高原論文: 研究ノート2018/2 第二部

未完成の哲学ノート(2018 年): 「 矛盾モデルと根源的網羅思考による人類の生き方の基本原理についてのノート

(第二部) 矛盾モデル (2018年3月)

Contradiction Model (March 2018)

高原利生、
『TRIZホームページ』寄稿、2018年 4月12日、
改訂稿 2018年 6月13日、再改訂稿 2018年 9月16日

『TRIZホームページ』掲載、2018年10月10日

掲載:2018.10.10 

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編集ノート (中川 徹、2016年10月 4日)

本ページは、高原利生論文集第4集  の中心をなす「研究ノート2018」四部作の本論の第二部です。
研究ノートの全体ページには全体構成、概要、掲載資料へのリンク、「おわりに」、参考文献を書いていますので参照ください。
なお、8月30日の段階では、PDF版だけを掲載しましたが、このたび再改訂版(9月16日)を得て、HTMLページを作り、PDF版も更新しました。

この第二部の目次は以下のようです。

第二部  矛盾モデル  (2018年3月) 

3. 前書き: 価値を実現するために生きる

4. 矛盾

4.1 矛盾とは?

4.2 差異解消矛盾と両立矛盾

4.3 両立矛盾から一体型矛盾への発展

4.4 原動力

4.5 矛盾の種類 (まとめ)

 

本ページの先頭 論文第二部先頭 3. 前書き 4. 矛盾

4.2 両立矛盾

4.3 一体型矛盾 4.4 原動力 4.5 矛盾の種類

第二部PDF

英文ページ
高原利生論文集第4集 研究ノート全体ページ 研究ノート第一部:根源的網羅思考 研究ノート第二部:矛盾 研究ノート第三部  研究ノート第四部: 論文集第1集 論文集第2集 論文集第3集  

 


 

                                  

 論文  (和文(再改訂稿): 2018. 9.16)        論文PDF  

 

矛盾モデル (2018年3月)

Contradiction Model (March 2018)

研究ノート 2018/2  第二部

高原 利生

『TRIZホームページ』寄稿 (再改訂版) 2018年 9月16日、 掲載 2018年10月  日

注: 表記について: 
過去に述べた内容と他文献からの引用は青字で示す。
緑字は例または注を示す。
          濃赤字は 強調   を示す。
下線は、文章上の単語の強調か、課題を示す

 

3. 前書き:  価値を実現するために生きる

人と人類の生き方を決めるものが、世界観と論理(方法)であり、哲学である。
世界観とは、人が、外界の構造と動きにどう関わるかの、過去、現在、未来の像である。これが、人、人類の価値観、潜在意識、態度を規定する。
つまり、哲学は、世界観と論理(方法)で、この二つが人と人類の生き方を決める。
普通、人は哲学を意識しない。しかし、意識していようがいまいが、哲学が各人の生き方を決めている。

人の作った何事にも完成したものはない。
そして、完成したと思う思考は、死んだ思考の絞りかすで、常に否定し止揚し続けるべきものである。
特に哲学は、常に仮説であり、常に未完成で発展の途上にあることを意識すべきものである。

この意味で、哲学は、作り続けられる仮説(極言すれば、虚構,フィクション)である。
したがって、無意識に哲学によって作られる常識も、極言すれば虚構,フィクションである
無意識の哲学によって作られる、知識の体系である科学も、極言すれば、作られてしまった虚構,フィクションである可能性があり、より正しい科学を目指して変革を続けていく必要がある。
哲学によって作られる生き方は、認識、行動に直結しているから、フィクション、虚構になる恐れは小さいが、意識的に変革を続けていく必要はある。

しかし、常識や生き方は、対象化されず意識されない故に、余りエネルギーを使わず有効に働いているとも言える。
[C.f. THPJ2015/3 6.1.1 b) 国家や企業、宗教における共同観念の共有は、そのために、法による罰の強制力や「道徳」や、これに代わるまたは補完する国家や企業、宗教への帰属意識を用いることができた。
この強制力や帰属意識は、普通、対象化されず意識されないため有効に働く。この事情は今でもそうである] 

もし全ての人が、これからどう行動するかをゼロから意識して考えるとしたら、人類の活動は止まってしまう。
したがってこの変革は困難な課題になる。よほど変更の根本的必要性が、確かな根拠で、多くの人に理解されないと実現できない。
本稿は、今が、変更の根本的必要性のある稀な時代と思うので書いている。

 

人類の歴史を貫いている「基本法則」「基本原理」を求めること、世界に寄与する、人の幸せな生き方を作ること、この二つを目指す。
この二つの両立は、最低限の自明の要件だと考える。
世界は破滅に向かっているのに自分だけが幸せであることも、それぞれの人を置いて世界が良くなることも、ともにあり得ないからである。

 

人に何が必要か、どう生きればいいのか?
この人類の歴史を貫いている「基本法則」「基本原理」があるのではないか?

 

技術と科学が、今までになく経済・社会の構造を大きく変化させようとしている。
2018年の今から、数十年間の人類の変化は、これまでの人類誕生以来の変化より大きいであろう。

言語、道具を作って利用し始め人類が誕生したのは、諸説あるが200万年前ほどのことである。
火を利用し始め、1万年前に農耕を始めるまでに人類は殆どの歴史を費やした。

技術が新しい価値の可能性を開きそれを実現していくのが人の歴史だった。
大きくは技術の発展の歴史が、ほとんどの人の歴史だった。
この技術をうまく管理するために経済や政治が生まれた。
今、再び大きく技術が歴史を主導する時代になろうとしている。技術の責任が大きくなっている。

 

[THPJ2015/1] の冒頭に、次のように書いた。

「人は、あらゆる分野で、世界と人の事実を認識し、より大事な価値を求め、その価値実現のため努力してきた。

     1.  時に抗しがたい状況もあったが、それでも懸命に人が生きてきたことを表現し伝えてきた。
     2.  事実認識、より大事な価値認識と価値実現方法について、分かっておらず解決できていない課題を表現し伝えてきた。
     3.  事実認識と価値認識の結果、及び価値の実現方法を表現し伝え実行してきた。

人が生き世界に対し行ってきたことはこれだけだと思う。」[THPJ2015/1]

 

人の生活、思考や対話は、論理と感情から成り立つ。ここでは主に論理を扱う。
上の3を言い換える。

人類は、無意識に価値と考えているものから仮説によって作った目的と、現実世界との差異解消を行う問題を設定し、方法を作り実現を図り、実現がうまくいかなければ、目的か方法を変更しさらに繰り返す、というサイクルを続けてきた。[FIT2016] 
次第に意識的に新しい価値を見つけ、それを実現することが人類の歴史だった。
人、人類の本質について述べているので、当然、他の生命との共通点についてはわざわざ述べない。
食べて個体を維持することや子を作って種を保存するということなどを人、人類の本質としては述べない。
ただ、これらの他生命との共通点である「食べて個体を維持することや子を作って種を保存するということ」についても、「新しい価値を見つけ、それを実現する」という人の特徴は反映されたものになるはずである。

技術が『大変革時代』をもたらしている今、価値,目的と方法は今までのままでいいのか?
価値を決める世界観は今までのままでいいのか?

 

世界観とは、人が、外界の構造と動きにどう関わるかの、過去、現在、未来の像である。
これが、人、人類の価値観、潜在意識、態度を規定する。
そして潜在意識に入った世界観に大きな意味がある。

現実像とは、現実が客観的にどういう機能と構造をしていて、主観的にどういう基本概念でとらえられ、人はどういう法則と方法で認識と変革の努力をしているかということである。
現実の客観像だけでなく、それに対して人がどう取り組んでいるかも含める。

潜在意識に入ってしまう像であるために、大まかな世界観は重要である。

政治家や技術者だけでなく、一人一人が意識的に世界観、価値、方法を把握し続ける努力をする必要がある時代である。

 

「良い」生き方は努力する生き方である。
「良く」努力することができるためには、「正しい」世界観によって現実と価値を「良く」理解することと、努力の方法、論理を知ることの二つが必要だと思う。
この二つは相互に影響を与える。
「良い」「正しい」ことは主観がとらえる価値に依存する。
自分が「良い」「正しい」と思うことは、必ずしも客観的にそうであるとは限らない。
したがって相対化の態度、謙虚さは欠かせない。
時に基本概念の再把握も必要となる。

前提として、「種の存続−個体の生−生の属性」というこの順に次第に小さくなる価値の系列を仮定している。
求めようとしているのは「種の存続−個体の生」という自明の価値に続く「生の属性」の内容である
(但し、老人の価値と子供の価値の差など、何となく常識的に分かっていても、本質は分かっておらず表現できてないことが多い)。

「種の存続−個体の生」は、取りあえず固定されており単純だが、「生の属性」は、そうでなく、生き方によって動的に得られる価値である。生き方と同時に得られる運動、矛盾であると言ってもよい。

この内容の検討が本稿のテーマである。
誠実であることを検討の前提としている。
嘘をつかない、約束を守る、偽善欺瞞のないことは、誠実さのイロハであるが誠実さの内容を述べているわけではない。
誠実さの内容を述べることが本稿と言えなくもない。

この立場から
     1. 歴史と現実を総括して得た世界観、価値(観)、
     2. 潜在意識、態度、感情、粒度設定、論理,方法、
     3. 認識像と行動像の生成、技術、制度など文化の支援、
     4. 認識と行動
の総体、系列
を、今、生きることととらえる。
粒度とは、認識、変更像、行動の単位で、空間時間、属性の範囲である。

なお、ここで、
     1. 生きることを、今の一瞬を生きることに限っている
              上の四つの要素で近似した系列は、意識していなくても、常に人の一瞬の中にある。
              また、認識と行動を同格に扱っている [THPJ2015/1]
            これに対し、
     2. 世界と人の関係をとらえる場合は、「世界についての認識−世界に対する行動」というモデルになる。
                様々な人の立場に応じて様々な粒度がある。
     3. 他に、世界の変化をとらえる粒度がある。

これらの前提が、この系列の総体、系列の一部になっている論理,方法である矛盾モデルと根源的網羅思考である。
入れ子になっている。

矛盾モデルは形式の基本、客観世界と人間に共通である。
世界を、「項1−関係−項2」という矛盾モデルの集合体で近似する。
矛盾は、二つの項が両立しないことを表す意味で用いられることが多いが、ヘーゲル、アルトシュラーなどの弁証法論理の使い方により、二つの項が相互作用しつつ両立する (両立している、あるいは両立を目指す) 意味で用いる。

根源的網羅思考とは、無意識のうちに決めるのでなく、素直に感情により,かつ論理的に粒度を意識して全体を決めようとする思考である。

この二つで従来の思考形式を全て含む弁証法を作る。

根源的網羅思考と価値についての最新の成果を第一部2章に、矛盾についての最新の成果を第二部に示す。
この二つについては分かっていたつもりでいたが、自分で全く分かっていなかったことに気づいた。

あるべき世界観、つまり対象化と一体化の矛盾の歴史を第三部に、これらの応用問題として、人工知能、宇宙論理学、人類の統一理論、ポスト資本主義と理想の生き方の要件と仮説の提起を第四部に示す。
なるべく独立しても読めるようにしたが、これらは相互に関係がある。
分かりにくいかもしれないが、第二部の矛盾は論理的に、第三部の矛盾は歴史的に扱おうとしている。

なお、本稿はやや長い。さらに長くなるのを防ぐために、下記のノートの内容の詳細はなるべく繰り返さないようにした。
一度で解が出る小さな問題の解法、特に粒度設定、方法は下記のノートを参照されたい。
これが本稿の「大きな問題」の基礎になる。

[THPJ2015/1]  高原, “粒度、矛盾、網羅による弁証法論理ノート: ノート2015-1”, TRIZホームページ, 2015.
(中川徹のTRIZホームページに高原利生論文集1,2,3,4がありhttp://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/2018Papers/Takahara-Biblio4-2018/Takahara-Biblio4-180823.htmにリンクがある)

[THPJ2015/2]  高原, “中川徹の6箱方式へのコメント:ノート2015-2”, TRIZホームページ, 2015. (同上)

[THPJ2015/3]  高原, “弁証法論理の応用展開ノート:ノート2015-3”, TRIZホームページ, 2015. (同上)

 

また、

[FIT2013]  高原, “世界構造の中の方法と粒度についてのノート”, FIT2013. D-001, Sept. 2013

は根源的網羅思考によってできた最初の論文であり短い中に全体像が表れているので読んでいただくとありがたい。

 

本稿は、[THPJ2015/1] など以上に「論文」の形を取らないように努力したノートである。

意図したことは次のとおりである。

提起している根源的網羅思考により、考えている事項の全体の中の位置が分かるように、網羅の結果を書きながら記述をしているので煩わしいかもしれない。どうかご理解いただきたい。

また、思考の経過ができるだけ分かるようにし、分かっていないことは何かをなるべく書くようにした。
多分、分かった内容だけを閉じた体形にして書くとすっきりするが、将来への展開の途中であり、未完であることも示そうとした。
各自が自分で考え納得したことだけが身に付き理論と現実を発展させることができる
からである。

書いている内容は仮説である。今、定説、常識と考えられていることは全て仮説であり、見直しを行うべきものである。

現在、多様な意味で使われている用語を、特定の意味に限定して使っていることがある。
オブジェクト、粒度、網羅、自由、愛、価値、技術、制度などである。
これらの意味はその都度説明しているが、自分の使っている意味と異なる用語が多いと読みにくい。どうかご了解いただきたい。

 

本稿は、ノート第二部である。

過去に述べた内容と他文献からの引用は青字で示す。
緑字は例または注を示す。
下線は、文章上の単語の強調か、課題を示す

 

4. 矛盾

論理 (方法) と世界観哲学で、この二つが人と人類の生き方を決めると考える。

論理 (方法) を、矛盾モデルと根源的網羅思考で構成する。

 

4.1 矛盾とは?

単一の独立した物事は自身で進んでいかない。物事はすべて相互に関連して展開していく運動であるからである。
そこで、「相互関係を有し変化する何か」を表す概念を必要とした。
相互関係はその両端に最低二項を必要とする。
(これは、光の速度は不変とする一般相対性理論を適用外にするかもしれない)

単純に、「相互関係を有し変化する何か」が矛盾である。
大雑把に言うと、矛盾は「項1−関係−項2」の生成と運動である [THPJ2012]
項1、項2はオブジェクトである。

オブジェクトをどうとらえるかということと、矛盾をどうとらえるかは、ほぼ同じ問題である。
オブジェクトとは何かを考えていた時に出会ったのが次の二人の言葉だった。[TS2003]

一人はカントである。
       「相互作用或いは相互性の法則に従う同時的存在の原則: およそ一切の実体は空間において同時的に存在するものとして知覚される限り完全な相互作用をなしている」 [KNT pp. 286]
カントは、地球と月を例にしてこの原理の証明に数ページを使っている。
これは、第一の「実体の不変性の原則」、第二の「因果律の原則」に次ぐ、第三の原則である [KNT pp. 286-294] ことも意味深い。

もう一人はマルクス(の未発表のノート)である。
       「太陽は植物の対象であり,植物には不可欠の,植物の生命を保証する対象である.同様にまた植物は,太陽のもつ生命をよびさます力の発現,太陽の対象的な本質力の発現として,太陽の対象なのである」
       「それ自身が第三者にとって対象でない存在は,いかなる存在をも自分の対象として持たない」
[EPM pp.98- 157]

二人とも、オブジェクト一般でなく「もの」に限定し、また二つのものの相互作用、関係を扱っていることが共通である。
これを、オブジェクトに拡張し、オブジェクトとその関係は同時に矛盾としてとらえないといけないというのが、カントとマルクスの言いたいことのように思えた。

矛盾は観念である。観念であるが、事実を表すモデルである。
矛盾は、世界の近似モデルの最小単位として用いられる。
二項のオブジェクトとその関係を、認識と変更の最小単位ととらえる。

しかし、一つのオブジェクトだけを知覚することはある。その意味がまだよく分からない
これを保留しておく。
また、これで、机の上に置かれた二本の鉛筆の関係を説明するのは簡単ではない。

 

矛盾は、TRIZを含め、従来の弁証法論理に使われてきたものである。
根源的網羅思考が矛盾の粒度を管理し、二つを併せて弁証法ができる。

中川徹によるTRIZの本質の説明が、http://www.ogjc.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/Essence50W010518.html[NKGW2001]にある。
これは矛盾の説明ともとらえられる。

「技術システムが, 
     理想性の増大に向かって,
     大抵, リソースの最小限の導入により,
     矛盾を克服しつつ
  進化する」 ことの認識。

そこで, 創造的問題解決のために, 
     TRIZは弁証法的な思考, 
     すなわち, 
          問題をシステムとして理解し, 
          理想解を最初にイメージし, 
          矛盾を解決すること
     を薦める。」

“Recognition that
       technical systems evolve
           towards the increase of ideality
           by overcoming contradictions
           mostly with minimal introduction of resources. 

Thus, for creative problem solving, 
       TRIZ provides a dialectic way of thinking,
       i.e., 
            to understand the problem as a system,
            to image the ideal solution first, and
            to solve contradictions. “

但しこれは技術に限定されている。
この「TRIZのエッセンス」は、生きる全活動、全領域に拡張して適用できる優れたエッセンスである。[TRIZ2015/01]

 

弁証法論理は形式論理と異なり、時間の中で関連しつつ発展する物事運動を扱える。
矛盾はその単位である。
エネルギー
が矛盾という運動、生成を始める。
理想の前提は、いかなる空間時間でも使えるエネルギーである。エネルギーについては[CGK2016] で述べた。

運動の型、矛盾の歴史などをどうとらえるかについては、[THPJ2012] [THPJ2015/1]を参照されたい。

矛盾という言葉は、客観領域においては「運動」、人の領域では「問題」である。
この二つの領域を、矛盾と根源的網羅思考を統合して、自由に任意に扱うことができる。

 

カント、ヘーゲル、マルクス主義、プラグマティズム、西田哲学など様々な哲学者、哲学が弁証法、矛盾を扱った。

マルクスの矛盾概念の欠点は、資本論第一巻第一章に表れている。
簡単に言うとヘーゲルの矛盾の欠点そのままである。
資本論第一巻第一章の矛盾の欠点の「原因」は、何かを始める時の運動の分析ができないことと、外部の運動の作用を分析できないことにある。
資本論第一巻第一章で、前者は、「商品ありき」で分析を始めてしまったことに起因し、後者は、商品流通を効率的に行いたいという「外部」からの要請の無視に起因している。[THPJ2012]

TRIZの創始者アルトシュラーは、当時、旧ソ連で教えられていたマルクス、エンゲルスの概念を拡張した。
さらにここでの矛盾概念は、このアルトシュラーのものを拡張した。
アルトシュラーはまた、二変数の生成と両立を矛盾ととらえ、属性の矛盾と値の矛盾を区別して扱った。
アルトシュラーの矛盾も本稿の矛盾も、プラグマティズムの立場の矛盾 [THPJ2012] と言えるかもしれない。

彼らの矛盾概念を、より大きく「網羅」することを目指して拡張してきたと、今、気づく。

また、マルクスやアルトシュラーの概念だけでなく、他の概念を再定義する場合は、なるべく従来の意味を含むように行っている。

宇宙の始まり、地球の始まり、生命の始まり、人の始まりがあり、今の多様な自然と社会がある。
この歴史と現在を統一的に認識し変更していく、客観と主観の差を考慮した
統一理論、方法,論理を作らないといけない。

 

矛盾は、世界の中で次のような位置にある。

1. 認識と行動、世界近似の最小モデルである。矛盾の合成で、世界を近似的に表現できる。

合成の表示方法も提案している。
この矛盾モデルは単位であるから、これ自体は大きな事実を表現できない場合が生ずる。
これに対処するには、今の矛盾の形式のまま内容を豊かにしていくか、変形していくか、合成をするかあるいはその組み合わせをしなければならない。
やや変形して命題の複雑化も同様に行うことができる。
合成は、項か運動 (関係) かその属性を介して行われる。[FIT20041表示法] [TS2006] [THPJ2015/1]

2. 客観世界の運動と人を含む生命世界の問題を扱える

どの領域においても、エネルギーが最小になるように運動は行われる。
生命の領域においても、長い目で見れば、近似的にエネルギー最小になっている (仮説:この粒度で、論理と歴史が一致している) が、生命は意志によってエネルギー最少を実現しない行動をとることがある。
根源的網羅思考による行動は、意図的に高度な価値実現をエネルギー最少で行うことを目指す。
共通に「機能と構造 (内容と形式) の矛盾」がある。

3.人間世界の矛盾は、機能と構造(内容と形式)の矛盾」に加えて、一体化 (謙虚さ、愛) と対象化 (批判、自由) の矛盾が基本原理である。[NKGW2016]

 

幸か不幸か、従来の哲学 (世界観、方法) は役に立たなかった。
そのため、どうしても、
      1. 世界観を見直し、
      2. 世界観構築の方法でもある、矛盾の概念と構造の見直しと、
      3. 粒度を管理しより大きな全体を求め続ける進化の構造を内蔵した根源的網羅思考という新しい方法を作り上げ
なければならなかった。

 

4.2 差異解消矛盾 と 両立矛盾

様々な矛盾の分類がある。[THPJ2015/1] 
矛盾は、次の二つに分かれる。

    1. 通常の単なる変化、変更である狭義の差異解消矛盾

     2. 従来の通常の矛盾である両立矛盾

矛盾は、二項が、片方がなるべき姿,もう片方が今の姿を表わす差異解消矛盾か、二項の同時両立を表わす両立矛盾かである。

差異解消矛盾は通常の変化、変更である。
それをわざわざ(特別な)矛盾と言い換え、両立矛盾 (さらに一体型矛盾)を合わせて、矛盾と括る理由を、[THPJ2012]で書いたのでご覧いただきたい。
要するに、矛盾とは関係の生成とその運動である
矛盾は特別な生成と運動のあり方である。その一つに差異解消矛盾がある。

両立矛盾も広義の差異解消と呼べる。
両立矛盾に、両立していない状態から両立の状態への差異解消という粒度があるからである。
同じことかもしれないが、両立のために常に変化、変更している。
その意味では、両立矛盾は、必ず差異解消矛盾でもある。
逆は正しくない。狭義の差異解消矛盾は必ずしも両立矛盾ではない。
両立矛盾の変形 (か新しい型の矛盾) に一体型矛盾がある。

以上は、あらゆる歴史、論理に該当すると考えてきたが違うかもしれないと思うようになった。しかし、続ける。
以下、人の活動の矛盾の歴史の試論を述べる。

1) 差異解消矛盾

差異解消矛盾は通常の変化、変更である。

位置的運動を「ある位置にあり同時にない」ととらえる、一般に「ある値を持ち同時にその値でない値を持つ」のは、Aであり同時に非Aととらえることである。
実在する極限状況での変化を定義したのである。
差異解消矛盾の二項は、値に関するAと非Aである。

 

2) 両立矛盾

カントはカテゴリーを三項に分ける。それは、第一のカテゴリー、第二のカテゴリーとその結合による第三のカテゴリーである。[KNT pp. 149-159]
そのは、純粋理性批判にいくつか挙げられている。

例:  性質  (実存性、否定性、制限性)
       様態  (可能性、現実存在、必然性)

両立矛盾は二分を使う。
理由は、
       1. 二項は、あるべきものと現実とか、過去の思考結果と新しい思考内容とか、相手の言っている内容と自分の思考内容など容易に思いつく。
       2. 二分は、必要なら三分には容易に拡張できる。また三分は二分に簡単に縮退できる。全体は、二分モデルの合成によって作ることができる。

矛盾モデルは、客観世界と人間に共通である。
世界を、「項1−関係−項2」という矛盾モデルの集合体で近似する。
矛盾は、二つの項が両立しないことを表す意味で用いられることが多いが、ヘーゲル、アルトシュラーなどの弁証法論理の使い方により、二つの項が相互作用しつつ両立する (両立している、あるいは両立を目指す) 意味で用いる。

 

既にある二項を弁証法的止揚して、単純な全否定でない、より高度の新しい段階を作ることは易しい。
これは普通の意味の矛盾を解けばよい。

しかし、一項しかないものについて、意味のある「反対」を作ることは難しい。
反対概念を考えることは、まず、あるものとその反対という二分法で考えることであるが、難しい。
Aと 非Aでないような反対概念 の統一が新しい段階に行く定式化が望ましい。
一項しかないもの、二項あるものという区別は意味がないかもしれない。
いずれの場合も、「A」と「非Aでないような反対概念」の統一とは何か?
それがあれば、そのものを新しい段階に発展させることができるという仮説
を作る。
あとで一体型矛盾のところで検討する。

 

両立矛盾の例:

1) 必要性と可能性の矛盾。

人の意識的行動の基本である。
人に必要なものは、問題として意識でき努力すればいつか可能になる。
これは自明ではない。論理的には必ずしも正しくない。
つまり、努力すればいつか可能になるということは必ずしもなりたたない。
しかし、人は「いつか可能になる」ものを「問題」として意識することができる。
このことを表現する「格言」は多い。
(論理的には必ずしも正しくない、ということは、必要性と可能性の矛盾が常に必ずしも正しくないということである。しかし弁証法論理の教科書には載っている。例えば、寺沢恒信「弁証法論理学試論」)

2) 機能と構造の矛盾

(例:エンジンの高出力化と軽量化の両立。)

3) [FIT2016] [FIT2017] には、矛盾に関する多くの例を挙げている。

 

注意:   エンジンの大出力と軽量の矛盾の例の場合、「項1−関係−項2」は

・ 「あるべき大出力と軽量」の全体が項1、今のそれが項2

・ 「望ましい重さ(軽さ)」が項1、「今の重さ(軽さ)」が項2

・ 「大出力 (機能の属性)」が項1、「軽量 (構造の属性)」が項2

という三種の言い方、粒度がある。

 

 

3)  矛盾の発展

客観的な自然における矛盾が宇宙誕生後からあり、それに自律運動をする生命の矛盾が加わり、さらに人の意識的努力の矛盾が加わる。

31)  始まりの矛盾: 差異解消矛盾と、機能と構造の矛盾という両立矛盾

運動に、何かを始める「始まり」と運用がある。始まりは客観的な自然の場合も人の意識的努力による場合も同じようにある。

311) 差異解消矛盾、両立矛盾の始まり

客観的な自然における矛盾が宇宙誕生後からある。
差異解消矛盾
の始まりは、外力による。宇宙誕生は、宇宙の外からの力による。
差異解消矛盾が始まる。
差異解消矛盾によって、定常状態に至るのは両立矛盾の開始と解である。
太陽と惑星の運動は、いくつかの楕円運動という両立矛盾の集合である。

例えば、細胞分裂が起こっていて、一つの細胞が二つになりつつある場合がある。
一つの細胞の中に、二つの細胞を作る必要性と可能性、或いは可能性と現実性が同居している。

312)  意図的両立矛盾及び意図的差異解消矛盾の始まり

自律運動をする生命誕生後の矛盾が加わる。

もともとは分離がなく一体であった。
生命増殖は単性生殖によって行われてきたし、今でもほとんどの生命では、労働と消費は分離していない。
次に、生命である人間の基本矛盾として、種の継続のための個の生産において、有性生殖で行われる進化が生じて男と女が分離し、個の維持としての生活の生産が始まり労働と消費が分離する。[EPM p.147] 
進化は、ある機能を実現するために構造を変え得たものが生き残った結果である。
生命は、意識していないが、個体の生の持続という基準が永続していて客観的なために続いたのである。
両立矛盾の一種に永続する一体型矛盾がある。
進化の中の機能と構造の矛盾は一体型矛盾である。これは無意識的な機能と構造の一体型矛盾の例である。(一体型矛盾は意識的に起こすものが多い)

機能と構造の矛盾は人以外の生命にも見られる。

 

意図的差異解消矛盾を始めることができるようになる。

生命誕生後に、意図的両立矛盾を始めることができるようになる。

生活の生産について、道具と共同観念による間接化によって技術と制度が分離する。

技術上の、機能と構造の矛盾ができる。
遅れて制度上の、機能と構造の矛盾ができる。これを始めるのは必要性と可能性の矛盾、可能性と現実性の矛盾である。

技術は、個と対象の関係である。
制度は、個と共同体の関係である。
それぞれがさらに媒介化と分割を続け人類の歴史ができる。これらは機能と構造の矛盾の連続である。[TJ2003Jun]。

以後、平均的な人間の能力を前提にした場合、技術と制度は、道具と共同観念による媒介化に始まり、オブジェクト分割と統合の繰り返しによって、進展してきた。これによって高度化が進んできたのであった。
発展は、全てあるいは殆ど分離、媒介化による。これは、機能と構造の矛盾の解の典型である。[TS2011] 
道具の発展も機能と構造の矛盾である。

二人以上が関係する制度上の両立矛盾の開始に必要なのは、
       1. 始めるために必要な、外部条件、
       2. 人の操作できる両立矛盾の成り立つ前提条件 (物々交換の場合、所有意識)、
       3. 1の条件の前提で、2の条件と、開始の矛盾の解を同時に求めること
である。
他の矛盾と同様に、運動のエネルギーがあることが前提である。
物々交換のような二人が関係する矛盾の場合、開始は困難であった。物々交換も一種の機能と構造の矛盾とその解である。物々交換については後で詳しく述べる。

これを始めるのは必要性と可能性の矛盾、可能性と現実性の矛盾である。

 

32)  機能と構造の矛盾の展開と より形式的な両立矛盾の高度化

機能と構造の矛盾という直接に役立つ矛盾、物々交換に始まる制度が発展し、個々の行動になっていく。

さらにより形式的な両立矛盾が派生していく。
これらは、今、思えば、いずれも一体型矛盾としてとらえられるべきものだった。

例: 内容と形式。システムと運用。これは一時的な両立矛盾と永続する一体型矛盾の両方がある。

もっと形式的な矛盾として、一般と特殊などがあるが、これは観念上のとらえ方だけの矛盾である。

 

33) 多様性と単一性の矛盾

機能と構造の矛盾がただの機能実現の矛盾であるのに対し、機能が発展していくと出てくるのが、多様性と単一性という矛盾である。
多様性と単一性の矛盾は必ず永続する一体型矛盾であり得る。
これには以下のものがある。多様性には、空間的、時間的、属性的の各粒度がある

多様性と単一性の形式として、  分散と集中。または展開と集中

多様性と単一性がもたらす機能として、豊饒性と単純性。複雑性と単一性

多様性と単一性の形式と機能として、展開と深化

多様性と単一性の方法として、分析と合成

 

4.3 一体型矛盾への発展

今まで、一体型矛盾は、両立矛盾から分離独立してできたと考えてきたが、逆ではないかという気もしてきた。
永続する一体型矛盾ができ、それを一回限りの一瞬の矛盾としたのが両立矛盾とも理解できる

ポスト資本主義を作ること、生き方を作ることが緊急の課題で、そのために「生きる」ことの構造――生きる全体構造と一瞬の構造――の検討をしなければならなかった。
[ FIT2016] で、対象化とその反対概念である一体化の矛盾が一体型矛盾を作っていることに気づき、以前から述べていた自由と謙虚な愛の矛盾 [TS 2010] などはこの一体型矛盾であることに気づいた。

1)  一体型矛盾

11)  一体型矛盾の説明

普通の意味の矛盾である両立矛盾が、一回解が出れば終わりなのに対して、一体型矛盾というのは、永続して相手を変化させ続けるという解を出す矛盾である。

次のいずれかの条件があると、永続する一体型矛盾ができる。
       1. 外部に永続する強制力があること、
       2. 矛盾に永続性を内蔵する入れ子構造があること。

1の例 1: 種の進化における機能と構造の矛盾では、生き残るという基準が矛盾を永続させる。生き残っている種では、矛盾が永続している。

1の例 2: 生産力と生産構造の矛盾の場合も、うまくいかないと会社などはつぶれてしまう。生き残っている会社では、矛盾が永続している。

2は、お互いに、
      1)  各項が、他項を、自らの発展の条件とするか、または
      2)  各項が、他項を、自らの情報のサブ要素として取り込むこと
である。

2の1)の例: システムと運用。
2の2)の例: 雄と雌、

 [TS2011] [FIT2016] [FIT2017]に一覧表を示している。

片方の条件だけある場合と両方の条件がある場合の違い?
外からの条件の場合と内部条件の場合の違い?
内外の境界を変えてみる必要性?
の検討
は今後の課題である。

 

お互いの価値を増す好循環の一体型矛盾、価値を減らす悪循環の一体型矛盾、どちらでもないものがある。
価値が増す,減るというのは人間の基準による。発散していくもの、収束していくものがある。

一体型矛盾を、両立矛盾の特別な矛盾として同種と扱うか異種と扱うかは未定である。

また、両立矛盾から一体型矛盾に変えていくことがいいと一概に言えない。(いいと書いていたことがあったような気がしている)

機能と構造の矛盾には、一回きりの設計の中の機能と構造の矛盾と、生命進化などの中の機能と構造の矛盾があり、後者は一体型矛盾である。

生産力と生産構造の矛盾は、普通は一体型矛盾であるが、「今」の生産力に対応する生産構造を検討する時には普通の両立矛盾と扱う。

 

[注]: 入れ子

ものか情報が、もう片方の中に入ることが入れ子である。
お互いに入れ子になり合うのが双方向入れ子である。正確な定義ではない。
以下 [THPJ2015/2] からほとんどそのまま引用する。

次のように分類できる。

1. 一方向入れ子

入れ子は、もともと、ロシア人形のように、同じ形のものが物理的にもう片方の中に入っていることを指している。

これを、
       1. 何か同じものまたは同じ形式のものがもう片方の中に入ることと拡張し、さらに、
       2. 入れ子になる対象を、ものから、もの、情報 (観念含む) に拡張する。
つまり、同じか同じ形式の、もの、情報が、もう片方の中に入ることを入れ子という。これで一方向の入れ子が定式化できた。
対象が、もの、情報の場合の差異の検討が課題である。

例:  フィードバック、
       引用 (引用されたものが自分の中に入る)、
       再帰性 (再帰的な定義は、定義の中に定義されるものを含んでいる。存在とは、他の存在と関係するものであるというのは再帰的な定義)、
       教育、 洗脳、 スパイ、 寄生虫、
       愛 (相手との一体感が自分に入る)

文の例: 寺沢恒信は、変更の起こる構造を次のように述べている。
「発展は、その内容に関しては「現実性」と「可能性」のカテゴリーによってとらえられ、その形式に関しては「内容」と「形式」のカテゴリーによってとらえられる」 [TRSW p.157]

2. 二方向入れ子

入れ子の拡張として、お互いに入れ子になり合う形式がある。
入れ子の対象がもの、情報、観念の場合がある。これは、人に思われている以上の一般性がある。
対象が、もの、情報、観念の場合の差異の検討が課題である。

例: 客観と主観、
      客観的世界と主観的世界、
          (観念を中心とする主観的世界は、ものを中心とする客観的世界の像であるが、客観的世界は、主観的世界を含み、お互いを含み合う何重にもなった入れ子ができている。)

例: 手段としての二方向入れ子として、二重スパイ

次に、二方向入れ子の内容、機能を考察する。

例: 両立矛盾の高い次元の解、その連鎖

理想的な労働,教育,技術,制度、
相思相愛は、自分と対象と相手を向上させ合う二方向入れ子である。
過去に世界や相手、対象があるから自分がありその逆もあるのは、両立矛盾の高い次元の解の連鎖による。

例:一体型矛盾

両立矛盾の一種に前に述べた一体型矛盾がある。
これは入れ子の高度の形式と考えることができる。
一体型矛盾は、解の形式を自らに内蔵した矛盾で、矛盾の形式も解の形式も、入れ子である。
一体型矛盾は、そのことを自覚することで解を早く得られる。ただし、よりよい解にするためには永遠に努力を続けなければならない。

例: 分析と総合、普及と深化、考えることと学ぶこと、受容と表現、集中と拡散、歴史と論理、

システムと運用、手順と運用、体系と運用、科学と哲学

対象化と一体化、謙虚さと批判、謙虚さと自信、ほめることと批判、
自由と愛 (自由は、自分や相手を含んだ対象を良くする力、愛は、この対象を良くする意識)

認識と行動、目的と手段、感情と論理

矛盾を決めるのは、粒度であり、矛盾を解決するのも粒度である。両者は入れ子になっている。
粒度を決めるのも、粒度と網羅の矛盾の解であるという入れ子もある。

世界の近似単位としての矛盾特定,解と、粒度の管理のための根源的網羅思考が、入れ子になっているという構造がある。[THPJ2015/2改]

1) ものまたは情報のどういうものが、もう片方の中に入ると入れ子なのかは、明確でない。
2) ものまたは情報のどういうものが、もう片方の中に入ると、各項がお互いを変化させ合うことができるのか、明確でない

入れ子を2次元で表現するのは難しい。また、入れ子を表現する数学的形式はどのようなものかがよく分からない。
ハイパーキューブはその候補で、入れ子、再帰構造を表現する数学的形式である。
[松本明子,岡本秀輔,曽和将容, “拡張ハイパーキューブについての研究”, 情報処理学会計算機アーキテクチャ研究会117-12, 1996.3.6.] この論文は、複数プロセッサからなるコンピュータ内通信ネットワークのトポロジーの研究に関するものだが、一般的な内容を持っている。

 

一体型矛盾は、持続的に変化または変更し続ける。
[FIT2016]では「発展」 [注] としていたので「変化または変更」に訂正する。
お互いの価値を増す好循環の一体型矛盾、価値を減らす悪循環の一体型矛盾、どちらでもないものがある。価値は、誰かの基準による。

逆命題: 発展し続ける運動は一体型矛盾であるという仮説を作る。[FIT2016]

一般的に他の一体型矛盾は、必ずしも価値の増加をもたらさない。

仮説がある。
          『ある概念とその反対概念の両立する一体型矛盾は真の発展をもたらす』という条件を満たす概念がある。

 

生命と人類の長い歴史の中で、もともと一つだったものが、二つのオブジェクトに、二つの思考に、または二つの態度に分かれていく。
そして、分かれたそれぞれは独自の発展を始める。
ある時から、その二つは再統合の運動を始める。

 

次のいずれかの条件があると、永続する一体型矛盾ができる。
      1. 外部に永続する強制力があること、
      2. 矛盾に永続性を内蔵する入れ子構造があること。

1の例 1: 種の進化における機能と構造の矛盾では、生き残るという基準が矛盾を永続させる。生き残っている種では、矛盾が永続している。
1の例 2: 生産力と生産構造の矛盾の場合も、うまくいかないと会社などはつぶれてしまう。生き残っている会社では、矛盾が永続している。

2は、お互いに、
      1)  各項が、他項を、自らの発展の条件とするか (例:システムと運用)、または
      2)  各項が、他項を、自らの情報のサブ要素として取り込むことである (例:雄と雌)

片方の条件だけある場合と両方の条件がある場合の違い?
外からの条件の場合と内部条件の場合の違い?
内外の境界を変えてみる必要性?

一体型矛盾の各項がお互いに発展させ続けることができるようになった。
なお、一般的には、必ずしも発展が起きるとは限らない。
悪化させ続けることもある。
同じ運動が、あるものには「発展」、別の人やものには「悪化」と見えることがある。
一般的には、一体型矛盾では、各項がお互いに変化を起こさせ続ける。[FIT2016改]

一体型矛盾は、西田哲学の徒、三木清の「人生論ノート」[MIKI1947]の「混合の弁証法」の意図と似ている点はあるが異なる。
三木清もアルトシュラーも従来の矛盾ではだめと気付いていた。

 

12)  「問題解決」方法としての一体型矛盾

[THPI2015/2] の発明原理に不足しているもの;
       「オブジェクト追加」「二項を関係させる」「オブジェクトの追加)」
       「既存の二項または分割した二項の運動の生成(二項を関係させる)」
       「発明楽[HMG]の「転用:一つの機能を他領域でも使用」
に、「一体型矛盾に変更する」を追加する。

 

13)  一体型矛盾の歴史

生命と人類の長い歴史の中で、もともと一つだったものが、次のように分かれていく。
いずれも、機能と構造の矛盾が高度化を求めて分化するものである。
男と女(雄と雌)、労働と交換と消費への分離ができるが、これらは両立している。
これらは必ず永続する一体型矛盾である。これには以下のものがある。

131) 二つの客観的オブジェクトへの分化

例 (二つの客観的オブジェクト、実体+運動): 男と女。

132) 二つの運動などへの分化

(二つの客観的オブジェクト、二つの運動):労働、交換、保管、消費。
多くの動物ではこれは分離していない。獲物を捕ることと食べるのは同じ行為である。態度と認識・行動。

(二つの客観的オブジェクト、固定的なものと運動):技術と制度。

(客観的オブジェクトと思考): 客観と主観。認識と行動。歴史と論理。感情と論理。リアリズムとロマンティシズム。

(二つの思考): 思考と学習。受容と思考と表現 。思考と議論。粒度と網羅と矛盾。根源的網羅思考と矛盾。一体化と対象化1。愛と自由1。科学と芸術。

(複数の態度): 謙虚さと批判。一体化と対象化2。愛と自由2。 [TS2011] [FIT2013] [FIT2016]

そして分かれたそれぞれは独自の発展を始める。

 

2)   対象化と一体化の一体型矛盾

21)  反対概念

既にある二項を弁証法的止揚して、単純な全否定でなくより高度の新しい段階を作ることは易しい。
これは普通の意味の矛盾を解けばよい。

しかし、一項しかないものについて、意味のある「反対」を作ることは難しい。
ある概念とその反対概念の統一が新しい段階に行くような、そのような「ある概念とその単純否定でない反対概念」の定式化が望ましいという理屈で一般論の仮説を作るのがよい。

全体がAと、単なる非AではないBで網羅されているとき、その全体に関して、Aの(真の)反対はBであるということにする [FIT2017スライド] [IEICE2018]

「自分と、自分と異なる他のオブジェクト」からなる世界において、自分が、オブジェクトを自分と異なるオブジェクトとして対象的に扱うことと、自分とオブジェクトを一体として扱うこと、この二つで自分とオブジェクトの関係は網羅されている。
この反対概念は、Aの反対が非Aつまり「Aでないもの」であるような反対ではない、真の反対である。
対象化と一体化は反対概念である。

「自分がオブジェクトをオブジェクトとして扱う対象化」の反対が、「自分とオブジェクトを一体として扱う一体化で」ある。
逆もそうである。

ただし、これは「自分」が認識し行動する場合にだけ正しい
「高度」でない生命にとっては、対象化と一体化はない。

「自分と、自分と異なる他のオブジェクト」からなる世界を客観的に高めようとする場合、自分を高めること、他オブジェクトを高めること、自分と他オブジェクトの関係を高めること、の三項で網羅される。

 

22)  対象化と一体化

態度と行動は、どちらも論理的に対象化と一体化からなる。
対象化と一体化はお互いに反対概念である。それぞれの価値が、自由と愛である。

自分というオブジェクトと他のオブジェクトがある。これを略して「自分とオブジェクト」と言う。
これが、自分にとって最小の世界であり、かつ全世界の最小モデルとなる。
自分とオブジェクトからなる世界の中で、自分のオブジェクトに対する態度、行動を一つ一つ物理的に網羅することはできない。無限の態度、行動があるであろう。
しかし、論理的に種類や型を網羅することはできる。

態度(と行動)にこれを適用すると、自分がオブジェクトをオブジェクトとして扱う態度(と行動)と、その反対が、自分とオブジェクトを一体として扱う態度(と行動)となる。

対象化とは、対象を操作対象として見る態度と行動である。
対象化は、オブジェクトを自分のために良くしようとして働きかける。オブジェクトを自分のために良くすることが価値である。
これは必ずしもオブジェクトそのものの価値を良くしない。
相手を殺して食べることは、自分には良いことだろうが、相手は死んでしまう。
このオブジェクトが、たまたま自分やその体、心の一部の場合も、自分のために自分またはその一部をオブジェクトとして対象化していることは同じである。

一体化とは、対象を自分と一体として見る態度と行動である。
一体化の価値が「愛」 = 自分とオブジェクトを一体として扱いこの両方を良くすることの態度と行動の広さと強さである。
なお「愛とは、私と他者が一体であるという意識」と言ったのはヘーゲルである。ここでヘーゲルは愛の対象を人に限定している。

価値を増やすのは、自分を含めた対象を変更する行為による。仮にこれを労働と言っておく。
この労働は、賃労働に限らず、対象を変更する一切の行為である。コミュニケーションや議論を含む。

対象化と一体化、自由と愛は、この限り網羅されており、一体型矛盾の二項で、お互いを変化させる。
お互いを悪化させることもあるが、この場合はお互いを高め合う。 これを[FIT2013]に述べた。
例えば、一体化は対象の粒度を広げ必ず対象化に貢献する。
対象化は必ずしも一体化に貢献しない。良き対象化は一体化に貢献する。

 

最初の生命には対象化はない。知覚とその反応だけである。
人の対象化にも、変化がある。対象化の意味は変わっていく。
大きな変化は、初期の一体化を生んだのちのから今に至る対象化の変化である。分かりにくいが後で詳しく述べる。
対象化と一体化の一体型矛盾の解が出た時の対象化は、さらに大きな概念になっているであろう。

 

23)   対象化と一体化の一体型矛盾

発展が進んで行くと「対象的」発展に対する反省が新たな態度を生む。これは特別な次元の矛盾である。

一体型矛盾の例:  謙虚さと批判。自由と愛。対象化と一体化。[TS2011] 

本稿の最も重要な矛盾が、対象化と一体化の矛盾(自由と愛の矛盾)である。

 

ある時、対象化の反対概念である一体化の原型が発見され、特別で重要な一体型矛盾として、対象化と一体化の一体型矛盾が生まれる。
対象化と一体化が本質である理由は、この二つがオブジェクトに対する態度、行動を網羅しているから
である。

初期形態とはいえ、一体化が最初に生まれたのは「所有」だった。
この所有は、まだ法的所有でない、純粋の「あるものを、自分(達)に引き付けて自分(達)と同様に大事にする態度」である。
この状態が六千年前から四千年前まで二千年ほど続く。

 

他の形式的一体型矛盾と、一体化と対象化の矛盾は、違うような気がする。
なぜこのような差があるのか?(次の数字は網羅を表さない。単なる思い付きの順である。)

1. 対象化が、まず、はじめにある概念である。一体化と対象化は非対称な項である。

2. 機能と構造の矛盾、生産力と生産構造の矛盾は、一体型矛盾の場合も、普通の両立矛盾の場合もある。

3. 一体化と対象化の矛盾は、必ず一体型矛盾であると思っていた。
しかし、個別の一回かぎりの場面で、一体化と対象化の矛盾と定式化される場合があるであろう。
つまり、普通の両立矛盾の場合がある。
例えば、一体化をして対象化の対象が増すことが解に繋がることがあり得る。こういう例は多いのではないだろうか?

4. 一体化と対象化のそれぞれの項の内容が相手の発展に従ってお互いが変化していく。
つまり、一体化の内容が対象化の内容によって変わる。逆も同じである。

これに対し、機能と構造、生産力と生産構造の各項は発展に従って、項の名前の表す内容が変わることはない。

「自分とオブジェクトからなる世界を扱う」という点が、個々の矛盾である機能と構造の矛盾などと異なる。
単に語が熟しているかまだ熟してないという区別ではないような気がする。
一体化と対象化の矛盾は、機能と構造などの矛盾より一つ次元が上の矛盾である。
どちらの矛盾も網羅が済んでいない。とりあえずここで中断して棚上げしておく

検討は2018年段階でまだ済んでいない。

 

3)  まとめと今後の課題

大きな統合化、一体化が必要であるがまだ解決されていない。
   第一に、個と対象との関係において、疎外や生きがい喪失、
   第二に、個と共同体との関係において、宗教や国家、民族との偽の一体化意識による対立がある。

前者は、間接化と分業と「疎外」により三重に失われた一体性の回復が必要である。
個と対象との関係は、技術問題であるので、制度に影響されはするものの、本質的に、制度の形態に限定されない課題である。この点は誤解されている。

後者の課題は、安直にこの分離から逃れるために、疑似帰属意識をもたらしている問題である。
自共同体以外の国家、民族、宗教共同体への敵視と共存する帰属意識は、それなりに時間と労力をかけて意図的に作られたにせものである。

思考は目的を達成するためにする。
その中で、根源的網羅思考は、事実と価値のより大きな全体と本質、価値の実現方法を求め続ける思考である。
目的は、意志のある誰もが(可能なら全てのものが)、いつでもどこでも全てのものの「価値」をお互いに高めて行く客観と、その主観的な実感である「幸福」の二つの両立であるような、主観と客観の統一を行う全体、本質、方法を求めることである。

この客観と主観は、世界の単なる一般的静的関係に過ぎない。
客観と主観の関係を補い具体化し活性化する矛盾が必要である。
それは、人の態度、行動を最も根本的に変える矛盾でなければならない。

今は、やっと対象的生き方とともに一体化を意図的に自由に回復することのできる、人の歴史段階の入り口に至った。

 

4.4  原動力

1. 差異解消矛盾の開始の原動力は一般に運動の原動力と同じである。

第一に、差異解消矛盾の開始の原動力、運動の原動力には、
   a.  自律的力(二項間に働く力)、
       b.  二項の外部からの力がある。

       b.  二項の外部からの力には、
            b1.  人が介入しない自然の客観的力、
            b2.  人の価値に規定された意図的力、
            b3.  人の価値に規定された力が働いているが長い時間、広い空間で人の意図が隠れ客観的力のように見えるもの、
            b4.  それらの複合体
       がある。
       重力などの純粋なa. と b3.の差は相対的である。
       b4. それらの複合体には、a−b3. までの力の副作用とそれを修正しようとする力が含まれる。

要するに、原動力は、自然の客観的力、人の価値に規定された意図的力、それらの副作用と修正作用である。 [THPJ2012]

第二に、いずれもエネルギーが前提である。
自然の客観的力も人の価値に規定された意図的力も、エネルギーが閾値を超えることが前提で運動が始まる。

 

2. 両立矛盾を始める時は、始めるための両立矛盾の条件と矛盾の解を同時に求めないといけない。
     いずれもエネルギーが前提である。

偶然に始まった重要な両立矛盾がある。物々交換はこの例である。

農業革命が起こり、物々交換がはじまる。物々交換は両立矛盾の解として生まれた。

たまたま、地球は多様な環境を持つため地域ごとに生産物が異なり分業が発達した。約六千年前に、たまたま、物々交換を生む。

保管している食料を奪いに来る相手との闘いをどう解決すべきかが集団のリーダーの悩みの種だった。ある時、偶然の解決策が得られた。解は、闘いで死者が出るという問題を物々交換で解決するものだった。
物々交換の成立と同時に「所有」という概念が生まれる。「所有という概念」は同時に物々交換の条件にもなっている。
物々交換の場合、条件と矛盾の解が偶然にでき、あいまいな運動がしだいに確定的な運動になっていく。

意識的に始める場合、この二つを意識して努力する必要がある。

 

3.  一体型矛盾の原動力は、
         客観矛盾の場合は、外部の永続する強制力 (例: 進化の機能と構造の矛盾の生き残ることが矛盾を永続させる。生産力と生産構造の矛盾の場合も、うまくいかないと生産構造を実現する会社などはつぶれてしまう)
         その他の場合は、矛盾が内蔵する入れ子構造である。

 

4.5 矛盾の種類 (まとめ)

こういう発展の末に、矛盾を分類することができるようになった。
しかし、矛盾の形式的網羅もまだ不十分である。今の時点での網羅である。

矛盾の様々な分類について [THPJ2012] [THPJ2015/1] に詳しく書いているので参照されたい。

なお、論理的に考えた矛盾と歴史を総括した矛盾は違った。

 

下記が今のところ、運動の構造を網羅していると考えている。

同じオブジェクトに二つの運動がある。
      1. 差異解消矛盾(変数1)と
      2. 両立矛盾(変数2)
は独立した運動をするように見えるが、人はこの中から粒度で切り取った矛盾 (というオブジェクト)を扱う。
現実は無数の1.2.の運動の複合体である。

エンゲルスの「三つの法則」に該当する項も示した。
エンゲルスの「三つの法則」は、全く的外れでもない。

1. 差異解消矛盾

  11.  量的変化を起こす(値)。  12に移行することがある。

  12.  量的変化と内部構造変化が属性変化 [注] を起こす(値、属性)。以後、11の運動を続ける。
               これがエンゲルスの「質量転化の法則」に近い。: 例:水の沸騰、蒸気の液体化

[注]: 切り取られたオブジェクトの外部に対する具体的規定が(広義の)属性である。
つまり、オブジェクトを外から見ると様々な属性の集合である。
この(広義の)属性に、(狭義の)属性と内部構造がある。
量と内部構造の変化は,属性を質的に変化させうる。
量と質は反対概念ではない。
[TS2008] [THPJ2015/1]

2. 両立矛盾  

  21.  二項の両立を実現する(値、属性)。  22項に移行することがある。
           
これがエンゲルスの「対立物の統一の法則」。

「対立しながら両立している」ので、本来は対立という緊張と、目指す両立という安定の両面がある。
人が操作する際は、これは両立手段を見つける場合だけに使う。
実際、これを設計で最も良く使う、というか、設計では、目的実現のために、何か変更したいと思うと、変更した項と別の項を両立せざるを得ないといけなくなることが多い。
従って、その両立する手段を見つけることが設計であることが多い。
TRIZの「物理的矛盾」「技術的矛盾」は、いずれも両立矛盾である。その解法は、両立手段を見つける方法である。

なお、対立物の統一は矛盾の本質を表す粒度がある。
11項の量的変化を起こすことも、「値が、ある値であり同時にある値でないこと」である。

 

実際の運動として両立矛盾は、必ず、物理的に通常の変化、変更である狭義の差異解消矛盾でもある。
つまり両立のために常に変化、変更している。

逆は正しくない。狭義の差異解消矛盾は必ずしも両立矛盾ではない。

 

    22.  両立し統合された二項が弁証法的止揚され質的変化を起こす(値、属性)。
               これがエンゲルスの「否定の否定の法則」

例:  全ての製品。それぞれの「部品」が構成されて、車のような新しい質を持った製品になる。

  23.  一体型矛盾 [TS2011] (オブジェクト、属性):  (特殊な両立矛盾)

特別な両立矛盾で両項を「変更し続ける」。ある条件が整うと両立矛盾は一体型矛盾にかわる。
[FIT2016] でいくつか例を挙げている。

21がその都度終わってしまう運動であるのに対し、この一体型矛盾は永続する矛盾である。

 

各矛盾の属性、値との対比については、[TS2011] にやや詳しく述べてあるので必要な場合参照されたい。

なお、本質と現象、一般と特殊などは、従来、矛盾として扱われている。
しかしこれらは相互依存する二つの異なった認識であり、矛盾ではない。
これらの差異を把握し、例えば本質や一般を追求していく思考運動を展開する場合に限り、ともに観念空間内にある対立項も矛盾の要素として扱うことができ、全体を矛盾ととらえることが可能である。[TS2011]

 

表 4.1 矛盾の二つの型  [FIT2016]

名前

矛盾の項

狭い意味の差異解消矛盾

一項がなるべき項、他項が現状

自然、人工システム、生活における通常の変化、変更。変数が一。

両立矛盾; CC

二項が両立、
または両立している二項が質的変化を起こす。

通常の意味の矛盾。変数が二。

 

表 4.2 矛盾  [FIT2016改]

矛盾

矛盾結果の型

運動の型

変化の型

差異解消矛盾

11. 量的変化を起こす
(タイプ11は、タイプ12に変化する場合がある)

永続的

量的

自然、人工システム、生活における通常の変化、変更。

例: マントル運動

12. 両立二項が質的変化を起こす

一時的

値から属性へ

質的

自然、人工システム、生活における通常の変化が質的変化を起こす。

例:  マントル運動が起こす地震。化学反応

両立矛盾; CC

実際の運動として両立矛盾は、必ず、物理的に通常の変化、変更である狭義の差異解消矛盾でもある。

逆は正しくない。

211. 二項の両立を実現する

 

 

 

一時的

 

 

値と属性

 

量的と質的

二項が二値または二属性。例:暖かさは属性、暖かさの度合いである温度は値。

TRIZにおいては、二値の場合の矛盾は“物理的矛盾”、二属性の場合の矛盾は “技術的矛盾”。

例: エンジンの大出力と軽量。通常の機能と構造。

212. 二項の両立を実現する

(タイプ22に変化する場合があるもの)

通常のCU, RET と基準

通常のオブジェクトと粒度と網羅

22. 質的変化を起こす

(いくつかのタイプ22は、タイプ23に変化する)

一時的

値と属性

質的

統合された二項が弁証法的止揚を起こす。

例:  全ての製品。それぞれの「部品」が構成されて、車のような新しい質を持った製品になる。

 

一体型矛盾; CU

23. 特別な両立矛盾で両項を変更し続ける

永続的

オブジェクトまたは属性

 

量的と質的

各項が、他項を、自らの発展の条件とするか、自項のサブ要素とする。そのため各項がお互いを変化させる。

(二つのオブジェクト): 男と女。労働、交換、消費対象化と (双方向) 一体化。態度と認識・行動。謙虚さと批判。自由と愛。[TS2011] CU, RETと基準

(オブジェクトと思考); 例 : 認識と行動。生命の機能と構造。技術と制度。歴史と論理。感情と論理。内容と形式。システムと運用。

(二つの思考); 例:単一性と多様性。単純性と豊饒性。集中と展開。展開と深化。分析と合成。思考と学習。受容と思考と表現 。リアリズムとロマンティシズム。対象化と(双方向)一体化。謙虚さと批判。自由と愛。[TS2011] CU, RETと基準

(二つの態度);例:対象化と(双方向)一体化。謙虚さと批判。自由と愛。[TS2011] CU, RETと基準

 

2)  二つの領域の矛盾

運動領域の分類を試みる。
事実は静的でなく階層があり動的である。事実の単位は、相互の関連があり、変化している。

今の人の世界、他の生命、自然を含んだ事実を対象とする。
事実の領域、場には、
1.  客観的世界、客観的世界と意図の関わりの世界、個人の主観的世界がある。
              主観を持った生命が産まれて以降、純粋の客観的世界、主観的世界というものは、実際にはない。
              頭の中の抽象、情報としてあるだけである

客観的世界と意図の関わりの世界には、
2.  後に述べる技術の矛盾と制度の矛盾という領域、場がある[TJ200306][TS2011]。 

さらに、
3.  人と客観との関係という面、粒度で、技術と制度のそれぞれに事実の認識と変更という領域がある。

中川の2005年の6箱方式 [NKGW2005] は変更に対応するが、本稿は法則の発見を含む事実の認識にも適用できる。

次いで、
4.  事実の認識と変更という領域のそれぞれに事実の矛盾、解の矛盾の双方がある。
        単純化すれば、事実の矛盾は、変更することを暗黙の前提とした「項−運動(関係)−項」の運動、
        解の矛盾は、「項−運動(関係)−項」のそれぞれを変更する運動である。

認識とは、事実の矛盾を確定することである。

変更とは、事実の矛盾を解の矛盾に変換し、解の矛盾を解き、それを実現することである。[THPJ2015/1, 2]

事実の矛盾の例:  部屋が蒸し暑い。部屋の温度と湿度を適切に保ちたい現状は事実の矛盾の例である。粒度、状況によって異なる。

解の矛盾の解の例:  空調機のボタンを押すこと、空調機を買い設置すること、空調機を設計し作ることは、どれも解の矛盾の解の例である。

 

図4.1  技術制度、事実の認識と変更、事実の矛盾と解の矛盾

この図でうまく表現できていないが、技術の矛盾と制度の矛盾の領域、事実の認識と変更という領域、事実の矛盾、解の矛盾という領域は、それぞれが客観的世界と意図の関わりの世界の全てをカバーし、それぞれの内部の二項はその中で網羅された分類である。
認識と変更の脳内の観念の運動は同じ原理によっている。

それぞれの領域に共通に、時間的順序は、まず矛盾の生成、次いで矛盾の運動である。

 

 

第三部に続く。

 

 

本ページの先頭 論文第二部先頭 3. 前書き 4. 矛盾

4.2 両立矛盾

4.3 一体型矛盾 4.4 原動力 4.5 矛盾の種類

第二部PDF

英文ページ
高原利生論文集第4集 研究ノート全体ページ 研究ノート第一部:根源的網羅思考 研究ノート第二部:矛盾 研究ノート第三部  研究ノート第四部: 論文集第1集 論文集第2集 論文集第3集  

 

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最終更新日:  2018.10.10    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp