USIT/CrePS 講演 | |
USIT: 6箱方式をパラダイムとする 創造的な問題解決のための簡潔なプロセス |
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掲載:2016. 5. 8 |
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編集ノート (中川 徹、2016年 5月 4日)
これは、昨年10月の日本創造学会の年次研究大会での一般発表(発表25分、討論5分)、とその予稿集の論文です。
近年はこの学会でも毎年発表するようにしています。(TRIZ協会のようにTRIZ中心ではなく) 創造性や創造技法一般に関係した学会ですから、より広い観点から、TRIZやUSITに初心の人たちにも分かるように、と思って話しています。今年の私のテーマは、UISIT(統合的構造化発明思考法)ですが、それが「6箱方式」という新しい大事なパラダイムに基づくことを述べています。それを説明するのに、「創造的な問題解決の方法論」の発展を、私の観点から整理して話しています。それは、科学技術一般での創造的な問題解決の考え方(4箱方式) → TRIZの寄与 (分野を越えた知識ベースの利用) → USITの寄与 (簡潔な一貫プロセスと6箱方式) → 一般的な方法論CrePSの提唱 (6箱方式による諸方法の統合) です。そしていまは、USITはCrePS方法論を実践する簡潔な一貫プロセスと位置付けています。
そして、この年に私が新しく整備した「USITマニュアル」と「USIT適用事例集」をベースにして、USITプロセスの適用法を詳しく話しています。論文ではいくつかの事例を説明しましたが、発表では時間の都合上、マニュアル中で詳しく説明している標準事例だけを話しています。
本ページには、論文(HTML と PDF)およびスライド (HTML と PDF)を掲載しています。英文ページは簡単な紹介だけです。
なお、本発表の論文を後日推敲して、日本創造学会論文誌 Vol. 19(2015)で正式に発表しました。(今後掲載予定)
目次 論文 発表スライド 1. はじめに 1. はじめに 2.1 「6箱方式」とは何か
2.2. 従来の4箱方式
2.3. TRIZの寄与とその限界3. 創造性とイノベーションのための多様な方法を統合する可能性
3.1 社会が求める普及のための要件
3.2 創造性とイノベーションのための諸方法の多様性
3.3. 要素技法の多様なアプローチを分類する
3.4. 「現実の世界」における「6箱方式」の位置づけ
3. 創造性とイノベーションのための多様な方法を統合する可能性4.1 USITマニュアルとUSIT資料の一式
4.2 USITプロセスの全体像
4.3 問題を定義するステップ
4.4. 問題を分析するステップ (A) 現在のシステムの分析
4.5. 問題を分析するステップ (B) 理想のシステムの理解
4.6. アイデアを生成するステップとUSITオペレータ
4.7 解決策コンセプトを構築する
4.8. 現実の具体的解決策として実装する
4. USITプロセス: 「6箱方式」の実践5.1 USIT適用事例の一般的な意図
5.2 USIT適用事例集
5.3 USIT適用事例3: トイレの節水問題
5.4 USIT適用事例4: 額縁掛けの問題
5.5 USIT適用事例5:発泡樹脂シートの発泡倍率を増大させる問題
5. 「6箱方式」で記述したUSIT適用事例6. おわりに 6. おわりに 参考文献
本ページの先頭 | 目次 | 論文先頭 | 論文PDF | スライド先頭 | スライドPDF | CrePSのビジョン | USITマニュアル | USIT適用事例集 | 中川論文解題2015 | 英文ページ |
発表概要 PDF (124 KB)
USIT: 6箱方式をパラダイムとする 創造的な問題解決のための簡潔なプロセス
− USITマニュアルとUSIT適用事例 −中川 徹 (大阪学院大学)
第37回日本創造学会研究大会 2015
2015年10月3日〜4日、 大阪経済大学(大阪市東淀川区)
概要
USIT(統合的構造化発明思考法)は、
1985年に米国のEd Sickafusによって創始された創造的問題解決のための簡潔な一貫プロセスであり、
1999年以後日本でさらに改良されてきた。
われわれは、2002年にTRIZのすべての解決策生成法を再編成してUSITオペレータ体系を作った。
2004年に、私はUSITプロセスの全体をデータフロー図で表現し、それが創造的な問題解決のための新しいパラダイムであることを認識し、「6箱方式」と名付けた。
2012年に、社会が本当に望んでいるのは(TRIZやUSITのような)個別の方法でなく、創造的な問題解決のためのもっと一般的な考え方であることを認識した。そこで、私は、問題解決のためのさまざまな方法を統合して、「6箱方式」に基づく一般的な方法論CrePSを創ろうと提唱している。これに応じてUSITはいまや、CrePS方法論を実践する簡単なプロセスであるとみなされる。
本稿では、USITマニュアルを作り、既発表の創造的問題解決事例10件余を「6箱方式」で記述した。
本稿では、以下の点を議論する。
(1) 6箱方式と従来方式の比較、
(2) 創造性とイノベーションの多様な方法をCrePSに統合することの可能性、
(3) USITの全体プロセス、特にそのアイデア生成ステップ、
(4) 他の諸方法で実施された多様な適用事例をUSITの6箱方式で記録すること、
(5) CrePSの確立のための新しいビジョン/目標を追求する上での今後の課題
1. はじめに
USIT(統合的構造化発明思考法)は、1985年に米国フォード社のEd Sickafusによって創始された創造的問題解決のための簡潔な一貫プロセスであり [1, 2]、1999年以後日本で筆者によりさらに改良されてきた。日本におけるUSITの歴史は、つぎの4段階で特徴づけられる。
(1) 筆者は、1997年からTRIZを日本に導入し、1999年からUSITをも導入して、それらの改良を試みてきた。当初われわれはUSITを「やさしいTRIZ」とみなし、TRIZの日本導入にあたって、「ゆっくり着実な戦略」の柱であると考えた[3]。
(2) 2002年にわれわれは、TRIZのすべての解決策生成法をその個々の示唆(サブ原理など)にばらし、USITオペレータ体系(主オペレータ5種、サブオペレータ計32種)に再構築した[4]。そして、USITを「やさしく、統合された、次世代のTRIZ」とみなした。
(3) 2004年に筆者は、USITプロセスの全体をデータフロー図の形式で表現し、それが創造的な問題解決のための新しいパラダイムであると認識して、「6箱方式」と名付けた[5,6]。
(4) 2012年に、TRIZを広く深く普及させていくための将来の方向付けを考察していて、筆者は「社会が本当に必要としているのは、TRIZとかUSITとかの個別の技法ではなく、もっと一般的な創造的な問題解決の考え方とそれを支援する諸方法だ」と認識し、それをCrePS(「創造的な問題解決・課題達成のための一般的な方法論」)と呼んだ。また、「6箱方式」が、このCrePSの基本パラダイムを構成し、多様な方法を体系的に統合し得ることを見出した[7]。また今回、USITマニュアル[8]およびUSIT適用事例集[9]を作り、USITがCrePS方法論を実践するやさしいプロセスになった。
2. 「6箱方式」: 創造的な問題解決の新しいパラダイム
2.1 「6箱方式」とは何か
「6箱方式」[6, 7]は、創造的に問題を解決し課題を達成するための一般的なプロセスの枠組みを表現したものである。それはデータフロー表現で定義され、図1に示すようである。
図1. 「6箱方式」:創造的な問題解決(CrePS/USIT)の新しいパラダイム
それは基本的に6つの箱によって特徴づけられる。各箱は手順中の指定された段階で得るべき情報を表している。矢印はその次の箱で要求されている情報を獲得するためのプロセスを表し、それまでの箱の情報を主とするが、その他のさまざまな背景情報を使って行われる。矢印は主たる流れを示す。実践では当然、種々の副次的流れ(近道、複数経路、戻り、ループ、螺旋運動など)がある。
「思考の世界」と「現実の世界」を区別することが、この方式で明確に導入された重要な概念である。問題は「現実の世界」での認識から出発し、「現実の世界」で実装された具体的な解決策によって終了すべきである。「現実の世界」では、その判断基準は、社会、ビジネス、技術、などの価値観と実際の状況を反映する必要がある。
他方、問題を分析し、優れた、有効な解決策を生み出すためのプロセスは、「思考の世界」で実施される方がよい。自由で、広い視野で、創造的に考えることが奨励され、何らかの方法論がガイドする。このことは、創造的な問題解決を追求する実践および理論において一般的に合意されている。
以下本節にはプロセスの概要を簡単に述べる:
問題解決の出発点において、特定の問題はまず「現実の世界」で認識され、そこで何を解決すべきかがよく定義され(すなわち、整理、検討、選択、焦点絞り、宣言、など)、それが「思考の世界」の問題解決プロジェクトに渡される。
「思考の世界」においては、まず最初にその特定の問題について、問題/課題宣言、問題の状況、および「現実の世界」の親プロジェクトからの要求などを確認する。
ついで、問題を分析して、現在のシステムを理解する。その理解は、時間・空間特性、オブジェクト-属性-機能、根本原因、メカニズム、などの側面を含む。この段階で理想のシステムのイメージを得ることが、後によい解決策を生成するために非常に重要である。
ついで第4箱で、新しいシステムのためのさまざまなアイデアを獲得する。それらは、単なるヒント(示唆)ではなく、なんらかの基本的なアイデア(例えば、新しいシステムのためにコアになる構成要素や機能を導入/変更するなど)である。前段階で、現在システムと理想システムの十分な理解を獲得する間に、普通、われわれの脳は活発に働き、さまざまなアイデアをスムーズに思いつく。このようにして、多数のアイデアを列挙し、それらを階層的な体系に整理する。
いくつかの核となるアイデアの周りに、解決策コンセプト(第5箱)を構築する。この段階においては、当該分野の素養や知識が必要である。
概念的解決策(第5箱)が「思考の世界」での問題解決の最終成果であるが、それは「現実の世界」で実際の製品/サービス/プロセスなどに実装する必要があり、企業などがその全力を挙げて取り組まねばならない。
2.2. 従来の4箱方式
科学技術一般は、従来、その基本パラダイムとして、「4箱方式」を使ってきた(図2)。
図2. 従来の科学技術の「4箱方式」
科学技術のあらゆる分野でさまざまな理論やモデルが作られ使われてきた。それらは各分野の典型的な問題に対しては有効に働く。しかし、新しい創造的な解決策を必要とするような問題の場合には、どのモデルを使うと有効かは明瞭でないことが多く、実際に有効なものが存在しないことがある。このような状況が起こる理由は、具体的な問題を抽象化して一般化した問題にするやりかたが個別のモデルによって大きく異なり、一般的に適用できる方法が存在しないからである。
2.3. TRIZの寄与とその限界
G.S. Altshuller とその弟子たちによってオリジナルに開発されたTRIZ [11,12] が、この状況に対して大きな寄与をもたらした。TRIZは図3に示すような数種の重要なモデルを確立し、世界の特許と科学技術資料から編成した大規模でうまく構成された知識ベースを使い、科学技術(およびもっと広く)のさまざまな分野を越えて適用できる [11]。
図3. TRIZの主要ツール。各ツールは「4箱方式」に基づき、大規模な知識ベースを持つ。
しかし、問題解決者はその大規模な知識ベースを持つハンドブックやソフトウエアツールや専門家の助けを得る必要がある。また、「一般化した解決策」は事前にインストールされたものから選択され、ユーザに可能性のあるヒントとして示唆されるに過ぎないため、ユーザはそれらから新しいシステムのためのアイデアを見つけ、さらに解決策コンセプトを構築しなければならない。
大規模な知識ベースツールを複数もつことはTRIZの強みであるが、各ツールの抽象化の観点が部分的であり限られている。その結果、TRIZでの問題解決の全体プロセスは重く複雑である(例えば、ARIZ [11])。そして実際には、さまざまなTRIZ専門家たちがそれぞれ異なるやり方を提案し実施している。
3. 創造性とイノベーションのための多様な方法を統合する可能性
3.1 社会が求める普及のための要件
2012年に筆者は、期待されるTRIZ適用の領域とテーマについて図を描いていた(例えば、企業で、政府と公共分野で、学界と大学で、教育の場で、家庭で、社会で、マスメディアで、など)。その時、筆者は、「これらすべての適用領域で人々が欲しているのはTRIZのような個別の諸方法ではなく、さまざまな領域に適用できて有効な創造的問題解決のなんらかの一般的な方法論である」ことを認識した。それは新しく確立されるべき一つの一般的な方法論であり、方法論の階層において(今のTRIZより)一段か二段上のレベルのものである。この目標の方法論を、CrePS (「創造的な問題解決/課題達成のための一般的方法論」)と名づけた。
新しい目標/ビジョンの宣言を示す[7]:
「創造的な問題解決と課題達成のための、一般的な方法論を確立し、それを広く普及させて、国中の(そして世界中の)さまざまな領域での問題解決と課題達成の仕事に適用する。」
3.2 創造性とイノベーションのための諸方法の多様性
多様な方法を統合してもっと一般的な方法論を推進する必要性を認識したパイオニアがDarrell Mann であり、彼はそれを「体系的革新(Systematic Innovation)」と呼んだ[12]。彼のグループは、広範囲の諸方法を調査しており、彼の講演スライドの一つに列挙されている(図4)[13]。
図4. 多様な創造性とイノベーション技法 (Darrell Mann[13])
彼は、「これらのさまざまな方法を、個々の問題の要求に応じてそれぞれが強みとするところに効果的に使い分ける」ことを目指す。このアプローチは、彼がそのTRIZ教科書[12]で、「TRIZには沢山のツール([12]では22の章)があるが、必要になった時に一つ一つ学んで使えばよい」というときと同様である。多数の大きなツールを(単純化や統合をせずに)選択的に使い分けることは、実際の問題に直面している技術者や科学者やビジネスマンにとって、明らかに過重な要求である。
3.3. 要素技法の多様なアプローチを分類する
そのような多様で大きな諸技法を統合するための準備として、諸技法をその要素技法に分解し、それら要素技法をそのアプローチや意図のタイプによって分類するのがよい。そのような要素技法の予備的な一覧表を以下に示す[7]。
表1. 創造的な問題解決の諸方法/要素技法 [7]
ここで気づくのは、大きな諸技法はさまざまなサブ技法から構成されていて、それらのサブ技法は細部では違いがあるが互いに大きく重なり合っていること、また、多くの方法がこの表の中のいくつかの側面だけを強調していて、多くの場合に問題解決プロセスの近道を意図していること、である。創造的な問題解決の方法論の現状は、明らかに、よく組織されていず、互いに不必要に争っており、その結果、社会にうまく寄与することに失敗している。
諸方法が(図4のように)多様で、サブ技法が(表1のように)組織化されずに競合しているという現状の主たる理由は、従来のパラダイム「4箱方式」の欠陥/弱点にある、と筆者は考える。「6箱方式」を創造的な問題解決(CrePS)の新しいパラダイムとして導入することにより、これらの多様な方法論とその極めて多数のサブ技法を再編成する方向付けができる。
3.4. 「現実の世界」における「6箱方式」の位置づけ
われわれがさまざまな問題に出会い、それを解決したいと望んでいる現実の世界は、それぞれの場合で大きく異なるが、適用したい領域に応じて、いくつかの異なるタイプの「現実の世界」を考えるのがよい。例えば、図5は企業活動の「現実の世界」を考えている[14]。
図5. 「現実の世界」に置いた「6箱方式」: 例:企業世界の場合[14]
大事なことは、「思考の世界」での問題解決プロセスが、「現実の世界」の問題解決プロセスに比べて、問題のタイプに依存することが少なく、汎用的なことである。
4. USITプロセス: 「6箱方式」の実践
4.1 USITマニュアルとUSIT資料の一式
以上に概要を述べた「6箱方式」の概念と適用例については、学会やWebサイトで公表してきている。特に、最近筆者は、CrePS/USITの資料一式(CrePS/USITの文献リスト、USITマニュアル、USIT適用事例集、USITオペレータ体系などを含む)を作成し[15]、『TRIZホームページ』[16]で公表した。USITマニュアル[8]では(一つの適用事例(額縁掛けの問題)での一貫した例示とともに)USITのプロセスを詳細に記述している。
4.2 USITプロセスの全体像
USITの全体プロセスを図6に図示する[7,8]
図6. USITの全体プロセス:6箱の基本概念、各箱の主たる情報、処理ステップ[7]
4.3 問題を定義するステップ
「6箱方式」での問題定義(第1箱から第2箱へ)は、「現実の世界」で行われる。しかし、USITの実践においては、「思考の世界」の問題解決チームは、この問題定義のステップを実際にレビューして、「よく定義された具体的問題」を確認する。第2箱では、USITは単純につぎの情報を要求する。望ましくない効果 (1-2行の宣言文)、課題宣言文、問題の簡単なスケッチ、考えられる根本原因、問題に関わる最小限のオブジェクトの組。チームでのグループ討議が、これらの情報を導出する通常の方法である。
4.4. 問題を分析するステップ (A) 現在のシステムの分析
システムの分析にUSITが使う基本概念は、時間と空間の他に、オブジェクト(=システムの構成要素)、属性(=オブジェクトの性質のカテゴリ)、そして機能(=一つのオブジェクトからもう一つのオブジェクトへの作用)である[1,8]。システムの時間・空間特性の分析は常に有用であり、ときにはシステム要求中の矛盾(特にTRIZでいう「物理的矛盾」)を明らかにする。属性の分析では、すべてのオブジェクトについて(問題に)関連する属性を列挙し、それらの属性の値を増大させたときに望ましくない効果を増大させるか、減少(抑制)させるかを検討する。機能の分析は、オブジェクト間の機能的関係を図示し、もともとの設計の意図を明らかにし、ついで問題が起こるメカニズムを明らかにする。
4.5. 問題を分析するステップ (B) 理想のシステムの理解
この段階で理想のシステムのイメージを得ることが必須であるとUSITは考える。前のサブステップで「物理的矛盾」が見出された場合には、理想のシステムは矛盾する要求を別々に満足した部分解決策を組み合わせたものとして設定できる[10]。他の場合には、ユーザは理想の結果を(その達成手段には言及せずに)イメージしてスケッチに描くことを要求される。USITでは(AltshullerのSLP(賢い小人たちのモデリング)を改良した)Sickafusの「Particles法」を使う [1]。
4.6. アイデアを生成するステップとUSITオペレータ
現在システムと理想のシステムの両方を十分に理解したおかげで、USITでは多数の多様なアイデアがスムーズに浮かび上がってくる。さらに、USITは「USITオペレータ体系」を持っていて、ユーザが多数のアイデアを体系的に生成するのを助ける。USITオペレータは、TRIZのすべての解決策生成法を図7に示す方式で再編成して得られた[4]。
図7. TRIZの解決策生成法をUSITオペレータ体系に再編成する[4]
USITオペレータ体系は、『TRIZホームページ』で公表しており、3段階の詳細さの版(簡略版、標準版、拡張版)があり、TRIZツールとUSITオペレータ間の双方向索引もある[15]。5つのUSIT主オペレータはそれぞれ、オブジェクト、属性、機能、解決策の対、および解決策に作用する。それらの適用例は、文献[4]やUSITマニュアル[8]を参照されたい。
生成したアイデアをそれぞれ一般化するとともに、このステップ中で全アイデアを階層的な体系に組み上げる。
4.7 解決策コンセプトを構築する
生成したアイデアの中からいくつかのアイデアを選択し、元の問題を効果的に解決してうまく働くだろうような解決策コンセプトを構築することに進む。このステップにおいては、当該分野での素養がチーム内に必要であり、知識ベースやチーム外の専門家からの支援を得て強化することができる。問題解決のレポートと解決策コンセプトの提案が、「思考の世界」で作業したUSITチームの最終成果である。
4.8. 現実の具体的解決策として実装する
かくして問題解決の活動は「現実の世界」に戻る。解決策コンセプトを、吟味・テスト・プロトタイプ・設計・製造・マーケティングなどを経てはじめて、実際の商品・サービス・プロセスなどとして実現される。この実装のステップは、「現実の世界」の価値基準で方向づけ、企業などがその全力を掛けて、また、この段階に適切な諸方法を活用して、実施しなければならない。この実装段階はUSITの思考プロセスの外側にあるが、実際の問題解決の成功にとっては決定的に重要である。
5. 「6箱方式」で記述したUSIT適用事例
5.1 USIT適用事例の一般的な意図
われわれはすでに、もともとUSITプロセスを適用したいくつもの例を公表してきた。そこでそれらを推敲して、USITマニュアルのプロセスとスタイルに沿ったUSIT適用事例にした。
一方世界中には、TRIZその他の方法を使って創造的に問題を解決した優れた事例がもっと沢山あり、さまざまな所で公表されている。それらは、もしわれわれがレビューして「6箱方式」のパラダイムで再構成するなら、一般的な方法論CrePSとそのプロセスUSITの適用事例を示す優れたリソースになる。そこで筆者は、他の著者たちが異なる方法を適用して公表しているいくつかの事例を選択して、それをレビューしUSIT適用事例の形に書き替えることを始めた。他の諸方法の適用事例を「6箱方式」でのUSIT適用事例に書き替える作業は、さまざまな方法を理解し、それらの方法を統合するのに生産的であることが分かった。
5.2. USIT適用事例集
図8は、今までに和文と英文の両方で記述されたUSIT適用事例10編の一覧である。各適用事例は、約20枚のスライドからなり、USITマニュアルに従ったUSITでの手順の全体を記述している[9]。
図8. USIT適用事例10編(USITマニュアルに従って記述されたもの)
5.3. USIT適用事例3: トイレの節水問題
図9に示す適用事例は、H.S. Lee & K.W. Lee (韓国)[17]がTRIZを使って行った問題解決に基づいて、筆者が書きなおしたものである。従来のトイレは便を流すために多量の水を必要とする。原著者たちは、便器の後ろのS字管が問題の根本原因であることを見出し、問題を「物理的矛盾」として定式化し、アルトシュラーの時間による分離の方法で解決した。
図9. USIT適用事例3: 物理的矛盾をTRIZで解決した事例(原作: H.S. Lee & K.W. Lee [17])
USITでは、問題の時間特性の分析において、S字管を存在させる/存在させないという二つの対立する要求があることが認識される。そして、理想のシステムとは、通常はS字管が存在し、かつ、便を流すときにはそれが存在しないことだと理解される。第4箱では、「時間に応じて(あるいは使用条件に応じて)パイプの形が変わればよい」というアイデアが自然に得られる。そして、解決策コンセプトが第5箱のように構築された。
このようにして、USITでは、物理的矛盾は現在システムを理解する早い段階でスムーズに認識され、また、理想のシステムの考察とアイデア生成が、アルトシュラーの分離原理による方法をスムーズに反映したやり方になっている。
5.4. USIT適用事例4: 額縁掛けの問題
図10には標準的なUSIT適用事例の全体像を示す。この事例は、もともとEd SickafusがそのUSIT教科書[1]で記述し、その後何回も筆者が推敲した。
図10. USIT適用事例4:額縁掛けの問題
この適用事例の焦点は、現在システムの属性分析と機能分析をどのように表現するのがよいか、さまざまな有効なアイデアをどのようにして生成するとよいか、であった。特にこの後者の課題への取り組みが、われわれをUSITオペレータ体系の開発に導いた[4]。われわれの最近の研究は、この問題もまた物理的矛盾の事例と理解することに重点を置くようになった。傾きを調節している最中は紐が釘上で滑らかに動き、調節が完了した後は紐は釘上で動いてはいけない。この認識の結果、われわれは解決策コンセプトを選択する評価基準を見直すことになった。
5.5 USIT適用事例5:発泡樹脂シートの発泡倍率を増大させる問題
適用事例5(図11)は、化学工学における実際の技術的問題を扱っている。高分子樹脂の発泡シートを製造するための技術開発の研究プロジェクトにおいて、発泡倍率を向上させることが当面の課題であった。筆者はこの問題を、1999年にEd Sickafus が指導した3日間USITトレーニングセミナーに持ち込み、USITのParticles法を用いて1日で解いた[18]。この適用事例は、Particles 法および時間依存のプロセスを扱った良い参考例である。
図11. USIT適用事例5:発泡樹脂シートの発泡倍率の増大
6. おわりに
最後に、今後の問題と課題をまとめておく。
- CrePSのビジョンと「6箱方式」という新しいパラダイムを、一層明確にし、広く共有されるようにする。
- 創造性とイノベーションの諸方法をさまざまなタイプの実問題に適用した事例研究を、体系的に収集し、吟味し、記録して、CrePS方法論とそのプロセスを開発する基礎を形成する。
- さまざまなタイプの「現実の世界」での活動(図5に示すようなもの)を、創造的な問題解決の側面から吟味し分類して、創造的な問題解決のプロセスについての要件を明確にする。
- 「6箱方式」を実行するための「思考の世界」での諸プロセス(図1)を、創造性とイノベーションのための諸方法を学び統合することによって、豊かで、有効で、それでいて扱いやすくする。
- 「現実の世界」のさまざまに異なるタイプと、それらの活動のさまざまなカテゴリに対応して、「思考の世界」での諸プロセス(例えば、USIT)になんらかの適当なバージョンと調整を行う。
- 概念、方法、ツール、ドキュメントなどが、公開で広く知られるように普及させる。
- さまざまに異なる創造性とイノベーションの諸方法の研究者や推進者の協力を実現する。
ここにわれわれの新しい目標/ビジョン[7]を再度掲げておく。
「創造的な問題解決と課題達成のための、一般的な方法論を確立し、
それを広く普及させて、
国中の(そして世界中の)さまざまな領域での 問題解決と課題達成の仕事に適用する」皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
参考文献
[1] “Unified Structured Inventive Thinking : How to Invent“、(Ed N. Sickafus,. Ntelleck, 1997), pp. 488.
[2] SITを企業研修プログラムに採用した論拠 (E. Sickafus, TRIZCON99発表);THPJ(1999. 5. 8 (J)
[3] 日本におけるTRIZ適用のアプローチ (中川 徹) (TRIZCON 2000) 、THPJ (2001. 2.28) (J)
[4] TRIZの解決策生成諸技法を整理してUSITの5解法に単純化する (中川 徹・古謝秀明・三原祐治) (ETRIA TFC 2002)、THPJ (2002. 9.18)(J)
[5] TRIZ/USIT における創造的問題解決の全体構造 (中川 徹) (TRIZCON 2005) (掲載: 2005. 3.24)(J)
[6] 創造的問題解決の新しいパラダイム: USITの「6箱方式」 (中川 徹) (ETRIA TFC 2006) (2006.11. 1、11.29)(J)
[7] 創造的な問題解決・課題達成の一般的な方法論 (CrePS)−そのビジョン (中川 徹)(日本創造学会、ETRIA TFC2013)、THPJ (2013.10.25 (J))
[8] USITマニュアル -- USIT:「6箱方式」による創造的な問題解決の一貫プロセス(中川 徹)、THPJ、(2015. 5.25)(J)
[9] USIT 適用事例集、(中川徹)、THPJ、2015. 5.23 (J)
[11] Litvin, S., V.Petrov, M.Rubin. ‘TRIZ Body of Knowledge’, URL: http://triz-summit.ru/en/203941/, 2007. 4. 2
[12] 『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』、Darrell Mann著、中川 徹監訳、初版2004、改訂版2014
[13] ‘Systematic Innovation: Past, Present and Future’, Darrell Mann, ICSI 2015, Hong Kong, Jul. 15-17, 2015.
[14] 創造的な問題解決・課題達成のための一般的な方法論(CrePS): いろいろな適用事例と技法を「6箱方式」で整理する (中川 徹)(日本TRIZシンポジウム、日本創造学会、ETRIA TFC 2014) (2014.11. 7)
[15] USIT プロセスの全体資料(索引): USIT: 「6箱方式」による創造的な問題解決の一貫プロセス、中川 徹、THPJ、2015. 5.24
[16] 『TRIZホームページ』、中川徹編集、URL: http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/
[17] 物理的矛盾を解決したTRIZの実地適用事例: フレキシブル・チューブを使った超節水型トイレ・システム、(Hong Suk Lee、Kyeong-Won Lee)、TRIZ Journal, 2003.11; THPJ、2004. 1. 8 (J)
[18] USIT法の適用事例報告(2)高圧ガス入り溶融ポリマーから多孔性樹脂を成形する場合の発泡倍率の増大、中川 徹、THPJ、1999. 7. 2 (J)
注: THPJ は『TRIZホームページ』[16]の略号。
(J) は和文、(E) は英文
筆者の論文・記事の大部分は和文・英文の両ページを並行掲載しているが、本稿では和文のタイトルだけを示す。
発表スライド PDF (25枚、364 KB)
1. はじめに
2. 「6箱方式」: 創造的な問題解決の新しいパラダイム
3. 創造性とイノベーションのための多様な方法を統合する可能性
4. USITプロセス: 「6箱方式」の実践
5. 「6箱方式」で記述したUSIT適用事例
6. おわりに
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最終更新日: 2016. 5. 8 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp