高原論文: 第6集 [58] [IPSJ2021]

通常の推論を仮説設定に統一する条件

(The Condition That Unify Usual Reasoning into Abduction)

高原利生 (−)、

情報処理学会第83回全国大会, 2F-05. オンライン開催, 2021.03

掲載:2022. 1.14

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編集ノート (中川 徹、2021年 12月29日)

本編は、『未完成の哲学ノート』の重要課題である、「新しい論理学を創り直す」という目標に向けて、著者が得た新しい考え方を述べたものです。2021年3月の学会発表です。

従来の論理学には、帰納(Induction)と演繹(Deduction)と仮説設定(Abduction) という概念がありましたが、その中の仮説設定は一番不明確でありました。著者は、これまでに考察展開してきた「粒度と論理的網羅」という概念を基盤にして、帰納が正しい場合と誤る場合、そして演繹が正しい場合と誤る場合をきちんと記述しました。その中で、「結局は、論理にはすべて仮説を含んでいる。論理的推論は結局すべて仮説推論の枠組みで統一的に記述できる。そして論理的推論が正しいための条件を明らかにした。」というのです。驚くばかりの論理的帰結です。論理学の分野で学術的にきちんと検証され、評価される日が近いことを願います。

本論文の目次をまとめておきます。

[58] 通常の推論を仮説設定に統一する条件 [IPSJ2021]

1. 変化する世界を扱う概念体系

2. 思考の構造

3. 今、把握されている推論

4. 推論を仮説設定に統合

準備:  条件:  結論:

5. これから 

参考文献

 

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1. 変化する世界を扱う概念体系

2. 思考の構造

3. 今、把握されている推論

4. 推論を仮説設定に統合

5. これから

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通常の推論を仮説設定に統一する条件

高原利生

無所属

情報処理学会第83回全国大会, 2F-05. オンライン開催,  2021.03

The Condition That Unify Usual Reasoning into Abduction

TAKAHARA Toshio   (Freelance)

 

1変化する世界を扱う概念体系

変化する世界を扱う概念体系が必要である。

事実を、ある粒度 [FIT2005/1] で切り取り、思考によって扱う情報がオブジェクトである。

粒度の本質的機能は、オブジェクトの抽象化程度の決定、その要素は、オブジェクトの空間的時間的範囲と属性の特定である。

適正な粒度は、網羅された中から選ばれ、同時に網羅はある粒度で行われる。
         例: ある箱の中のボールの数は、ボールというオブジェクトの(塵を除く大きさ,固体などの属性で規定される)粒度で、箱の中を網羅された中で決まる。

個々の物理的網羅ができない場合が多い。
オブジェクトの分類結果を、存在に対しては種類、関係、命題、概念に対してはと使い分ける。
種類、型が、オブジェクトの論理的網羅の結果である[TS2008] [Taka-54]
例: オスとメス。一般と特殊。事実(存在と関係)と価値。機能と構造。

 

2. 思考の構造 [FIT2013,16] [Taka-44-47]

生きることは、感じ,思考し価値,目的を実現するために認識と行動で世界を変えることである。

思考は、観念の中で、新しい認識像、行動像を作るか、前提となっている世界観、価値観、態度、論理,方法を変える。

文化・文明誕生以降の人の事実への態度を、
     事実のとらえ方である世界観と事実に対する認識,働きかけの方法,(弁証法)論理学からなる哲学ととらえる。
哲学(論理学、世界観)は歴史とともに発展し、常識、生き方、社会を作っていく。

ここでの思考は、
        1)  変更の対象である関係命題 (後述) (又はこれを表現する矛盾モデル「項1−関係−項2」) の確定のための抽象化
        2)  その変更のための推論 (後述) (又は矛盾の求解)、
        3)  その結果の具体化
からなる。
実質的にこれを述べたのは、2005年中川徹教授 [Naka-2019]である。

命題を、
         1. 存在を表現する存在命題、
         2. 属性や状態を表現する属性命題、
         3. 関係を表現する関係命題
                  (31. オブジェクト間、属性間の関係、(その結果の)変化を表現する演繹命題と、
                   32. 二つのサブ命題が条件たる前件と結論たる後件になる条件命題)
に分ける。[TS2011] [FIT2014,15]

ものの存在命題は形式論理に任せ、以下、関係命題(矛盾)、属性命題だけを扱う 条件1

関係(命題)、矛盾(運動)は、事実を扱う単位で、
       値のAと非Aの2項の両立である変化・変更
       属性A、Bの2項の両立(を目指すか、している)
を表せる。
推論矛盾の求解は同じである。

関係(命題)、矛盾は、論理の歴史的結果が、今の矛盾モデル(または関係命題)に固定化されて行き、
       後の高度な矛盾が、前のより基本的矛盾の上に積み重なりながら
       歴史的に発展する構造ができている。
初めからあったエネルギー最少の(擬人的)機能とそれを実現する構造の矛盾に加え、
      人が登場して後は、あるべき姿と現実の差である問題設定とその解決が加わり
      正反合により、矛盾の2項のお互いを活かして止揚する解を出すようになる。[Taka-44-47]

これらは、文化・文明成立後は、大雑把には歴史と論理の一致が成立することを前提かつ結果として述べている[Taka-54]
これらにより歴史とともに発展する論理学ができる。

 

3.  今、把握されている推論 [FIT2011, 2014, 2015]

事実の積み重ねから帰納Induction、
      事実の変化の積み重ねから原因と結果等の法則性把握による演繹Deduction 、
      条件や仮説を実現する行為の積み重ねから仮説設定(仮説的推論など複数の訳がある)Abduction
が生まれた。

論理に演繹と帰納があるという説明もあり
          演繹、帰納、仮説設定があるという説明もある [DIA]
従来の形式論理の定義とそれ以外の定義が混在している。

今の命題定義を整理すると次の種類がある。

       ・  命題の 別の小さな粒度の命題への変更である 演繹a
                   (一般の 特殊化。この演繹aでは情報が増えない) と
             「『原因と結果』などの規則性把握に基づいた正しい」推論の連鎖による関係命題の変更である演繹b

       ・  粒度の命題の 別の大きな粒度の命題への変更である 帰納
                  (特殊の 一般化。この帰納は必ずしも正確でない)。

       ・  同じ属性粒度の命題の、別の空間時間粒度への変更、
                または同じ空間時間粒度内の別の属性粒度への変更である  仮説設定
                       (特殊化の 別の特殊化)。 [DIA] [FIT2014] [FIT2015改]

   

4.  推論を仮説設定に統合 [FIT2014,15] [Taka-44-47]

41. 準備

一般、特殊の差は 相対的で曖昧である。

一般的命題にはさらに一般的な命題があり、特殊的命題にもさらに特殊な命題があり
       差は相対的である。
曖昧な一般と特殊を、論理的網羅は、媒介物として関係付ける。
一般、特殊の差は、論理的網羅の対象の差である
論理的網羅の対象が大きい命題が 一般的命題、
      論理的網羅の対象が小さい命題が 特殊的命題である。

区別はしょせん相対的なので、特殊を極限まで拡大し、
       仮説設定 (特殊化の 別の特殊化) に、演繹(一般の 特殊化) 帰納(特殊の 一般化)を含ませる。

42. 条件

演繹a は単に形式上の一般の特殊化であり形式論理に任せ、扱わない 条件2

「正しい」推論の連鎖による演繹b を、論理的網羅による仮説設定に変えると より正確になる望ましい条件3
            例:  因果関係の論理的網羅による法則的認識による原因を仮説として演繹を行う。

従来の帰納の 命題の無条件の一般化を、
       論理的網羅の結果によって選んだ条件での一般化に代えることで より正確になる 望ましい条件4
            例えば、従来の単なる今までの状態の延長を、
                       要因の論理的網羅の結果によって過去から選んだ似た状態の延長に代えることで より正確になる。
            例:今後の気象を予測するのに、
                      今までと似た気圧、気温、海水温と同じ過去の気象のデータのパターンを選び その後の気象データを使う。
こうすれば、もう命題の一般化ではなくなり仮説設定である。
      この例では、今までの状態が今後の状態であるという類推が、
                        今までの状態と同じ型を持っていたもののその後の状態が 今後の状態であるという 推論に代わっている。

43. 結論

条件1)(条件2)(望ましい条件3)(望ましい条件4 のもとで、
       演繹、帰納、仮説設定を、仮説設定で統一できる。
論理的網羅の内容に依存している推論なので完全ではないが より善い推論が得られる。
この推論の厳密さ正しさは、論理的網羅の中から選ばれた粒度と推論の正しさに依存して決まる。
論理的網羅に基づいた矛盾モデル (関係命題) の、論理的網羅に基づいた仮説設定による求解が 推論となる。

例えば、価値実現のための事実変更の場合、

1. 目的と現実の差の解消(変化変更)の矛盾モデルの生成と解生成を行う
          (例: 部屋の温度が低いので暖めようとする変更。
                 エンジンの出力を大きくしようとする変更)、

2. 副作用回避ともとの解の両立の目的、機能の生成
         (例: 部屋を暖めると空気が乾燥する副作用の解消。
                エンジンの出力大と軽量化の両立)、

3. その機能と実現構造の両立の矛盾モデルの解の生成、

をこの順に行う。[TS2010, 2012] [THPJ2012]

事実のより正確な法則認識 も、自分の思考の変更 も、
      議論における自分と他人の意見の両者を止揚する変更 も、
     同様に、より正しく良くなっていく。

 

 

5.  これから

根源的網羅による仮説設定という弁証法論理学の積極的態度は、自分で努力しないと身に着かない。
この努力が、今のあるべき生き方、社会を作る原動力になる。
これは同時に、今の世界の問題解決の基本原理の一つである。

進化発展する論理学が主導して、
     哲学 (論理学と世界観)、生き方、全世界の社会は、
      将来、基本が同じようになり、
      世界と人の個性が多様に発展するようになる。

 

謝辞

大阪学院大学名誉教授中川徹博士の長年に亘るご支援に厚く御礼申し上げる。

   

参考文献

[DIA] 中山正和, 「演繹・帰納・仮説設定」産能大, 1979.

[Naka-2019] 中川徹, "6箱方式", 『デザイン科学事典』, 日本デザイン学会編, 編集委員長 松岡由幸、丸善出版、2019.10, pp. 274-277.

[Taka-54] 高原利生, "論理的網羅:永久に未完成の哲学ノート第一部第二部の今", 2020.
http://www.ogjc.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/2019Papers/Takahara-Papers2019/Taka-54-RET-Memo-200106.html

[FIT2020] 高原利生, "事実から作る 価値,真実,シンプルな論理学の骨子", FIT2020, O-017,2020.

[Taka-44-47] 高原利生,「未完成の哲学ノート」2019.03.25初版, 12版改版中, 制作 MyISBN, 発?所 デザインエッグ(株)

他の引用文献は下記参照
http://www.ogjc.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/indexGen-Paper.html#paper0   (C)「学会等発表・研究ノート・技術ノート」の 高原利生論文集1,2,3,4

 

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最終更新日:  2022.1.14    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp