TRIZフォーラム: 学会参加報告(21): |
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ETRIA TFC 2008: 欧州TRIZ協会主催 TRIZ Future 2008 国際会議、 2008年11月 5日〜 7日、 Twente大学、エンスヘーデ、オランダ |
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中川 徹 (大阪学院大学) 2009年 3月 1日 (英文) [掲載: 2009. 3. 2] |
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概要和文 (2009年 3月 2日) [掲載: 2008. 3. 2.] |
今回のETRIA (欧州TRIZ協会) 主催の"TRIZ Future 2008" 国際会議には、日本からは中川が参加・発表した他に、日立コンサルティングの石田厚子さんが参加・発表し、日立・日立研究所の坂田寛さんが参加した。学会の発表お よび論文集の論文の全体をレ ビューして、詳細な学会報告を英文ページに掲載する。和文ではその概要だけをここに報告する。
会議名称: ETRIA 'TRIZ Future 2008' Conference
(欧州TRIZ協会 (ETRIA)主催 "TRIZ Future 2008" 国際会議)
日時: 2008年11月 5日〜 7日
会場: Twente 大学、エンスヘーデ、オランダ (The University of Twente, Enschede, The Netherlands)
主催: ETRIA (欧州TRIZ協会) Web site: http://www.etria.net/
共催: Twente 大学 (オランダ)
協賛: CIRP (The International Academy for Poduction Engineering)会議の公式Webサイト: http://www.trizfuture.net/
参加者: 約 80 人プログラム概要:
11月 5日 (水) 午前 Tutorial (技術向け、ビジネス向け、物資-場分析の3コース)
11月 5日 (水) 午後 〜 7日 (金) 午後 3時 シンポジウム (基調講演と発表 (2会場並行) )
論文集は、第1部 「Scientific Contributions」(論文 9編)、第2部 「Industrial and Practitional Contributions」 (論文 26編)。他に、チュートリアル 3件、基調講演 4件、ポスター発表 4+1件。
発表申込みのアブストラクト (件数不明) から、プログラム委員会が選択し、最終原稿まで提出されたものが上記39編。(ただし、報告集にはあるが、欠席で発表されなかったもの 2編。)
プログラム詳細とアブストラクトが発表されたのが、開催 2週間前であり、運営上にやや遅れがあった。プログラム委員会のピアレビューとその後の著者の原稿提出の遅れに原因があると (ETRIAのリーダは)いう。
なお、国際会議終了後に、報告集掲載の全論文と著者から提出があった発表スライドファイル (95%以上) が、ETRIAのWebサイトの会員限定コーナに掲載されている (これは2001年のものから揃っている)。
各論文の詳細なレビューは、英文の報告を参照されたい。主要なものを以下に特記する。なお、これらのうちの精選6編 (**印) の和訳と掲載の許可を得ており、有志の方の和訳の協力をお願いしたい。
(1) 基調講演 4件のうち、つぎの2件が注目すべきものである。(スライドのみで、論文なし)
Harry Rutten (オランダ)、 "Synthesis of Innovation: Successful Regional Innovation by TRIZ Practitioners": オランダのLimburg県の産業奨励局がスポンサーとなり、Eindhoven (オランダ)-Aachen (ドイツ)-Leuven (ベルギー) のトライアングル地域で、多数の企業、大学、コンサルタントたちが協力して「オープンイノベーション」を実践しようとしている。技術開発のいろいろな段階にいろいろな企業や大学が参加するモデルになっている。TRIZ、QFD、CPS の適用事例30件をもち、化学やバイオ分野に特徴的な応用を持つという。
Karel Bolckmans (オランダ)、"TRIZ and biology, a natural symbiosis": バイオ企業の研究所で研究している著者は、TRIZに永年の深い造詣を持ち、生物とTRIZの関連づけを二つの面でしてきている。第一は生物システムをTRIZの適用分野とするもの (生物システムの制御および利用)、第二は生物システムからTRIZが学ぶこと(自然が創った「特許DB」として、持続的システムの模範として)。多数のよく整理されたスライドがあり情報豊富である。論文の形のものがないのが残念。
(2) TRIZの方法論の改良・拡張にはつぎのものがあった。
Sergei Ikovenko (米国)、"Further Development of the Trends of Evolution−Trend of Sustainability Increase": Sustainability (持続可能性) のための考え方を整理して、TRIZでいうトレンド (発展の段階) を考察している。
Darrell Mann (英国)、"Smart Materials Solve Contradictions: Connecting The Right Materials Solution To The Right Market Need": 「賢い材料 (Smart Materials)」とは、外界からのなんらかの刺激(例えば、圧力、熱、電圧、光など) の変化に対して、なんらかの性質 (例えば、形、色、透明性、電圧など) が (非線形的に) 異なった応答をする物質/材料のことである。この非線形な応答 (すなわち、極端な変化) が、矛盾問題を解決する可能性をもつ。著者はこのような材料 (あるいは現象) の一覧表を作って、その利用のしかたを述べている。これら材料の応用分野の開拓が大きな課題になる。まずニッチでの応用を開発して、本命の応用に進むのだという。[**和訳許可取得済み]
Gaetano Cascini (イタリア) ら、"Networks of Trends: Systematic Definition of Evolutionary Scenarios": 技術システムの進化の予測のための方法を作っている。設計工学などの学術的ベースの上に、TRIZでの進化の考え方をプラスしていくことを目指す。Pahl & Beitz の EMS (Energy-Materials-Signal) モデルを用いて対象システムを階層的に表現し、その最下層にTRIZの物質-場モデルなどを位置づけ問題解決を考察する。特許分析の結果と、TRIZの進化トレンドとを、この階層的なシステム表現に適用して考察する。この方法は再現性があると著者たちは主張している。[**和訳許可取得済み]
(3) TRIZと他の関連技法とを統合して用いる方法について、多くの発表があった。その中で特記すべきもの。
Giacomo Bersano ら (フランス)、"The Integration of TRIZ and Risk Management to Increase the Ratio of Success of Innovation Projects": イノベーションの全体プロセスとそのさまざまな段階でのリスクについて図的に表現している。そのリスク管理がイノベーションの成功の土台である。
Philip Samuel ら (米国)、"A Taxonomy of Inventive Principles for Robust Design Concepts": 製品開発において、QFD - TRIZ - タグチメソッド (ロバスト設計) をこの順に連携させて用いることが、永年推奨されてきた。本論文の価値は、解決策の評価法としてのタグチメソッドの前に、より明確な「ロバスト設計のための指針」を確立したことである。(TRIZの研究法を使い) ロバスト設計を謳っている特許200件を集め、その設計の指針を抽出し、それをタグチメソッドの枠組みで表現した。パラメタ・ダイアグラムの4つの要素(すなわち、入力信号、制御因子、ノイズ因子、出力応答) のそれぞれに対する、ロバスト設計のための戦略的指針 (計19項目) を明確にした。 [**和訳許可取得済み]
Albert van der Kuij (オランダ)、"From Knowledge to Sustained Revenue: Building a Business Model":
この論文で引用しているRichard St. Johnという人の「成功の8つの条件」が興味深い。「情熱、奉仕、焦点、勤勉、アイデア、洗練さ、プッシュ、忍耐」であり、すべて、自己の中から外に向かうものだという。(4) 企業でのTRIZの技術応用の点では、発表が少なかったが、下記のものが興味深い。
Pavel Jirman ら (チェコ)、"TRIZ Contribution to the Solution of the Paradox during the Homogenization of Molten Glass": ガラス工業において、各種ガラス材料を混合し溶融状態で均一化することが重要な工程である。この工程では機械的攪拌が主流であるが、その攪拌機の特許の状況はこの技術が飽和段階にあること示している。TRIZの進化トレンドでいうと、熱あるいは電磁気の場が次の段階であるが、その性能はまだはるかにおよばない。打開する方法はないか? -- 一つの工程を一般的に考察しようという著者らの問題提起がよく分かる。中川はこのシステム機能分析に攪拌槽を明示し、その槽の内部形状と内表面形状を考えることが改良の鍵でないかと思う。
Gunther Schuhら (ドイツ)、 "How to Prevent Product Piracy using a new TRIZ-based Methodology": アーヘン工科大学が複数企業との共同研究の結果をまとめて発表したもの。偽製品の問題は一部のブランド品だけでなく、さまざまな製品に信用問題やトラブルを生じる。偽製品の販売を防止したり、摘発したりするのとは別に、偽製品の製造を防止/抑止する方法を研究した。ゲーム理論とTRIZを用いて考察し、指針を示した。研究結果だけでなく、研究方法も興味深い。ETRIA TFCから最優秀論文賞が与えられた。 [**和訳許可取得済み]
(5) 企業におけるTRIZの推進の面では、つぎの論文が大事である。
Ellen Domb (米国)、"Teaching TRIZ to Beginners": TRIZの初心者研修で最も人気があり、実績があるEllen Dombが、教育心理や教育法の新しい考え方をTRIZ教育に取り入れることを提唱している。その方法の教科書は、Ruth Colvin Clark : "Developing Technical Training, 3rd Edition" (2008)。教えるべき対象項目は、その性格から一般に、「事実、概念、手順(Procedure)、プロセス (Process、あるいは、しくみ)、原理」という5種がある。これらに応じて、教える方法が違う、するべきこととその順番があるという。Domb はその考え方を導入して、TRIZの基本な考え方の教育法を再検討しようとしている。--大事な考え方であり、この原典を含めて学習するとよいと思う。[**和訳許可取得済み]
(6) 大学におけるTRIZの教育の面では、つぎの論文が注目される。
Gaetano Cascini (イタリア) ら、"TETRIS: Teaching TRIZ at School: Meeting the Educational Requirements of Heterogeneous Curricula". これは2008年から始まったEU のプロジェクトであり、イタリア、オーストリア、ドイツ、ラトビアなどの大学、コンサルタント、企業が合同して進めている。大学におけるTRIZ教育のカリキュラムを(大学とTRIZ専門家とが) 共同で作り、それをさらに広い範囲の大学とユーザ企業で実践してフィードバックしていく計画である。-- 古典的TRIZが前面に出すぎているように感じる。TRIZを教えるのではなく、創造的な問題解決という課題に対処する方法論を広く教えるのがよいと、私は思う。
中川 徹ら (日本)、"Applying TRIZ/USIT to A Social & Technical Problem: Auto-locking Door System of Apartment Building": マンションのオートロックドアにおいて、不審者が住人の後に続いてすっと入れてしまう問題の解決を考察した。卒業研究での学生の討論をリードしつつ、KJ法を用いて整理し、TRIZ/USITの方法で、解決策をまとめあげた。ドア開閉の技術問題でなく、住民心理と、社会ルールの問題であることが特徴。従来のシステムの上に、ITとソフトで「論理的ドア (仮想ドア)」を構築した。この解決策ができてから再考すると、従来システムの心理的、社会的問題点はすべて、技術的な解決策の不十分さの結果であることが明確になった。新システムは、心理的、社会的問題点をもスムーズに解消する [はずである]。『TRIZホームページ』に掲載 (英文 、和文はTRIZシンポジウム2007で発表) 。
(7) 特許分析の利用の面ではつぎのものが面白い。
P.-A. Verhaegenら (ベルギー) 、"Searching for Similar Products through Patent Analysis": CREAX社での特許の言語学的解析法の研究の一つの応用のしかたである。「似た製品」を探すのには、製品名や製品分類などの「名詞」を鍵にするのでなく、共通の性質を示す「形容詞」を鍵にすればよい。このアイデアを、2万件余の特許DBと言語解析法を使って、一般的な方法として確立した。「歯ブラシとかけて」と聞くと、「シャッターと解く、その心は・・・」というなぞなぞとその答えを自動的に多数創り出してくれる。その心への刺激が新しいアイデア、技術の新領域への発展のアイデの手がかりを与えてくれる。
(8) 非技術の分野へのTRIZの応用については、つぎのMann らの論文が素晴らしい。
Darrell Mann ら(英国)、"Creating A Meta/Mega/Micro Market Trend Hierarchy: Trying To Understand Populations Better Than Populations Understand Themselves": 本発表は、「イノベーションがどうしてそれほど難しいのか?」という疑問をモチーフにしている。技術システムの予測よりも、市場の予測の方がもっと難しいからだと考えている。Mann らは良く知られている最新米国特許の継続的な分析・研究と同時に、ビジネス書や経済・社会関係の情報についても大規模な分析・研究を永年続けているという。それらをバックにして彼らは1000余の市場変化のトレンド (キーワード) を抽出してきた。彼らは具体的な一つの製品に関わる市場動向なら、丸2日のワークショップで約50のトレンドを扱い、方向性を見出せるようになったという。本発表は、それをもっと一般化して、1000余のトレンドについて、それらの関係を全体的に考えようとするものである。これら1000余のトレンドを整理する方法の一つとして、時間(特に消費者の世代的特徴)、空間 (地域など)、インタフェース (相互関係、価値観など) での分類を論じている。大きなスケールの研究プロジェクトである。[**和訳許可取得済み]
なお、全般的に、ETRIA のTFC 国際会議は学術的な面の強化が進んでいる。Scientific Committee で発表論文の審査をしているのもその一つの努力であり、今年から CIRP (International Academy for Production Engineering) が協賛したのもその一つの成果である。ただし、その反面として、企業からの参加者が減り、企業の適用事例/推進事例の発表が減っている。ところが、ヨーロッパでのTRIZの企業浸透が進んでいないかというと、そうではないと思う。大学のTRIZ研究者たちは日本よりはるかに積極的に企業と共同研究しており、企業での適用が進んでいる。彼らは、国ごとのTRIZの学会で発表しているようである。(ドイツ語圏のTRIZ Zentrum が2008年5月に開いた学会は、140名余の参加で企業の発表も多数あったという。)
TFCの最後に、ETRIA の総会があった。世界の国際会議の状況報告が求められ、中川はTRIZシンポジウム2008の報告をした 。欧州で日本のやり方が評価されている。
また、中川は、特に追加のポスター発表を許され、TRIZの公共的Webサイトを各国に作り、グローバルなネットワークで、TRIZコミュニティを作ろうとよびかけた 。
以上に簡単に紹介したように、ETRIA TRIZ国際会議は、今回も内容的には充実したものであった。このような学会を組織していただいた関係者、特に、Tom Vaneker博士 (オランダ、Twente大学) と Gaetano Cascini 博士 (イタリア、ETRIA) とに、厚く感謝する。
これから、優れた論文を一つ一つのきちんと学び、われわれ自身の問題解決に活用していくことが大事なことである。上記に示したように、精選論文 6編の訳出許可をすでに得ている。読者の皆さんで和訳に協力いただけるボランティアの方は、ぜひご連絡下さい。[「To Do List for TRIZ」 のページ参照]
次回のETRIA 国際会議は、つぎのように決定・発表されている。
ETRIA TRIZ Future 2009 Conference: 2009年10月 〜11月の予定。場所: ルーマニア、Timisoara (チミショハラ) 。詳細は未発表。
なお、米国のTRIZCON の予定は以下のようである。中川は出席し、発表 (2編) の予定。
(Altshuller 協会主催) TRIZCON2009: 2009年 3月16日〜18日、Woodland Hills、カリフォルニア州、米国。
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最終更新日 : 2009. 3. 2. 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp