TRIZフォーラム: 読者の声 (意見と応答)

問題解決よりも、問題定義と解決策実施が研究の焦点(Mann)/
問題解決のための考える方法の確立が重要な土台(中川)

Darrell Mann (英国) 2013年10月29日
中川 徹(大阪学院大学) 2013年11月 5日

責任編集: 中川 徹(大阪学院大学)

掲載:  英文掲載: 2013.11.17; 更新:2013.12.23。  和訳掲載:2013.12.23

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  編集ノート (中川 徹、2013年12月19日)

本稿は、Systematic Innovation (体系的革新)の世界のリーダであるDarrell Mann氏より受け取ったメールと、それに対する私の返信で構成しています。英文ページには、11月17日に「読者の声」のページとして、他の人たちのメールと合わせて掲載しました。その内容の重要性にかんがみて、今回和訳掲載することにし、それと同時に独立したページにして、より明確なタイトルをつけました。

「読者の声」のページにつけた紹介文を再録しておきます。

英文ページで、Darrell Mannから「イノベーション の難しさは、適切な問題を取り上げることと、解決策をビジネスとして成功させることにあり、問題解決自身はずっと容易だ」というコメントをもらいました。

私は、CrePSの6箱方式の観点から、「Mannがいう二つの困難な問題は、「現実の世界」で考えるべき問題である。「思考の世界」での問題解決の方法論が、今まで(TRIZを含めて)しっかりした骨格(基本方式、パラダイム)を持たなかったから混乱していたのだ。その骨格を与え、CrePSとして確立すると、「思考の世界」での方法が明確になる。それはイノベーションの基盤にもなり、ビジネス以外にももっと広い分野で寄与する」と、応答しました。

このような、研究や仕事の進め方、さらに推進活動に関係する基本的なアプローチについて、きちんとした議論ができるのはありがたいことです。

 


 Darrell Mann (英国) のメール (2013年10月29日)

問題解決よりも、問題定義と解決策実施が研究の焦点

やぁ、Toru。 Eメールありがとう。返事が遅くなりました。今年はずいぶん忙しいので。
残念なことに、忙しくて、今年はパリのETRIA 国際会議に出られなくなってしまった。本当は、あなたに会って、最近あなたがやろうとしていることについて議論できるとよかったのだが。

自分の考え、そしてまたわれわれの進行中の研究のすべてからいえることは、イノベーションの世界を押し留めている二つの最も大きな問題は、つぎのものだと思う。

1) 組織や個人が、「正しい」問題を同定する能力に不足していること
2) 組織が、生成したアイデアを実施する能力に不足していること 
(これが私が「イノベーション能力の成熟モデル」の本を書いた土台にある)

「イノベーションの] 全プロセス中で、TRIZおよび「アイデア発想」/問題解決の部分は、解くべきことの中の最も簡単な部分のように見える。

このような研究知見に対して、あなたの意見を聞くのは興味深い。日本でも同様だと思うか?それとも、問題解決という分野が、研究を必要とし、新しいツール、方法、アプローチを必要とする主要な分野だと思うか?

敬具。 Darrel

 

 中川 徹 (大阪学院大学) の返信    2013年11月5日

問題解決のための考える方法の確立が重要な土台

親愛な Darrell へ。返信をありがとう。
今日パリから帰宅したところです。TFC2013国際会議では、私も多くの人たちも、あなたがいないのを残念に思っていました。

私のアプローチにコメントしてくれて、どうもありがとう。議論すべき重要な点に関わっていると思います。

(1)「6箱方式」の理解によれば、以下のようです。

「正しい」問題を同定することは、本質的に、「第1箱」(ユーザの具体的な問題)から「第2箱」(ユーザの適切に定義された具体的問題)に至る段階に、関係しており、「現実の世界」で(「現実の世界」の判断基準のもとに)行われるべきことである。「思考の世界」においては、扱うべき問題をチェックして、問題解決プロセスが意味のあるスタートをできるように確認(だけ)している。

生成した解決策アイデアを実施していくことは、「第5箱」(解決策のコンセプト)から「第6箱」(実施した解決策)にする段階に関わっており、「現実の世界」において(その企業の全力をかけて)実行されるべきことである。

だから、あなたが議論しているのは、「現実の世界」での困難についてである。

-- このような面に関して沢山の困難があることは、私も認める。

(2) あなたが「「アイデア発想」/問題解決の部分」と呼んでいるのが、私の基本方式でいえば、「第2箱」から「第3箱」「第4箱」そして「第5箱」へと進む、「思考の世界」で実施されるべき段階に関係しているといってよい。

この部分が、あなたにとって「もっとも簡単な」部分だと、あなたが言っていることは理解できる。
しかし、そこにはあなたも知っているように、非常にさまざまな方法、議論、出版物、、コンサルティング企業、などがあり、それらはしばしば、断片的で、部分的で、偏っていて、互いに争いあっている。
これらの諸方法の研究者・実践者の間には、関連する諸方法を統合できるような一般的な構造についての合意がまったく存在しない。

(3) 「4箱方式」が、問題解決における従来の主たるパラダイムであるといえるだろう。しかしそれは、次のような重大な欠陥を持っている。

- 問題を分析して、一般化した問題を得るプロセスが、部分的であり、知識ベースに存在する既定のパターンからどれかの適したものを見つけ出すことだけになっている。

- 知識ベースによって一般化した解決策として得られるものは、一つの示唆/ヒントにしか過ぎない。問題に対して適切なアイデアを得るためには、さらに考えていくプロセスが必要である。

- 「4箱方式」では、「現実の世界」と「思考の世界」との違いを明確にしない。そのために、問題を見つける(定義する)ことも、解決策を実施することも、「4箱」の中に含まれてしまっている。そのような前提が議論を混乱させ、問題解決の方法論をオープンエンデッドにし[領域を限らず、どこまでも広がるものと考え]、結果としていつまでもあいまいで複雑なものにしている。

(4) 「6箱方式」が、創造的な問題解決のための一般的な理論(方法論)の新しいパラダイムになることができる。-- これが私が新しく始めようとしていること [運動]の主たる提唱である。

この新しい方式は、きわめて自然であり、科学的思考の一般的なやり方とよく一致している。
問題を明確にし、それをいくつかの標準的な観点から分析する。その分析は、現在のシステムと理想のシステムの両方について行う。すると、システムを改良するためのさまざまアイデアが (
[しばしば自然に] ときにはなんらかのガイドラインの助けによって)着想される。そこでそれらを概念レベルの解決策にまで構築するのである。

(5) 「「アイデア発想」/問題解決の部分」を明確にし、非常に多種多様な諸方法を体系的に統合することは、多くの努力と、リーダシップと、研究とを必要とするであろう。

この運動は、関連の諸方法を理解し、それらを統合することのビジョンを共有する、多くの人々の協力を必要とする。

(6) 今日では、「イノベーション」というう語が、企業リーダ、政治家、その他の人たちの間で、最ももてはやされているキーワードであろう。しかし、そのイノベーションのための基礎になる方法論は明らかでない。

基礎になる方法論として、つぎの3種が必要である。

「問題を見つける」ための方法論 (「第1箱」から「第2箱」へ)
「問題を解決する」ための方法論 (「第2箱」から「第5箱へ」)
「解決策を実施する」ための方法論 (「第5箱」から「第6箱」へ)

このうちの「問題を解決する」方法論をしっかりと確立することができれば、あと二つの方法論をさらに開発していくのに、よい基盤が得られるだろう。

(7) 次に示すのは、TFC2013での私の発表の「まとめ」のスライドである。(本ホームページに2013年10月25日掲載)

コメントをいただいてありがとう。あなたのご理解、ご協力をお願いします。

敬具。 中川 徹

 

本ページの先頭 Mannのコメント

中川の応答

「読者の声」(2013年11月-12月)

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最終更新日 : 2013.12.23    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp