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編集ノート (中川 徹、2025. 6. 6)
このページは、私が「創造的な問題解決の方法(論)」を、従来の科学技術の分野から、より広い社会的・人間的な分野に適用しようと試みた、初期の考察のプロセスとその結果を記述したものです。題材としては、藤田孝典著『下流老人:一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書、2015)を選び、片平彰裕の「札寄せ用具」というソフト・ツールを使って、本の論理を可視化しながら考察しました。2015年9月から翌年1月まで、本の1章ずつを可視化し、考察を加えて、『TRIZホームページ』に8回にわたり連載しました。2016年1月25日に、その全体をまとめて、A4版24ページの冊子を作り、沢山の方に配布しました。(冊子はまだ残部が多数ありますので、ご希望の方にはお贈りします。)
本ページでは、大部の資料になりますので、まず全体を(冊子の表紙と裏表紙の形で)示し、その後に原著の「はじめに」から「終わりに」までを各章ごとに順次示していきます。各章の記述は、編集ノート、本文を可視化した図、考察(中川)から構成しています。
原著の構成と本ホームページでの図式化、関連記事の一覧 ==> 冊子版(24頁)PDF
親ページ、冊子表紙、趣旨 | (0) はじめに、「見える化」 | (1)下流老人とは | (2) 事例と背景 | (3) 下流化のパターン | (4) 意識と理解の問題 | (5) 制度と政策の問題点 | (6) 対策と予防 | (7) 制作の検討と提言 | 『下流老人』の『見える化」冊子 |
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冊子の表紙 と 裏表紙
裏表紙
本シリーズの開始の意図 : (親ページ) 編集ノート (中川 徹、2015年 9月10日)
本ページは表題のように、非常に大きな、輻輳した、そして重要なテーマについて、しっかり腰を下ろして、考えつつ社会に寄与していきたいと思って始めるものです。これを始めるにあたっては、いろいろな思いがバックにありますので、それを少しここに書いておきたいと思います。
(1) まず一つは、本ホームページの主題であります、「創造的問題解決の方法論」(TRIZ => USIT => CrePS) の展開に関することです。この研究テーマは、技術分野での問題解決(発明や技術革新)を主たる対象とし、また同時に、「問題の焦点を絞って、分析し、解決策を考え出す」ことを主たるアプローチにしてきました。それでも2012年に、TRIZとかUSITとかの個別技法を越えて、もっと一般的な創造的問題解決の方法論が社会から求められていることに気がつき、それをCrePSと呼ぶ新しい目標にしたのです
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。CrePSで言っていますのは、「思考の世界」での一般的な(汎用、標準の)方法を、(基本的にはUSITと同様のアプローチで)確立し、いろいろな「現実の世界」の問題を扱う基盤を作ろうということです。
では、そのとき、さまざまな「現実の世界の問題」をどのようにして捉え、「思考の世界」に持ち込めるのか?が大きなことです。技術だけでなく、社会や人間を含む問題は、複雑に絡み合った(輻輳した)大きな広がりを持つ問題であることが、しばしばです。そのような輻輳した大きな問題をきちんと扱うことを実践し、その方法を習得し、作っていかなければなりません
。実際にやって行ってみよう、というのが、今回の一つの動機です。
(2) 輻輳した事柄を整理する方法にはいろいろありますが、いろいろな事実や考えの関連を図に示して「見える化」することは、大事な方法です。従来から私自身も、KJ法、マインドマップ、原因結果図、Southbeach Modeller等、いろいろ使ってきましたし、TRIZ関連でもいろいろな図式化の方法があります。その中で、昨年末以来、片平彰裕さんが作られた「札寄せツール」の簡便さと有用性に感銘を受けました
。これを使うと、いろいろなことを分かりやすく、説得力を持った図に作ることが、容易にできることが分かりました。この札寄せによる図示の方法は、社会的な問題などの輻輳した問題に取り掛かるときの重要な手掛かりになると思いました。7月以来片平さんと一緒にいくつかの図を描いてみて、これを使って行く目途を立てることができました。
(3) 「現実の世界の問題」にも、もちろんさまざまなテーマがあります。技術開発やものづくりに関すること、脱原発の方策、再生エネルギー/省エネルギー、環境問題、地震予知研究、そして、高齢化社会、認知症予防、少子化問題、経済問題、安保法制の違憲問題、日本政治の貧困、などなど、いっぱいあります。いままでにも、これらの問題に少しずつ関心を持ち、学んだり、考えたりしてきましたが、私自身の具体的な活動になっているものはあまりありません。
(4) そのような中でたまたま出会って、片平さんに図示していただいたのが、「新幹線焼身自殺放火事件」の老人の心境と背景でした
。その後やはりもう少し社会的背景を考える必要があると思って読んだのが、『下流老人−一億総老後崩壊の衝撃』(藤田孝典著、朝日新書、2015年6月刊)でした。活動体験に基づき、しっかりと考察・記述した本です。現在すでに高齢者に(貧富の格差が増大して) 貧困・困窮化が広がっていることを記しています。若年層の低所得、現役層の逼迫、子どもの貧困などが連動して、このまま進むと日本社会が非常に不安定になり、平安な老後を過ごすことが多くの人に不可能になると、警告しています。-- そこで私は、このような相互関連を俯瞰できるようにし、考察・議論のベースを作ることを、始めようと考えた次第です。高齢者の貧困化だけでも大きな問題ですが、それは日本社会の(国民の)貧困化の一側面にしか過ぎない、そしてまたそれも日本の社会・政治・経済などの一側面であり、そしてまた、世界の問題のごく一部にしか過ぎない。そのことを承知の上で、私はいま、「日本社会の貧困」という問題、そしてその解決のための考え方を、考えていこうとしている次第です。
(5) 現在の日本の政治は本当に貧しいと思います。特に、安倍晋三首相の政治姿勢はひどい。安倍首相が「福島原発は完全にコントロール下にある」と虚言を言い、その虚構をベースにした政治を進めてきて、現在は「積極的平和主義」というまやかしの論法のもとに憲法の平和主義に反する法律を通そうとしている。国民の多数が反対し、憲法学者の多数が違憲だと言っているのに、自民党内から首相にきちんと反対できる国会議員がほとんどいない。日本の政治は、本当に貧しい。私は、2014年の新年挨拶
の一部でこのような政治批判を書きましたが、その後はあまり書いていません。このホームページは、政治的な意見を直接表明する場でないと考えるからです。それでも、沈黙するだけが望ましいことではないと、考えています。日本の社会について、その将来のあり方について考えるとき、政策や政治を抜きにして考えることはできません。本ページで、日本の社会の問題を「見える化」しようというのは、政策や政治についても (虚言や観念論でなく) しっかりした論理をベースにして、互いに発言し、議論を深め、解決策を見出して行きたいと考えるからです。
以上のような趣旨で、「日本社会の貧困を考える」というテーマで、いろいろな文献をベースに「札寄せ」で「見える化」した図を作って、順次掲載していきたいと考えております。ご感想・ご意見・ご寄稿などをお寄せいただけますと幸いです。皆さまからのご意見なども、「見える化」していくことによって、深みと広がりがあるものにしていけるとよいと思っております。
原著テキスト『下流老人』について: 編集ノート (中川 徹、2015年 9月11日)
本ページは、つぎの文献をベースにしております。この本を二度精読したうえで、考察のベースにするのに適当と判断しました。
『下流老人−一億総老後崩壊の衝撃』、藤田孝典著、朝日新書520、朝日新聞出版、2015年 6月30日刊、222頁
なお、同書には著者のプロフィルをつぎのように記述しています。
藤田孝典 (ふじた たかのり)
1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で活動する一方、生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する提言を行う。著書に『ひとりも殺させない』(堀之内出版)など多数。その本文を抜書き・要約しつつ書き出し、私自身が理解するところに従って、「札寄せ」ツール(片平彰裕作成)
を用いて、図示(「見える化」)したものです。上記の本の詳細な読書ノートであると、ご理解下さい。記述の基本部分やその論理構成は原著者藤田孝典氏のものですが、全体の表現、特に図式化表現は私に責任があります。私自身の感想や意見は、原著者の記述とは区別して記述するようにいたします。
『下流老人』(藤田孝典著) 「はじめに」 と 「見える化」のやりかた (「見える化」ノート、中川 徹、2015. 9.15)
本書に関する「見える化」ページの最初ですので、このノートを作成したやり方を分かるようにしておきます。
(1) 抜書き・要約のテキスト作り
本を読みつつ、(論理を表現できるように注意して) 抜書きあるいは要約して、文をExcelファイルに書き出していく。(大きな)段落の区切りに、****の行を入れた。
[後略]
(2) ラベル化
書き出した文を、札寄せツールで、[一括して] 札(ラベル)に変換する。札の横幅を調節し、重ならないように並べる。順番は書き出したまま(すなわち、原著の記述のまま)。(大きな)段落の区切りでまとめ、付属説明の文はラベルを少し右にずらして分かりやすくしている。
(3) 見出し文とグループ構成
論点を明確にするように調整する。一つの論点をまとめてきちんと言っている文を選び(あるいはそのような文を作って)[赤色の札にし]、その論点での札寄せを集めてグループになるように配置する。本の記述が前後しているものなども集めて、整理し直す。
(4) 仕上げ(グループ化と全体構成)、詳細版の完成
論点の主文を示す赤色の札を、囲枠に変換し、その論点の札をグループとして表現する。全体の論理が明確になるように、グループ(囲枠) の相互配置を調整する。全体を再度見直して、(詳細版として) 仕上げる。
(5) 詳細を消し、論理の明確化。要約版の完成
論点を一層明確にするために、細部の札を省略して、「要約版」を作る。グループ単位で動かして、全体の論理を明確にし、矢印を使って論理関係を図示する。一部の札は、別のグループに移動させている。
(6) 「見える化」した図を読み取って、その要旨を文章化する
この図を簡単に文章化すると、つぎのようです。
日本に「下流老人」が大量に生まれており、「一億総老後崩壊」といった状況を生み出す危険性が今の日本にある。本書では、「生活保護基準相当で暮らす高齢者及びその恐れがある高齢者」を「下流老人」という。その実態や背景は驚くほど知られていない。本書でその全体像を伝え、多くの読者とともにその解決策を考えていきたい。
この基本姿勢で以下に本文の各章を読み解き、「見える化」していきます。
『下流老人』 「第1章 下流老人とは何か」 (「見える化」ノート、中川 徹、2015. 9.12)
「はじめに」のページで書いたものと同様の方法で、「見える化」をしました。本ページには仕上がったものだけを掲載します。
(1) 第1章前半、「下流老人とはいったい何か、具体的な3つの指標」についての、見える化図(詳細版)。
(2) 第1章前半、「下流老人とはいったい何か、具体的な3つの指標」についての、見える化図(簡略版)。
この図を簡単に文章化すると、以下のようです。
私は、「下流老人」=「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義している。生活相談から見えてくる「下流老人」の特徴はつぎの3点である。
(1) 収入が著しく少ない。生活保護レベルを生活補助費+住宅補助費とすると、首都圏に住む一人暮らしの高齢者の場合月額約13万円(年額約150万円)である。国際的な貧困のとらえ方として、「相対的貧困」という概念がある。対象者が属する共同体(国や地域)の大多数に比べて貧しい状態にあることを言い、具体的には統計上の所得の中央値の半分以下の所得しか得られない人を言う。この概念では、一人暮らしの場合年収122万円となり、上記の生活保護レベルとほぼ同等である。このレベルになると、住居、食事、医療、介護などで、普通の家庭にあるべきものがないケースが増える。
(2) 十分な貯蓄がない。収入(年金など)が低いと貯蓄を取り崩すことになるが、それが少ない/無いと、生活上のトラブルに襲われると、たちどころに破たんする。
(3) 頼れる人間がいない(社会的孤立)。近年の核家族化により、周囲に頼れる家族がいないのが普通になっている。
要するに、「下流老人」はあらゆるセーフティネットを失って、憲法で保証する「健康で文化的な生活」ができなくなっている状態である。現在、約600万人〜700万人の「下流老人」がいると推定されている。
(3) 第1章後半、「下流老人の何が問題なのか?」についての、見える化図。
この図を簡単に文章化すると、以下のようです。
「下流老人」が増えていることの問題は、当事者だけのことでなく、以下のような悪影響をもたらすことが問題である。
悪影響1. 親世代(高齢者世代)と子ども世代(現役世代)が共倒れする。
悪影響2. 長寿が幸せ、敬老、命の大事さなどの価値観が崩壊する
悪影響3. 若者・現役世代が貯蓄する必要があり、消費が低迷、経済が低迷する。
悪影響4. 少子化を加速させる。なお、下流老人が生まれる/増える原因は、第3章で考察する。原因と結果が循環している面がある。
『下流老人』 「第2章 下流老人の現実: 事例と背景」 (「見える化」ノート、中川 徹、2015. 9.27)
第2章 下流老人の現実 (目次)
生活困窮者の現状、異口同音に「想定外」
ケース1 (飲食店などで働くも、野草で上をしのぐ加藤さん(仮名)): 正社員の仕事を辞め 親の介護、「こんなに年金が少ないとは思わなかった」
ケース2 (うつ病の娘を支える永田さん(仮名)): 「年金だけが生活の命綱」、自分は順風満帆でも自分以外の「想定外」で
ケース3 (事務職員をしてきた山口さん(仮名)): 「3000万円なんてあっという間に消えちゃった」
ケース4 (地方銀行に勤めていた藤原さん(仮名)): 銀行員・大企業の社員も例外でない
下流老人をめぐるいくつかの資料から、働いて稼いでいる額は全収入のせいぜい2割、支援しても減らない下流老人この第2章は、前半の(まえがきと)具体的事例 4ケースの紹介、そして、後半の現実の背景のまとめから成っています。それを「見える化」したプロセスを説明し、その結果を掲載します。
A. 下流老人の現実: 具体的な4つのケース
(1) 事例の記述の抜書きと、時間経過による整理、そのラベル化。
テキストの第1の事例について、ラベル化したものを次の図に示します。
(2) 各事例について、個人の生涯履歴を「生活のレベルと下流化」の観点で独自に図式化した。
テキストの記述を読み取って、定性的ではあるが、独自に図式化した。(この図式は中川のアイデア)
この図式では以下のように表現しようとしている。
縦軸は、「生活の質」を、主として経済的な安定性の面から、定性的に(大雑把に)表現する。収入と貯蓄と資産、およびそれらの将来の可能性(例えば、能力、健康、職業、など)に基づいたものである。収入や蓄積に見合った支出があり、生活が行われていることを想定している(あるいは、そのような意味での、支出可能なレベルをこの縦軸が表現していると考えてもよい)。生活の豪華さ、派手さ、質素さなどを表すものではない。上流/中流/下流の値は、大まかなものである。本書に従って、「生活保護レベル」以下を「下流」とし、国民の(中央値でなく)平均値の2倍以上の程度を「上流」と考えておく。基本的に、扶養する世帯の単位で考える。
横軸は、その人の年齢を示す。年齢が人の生涯とその生活を最も基本的に規定するからである。またそのすぐ下に、年代(西暦)を示し、時代背景を考えるための手がかりにする。成人するまでの期間は、親の(子どもを養育する)生活レベルを表現することになる。
一つの白ブロック矢印で、継続している生活期間を示す。収入の上昇や、貯蓄・資産などの蓄積が進めば(少し)右上がりで表現される。職業や家族などで大きな変化があれば、新しい矢印で描く。灰色のブロックは、生活の質が下降している状況を示す。その状況や理由は、説明を注記している。下向きの黒矢印は、短期間の大きな変化(損失)を表す。
(3) 他の 3ケースについても、同様の図式化を行った。図を示す。
このケースでは、自分たち夫婦の生活レベルに対して、成人した後の長女が自立していないことが大きな影響を与えている。そこで、夫婦の生活レベルを示すブロック矢印と、長女の生活レベルを示すブロック矢印とを併記した。
このケースでは、退職後に散財し、熟年離婚になっている。離婚では、「二人では食べていけても、一人ずつ半分では食べていけない」状況になるので、黒色下矢印で示している。
所感(中川、2015. 9.27): この図式は、非常に明瞭・雄弁である。このような図式を、もっといろいろなケースで作れるとよい。
-- 本当は、多数の人たちの図を重ね合わせて、日本社会の全体的な大きな動向を示せるとよいと思う。しかし、それには、縦軸を定量的に表現する必要があり、表現の定義式が作れない、絶対値(あるいは相対値) が得られない、貯蓄・資産などの個人データが得られないなどの、困難がある。
-- あるいは、定性的データのままでの活用法を考える方が良いのかもしれない。大雑把であることを踏まえたうえでの(複数の)指標を考えるとよいのかもしれない。そのような指標を作り、何人もの人たちに、インタビューして、図式化してみるとよいのかもしれない。また、ここの図のように説明を付記することも大事であろう。
B. 下流老人の現実: その状況と背景
第2章の後半の部分を「見える化」したノートを以下に示す
所感(中川、2015. 9.27): 著者はいくつかの統計資料を引用しながら、ここの比較的短いまとめを書いている。その一つ一つの項目は、誰でもが知っている。「初めて知って驚いた」ということではない。しかし、このような全体像をきちんと理解し、意識しておくこと、が必要である。高齢者の生活を、60歳(あるいは65歳)から75歳ころまで、そしてさらに、その後の20年間程度を推量して考えることが、個人にとっても、社会にとっても大事なことと思われる。
著者が、「社会問題として、根本から対策を立てる必要がある」と言っているのは、大事なことである。
『下流老人』 「第3章 誰もがなり得る下流老人−下流化のパターン」 (「見える化」ノート、中川 徹、2015.10.10)
第3章 誰もがなり得る下流老人−「普通」から「下流」への典型パターン (目次)
「普通」から「下流」へ陥るいくつものパターン
【現状編】パターンT: 病気や事故による高額な医療費の支払い: 人生における「高齢期」の長期化
パターン2: 高齢者介護施設に入居できない: すさまじい老後格差、金がなければまともな介護も受けられない
パターン3: 子どもがワーキングプア(年収200万円以下)や引きこもりで親に寄りかかる: 子どもが「ブラック企業」に、「檻のない牢獄」と化した実家
パターン4: 増加する熟年離婚: 熟年離婚の盲点、 仕事一筋できたならば夫は妻ににげられてはいけない
パターン5: 認知症でも周りに頼れる家族がいない: 認知症+一人暮らし+悪徳業者 ==> 下流老人
コラム1: カネの切れ目が延命装置のスイッチも切る!?「一億総老後崩壊」の時代、 もらえる年金が減る恐れ、 年収400万円以下は下流化のリスクが高い、
(「一億総下流」の時代がやってくる)、 強烈な格差の行きつく先、 昔と今の400万は価値が全然違う、
4割の世帯は老後の資金がほとんどない!? 非正規は下流に直結する、 非正規は正規の3分の1しかもらえない、
独居老人予備軍を増やす未婚率の増加
コラム2: 親が残した不動産に殺される!? (空き家問題)、 手放したくても手放せぬ「不良資産」
この第3章は、前半の「現状編」と後半の「近い未来編」とから構成されています。「見える化」したプロセスは、今までと同様ですので、簡単に説明し、仕上げた図の簡略版を画像で掲載します。
A. 下流化の典型パタ−ン (現状編)
(1) テキストの要点の抜書きと、そのラベル化。
(2) ラベルの札寄せ、全体構造の把握
(3) 札寄せによる「見える化」した図を仕上げる。(詳細版)
(4) 札寄せによる「見える化」した図を簡略化して仕上げる。 (簡略版)
B. 下流化の典型パタ−ン (将来編)
(1) テキストの要点の抜書きと、そのラベル化。
(2) ラベルの札寄せ、全体構造の把握
(3) 札寄せによる「見える化」した図を仕上げる。(詳細版)
(4) 札寄せによる「見える化」した図を簡略化して仕上げる。 (簡略版)
所感(中川 徹、2015.10.10):
第3章に入って、著者(藤田孝典さん)は、いままで普通に生活していた人たちが、下流に陥る典型的なパターンを紹介しています。健康を損なう、高齢になって認知症が出てくる、など「自分は大丈夫」と思っていても、大丈夫の保証はありません。若い世代のワーキングプア、熟年離婚の増加、介護施設の不足、など、本当にそのとおりだと思います。
私の義母はアパートで元気にひとり暮らしをしていましたが、13年ほど前に、街中の小さな段に躓いて骨折入院してから、病院で認知症を発症し、終戦・引上げ時代の妄想が出て、妻はその介護に大変でした。約1年間介護施設に入ることができず、アパートでの介護は妻にとって地獄の生活でした。新しい特別養護老人施設ができて、入所できたのは実にラッキーで、義母は比較的穏やかな2年間を過ごして、他界しました。自宅介護の大変さ、介護サービスのありがたさ、施設の充実の必要などを、実感した次第です。
そして、今度は、自分たち夫婦が世話を掛けるときがもうすぐやって来るのだろうと思っています。いつまで(健康でいて) この自宅に住んでいられるのだろうかと思いつつも、具体的な準備は何もできていません。
高齢者介護施設の不足について、著者は、「高額な有料老人ホームがどんどん作られることと、介護保険適用の特別養護老人ホームがあまりつくられないこととは、(経営の論理として) 連動している」と記しています。政府の政策 (および政府の無策) がこの状況をもたらせています。また、高齢者層の貧富の二極化がこれを助長しているのだといいます。この見方は私にとっては新しいもので、今後の問題解決の手がかりを示唆してくれていると思います。
本章の後半で、「現在の現役・若年世代には下流化の危険がもっと大きい」と書いていますのは、知らなかったことではありませんが、やはりショッキングなことです。「昔の年収400万円と、いまの年収400万円とは、意味合いが違う」と著者が書いていますのは大事なことと思います。企業の福利厚生がどんどんカットされてしまっており、非正規雇用による低収入、低保障、不安定が大きな問題です。そして核家族化による家族支援の弱体化、未婚の増加と晩婚化が問題を大きくしていくだろうことがよくわかります。日本社会の問題は、高齢者の貧困化だけでなく、現役層、若年層、子どもたちそれぞれの貧困化に連動して、大きな、のっぴきならない問題になっていることを、この本を読んで改めて感じています。
この「見える化」の作業もようやく本書の半分まで来ました。だんだん問題の本質、解決を考えるべきことの焦点に迫ってきています。論点・観点が輻輳してきていますので、適切な「見える化」に努力していきたいと思っています。どうぞご意見をお寄せ下さい。
『下流老人』 「第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日 --- 意識と理解の問題」 (「見える化」ノート、中川 徹、2015.11.25)
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日 (目次)
1. 放置される下流老人
2. 努力できない出来損ないは、死ぬべきなのか?
3. イギリス、恐怖の「貧困者収容所」法
4. 下流老人を救済することは税金のムダ?
5. 全体像が把握できないと下流老人は差別されて見殺しにされる
6. ひっそりと死んでいく下流老人たち
7. 言われなければ助けないという制度設計
8. 絶対的貧困と相対的貧困の違い
9. 生活保護バッシングに見る「甘え」を許さない社会
10. 自己責任論の矛盾と危うさ
11. 「真に」救うべき人間など一人もいない
本章で著者は、「下流老人の問題が(今まで述べたように) 深刻になって来ているのに、どうして何の対策も講じられていないのだろう?」と問題提起をしています。そして、その背景に、私たち国民の無理解/無自覚があり、それが下流老人たちに我慢を強いており、福祉行政の「言って来なければ助けない」というスタンスが状況を悪化させていると、指摘しています。著者が行っているNPOの生活保護者支援活動に対して、(励ましの意見もあるが) 多くの否定的、反対意見が寄せられてくるといい、それらの声に一つ一つ対応して論じています。しっかりした議論ですが、関係者が複数あり、議論が輻輳しています。
本章の「見える化」作業は、今までの章以上に難航しました。ここで実施した方法は、以下のようです。
(a) いつものように、本文を読んで抜書きする。抜書きの詳しさは、いままでの倍程度。
(b) 抜書きの各文を札(ラベル)にする。否定的意見、下流老人当事者の考え・振舞い、行政の立場、著者の応答、論拠とする基本的な考え方、その他「地の文」などを色分けして分類する。論理関係を示すように(局所)配置する。
(c) 全体構成がやや行ったり来たりしているので、一部の前後を組み替えて、より論理的に、分かりやすく、全体を再編成する。
(d) 枠を使って札のグループ化を行い、論理的な関係(原因-結果、判断など)、また問題と解決策の関係などを、矢印で明示する。[この段階で、全体の詳細「見える化」版ができた。
(e) 詳細記述の札(ラベル)を削除して、簡略化し、全体の論理をより分かりやすくする。簡略で分かりやすい「見える化」要約版が完成した。
(f) 本ページに、完成した「見える化」した図を、HTML(画像、要約)版 で示す。
再編成して「見える化」した構成は、以下のようです。
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日 --- 意識と理解の問題
[0] はじめに: 問題の状況と方向の概要
[1] 貧困が見えにくい
[2] 貧困の理解: 「絶対的貧困」と「相対的貧困」
[3] 貧困は自己責任か? --- 貧困が起きることは、自由主義社会の宿命である
[4] 社会福祉(生活保護)を受けるのは「甘え」だと考える風潮 --- 憲法に保証された権利である
[5] 生活保護は税金のムダ使いか? --- 税金の本来の意義
[6] 生活保護の水準は? --- 憲法が保証している「健康で文化的な最低限度の生活」
[7] 日本の社会福祉制度 --- あるのによく知られていない、使われていない
[8] 日本の福祉行政のスタンスの問題 --- 「本人が言わなければ、教えない、助けない」
[9] 「下流老人よりも子どもが先」か? --- 個別視野の議論による財源の奪い合いの弊害
[10] 解決するべき方向の考え方 --- 領域を跨る総合的な政策とその中の各領域の解決策「見える化」した図(要約版)を、以下にHTML(画像)版で掲載します。
まとめと感想(中川 徹、2015.11.26):
何回も読んだこの第4章ですが、「札寄せ」を使って「見える化」をして、著者が言っていることを改めて明確に理解することができました。まとめと感想は以下のようです。
(1) 著者がNPOを通じて実践している活動に、一般の人々からいろいろな意見、特に批判的な意見が寄せられている。著者はそれらに一つ一つ応答して、下流老人(および生活困窮者一般)を救済すべきことを述べている。その応答は、丁寧でかつ、しっかりした考え方と信念に基づいている。
(2) もっとも基本的なことは、「自立した生活をし、自立した豊かな生涯を送る」という社会的規範(道徳)があり、そのために、健康・教育・家庭・職業などあらゆることに努力し、精励・忍耐してきているのが、私たちすべての日々の生活であり、生涯である。しかし、それがいろいろな要因で暗転し、身体的・精神的・家庭的・社会的・経済的などの面で破綻し、(特に経済的に) 自立した生活ができなくなる人が出てくる。そのような人に対して、「その人が努力しなかったからだ」「その人の自己責任だ」「援けてもらおうとするのは甘えだ」と考えるのは、私たち日本社会では広く広がっている。その意識が、下流老人など生活困窮者を蔑視することになり、その人たちを社会の隅に押しやり、孤立化させてしまう。
(3) このような状況を、「当事者個人個人の観点でなく、社会全体からの観点で見直すべきだ」というのが、この著書の最重点である。資本主義の世界、自由社会・競争社会では、貧困が生じるのは宿命である。富める者ができ、(相対的に)貧する者ができる。しかし、より根本の人類の規範として、「基本的人権」を尊重するべきである。日本国憲法では国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保証している。それを実現するために、(富める者から貧しいものに富を再配分するための)税制があり、(救済の具体的なやり方を規定する)社会福祉制度がつくられている。だから、下流老人など生活困窮者は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営めるだけの(生活保護などの)援助を受ける「権利」があるのだ。社会に、貧困者を救済することを積極的に求めていくことができるのだ、という。国民全体にこのような意識改革ができることが大事なことである。
(4) 日本の社会福祉制度は、多岐に渡って作られているのだけれども、国民に十分に知られていず、利用されていない。生活困窮者の制度捕捉率は、厚生労働省の調査でも15〜30%しかないという。広く使われていない大きな理由は、行政の消極的なスタンスにあるという。福祉制度のほとんどすべてが、「申請主義」になっており、「本人が言ってこなければ、教えない、援けない」というスタンスになっているからだと指摘している。このスタンスは、「福祉予算を抑制したい」という政策を表している。
(5) 福祉の財源は限られている。そして、下流老人や介護の問題だけでなく、現役層の雇用の不安定、就職難と非正規雇用の増大、シングルマザーの困窮、子どもたちの貧困など多くの問題が同時に生じている。これらの各領域ごとに要求があり、予算の奪い合いが起きている。「下流老人対策よりも、子どもの貧困の救済が先だ」などの意見もある。これらの、「個別領域の視野での要求と議論は間違っている」と著者はいう。多様な問題は相互に関連しているのだから、その全体を考えた解決策(政策)が必要なのだ、そのための全体的な考察とシミュレーションをしていくべきだ、と著者は主張している。--- そのとおりだと、わたしは思う。
(6) この「見える化」の作業も第4章まで来た。7月初めに、「東海道新幹線焼身自殺放火事件」の老人の心境を簡単な図にしたときから比べれば、随分と問題の理解が深まったし、「見える化」の方法も活用できてきた。藤田孝典さんの本書は、実にしっかりした構成と内容を持った本だと、再認識している。あともう少しやり上げて、高齢者の貧困の問題をきちんと「見える化」して、多くの人たちの考察と議論のお役に立てるようにしたいと思う。
『下流老人』 「第5章 制度疲労と無策が生む下流老人 --- 制度と政策の問題点」 (「見える化」ノート、中川 徹、2015.12.17)
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人 -- 個人に依存する政府 (目次)
1. 収入面の不備 − 家族制度を前提とした年金制度の崩壊
2. 貯蓄・資産面の不備 − 下がる給与と上がる物価
3. 医療の不備 − "医療難民"が招く孤立死
4. 介護保険の不備 − 下流老人を救えない福祉制度、ケアマネジャー
5. 住宅の不備 − 住まいを失う高齢者
6. 関係性・つながり構築の不備 − 助けの手が届かない
7. 生活保護の不備 − 国によって操作される貧困の定義
8. 労働・就労支援の不備 - 死ぬ直前まで働かないと暮らせない!?
8つの視点からの制度批判 − まとめ
(コラム3) 下流老人の生き血を吸う「貧困ビジネス」この第5章で著者は、社会福祉に関連する現在の制度と政策の問題点を検討しています。その観点を上記のように8つ挙げてそれぞれを議論しています。各項目の議論は比較的短いですから、「見える化」の作業は前章ほど難しくありませんでしたが、予定以上の日数がかかってしまいました。いろいろな議論をどれだけ圧縮して記述して、その論旨を(文章より以上に)明確にできるかが苦心したことです。以下にまず「見える化」した図を掲載して、本ページ末尾に私のまとめと感想を記します。
まとめと感想(中川 徹、2015.12.17):
8つの検討項目のうち、著者が最初にかかげているのが高齢者の収入の面、すなわち年金のことです。本書でいままでたびたび議論しているように、必要な支出額に比べて、年金は僅かです。貯蓄を前提にしているより以上に、子や孫などの家族と共に、あるいは家族に支えられて生活していることを想定した制度設計になっているからだといいます。
たしかに、家族の状況は随分と変わりました。戦後の70年間で、農村などから都会への人口移動があり、核家族化が進み、自分たちもまたその子ども世代もそれぞれの職業を求めて独立・流動して行きました。企業活動・経済活動が広域化するに伴って、自分たちも、子どもたちや親戚たちも、(全国や海外にまで)分散して住む状況が起こっています。高齢者を抱えた家族が他の家族・親戚から離れて孤立していることはもちろん、高齢者世帯が(一人あるいは夫婦だけで)孤立して暮らしているのはあたりまえのことです。著者が言うように、家族が互いに支えあうこと、家族の生活で自然に行われる「無償の福祉」が、家族メンバーが少なくなるにつれて減少しています。
さらに問題なのは、いま、現役世代、そしてさらに若者世代が、経済的に厳しい状況にあり、高齢者を支える生活上・経済上の余力を持たないことです。雇用が不安定になり、(望まない)非正規雇用が増大して、平均給与が下がっている中で、現役・若者世代自身が自分たちの老後のための備えがまったく不十分になってきています。このような状況は、企業側の(もうけ主義の)論理と、それに乗っている政府の政策が生みだしています。−―この点の広い認識と方向転換が必要だと著者は言います。私も同感です。
医療の項で、「無料低額診療施設」というのがあることを、私は初めて知りました。現在、全国で約600の病院などがこのサービスを提供しているとのことです。-- 厚生労働省のホームページでこのキーワードで検索してもこのような制度、サービスの説明はほとんどありません。行政の消極的スタンスが分かります。
住宅の項で、「高齢者が住宅を失わないようにするにはどうすべきか、をまず検討しよう」という指摘は、大事なことと思います。家賃負担が軽くなれば、生活困窮者がずっと楽になる、低年金でもやっていけるようになる、というのはそのとおりでしょう。全国で空き家がものすごく増えている(7軒に1軒)、それなのに高額のローンを組んで新築マンションが建てられ、民間の賃貸家賃が高くて多くの人が生活に困窮している。私が住んでいる千葉県柏市ではいまタワーマンションと(狭い敷地の)戸建住宅の新築ラッシュが目立ちます。それなのに、高齢者が安心して住めるような、(高価でない)集合住宅や施設はなかなかできません。本章の最後に著者が書いている「無料低額宿泊所」の貧困ビジネスの実態も、本当にひどいことです。――これらのことは、考え方と政策を変えれば、いろんな解決策があるはずのことと思います。
労働環境・労働条件の件も重要なことです。基本的な権利は労働基準法で守られているはずなのに、労働者派遣法がそれに抜け穴を作ってしまった。企業の営利主義、人を使い捨てにする考えが、日本の多数の国民を貧困にしてしまっている。--―最近のニュースで驚くのは、外食産業の雄であるマクドナルドのパートの時給が国が定める(地域別の)最低賃金だけだとのこと、また渡辺美樹参議院議員の経営する和民が新入社員を酷使し入社2ヶ月で自殺に追いやったこと。もっと裏でいわゆるブラック企業が蔓延していることが透けて見える状況です。
原著者が本章の最初と最後に書いているまとめは、非常に明確です。両者は結局同じことを言っています。
・ 下流老人を生み出しているのは、現在の社会システムであり、個人の能力不足や怠惰のせいではない。
・ 現在の「過度に経済優先、弱者切り捨て」の社会システムと政策を正さなければ、下流老人も日本の貧困問題も解決しない。
・ さらに、人間疎外(人権無視)にならされた、わたしたちの意識と感情を正す必要がある。この後、第6章「自分でできる自己防衛策」(生活保護の知識を含む)、第7章「一億総老後崩壊を防ぐために」(政策の個人的アイデア)を記述しています。これらの「見える化」を進めると、問題の全体像が分かり、解決のための議論・考察ができるようになるでしょう。
『下流老人』 「第6章 自分でできる自己防衛策−対策と予防」 (「見える化」ノート、中川 徹、2015.12.30)
第6章 自分でできる自己防衛策 −どうすれば安らかな老後を迎えられるのか (目次)
【知識の問題(対策編)】 - 生活保護を正しく知っておく: 保護費の支給額と内容、 保護の受給要件
【意識の問題(対策編)】 - そもそも社会保障制度とは何か
【医療の問題(対策編)】 - 今のうちから病気や介護に備える
【意識の問題(対策編)】 - 何よりもまずプライドを捨てよ
【お金の問題(予防編)】 - いくら貯めるべきか
【心の問題(予防編)】 - 地域社会へ積極的に参加する
【居場所の問題(予防編)】 - 地域のNPO活動にもコミットしておくこと
【いざというときの問題(予防編)】 - 「受援力」を身につけておく
幸せな下流老人の共通点この第6章で著者はまず、下流老人の状況に陥ってしまった場合に、知っておくとよいこと、するとよいことを、整理して示しています。生活保護について正しく知ることがまず第一であり、生活保護の申請のしかた、受給の要件、支給される生活保護費の内容と額などを説明しています。無料あるいは低額で医療が受けられること、意識(気持ち)の持ち方についても述べています。
本章の特色は後半の、「予防編」(下流老人にならないための予防の方法)にあります。まず「貯蓄しておきなさい」というのは当たり前ですが、お金よりも大事なのは、老後の人間関係だといいます。「人に救けてもらいやすい人」とそうでない人があるといい、前者の人は、早めに人に相談でき、プラス思考の人だといいます。また、日ごろから人間関係を豊かに持ち、助け合いの「場」を持っておくのがよいといいます。また、本章の結論は印象的です:「貧困高齢者にも、幸せな人は沢山いる。人とのつながり、人間関係を豊かに持っている人たち。」 - 本章は比較的単純明快ですから、以上の簡単な記述で、「まとめと所感(中川)」は省略いたします。
全体図
左上
右上
左下
右下
『下流老人』 「第7章 政策の検討と提言 (完)」 (「見える化」ノート、中川 徹、2016. 1. 4)
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために (目次)
下流老人は国や社会が生み出すもの
日本の貧困を止める方策は?
制度を分かりやすく、受けやすく
生活保護を保険化してしまう?
生活の一部をまかなうものとしての生活保護
住まいの貧困をなくすこと
未来の下流老人をなくす−若者の貧困に介入せよ
下流老人の問題に希望はある−貧困・格差と不平等の是正へ
人間が暮らす社会システムをつくるのはわたしたちであるこの最終章において著者は、「最後に、わたしなりの下流老人に対する提言をまとめておきたい。・・・わたしたちの社会をどのように構築し直していけばよいのか、やや挑戦的、試行的に述べたい。」と書いています。
いつものやり方で「見える化」を試みました。最終章での論理を (跳びがなく) 明確にすることを心がけましたので、抜書きの密度が少し高くなっています。
札寄せの図では、「問題状況の認識・基本認識 → 検討・考察 → 提言(と補足)」という著者の考察の過程を左から右への流れで表現し、また、提言自身の段階的な順番と内部構成の論理的順番(したがって、その提言のベースになった問題状況の認識と考察の対象項目)を上から下への流れとして、二次元的に表現しました。(このような表現法は、やりながら作り上げたものです。)札寄せ図の詳細版(3頁)を作った後で、もっと全体を一望できる必要があると考え要約版(1頁)を作るのに苦労しました。最後に、この要約版を見ながら「まとめ」を文章化しました。
このHTMLページには、まず、要約版について、縮小全体図を示し、その後に、文字を読めるサイズにした拡大画像を掲載します。
また、最後に、中川のまとめ(「見える化」の図を文章化したもの)、および所感を記述しました。
全体図(要約版)
拡大図 (要約版) (上・中・下)
まとめ (「見える化」した図を文章化する) (中川 徹、2016. 1. 5):
著者(藤田孝典氏)が本章に記述している提言(とその論理)をまとめて文章化すると、以下のようです。(「要約版」の図を見ながら、さらに簡単にしています。)
(1) いま、「下流老人」(生活保護基準相当で暮らす高齢者)が大量に生まれており、約6〜7百万人と推定される。また、若者の雇用や生活環境が急速に劣化し(非正規雇用やワーキングプアなど)、低所得化が進行している。下流老人の貧困だけでなく、若年層の貧困、子どもの貧困などが広く存在し、それらが連鎖して、日本社会全体の貧困が進んでいることが、問題なのである。これらの下流老人やワーキングプアの若者たちを生み出すのは、国であり、社会システムである(当人個人だけの問題ではない)。
==> 国や政府が、日本に貧困が広がり、進行しつつあることを認め、格差是正や貧困対策を本格的に打ち出すことが、何よりも必要である。
(2) 「健康で文化的な最低限度の生活」は、憲法が保証する基本的人権(の一つ)である。これが社会保障を進めるための基本認識である。この意味で、生活保護をはじめとする社会保障を受けることは、権利であるという認識を確立し、浸透させる必要がある。下流老人が多くいると同時に、富裕な老人も多くおり、資産家・高所得者もあって、貧富の格差が大きいのが実情である。これは、(税制による)所得の再分配機能を高めて、社会保障を手厚くしていくことが、必要であり、また、可能であることを意味する。課税のしかたについては、資産や所得を総合的に議論して、決めるべきことである。
==> 上記の基本理念のもとに、「貧困対策基本法」を法制化し、国民の貧困化を予防し、貧困から救済するための方策を、国家の重要戦略として建てるべきである。
(3) すでにある生活保護の制度を受けることに対して、国民に(権利ではなく)「恥ずかしいことだ」という意識が植えつけられている。上記(2)の理念に基づき、制度を分かりやすく、受けやすくすることが、まず最初に必要である。
==> 政府や自治体はまず、(下流老人に限らず)生活困窮者に対して、「生活保護で救済できる」ことをきちんと知らせ、保護申請に来るように誘導することを、するべきである。
(4) 現在の生活保護は、(困窮して、資産などをすべて使い果たしたのちに〉8種の扶助(生活、住宅、医療、教育、介護、葬祭、生業、出産)をセットで提供する「救貧制度」である。「貧しくなってから救ける」もので、「貧しくなることを防ぐ(防貧)」観点がないことが問題である。実際、生活相談に来る多くの人は、「生活保護のうちの一部でも補助してくれれば、生活がかなり改善し、生活保護を受けなくてもやっていける」と話す。
==> 生活保護制度を「扶助項目ごとに分解」して、社会手当の形で、もっと受給しやすくする。これによって、(旧来の)生活保護の一部分を扶助することにより、生活を成り立たせ、資産のすべてを失わなくてもよいようにする。
(5) 下流老人には住宅費の負担が想像以上に重い。また、若者たちも住宅ローンを組んで高額な住宅を買うことはできなくなっている。ところがいままで、(住宅購入の支援制度はあるが)低所得者が民間賃貸住宅を借りるための支援制度がない。住宅政策を改め、低所得でも誰もが住まいを失わないですむようにするべきである。
==> 家賃の(一部)補助を進める(これは上記(4)の扶助の一例である)。高齢者や低所得者が楽になり、若者が家庭を持ちやすい環境を作ることができる。これは、少子化対策などに有効であり、ヨーロッパ各国で成功事例がある。
(6) 若者の雇用や生活環境の悪化のため、厚生年金に加入できず、国民年金の未納者が約4割ある。また、仮に40年間国民年金を掛け続けても、将来得られる年金は約6.6万円で、生活保護の生活扶助費と同程度しかない。これらのことは、国民年金制度が、破綻しつつあることを示している。この状況では、給与が低くて苦しい生活をしている若者に、国民年金の掛け金を無理に払わせないのが良い(生活を維持する方が大事)。
==> 国民年金保険料の減免措置があることを告知し、(無届の未納ではなく) 減免申請を薦めるべきだ。
(7) 上記(1)(6)の状況で、現在の若者の多くは、高齢になると下流老人と化す (これは、現状では避けようがない)。いまの国民年金制度は破たんしつつあるから、これに代わる社会保障制度を構築して、若者たちの老後を保障するようにしなければならない。そうでないと、将来に大きなコスト増が生じ、社会不安が起こる。
==> 国民年金制度に代わる新しい制度を構築し、老後の生活を最低限(すなわち、憲法が定める「健康で文化的な最低限度の生活」)保証するようにしなればならない。それは、現役時代の報酬に関係なく、(低収入だった人も含めて)すべての人に保障するものでなければならない。
(8) 上記(7)を実現するためには、税金を投入して、すべての人の最低限度の生活を保障することを考えざるをえない。
==> それは結局、生活保護制度の生活扶助に相当する。それならいっそ、国民年金制度を廃止し、(上記(4)で述べたような新しい) 生活保護制度の生活扶助に一元化するとよいのでないか。
(9) 上記の(1)(6)(7)で言っているのは、「今、日本社会の貧富の格差が大きくなり、貧困が拡大して、一部の富裕層を除いて、「一億総老後崩壊」の状況になる危険が大きい」ことである。上記に提案しているすべての対策案は、税金で賄って国から支出することを含意している。税金によって、富の再分配を図る、富んでいる所・人から徴収して、貧しい所・人に分配する。このような徴収・分配・利用のやり方を決めるのは政治であり、その意思決定を促すのはわたしたち国民である。
==> 真に住みやすい社会を構築するために、何を選択し、何を訴えていくべきか?国民がともに考え、行動していくことが必要である。
所感 (中川 徹、2016. 1. 6)
昨年7月以来、藤田孝典さんの『下流老人』を何回も読み、「見える化」の図示をしてきて、いま、最終章の図を作り上げ、まとめの文章化をしました。藤田さんのこの本は、実践に基づき、非常にきちんと考察して書かれていると、改めて思います。最終章の提言も、説得力があります。賛同します。
また、片平 彰裕さんの「札寄せツール」を使わせていただいたことで、本書の論理を非常に明確にすることができました。文章だけで理解しようとし、まとめて表現しようとするよりも、はるかに明確にできました。私自身が明確に理解できましたし、その理解を読者の皆さんに分かりやすく示すことができたと考えています。議論の土台として使っていただければ幸いです。
「札寄せしながら考える」というシリーズを始めた意図は、いままで私が研究し普及を図って来ました「創造的な問題解決の方法(TRIZ → USIT → CrePS)」の適用分野を、技術分野から、社会や人間を含むもっと広い分野に拡げる試みをすることでした。日本社会の貧困問題という大きくて輻輳した問題に取り組み、試行してきました。「札寄せツール」を使いこなして、複雑な問題を「見える化」できてきたことが大きな成果です。ただ、それはまだ、入口にしかすぎません。
いま、考えていることを簡単に列挙しますと、次のようです。
(a) 「下流老人」の問題において、最初で最後の問題は、私たちの「意識の問題」だと思います。下流老人(あるいは生活困窮者)になったのは、「考え・努力が足りないのだ」、「自己責任だ」という意見(意識・感情)です。---- 昨年12月に「読者の声」のページに掲載しましたメールでの討論をお読みください。
これは非常に深い、根本的な問題を含んでいます。「競争社会における(最低限の)保障」、さらには、「競争と分かち合い」、「競争と愛」などの矛盾関係と言い換えることができます。「勝ち負けの世界の中での愛の倫理」の問題でもあり、「基本的人権」の問題でもあります。
このような「矛盾」は、TRIZで学んだ「管理的矛盾」、「技術的矛盾」、「物理的矛盾」のどれでもない。もっと深い、人や社会の問題中にはある意味でどこにでもあるが、本当には(人類社会が)よく理解できていない(だからよく対処できていない)別の形式の「矛盾」であるように思います。(b) (日本社会の)実際の貧困の問題を考えると、特に1990年以降の政府の経済・社会政策が、経済界の要求を受けて、上記の「競争」を中心としたものであったことが、明白です。その中で、日本社会に貧困が拡大していった。その貧困の拡大を抑止することは、基本的人権を守ることと同じです。給与の向上、労働条件の改善、富の再分配などを考える必要がありますが、それは直ちに経済の問題、企業利益の問題などに関連します。経済界の人たちは、(本書の提言などを)「経済を知らない一般人の理想論に過ぎない」というでしょう。それなら、「基本的人権(や人間の幸福)をきちんと考えた、経済のあり方」を経済人や政治に関わる人たちに聞きたいものと思います。
(c) 「日本社会の貧困を考える」というテーマの取り掛かりとして、私は、高齢者の貧困をまず取り上げました。本書藤田孝典著『下流老人』は、その全貌をきちんととらえた優れたテキストでありました。私は、次に、現役世代・若者世代の(労働環境を中心とした)貧困の問題を考えようと思います。ドキュメンタリーな記述だけでなく、事実、背景、制度、考察・提言などをきちんと解説したテキストを探しています。適切なテキストがありましたら、教えてください。さらにその後で、子どもたちの貧困を考えるつもりです。これを最後にするのは、子どもたちの貧困はその親たちの貧困を反映したものだからです。
(d) 日本社会の貧困を抑止・解消するためには、「国・政府による政策が第一に必要である」という本書の提言はそのとおりと思います。ただ、その政策のための財源となる富を持つのは、企業・資産家と(かっての「総中流」以上の)高齢者層です。この一般の(すなわち「中流」(以上)と意識している)高齢者たちが、その富(の一部)を有効に社会に還元するやり方がないだろうかと、考え始めています。私有財産として自分の子どもや孫に相続させるのは一部分、税金に払って国や地方自治体の一般的な使途(必ずしも自分が最適と思わない使途)に配分されるのも一部分でよい。その他の一部分で、自分の判断と意思で社会に有効に還元する(そしてもちろん自分の老後も確保する)良いやり方を作れないだろうかと考え始めているのです。これは自分がそのような(中流以上の)高齢者層に属しており、自分の老後のことを切実に考えなければいけない状況にあるからこそできることです。
(e) ともかく、上記(a)〜(d)のすべてのことは、 「創造的な問題解決の方法」の研究と実践につながることと考えています。その意味で、この『TRIZホームページ』で引き続き(他のテーマとも織り交ぜながら)掲載していく所存です。
親ページ、冊子表紙、趣旨 | (0) はじめに、「見える化」 | (1)下流老人とは | (2) 事例と背景 | (3) 下流化のパターン | (4) 意識と理解の問題 | (5) 制度と政策の問題点 | (6) 対策と予防 | (7) 制作の検討と提言 | 『下流老人』の『見える化」冊子 |
英文ページ |
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最終更新日 : 2025. 7.25 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp