解説: TRIZ動向 |
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TRIZの最新動向について | |
中川 徹 (大阪学院大学), 2002年 8月30日 | |
第3回日本IMユーザグループミーティング,
特別講演,
2002年 8月28-30日, ラフォーレ修善寺 (静岡県田方郡修善寺町) |
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[掲載: 2002. 9.18] |
編集ノート (中川
徹, 2002年 9月17日)
本稿は, 表記のように, 第3回日本IMユーザグループミーティングでの特別講演のための準備としてまとめた原稿 (8月16日) に, 当日の発表内容を一部加筆したものである。講演資料はこの原稿に並行するものとして, 別にスライド形式で作成し, 配布した。講演要旨 (兼目次) は以下のようである (7月17日提出)。
TRIZの最近の発表論文や動向のうちで注目すべきトピックス10項目を紹介する。なお, 当日に口頭で追加して述べた項目を青字で示した。これらを含めて, TRIZの発展の方向について参考にしていただけると幸いである。(1) TRIZの (より 「こなれた」) 教科書の登場
(2) 新しい (簡易な) TRIZソフトツール, 訓練ツールの登場
(3) やさしいTRIZ適用法としてのASIT (イスラエル) とUSITへの注目
(4) 原因分析のための 「Problem Inversion」の方法
(5) TRIZの理想 「ひとりでに」 の概念と, 「Self-X」特許群
(6) ソフトウェア開発分野におけるTRIZ発明原理
(7) ビジネス分野のためのTRIZ発明原理の再整理
(8) 生物による発明から学ぶ方法
(9) 技術・製品開発におけるTRIZと他の諸技法との統合
(10) 創造性教育とTRIZどのテーマも問題/議論を含んでおり, 十分な調査ができていないけれども, 感じていること/考えていることを紹介する。
[なお, 本稿では, 企業における実践活動や, TRIZの適用状況などにはあまり触れていない。ユーザグループミーティングでは, 企業からの事例発表 6件があり, それぞれに充実した報告がなされるだろうことを知っていたからである。]
今回のユーザグループミーティングも, 約70名の参加があり, 充実した発表と熱心でフランクな議論が行われた。このような会を組織し, 日本におけるTRIZの普及に尽力している(株) 三菱総合研究所知識創造事業チーム (堀田政利チーフ他) に感謝する。また, 本稿の『TRIZホームページ』への掲載を許可いただいたことに対して感謝する。
本ページの先頭 | 0. 最近の国際会議 | 1. 新しい教科書 | 2. 新しいソフトツール | 3. USIT | 4. 科学/理学への応用 (原因分析) |
5. 「ひとりでに」の理想 | 6. ソフト開発分野への適用 | 7. ビジネス分野への適用 | 8. 生物による発明に学ぶ | 9. 他の諸技法との統合 | 10. 創造性教育 |
0. はじめに
今回, 第3回日本IMユーザグループミーティングの特別講演として, 「TRIZの最新動向」
(仮題) というテーマで講演を依頼され, 少し広い観点からまとめて話してみたいと思う。話の素材としては,
昨年の二つの国際会議, すなわち, TRIZCON2001 (2001. 3.25-27, 米国) とETRIA
TRIZ Future 2001 (2001.11. 7-9, 英国) とを中心とし, TRIZ Journal などでの発表で補う。なお,
本年のTRIZCON2002 (2002. 4.30 - 5. 2, 米国セントルイス) には, 私は論文発表の予定であったが,
私事で欠席し, その後読んだProceedingsをベースにして補う。
表1: 最近のTRIZ関連の国際会議
主催団体 会議略称 年月日 場所 参加者概数 参照 Altshuller Institute (米国) TRIZCON2001 2001. 3.25-27 ロサンジェルス近郊 150人 中川参加報告 ETRIA (European TRIZ Association) TRIZ Future 2001 2001.11. 7-9 バース (英) 50人 中川参加報告 Altshuller Institute TRIZCON2002 2002. 4.30 - 5. 2 セントルイス (米) 130人 L. Smith公式報告 ETRIA TRIZ Future 2002 2002.11. 6-8 ストラスブール (仏) ETRIA アナウンス
今回, 重要だと思う項目を上記のように10項目選び, トピックスとして紹介する。どのテーマもいろいろな問題/議論を含んでおり,
必ずしも十分な調査ができていないけれども, 私が感じていること/考えていることを紹介して,
皆さんの参考にして頂ければ幸いである。
1. TRIZの (より「こなれた」) 教科書の登場
従来 (英語あるいは日本語で) 出版されていたTRIZ関連の教科書は,
近年 (2000年以降) に英語で出版されたものにつぎの3冊があり, 特に今年出版の2冊が注目される。
Mannの教科書の特徴はつぎのようである。
注: 上記の教科書の入手法は, それぞれのWebサイトを参照するとよい。
Savransky: The TRIZ Expet http://www.TRIZExperts.net/
Mann: CREAX社 http://www.creax.com/ (クレジットカードなどでオンライン購入可能)
Rantanen & Domb: CRC Press http://www.crcpress.com/us/product.asp?sku=SL3232&dept_id=1&
2. 新しい (簡易な) TRIZソフトツール, 訓練ツールの登場
従来のTRIZ関連のソフトウェアは, 良く知られているようにつぎの 2社によるものであり, 旧ソ連のTRIZ専門家たちが米国に渡って開発・普及させてきているものである。
最近, ヨーロッパを中心にして, もっと簡単で安価なTRIZ関連ソフトウェアツールが開発され, 売り出されてきている。次の3種が注目される。[それぞれデモ版にインタネット上でアクセスできる。]
ところで, 一昨日 (8月28日) の本ミーティングのレセプションの際に, 私はInvention Machine 社のDr. Verbitsky に, このような簡易で安価なTRIZソフトツールの出現に対して, IM社がどのように対応しようとしているのかを尋ねてみた。彼の返事は, 「価格は中身に応じているのだろう。別にどうということはない」ということであった。私はこんな比喩を話した。「乗用車が1台200万円である。そこへ, 1台10万円で, 高級なサイクリング用兼実用の自転車が売り出された。200万円あれば, 自転車が20台買える。いま, 百人から数百人の従業員 (技術者) がいるとすれば, 20台の高級自転車は非常な魅力ではないか。」
これらの商品ソフトウェアとは別に, 韓国のサムスン社で, 社員のオンライン教育のためにTRIZの教育ソフトウェアが開発された
[TRIZ Journal 2002年 7月号]。同社に滞在中のロシア人 (ベラルーシ人) TRIZ専門家たち
(Nikolai Shpakovsky 他) が開発したものである。同社の社内事例も多く含んだ教材になっているとのことで,
韓国でのTRIZの普及を大いに推進していくものと予想される。デモ版をインタネット上でアクセスすることができる。
3. やさしいTRIZ適用法としてのASIT (イスラエル) とUSITへの注目
TRIZをやさしく, 使いやすくすることの必要性は, 上述のように最近出版されたTRIZ教科書の共通のモチーフであり, 広く認識されつつある。この動きの中で, 簡易化TRIZとして1980年代に作られたイスラエルのSIT法 (ASITなど), および, それをさらに発展させたUSITが注目されてきている。
ASITの関連では, イスラエルのRoni Horowitz が昨年TRIZ Journalに 3編の紹介記事を掲載し, 好評であった。これらの紹介記事およびHorowitzの1997年の論文を, 『TRIZホームページ』に和訳掲載しているので, 参照されたい
なお, 今年11月のETRIAの国際会議には, つぎの論文を発表する予定で, 現在執筆中である。[注: 英文投稿済み。和訳一式を本ホームページに掲載した (2002. 9.18)。]
今回作り上げた「USITの解決策生成技法の体系」
(= 「整理しなおしたTRIZの体系」) の資料を, 暫定版であるが会場後方に展示している。20部持参しているので,
関心のある方は中川までアクセスください。本件は近々仕上げて, 『TRIZホームページ』に掲載する予定です。[上記の論文とその関連資料を
9月18日掲載済み]
なお, Ed Sickafus は, 今年2月に韓国に招かれてUSITの 3日間トレーニングセミナーを実施したという。また,
現在, USITの理論をまとめたものをeBookの形で準備中であるという。1997年のUSIT教科書があまりにも大部であるため和訳できていないが,
今回のものは45頁程度であるとのことで, 和訳を折衝中である。
4. 原因分析のための「Problem Inversion」の方法
TRIZの技法の発展としては, やはりIdeation International 社のAlla Zusman と Boris Zlotin の研究・発表には, いつも注目しておく必要がある。彼らの仕事はAltshullerの直弟子・共同研究者としての30年近くの蓄積の上にいつも新しいものを目指している。
今年のTRIZCON2002の彼らの論文には, つぎの二つがある。
「Problem Inversion のエッセンスは単純である:この論文には 3件の事例が記されている。その第一の事例は, ガラス毛管で保護されたマイクロ・ワイヤ (外形10〜50ミクロン) を作る際に, (通常の金属や合金ではうまくいくのに) インジウム-アンチモンの場合には, ワイヤが短い間隔で破損してしまう現象を扱っている。インジウム-アンチモンは, 溶融状態から凝固するときに体積が18%も膨張することが知られていたが, ワイヤの破損のメカニズムは分からなかった。
「この現象はどのように説明できるだろうか?」と考える代わりに,
「現有の条件下でこの現象を起こすにはどのようにしたら良いだろうか?」と考える。
その結果, 科学的な問題の解決も, また新しい科学的コンセプトの生成も, 典型的な発明問題に変換できることになり, 既存のTRIZのツールを使って解決できる。」
Problem Inversion の思考法によれば, 下図のように, マイクロワイヤ内の液相部の上に, 固相の「栓」を先に作ればよいことに思いつく。
いままでマイクロワイヤを延伸して, 「慎重に」 ゆっくり冷却させていたことが, ワイヤ内に過冷却の状態を作り, 結晶化が跳び跳びの位置でスタートして, 上図の「栓」に対応するものを作り出していたのだと分かった。この仮説を実験的にも観察・検証できた。そこで, 過冷却状態をなくすために, ワイヤをノズルからの水で急激に冷却した結果, 長いマイクロワイヤを容易に安定に作れたという。また, この知見により, 他の金属の場合も含めて, マイクロワイヤの品質を大幅に向上できたという。(この事例は, 1984年のもので, 彼らの学生 Anatoly Yoisher によるものであるという。)
(工学とは少し異なるアプローチとしての) 科学あるいは理学のアプローチとして,
「新しい現象や事実を発見すること」 と 「現象や事実に新しい解釈・説明を与えること」
とが大事である。Altshuller は, このようなアプローチのための指針を1960年にまとめているという。また,
サンクトペテルスブルグの Volyuslav Mitrofanov には, "From Manufacturing
Defect toScientific Discovery" (1998) というロシア語の著書があり, 物理・化学などの理学系の研究者に大いに有益であると思われ,
英訳/和訳されることを期待したい。技術/工学分野だけでなく, 科学/理学の分野でもTRIZの意義が理解される日の早いことを願う。
5. TRIZの理想「ひとりでに」の概念と, 「Self-X」特許群
2001年ETRIA国際会議での発表で最も重要なものの一つが, Mann による論文である:
Darrell Mann [13] は, 特許データベースの中から, 真正のTRIZ的解決策を探す興味深い例を示した。TRIZにおける「理想解」は, 問題を「ひとりでに」解ける能力によって特徴づけられる。例えば, セルフ-クリーニング, セルフ-バランス, セルフ-アラインメント, などである。しかし, そのような理想性主導の解決策と, それよりもずっと多数存在する通常の「自動化」 あるいは「自動的」解決策とを区別することが重要である。その区別は次の図で例示されている (Mannは, 「自動-洗浄式濾過器」の特許で理想性主導のものは, 残念なことにまだ存在しないと言っている)。この「セルフ-X」 (「ひとりでに」) という概念が重要であるとともに, Mann (および彼が指導するCREAX社) の特許データベースの活用法, 「機能」に注目した整理法を, われわれもまた習得・活用すべきである。
彼は, 「セルフ-X」特許 (「自動化」, 「自動的」などを含む) を, 最近15年間の米国特許データベースの中から検索した。検索した特許を個別にチェックして, 2000件以上の「理想性主導のセルフ-X」特許たちを彼は見つけ出した。[二人の参加者がこれらの特許の区別について質問し, Mannは上記の点を繰り返し確認した。] 彼はこれらの2000の特許を機能のカテゴリで分類した。そこには, 自動-配置, 自動-調節, 自動-位置決め, 自動-向心, 自動-平準化, 自動-開閉などの, 物理的動きに関連した機能たちの大きな一族があった。第2の大きなクラスは, 非物理的な変化を提供するもので, 自動-検査, 自動-時間起動, 自動-規制, 自動-制限, 自動-較正などの機能群を含む。そして, 新しく発明された材料や, 新しく発見された効果などを利用した多数の (「セルフ-X」) 特許があることを指摘している。[また,] まだよく知られていない, 常識破りのアイデアを記述した多くの特許があることも述べている。 「理想性主導のセルフ-X機能」の特許群の事例のこのような蓄積は, 発明家やTRIZ学習者たちにとって, アイデアの宝庫であるに違いない。なぜなら, 「理想」はほとんど「不可能」と同等であると考える (そして, 実現を諦める) ことが, 今までしばしばだったからである。
6. ソフトウェア開発分野におけるTRIZ発明原理
TRIZを新しい適用分野に拡張する流れの一つとして, ソフトウェア開発/情報通信技術 (IT) 分野への拡張が注目される。米国Lucent Technologiesの研究者 Kevin Rea の仕事に注目したい。
Kevin Rea はTRIZ Journalの2001年9月, 11月に論文を発表している。
TRIZを新しい分野に導入/適用しようとするとき, その分野で開発されてきたさまざまな原理や指針を, TRIZの発明原理と対応させてみて, TRIZが何を言おうとしているのかを理解することが, 有効で重要な方法である (後述のビジネス分野でもそのような方法で拡張が図られてきた)。 技術の分野でも, それぞれの専門分野で同様な試みを積み重ねていくべきなのであろう。
なお, やや脇道になるが, TRIZCON2002の論文につぎのものがある:
ただし, 彼らのデータを見て中川が見出したのは, 「特許データベースからの代表事例採用率が,
諸分野に比べて化学分野だけが大幅に低い」 ことである。これは, 彼らの事例採用に偏りがあったからではなく,
「化学分野のさまざまの原理・指針が, TRIZ (の40の発明原理など) にまだ十分に反映されていない」
ことを意味すると考える。物質の変換を扱い, 特に選択的な反応に注目する化学の常識,
化学のセンスがTRIZに (そしておそらく, 科学技術界全体に) もっと明快に取り込まれることが必要なのであろう。
7. ビジネス分野のためのTRIZ発明原理の再整理
技術の分野を越えてTRIZを適用する試みとして, ビジネス分野への適用がいろいろと試行されている。その中で, ドイツのLivotovら, 米国のDombら, および, 日本の産業能率大学の発表が注目される。
ドイツのLivotovらの論文はつぎのようである:
「ビジネスと経営のための12の革新原理」:彼らはこれらの原理のそれぞれについて, 40の発明の原理への参照を書き, またビジネス/経営の分野での事例を紹介している。また, ある程度まとまった事例として, 「技術的に非常に有能/重要な個人とその他のスタッフとの間のコミュニケーションの不足の問題」について書いている。上記のように, 12の原理について, そのどちらかの側を推奨するというのではなく, 正/逆の解決策をいつも両方考えることを推奨している。この点, はじめのうちはなにかしっくりしなかったけれども, 要するに12の側面を考えることを推奨し, 正/逆両方の解決策を視野に入れることを推奨しているのだと理解される。
(1) 結合 ---- 分離
(2) 対称 ---- 非対称
(3) 均質 ---- 多様
(4) 拡大 ---- 縮小
(5) 可動 ---- 不動
(6) 消費 ---- 再生(7) 標準化 ---- 特殊化
(8) 作用 ---- 反作用
(9) 連続的作用 ---- 断続的作用
(10) 部分的作用 ---- 過剰作用
(11) 直接作用 ---- 間接作用
(12) 先取り作用 ---- 先取り反作用
この論文の内容は, Livotovらのソフトツール TriSolver に組み込まれている。
産業能率大学の研究者たちが, 最近のTRIZの 国際会議で継続して積極的に発表しているのが注目される。その中で, ビジネス分野へのTRIZの適用を論じているのがつぎのものである。
8. 生物による発明から学ぶ方法
もう一つの新しい大きな適用分野として注目されるのが, 生物学関連である。英国バース大学のJulian Vincent 教授の研究が非常に魅力的で, 重要であると思う。
ETRIAの国際会議の参加報告で私は前者の論文をつぎのように紹介した。Julian Vincent and Darrel Mann (中川訳): 「生物学から工学への体系的技術移転」, ETRIA TRIZ Future 2001, 2001年11月; 『TRIZホームページ』, 2002年3月掲載。 Julian Vincent and Darrel Mann: 'Naturally Smart TRIZ', TRIZCON2002, 2002年5月。
Julien Vincent ら[17]は, 非常に興味深い発表であった。Vincent 教授と Darrell Mann (ハーフタイムで勤務) とは, 最近 [英国内で] レディング大学からバース大学に移り, 機械・設計工学科においてバイオミメティクス (生物 [模倣] 工学) の研究室を立ち上げているところである。研究室には現在数人の大学院生たちがいる。Vincentらの挙げている事例を簡単に紹介する。第一は, 「温かさを保つ」という機能を考えた場合の, ペンギンの羽毛である。立っている毛の根元には, 細い羽毛が何本もあり, 微小な枝毛の構造を持って空気を抱え込んでいる。現在のTRIZの知識ベースは, 植物や動物たちが10億年以上に渡って開発してきた有用な設計のアイデアを, (G.S. アルトシュラーが彼のTRIZの最初の論文でその重要性に言及したにも関わらず, ) まだ組み込んでいない。Vincentらが見いだしたのは, そのような生物学的知識を集積するための鍵が「機能性」にあることである。例えば, 「温かく保つ」,「きれいにする, あるいは, 洗う」, 「面を連結する」などの機能に対して,自然界は非常に変化に富んだ設計を作り出した。そのような自然界の設計は, 生物学の学界においてもまだよく集積されていないし, 技術者たちにはずっとずっとわずかしか知られていない。そこで, 生物学から工学への体系的な技術移転をねらいとして, Vincentらは, 自然界の設計における機能の事例を集積するため, その枠組みを開発し, 実際に集積しはじめている。これは, 新しいデザインや新しい技術の宝庫であるにちがいない。
第二の例は, 「表面をきれいに保つ」という機能を, セルフサービスで「ひとりでに」実現している蓮の葉の例である。下の写真のように, 蓮の葉の表面には, 細かな突起があり, 表面には疎水性のワックスの層がある。葉に水滴がつくと, 突起とワックスとの効果で水滴が球形を保ち, 葉の上の他の汚れを表面張力で水滴のほうにひきつけるのだという。この「蓮の葉効果」を実用化した外装用塗料があるという。
生物のこのような事例を集め, 「機能」に注目して分類するのが, VincentとMannのアプローチである。
最近のTRIZCON2002の彼らの論文は, 上記のアプローチをさら進めて,
適応型の機能について論じている。受動的な適応の他に, 生物には能動的な適応能力があるが,
それを工学に持ち込むにはまだまだ困難があるという。深い含蓄を持つ論文であり,
後日再読したいと思っている。
9. 技術・製品開発におけるTRIZと他の諸技法との統合
技術開発・製品開発において, TRIZを単独で用いるのでなく, 従来から開発されてきた諸技法とうまく組み合わせ, 統合することは, いろいろな人たちが研究・試行している。
その中で, 元MIT教授のDon Clausing のTRIZCON2001での基調講演はやはりよく学ぶべきものであると思う。
このClausing教授の体系的な主張は大いに参考にすべきである。しかし, 教授自身のTRIZの理解はまだまだ部分的であると感じる。小生がいう「漸進的導入」は, 西側諸国の技術界/産業界がもうしばらくTRIZの本当の理解を深めることが先決であり, その過程の中でClausing教授がいうような全体的位置付けを明確にして, その後で本格的な導入を試みようということである。ここで言っている「TRIZの本当の理解を深める」ためのアプローチとして, 小生は「やさしいTRIZ」や「USIT」を研究・普及させようとしているのである。
ただ, 本講演の原稿を作ったのは8月16日であった。それから 2週間, 前述のETRIA投稿論文を書いて, TRIZの諸解法を整理して, USITの解決策生成法を分かりやすく強力なものにできた。また, 今回のユーザグループミーティングで, 企業の人たちの実践をいろいろ聞くことができた。その中で今思うのは, もうぼつぼつ「漸進的導入」だけをいうのはやめようと思う。いまや, TRIZをどのように使えばよいかは, USITという形で明確になってきた。日本の技術界でのTRIZについての理解が随分広がってきたし, 先進的な企業の中にはTRIZ/USITを理解し実践する人々が育ってきた。だから, いまや, 「漸進的導入」だけでなく, もっと組織的に旗振りをしてTRIZ/USITを導入し, 技術革新を推進できる段階に入ってきたと思う。
Clausing の他にも, 多くのTRIZ研究者が, TRIZと関連諸技法との統合を研究/提唱している。例えば, Darrell Mannの新しい教科書では, 将来のTRIZは, さまさまの技法を取り込んで「Systematic Creativity (体系的創造技法)」を成すのだといい, 次の図を描いている。
統合化したアプローチの一つとして, 産業能率大学のつぎの発表は, 具体的な事例で技法の詳細を記述していて, 注目される。
(I) 新製品計画段階これらの各段階で作成されたドキュメントの一部分が掲載されていて, 各段階でどのようなことをするのかを具体的に理解できる。
IA: 新製品の目標の設定 -- DE (Directed Evolution法 (I-TRIZ))
IB: 市場分析と新製品の基本仕様の設定 -- 計画段階VE + マーケッティング
(II) 概念設計 + 基本設計段階
IIA: 基本的アイデアの創出と概念設計 -- 開発/設計段階VE + IPS (Inventive Problem Solving) (I-TRIZ)
IIB: 基本設計 (下部構造のアイデアとその具体化) -- 開発/設計段階VE + IPS
(III) 事業計画段階
市場開発計画の策定 -- マーケッティング
10. 創造性教育とTRIZ
TRIZの思想をベースにして, さまざまな段階での創造性教育がロシアおよび各国で試みられてきている。ロシアの状況は, 1999年8月の小生の「ロシア訪問記」に紹介している。最近の動きの中で以下のものが注目される。
TRIZをベースにした創造性教育というのは, 日本ではまだまだ手さぐりの状態である。今後,
TRIZの理解が深まり普及していくにつれて, 少しずつでも教育の場での実践が始まることと期待している。
本ページの先頭 | 0. 最近の国際会議 | 1. 新しい教科書 | 2. 新しいソフトツール | 3. USIT | 4. 科学/理学への応用 (原因分析) |
5. 「ひとりでに」の理想 | 6. ソフト開発分野への適用 | 7. ビジネス分野への適用 | 8. 生物による発明に学ぶ | 9. 他の諸技法との統合 | 10. 創造性教育 |
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最終更新日 : 2002. 9.18
連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp