TRIZ/USITフォーラム: 読者の声 | |
コメント: 「日本におけるUSITの発展 - 創造的問題解決の新しいパラダイム」 (中川 徹) について | |
Ed Sickafus (Ntelleck, LLC. 米国)、 |
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掲載:2008. 9.18 著者の了解を得て掲載。 |
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編集ノート (中川 徹、2008年9月17日)
このページが生まれたのは、USITの開発者であるEd Sickafus 博士との往復メールで、私が最近第4回TRIZシンポジウム (2008年9月10-12日)で発表した論文に関する議論です。私が論文をプレプリントとして送り、コメントを依頼しました (8/21)。それに応じて、Sickafus 博士が私の論文に詳しいコメントを書いて下さいました。またそのコメントを、本『TRIZホームページ』に英語と日本語訳とで掲載することを許可下さいました。このコメントでいくつかの点が明瞭になっており感謝します。また、この10年間、温かく導き、激励し、交友をいただきましたことを感謝しています。以下にはまず、電子メールのやりとりを掲載します。
中川 徹から Ed Sickafus 博士に、2008年8月21日
親愛なる エド、今回のNews Letter の案内をいただきありがとうございます。
近く開催します第4回TRIZシンポジウムで、私はつぎの一般発表を行なう予定です。
中川 徹: 「日本におけるUSITの発展」
この発表の英文論文および英文発表スライドのファイルをプレプリントとして添付します。コメントや示唆をいただけましたらまことに幸いです。
どうぞよろしくお願いします。中川 徹Ed Sickafus博士から 中川への返信。 2008年 8月24日。
親愛なる トオル、あなたの原稿を読み、コメントをここに添付します。あなたがそれらを有益と思ってくれるものと思います。批判をしようとしているのではありません。USITについて、より広い見方で見ることを意図したものです。
よろしく。エド2008年8月23日 (土)
トオル: あなたの要請に応じて、あなたの論文についていくつかのコメントをしようと思います。ただ、あなたも知っているように、私はTRIZのエキスパートになろうとしたことはまったくないので、[TRIZ] 方法論についてのあなたの解釈や使い方についてコメントすることはできません。その代りに、私から見るとUSITの理解にやや不完全な所があると見える点を、いくつかはっきりさせておきたいと思います。これらのコメントは、あなたの著述にいくつかの有用な視点をもたらすのに役立つだろうと思います。---- コメント 本文 -------- 下記別項を参照
トオル、これらのコメントがあなたにいくらかでも役立つことと思っています。あなたの、USITから TRIZへの具体的な開発についてコメントできなくてすみません。説明しましたように、TRIZについての私の知識は生きたものが少ないものですから。あなたが日本において非常に特別な状況にあり、あなたが取り組むべきニーズとゴールを見出したのだということを、私は理解しています。あなたの献身ぶりに強く感銘しており、あなたの努力が実ることを祈っています。
あなたの友人、エド中川 徹から Ed Sickafus 博士に、2008年 8月25日。
親愛なる エド、プレプリントにコメントをいただきありがとうございました。あなたの考えは私にはいつも非常に有益です。あなたのコメントを二度繰り返して読み、これから自分の論文を読み返そうとしています。
TRIZシンポジウムが終わったらすぐに、私の論文を私のWebサイトに掲載するつもりです。あなたのこのコメントを、英語と日本語訳とで、私のWebサイトに掲載することを、許可いただけないでしょうか? (翻訳することは私の一つの勉強法で、日本の人々があなたの考え方を理解する助けにもなります。)
導いてくださり、温かい友情をいただき、感謝しています。 敬具、中川 徹。Ed Sickafus 博士のコメントを以下に掲載します。また、このコメントを今回翻訳して、その深い含蓄に改めて感銘を受けています。そのような含蓄を読者の皆さんに分かっていただくために、Sickafus博士のいままでの論文や著作と最近の仕事について、その参考文献と簡単な注釈をつけるとよいと思いつきました。Sickafus 博士のコメント中の [ ] 内の番号は、中川がつけたもので、後ろの参考文献と注釈も中川が記述したものです。博士自身の意図を表現しようとしたものです。参考にして下さい。
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コメント: 「日本におけるUSITの発展 - 創造的問題解決の新しいパラダイム」 (中川 徹、大阪学院大学) について
Ed Sickafus (Ntelleck, LLC. 米国)、2008年 8月23日
歴史
私が知っているUSITの歴史は以下のようである [1]。まず最初、アルトシュラーがTRIZを開発したが、彼は検索できるようなデータベースを使っていなかった。[検索可能なデータベースは] 後になって彼の弟子たちが導入したものである。Filkovskyというロシア人のPhDの数学者がTRIZをイスラエルに持ち込み、イスラエルOpen University でそれを教えた。彼はすぐに、TRIZを学びやすく適用しやすくするためにどのように単純化するとよいかというアイデアを発展させ始めた。二人の大学院学生を彼の助手として協力させた。その二人は工学畑であり、Horowitz と Goldenberg という名前であった。彼らの努力が有用な教材としてできてきたのに応じて、企業技術者たちに対してイーブニングクラスを提供し始めた。そのタイトルは、最初は非公式的な「イスラエル法」であったが、後にはより公式的な「体系的発明思考法 (SIT)」となった。やがてそれは大学の授業科目として導入されたが、教科書はなかった。(私はこの授業科目の名前を忘れた。) これらの開発の全過程において、TRIZはもはや有用でないとして脇に置かれていた。SIT はTRIZに取って代わったのである。
SIT の開発がさらに続けられ、やがて、トレーナー訓練コースが提供されるようになった。それはイスラエルで、自分の社内でSIT を教えたいと望む企業技術者たちの、少人数のグループを対象としたものであった。
ちょうどその頃、私はフォード経営陣の要請で、フォード社内に導入する可能性を考えて、TRIZとSIT とを評価するように依頼されていた。あなたが知っているように、この結果、私はやがてイスラエルに行って彼らのトレーナー訓練コースを受け、そして、彼らのバージョンのSIT を修正して、一つの大企業 (すなわち、フォード自動車) で使えるようにしたのである。
フォードにおいては、SIT を「構造化発明思考法」と呼び、私はそれを単純化することを続けた。この努力の結果、[いままでに] 3冊の本ができ [2]、USITを普及させるために私が発行している無料のニュースレターで、ミニ講義のシリーズを継続している[3]。
TRIZ →SIT → USITへの単純化
TRIZから SIT へ、そしてUSITへの転換は、(まだなお続いているものであるが) その目標はいつも「単純化」であった。それは複数のねらいをもっていた[4]。
- 構造を減らす
- 基盤をなす論理を開発する
- 問題解決のすべての分野に適応できるように、その論理を一般化する
- 技術者を自立した問題解決者にする
- 問題解決のメンタルプロセスの基盤をなす概念を導入して、より一層創造的な考え方を奨励する
この仕事のすべては、オブジェクト-属性-機能による普遍的な問題表現を基礎にしている。すなわち、つぎの図式である[5]。
この図式表現は、O、A、Fが、一貫した一般的な定義によって定義される限り、技術分野か非技術分野かには依存しない。これがヒューリスティクスに関するUSITの本の議論の焦点である。この普遍的な表現に導く鍵は、何が機能 (Function) であるかを理解し、それが、われわれの左脳思考と右脳思考の中で、オブジェクトたちと属性たちとをどのように結びつけるのかを、理解することである。
USITの評価
企業での適用のためにUSIT (およびその他のどの問題解決方法論でも) を評価することは、企業経営者にとって一つの大きな課題である。経営者は、その従業員技術者への (例えば、構造化問題解決技法についての) 企業内トレーニングで [コンサルタントなどがいう] 約束のことは分かる。経営者はまた、技術者たちを訓練してその方法論の効果的な実践者にまで育てるためには、急で長い学習曲線が関わっていることも、分かる。[ところが] この種のトレーニングプログラムには、学習が成功するか、適用実践が成功するか、あるいは能率が改善されるか、ということに保証がない。企業経営陣にとって、トレーニングのためにお金と人と時間を投資することは、大きな賭である。
不幸なことに、事例研究はトレーニングには有用であるが、経営者が問題解決の方法論を評価する際には役に立たない。それらは企業の収益に対して決定的な形で(説得力をもって) 向き合っていない。この [企業の収益に向き合った活動] を、フォードではUSITの専門家4人のチームでの実験として行なった。この実験の詳細とそれが成功したことを、私は論文として発表した[6]。
この [技法の] 評価の課題に言及したのは、日本の企業がこの問題をどのように扱っているのだろうかと思ったからである。この点をあなたの論文に付け加えるとよいだろうと、私は思う。もしこれが日本で取り組まれてきたのなら、その結果はあなたの聴衆の中の経営的な立場の人たちに有益であろう。
USITからTRIZへの回帰
「日本におけるTRIZコミュニティについて、世界的に見て特別な特徴は、TRIZを理解し適用するにあたって、より容易に、より統合したものにすることを重視していることである。」(中川)
あなたの論文で明瞭なのは、日本ではTRIZが問題解決方法論として (大いに) 好まれていることである。USITがTRIZの方に回帰しつつあり、それはTRIZをより学びやすくすることを意図している。しかしながら、USITに取って代わるような努力はなされていない。その理由の一部分は、USITの理解が不十分だからであろう。また、日本の技術者たちの目には、TRIZがより興味深く、より有用に見えるからであろう。理由が何であれ、それが重要なのではない。重要なのは、これが、あなたが見出しているあなた自身の置かれている環境なのであり、(あなたが見ているのに応じて) その特別なニーズにあなたが取り組んでいることである。
Particles法の目的
「理想のシステムのイメージを作るためには、USITは「Particles 法」を開発した。このParticles は、アルトシュラーの「賢い小人たちによるモデリング法(SLP)」と同様に、万能の魔法の(仮想的な) ものである。」(中川)
Particles がアルトシュラーの賢い小人たち(SLP) に触発されたものであることは、事実である。しかしながら、Particles法の目的は、右脳を自由にして革新的な示唆を得ることであり、それは解決策から問題へと (総称的なOAF 表現を使って) 帰って来るという (直感には反する考え方で) 思考作業をすることによって得られるものである。
セマンティックス
「Sickafus は、発明に重点を置くことを減らし、実際に有用な複数の解決策を得ることを強調している。」(中川)
問題解決の方法論を「発明することを学ぶ」といって約束するのは、現実認識というよりも、セールス文句である。「発明的な」解決策が (そうでない) その他の任意の解決策から区別されるのは、創造してから後でフィルターに掛けて検査してから始めて分かること、また、問題解決のプロセスのどの要素にも関係していないこと、をあなたは理解するだろう。あなたがこれを理解すれば、「発明」が問題解決のプロセスとはなんら関わりがないことを理解するに違いない。だから、それ [「発明」] はセマンティックス [すなわち、言葉の意味解釈] に関わることであって、基本的な [概念の] 理解に関わることではない。だから、私は教えるときに、USITを学ぶ理由として発明を掲げることを減らす (強調しないようにする) 努力をしている。ある解決策コンセプトを、発明的と判断する人もあるだろうし、そうでないと判断する人もあろう。そのような [アイデアを出した] 後からの判断は、学習プロセスおよび問題解決プロセスにとって、重要なことではない。USITは、問題解決者たちに豊かな(多数の) 解決策コンセプトを迅速に見つけさせるように、動機づけをしている。
発明を強調しないようにしているもっと実際的な理由は、典型的な企業技術者たちが、発明を必要としていないようなルーチン的な問題にずっとしばしば関わっていて、発明を必要とする問題に取り組んでいることが少ないことである。[7]
金の原石
もしUSITが金の原石をもっているとしたら、すなわちUSITをその価値のエッセンスにまで還元するなら、それは、二つの極端な見方 (すなわち、最も左脳的な見方と最も右脳的な見方) の両方で表現したOAFダイアグラムであろう。左脳の見方では、OAFダイアグラムの各構成要素は実世界の技術的用語で与えられる。右脳的な見方では、OAFの構成要素は詩的なあるいは総称的な用語で与えられる。もちろん、これらの表現を作る過程において、この両極端の間の思いがけないハイブリッドがいつも心に思い浮かぶものである [8]。
そしてこの観察が、「新しい、いままで気づかれていないアイデアの発見」であるべきはずのものを探すのに、データベースを使うことに対して、非常に強い反対を思い起こさせる [9]。OAFダイアグラムを技術の世界から詩的な世界に変換する際に、属性についての新しい考え方が思い浮かぶが、それはデータベースで見つかるようなものではない。ここで発見するのは、もしかしたらあるかもしれないようなものであり、すでに可能なことが認識されていてデータベースに記録されているようなものではない。
究極に単純化した OAFダイアグラムは、ただ一つのオブジェクトだけを持つ。この目標に至る思考過程は非常に考えを刺激するものである。
編集後記 (中川 徹、2008年9月18日)
以下に示すのは、上記のSickafus博士のコメントにつけた中川の注釈であり、参考文献などを補足するものである。
[1] USIT の歴史: 以下のものが参考になろう。、
[1a] Ed Sickafus: 「SITを企業研修プログラムに採用した論拠」、TRIZCON99発表、1999年3月デトロイト近郊。中川訳: 『TRIZホームページ』1999年5月 (和) 。
[1b] Ed Sickafus & 中川 徹: 「USITの成立と進化」、『TRIZホームページ』、2001年3月掲載(和) (英)。
注: USIT教科書『USIT: How to Invent』中の歴史に関する節を翻訳し、中川がその後の展開の説明を記述した。これに対して、Sickafus の補足、コメントがついている。[2] USITの 3冊の本: 下記の3冊である。
[2a] Ed Sickafus: "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent", Ntelleck, LLC., Grosse Isle, MI, USA, 1997, pp. 488。 注: 通常 『USIT教科書』と呼んでいる。USIT法の基本概念、技法の考え方、多数の適用事例などが記述されている。本書の小部分の和訳を『TRIZホームページ』に掲載しているが、全編は大部のため和訳できていない。USIT のWebサイト(後述) で購入可能。
[2b] Ed Sickafus: "eBook: USIT Overview", 2003年 2月公表、45頁。川面恵司 (芝浦工業大学) ・ 越水重臣 (静岡理工科大学)・ 中川 徹 (大阪学院大学) 訳、『TRIZホームページ』、 2004年10月掲載。 注: USITの方法論の面を簡潔に書き下したもの。適用事例はない。和訳版を『TRIZホームページ』から無償でダウンロードできる (氏名とメールアドレスの登録が必要)。
[2c] Ed Sickafus: "Heuristic Innovation", 2007年3月。 注: この本の案内と開発意図を記した Sickafus 博士の News Letter No. 69 を、和訳して『TRIZホームページ』に掲載している (古謝秀明、川面恵司、中川 徹訳、2008年3月)。 USIT をさらに単純化して、OAF表現を中心にした問題解決技法である。
[3] USITのWebサイトと USIT News Letter:
[3a] USIT Webサイト: URL: http://www.u-sit.net/ 。 注: いままでの論文、著作、その他の記事 がある。
[3b] USIT News Letter: Sickafus 博士が不定期に出している無償の案内。通常、3〜4頁で、「ミニ講義」 (USITの使い方に関する適用事例を中心にした解説記事のシリーズ) が内容の中心。毎週送られてきたこともあり、半年以上来なかったこともある。現在 77号。
[4] USIT の単純化のねらい: 最近のSickafus 博士の考察の流れを最も分かりやすく示しているのは、第2回TRIZシンポジウムでの基調講演である。
[4a] Ed Sickafus: 「構造化された問題解決方法論(ASIT、TRIZ、USIT その他) を基礎づける 一つの簡単な理論」、第2回TRIZシンポジウム、2006年8月31日〜9月 2日、パナヒルズ大阪 ; 訳: 川面恵司、中川 徹訳、『TRIZホームページ』、2007年 6月。 注: USIT を使ってUSIT自身を根底から改良することを試みたという。「構造化」ということは、技法を教える/伝えるための便法であり、人間の脳の活動はもっと自由で活発だという。左脳だけでなく右脳を積極的に使うべきこと、OAF表現を活用している。
[5] OAF ダイアグラム。Sickafus 博士の著述では、USIT教科書[2a] の中にその萌芽があるが、[4a] TRIZシンポジウム基調講演(2006年) および [2c] 『Heuristic Innovation』 で明確に使われるようになった表現形式。
[6] Ed Sickafus: 「製品フローに創造的思考を注入する」、第1回TRIZ国際会議、1998年11月17-19日、ロサンジェルス; 中川 徹訳、『TRIZホームページ』 、1999年1月掲載。 注: フォード社内におけるUSITの教育とプロジェクト適用の実践とを記述している。この実践法は、日本の諸企業にとっても、いまなおモデル/模範として掲げているものである。もう一度読み直してみるとよいと思う。
[7] 発明を強調しないこと: 上記の [6] にその記述がある。
[8] 左脳と右脳のハイブリッド: TRIZシンポジウム2006 基調講演 [4a] が参考になる。
[9] データベースを使うことに対する反対。注: 1990年代後半に米国で顕著であったTRIZの普及のさせ方 (TRIZのソフトツール主体の方法) に対して、人間が自ら考えることを最大限に強化し支援しようという Sickafusの (USITの) モチーフを宣言しているものでもある。
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最終更新日 : 2008. 9.18. 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp