USIT 解説・紹介
連載: USIT入門: 創造的な問題解決のやさしい方法
第3回  USITによる問題の定義と分析の方法
中川 徹 (大阪学院大学)
『機械設計』 (日刊工業新聞社発行), 2007年10月号, 90-96頁

[掲載:2007.10.15]   許可を得て掲載。無断転載禁止。

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編集ノート (中川徹、2007年10月 7日)

本件は、日刊工業新聞社発行の月刊誌『機械設計』(Machine Design)に連載中の「USIT入門」の第3回です。2007年8月号から12月号までの全5回の連載予定で、前月10日の発行です。同社のご承認をいただきましたので、本『TRIZホームページ』には、同連載をHTML版で掲載します。連載の全体構成については、第1回のページを参照下さい。

連載の今号では、限られたページ数の中でできるだけ詳しく説明しようとしましたので、前回に記述したことや説明図と重複しないようにしました。このため独立では少し分かりにくかったかと思います。このホームページではページ数制限がありませんから、前回の図の一部を「補図」という書き方で再度掲載しました。また参照のリンクも追加しています。ご活用いただけますと幸いです。

この第3回の目次はつぎのようです。

はじめに

1. 問題の定義と分析の方法の概要

1.1 問題の定義と問題の分析
1.2 「オブジェクト-属性-機能」の概念

2.  問題を定義する方法

2.1  USITにおける「適切に定義された問題
2.2 問題定義段階の注意事項

3.  問題分析(1)現在のシステムの理解

3.1  空間特性の分析
3.2 時間特性の分析
3.3 現在のシステムの機能的関係の理解
3.4 現在のシステムの問題に関係する属性の理解

4.  問題の分析(2)理想のシステムの理解

4.1 分析段階で理想のシステムを考える意味
4.2 理想の結果をイメージする
4.3 魔法のParticles (賢い小人たち)
4.4 Particles 法の適用例

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連載: USIT入門: 創造的な問題解決のやさしい方法

第3回 USITによる問題の定義と分析の方法

中川 徹 (大阪学院大学)

『機械設計』 (日刊工業新聞社発行)、2007年10月号、pp. 92-98

 

さまざまな技術分野で使える、創造的な問題解決の方法として、USIT (ユーシット) について説明しています。

第1回には、一問一答の形式で、USITの開発・発展の歴史や、普及の状況、情報源、その特徴、問題解決のプロセス、実践法など、全体的なことを概説しました。

そして前回は、「USITのやさしい適用事例」というテーマで、私のゼミでの卒業研究をベースにした 2件の身近な問題への適用事例の一部始終を説明しました。

その一つは、「ホッチキスの針をつぶれなくする方法」というテーマでした。つぶれる直前にホッチキスの針はM字形になることに気づき、針が内側 (針の下の空間) の横面で支えられていないことが、問題の根本原因だと認識しました。「それなら、内側の横面を支えればよい」というのが解決のための基本的なアイデアでした。

第二の例は、「裁縫で針より短くなった糸を止める方法」というテーマです。糸の余長が短いから(標準的な) 玉止めができないというのが、普通にいう根本原因です。しかし、実はこの他に、糸は伸びない、針は短くならない、針の穴は細くて糸を通すのは大変、などといったさまざまなことを私たちは当然の前提 (制約) として仮定しています。これらの仮定を外してみると、意外なアイデアの展開が得られました。細く尖った針の先をなくし、ずんぐりむっくりの「玉止め専用の針」というアイデアが、簡単な小道具に発展していきました。

また、理想として、糸がどのような空間配置になればよいのか? と考察した結果、そのような空間配置になるように補助する「ストローの小道具」というアイデアも得ました。

これらの簡単な事例を背後から支えているのが、「USITによる創造的問題解決の6箱方式」という理論であることも説明しました。

今回は、この6箱方式 [分かりやすくするためにここに図を補った] の前半、ユーザの (もやもやした) 具体的問題から、(焦点を絞って) 適切に定義された具体的問題を明確にし、さらに、(問題をもつ) 現在のシステムの理解と (問題が解消された) 理想のシステムの理解とを作る過程を説明しましょう。

補図:  USITにおける創造的問題解決の「6箱方式」  (第2回図1)

USITでは、これらの過程で、問題の分野に依存しない、一般的で標準的な方法をいつも使います。前回のやさしい事例の一部始終と、今回説明します方法の一般的・概念的な理解とを組み合わせて理解いただけますと幸いです。

 

1. 問題の定義と分析の方法の概要

1.1 問題の定義と問題の分析

USITによる問題解決の6箱方式 (第2回図1)の前半部分を、より詳しく書くと図1のようである。

図1. USITの問題解決の6箱方式の前半部

この図で、「問題の定義」という段階は、「解決すべき問題は何か?」ということを明確にする段階である。それは、本来、問題を抱えている現実の世界において、社会的、ビジネス的、そして技術的などの観点から、考察し、決定すべきことである。それを決定するための価値判断は、USITという技法よりももっと大きなスコープで行うべきことである。

この意味では、問題の定義という段階はUSITという技法よりも前の段階にあるべきものといえる。しかし、実践においては、USITを用いた問題解決の最初に、この問題定義の段階をしっかり行っておかないと、その後の問題解決のスコープや方向が定まらないものになる。

その次の「問題の分析」では、問題を抱えている現在のシステムを理解することと、問題を解消した理想のシステムを理解する (イメージする) ことが目標である。これらの理解のためには、個別の分野や問題を越えて、技術システムを一般的に理解するしかたを明確にすることが必要である。その理解には、空間と時間、そして次節に説明する「オブジェクト-属性-機能」という基礎概念を使う。

1.2 「オブジェクト-属性-機能」の概念

本節はUSITの開発者 Ed Sickafusの考え方 [「USITの概要 (eBook)」川面恵司・越水重臣・中川 徹訳を参照] をベースにして説明する。

「オブジェクト」とは、システムの構成要素である実体のことである。システム中のどんなものを取り上げ、どんな大きさのもので考えるのがよいのかは、問題によって違う。後述のように必要最小限の組のオブジェクトで考えることが基本である。

USITでは「情報」を特別にオブジェクトとして考える。これは、検知、測定、通信、制御、ソフトウェアなどを考えることを容易にする。

「属性」とは、オブジェクトがもつ性質のカテゴリ (種類) のことである。USITではシステムを概念レベルで定性的に扱い、定量的な扱いをしないから、性質の値そのものを扱わない (これは、本質のことだけを簡潔、迅速に考えようというUSITの立場を反映している)。

一つひとつのオブジェクトは、多様な属性をもつ。長さ、重さ、形状、表面の滑らかさ、材質などいろいろである。さらに、例えばホッチキスの針の長さ (サイズ) といっても、針の脚の長さ、針の横幅、針の太さ、針の厚みなど、いくつかの項目がある。形状という属性も、全体の形状から細部の形状 (例えば、ホッチキスの針の先端部の斜めにカットしてある割合と角度など) まで、それ自体が階層的な構成をもつ。これらの一つひとつが属性であり、(各属性の値はいろいろに変わることができるのだから) 一つひとつが次元を成すと考える。

これらの属性のうち、どれが問題に関わっているのかを知ることは、大事なことである。それは問題の原因を知り、メカニズムを知ることであり、解決策の方向を知ることに繋がる。

「機能」は、オブジェクト間の相互作用を、システムを使う (作った) 目的に照らして、「働き」として理解したものである。いろいろな機能を、有用、有害、過剰 (だから有害)、不十分、欠落などと分類するのは、人間の側の合目的的な価値判断を反映させているといえる。

機能の元になるオブジェクト間の相互作用は、基本的には互いに接触しているオブジェクト間で起こる。力学的な力を及ぼしたり、熱を伝えたり、化学的な作用をしたりなどである。ただし、物理的な場 (電場、磁場、電磁波、重力場、など) を介して離れたオブジェクトに相互作用を及ぼす場合があり、それも「接触」の一つの形態であると考える。

オブジェクト間の機能の関係を知ることは、システムのメカニズムを知る上で大事である。これは通常、「機能分析図」として表現される。

 

2. 問題を定義する方法

2.1 USITにおける「適切に定義された問題」

USITで、「問題を定義する」段階としてするべきことは、図1の中段に示すような「適切に定義された (具体的) 問題」のための情報を明確化することである。ここで必要とする情報を列挙するとつぎのようである。(前回説明した裁縫の問題の例を参照いただけると分かりやすい)。

(a) 望ましくない効果は何か?

USITでは、「いま何か望ましくない状況が生じていて、それを解決したい」というのが、(技術的な) 問題解決の中心の手がかりであると考える。望ましくないこと、困っていることが、もしいろいろあるなら、その中のどれに焦点をあてるかを検討し、一つ選べという。あれもこれもでは、後の過程で考察がまとまらなくなる。一つずつ各個撃破がUSITのやり方である。また、漠然と「新しいよいもの (製品) を作りたい」というのではなく、いまのどの部分、どの側面がどうよくないと明確にした上で、新製品を考えよという。

(b) 何をしたいのか? 課題は? (課題宣言文)

上記(a) の問題点の表現を、積極的な表現に変えて、したいこと、目標としての課題を表現する。これを1〜2行の簡潔な文で表す。簡潔な文にするのは、焦点を明確にするためである。担当の技術者が1〜2ページの資料を作って説明することがあるが、「それで、いま (解決) するべきことの目標は何か?」と聞かれると、明確に返事できない場合がある。USITでは、それを1〜2行の文に書いて、曖昧さを無くそうとするのである。

(c) 問題状況の簡潔な図解

文章だけでは明瞭にならないことが多いから、簡潔な図を描く。この図は、概念図でよい。USITでは定量的な扱いはしないから、詳細な図面、正確な図面を要求しているのではない。問題点の状況のエッセンスを捉えた図がよい。必要に応じて問題部分をクローズアップした図、ミクロレベルの図などを描くとよい。

(d) 考えられる根本原因 (複数可)

つぎに問題が生じている根本の原因を考える。実験的に確かめられていることが望ましいが、それはUSITの場でできることではない。USITでは、関連するメカニズムを考察し、多様な原因を考えることの方が、意義が大きい。前の(a) から出発して、問題点の原因を考え、さらにその原因へと辿っていく。奥にあるより根源的な原因に対して問題解決ができれば、それだけ広範囲で根源的な解決になる。ただし、原因を深く辿ろうとすると、だんだん推測になってしまうことも多いから、あるレベルで止めるのが実際である。

(e) 問題を構成する最小限のオブジェクト群

問題の本質に関わっているオブジェクトをリストアップする。またそれを、最小限に絞り、同時に、個別の名称から役割を表すような総称的な呼び方に変えるとよい。

2.2 問題定義段階の注意事項

USITは基本的にグループ作業で行う。この問題定義の段階では特に、グループの討議を積極的に行い、全員の合意を作っていくことが大事である。

実際場面でよく議論になるのは、関連する問題のどこに焦点を当てるのがよいか?問題を大きく捉えるべきか、焦点を絞るか?さらに、長期の目標で考えるか、当面の問題解決を目指すか?などである。実はこれらは、USITの技法が答えを出すべきものではない。社会のニーズ、企業としてのビジネスの状況、現在の技術の進展状況などを、総合的に捉えて、担当者が自分のプロジェクトとして判断すべきことである。

USIT技法としていえるのは、問題を明確に絞れば、それだけ解決策も明確になる。ただし、その解決策の効用や意義は、小さくなる可能性がある。問題を明確にしつつ、目標を高く設定することが望ましいことである。

 

3. 問題分析 (1) 現在のシステムの理解

問題分析の段階は、目標として、図1の最上段にあるように、現在のシステムの理解と理想のシステムの理解を作ることである。「6箱方式」という考え方では、このような理解を作り上げることが大事であり、その過程 (やり方や順序) にはいろいろなバリエーションがあってかまわない。ここには、現在の私の理解で、最もよく使う順番で説明しよう。

3.1 空間特性の分析

どんな問題でも、現実の物理的な空間の中にシステムが存在しているのだから、その空間での特性 (特徴) を理解しておくことは大事である。分析の中で最も分かりやすい方法である。

例えば、ホッチキスの針の問題で、針がつぶれるの防ぐために現在のシステムがどのようなしくみを作っているかと考えてみるとよい。針の2本の脚について、前、横(外側)、後ろからはそれぞれガードしていることが分かる。ここで、「横 (内側) をガードしていない」ということに気がついたら、それは新しい展開を導いたにちがいない。

裁縫の糸を止める問題でも、「糸を結ぶ」ためには、糸を空間的にどのような形状にしていけばよいのかを考え、図示してみることは、重要であるに違いない。そして、その図と玉止めの図とを比較して、玉止めの際に針がこれをいかにうまく実現しているかを、理解するとよいだろう。

空間の分析では、図を適切に描くことが、とくに大事である。

3.2 時間特性の分析

時間的な変化が問題の本質であることも多い。

裁縫の糸を止める問題で、糸の余長が短いと分かった最終段階だけで考えるのではなく、最初の段階から一つひとつのプロセスを書き出していくと、考える幅がずっと広がる。

ホッチキスの針の問題でも、針がつぶれるまでの過程を考えることが、本質であることが分かった。紙の抵抗が大きくなって、上からの圧力が掛かって来る段階で、つぶれる前に針が変形していく様子を、(つぶれる直前で力を抜いて様子を見るという) 実験をして理解した。

なお、時間軸を横にとって、システムの特徴を示す変数の値をグラフ的に示すとよいことも多い。

また、このような時間軸のグラフに、各段階で起こる現象を書き込み、そこで働いている機能を書き込んでいく方法もある。

3.3 現在のシステムの機能的関係の理解

つぎに現在のシステムがどのようなしくみで働くように作られているのか、そして、問題があるのはどの部分であり、その問題がどのようなしくみで働く (起こる) のかを、明確にする。このようなしくみを理解し、表現するための手段が、機能分析である。機能分析では、関係するオブジェクトをまず選んできて、その間の機能の関係を矢印で示すのが普通である。

USITでは、機能分析の図を描くのに、明確なガイドラインを作っている [Sickafus 「USIT 概要(eBook)」参照] 。典型例として、ホッチキスの機能分析図 (第2回図2) を参照しながら、このガイドラインを説明しよう。 [分かりやすくするために、ここに再掲する。]

補図:  ホッチキスの機能分析図 (第2回図2)

USITの機能分析では、「現在のシステムの本来の設計の意図」を記述することを目指す。ホッチキスの目的は、紙の束に 2本脚の針を刺し通して (通った針の脚を曲げ) 、紙の束を保持することである。その過程の核心として、針を刺し通す段階のための、現在のホッチキスのしくみを図に表すのである。

関連するオブジェクト (部品など) を列挙した後、最も重要な (目的とする) オブジェクト (「紙の束」) を最上部に置く。そして、その上位のオブジェクトに直接に作用していて、「設計の意図として好ましい関係にある」 オブジェクトを下に描き、下から上への矢印を描いて、その機能を (下から上への作用として) 付記する (紙の下には針を書き、その機能を「刺して保持する」と記述した)。この記述を階層的に下に拡張していき、関係するすべてのオブジェクトを記述する。もし好ましい関係としては繋がらないものがあるなら、傍系のもの、冗長なものとして、脇に記述する。

なお、直接の上下関係に描く (図2参照) には、つぎの条件をすべて満足するものとする。

・ BはAに (設計の意図として) 好ましい関係にある。

図2. 機能の記述規則

・ BはAと物理的に接触している (そうでないと作用できない)。
・ 設計者の意図として, AがBより先にきた。
・ もしAが除かれると Bは不要 (冗長) になる。Bの主要な存在理由が Aである。

このようなルールを厳密に守って書こうとすると、初心者には負担に感じられる。しかし、この考え方で描いた機能分析の図 (前回記載の例 [上記の補図] など) は、すっきりしていて、理解しやすい。

なお、TRIZを学んだ人たちは、この機能分析の図に、有害な機能や不十分な機能をも、(矢印の記号を区別して) 書き込みたいと思うことが多い。「書き込みたければ、後から追加して書き込み、欠陥を示す、あるいは改良法を示すという目的を明示した別の図として扱いなさい。」というのが、Sickafusの助言である。

(例えば、ホッチキスの機能分析の図に、「ドライバが針をつぶす」という有害機能を書き込んでもあまり意味がないだろう。もし、「針の内側の横からの制約 (支持) がない」と書き込めたら、それは大きな、重要な情報になるだろう。)

3.4 現在のシステムの問題に関係する属性の理解

つぎに現在のシステムにおいて、問題 (点) に関係している属性をできるだけ広く考え、それらの属性を増大/減少させると、問題の望ましくない効果がどのように変化するだろうかを考察する。

もちろん専門家なら、比例するとか、-2乗に比例するとかを知っていることもあろう。しかし、USITではもっと定性的、概念的であってかまわない。ある属性について (その値を) 増大させたときに、望ましくない効果が増大/減少/不変/その他の、どの振る舞いをするか、それはなぜかを定性的に考察して、書き出す。

例えば、ホッチキスの針の場合なら、針の太さ、先端の尖らせ方 (斜めの角度、先端の平坦部分面積)、針と紙の摩擦、針の剛性、などを挙げるかもしれない。

これらを考察していくことは、問題の根本原因を確認する作業であり、いろいろな副次的な影響をも判断していくことである。また、これらを考察していく中で、解決策へのアイデアが豊富に出てくるものである。このあたりのことは、前回の裁縫の問題での記述を参考にしてほしい。

 

4. 問題分析 (2) 理想のシステムの理解

4.1 分析段階で理想のシステムを考える意味

USITの「6箱方式」が、私自身の意識の中で明確になった一つのきっかけは、理想のシステムの理解を現在のシステムの理解と一緒にして、一つの箱で表したことである (図1参照)。この箱は「両方の理解が必要だ」と主張している。そして、それらを分析していく順番については、言及していない。

USITについての私の初期の説明は、SickafusのUSIT教科書 [1997年刊、488頁、和訳なし。その簡略版が「USIT概要(eBook)」 ] にならって、「USITは、現在のシステムを分析する方法と、理想のシステムを分析する方法を持っている。現在のシステムを改良するアプローチなら前者を、まったく新しい方法や製品を考えたいということなら (参考になる現在システムがないことが多いから) 後者を使うとよい。もちろん、両方使ってもよい。」といっていた。

しかし、USITセミナーで実問題の解決演習をするに際して、いつも両者を使っているうちに、どちらかが役に立たないというケースはなかった。そして、「どんな問題でも両方使うとよい」と薦めるようになった。

多くの人は、「理想のシステムを考えるのは、分析というよりも、解決策を求めている段階でないか?」と思うだろう。Sickafusは、「理想の結果をまずイメージして描け。それを実現する手段はまだ分かっていないのだから描こうとするな」という。この意味の、「理想の結果のイメージ」とは、課題宣言における目標と実質的に同じことである。この目標を明示し、それをブレイクダウンしていくのが、この段階である。

4.2 理想の結果をイメージする

この段階でまずするべきことは、理想の「結果」をイメージすることである。現在のシステムの細部のことは捨象して (忘れて)、本質のところだけを考える。

例えば、ホッチキスの問題なら、紙の束とホッチキスの針とだけを考え、「針がすうーっと刺さっていく」ことをイメージする。それには、もちろん上から押すだろう、そして針の脚がふらふらしないように周りから支えて、つぶれないように気をつけながらやるだろうと考える。そのような図をイメージして、実際に描く。

裁縫の問題で、糸の結び目を作るのだとすれば、糸がどのような空間配置になればよいのかを考える。そしてあたかも、糸が自分で意思をもっているかのように、すうーっと動いていく様をイメージして、図に描くのである (前回図11参照)。

補図:  裁縫の問題での 理想のイメージ (第2回図11)

「創造的な問題解決」で、一番大事なことは、ここの「理想の結果」を、素直に、そして大胆に (恥ずかしがらずに) イメージすることである。「ひとりでに (解決する)」というのが、TRIZが教える一つの理想である。理想をイメージすることは目標を (高く) 設定するのと同じことである。

4.3 魔法のParticles (賢い小人たち)

前回のホッチキスの例で、(TRIZの創始者) アルトシュラーの魔法の小人たち (より正しくは「賢い小人たち」Smart Little People) を想定する方法を説明した。うまい解決策が分からないときに、システムの主要部分が魔法の小人たちからできていると考える。かれらは賢くて、頼んだことは何でもうまくやってくれる。そして、自分自身がかれらの一人になったつもりで、どう振る舞えばよいかを考えるのである。[分かりやすくするために、第2回の図5を再掲する。]

補図: 賢い小人たちによる発想の例 (ホッチキスの問題)

この考え方は、シネクティクスから発展したもので、自分がそこに身を置いて考える「感情移入」の方法の一つである。アルトシュラーは、自分一人でなく、沢山の賢い小人たちという想定にして、分割、集合、連携、多様性などを導入しやすくしたのである。

USIT法のEd Sickafus は、小人たちをもっと抽象化して、単純にxマークで表し、「任意の性質をもち任意の行動ができる魔法の物質または「場」」と考え、それをParticles (パーティクルズ、魔法の粒子) と呼んだ。Sickafusは、その思考方法を「Particles法」と呼び、つぎの手順を示している。

(a) 現在のシステムを描く。問題のメカニズムが分かるように、その要点を図解する。

(b) 「理想の結果」をイメージして描く。(a)に対応した構図で、問題が解決して理想的に機能している様子を描く。4.2節の要領。

(c) 両者を比較し、違いがあるところ (多数) に赤字のxマークを書き、それをParticles と呼ぶ。

(d) このParticlesを、任意の性質をもち任意の行動ができる魔法のものと考え、それにしてほしいこと (要するに理想の実現) を頼む。

(e) この頼みに応じて、Particlesがやるだろうさまざまな「望ましい行動」を書き出し、それを階層的にまとめて、図式で表す。

(f) それぞれの「望ましい行動」をするのに、持っているとよいと考える「望ましい性質」を列挙する。

4.4 Particles法の適用例

Particles法を適用した例として、裁縫での糸を止める問題の例について、上記の(e)(f) の部分の記述例を図3に示す。この図の上部(2/3)が、望ましい行動についてさまざまに書き出し、ある程度分類整理したものである。(分類の体系をきちんと表示しようとするとずっと横長になるので、少し中途半端な表示になっている。)

図3. Particle法での記述例。 (e)(f)部

Particles法では、「魔法の粒子」といういいかたをして、発想をできるだけ自由に広げることを薦めている。そこで、「糸を結ばなくても、止めることができる」という方向での考えがいろいろ出ている。また、糸を長くするとか、針を短くするとかの形で、制約条件を外す考え方が生まれている。「糸を結びやすくする」という項目は、理想としては糸がどのような空間配置になればよいのかという前述のイメージから成長しているものである。

図3の下部に、(f)「望ましい性質」の一部を思いつくままに書いている。必ずしも網羅していない。針の穴に切欠きがある市販品が大きなヒントになって、その切欠きを横に向けるとか、あるいはスリットにしてしまうとかの考え方が、連続的にここに記されている。同様に、「糸の輪を作るための土台を使う」というアイデアに対して、その土台の形状がいろいろに出てくる。

この例で示すように、理想のシステムの分析は、つぎのアイデア生成の段階にスムーズに繋がるものである。

 

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最終更新日 : 2007.10.15     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp