| 地震予知研究: 明確な科学的手がかり(現状)から 公的実用(目標)へ | |
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『TRIZホームページ』掲載 2026. 9.25、 英文ページ |
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掲載: 2026. 9.25 |
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編集ノート (中川 徹、2026年9月24日)
これは、9月のTRIZシンポジウムでの発表です。スライドは、同時期の日本での二つの国際ワークショップ(IWEP10(5月末)とEMSEV2026(8月末)と同様です。英文ページにはEMSEVのためのビデオを掲載する予定です。
要点: 日本地震予知学会は、(長期/中期的な統計的予測ではなく、)地震前兆現象の観測に基づいた短期/直前の地震予知警報を公的に発出することを目指して研究を進めています。
この目標を達成するために私は、(TRIZの考え方をベースにして)(個々の予知方法に基づく従来のボトムアップ方式に加え、)目標のビジョンに基づいたトップダウン方式で研究を進めています。本発表では、このアプローチの全体像を7枚のスライドで簡潔に示しています。すなわち、
(目標): 地震予知の結果を社会に公式に発表し、地震の被害を減少させるためのビジョン。
(予知方法の概観): 現在の地震予知の諸方法を概観する。
(有望な予知方法の紹介) 3方法を紹介: 注意報のため、警報のため、緊急警報のための、各方法。
(目標までのプロセス) 全5段階のプロセスを提案し、現在は各方法を検証するべき(第2)段階の始めにある。
これらの全体を通じて、地震の予知を可能にするために、地震予知学会が主体的に活動し、多くの人々の協力を得て発展させていく筋道を示そうとしています。
なお、当日の質疑応答を拡張して、「TRIZの考え方をベースにして、地震予知研究を推進する」という補足説明(やや長文)を書きました。本ページには、以下の資料を掲載しています。(英文ページは後日掲載します。)
要旨 (.html)
「TRIZの考え方に基づく 地震の短期/直前予知の研究(3) 地震予知注意報/警報/緊急警報のための 技術と今後」
発表スライド (7枚) (.html)(.pptx、1.91MB)
発表ビデオ(.mp4、16分48秒、71.5 MB)
発表テキスト(ビデオの文章) (.html)
質疑応答(説明拡張)「TRIZの考え方をベースにして、地震予知研究を推進する」
皆さんをはじめ、国民の多くの方々の、ご理解とご支援をお願いする次第です。
| 要旨 |
発表スライド |
質疑応答(TRIZをベースに地震予知へ) |
英文ページ |
| TRIZシンポ発表 |
TRIZシンポ発表ビデオ |
地震予知研究2026 Index 英文ページ |
要旨 (和文)
TRIZの考え方に基づく 地震の短期/直前予知の研究(3)
地震予知注意報/警報/緊急警報のための 技術と今後
中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授)昨年のTRIZシンポジウムで発表したように、日本地震予知学会では、(統計的な長期/中期予測ではなく)地震の前兆現象の観測に基づいた、(中期)/短期/直前の地震予知の警報類を、公的に発出することを目指して活動している。
そのためには、個々の地震予知方法の当面の研究・開発課題への取り組みだけでなく、より包括的な観点からの、
(a) ビジョンと課題の設定、
(b) 解決策の満たすべき要件、
(c) 課題解決のための(組織的・技術的)プロセス、
(d) 科学的・技術的な検討とシステム構築、
(e) 予知方法の研究開発・実証・普及、
(f) 学界・社会などへの普及(理解の獲得)、
(g) 公的組織による地震予知の実用と防災・減災体制など、
広範な検討と実践活動が必要である。
本発表は、これら諸側面の概要が明確になってきたことと、3種の警報類(注意報/警報/緊急警報)のために、予知方法の明確な開発例が得られており、複数研究グループによる実証段階に進むべきことを、示す。
地震予知の警報類は次の3種であり、公的機関が適時に発出し、全社会の防災・減災を目指す。
(A) 注意報: 予知地震の1年〜1月前に発出:「前兆現象p1が観測され、x1地域に、規模y1程度の地震が今後t1頃起こる可能性が高い。関係諸機関は事前注意の態勢を整え、国民は落ち着いて、今後の警報に注意されたい」。<-- 社会にとっての必要性・有効性・信頼性を主眼に設定。
(B)警報: 10日〜半日前:「前兆現象p2が観測され、x2地域に、規模y2程度の地震が今後t2頃起こる可能性が非常に高い。関係諸機関は速やかに防災態勢を整え、国民は身の周りの防災/避難を準備し、今後の緊急警報に注意されたい」。
(C) 緊急警報: 2時間〜10分前:「前兆現象p3が観測され、x3地域に、規模y3程度の地震が今後t3頃起こる危険性が非常に高い。関係諸機関は緊急に防災態勢に移行し、国民は速やかに防災/避難し、身の安全を図られたい。地震発生時には緊急地震速報が出される」。
予知方法開発(は次の5段階を経るべきことを提案する。)
段階1は、一研究グループが一つの方法を開発実現し、複数の地震に対し、地震の前に特徴ある現象が実測された(されていた)ことを示す。<-- 実用まで順調でも20年余を要するだろう。
段階2は、複数研究グループのプロジェクトがその方法を複数観測サイトで並行実施し、一つの地震に対して同様の信号を得、また多数の地震について検証し、地震の前兆現象を捉えていることを示す。
段階3は、科研費プロジェクトにより、その方法を大規模展開し、予知した地震が起こる地域/規模/時を事前に推定する方法を創り、地震予知情報の発出内容と時期を検証する。
段階4: 国家プロジェクトによる地震予知技術システムの確立、
段階5: 公的機関による地震予知警報類の実運用。
現在、次の3方法(他)が段階1を達成しており、地震予知学会の主導で段階2に進むべきである。
(A2) 神山(東北工大)の方法: 全国の基準点位置の衛星観測から、局地的歪みの異常変化(3年〜3月前)を捉える。注意報に有効。--> 過去の地震を網羅的に分析し、異常のパターンを知る。
(B1) 國廣・横井(JYAN研究会)の方法: 複数観測点で複数FM放送局からの(見通し内)放送波の強度を連続観測し、強度異常(10日〜1日前)をクロスチェックする。警報に有効。--> 全国各地での観測網と観測・検証グループを再構築し、今後の地震の観測データを随時分析・検証する。
(C1) 筒井(京都産大)の方法: 地中深くでの(直流-ULF)電場を連続測定し、震源(ほぼ全国域)からの電磁波を直接に観測する(数時間〜数分前)。緊急警報に有効。--> 複数グループ・複数のサイトを作る。地震信号の入射方向を実測する方法を創り、震源位置の推定方法を確立する。段階2を主導するためには、地震予知学会の組織の強化と刷新が必要である。2014年の創立以来、会員数は100名足らずで推移している。前記の3方法(他)の将来性が明確になった今、学会員の相互理解と協力を進めて、学会員の意識変革と積極的な組織活動を図る。昨秋から「発表と討論の会」(各回発表1名60分、討論30-60分、1-2か月ごと)を開始した。各自の周辺をはじめ、多様な専門分野の人々への働きかけと研究協力を進める。プロジェクト研究の推進のために、(一財)地震予知研究基金(仮称)の設立を、私は提案している。
** TRIZ関連の皆様(そして全国民の皆様)のご理解・ご協力を願います。
TRIZシンポジウム 発表スライド (和文) ==> スライド (.pptx、7枚、1.91 MB)
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地震予知研究: 明確な科学的手がかり(現状)から 公的実用(目標)へ
中川徹 (大阪学院大学)
TRIZシンポジウム 2026. 9. 3 、早稲田大学にて、和文トーク原稿はじめに: 発表の趣旨
中川徹です。今日は、「地震予知研究、明確な科学的手がかり(現状)から公的実用(目標)へ」という話をいたします。「地震予知は、非常に困難で、現在の技術ではできない」というのが、日本地震学会と日本政府の見解です。「しかし、そんなことはない。現在、すでに明確な科学的な手がかりが得られている。それを公的な実用の段階へ発展させていこう」というのが、今回の話です。昨年のTRIZシンポジウムで話しました後で、地震の10日前から半日前に予知できる方法が明確になり、地震予知を実用化する目途が一層明確になったことを、説明します。
1.実現するべき目標:科学的実証に基づいた地震予知の注意報・警報 と 全社会の対応 [スライド1]
まず、実現するべき目標は、「科学的実証に基づいた地震予知の注意報/警報/緊急警報を全社会に発表し、全社会がそれに対応できるようにする」ことです。
注意報は、予知した地震の1年前から1月前に出します。「前兆現象p1が観測され、x1の地域に規模y1程度の地震が今後、t1頃起こる可能性が高いと分かりました。関係諸機関は、事前注意の態勢を整え、国民の皆さんは落ち着いて、今後の地震予知警報に注意ください。」
予知警報は、予知した地震の10日前から半日前に出します。「前兆現象p2が観測され、x2の地域に規模y2程度の地震が、今後t2頃起こる可能性が非常に高いとわかりました。関係諸機関は、速やかに防災体制を整え、国民の皆さんは、身の回りの防災・避難を準備し、今後の緊急警報に注意ください。」
緊急警報は2時間前から10分前に出すもので、夜中のこともあります。「前兆現象p3が観測され、x3の地域に規模y3程度の地震が、今後t3頃起こる危険性が非常に高いです。関係諸機関は緊急に防災体制に移行し、国民の皆さんは速やかに防災・避難し、身の安全を図ってください。地震発生時には、緊急地震速報が出されます。」地震予知情報の発出に対して求められる要件
このような警報類を出すには、しっかりした要件を満たすことが必要です。まず、防災/減災の対処をするための、情報内容が十分備わっていて、時間的余裕があることです。内容は、予知地震の震源地域、規模、発震時期、想定被害、などが必要です。その内容は適切で、具体的で、確実性、信頼性が、もちろん大事です。
これらの要件全体を保証するのが、科学的な実証の実績と、国の機関による責任のある形での公的な発表です。
2.種々の「地震前兆現象」とその観測法: 選択のための観点・考察 [スライド2]このスライドに、種々の地震前兆現象とその観測法をまとめており、そのうち有効だと考えるものを取り上げます。
力学的現象の観測法の内では。特に、地殻の移動の観測が、測地衛星で精密・連続的に行われており、それを使った神山らの方法を取り上げます。
電磁気学的現象の観測
力学的現象のほかに、電気的・電磁気的な現象がいろいろあります。
まず、第一は、地中の電場を測定することです。地震は地中で起こりますから、地殻の中を通ってきた信号を直接観測しようというのが、筒井の方法です。
地上の電場を測ったり、地上で電磁波を測ったりする方法もいろいろあります。今回注目したのは、FM放送波の強度を連続観測して、その強度の異常を手がかりにする、國廣・横井の方法です。
それから、電離層の電気的性質を使う方法があります。前回は、日置の方法を説明しましたが、今回は取り上げません。まとめますと、神山らの方法を注意報に使い、國廣・横井の方法を警報に使い、筒井の方法を緊急警報に使うという、新しい方針を説明します。
3.地震予知注意報(1年〜1月前)のために有効な方法 [スライド3]
A2. 神山らの方法: GNSS衛星による測位データを用いた地殻の歪みの観測
まず、地震予知注意報のために有効な神山らの方法ですが、昨年も説明しました。日本全国に約1300余の基準点があり、その位置をGNSS衛星を使って精密に測定し、地殻の歪みを観測しています。この例は、2018年の北海道胆振東部地震に関連した観測データを分析した結果です。地震の震源はここですが、震源の周りの4つの三角形について、面積の変化に注目しています。4つの三角形の面積は、徐々に縮小していく方向に進んでいますが、地震が起こった時に、急に変動し、その後また、前と同じような速さで、縮小して行っています。地震が起こった年の時間軸を拡大して示したのが、下のグラフです。地震の3ヶ月前から急に特別な振る舞いをして、増大している三角形と小さくなっている三角形があり、ここで地震が起こったのです。
今後、過去の全国の被害地震を同様に解析して、異常変動の開始時期と、パターンを調べ、予知地震の地域、規模、時期をあらかじめ推定する方法を創り、地震の短期予知(数年から数ヶ月前)の方法として、創り上げることが課題です。
3.地震予知警報(10日〜半日前)のために有効な方法 [スライド4]B1.國廣・横井らの方法: 見通し内FM放送波の電界強度の変化(多観測点でクロスチェック)
次に、地震予知警報のために有効な方法として、新しく取り上げた、國廣・横井らの方法を説明します。それは、FM放送の放送局から直接到達する、見通し内のFM放送波の電界強度を測定して、その変化の異常を見るものです。沢山の地点で同時観測して、クロスチェックをします。 この方法を最初に確立したのが、國廣秀光さんでして、2009年にボランティアのハム仲間でJYAN研究会を作って、観測システムを開発・運営し、全国約40の観測点を使って、観測を行いました。活発だったのですが、2018年ぐらいから、データを公表しなくなりました。 横井さんは、関東地区での観測・分析を主導した人で、2019年から20年の間のマグニチュード5から6のすべての地震を分析して、10日前から半日前に強度の異常が起こる、ということを示しました。
横井の分析結果
ここに掲げる例は、2019年5月25日の千葉県南部地震で、ここが震源です。橙色の丸が観測サイトで、二重丸がFMの放送局です。各観測サイトでは、四方向からのFM放送を常時観測して、その放送の強度データを國廣さんのサイトに自動的に上げています。左のグラフは、一つの観測点での4つのFM放送波の強度変化を、グラフにしたもので、地震が起こったのがこの時で、その2週間ぐらい前からを示しています。このように複数の観測サイトでのグラフを表示して、クロスチェックができます。
グラフが細かくてわかりにくいのですが、10日前に、こういうような異常が起こっている。で、この異常も強度が増す場合と、減る場合がある。それから、少し継続する場合と、あまり継続せずに、パルス状に出る場合があるとか、いろんな変化があります。それから、異常が現れる日も、少しずつ差があったりします。ともかく、複数の観測点で、だいたい10日ぐらい前から、細かい差はありますが、共通に異常が起こっており、沢山のデータをクロスチェックすると、大体どの辺が震源であるか、を推定できます。
ただ、どうして細かい差があるのかは、よく分かっていません。観測サイトでのノイズではないし、放送局のノイズでないことは、確かです。考えられることは、電気的・電磁気的な影響が、地上に電荷として現れる。それが、比較的低い大気中に電場を形成し、地域的にも時間的にも変化があって、非常に複雑な系になっている、と思われます。
今後の課題は、國廣さんと協力して、観測方法を改良・統一し、沢山の新しい人々の参入を得て、観測体制を再構築していくことです。10日前から半日前の(地震予知警報の)ために、有効な方法になるでしょう。
5.地震予知緊急警報(2時間〜10分前)のために有効な方法 [スライド5]C1. 筒井の方法:地下での直流電場の連続測定
つぎに、地震予知の緊急警報のために有効な方法として、(昨年もとりあげました)筒井の方法を説明します。筒井は、紀伊半島の南端の島にサイトを作り、深さ150メートルの縦穴に、長さ100メートルの直流電場センサーを設置して、信号を毎秒連続測定して、PCに記憶させました。 ここに示した例は、2021年5月1日の実測データで、午前0時から夜の24時までの毎秒のデータです。非常に安定したノイズだけの状況が長く続いて、非常に激しい振動が測定されてから、また静かになって、ここでポンと信号が現れた。静かになって、また激しい振動が現れています。筒井はこのデータを、後になって見たのですが、この日の10時27分に、ここ、宮城沖で、マグニチュード6.8の地震がありました。このポンと出たデータは、その同じタイミング、10時27分ですから、ここの前のデータも、この後ろのデータも、この地震によるものと考えられます。
この方法は、地中の電場の観測で、低いノイズと、高い感度を得て、毎秒の連続測定をし、ほぼ全国レベルの遠隔地の地震を明瞭に観測した。信号は、地震の数時間前から、数時間後の微細構造を示している、という素晴らしいものです。
今後の課題は、筒井名誉教授の技術とノウハウを早急に継承して、第二、第三の研究グループ、観測サイトを作ることです。今後、多数の実測例をつくって、信号のパターンを知り、予知した地震の地域、規模、時期を、あらかじめ推定する方法を創ることが大事です。この筒井の方法は、地震の直前予知の方法として、非常に強力です。
6.地震予知方法の開発・実用化のための5段階:現在:第2段階入り口 [スライド6]こういった地震予知方法をさらに開発、実用化するためのプロセスとして、5段階のプロセスを、提案します。
第1段階 まず、第1段階は、方法を開発・実現することで、一つの研究グループで実行するものです。一つの方法を一つの観測サイトで開発・実現し、複数の地震に対し、地震の前に特徴ある現象が、観測された(あるいは、されていた)ことを示します。
第2段階 第2の段階は、方法を検証することです。複数研究グループのプロジェクトとして行い、同一の方法を、複数の観測サイトで並行実施し、一つの地震に対して、同様の信号を得て、ノイズでないことを示す。そして、多数の地震について検証して、ある種の地震の前兆現象を捉えていることを確認する。
すでに説明しました3つの方法が、第1段階を超えて、第2段階の始めにさしかかっています。
これらの各方法を、複数研究グループのプロジェクトで進めるようにを、地震予知学会が推進することが、必要です。複数の研究室の協力を得、新しいグループの参入と、いろいろな専門家の加入が必要です。それには、数千万円規模の予算が必要で、財団法人を設立・運営するなど、多くの組織活性化が必要です。
第3段階 次の第3段階は、方法の大規模展開の段階です。地震予知学会が推奨して、科研費プロジェクトとして行うべきものです。一つ一つの方法を全国規模に展開し、観測する。予知した地震が起こる地域、規模、時を事前に推定する方法を創り、地震予知情報の発出内容と、時期を検証する。各方法の特徴と限界を確認することも課題です。
第4段階 第4段階は、予知の技術システムを確立する段階です。複数の方法を統合した一つの技術システムを創り上げることです。それは、国家プロジェクトでやらなければなりません。
第5段階 そして、第5段階は実用の段階です。地震予知の注意報/警報/緊急警報を公的に運用する段階です。国会での審議も経て、気象庁などの公的機関が責任をもって行うべきことで、最初のスライドに示しましたような目標を実現して、社会に貢献することです。
おわりにこれらの各段階に5年を要すると考えますので、現在から実用に至るまで、順調に行って、20年かかることになります。皆さんご存知のように、南海トラフの大地震が差し迫っておりますから、この地震予知の研究が、南海トラフ地震の前に実用化されることを、私たちは切に願います。
皆さんをはじめ、国民の多くの方々の、ご理解とご支援をお願いする次第です。
参照文献 (日本地震予知学会学術講演会アブストラクト集 より) [スライド7]
中川 徹: 地震予知研究の進め方の考察(3) 明確になりつつある諸方法の概観 (2025年12月)
神山眞ら: GNSS地殻ひずみの時空間変動にみられる被害地震発生前の予兆特性 (2023年12月)
横井孝佳: FM放送直接波による地震前兆観測システムと関東圏内陸地震の観測結果 (2025年12月)
筒井稔: 地中における電場観測による地震予知の可能性 (2022年12月)
質疑応答より: なぜ、TRIZのシンポジウムで (場違いの)地震予知のテーマを話すのか?
Q (前古護さん(アイデア社))
私たちのうち、TRIZ(トリーズ、発明的問題解決の理論)に永年関わってきたメンバーは、中川さんがTRIZの(日本での)草創期(1997年)からずっと、TRIZとその発展に尽力されてきて、約3年前から地震予知研究の推進をテーマに活動しておられることを知っています。しかし、TRIZを新しく知って、このTRIZシンポジウムに参加してきた人たちにとっては、「技術分野への応用を中心にしているTRIZのシンポジウムに、どうして場違いの地震予知のテーマであの人は話しているんだろう。TRIZと関係してないのではないか?」という疑問があります。昨年のシンポジウムの後でそのような感想を聞きました。中川さんが(TRIZとの関連において)、どのような意図で地震予知研究に取り組んでいるのか、説明ください。
A (中川 徹) 「TRIZの考え方をベースにして、地震予知研究を推進する」 (当日の返答を膨らませて)
質問ありがとうございます。基盤となる大事な論点だったのですが、発表時間の制約があり、つい飛ばしてしまいました。実は、5月に提出した私の発表題目は、「TRIZの考え方に基づく 地震の短期/直前予知の研究(3) 地震予知注意報/警報/緊急警報のための 技術と今後」だったのです。しかし、地震(予知)研究に関する国際ワークショップが、この5月末と8月末に日本で開催され、それらに(ポスター)発表で出した題目「地震予知研究:明確な科学的手がかり(現状)から 公的実用(目標)へ」を、TRIZシンポジウムでも使ってしまいました。聴衆に合わせて、導入部を適切に変えることが不十分であったことを反省しています。
私は、1997年にTRIZを学び、1998年には(より簡潔な)SickafusのUSIT(統合的構造化発明思考)を学んで、両者を消化しながら、日本TRIZ協会の活動を中心にして、いくつかの企業への導入と大阪学院大学での教育に携わってきました。その中で、(TRIZとUSITをベースに)創造的問題解決の方法論として練り上げてきたのが、「創造的問題解決の6箱方式」です。それを(企業での)技術的問題だけでなく、学生たちとの身近な諸問題に応用し、そして、2014年ころから社会的問題や人類文化の問題の考察に言及し、2023年から地震予知の研究を主たる対象分野にしてきました。これらのすべては私の『TRIZホームページ』に掲載してきております。特に昨年、2千編弱のHTMLページから34編を精選して、『中川徹 著作選集』(和文初版)
を完成させ、ホームページ内に公開していますので、ご覧いただけますと幸いです。
「創造的問題解決の6箱方式」の基本的な枠組みを次のスライドに示します。
この図式の骨格は、USITをベースにして、2005年に私が提唱したものです。下半分は「現実の世界」であり、そこで問題を取り上げ(例えば、「日本でも世界でもたびたび地震により大きな被害を受けている。被害を減少するにはどうしたらよいか?」)、問題を絞り込みます(例えば、「地震の前兆現象を捉えて、地震の発生を事前に予知したい」)。そして、図式上段の「思考の世界」で、この問題を解決するために、問題の分析、アイデアの生成、解決策の構築をし、「現実の世界」に戻ってその解決策を具体的に試行・実施します。もちろん解決策が一度で成功するわけでありませんから、これらの過程を詳細化・深化させつつ繰り返して、解決策を作り上げていくわけです。
問題分析の段階での主たる活動は、現在のシステムの理解です。(従来の)地震学は、地震の仕組みを研究し、過去の地震の経過を調べ(統計的予測を試み)、(微小な/周辺の)地震活動の利用などを試みてきましたが、地震の短期/直前予知には成功していません。「力学的(現象の)方法だけでなく、電磁気学的(現象の)方法に注目するとよい」というのが、(科学技術の発展から抽出した)TRIZの重要な指針です。その指針の方向と合致しているのが、日本地震予知学会の活動です。地中での電場の連続測定、FM放送波の強度異常の測定、電離層の電荷量の衛星データの利用、などの研究が、それぞれの研究室で進行中です。
図の第3箱の段階で「理想のシステムの理解」をも掲げているのが、6箱方式の大きな特長で、TRIZやUSITよりもこの点をさらに強調しています。問題を解決したときのあるべき(理想の)システムの姿を考え、それを目標とします。いまの問題では、「地震予知の技術システムを整え、予知した地震を広報して、社会全体が防備できるようにする」ことでしょう。この目標を、大きな視野で考え、トップダウンの思考法で問題解決のプロセス全体の方向付けを示す。これが、今回の私の発表の主題であり、全編を貫いて示していることです。
現在システムの分析によるボトムアップ思考の方法と、理想のシステムを考察するトップダウン思考とを、組み合わせながら、解決策に近づくためのいろいろなアイデアを出していきます。地震のどのくらい前に、どんな情報を出せるとよいのだろう、と考え、1年前、1週間前、数時間前などの目安を思いつきます。一方、いろいろな研究室で開発研究されている、前兆現象を捉える諸方法について、各方法の原理、特長、現状、応用性、発展性、課題などを学びます。その上で、上記の地震予知の先行時間の目安に応じて、可能性・発展性がある方法の目星をつけ、さらに足りないものを考えていきます。
また、この問題で目標まで行くには、はるかに長い年月を要します。図のプロセスの1回で完結するものではありません。そこで、目標到達までの長期の過程を展望し、段階を踏んで進むことを考えることが大事です。段階ごとに、どんな課題(中間目標)を達成するべきかをまず考える。そして、それを達成するためには、どんな活動が必要であるか、活動の主体はだれで、どんな組織でなければならないかを考える。そのような組織を、作る(創る)ためには、その前の段階でどんな活動が必要かなどを明らかにする。各段階での課題を達成し、説得力のある成果と実績を上げることが必要なのは、いうまでもありません。段階を上るごとに、中間目標は、技術的にも・組織的にも・社会的にも、より高度で責任を伴うものになっていきます。――このような長期にわたる研究計画(段階的問題解決)の作り方は、TRIZやUSITなどの基本図式をベースにして展開したものです。
今までの説明で、TRIZを学んできた人たちの中には、「TRIZの具体的な方法(発明原理や機能分析など)を使っていないではないか」と、疑問に思われる方もあるでしょう。それは、問題のスケール、問題の捉え方の段階による違いに関係しています。地震予知のための具体的な方法(例えば、地下の電場を測定するための実験装置の開発・改良や、FM放送波の強度異常の連続測定における信号の解析法の確立、など)においては、沢山の実際的な問題があり、それぞれの専門知識の他にTRIZの出番が、きっと沢山あります。今回話しましたような、大きなスケールの問題の捉え方では、。(今まで説明しましたように)問題解決の方向付けにTRIZの考え方が使われているのです。
話を戻して、「どうして中川さんは、地震関連分野の専門家でもないのに、地震予知の問題に、TRIZ(あるいは創造的問題解決)をベースにして、取り組もうとしているのか?」という疑問に答えたいと思います。
まず第一に衝撃だったのは、1995年1.17の阪神・淡路大震災でした。私は小学4年生から高校卒業までを阪神間の芦屋市で育ち、大学から東京に出てきました。地震の朝はたまたま父の葬儀の日で、名古屋の葬儀社の布団で激しい揺れに飛び起きました。1か月後に震災後の故郷に行き、阪神高速道路の高架が延々となぎ倒されているのは驚愕でした。次の衝撃はもちろん、2011年3.11の東日本大震災でした。東京秋葉原の近くのペンシルビルでTRIZ協会の幹事会の際中で、ゆ〜さゆ〜さと揺れる4階の小さな事務室で書類戸棚を押さえていました。その夜は自宅まで28キロを徒歩で帰りました。3か月ほど後に、一関高専での講義の機会に、大船渡まで行き、大きな遠洋漁船が海岸から2キロほど離れた住宅地に打ち上げられたままの姿を見ました。−−これらが私の体験です。日本の皆さんは、これら二つの震災だけでなく、古くは関東大震災を始め、最近の能登や熊本の地震まで、激しい被害を受け、身近な人を亡くされた方も多いことでしょう。地震の被害を軽減したいというのは、日本国民全体の願いです。地震大国である日本では、1880年に日本地震学会が創設され、数々の被害地震の中で、精密な地震計のネットワークがつくられ、各地の断層が調べられ、地震の(長期/中期の)統計的予測などができて来て、地震予知の模索もしてきたのです。しかし、1995年の内陸型地震も2011年の海洋型巨大地震も、統計的予測すら出せずに、壊滅的な被害が生じたのです。この二つの大震災の後に、地震学会は「地震予知は現在の技術レベルでは極めて困難である。学会は、地震予知ではなく、地震観測網の充実とメカニズムの理解に重点を置く」lと宣言し、日本政府も追認しました。このため多数の国民は「地震は予知はできないんだ」と思いこまされてきました。
「地震の予知が困難だから、地震予知研究を目標にしない(重点を置かない/避ける/人と予算を削る)」というのは、学術的方針としては大きな誤りです。(a) 地震予知研究に力を注がなければ、いつまで経っても地震予知の能力(技術)は向上してきません。現状が困難であるというなら、困難を乗り越える努力を一層しなければなりません。(b) では、地震予知の困難を乗り越えるには、どうすればよいのでしょうか?それは、いままで試行してきた予知方法を反省し、その枠外に思考・試行を広げることです。測地学的方法でも、地上での測定から、人工衛星を使った測定に移るのも一つです。力学的現象を手掛かりにしてきたことから、電磁気学的現象を採り入れるのは、ずっと広い(方法の)可能性と高い鋭敏性を持っています。すでにそのような方法がいろいろ試みられており、(一般論として)TRIZが強く薦めていることです。(c) では、枠外に出ることを困難にしている原因は何でしょうか?従来分野の学問的閉鎖性、新しい分野に移ることの困難、新しい人材の流入の少なさ、予算やポジションの制約、さらには、地震予知の必要性/重要性の軽視などが原因としてあるでしょう。
私が、地震予知研究(の支援と推進)の分野に全力を挙げようと決心したのは、このような地震学会と政府の誤りを克服して、地震予知を実現することによって、日本国民と社会の(今後の)激甚な被害を減少させたいと願うからです。
南海トラフ巨大地震は、近い将来(数十年以内)に必ず起こると考えられています。政府の被害想定(2025年3月)では、最悪の場合に、死者:約30万人、建物被害:全壊・焼失約235万棟、経済被害:約270〜292兆円規模、とのことです。問題の中心は人的被害の影響です。政府の予測は、「人命をお金で見積もることはできない(するべきでない)」という名目で、人的被害の金額推定を避けています。土木学会の報告(2025年6月)では、(政府の報告をベースにしたうえで)多くの人命が失われ、産業インフラが破壊されてから復興するまでの22年間を考えると、(直接の資産被害225兆円の他に)累計で約1241兆円の国民所得の減少になる、と試算しています。国の年間GDPの2倍近くですから、まさに国の存亡に関わる危機/問題です。こんなに大きな問題に、TRIZ(あるいは創造的問題解決の方法論)を適用して寄与できることは、実に本望です。
人的被害(と社会の混乱)を減らす鍵は、「人々が(地震の)危険をいかに早く察知して、安全な所に避難し、身を守れるか(またそのように社会の諸組織が対応できるか)」に懸かっています。最近、気象災害(大雨、土砂災害、浸水被害、洪水被害など)に関連して、5段階の警報類が広く実施・認識されるようになってきました。地震予知の警報類もほぼ同様に考えることができます。概要は次のようです。警戒レベルの低い方から順に書き、気象情報の場合を先に、地震情報の場合を後に書きます。
警戒レベル1: (早期注意情報)(数日〜約1日前)判断:災害発生の可能性を認識。住民:気象災害への心構えを高める。
(地震予測情報)(数十年〜数年前)判断:統計的予測により地震災害の蓋然性を認識。住民:地震災害への心構えを高める。
警戒レベル2: (注意報)(半日〜数時間前)判断:災害発生の可能性が高いことを認識。市町村: 第1次/第2次防災体制。住民:自らの避難行動を確認。
(地震予知注意報)(1年〜1月前)判断:前兆現象あり、地震発生の可能性が高い。関係諸機関:事前注意の態勢を整える。住民:落ち着いて、今後の地震予知警報に注意。警戒レベル3: (警報)(数時間〜3時間程度前)判断:災害発生の可能性が非常に高いことを確認。市町村: 第3次防災体制。住民:危険な場所から高齢者は避難。
(地震予知警報)(10日〜半日前)判断:前兆現象あり、地震発生の可能性が非常に高い。関係諸機関:速やかに防災/減災態勢を整える。住民:身の回りの防災・避難を準備、今後の地震予知緊急警報に注意。警戒レベル4: (警報)(2時間〜0時間程度前)判断:災害発生の危険を確認。市町村: 第4次防災体制、避難を指示。住民:危険な場所から全員避難する。
(地震予知緊急警報)(2時間〜10分前)判断:前兆現象あり、危険性が非常に高い。関係諸機関:緊急に防災/減災態勢に移行する。住民:速やかに防災・避難し、身の安全を図る。〜〜〜〜〜〜〜 警戒レベル4までに(のうちに)必ず避難する 〜〜〜〜〜〜
警戒レベル5: (特別警報)(切迫〜発生時)判断:災害の切迫/発生を確認。市町村: 緊急安全確保の体制をとり、住民に指示。住民:命の危険あり、直ちに安全確保!
(緊急地震速報)(発生確認時)判断:地震の発生を確認。関係諸機関:緊急に地震発生を広報し、減災・救護態勢に入る。住民:確実に避難し、身の安全を図り、地震後相互救助する。これらの対比から、次のことが分かります。気象情報の場合には、降雨量とその時間変化を判断の鍵にしており、(人々にもすぐにわかる)経験知から判断されています。地震予知情報の場合は、時間スケールがより長く、鍵となる前兆現象を捉えて段階的に進める必要があり、その現象そのもの、その測定法、経験知などを、今後、(新たに)獲得・蓄積しなければならない状況にあります。そして、その手掛かりになる現象や測定法が、いま確実に開発されてきているのです。その開発と方向付けに、(今まで述べてきましたように)TRIZ (創造的問題解決の方法論)が寄与できているのです。
地震予知研究の推進に、TRIZ (あるいは創造的問題解決の方法論)が独自の寄与をしてきたことは明白です。地震(予知)研究というのは、私にとって専門分野ではありませんでしたが、TRIZをベースにした考え方によって、目標を立てて問題解決を図り、トップダウンとボトムアップのアプローチを併用して、本件発表のような体系的で実践志向の研究推進方針を立てることができました。国家の存亡に関わるかもしれない大問題に、明確な解決方向を示したのです。地震(予知)の研究者たちも、科学技術政策に関わる国のリーダーの人たちも、これまで明確な解決策を提示してこなかった領域なのです。私の提案に、「時期尚早」だとか、「他の観測法もある」とかの少数コメントはありますが、「大きな点で間違っている」といった反論はいままでありません。
私が1997年にTRIZに接して以降に、TRIZ協会や諸企業や大学でTRIZ/USITを習得・実践し、技術分野だけでなく、教育や人類文化の分野(「自由と愛の矛盾」と倫理)にまで思考を広げてきた結果、「地震予知研究」という新しいテーマにも、創造的問題解決の考え方を活かした新しいビジョンを生み出すことができたのです。
ただ、本発表のようなビジョンを実現していくためには、沢山の人々の理解と協力を得、段階的に内容も組織も大きくなっていかなければなりません。孤軍奮闘でできることではないのです。協力を得たいと思っている人々とその活動を例示すると、以下のようです。
地震予知の個別の方法を開発・実践・分析・実証する人々;
個別の方法を複数研究グループで共同実施し、実証する人々;
複数の方法を総合して分析するシステムを創り、実証する人々:
会員用と一般公開用のWebサイトを運用し、会員間の協力と一般へのPRに尽くす人々;
地震学や関連諸分野の学術・学界動向に精通し、予知学会の対外活動をリードする人々;
地震予知研究の拡充を図るために、一般財団法人の設立を準備する人々;
一般財団法人「地震予知研究基金」(仮称)を、責任を負って運営する人々;
この財団法人の活動として、多様な地震予知研究を担っていく人々;
その研究活動の目的と成果を国内に広く知らせる(そして支援者を得る)人々;
第3段階の「科研費による地震予知研究プロジェクト」を準備する人々;
そして、大目標の「地震予知の実用と社会貢献」(第5段階)まで、リードして下さる人々。この拙文を読んでくださった方々、そして多くの国民の皆様の、ご理解とご支援をお願いする次第です。
| 要旨 |
発表スライド |
質疑応答(TRIZをベースに地震予知へ) |
英文ページ |
| TRIZシンポ発表 |
TRIZシンポ発表ビデオ |
地震予知研究2026 Index 英文ページ |
| EQP News 2023 |
EQP News 2026 |
最終更新日 : 2026. 9.25 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp