TRIZ教材

連載: イラスト教材:
階層化TRIZアルゴリズム

Larry Ball 著 (米国、Honeywell社)
(2005年5月、TRIZ Journal 連載開始)、
高原利生 () ・中川 徹 (大阪学院大学) 訳
(2006年 1月、TRIZホームページ連載開始; 2007年 7月連載完了)

許可を得て掲載。無断転載禁止。   簡易版: 序, A, B, C, D, E, F, G, H, I, J, K, L, M, N (導入部・簡易版全章掲載完了: 2006. 9. 6)
詳細版 (2007: 1. 7 掲載開始): A, B, C, D, E, F, G, H, I1, I2, J, K, L, M, N
(詳細版全章掲載完了: 2007. 7.22)
[掲載開始:2006. 2. 1; 最終更新日: 2007. 7.22]

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ご案内:   翻訳連載を完了しました。     
            正式なCD-R (ドラフト)版 を、(株) 創造開発イニシアチブより購入できます
(税込み 5250円) (2007.11.1 中川)

編集ノート (中川徹、2006年 1月19日) 

ここに掲載しますのは、Larry Ball の新しいTRIZ教材であり、米国Honeywell社の社内で使われているものです。全体で約150頁あります。「市場」を見つけ、問題を確認・分析することから、解決策の案を多数出して、その実現を図ることまでの一部始終を、独自の体系化と独自の説明のしかたで記述しています。多数のイラストを含んでいることが、この教材を分かりやすくしている大きな強みです。この教材を読んで、「目から鱗が落ちた」と感じる読者の方が多いことだろうと思います。

Larry Ball の教材が最初に公表されたのは、2002年 3月の『TRIZ Journal』上です。膨大な本体とその解説 (ユーザ・マニュアル) とからなるものでした。その和訳の許可を得て、解説の部分だけを和訳し、『Breakthrough Thinking (ブレイクスルー思考法)』というタイトルで本『TRIZホームページ』に掲載しました (2003年 3月)。Larry Ballはその後改訂して第2版を公表しましたが、私には和訳をする時間がありませんでした。著者はさらに大幅に改訂して、今回新しいタイトル 『Hierarchical TRIZ Algorithms』として発表しました。発表は『TRIZ Journal』上で2005年5月から連載を開始し、毎月一つずつの章が掲載されています。それと共に著者は全セットの一括販売をも同時に開始しております。小生はすぐに全セットを入手し、さらに著者から和訳と本ホームページ上での掲載の許可をいただきました。

和訳作業は膨大な仕事になると予想しました。昨年 7月末に私は、高原利生さんにこの和訳をしていただけないでしょうかとメールで打診しました。当時私が知っていましたのは、高原さんが富士通を定年退職された技術者であり、TRIZを独学で学ばれ、すでに『TRIZ Journal』に 2、3編の理論的な英文論文を寄稿しておられ、TRIZシンポジウムに論文を投稿してきておられることだけであり、(同時期に富士通に所属していたわけですが) 面識はまったくありませんでした。高原さんは原著を読んですぐに興味を示され、早速に翻訳を始められました。約100頁の本体部の和訳初稿ができましたのが 8月末、付録の約50頁の初稿ができましたのは9月末でありました。その集中力に私は目をみはった次第です。その訳を推敲して仕上げるのが中川の責任でしたが、なかなか時間がとれず、最初のごく一部分を推敲したのが10月下旬のことです。その後高原さんが何回か全体を推敲されました。この正月に比較的集中した時間が1週間とれましたので、中川がさらに20頁ばかりを推敲し、ともかく (今後自転車操業ですが)  連載を始める目処をつけることができました。

この教材の構成は、下記の一覧表のようになっています。その特長は、問題解決の過程に沿った10章があり、その後に複数過程に関わる概念を説明している 3章が (かなり大部の) 付録としてあること。また、各章は導入部と簡易版および詳細版とから構成されており、まず簡易版を通して読んでから詳細版を学習することが可能になっていることです。

章番号
タイトル
導入部+簡易版
詳細版
ページ数
掲載日
ページ数
掲載日
0. はじめに 4 + 0
(311KB) 2006. 2. 1
 ---
A. 市場を発見する 2 + 1 (168KB) 2006. 2. 1 (316KB) 2007. 1. 7
B. システム機能を明確にする 3 + 1 (169KB) 2006. 3. 6 (218 KB) 2007. 1.22

C.

物理現象を特定する 1 + 1 (137KB) 2006. 3. 6 (231 KB) 2007. 1.22
D. システムオブジェクトを特定する 1 + 1 (103KB) 2006. 3. 6 3 (132 KB) 2007. 1.22
E. システムを単純化する (究極の理想解) 1 + 1 (129KB) 2006. 4. 4 (274 KB) 2007. 2.15; 微修正 2007. 4. 5
F. 主な問題は何か? 1 + 1 (95KB) 2006. 4. 4 (116 KB) 2007. 4. 5
G. 何が問題を引き起こすか? 2 + 1 (107KB) 2006. 4. 4 (203 KB) 2007. 4. 5
H. 問題解決のためにノブを回せ 2 + 2 (198KB) 2006. 5. 8 (123 KB) 2007. 4. 5
I. 得られた矛盾を解決する 3 + 7 (437KB) 2006. 7. 4 13 (873 KB) 2007. 5. 6
11 (843 KB) 2007. 5.23
J. 解決策を実現する 2 + 1 (185KB) 2006. 9. 6 (396 KB) 2007. 7.22
K. 付録. 機能を理想化する 有用機能の理想化 1 + 0 (128KB) 2006. 9. 6 10 (1065 KB) 2007. 2.15; 3. 1; 微修正 4. 5
有害機能の理想化 4
検知・測定機能の理想化 9
L. 付録. ノブの一覧表 1 + 0 21 (375 KB) 2007. 6.24
M. 付録. システムの進化 1 + 0 (444 KB) 2007. 7.22

N.

付録. その他 1 + 0 (86 KB) 2007. 7.22

そこで、本『TRIZホームページ』では、まず、各章の導入部と簡易版とだけを通して連載することにします。この教材の特長は例を示すイラストが非常に豊富なことです。原著者からPowerPointファイルの提供を受け、原図を活かして、レイアウトも基本的に原著どおりにしています。また、訳文は、原著の意図に忠実な訳を心掛けています。中川の他の訳書と同様に、[ ] 内が訳注です。

掲載は各章ごとに (導入部と簡易版とをまとめて) PDFファイルにしました。上記の一覧表のアイコンをクリック下さい。

和訳と本ホームページでの掲載を許可いただいた原著者のLarry Ball 氏に心より感謝いたします。

なお、詳細版の掲載については、今後、有償化の可能性、印刷物としての販売の可能性を含めて、検討することにしています。[原著者は、各章を『TRIZ Journal』で無償公開をしていますとともに、一括ダウンロードを有償とし、また、印刷物を有償にしています。]  この翻訳作業に関して創造開発イニシアチブ(株) から情報共有サーバの提供などをいただいており、受注ベースでの印刷物の有償提供の可能性などを考えております。 [追記 (2006. 9. 6、中川):  簡易版の全章完成を機に、ここに書いていますことを明確にしたいと思っておりますが、決定まで少し時間がかかりそうです。]

[追記 (2007. 1. 6、中川):  多忙のため4ヶ月間掲載できませんでしたが、新年から詳細版の翻訳・掲載を始めます。翻訳・推敲していて本当に豊かな教材だと再認識しました。やはり多くの方に読んでいただくことを最優先にするべく、各章を無償で逐次掲載いたします。全章の注文印刷、書籍刊行については追って計画したいと思っております。]

なお、本書の「0. はじめに」の部分を、特別にHTML 形式で以下に示します。本書の趣旨・特徴・成り立ちなどをご理解いただけると思います。(PDFファイルとしても掲載していますので、上記の一覧表からクリック下さい。) また、掲載に応じて、掲載部分の簡単な紹介を本ページの末尾に記述追加していきます。

原書の表紙
和訳書の表紙
はじめに
本書が生れるまで

[追記 (2007. 4. 5、中川) :  本件の教材の著者 Larry Ball が、今年の第3回TRIZシンポジウムにおいて基調講演をしてくれることになりました。ご期待下さい。本件詳細版の翻訳も残り46頁 (訂正: 57頁) となりました。できるだけ早くに掲載完了するよう努力しております。]   [あと残り12ページだけになりました。(2007. 6.24、中川)]

[追記 (2007. 5. 6、中川):  本教材の翻訳を進めるにつれて、内容の膨大さとその独自さが明確になってきました。教材を分かりやすくまとめた補足資料の必要を感じております。その断片のものを、とりいそぎ別ページに掲載します: 『階層化TRIZアルゴリズム』--補足資料 (中川 徹)。]

[追記 (2007. 7.20、中川):  本日、付録J、N 章の翻訳を終え、本教材の全編の和訳を完了しました。高原さんに翻訳を打診してから丁度丸2年になります。また、ちょうど、本日第3回TRIZシンポジウムでの基調講演として、著者 Larry Ball の発表原稿を受領しました。本件の教材を十分に利用され、著者の講演を聞いて、新しい重要な観点を会得いただけますと幸いです。教材全編の出版を検討しておりますが、読者の皆さまのご支援/ご理解をいただきたいと思っております。]

[追記 (2007.11.1、中川) 教材全編の一括PDFを、CD-R (ドラフト) 版として、(株) 創造開発イニシアチブより頒布いたします。ご案内ページを参照の上注文下さい。なお、この連載のページは当分このまま公開いたします。]


原書の表紙:

 


和訳:

はじめに

この本はTRIZの「使い方」を書いている。初心者にも高度なユーザにも使えるように、ステップを追ったプロセスを説明している。各ステップには、簡易版 (初心者用、また比較的簡単な問題向け) と詳細版とがある.

この本は絵入りの料理の本のようなものである。左上から始めて右下で終わるように読む。読者はステップごとにまず最初の説明を読み、そして簡易版を読むとよい。そのステップをもっと詳しく知りたいときに詳細版が役に立つ。

この本はパソコンの画面のままでは読みにくい。電子ファイルをダウンロードした読者には、それを印刷してバインダに綴じるようにお薦めする。各章には見出しマークが付けてあり、それらはバインダの表紙に示したステップに対応している。印刷本には見出しのラベルが付属しているので、各自貼り付けられたい。

私が所属する会社 (Honeywell社) は、TRIZの著書の出版を私に許可してくれたが、私の著作の中身を支持・承認していることを意味するものではない。

本書「階層化TRIZアルゴリズム」“Hierarchical TRIZ Algorithms”の背後にある論理を説明するキーポイントとして、以下の点を議論しておこう。

フォーマットの目標

この本の記述形式は、下記の諸目標に従って選んだものである。

・柔軟な対応

問題解決のプロセスは、学ぶ者の能力と問題の難易度に応じて、さまざまなレベルで教えることができ、使うことができる。三つのレベルを用意している。

表紙: 最上位の全ステップを表紙に示した。このレベルでは、ユーザは自由に頭を働かせて各ステップの答えを書き出し、そして次のステップに進む。
簡易版: 各章の先頭に書いている。
詳細版: より上級のユーザまたは高度な問題向け。

この教え方は、音楽から数学まで多くの科目の教育に広く使われている。そのポイントは、学習プロセスの中で成功体験を積んで、学生の能力を徐々に増していくことである。

・やさしい用語

多くの専門分野と同様に、TRIZの用語には学びにくいものが多い。一つの目標は、学生たちがすでによく知っている概念に対応した用語にすることである。例えば、「ダイナミック性 Dynamism」を 「調節可能にする Make Adjustable」に改め、「局所的性質 Local Quality」を「不均一にする Non-uniform」に改めた。それでも、かなりの数の新しい用語が不可避であり、 [初心者を混乱させないように] それらは高レベルのクラスではじめて導入するように注意した。

・ステップ幅を小さく

多くの初心者が、TRIZの文献に示されている一見「自明な」正解の解決策につまずいてしまう。これらの解決策の多くは、見せられて初めて明らかだと分かるもので、直観的な大きな飛躍が伴う。一部の教師たちはこれらの大きな飛躍がTRIZの力を証明するものだと思い、それらを学生たちに印象づけようと試みるだろう。しかし不幸なことに、多くの学生たちは、そのような解決策が自分にはそれほど明らかでないと感じ、がっかりしてしまう。本書の解決プロセスの一つの目標は、ステップ幅を小さくして、少数の大きな飛躍によるのでなく、いくつかのもっと小さいステップによって解決策を得られるようにすることである。

・視覚化

「ステップ幅を小さく」 という方針と同様に、はっきりと理解できるようにするためには、解決策を視覚化する必要がある。各ステップは、ユーザが最終的解決策を視覚化できるように助けるべきである。古典的TRIZのステップを展開 (詳細化) して示すと、エレガントさや簡潔さが犠牲になると感じる人がいるかもしれないが、解決策をより容易に視覚化できるようにすることが目標である。

・解決策の完全さ

解決策という言葉は、さまざまな人にとって違ったものを意味する。本書でいう解決策とは、一つのスケッチであって、それを使ってハードウェアの設計を始められるようなものと定義する。難しい矛盾や解決すべき問題が残っていてはならない。この意味では、問題を解決するのに使えるかもしれない物理的現象を単に指摘しただけでは、まだ解決策とはいえない。なぜなら、多くの難しい問題が不可避的に残っているからである。

決定プロセスの階層化

本書は「変化の階層」 [すなわち、決定プロセスの階層化] を提案する。そこでは、ある決定が他の決定に優先・先行することが不可避であることを仮定する。その階層に含まれる決定点というべきものには、つぎのものがある。

1. 市場 (人のグループと一つの仕事)
2. システム機能
3. その機能を提供する物理現象
4. その物理現象を提供するオブジェクト
5. ある必要な改良Y
6. Y を制御する独立変数 (x1, x2, x3, ...): ノブ(Knobs)
7. ノブ(Knobs) の設定 (しばしば矛盾を生成する)
8. その矛盾の解決
9. より重要度の少ない設計パラメータ

これらのどのレベル [階層] における変化 [決定] も、後に続く全てのレベルに影響する。もしどこか途中のステップから変化を始める場合には、意識的であれ無意識的であれ、不可避的に [それ以前のレベルに関して] いくつかの仮定を置かなければならない。

このような階層が存在するとすれば、「全ての変化 [決定] プロセスは、この階層を扱っているのだとみなせる」。この宣言がTRIZコミュニティに有益な論争を巻き起こすことを期待する。

TRIZの諸ツールの順序づけ

古典的TRIZの諸ツールは、上記の階層の多くの段階を横断して広がっている。このことはつぎのようないくつかの大きな欠点を生じる。

・ [階層の段階を] 大きく跨がっている場合には、TRIZの基本理論そのものを進歩させることが困難になる。このオーバーラップを取り除くと、いままで見えなかったパターンが姿を顕す。これらのパターンはTRIZの理論とツールをさらに発展させる助けになる。

・ 理論が現実にどれだけ合っているかを見ることで、科学は進歩する。一貫した理論がなかったら、ツールが欠如している場合を指摘したり、また一つのツールを見つけたときにそれをどこに当てはめればよいかを判断することが、困難になる。理論に対する例外が見つかると、その例外をも説明する新しい理論が進展できるのである (「変化の階層」というのは、そのような一つの理論の始まりなのかもしれない)。

・ 初心者はしばしば、「どこから始めたらいいのか分からない」と感じる。「変化の階層」は、明確な開始点と解決の道筋を与えている。

本書に示す内容は、古典的TRIZの諸ツールを一旦ばらばらに分解し、この変化の階層に従ったステップ群にそれらを組み立て直した結果である。これらのステップ群を順序づけるにあたって、ある一つのステップを実行するには、先行する諸ステップの出力が必要であるように [すなわち、決定プロセスを階層化するように]、注意した。

解決策の分岐

この直線的に並んだ各ステップ中の決定点は、この「変化の階層」に従っている。その結果、問題解決プロセスは自然な複数の決定点を辿り [各段階での決定に応じて解決策のための指針が違っていくから]、複数の解決策に分岐していく。

本書が生れるまで

若いころ、私は発明を夢想し、実際多くの「発明」をしたが、それらは無残な失敗に終わった (今にして思えば、これらの失敗がその後の私の発明のキャリアを準備したのだと思う)。 高校を出たとき、発明をするには工学の教育を受けるべきだと、私は確信した。そして技術者になり、発明をし特許を取るための努力を続けた。研究開発に携わったので、発明する機会に多く恵まれた。仕事は楽しかったが、「本当はもっとうまくできるはずだ」といつも感じていた。

1992年ごろ、仕事の同僚が私の最初のTRIZとの出会いをもたらしてくれた。お互いの紹介のとき、彼は、「妥協することなく矛盾を解決できるのだ」と説明してくれた。この説明は私の心をとらえた。彼は私にヘンリー・アルトシュラーの『厳密な科学としての創造性』という本を読むように薦めてくれた。この本は、私が期待したとおりのすばらしい本であった。困難な発明的問題を解決するために、繰り返し使えるアルゴリズムを記述していた。私はそのアルゴリズム (ARIZの一つの版) をコピーし、すべての適当な問題にそれを適用してみるという、苦労の多い仕事を開始した。

最初に私が使ったワークシートは、アルゴリズムのステップごとに答えを埋めていかせるものであった。しかしアルゴリズムを使うたびに、私にはフラストレーションが溜まっていった。このアルゴリズムは、最初に「技術的矛盾」を見つけ、つぎに「物理的矛盾」をつけるように要求していた。私は毎回このステップで躓き、何を間違っているのだろうかと思っていた。そのアルゴリズムは、「物理的矛盾はたまねぎの皮をむくようにして見つかるのだ」と教えていた。「技術的矛盾」が外側の層を成し、「物理的矛盾」はその内部に見つかるのだと。

幸いなことに、初期のDOSバージョンのInvention Machineソフトツールが使っていたアルゴリズムは、最初に一つの形式の「物理的矛盾」を見つけ、それを使って「技術的矛盾」を見つけていた。これが私に一つの鍵を与えてくれ、私はアルゴリズムを定式化し直して、「技術的矛盾」と「物理的矛盾」の両方を見つけるためのずっと簡単なバージョンを作ることができた (「I. 結果としての矛盾を解決する」の導入部を参照)。私はこのアルゴリズムを使う自信を次第に身につけていった。

他の著者たちが、問題解決の諸方法でアルゴリズムの中にないものを記述していた。それらも、表・リスト・チャートなどと共に付け加えていった。いまや私は繰り返し使える便利な参考書をもっていた。それを使うたびに、少しずつ洗練していった。

そのころ私は、「物理的矛盾」を解決する自分の能力を高めることに大変熱心になっていた。大抵の本は、[「物理的矛盾」を解決するのに] 三つの一般的カテゴリについて述べている。すなわち、時間による分離、空間による分離、そして (オブジェクトまたはシステムの) 全体と部分との間での分離である。私は、それぞれのカテゴリをもっと細かなステップに分解できれば,「物理的矛盾」を解決するのにもっと効率が良くなると思った。まず取っかかりとして、「40の発明原理」の中から、「物理的矛盾」を解決するのに直接適用できる多数の原理を取り出し、それらをこの三つのカテゴリに分けた。発明原理のいくつかは、「物理的矛盾」を解決するのに極めて有用であるように見えるのに、既知の三つのカテゴリにうまく分類できなかった。それらはユニークなカテゴリをもっと付け加える必要性を示していた。

この抽出プロセスで取り残された発明原理群が私の心をとらえた。それらは一体 [アルゴリズム中の] どこに当てはまるのだろう? いくつかの発明原理は発明プロセスのもっと早い段階に当てられるべきなように見える。同じことは、「物質−場分析」や「発明標準解」に関してもいえた。私が欲しかったのは、TRIZのすべてのツールを含む一つのプロセスで、そこでは各ステップがそれまでのステップ群で得たものの上に構築されているようなプロセスである。こうして私は、TRIZのさまざまな方法をブレイクダウンして、これはもっと前のステップ、これはもっと後のステップであるべきだと思うものに分解していくことを始めた。これがTRIZに階層化アプローチを適用した始まりであった。

1996年ごろ、私はTRIZのクラスを折にふれて教え始めた。他の人たちに説明するためには、自分でTRIZをもっとよく理解する必要が生じた。クラスに教えるには説明を付け加える必要があった。短いアルゴリズムが、もっと詳しい本になった。しかしこのアプローチは、期待したほどうまくは働かなかった。

ある日学生の一人が、「この本の一連のステップは重ったくて使いづらい」といった。彼が望んでいたのは、各ステップを短く記述したバージョンで、余計な細部を省略し、ずっとARIZに近いものだった。「カンニングペーパ」のような形式が望ましいと彼はいった。この意見に従って私は極めて短い小冊子を作った。それは数ページのアルゴリズムと必要な表とリストからなるものだった。このアプローチはクラスではうまくいくように見えたけれども、いまやその新しい教材はクラスから独立しては存在できなくなった。

他方、新しい効用が見出された。この形式の本を持っていると、理論やプロセスで欠けている点を見つけやすくなった。長年にわたり、新しいツールや事例が追加されて、このアルゴリズムの本は成長し続けた。(不幸にも、以前と同じくらい重いボリュームになってしまった!)

2003年3月号のTRIZジャーナルで、本書の最初の版を“Breakthrough Thinking with TRIZ”という題名で、無償公開した。第2版を2004年1月号に発表し、低価格の印刷本も作った。2004年にはその後題名を“Breakthrough Inventing with TRIZ”と変えた。2005年初めに題名をもう一度変えて、“Hierarchical TRIZ Algorithms” [直訳は「階層的TRIZアルゴリズム」だが、この訳では「階層化TRIZアルゴリズム」] とし、本書の特徴をよりよく表現した。この版では、章ごとに導入部を設け、例を増やした。

私の家族に特別の感謝をささげたい。みんなが私を励ましてくれ、この本の編集をし、夕食のテーブルやその他の逃れられないフォーラムでのTRIZ談義を我慢してくれた。みんなが私を助けて、ガレージの数え切れない試作品で私を勇気づけてくれるにつれて、発明することがみんなの生活の共有部となった。

Larry Ball

 


A. 市場を発見する     (詳細版:  (2007. 1. 7))

市場とは「ある仕事を実行しようとしている人々のグループ」であると理解するのがよい。すでに認識され、持続している市場と、まだ認識・特定されていない市場がある。人々がしていること、あるいは、していないができるものならしたいと思っていることをつかむとよい。

B. システム機能を明確にする     (詳細版:  (2007. 1.22))

つぎに、その仕事を実行するための本質的な「機能」を明らかにする。「機能」に関する用語を明確にして、一貫して用いることが必要である。本書ではつぎの表現を使う。「機能」は二つの物理的要素の間で実現され、「ツール」(作用を及ぼすもの) が、「プロダクト」(作用を受けるもの) に対して、「変更」(Modification) を起こす。この「変更」という用語は、本来の「機能」が、「〜を変化させる」または「〜を制御する」という意味でなければならないことを強調するためである。これにより、紛らわしい「機能」を正しく分解して、物理的なメカニズムを踏まえた「機能」で表現することができる。「機能」を正しく書くためのチェックリストも示した。

C. 物理現象を特定する     (詳細版:  (2007. 1.22))

つぎにこの「機能」を実現するための物理現象を特定する。持続している市場では従来からの物理現象を使うのが基本であり、成熟段階ではハイブリッド戦略を考慮し、新興の市場では新しい物理現象を使う機会が多くある。

D. システムオブジェクトを特定する     (詳細版:  (2007. 1.22))

さらにこの物理現象と機能を提供するシステムの「オブジェクト」(物理的構成要素、「もの」)を特定する。この際、できるだけ無駄なリソースの導入を抑えて、上位システム中のものを活用するとよい。

E. システムを単純化する (IFR)    (詳細版:  (2007. 2.15))

システム中のオブジェクトと機能について、それぞれをもっと理想的なもので置き換えられないかと考えよ。特に、要素の数を減らし、既存の要素がより多くの機能を引き受けることによって、システムの欠陥、害、困難を除くことを考えよ。

F. 何が主たる問題か    (詳細版:  (2007. 4. 5))

この課題で改善したいことは何かを考え、それをできるだけ短い語句 (あるいは一単語) で表せ (例えば、交換のコスト)。その語句を「従属変数」と呼ぶ。

G. 何が問題を起こす原因か    (詳細版:  (2007. 4. 5))

上記の改善したいことに関して、それを現在悪くしている (問題を起こしている) 要素 (特に、オブジェクトのノブ [属性]) にはどんなものがあるかを考え、それらを原因-結果の依存関係を示す図 (「原因-結果ダイアグラム」) として記述せよ。

H. 問題を解決するためにオブジェクトのノブを回せ   (詳細版:  (2007. 4. 5))

主たる問題に関わるノブ (オブジェクトの属性) を取り上げ、主たる問題を解決するためにノブを目いっぱい回せ (さまざまなノブの回し方は発明原理を参照せよ)。そうすると大抵、別の面が悪化して、矛盾が顕れるから、その矛盾を明確にせよ。

I. 得られた矛盾を解決する     (詳細版: (前半)  (2007. 5. 6), (後半)  (2007. 5.23) )

矛盾を明確に理解することが大事である。従来のTRIZでは技術的矛盾 (例えば、レーキの例では、「集めることが改善されると、掘り出すことが悪化する」) と物理的矛盾 (例えば、「レーキの刃は硬く、かつ、柔軟である必要がある」) の概念があったが、これらを総合した「(完全な)矛盾」 (例えば、「レーキの刃は、瓦礫を集めるためには柔軟である必要があり、地中に埋まった瓦礫を掘り出すためには硬い必要がある」) の概念が大事であり、それをダイアグラムで表現するとよい。この「矛盾」を解決するための「分離原理」は、通常の空間、時間、全体と部分による分離の他に、徐々に起こる変化、方向、観点、場の性質、物質と場の分離などに拡張することができる。「矛盾」の分類と、それを解決するさまざまな発明原理を、多数の図解で示した。-- [本アルゴリズムのハイライトである。多くの含蓄がある。(中川)]

[追記 (2007. 5. 6、中川): この矛盾を解決するための思考のロジックは「矛盾表」と読んでフローチャートにまとめてある (I12頁)。このフローチャートを分かりやすくして、「I12補」のぺージを作った。今後、補足資料を別ページにまとめることにする。]

J. 解決策を実現する     (詳細版:  (2007. 7.22))

解決策のアイデアを実現するために、日誌に図を描いて改良をつづけ、プロトタイプを作れ。解決策を組合せ、タグチメソッド (品質工学) などで最適化せよ。そして、(暫定) 特許を申請し、自ら出かけてライセンスすること、(あるいは自ら製造すること) を考えよ。

K. 付録: 機能を理想化する     (詳細版:  (2007. 3. 1))

機能の概念を精通し、その「究極の理想」を考えることが大事であり、上記本文の B, C, D, E章に跨がって考えるべきことである。また、問題の焦点となる機能が、有用機能、有害機能、および検知・測定機能の場合に応じて、考えるべきプロセスが異なり、それをTRIZでは「発明標準解」として提示している。このような広範な関連とプロセスの分岐のために、本章を「付録」として記述しているが、その重要性は決して付け足しの位置ではない。

L. 付録: ノブの一覧表     (簡易版は KLMN をまとめてPDF)(詳細版:  (2007. 6.25))

ノブ [属性] の一覧表であると同時に、上記(K章) の発明標準解においてノブを操作するさまざまな方法を例示している。本アルゴリズムでは、矛盾の解決をI章にまで繰り下げているために、伝統的な発明標準解よりもはるかに豊富なバラエティの解決策の方法を持つことができた。

M. 付録: システムの進化     (簡易版は KLMN をまとめてPDF) (詳細版:  (2007. 7.22))

技術システムの進化のトレンドを図示した。

N. 付録: 雑      (簡易版は KLMN をまとめてPDF) (詳細版:  (2007. 7.22))

必須のカルチャ・チェンジ、参考にした人々

 

以上 完

 

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最終更新日 : 2007.11. 1   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp