高原論文: 第6集 [59] [FIT2021] 

弁証法論理学が作る哲学、その歴史的論理構造

(The Historically Logical Structure of Philosophy Made by Dialectic Logic)

高原利生 (−)、
第20回情報科学技術フォーラム  FIT2021, O-026, オンライン開催, 2021. 8.25-27

掲載:2022. 1.14

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編集ノート (中川 徹、2021年 12月29日)

本編は、『未完成の哲学ノート』の中心課題である「新しく創り直した論理学」(=「弁証法論理学」)の骨格が明快に提示された重要な論文(学会発表)です。わずか2頁の論文ですが、大きな意義、豊富な内容を持つ新しい理論がきちんと展開されています。2021年8月の学会発表であり、その後の[62] 『未完成の哲学ノート』 17版(2021年10月)での新しい体系の骨子を形作ったものと理解されます。

その基本概念の記述は明快です。次のように書き始めています。

「事実を  (1) 客観的事実、 (2) 人の観念の中の客観的事実を知覚した一次情報、 (3) それを加工した二次情報、と近似する。(2)(3)の言説はすべて近似仮説であり、より正しい近似仮説を作る歴史が、真理や価値、哲学を変え続ける。 」
「哲学を、事実の認識である世界観と、 事実の認識と変更の方法である論理学、 これらを支える概念体系、と近似する。」

そして(弁証法)論理学の中心で、「矛盾(関係モデル)」を扱います。

「矛盾は、 客観領域では、オブジェクト1,2の二項が作る運動、人の領域では、あるべき姿と現実の差である問題とその解決の運動である。」
「矛盾は、次の三種に分かれる。 (1) 変化変更矛盾(通常の変化・変更)、 (2) (一時的)両立矛盾(弁証法の普通の意味の矛盾、オブジェクト1,2が両立している、又は両立を目指す運動)、(3)  一体型矛盾(永続する両立矛盾)。」
「一体型矛盾の歴史は古く、生命と人類の長い歴史の中で、 もともと一つだったものが、二つのオブジェクトに、二つの思考に、または二つの態度に分かれていく。 そして、分かれたそれぞれは独自の発展を始める。 ある時から、その二つは再統合の運動を始め、双方向の入れ子構造ができることがある。 複数項がお互いに一体、全体の要素として発展し続けることができるようになり 一体型矛盾ができる。(例: オスとメス、 認識と行動、 感情と論理、・・」

人類文化の歴史的発展の中で、このように矛盾の(実態とその認識の)高度化が進んで来ている。その矛盾の解決を論じる/導くのが「弁証法論理学」である。というのが著者の主張であると、私は理解しています。

 

本論文の目次をまとめておきます。

[59]  弁証法論理学が作る哲学、その歴史的論理構造  [FIT2021]

1.問題、前提、基本概念

2. 哲学の生成の論理的時間順序

まず論理学を作る;   論理学が世界観を含み、次に意識的生き方を作る

3. 弁証法論理学のとらえ直しと改良

推論の改良による弁証法論理学とらえ直し;    矛盾(関係モデル)の歴史による弁証法論理学の発展

4.まとめと、個人・社会・自然複合領域への展開

5.二つの課題  

おわりに 

参考文献

 

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論文先頭

1.問題、前提、基本概念

2. 哲学の生成の論理的時間順序

3. 弁証法論理学のとらえ直しと改良

4.まとめと、個人・社会・自然複合領域への展開

5.二つの課題 おわりに

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  論文 [59]  弁証法論理学が作る哲学、その歴史的論理構造 [FIT2021]      

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弁証法論理学が作る哲学、その歴史的論理構造

The Historically Logical Structure of Philosophy Made by Dialectic Logic

  高原 利生    TAKAHARA Toshio   takahara-t@m.ieice.org

第20回情報科学技術フォーラム FIT2021, O-026, オンライン開催, 2021. 8.25-27

  

1.問題、前提、基本概念 [Taka-44-47]

主体を人に限定し、
事実
           (1)  客観的事実、
           (2)  人の観念の中の客観的事実を知覚した一次情報、
           (3) それを加工した二次情報、
の順に、前のものから次第に独立していく三階層と近似する。
(3)の二次情報で述べる言説は全て近似仮説であり、その正しさは、(2) 一次情報で検証される。
より正しい近似仮説を作る歴史が、真理や価値、哲学を変え続ける。

生き方を含める既存哲学も多いが、
哲学
を、事実の認識である世界観と、
            事実の認識と変更の方法である論理学
            これらを支える概念体系
と取り敢えず仮に近似する。
      概念体系、オントロジーは世界観を前提にしている。
論理学を弁証法論理学(形式論理を含む)とする。

既存の哲学は、時代に合っておらず、ほとんどの人に難し過ぎる。
全員のための哲学を、既存の哲学に拠らずゼロベースでなるべく単純に作り、小学生、成人などに具体化する必要がある。

前提として、特に、文化・文明成立後は、歴史と論理は大まかに一致するという仮説を置く。

事実を、ある粒度(抽象化具体化の程度)[FIT2005/2]で切り取り、
       思考によって扱う情報をオブジェクトとする。
オブジェクトは必ず観念、情報である。
粒度の本質はオブジェクトの抽象化具体化の程度決定、
       要素はオブジェクトの空間的,時間的範囲、無数の属性からの特定の三つである。

適正な粒度は、網羅された中から選ばれ、同時に網羅はある粒度で行われる。
          例:  虹の7色の中の「青」という属性粒度は、色を7で網羅した時の青である。
個別の物理的網羅ができない場合が多い。
オブジェクトの分類結果を、存在に対しては種類、
                                      運動(関係)や命題に対しては型
    と使い分ける。
種類、型が論理的網羅の結果である。
          例:  オスとメス。

哲学、潜在意識、態度、感情、生き方は、同じものの異なった現れである。

  

2. 哲学の生成の論理的時間順序 [Taka-44-47]

2.1   まず論理学を作る

認識と操作の論理の分かる事実が扱えるものである。
従ってまず論理学を作らねばならない。

2.2  論理学が世界観を含み、次に意識的生き方を作る

世界観は、
       1  認識の方法、論理がない事実をどうとらえるかについては、ただ科学の発展を待ち、
       2  方法、論理によって対象化された事実については、科学の論理と僅かな偶然がもたらした結果の認識内容である。
方法、論理学が世界観を含み、新しい哲学が出来上がる。
人の知覚と哲学が、無意識に、潜在意識、態度、感情、常識、生き方を作っている。

  

3. 弁証法論理学のとらえ直しと改良 [Taka-44-47]

今の論理学を改良する。
弁証法論理学は
        1  扱うオブジェクト、
        2  そのオブジェクトの認識と操作の方法
の全体である。
弁証法論理学は、関係(を表す)命題だけを扱う。

思考の弁証法論理学は、
      関係命題(「オブジェクト1-関係-オブジェクト2」で表現される矛盾モデルに等しい)により
      問題を定式化する抽象化、推論、具体化で構成される。[Naka-2019の解釈] [FIT2015]

3.1 推論の改良と
3.2 矛盾モデル(関係命題)の歴史的発展が、
以下のように新しい論理学の基礎を作る。

3.1 推論の改良による弁証法論理学とらえ直し

   1) 今の推論の欠点

形式論上の演繹は、一般の特殊化 [石本新 ニッポニカ] )なので情報が増えない。
それ以外の演繹の正しさは、条件や、原因−結果の粒度に依存している。
従来の帰納(特殊の一般化 [石本新 ニッポニカ])は、類推であり厳密でない。

   2) 推論改良の第1段階: 個々の推論の論理的網羅による改善 [FIT2014,15] [Taka-44-47]

「正しい」推論の連鎖による演繹は、論理的網羅による仮説設定を行うことでより正確になる。
            例:  因果関係の法則的認識による原因を仮説として演繹を行う。

従来の帰納の無条件の一般化を、論理的網羅の結果によって選んだ条件での一般化に代えることでより正確になる。
           例: 今後の気象を予測するのに、 今までと似た気圧、気温、風速、海水温と
                       同じ過去の気象のデータのパターンを選びその後の気象データを使う。

   3) 推論改良の第2段階 [Taka-44-47]

一般的命題にもさらに一般的な命題があり、特殊的命題にもさらに特殊な命題がある。
一般、特殊の区別はしょせん相対的なので、
        特殊を極限まで拡大し、仮説設定という特殊化の別の特殊化に、
               演繹 (一般の特殊化)、
               帰納 (特殊の一般化)を含ませる。[IPSJ2021]

こうして形式論理上の演繹以外は仮説設定に統一する。

論理的網羅と一般と特殊の相対性の二つに依存している推論なので完全ではないが、より善い推論が得られる。

3.2 矛盾(関係モデル)の歴史による弁証法論理学の発展

    1) 矛盾は、  客観領域では、オブジェクト1,2の二項が作る運動、
                       人の領域では、あるべき姿と現実の差である問題とその解決の運動である。

矛盾は、次の三種に分かれる。

(1)  変化変更矛盾(通常の変化・変更

(2)  (一時的)両立矛盾(弁証法の普通の意味の矛盾、オブジェクト1,2が両立している、又は両立を目指す運動)

人の領域の場合、
       1  ランダムに見える事象の中から価値実現のため変えたい事実、問題が起こる。
       2  問題の中から、お互いの条件として作用し合う2項が出てくる。
       3  問題解決のために定式化した両立矛盾を解消し解を作る。[DI]

(3)  一体型矛盾(永続する両立矛盾)[TS2011]

一体型矛盾の歴史は古く、生命と人類の長い歴史の中で、
もともと一つだったものが、二つのオブジェクトに、二つの思考に、または二つの態度に分かれていく。

そして、分かれたそれぞれは独自の発展を始める。
ある時から、その二つは再統合の運動を始め、双方向の入れ子構造ができることがある。
複数項がお互いに一体、全体の要素として発展し続けることができるようになり
      一体型矛盾ができる。[TS2011]
           例: 雌雄のように、もともとの単性生殖が分かれて発展し、両性生殖ができる進化。
                 認識と行動。
                 感情と論理。
                 思考と学習。
                 受容と思考と表現。

    2) 論理の歴史的結果が今の矛盾に固定化されて行き、
               以下の順に、後の高度な矛盾が、前のより基本的矛盾に積み重なりながら同時並列に発展する構造ができる。

(138億年前の宇宙創成後) 変化変更矛盾(変化・変更)と
                                       両立矛盾(機能と構造の矛盾。自然においても擬人的に機能という語を使う)。

→ (生命誕生後) 無意識の一体型矛盾       (例:進化)。

→ (知的生命誕生後) 意図的変化変更矛盾。

→ (技術開始後) 意図的両立矛盾(可能性と現実性の矛盾、意図的な機能と構造の矛盾)

→ (農業革命、物々交換、4千年前の文化・文明開始後) 一方向一体型矛盾。

→ (今後) 意図的双方向一体型矛盾。

     3) 歴史が進むにつれ、論理学の対象は増え続け、方法、論理は高度になり続ける。
                この矛盾の内容の歴史把握は、時代に合った論理学を可能にする。

     4) 哲学を構成する論理学と世界観自体、
                双方向一体型矛盾の入れ子の二項を構成し、
                文化・文明誕生後は、客観世界と人の世界の中で次のような歴史的意識的サイクルが続く。

(1)  弁証法論理学は世界観を含み(論理学⊃世界観)、
            その論理が事実を変え世界観が変わっていく(論理学→世界観)。

(2)  変わった世界観と論理学が新しい価値観を作る。
            新しい事実と新しい価値の間に差が生じ問題が生まれ、
            新しい論理が必要になり、論理を発展させていく(論理学←世界観)。

(3)  (1)に戻る。

哲学(弁証法論理学と世界観)の双方向一体型矛盾は、弁証法論理学が主導する運動で、
       21世紀以降、哲学の単純な近似表現は、弁証法論理学(と基本概念)になった。

  

4.まとめと、個人・社会・自然複合領域への展開

弁証法論理学の論理構造の概略が明らかになった。

これによって人が実現していない新しい価値も明らかにでき、領域をまたがり入れ子になった問題も扱える[Taka-44-47]
           例: 個人の主観の中の抽象的な客観と主観の一体型矛盾は、
                        一瞬毎の、具体的な対象化と一体化の一体型矛盾の解で解決できる。
この解決過程が進み人の廃棄物ゼロ,省エネルギーなどの条件を満たすと、
      長い時間をかけて、もともとの客観と主観自体がお互いを高め合う
      地球と人類全体の客観的一体型矛盾に成長していく。

  

5.二つの課題

(1)  世界観は、認識の方法、論理がない事実をどうとらえるかについては、科学の発展を待つと書いた。
      まだ世界観の根本ができていない。
      世界観を作るために、
            例えば、宇宙と素粒子という超マクロと超ミクロの領域の入れ子になった領域に共通な論理仮説である超弦理論の、
                  本論理による位置づけ、展開などが必要である。

(2)  本論理のコンピューター上の実現も課題である。

  

おわりに

カントの理性、悟性、ヘーゲルの有、定在などは、当時は哲学のいい基礎となる概念だった。
これらの介在物によらず他の既存の哲学にもよらず、
     三つの基本概念と、知覚と、事実の歴史蓄積だけに基づいて、
     シンプルで合理的、正確、厳密で時代に合うという利点を持った論理学の骨子、
     これから作られる哲学の構造を述べた。
21世紀以降、改良し見直した、関係モデル(矛盾)と仮説設定による弁証法論理学は、世界観を含み、哲学に等しい。

今から将来に向けての弁証法論理学が作る哲学は、
      論理的網羅、全体を求める態度によって新しい価値と生き方を作る。
哲学、生き方、世界変更は、関連し全体を構成し一体型矛盾の要素であるため、同時に作り実行し続けるしかない。
哲学、生き方、作る世界は、常に未完成である。[EPM] [Taka-44-47]

 

謝辞

本稿は、大阪学院大学名誉教授中川徹博士の長年に亘るご理解とご支援の賜物である。厚く御礼申し上げる。

  

参考文献

[EPM] K. マルクス, 「経済学・哲学手稿」藤野訳, 国民文庫, p.153, 1963, 原出版1933, 手稿1844.

[DI] マルクス、エンゲルス, 「ドイツイデオロギー」真下訳、国民文庫、1965. 原著1845,6.

[FIT2005/2] 高原利生, "オブジェクト再考3−視点と粒度−", FIT2005, K-085, FIT2005. 2005.

[TS2011] 高原利生, "一体型矛盾解消のための準備的考察―生き方の論理を求めて―", 第七回TRIZシンポジウム, 2011.

[FIT2015] 高原利生, "弁証法論理の構造と中川の「6箱方式」", FIT2015,2015.

[Naka-2017] 中川 徹, "人類文化の主要矛盾「自由 vs 愛」を考察する(2) 個人における「自由 vs 愛」の矛盾・葛藤と「倫理」", http://www.ogjc.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/index.html 2017 .

[Naka-2019] 中川徹, "6箱方式", 『デザイン科学事典』, 日本デザイン学会編, 編集委員長 松岡由幸、丸善出版、2019. pp. 274-277.  http://www.ogjc.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/2019Papers/Naka-DesignEncyclo-2019/Naka-Encyclo-SixBox-191120.html

[FIT2020] 高原利生, "事実から作る 価値,真実,シンプルな論理学の骨子", FIT2020, O-012, 2020.

[IPSJ2021] 高原, "通常の推論を仮説設定に統一する条件", 情報処理学会83全大, 2F-05, 2021.

[Taka-44-47] 高原利生,「未完成の哲学ノート」2019.03.25初版, 14版改版中2021. 制作 MyISBN 発行所 デザインエッグ(株)

 

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1.問題、前提、基本概念

2. 哲学の生成の論理的時間順序

3. 弁証法論理学のとらえ直しと改良

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最終更新日:  2022.1.14    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp