TRIZフォーラム: 
イラン訪問記 -- PSST 2012 学会 (2012年2月)

中川 徹 (大阪学院大学)、2012年3月30日

掲載:  2012. 3.31 ;   英文ページ 掲載: 2012. 4. 7

English page will be posted in a week.

  編集ノート (中川 徹、2012年 3月30日)

私は、去る 2月20〜27日にイランに旅行し、テヘランでのTRIZ関連学会 「PSST 2012」 (2月22〜23日) で基調講演と研究発表をしました。イランに行くのは初めてのことで、妻雅子を同伴し、TRIZの推進グループの人たちに温かく迎えていただき、テヘランと古都イスファハンを見学しました。日本でニュースなどから得ている印象とはまったく違った面が多々ありましたので、その印象をも含めて、いくつかの写真とともに報告いたします (写真はクリックすると拡大表示します)。

[1] イランにおけるTRIZの推進グループと日本との関わり (2006年以来の経過の概要)
[2] 今回の 第2回 PSSTへの出席要請を受けて、訪問するまで
[3] 今回の旅行日程の概要
[4] PSST 2012 の報告
[5] イランにおけるTRIZの推進グループについて
[6] イランを旅行しての感想 (首都テヘラン、古都イスファハン)

なお、別ページに、中川の基調講演「日本におけるTRIZの導入と普及」の発表スライドを掲載しております。 (2012. 3.31)

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  [1] イランにおけるTRIZの推進グループと日本との関わり (2006年以来の経過の概要)

本『TRIZホームページ』に、いくつもの記事を掲載してきておりますように、つぎのような経過があります。

(1) 2004〜2005年に TRIZCON (米国)、ETRIA TFC (欧州) の国際会議に、イランから参加と発表があった。(Maliki氏)

(2) 2006年11月26-27日に、テヘランで PSST (Problem Soving Strategies & Techniques) 国際会議が開催された。Mahmoud Karimi氏から中川に基調講演の要請があったが、出席できず、ビデオ撮影して送った講演が会場に流された。「私はどのようにして、TRIZを、学び、適用し、教えてきているか」 (ホームページには3年半後に掲載: 2010.3.14)。

(3) 2008年11月に、オランダで Mahmoud Karimi氏夫妻に会い、親しくなる。Systematic Innovation Networking (Darrell Mann主宰)と ETRIA TFC 出席のためにイランから来ていたもの。イランでのテレビ放送などを活用したTRIZ普及の状況を知る。

(4) 2009年4月、TRIZシンポジウム2008での宮西さん親子の「アメンボウ研究」を『TRIZホームページ』で紹介した。Karimi氏より要請があり、宮西さんがPPT資料を送付。イランのテレビで「親子のTRIZ、アメンボウ研究」が紹介され、視聴者に好評。

(5) 2009年7月、Karimi氏より、TRIZシンポジウム2009に出席・発表のメールあり。その後、メールがブロックされて通信が途絶える。12月通信再開。原稿が送付されてきた。この記事を『TRIZホームページ』に掲載: 「イランにおけるTRIZの導入・普及活動」 (2010. 2.22)。イランでの新聞・雑誌・テレビを使った一般社会へのTRIZ普及活動の状況が明確になった。

(6) 2010年2月、日本TRIZ協会が、Mahmoud Karimi氏を TRIZシンポジウム2010の基調講演者の一人として招待することに決定。同氏より、第2回原稿到着、「TRIZを適用してTRIZを推進する」 (2010. 3.24 掲載)。ニュース報道の「イランの核開発疑惑」問題に関連して、同氏のビザ申請を早期に行ない、問題なく取得。

(7) 2010年9月9-11日、TRIZシンポジウムにて、Mahmoud Karimi氏の基調講演「イランにおけるTRIZの普及活動: TRIZの適用と推進による新しい国民的パラダイムへの転換」 。素晴らしい社会普及活動のいきいきした発表であり、日本・海外の多数の参加者に好評。-- その後、国内のいろいろな人とKarimi氏とのメールによる交流ができている。

(8) 2011年 5月、TRIZシンポジウム2011に出席・発表する意向の連絡あり、7月原稿 2編 (Karimi および Sara Salimi ) 準備調整。8月、先方の都合で出席できないとの連絡あり、断念。

(9) 2011年11月、「『TRIZシンポジウム』の満13周年の記念として、イランで大きなバースデイケーキを作って、祝った」との連絡あり。

  [2] 今回の 第2回 PSSTへの出席要請を受けて、訪問するまで

(10) 2011年11月、Karimi氏より、「第2回 PSST を 12月26-27日にテヘランで開催する。中川に基調講演をして欲しい」との要請あり。

(11) 上記期間は先約あり出席できず。中川は、講演をビデオ撮りして、送付 (2011.12.10) 。

(12) 2012年1月8日、Karimi 氏より、「第2回 PSSTは、12月を取り止め、2月22-23日に延期した。中川に基調講演をしてほしい」との要請あり。中川は調査の後、1月17日に出席の意向、妻同伴の意向を伝えた。

(13) 講演内容に関して「日本におけるTRIZ/USITの発展」を予定したが、先方から2分割して、開会セッションでの基調講演「日本におけるTRIZの導入と普及」、および別セッションでの研究発表「USITの6箱方式」を、依頼されて了承した (1月21日)。ビザ手続きの準備を開始。

(14) 1月23日、テレビで「イランの核開発疑惑に対する国連の制裁決議、イランはホルムズ海峡封鎖の対抗措置を示唆」との報道あり。中川は、イラン訪問の不測の変更の可能性を先方に伝え、状況を注視した。1月31日、飛行機チケットを購入、訪問決断を先方に伝えた。

(15) 2月8日 英文のプログラムが初めて届く。2月15日 ビザ手続き完了。先方が滞在ホテルの予約など、諸準備を完了してくれた。

  [3] 今回の旅行日程の概要

2/20(月) 夕: 成田発、Emirates 航空、ドバイ乗り継ぎ、

2/21(火) 朝 テヘラン IKA空港着。空港で、Karimi氏出迎え、HY Yoon(韓)、G. Cascini (伊)合流。午後、テヘラン市内博物館見学。

2/22(水)  朝、PSST 2012 会議 開会。中川: 基調講演。午後: 中川: 研究発表。(妻は市内見学)。 夜: Sara Salimi 家で、約20人のホームパーティ。

2/23(木)  朝、PSST2012 会議 参加、午後: 同会議の まとめのセッションあり。(妻は市内見学)。夜: 飛行機で 古都イスファハンに飛ぶ。

2/24(金)  [イスラム教の休日] 午前、午後、 イスファハン観光 (一行 9名、現地ガイドの案内あり)。夜: 飛行機で テヘランに帰着。

2/25(土)  朝、午後:   テヘラン市内観光 (博物館、バザールなど)、

2/26(日)  朝、昼:      テヘラン市内観光 (シティセンター、美術大学の特別展など)。  夕方:  テヘラン IKA 空港発、ドバイ乗り継ぎ、

2/27(月)  夕:  成田帰国

  [4] PSST 2012 の報告

(1) 会議の概要

名称: PSST 2012 (2nd Conference on Problem Solving Strategy and Techniques)

場所: イラン、テヘラン市、 Petrochemical Leadership Training Institute
[Petrochemical は、イランの最重要産業(石油と石油化学) を担う会社。それが運用している、立派なトレーニング施設。主会場は約500人収容の講堂。他にセミナー室多数。]

時: 2012年 2月22日(水)-23日(木) [朝 8時 〜 夕方 5時半]

主催: IIIST (Iranian Institute of Innovation& Technological Studies)、および IUST (Iran University of Science and Technology)
[注: 実質の主催は IIIST で、IUST が協力している感じ。]
後援: イラン政府の Department of Human Capital Development and Management [人材開発部] 他。[プログラムには、イランの10部局ほどの名前が並んでいる。]

主要運営者:   Dr. Alireza AliAhmadi (Conference Chair / IIITS); Ms. Sara Salimi ( / IIITS President); Mr. Mahmoud Karimi (International Coordinator /IIITS Vice President)

プログラム構成:  
   第1日午前と 第2日午後の前半 は 大講堂でプレナリ
   第1日午後、第2日午前と午後後半は 4会場で並行 (テーマ分野別)

 


  Sara Salimi      中川 徹     Mahmoud Karimi
[写真をクリックすると拡大します]

(2) 会議の性格と 海外招待者:

基本的に 国内向け (発表スライドもペルシャ語だけ)。海外から 数人を招待 (英語発表、英語スライド、参加者からの希望が強くMahmoud 他が区切りごとに解説)

海外からの招待発表者 (出席 3名):
    - 中川 徹 (大阪学院大学)  (基調講演 [日本でのTRIZの導入と普及]、招待研究発表 [USITの6箱方式])
    - Gaetano Cascini  (ミラノ工科大学、イタリア) (招待発表 [Sustainable Innovation]、 招待報告 [TETRISプロジェクトと子どもへのTRIZ教育])
    - Hongyul Yoon (コンサルタント、韓国)  (チュートリアル [現代のTRIZ (OTSM-TRIZ)]、 招待報告 [韓国企業への研修とそのフォロー])

海外からの招待によるビデオ発表 :
    - Alexander Sokol (ラトビア) 「外国語教育へのTRIZ導入 (考えさせる外国語教育)」
    - Valeri Souchkov (オランダ) (画像ファイルが大きく、事前に困難があり、実際に上映されたかどうかは不明)

会議の運営は、時間的に「フレキシブル」 (= 「ルーズ」) でプログラムがいろいろと変更があったようだ。

(3) プログラム

第1日 午前 (全体会場)
・ 解説 Alireza Kashizad (IIITS)
・ チュートリアル Hongyul Yoon (韓国)

・ 開会挨拶 Alireza Kashizad (IIITS)
・ 挨拶 Dr. Jabal Ameli (IUST 学長)
・ 挨拶 Dr. Forouzaden (政府 人材開発部長代理)
・ 講演 中川 徹 「日本におけるTRIZの導入と普及」
・ 報告 Sara Salimi (IIITS) PSST 2012 に至るまで

第1日 午後 (4会場平行の研究発表)
(a) (製造の) Flexibility 関連問題、品質関連問題
(b) 警察サービス関連 (フォーラム)、IT 関連
(c) (主会場) 発明的問題解決 [Gaetano Cascini(伊)「Sustainable Innovation」、中川「創造的問題解決の新しいパラダイム」、 他]
(d) 子どもの創造性教育 [A. Sokol、Gaetano Cascini 「TETRIS プロジェクト」、他]

第2日 午前 (4会場平行の研究発表)
(a) 国のイノベーションシステム (フォーラム)([Valeri Souchkov の ビデオ発表 もここに予定] )
(b) (主会場) 企業の経験 [ Hongyul Yoon (韓) 「Samsung, POSCO における研修とそのフォロー」、他]
(c) 地方自治体の運営、電力・エネルギ産業
(d) 組織におけるイノベーション、メディア産業での経験

第2日午後 前半 (全体会場) (閉会セッション)
・ まとめ Mahmoud Karimi (2日間の諸発表のまとめ)
・ スピーチ 「イノベーションのための人間科学」
・ Gaetano Cascini(伊) 「TETRIS パートナーの協力体制」
・ Mehdi Parvin 「Conference Statement」

第2日午後 後半 (4会場平行の 諸方法のチュートリアル)
(a) 技術的矛盾の解決 → TRIZ
(b) 機能分析 (FAST図) → VE
(c) Value Stream Mapping → LEAN 工学
(d) DOE (実験計画法) → Six Sigma

 

  まとめで中川の基調講演の提案を説明するMahmoud Karimi

 

(4) 参加者

初日 約 220名、 2日間 250名 超。 海外招待発表者を除き、すべて イラン国内の人たちと思われる。
企業関係 半分、大学関係 半分 とのこと。

ほとんどが若い人たち (20才台〜40才台)。高校生6人ほどのグループが、2名の先生と一緒に参加していた。

英語が自由な人たち (約半分(?)) と、そうでない人たちとがある。海外からの発表には、ペルシャ語での解説がついた。(逐次通訳でなく、英語スライドを見て、ペルシャ語で解説。Mahmoud の解説などは、非常に滑らかであった。)

非常に熱心に聞いており、休憩時間など大変友好的。 私は求められて、随分一緒に写真に入った。
また、休憩時間に熱心に質問してきた。 ただし、発表直後の 質疑の時間にはあまり積極的な質問が なかった。

4会場平行の場合に、各会場ごとに熱心な雰囲気であった。 ただし、ペルシャ語の発表はスライドを見ても全くわからない。 海外参加者には、つらい時間であった。

[5] イランにおけるTRIZの推進グループについて

イランにおけるTRIZの推進グループは IIITS (Iran Institute of Innovation & Technoogies Studies) である。Mahmoud Karimi が実質的にリードしており、25人ほどの若い人たちのグループである。

1999年頃〜2007年(没年) まで、Professor Hosein Salimi が IIITSの President として指導した。若い人たちを迎え入れて活動させる包容力のある指導者であったという。Professor Salimi は QFD の研究を通じてTRIZに出会ったという。一方、Mahmoud Karimi は IE (Industrial Engineering) や VE から TRIZに出会い、合流している。

また、Prof. Salimiには 5人の娘たちがいて、それぞれに結婚し、Salimi 家の各フロアに居住し、いろいろな分野で活動している。現在 その内の 3家族は国外 (シリア) に出ているという。

Sara Salimi は 次女であるが、Professor の没後 IIITS のPresident を継いだ。また彼女は、政府の教育省のアドバイザをしている。[イランの教育省は初等・中等教育を管轄するものであり、大学や科学技術を管轄する省が別にあるという。]

IIITS のオフィスは Salimi 家の地下フロアにある、大きな2室。IIITS グループ は Salimi Family をさらに拡大したような感じ。

IIITS は、研修、コンサルティングなどを主収入とし、放送活動なども行なっている。メンバには別の収入源を持つ人たちもいるようである。
イランの知識層で (少なくとも経済的に困っていない) 人たちのようであり、英語はほぼ自由で、親密、友好的でおおらか。

いろいろな分野の才能を持つ人たちが、毎日、緊密に議論しながら活動を進めており、その吸収力、実行力、バイタリティは 驚くべき感じである。

PSST2012 のプログラムからも分かるように、多様な方法に関与しており、また、社会的な多様な応用分野を持っている。

IIITS以外では、Mehdi Basirzadeh という年配の人がおり、「多数の諺を集めて、TRIZの40の発明原理で整理した」というペルシャ語の著書を贈呈いただいた。「逆発想の原理の諺が非常に多い」という。

  [6] イランを旅行しての感想 (首都テヘラン、古都イスファハン)

上記[1]に書いたように、中川は2006年の PSST のときからイランのグループと繋がりがあり、2010年9月に日本のTRIZシンポジウムに Mahmoud Karimi 氏を基調講演に招待したことから、日本TRIZ協会とも繋がりができていた。これをベースに今回の、中川のイラン出張が実現した。

Mahmoud Karimi 氏が、随分丁寧に 海外招待者 (中川夫婦、Cascini、Yoon) を迎えてくれ、いろいろな便宜を図ってくれた。「客人は神さまの友達だから、客人を丁重にもてなすことは、イスラムではあたりまえのこと」だという。

テヘランは、アルボルズ山脈の麓に作られた都市で、人口680万人の大都市である。大きな川はなく、雪を頂く山の伏流水で成り立っている。東西に広がるシティセンターからどんどん北側の斜面を登って街が延びて行き、市の大部分が山脈の麓の斜面にあるという感じ。北部が高級住宅街 (「山の手」) になる。会場はその中でも最も北の山の斜面にあり、Salimi 家も近くにあった。  

テヘラン市 (ホテルの窓から、朝、北東方向を望む)

この10年で自動車が急増したとのことで、多くの家庭が2台の自家用車を持ち、道路には車がひしめいている。地下鉄が4路線ほどあり、バスがあるが、公共交通が追いつかないから、タクシーが非常に多数あり、自家用車が多数ある。

私の車間距離の感覚の1/2〜1/3の車間距離で車が走っており、片側3車線の道路は4車線程度になって「縦横に」走る。かなり大きな交差点でも、黄色信号が常時点滅しているだけ (もし信号のとおりに制御したら、常時渋滞で動きが取れないのであろう)。

自転車をほとんど見ないのは、坂が多いからであろう。

歩行者はそのような通りを「あみだくじを引くときの軌跡」を描いて横断していく。われわれ旅行者は、自分だけでは怖くて(正規の) 横断歩道も渡れない。

テヘランではいま、大気汚染がひどい。

 

テヘラン市 市内の交通状況 (ホテルの窓から、夕方)

春分の日がイランの新年であり、いまは「年末」で、日本の師走と同じように、人々が新年に備えていろいろ新しくするための買物に忙しいのだという。

バザールはもちろん、街全体に活気が満ちていた。

市のセンターにあるバザールは、日常の食料品、衣料、雑貨などの買物に全市から人々が集まってくる。新鮮な野菜や果物から魚まで豊富にあり、ナッツなども樽からの秤売りであった。[ちょっとしゃれたものは、あちこちにあるショッピングセンター (店が点在する商業地域/通り) で買物をするという。]

ガイドさんにバザールを案内して貰い、バザール内の店の2階にあるレストランで昼食を食べた。いろいろなシシカバブを出すレストラン。2時過ぎだったが、階段から店内まで人がぎっしり。料理を受け取り、食べている人のイスの後ろに立って空くのを待たないと、自分が食べられない。こんな状況はいつものことなのだろう、席取りは大変だが、殺気立つこともない。(右の写真)

イランは国土が大きく、テヘランや内陸部と、ペルシャ湾沿い、西部の低地、カスピ海沿いなど気候が違い、さまざまな食物が収穫でき、食糧の自給自足ができているという。特に、生鮮野菜が美味しいのには感激した。ホテルの朝食のビュッフェでは、10種類くらいのサラダが並び、特にトマト、キュウリ、キャベツなど、本当に新鮮で美味しいもので、欧米の野菜とは大違いである。

 

テヘランのバザール内のレストランでの昼食時

 

第1日の夜には、Salimi 家のお母さんが、海外招待者および IIITS の主要メンバを招待して下さり、約20人の楽しいホームパーティであった。

その食事の前に、Salimi家の広いリビングの片側で、Salimi家三女で画家のMrs. Hajar Salimi (黒ベール) が、(自分の) 美術とTRIZの関わりについてパソコンを使って説明してくれた。

リビングの床には、伝統のペルシャ絨毯が何枚も並べて敷いてある。そこに座っていると、本当に温かい。(写真は左から、Yoon氏、中川、Cascini氏)

女性はみんな (人前では) 髪を隠したスカーフをしている。スカーフの色は黒が多いが、他にも、白、緑、青の明るい色のものや柄物などいろいろある。学会などでは、ベールが身体全体を覆っている女性が半分強、もっと短く肩のあたりまでの女性が半分弱といった感じであった。外国人でも女性はスカーフをするようにアドバイスされた。

 

Salimi家のリビングで、「美術とTRIZ」のディスカッション

女性の社会進出が随分活発であり、「ベールを被っているから、古いしきたりに閉じ込められている」といったイメージは、先入観にすぎなかった。 IIITS でも 女性メンバが 半数程度を占め、重要な役割をしている。PSSTの学会の参加者にも女性が 2〜3割あった。

満2才から幼稚園 (兼保育所) に受け入れられるので、Mahmoud Karimi 氏の夫人 は2才半の長男を預けて、自宅の比較的近くで仕事をしている。[Karimi氏の自宅は、夫人の実家の近くで、IIITSまで車で1時間かかるから、夫人は (TRIZに詳しいが) IIITS とは別に仕事をしているのだという。]

ホームパーティは、Salimi家のお母さんの手作りで、美味しいごちそうでいっぱいであった。大皿に盛られた料理を自由に取り分けて食べる。

イランでは、イスラムの教えに従い、アルコールが法律で禁止されている。空港到着後、ホテルなどでも一切アルコールは出なかった。それでも、ホテルのレストランにはノンアルコールのビールがあった。

 

Salimi家でのホームパーティの夕食。黒白のベールがお母さん。

イランは、われわれには「ペルシャ」という方が親近感がある。世界の4大文明の発祥地 (エジプト、メソポタミヤ、インド、中国) に近接しており、東西の文化の交流の地であり、多くの王朝が交替している。

テヘラン市は1795年に首都になった比較的新しい都だから、歴史的建造物は多くない。その中でいくつかの博物館や宮殿を見学した。

右の写真は、Ceramic Musiumの展示品である (写真撮影許可)。これは、紀元前 2千年紀 (いまから 3000〜4000年前) の陶器であるという。牛の姿が、デフォルメされているが、「より一層 牛らしい」と、私は思う。美術に顕れている人間の心、人間の感性は、4000年前の人々とわれわれとで、ほとんど違わないように思える。

博物館では、授業の一環と思われる中学生のグループによく出会った。青色の明るいスカーフをした女生徒たちが、ガイドさんと英語で話している妻のところにきて、「日本からですか? 津波は大変だったですね」などと積極的に英語で話しかけてきた。彼女たちが、「イランに来てくれてありがとう」という。この言葉は街で出会った大人の人たちからも何回か聞いた。

美術大学の特別展には、現代イラン社会の問題 (たとえば交通事情) を捉えて諷刺したものもあった。その中に東日本大震災に思いを寄せた作品が二つあった。その一つは、日本 (JAPAN) の痛み(PAIN) を、「JAPAIN」と表現し、痛みを分かち合うメッセージが添えられていた。

 

いまから3000〜4000年前につくられた牛の像。

特に希望して、古都イスファハンへの一日見学を旅程に組み込んだ。PSST学会の終了後に、夜 9時の飛行機でイスファハンに行き、宿泊。翌日丸一日観光して、また夜9時の飛行機でテヘランに帰着した。一行は、中川夫婦、Yoon氏、Karimi 夫妻、Sara Salimi 夫妻、Alireza Kashizad 夫妻の総勢 9名。現地で英語のガイドさんが案内してくれ、マイクロバスで移動したから、実に能率的で素敵な観光旅行であった。

イスファハンは16世紀末にサファヴィー王朝のアッバース大帝がここに首都を遷し、基本設計した都市計画のもとに、栄華を極めた建物が建てられた。その中心がエマーム広場である。広場を囲むいくつもの美しい建物の中で、やはりマスジェデ・シェイフ・ロトゥフォッツラーが印象深い。

右の写真が、その寺院の全景。広場の大きな池に面し、広場を囲む回廊 (2階建てで店などになっている) の一部にそのエントランスがある。大きく開かれたエントランスから、45度の角度を持って礼拝堂が配置されており、ドームの丸みが美しい。

左下の写真がそのエントランス。青を基調としたモザイクの壁面が美しい。その壁面の一部 (左下の写真から左下にはみ出した部分) の写真を右下に掲載する。これが模様のタイルではなく、色タイルをモザイク模様に配置したものだという。その緻密さと全体的な美しさは驚嘆するばかり。(写真をクリックすると拡大できる。)

 

イスファハンの寺院。マスジェデ・シェイフ・ロトゥフォッツラー。


寺院のエントランス。全壁面がモザイク。

 

壁面の一部。色タイルをモザイクにはめ込んでいる。

 

イラン旅行の記念として、私たちの写真を載せさせていただく。イスファハンのチェヘル・ソトゥーン庭園博物館の前で撮ったもの。2月末で、(例年より大分寒かった今年の) 東京と大体同程度の温度であった。

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イランでは、イスラム教のシーア派が多数だが、スンニ派、キリスト教 (オーソドックス (東方教会))、ユダヤ教、ゾロアスタ教などが、平和裡に共存しているという。イランでクリスマスが盛大に祝われるというのでびっくりした。イスラム教ではイエス・キリストは預言者の一人という位置づけなのだが、その人気が高いという。 (そういえば、イランの人たちから メリー・クリスマスのメールを何通か受け取っていた。) ニュース報道などとは随分印象が違った。

最近半世紀のイランの現代史、すなわち、王政による産油国としての現代化と貧富の差の拡大、1979年の「イスラム革命」、イラン・イラク戦争、米国による禁輸などのことを、やはりもっときちんと (バイアスを外して) 学ぶ必要があると、改めて思った。

 

イスファハンの宮殿の前で。中川 徹、雅子。

今回の 欧米の経済制裁で イラン通貨の為替レートはドルに対して20%ほど安くなり、ドルへの換金が難しくなったといっていた [2月下旬の段階]。それでも、食料自給ができているから、国内の物価にはまだほとんど影響がないという。市場など活況であった。滞在中、イランの人たちが経済制裁に対する不安を口にすることはなかった。

新聞・テレビなどの報道では、米・欧の「イランの核兵器開発疑惑」、「イランへの経済制裁」などの立場と、イランの「ホルムズ海峡封鎖による対抗」 などの立場が真っ向対立しているデリケートな情勢であった。その中で、私がイランからの招待を受諾して実行したのは、「国民レベル/市民レベルでの相互理解」が結局のところの世界平和の鍵だと信じるからである。

このことは、私の基調講演の最後のスライドで、「公共的なWebサイトのグローバルなネットワーク」の提唱を示し、それが「世界平和のための相互理解」をもたらすことを話した。本ページの写真でも示したように、PSSTの学会の「まとめ」のセッションで、Mahmoud Karimi 氏が私のこのスライドをペルシャ語に分かりやすくして説明してくれていた。嬉しいことであった。

この「イラン訪問記」は、一旅行者の記録ではあるが、イランの人々を友人として持った者の見聞記として、皆さまのお役に立つことを願っている。

 

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最終更新日 : 2012. 3.31    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp