TRIZフォーラム: 読者の声
『トリーズの発明原理40』(高木芳徳著)の出版にあたって

高木芳徳(ソニー)、中川 徹(大阪学院大学)

責任編集: 中川 徹(大阪学院大学)

「読者の声」ページの索引ページも参照下さい

掲載:  2015. 1. 6

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  編集ノート (中川 徹、2014年11月14日、追記 12月23日)

ソニーの高木芳徳さんが、本年8月30日に下記の本を出版されました。(本の表題は、奥書き中のものを使いました。)

『トリーズ(TRIZ)の発明原理 あらゆる問題解決に使える[科学的]思考』
高木芳徳著、(株)ディスカヴァリー・トゥエンティワン、2014年8月30日刊、第1刷。

9月11日の日本TRIZシンポジウムの会場で、高木さんが、後述のメッセージ(D)をつけて本を私に贈呈くださいました。読んで、素晴らしい内容だと思いました (その後、Amazon.co.jp で工学部門、発明と特許の分野でのベストセラーになったことを知りました)。ただ、本の帯や「はじめに」の部分にはいろいろと誤解を招く、正しくない記述があると感じ、9月29日に高木さんにメール(E)を送りました。高木さんの返信は(F)のようです。

この本の良さと、その基礎になった高木さんのTRIZシンポジウムでの二つの発表を紹介することを主目的として、高木さんの承認のもとにつぎのものを掲載します。

(A) 「発明原理40のシンボル化」、高木芳徳(ソニー)、第8回日本TRIZシンポジウム(2012年 9月 6-8日、早稲田大学)、概要とスライド、和文&英文 (別ページ) ==>

(B) 「発明原理すごろく〜TRIZ発明原理40 on 9画面」、高木芳徳(ソニー)、第10回日本TRIZシンポジウム(2014年 9月11-12日、早稲田大学)、概要とスライド、和文&英文 (別ページ) ==>

(C) 『トリーズ(TRIZ)の発明原理 あらゆる問題解決に使える[科学的]思考』、 高木芳徳著、(株)ディスカヴァリー・トゥエンティワン刊。表紙、帯、p32 発明原理紹介ページの見方、p134-135 発明原理26 代替原理。(これらのページのPDFを、高木さん経由で出版社が提供くださり、画像化しました。 (株)ディスカヴァリー・トゥエンティワン社に感謝します。) ==>

(D) 高木芳徳さん==> 中川 へのメッセージ(書面) (9月11日)  ==>

(E) 中川 ==> 高木芳徳さん へのメール (9月29日)  ==>

(F) 高木芳徳さん==> 中川 へのメール  (10月 2日)  ==>

(G) 編集ノート後記(中川、2015年 1月 2日): その後の経過と補足  ==>

 

本ページの先頭 高木TRIZシンポ2012発表 高木TRIZシンポ2014発表 高木 著書 表紙など 高木メッセージ(9.11) 中川メール(9.29) 高木メール(10.2) 編集ノート後記(中川、12.23)

「読者の声」の索引

英文ページ

 


 

(A) 「発明原理40のシンボル化」、高木芳徳(ソニー) (2012年)  ==>

第8回日本TRIZシンポジウム 発表 (2012年 9月6 - 8日、早稲田大学)、

概要(1頁、HTML) 、 概要(1頁、 PDF)  、 スライド(HTML) 、スライド(PDF、日本TRIZ協会 )  

 


 

(B) 「発明原理すごろく〜TRIZ発明原理40 on 9画面」、高木芳徳(ソニー) (2014年) ==>

第10回日本TRIZシンポジウム(2014年 9月11-12日、早稲田大学)、    [スライド英訳支援: 中川 徹]

概要(1頁、HTML)  、 概要(1頁、 PDF)  、 スライド(HTML) スライド(PDF)  

 


(C) 『トリーズ(TRIZ)の発明原理 あらゆる問題解決に使える[科学的]思考』、 高木芳徳著、

(株)ディスカヴァリー・トゥエンティワン刊。

この本は、2012年と2014年のTRIZシンポジウムでの発表内容をすべて取り込んで、さらにいろいろの配慮がしてあります。

この本の紹介として、以下に、表紙、帯、発明原理紹介ページの見方(p32)、 発明原理26 代替原理(p134-135) を画像で示します。この本の素晴らしさは、これらのページによく表れていると思います。

 

 

p32

 

p131

 

p132

 

 


(D) 高木芳徳さん==> 中川  メッセージ(書面) (2014年 9月11日)

中川 徹 様、 ソ二−の高木です。 いつもお世話になっております。

お陰様で、2年前のTRIZシンポジウムにて、特別にはからっていただき、[シングルセッションで] 皆様の前で発表させていただいたTRIZの発明原理シンボル が、その日から2年の執筆期問を経て一冊の本になりました。

私もTRIZ協会の一端として、TRIZの幅広い普及をめざし、通常、専門書 [の棚] に置かれてしまいがちなTRIZを一般書のところに置いてもらえるよう、TRIZの発明原理を身近なものと繋いで説明いたしました。

出版社さんも、ロングセラーにしたいと力を入れて下さいまして、ご覧の通り、カラーにしたり、イラストを200点以上描きおろしていただきま した。そしてディスカバー社の社長自ら、編集に携わって下さいました。

この本を入門といたしまして、「もっとTRIZ」を知っていただく際には、 181ページにございます通り、中川様監訳の「体系的技術革新」を最大のバイブルとしてご紹介させていただいております。

ぜひ、TRIZの幅広い層への普及の一助として役立てていただけますと、 2年前に特別に配慮していただいた恩返しとなり、幸甚の至りです。 どうぞ、今後ともご指導ご鞭捷のほど、よろしくお願い申し上げます。

                                  高木 芳徳


(E) 中川 ==> 高木芳徳さん  メール (2014年 9月29日)     [注: ] の部分は、本サイト掲載に際しての中川の補足です。 

高木 芳徳 様            

トリーズの40の発明原理の本を、(出かけたときに電車の行き帰りなどの時間で)読ませていただいています。もうすぐ読了。

本体部分の構成、発明原理のまとめ方、一つ一つの原理の説明、例の取り上げ方、など 全体としても、細部についても  非常によく配慮されていて、素晴らしいと思います。

英文での Lev Shlyak の本 [注:和訳、『超発明術TRIZ 3 テクニック編「図解 40の発明原理」』(日経BP、1999年刊。現在絶版。] が今まで最もよく知られていて、機知にとんだ本でしたが、高木さんのこの本の内容はそれ以上に素晴らしいと思います。

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ただ、本体よりも「前にある」表紙やまえがき部分に関しては、恐らく出版社のかたの表現が多いのだろうと思いますが、いわゆる「ジャーナリスティック」な書き方そのもので、1990年代後半の、TRIZがまだなぞに満ちていた時代のセンセーショナルな書き方を踏襲しており、その結果いくつもの間違い、誤解を生じていると思います。

中川のホームページの「実践者のための入口ページ」中にリストしたつぎの二つの記事を読んでみてください。

TRIZ母国訪問記 (ロシア・白ロシア, 1999年8月) (中川 徹)(1999. 9. 9) http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jforum/TripRus990909/TripRussia990909.html

ゲンリッヒ・サウロビッチ・アルトシュラー先生の思い出 (Phan Dung、訳:中 川 徹)(2001. 5. 8) http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jforum/PhanDung-Altshuller010506.html

これらの記事で旧ソ連におけるTRIZの発展の状況を知ると、次のような (日本でたびたび書かれている) 記述は誤りだと、私は思います。

(a) 「(旧ソ連海軍の)特許審議官であったアルトシュラーが開発した・・・」      [誤解を招く表現]

アルトシュラーがそれに近い職にいたのは、20歳前後の数年だけであり、1949年に反体制であるとして強制収容所に送られ、出所以後も公的な活動をほとんど認められなかった。

20歳前後はTRIZの着想を得た段階であり、開発したのはずっと後のことである。

[注: この表現は、残念なことに、日本TRIZ協会の公式ホームページの「TRIZとは」の記事の冒頭にもあります。この記事を協会が掲載する準備をしたとき(2012年1月頃)、私はこの誤り(およびその他の修正するとよい個所)を指摘して、記事の撤回・書き替えを提案したのですが、1対多で否決され、いまも協会ホームページ上に残っています。(2014.12.22)]

(b) 「TRIZが旧ソ連の技術力を支えた」      [正しくない]

TRIZは旧ソ連の「体制」 (公的な組織) によって、公的に認められたことは一度もありません。ずっと、「反体制」として抑圧されながら、草の根で開発を進め、弟子たちを養成していったのです。   

それを支えたのは、アルトシュラーが「ヘンリー・アルトフ」という ペンネームで沢山のSF [Scientific Fiction]を出版し、それらがベストセラーになっていて、資金的にまかなえたからです。
もちろん、アルトシュラーの情熱と、弟子たち・共同研究者たちとの共同作業がありました。

このような状態で、旧ソ連の技術力には、TRIZはほとんど寄与できなかった、寄与する場を与えられなかった、と私は思います。[注: 旧ソ連の技術力は(TRIZが支えたのではなく)、西欧的なアカデミズムがあったからでないか。アルトシュラーの教育姿勢もそのようなアカデミズムを一部に反映しているのでないか、と私は感じています。」

また、旧ソ連出身の多数のTRIZマスターたちの誰一人も、「TRIZが旧ソ連の技術力を支えた」と言った/書いたことはないと思います。

(c) 「TRIZは 旧ソ連で門外不出 (の機密) であった」        [正しくない]

旧ソ連では、体制側がTRIZを (重要なものと) 認めていないのですから、アルトシュラーとその弟子たちが公的でない草の根活動をしていることを無視していた というのが実情と思われます。   

体制が「門外不出として、コントロールしていた」という理解は正しくありません。

[まず第一に、アルトシュラーのTRIZに関する著書がいくつも、ロシア語で出版され、それらは旧ソ連国内でかなり広く読まれたようです。(例えば、"The Innovation Algorithm"。これは、1969年に初版が発行され、1972年には和訳が出版された。) だから、TRIZは旧ソ連の中で機密であったわけではありません。旧ソ連の圏外にあまり出なかったのは事実ですが、旧ソ連が国家として門外不出としてコントロールしていたということではないといえます。(2014.11.14)]

実際に、TRIZの考え方は、1985年以前にもいろいろと旧ソ連圏外に人や著作の形で (少しですが) 流出しています。

日本では、1972年にアルトシュラーの本の和訳が出版されているのです。つぎの記事を参照ください。

「TRIZ研究ノート: 日本における初期のTRIZ紹介: 発明課題の解決アルゴリズム -- ARIZ法」  川嶋 浩暉 (日立建機株式会社)  http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/Kawashima86.html   

1980年前後に アルトシュラーの弟子たちの一部がイスラエルに移住し、TRIZを簡略化したSIT法を開発している。

Lev Shlyakは、1974年に旧ソ連から米国に正規に移住し、米国でTRIZの考えを使って活動した。
(彼は、1995年にアルトシュラーから「Altshuller Institute for TRIZ Studies」の設立の許可を取り付け、1998年に米国で設立し [1999年3月に] TRIZCONの開催を開始した。[注: 残念なことに、1999年12月に自ら操縦する飛行機事故で死亡した。])

(d) 「TRIZ(の発明原理)は数百万件の特許の分析から作られた」      [誤解を招く表現]

この表現も、ジャーナリスティックにはよく使われますが、どの時期のことまでを言っているのかで、誤りであったり、誇張であったりします。   

(1) 1970年代の初めで、アルトシュラーが「矛盾マトリックス」と「40の発明原理」を作り上げた段階では、 彼が使ったのは、世界的な(西側の)特許文書ではなく、旧ソ連での「著者証明書」と呼ばれるもので、それは、A4 1頁だけの文書である。 扱った件数も、14万件(あるいは40万件) と言われている。 [注: このあたりのことをきちんと記述したものが、あまり見当たらない。]

(2) ともかくアルトシュラーは、「紙と鉛筆」での作業を行ったのであり、現在のレベルよりもはるかに簡単なことしかできなかった。 1985年あるいは1990年までの段階は、本質的に同様である。   

(3) 1986年以降、ミンスクのInvention Machine Project のグループが米国に渡り、世界の特許のコンピュータによる意味解析を始めて、1990年代末ごろ「世界の特許250万件余を 解析して、知識ベース化した」と主張した。 -- Effectsデータベースなどに反映されている。 ただ、この段階では、発明原理や「矛盾マトリックス」の更新などは行われていない。どこまでの深い分析であるかが明確でない。発表されていない。   

(4) 2000年以後、Darrell Mann たちが、「1985年以後の米国特許の全件を分析して、TRIZの知識ベースを刷新する」というプロジェクトを開始し、その成果を、TRIZCON2003で発表した [注: ]。 「全件」をまず自動的なツールでふるい分け、約1割だけを残し、詳細な分析を(人の判断とコンピュータ処理で)行った。 この結果をTRIZ知識ベースのいろいろなものの刷新・改良に使った。 「矛盾マトリックス」を刷新して「Matrix2003」を作った。

(5) Mann はこの大規模な研究を継続しており、Matrix 2010が最新版である。Mann は 新版Matrix の有効性についての検証もしている。このような分析が行われたのが、最近の段階で数百万(300万)件余と言われている。 Mannの活動に関する上記の項目は、すべて『TRIZホームページ』 中に論文として記述されています。

上記のような記事を読んで、上記の観点から、御書の「帯」や「はじめに」 の部分を、ご検討いただけるとよいと思います。

高木さんのこの本はきっとたくさんの人たちに読まれるでしょうから、やはり誤解を拡大しない方がよいと思い、あえてこのメールをお送りいたします。

 


(F) 高木芳徳さん==> 中川 メール   (2014年10月 2日)

 

中川先生 高木です いつもお世話になっております。 当方、子持ち共働きゆえ、あまり平日は時間が取れず、お返事が遅くなってしまい申し訳ございません。

誠に力の入ったご感想とご指摘、ありがとうございます。

> 英文での Lev Shlyak の本が今まで最もよく知られていて、機知にとんだ本でしたが、 高木さんのこの本の内容はそれ以上に素晴らしいと思います。

中川先生にそういっていただけますととても幸せです。 アルトシューラー先生の文章力にはまだまだ及びませんが、 これからも精進させていただきたいと思います。

一方で、下記のご指摘もありがとうございます。

> ただ、本体よりも「前にある」表紙やまえがき部分に関しては、恐らく出版社のかたの表現が多いのだろうと思いますが、いわゆる「ジャーナリスティック」な書き方そのもので、

私もTRIZが魔法の杖ではなく、TRIZを使いつつも普段からの実践が大事という考えは同じです。

そして、さすがは何冊も出版なされている先生の御明察の通りでして、本体の前の部分であるほど、出版社の方による文章割合が多く入っており、 若干ジャーナリスティックな文章になってしまっております。 (はじめに、などは50ページの文章が4ページに圧縮され、どうしてもインパクトの強い部分だけが目立ってしまいました。申し訳ございません)

おそらく出版を経験された中川先生も、今回の出版において、もっともリスクを負っているのは 出版社であるということをご存じで、こうした形でご教示いただいているのだと思います。

お教えいただいたページはその後、読ませていただき、私も勉強になりました。

1970年代に既に紹介されていたというのは恥ずかしながら初めて知りました。 いただいたご指摘を真摯にうけとめ、出版社の方にも、 TRIZ界で詳しい中川先生から、こうした指摘があったということは伝えておこうと思います。

繰り返しになりますがTRIZが魔法の杖ではなく、TRIZを使いつつも普段からの実践が大事という考えは私も同じです。そして、まずはいかに多くの人にTRIZに触れてもらうか、という問題意識も一緒だと思います。

実は、原稿には前半に「見ると観察の違い〜発明原理を観察しよう」という章もあったのですが 編集の最終段階ではやむなくカットとなりました。(とはいえ同様の内容は第3部にもあります)

とはいえ、普段からの実践が大事であるということは本体の150頁分で繰り返し述べていきましたので、 本書を読み終わる頃には、トリーズの生い立ちのことよりも、 発明原理やトリーズの素晴らしさのことが大きく残り、 トリーズとは魔法の杖ではなく、普段使いで実践を継続することが大事 ということが結果的には理解していただける形になっていればと存じます。

今後とも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。      

                                 アイデアクリエータ 高木 芳徳 拝

 


(G) 編集ノート後記(中川、2015年 1月 2日): その後の経過と補足

先頭の編集ノートのように11月半ばに本件の掲載準備を始めたのですが、いろいろとするべきことが重なり、年を越してしまいました。

本書は本当によい本だと思います。Amazon.co.jp で今も大好評を得ているのは素晴らしいことです。本ホームページでは、その良さを広く伝えるために、高木さんのTRIZシンポ2012、2014の二つの発表を和文と英文で紹介しています(TIRZシンポ2014の英文スライドは、著者が機械翻訳でやったままのもの(シンポジウムのProceedingsに掲載のもの) を中川が全面改訂しました)。

中川のメールで指摘しました諸点については、著者高木さんが理解くださり、また出版社にも正しい情報が伝わっていますので、良かったと思っています。本自体の訂正にはやはり時間がかかるものと思っています。ともかく、誤解が広がらないように、本ホームページの読者の皆さんもご注意いただきたいと思います。(日本TRIZ協会のホームページの記述はやはり速やかに訂正されるべきものと思っています。)

 

本ページの先頭 高木TRIZシンポ2012発表 高木TRIZシンポ2014発表 高木 著書 表紙など 高木メッセージ(9.11) 中川メール(9.29) 高木メール(10.2) 編集ノート後記(中川、12.23)

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最終更新日 : 2015. 1. 6    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp