は、より決定論的に、何らかの現象を観測して、その現象が(今までの多数の地震との相関性、あるいは地震の物理モデルなどから)「地震の前兆」を示すものであり、「地域xに、規模y程度の地震が、今後t頃に起こる危険が高い」などと、推定しようとする(1.節参照)。ただ、このような地震予知方法は一朝一夕にできるものでない。各方法は、(2.節の)各段階に応じて、表3のような要件を(順次、確実に)満たすように開発と検証を進めるべきである [2]

表3. 地震予知の諸方法が満たすべき(段階的)要件 [2]

(T) 基本要件: 明確に観測/測定でき、できるだけ高いS/N比である。ノイズで隠れる時間帯が少ない。

(U) 確認要件: 多くの地震について、複数サイトで同様に観測でき、予知したように地震の発生がある。
                人工的/自然的ノイズから区別できる。

(V) 実用要件: 測定が自動的/安定的/連続的に行え、地震がどこで、どの規模で、いつ起きるかを推定できる。

(W) 高度要件: 諸方法を統合し、種々のタイプの地震をも予知できる。地震発生プロセスと関連づけできる。

(X) 社会的要件: 地震予知注意報/警報のシステムを、信頼できる(される)形で運用できる。

 

4.アプローチ別に見た種々の地震予知方法

 現在(日本で)研究されている種々の地震予知の方法を、アプローチ別に表4に列挙した。前述の要件を満たす見込みの少ない方法は除外した。(サーベイの不完全な部分や各方法の認識の不十分さは容赦下さい。) なお、表中で、LAIカップリングというのは、地層(あるいは岩石層、Lithosphere)―大気層(Atomosphere)―電離層(Ionosphere)の間で、電場の相互作用(伝搬)があることを基礎にしたものであり、観測の容易さから多様な研究が行われてきた。右欄は、本編で特に注目して、次節に順次説明しているものである。

表4. (日本で研究されている主要な)種々の地震予知方法: アプローチ別の分類

 

5.注目する地震予知の諸方法(地震予知注意報(A)、警報(B)、緊急警報(C)のために)

 ここには、段階1を達成した/しつつある諸方法を、その方法が(主として)関わる(発震前の)時期に応じて分類し、説明する。なお、7方法のうちの3つは、前報 [2] で詳しく説明しており、本編には簡略にする。


5A. 地震予知注意報に適した方法 (予知地震の1年前〜1月前に発出)

A1. 「地下天気図」:小地震群の活動度の空間分布の時間変化(東海大:長尾年恭)  [3]

東海大学の長尾年恭は、そのホームページで、また2011年に自ら興したベンチャー企業DuMAにおいて、「地下天気図」と呼ぶ方法を開発し、継続発信している。この図は気象庁が一元管理している全国の地震カタログを基にして、各時点でのごく最近(数週間程度)の全ての地震の震源を地図上にプロットする。有感の地震だけでなく、海域の(例えば日本海溝の外側)の地震をも含むことが特長である。その空間分布において、各地点の近傍(半径10q程度)の地震の活動度を、R(距離)とT(時間)とM(マグニチュード)の評価(寄与)の積の総和で表し、さらにその地域の歴史的な平均と比較して、「鎮静」「平常」「活発」の度合いを評価する(RTM法)。その結果を、地図上に「鎮静」を青色、「平常」を白色、「活発」を赤色で表している。その図は、通常の「天気図」と似ており、「地下の地震の天気」を、青色の「低気圧」と赤色の「高気圧」で表しているかのようであり、「地下天気図®」と命名した。この(全国)図の経時変化を、アニメーションのように見て行くと、いろいろな情報が得られる。
さらに、分かりやすいのは、各地域でのRTM評価値(-8〜+8に規格化している)の経年変化を見ることである。多くの(被害)地震の事例では、平常状態から、活発な一時期があり、その後平常状態が数年続いた後に、鎮静状態が1年程度あって、急に活発化したときに、大きな地震が起こっている。この(大)地震の前の鎮静化を注意信号だと認識する。地震の震源は、鎮静域の中央よりも、鎮静域の周囲のことが多いという。
この「地下天気図」を(10年余にわたって)運用し、鎮静化が始まるとき(1年ほど前)から(被害)地震の注意を喚起してきたという。さらに、海域での地震に対しても、適用可能であることが、長所である。

----これらの実績はDuMAのニュースレター(有料、216円/月)で逐次(毎週)継続発信してきているが、地震予知学会の学術講演会では発表されたことがない。筆者は今年の10月初旬に初めて知った。

A2. GNSS衛星で観測した地殻移動の経時変化の異常 (東北工業大:神山眞) [4] [2]

測位衛星GNSSで測定された全国の1300余の基準点の3次元位置情報を、3角メシュ法で解析し、毎日の経時変化を見る。地震予知学会発表(2023年 [4])では2018年北海道胆振東部地震など3例を詳細に報告した。震央の周りの4つの3角形の面積が10年にわたって緩やかに減少していたものが、発震の3か月前(別のケースでは3年、2年半前)から明らかに異常な(膨張/収縮の)振舞いを示し、地震時に顕著に変動(一部は膨張、他は収縮)し、その後また以前と同じ緩やかに減少したことを観測した。
----使用するGEONET観測データは、国土地理院が1996年の運用開始以後の30秒間隔の連続測定結果を集約公開している。全国各地の過去および現在の地殻変動と発生地震に関して、報告 [4]と同様の(またさらに詳しい)解析が可能であり、地震前兆現象の経験則を導くことが期待できる。海域の地震には弱点がある。


5B. 地震予知警報に適した方法 (予知地震の10日前〜半日前に発出)

5B1. 見通し内FM放送の電界強度異常の観測 (JYAN研究会:國廣秀光、横井孝佳) [5]

JYAN(地震予知アマチュアネット)研究会は、2009年に國廣秀光が「無線ハムの技術を地震予知に活用しよう」と呼びかけて発足し、多面的な活動をしている。特に、各地でFM放送の電波を受信し、その電界強度が地震の少し前に異常を示す(弱く、あるいは強くなる)ことを検知して、地震予知の方法を創ろうとする。同会は急速に発展し、2015年の段階で、全国(特に西日本と関東)に35の観測局があり、それぞれ東西南北の4放送局の電波を24時間観測し、中央のサーバーに情報を集約している。観測局では、FMアンテナに小型のキット(ラジオロガー)を接続するだけで、4つのFM波の電界強度を毎秒測定し、中央に送れる。中央では、各観測局からの電界強度データを自動的にグラフ化し、研究会メンバーがそれらを観察・分析できる。国廣は日本地震学会、JGU、ハムフェア、(初期の)地震予知学会などで、積極的に発表している。ただ、2018年頃から研究会のホームページが途切れ途切れになっている。


横井孝佳は、地震予知学会(2023年)で「FM放送直接波による関東圏地震前兆観測システムと観測結果」 [5]を発表した。上記の観測活動の一環として、横井らが関東圏の9観測局で、2019〜2020年の丸2年間に観測した結果(主として 5≤M≤6 の地震27件)を整理した。(今年度)横井はそのうちの主要な地震のケースについて、各件ごとに、実測データとその知見を地図と共に分かりやすく表現し直し、複数放送局/複数観測局での電界強度情報のクロスチェックを明示した。その結果、(ほぼ)同時期(発震の約1週間前、ときにはさらに1-2日前)に、多数の放送局/観測局の組合わせで、電界強度異常(増大/減少、短時間・持続的などいろいろなパターン)が観測された。その結果、震源域の数十km程度での推定、マグニチュードと発震時期の推定の見込みが得られてきた。

---- しっかりしたクロスチェックができており、(複雑な)現象の解明が期待される。環境ノイズの少ない観測局の設置が課題。今後の広範な地域への普及・拡大が望まれる。

なお、見通し外FM放送の異常伝搬の観測は、通常は(遠距離のため)受信できないFM放送局の電波が、電離層の擾乱のために反射して、ときおり受信できることを利用する。放送局と観測局の距離が長くなるので、震源域をカバーする可能性が高くなり、多数の研究が行われているが、震源域の特定が曖昧になる。 

---- 地震予知警報には、前項(見通し内)の方が震源の特定に有望と判断し、紙数制限のために説明を省略する。


5B2.  地中での電磁波(電場、磁場)の連続測定 (ブレイン 内山義英) [6]

内山義英は、免震建築「超高層免震」を研究開発し、退職後、東日本大震災を契機に地震予知法の開発・普及に尽力している。その予知方法は、地中電磁波(地磁気・地電流)の観測を中心とし、低周波音(10Hz以下)の観測、グーテンベルグ・リヒター則のb値を用いた大規模地震の危険性のチェックを組み合わせている。地中電磁波は全国18か所で観測し、一元的に集約・分析して、全国を12地域に分けて、その単位で「地震予報」を出している。ただ、「地中」といってもごく浅く、「地面を少し掘った程度」のようである。このため、生データには自然的・人工的なノイズが多くある。ノイズの種類ごとに特定の振幅や周期特性を持っているから、独自の波形解析技術で取り除いているという。また、地震予知の推定法について(地磁気データの場合で)細部を考慮した手順を記述しているが、ここには紹介しきれない。信号強度からマグニチュードをM5(±0.5), M6, M7, M8などと粗く推定、強度と地電流の方向から震源地域を推定、発震時期を(経験的に)異常検出の1〜2週間後と推定している。これらを総合して、全国の地震予報を、12地域ごと、各週ごとに、表示し、登録会員に毎週(最近から週2回)有料でネット配信している。

発表 [6]では、2018年北海道胆振東部地震(9月3日、Mw6.6)を、8/27に臨時地震予報で「北海道南部(同沖)〜根室半島沖に、M 7.0±0.5の大地震の発生が予想される(予想期間10日)」と警告して、的中したことを述べている。またこのケースで8/26に観測した地磁気異常の4成分の観測データを掲載している。4観測点(北海道南部、東北北部/南部、北陸)での観測グラフが、複雑だが極めて似ていることが興味深い(ただ、私にはグラフの意味をよく読み取れない)。

2023年8月〜10月の3か月間(13週)について、全12地域の予報状況を一覧にしている。M6級の予報が北海道北部に5週間、東北北部に3週間、琉球諸島に6週間出されていて、その期間にM6級地震が1件、1件、2件発生している。M5級以上の予報で見ると、東北北部/南部、関東、琉球諸島ではべったりとほぼ全週に出されており、その期間のM5級以上の地震の発生はそれぞれ8件/6件、11件、18件である。この結果を「90%以上の予測成功」と言うが、地震の専門家たちは「小さな地震(M5級など)は頻繁に起こっており、個々の地震を(震源などを)特定せずに予報したといっても意味がない」と批判する。

---- この方法の長所は、(最初に言及した)3つの方法を併用し、かつ、データの取り扱いが緻密なことである。測定器を地中(10m程度?)に設置するとよいのでないか、震源をもっと限定し、被害が予想される規模の地震(M6級以上)に限定して警告するとよいのでないかと、思う。


5C. 地震予知緊急警報に適した方法 (予知地震の2時間前〜10分前に発出)

5C1. 地下での直流電場の連続測定 (京都産業大:筒井稔)[7] [2]

筒井稔は、(自然・人工のノイズを抑えるため)紀伊半島南端の島で、地下150mの竪穴を造り、長さ100mのセンサーで、直流〜50Hz未満の電場の変動を連続測定した。その結果、宮城沖(直線距離約730q)のM6.8の地震(2021/5/1)を極めて高いS/N比で観測した。地震の1時間37分前から、46分間の激しい±の変動、その後の静穏、発震時のパルス、その後8時間半の静穏、68分間の激しい±の変動という、顕著な微細構造をもつ信号を得た。その後、PCのハッキングトラブルなどで、測定が断続しているという。

---- このデータは驚異的な情報を含む。ほぼ日本全体をカバーでき、信号の微細構造は地震の前後のプロセスの情報を豊かに含んでいる。ほぼ全てのタイプの地震について、1〜2時間程度前に明確な信号が得られ、緊急警報に有用である。ただ、震源の特定には、信号の飛来方向の補助情報が必要であるが、上記A,Bの方法やC2, C3の方法のサポートを得るとよい。第2、第3、… の観測サイト&研究グループが求められる。


5C2. GNSS衛星による電離層全電子数の増大の観測 (北海道大:日置幸介) [8] [2]

 多数周回しているGNSSと(分散配置した)地上局との間の(直線上の)電離層の全電子数(TEC)を連続測定でき、すでに多量のデータが集積されている。日置は20件余の大規模地震(M=7〜9)について、発震時のTECの変動を分析し、地震の10〜80分前から(地震の数十分後まで)、TECの値が最大時2〜40%増大する(Mが大きいほど、時間が長く、増加も大きい)ことを見出した。海域の地震は、陸地の地震に比べて、増大が少ない。 

---- (世界の)大地震を直前に(震源域を明確にして)予知できる。筒井の方法を補うことができる。


5C3. GNSS衛星による電離層の電子数の分布のリアルタイム観測 (京都大: 梅野健)[9]

 梅野健は、GNSS衛星からの公表データを用いて、地殻変動の空間・時間分析や、電離層全電子数の空間・時間分析など、多様な研究を進めている。膨大な、ノイズを多く含む生データから、本質的な情報を得るために、同じ対象に対する複数の多面的な生データの「相関解析」を行い、ノイズを打ち消させて「真の情報」を得ようとする。地殻変動の観測では、(大規模)地震の発震直前に、(脈動状の)プレスリップを発見したという。また、電離層の電子数の空間分布の時間変化を調べるために、複数のGNSS衛星と多数の地上局とを結ぶ(多数の)線上の全電子数(TEC)観測データに合わせるように、碁盤目に区分した(2次元の)ブロックの電子数分布を求めた。さらに、電離層の空間を3次元の小ブロックに区分し、同様な当てはめにより、電子数の空間分布を求める。次には空間分布の時間変化を(できるだけリアルタイムで)追うことが課題である。この課題は空間的連続性と時間的連続性を取り入れたアルゴリズムを用いることにより、解決できてきたという。まず空間的には、最初に粗い碁盤目であてはめを行い、つぎに細分化した碁盤目の当てはめにおいては、前の結果を初期値に用いて精密化を図る。時間的には、前の時刻での空間分布の結果を次の時刻での空間分布の初期値に使う。このようにして、空間分布の時間変化を逐時的に追いかけることが可能になった。この方法は今後、地震の発震前後の電離層の実状を知り、地震の発震直前(1時間前程度)の予知に使えるものと期待される。

 

6.  まとめ: 今後の改良・発展のために(科学的&技術的側面と組織的側面)

 前節の概観記述から明確なように、日本の地震予知研究は、地震予知注意報(A)、警報(B)、緊急警報(C)の3段階に対して、それぞれ複数の「有望な方法の明確な手掛かり」を獲得した。それらはいままで個別に(別の研究グループで)研究・開発され、主張されてきた。それぞれに長所・強みを持つが、弱点も持ち、多様な地震について発震の1年前〜直前の各段階に必要な警報類の小部分にしか寄与できないことは明白である。しかしいまや、「それらが協調すれば、地震予知警報類のかなりの部分をカバーできる」ことが明確になった。この認識のもとに、今後の改良・発展を考察する。データ解析の方法と実験的方法の2類型がある。


データ解析を主とする方法は、微小地震の分布データを使う長尾の方法(A1)、GNSS衛星の地殻測位データを使う神山の方法(A2)、GNSS衛星の電離層TECデータを使う日置の方法(C2)と梅野の方法(C3)である。これらのデータは、日本の高感度地震計ネットワークや(日本と世界諸国の)GNSS衛星の開発の成果として、測定・集積され、公開されているものである。その厖大なデータを分析し、なんらかの地震のモデルを明確にすることがその任務である。これらの方法間で互いの強みを共有し、協調することが有益である。

 実験と測定を主とする方法には、見通し内のFM放送波の強度異常を使う方法(B1)、地中の電磁場を測定する方法(B2)、地下の電場を連続測定する方法(C1)がある。実験装置を造り、ノイズの少ない実測サイトを展開し、測定データを集約し、分析するという基本的なプロセスで、共通する多くの課題を持っている。

 上記の2類型ともに、地震学全般(特に地震活動の推移や発震のメカニズム)、情報通信技術とソフトウェア、人工知能などの、日本と世界の発展に留意し、自らも積極的に発信していくべきことは、いうまでもない。


本編は、日本の地震予知研究がいまや段階2に差し掛かっていることを示し、段階2のための活動主体の構築(組織的拡大)を準備するべきことを、提唱する。地震予知学会が脱皮・発展するべきである。

 これらを当面の目標にして、地震予知を実用化し、国民と社会を地震被害から守るよう、尽力しよう!!!

 

参考文献

[1] 中川徹:地震予知研究の発展方向を考える、地震予知学会学術講演会(2023) 23-12。

[2] 中川徹:地震予知研究の進め方―実用を見据えて着実に、地震予知学会学術講演会(2024) 24-19。

[3] 長尾年恭:東海大学 地下天気図プロジェクト、 https://www.sems-tokaiuniv.jp/EPRCJ/tenkizu.html。

[4] 神山眞ら:地殻歪の時空間変動にみられる被害地震発生前の予兆特性、地震予知学会(2023) 23-20。

[5] 横井孝佳: FM放送直接波による関東圏地震前兆観測システムと観測結果、地震予知学会(2024) 24-13。

[6] 内山義英:地中電磁波による高精度地震予知法の開発と適用:(1)全体概要、地震予知学会(2023) 23-17。

[7] 筒井稔:地中における電場観測による地震予知の可能性、地震予知学会学術講演会(2022) 22-22。

[8] 日置幸介:2008年Wenchuan地震直前の電離圏変化、地震予知学会学術講演会(2023) 23-09。

[9] 梅野健: リアルタイム高解像度電離圏トモグラフィの実現、地震予知学会学術講演会(2023) 23-08。

 


 

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最終更新日 : 2025.12.30    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp