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『中川 徹 著作選集』 まえがき

中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授; 『TRIZホームページ』 編集者)
2025年 7月19日

『中川 徹 著作選集』  和文初版

掲載:  2025. 6. 1;  7.19

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 『中川 徹 著作選集』 まえがき   (初稿 2025. 6. 1; 追加 2025. 7.19)

  編纂の趣旨

いま私は、84歳の半ばになり、なんとか健康ではありますが、体力・記憶力・集中力などに、衰えを感じてきています。注意していても、いつ転倒して、身体や頭が不自由になるかもしれない、と思うようになりました。

そこで、まだなんとか活動ができるうちに、できるだけのことをして、それと同時に、生涯のまとめをしておきたいと思っています。引退したいと思っているわけではありません。いまやっていること、やろうとしていることは、できるだけ続けたいと思います。ただ、それと同時に、たとえいつ倒れても悔いがないように、しておきたい。いままでにしてきたこと、自分なりの成果をきちんと記録して、それらが「無」にならないようにしたい。できることなら、後世の人たちに少しでも役に立てるようにしたい、と思っています。

私は、1998年11月にWebサイト『TRIZホームページ』を創設し、以後その編集者として、自分が考えたこと、やったこと、活動したこと、関与したことの、ほぼすべてを、記録・掲載してきました。ですから、幸いにも、57歳以後のことは、『TRIZホームページ』に掲載の(膨大な)記事から精選してくれば、『中川 徹 著作選集』を創ることができます。

それより前の私には、学校時代、学生時代、物理化学の研究者の時代、そして、ソフト工学・情報科学の企業研究者の時代、などがあります。それぞれに書いたものや、研究論文などがありますが、取りあえずは、整理の対象外にします。57歳以後の『TRIZホームページ』に掲載している時代の方が、「私自身で独自の考察や研究や活動ができた」、だからそれだけ、(将来にも)社会に貢献できる内容があるだろう、と思っているからです。

 『TRIZホームページ』は、「創造的な問題解決の方法論の理解と普及のための、情報公開の場」として、和文と英文の両方で掲載・公開してきました。自分の記事だけでなく、国内と海外の多数の方の寄稿をうけ、(できるだけ)和英双方向への翻訳をして来ています。2週〜4週程度の間隔で、26年余り継続更新していますので、和・英とも2千編弱のhtmlページがあります。ハイパーリンクを活用したおかげで、それらのすべてのページ(とその下の図表・スライド・DF・ビデオなども)が連携(の鎖)を持っていて、いつでも容易に閲覧できます。大阪学院大学が、私の退職後も(そして、将来的にも)、サーバーを提供し、公開・維持いただいていることに厚く感謝します。

この『TRIZホームページ』サイトの内容紹介を、 2020年1月に(世界TRIZ関連サイトカタログ集の一環として)掲載しました。テーマの変遷と時期を考えて、約12のカテゴリに分類し、合計約160のhtmlページ(その大部分は和・英のペア)をリストアップし、簡単な説明(「解題」)を付けました。今回はまず、その後の5年余の記述を追加しました。そして、『著作選集』も、このサイト紹介と同様に、『TRIZホームページ』内のデジタルコンテンツとして作り、印刷版(本としての出版)はダウンロードすればよい、という方針にしました。

私が今したいことは、私自身の仕事(著作記事)で、読者の方たちに読んでもらえ・理解してもらえるような、『中川 徹 著作選集』を作り・遺すことです。精選して、できるだけ少ない量にする、それと同時に内容を(経緯、意図、概念、主張、新規性、事例、適用、実績、意義、評価などを含めて)きちんと理解してもらえるようにする、ことが大事です。このような趣旨で、30編余の記事を選び、その論文とスライドを整備して、いまようやく、『中川 徹 著作選集』(和文初版)をほぼ作り上げたところです。

   使い方

各編は、編集ノート、発表論文、発表スライド、(発表ビデオのタイトル画面)、(編集ノート後記)という順に並べ、一つのhtmlページに構成しています。各編の、編集ノート・論文・スライドなどは、それぞれ元のhtmlページからコピーしてきており、元の多数のハイパーリンクを活かしています。そのため、文献や他ページへの参照リンクの相手先はもちろん、スライド画像(の原図)の大部分と発表ビデオのファイルは、『著作選集』(のフォルダー)の外側にあります。ですから、『TRIZホームページ』のすべてのページが現在の構成のままで崩されていないことを前提にしています。各編内の本文では、分かりやすくするために、随所に太文字指定を追加しました。
各編のいくつかは、かなり大きなドキュメントになっているものがあります。その意図は、『著作選集』が単なる解説・索引ではなく、内容そのものをできるだけ収録しておきたいからです。

読者/ユーザの皆さんは、『著作選集』の親ページから入れば、全編の論文・スライド・ビデオを全てスムーズに閲覧できます(スライド画像(の原図ファイル)の大部分が『著作選集』フォルダの外にあることを、意識する必要はありません)。また、『著作選集』の任意のページを(特別な調整は不要で)印刷でき、PC画面で見ているのと同じものを、読むことができます。将来は、本の形式にして、出版できるとよいと考えています。

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テーマ分類と概要

一旦(サイト紹介での記述順に)作りあげてから、並べ替えて、テーマの流れを分かりやすくしたいと考えました。そこで作ったのが図1で、これに従って分類と並べ替えをしました。各編のタイトルは少し簡略化しているものがあります。(2025. 7.19)

1998年から2012年頃までがひとまとまりの時期です。

(A) TRIZを学び、USITを学び、それらを消化しつつ、より分かりやすく使いやすい方法を模索しました。TRIZの(膨大な)解法群をUSITの5解法(32サブ解法)に再編し、全体プロセスをフローチャート表現からデータフロー表現にした結果、「6箱方式」の概念を得ました。この「6箱方式」が創造的な問題解決の基本パラダイムだという認識が、大きな発見でした。科学技術の基本パラダイムは「抽象化の4箱方式」ですが、それはあらゆる分野で創り上げた理論を適用するための方式であり、それとは別に、新しい理論を創り出すことは(無数の人々が試行錯誤で実施してきたのですが)、方法としては誰も明示できなかったのです。

(B) この14年間私は大阪学院大学の教授として、「創造的な問題解決の思考法」を主テーマに、学部生の教育に携わりました。その教育実践の総合報告を中間時点(2007年)と退職時(2012年)に大学の紀要に書いています。「レポート(論文)の作り方・書き方」 というテキストもお役に立つでしょう。「中川徹のミッション・ステートメント」というのは、1年生後期のゼミで、『7つの習慣 ティーンズ』を学んでいた時に、ゼミの文集に学生たちの文と共に載せたものです。

(C) 普及活動としては、『TRIZ実践と効用』シリーズ(全5巻)の出版を収録しておきました。すべて翻訳書で、2002年〜2012年にいろいろな人の助力を得て私が監訳したもので、2014年に(個人事業)クレプス研究所から出版しました。この他に、海外・国内の多くの人のからの寄稿とその和訳もありますが、私の『著作選集』には含めません。また普及活動としては、日本TRIZ協会の立ち上げとシンポジウムのプログラム委員長、海外のTRIZ国際会議の内容の詳細レポート、企業ユーザへのTRIZ/USIT研修などがありますが、収録しません。

2012年3月に私は大学を退職し、その年末に日本TRIZ協会の役員をやめました。その後は名誉教授という立場で、『TRIZホームページ』を活動・広報の場として活用し、独自の判断で大事と思うテーマに取り組んできました

(D) 2012年に、若者たちにTRIZを普及させるにはどうしたら良いかを考え、一人の人がTRIZを受容するまでのプロセス、一つの企業がTRIZを導入・活用するプロセス、さらに、社会のいろいろな分野へのTRIZの普及・貢献の期待などを図にして考えました。そして気付いたのは、普及・貢献するべきなのは、TRIZ/USITなどの個別の方法でなく、もっと広い範囲の「創造的な問題解決の方法論(一般)」だということでした。それはTRIZを越えたもので、「6箱方式」を基本パラダイムにして、従来のいろいろな技法や方法論を統合したものです。「6箱方式」が統合の土台になる、USITはその「6箱方式」を「思考の世界」で実践する、簡潔・明快なプロセスである、と理解しました。「現実の世界」で問題を捉え、(「思考の世界」で解決策を導いた後に)「現実の世界」でそれを実現するやり方を、現実世界のいろいろな分野や状況に即して明らかにすることが、今後の大きな課題です。

(E) 2017年末から、取り組んだのが「TRIZおよびTRIZ周辺のWebサイトの世界カタログ集を作ろう」というWTSPプロジェクトです。永年の友人の、世界のトップリーダ5人に、グローバル共同編集者になってもらい、活動しました。私が主に活動し、日本カタログをまず作り、TRIZ周辺サイトの世界カタログのβ版を完成させ、並行してTRIZサイトの世界カタログのβ版を作ろうとしましたが未完成です。未完成の理由は、TRIZのいくつかの主要国のリーダたちが、総論賛成でも、実際の作成作業を忌避しているため、歯抜け状態にあるからです。これらのカタログ集の作り方、使い方のドキュメントを整備しましたが、プロジェクトは開店休業状態です。これを打開するために、私は(5人の共同編集者と共に)「創造的問題解決の分野で世界を代表する”SI-Review" Webサイトを設立しよう」という提案を始めました。既存の学協会やジャーナルが、未発表の仕事の論文/記事を掲載しようとするのに対して、既発表の論文や記事をきちんとまとめた総説やレビューを掲載するものです。「新たに確立された仕事を、きちんと積み上げることは、世界サイトカタログ集を越える意義があると思われます。

(F) 2021年8月末に、MATRIZ(国際TRIZ協会)が私に「TRIZチャンピオン賞を授与する」と伝えてきました。この賞は、特に「枠から出て考える」ことを重視し、TRIZを世界に展開することに大きく貢献した個人を称えるとのことです。私のアプローチは「(伝統的なTRIZの)枠から出る」ものでしたが、それを認めて貰えた今回の受賞をありがたく、深く感謝します。

(G) TRIZを越えて創造的な問題解決の一般的な方法論こそ大事なのだと理解しましたから、それを(技術問題でなく)社会的問題に適用してみようと考えました。そのとき、藤田孝典著『下流老人』を読み、二度精読して、その論旨を「見える化」しようと決めました。「札寄せツール」(片平彰裕)を使い、工夫しながら、222頁の本を24頁の「見える化」冊子にしました。Amazonのカストマ―レビューを見て驚きました。沢山の星5星4がある一方で、沢山の星1星2があり、「身勝手な人生を送って貧困になったような人も、当人の責任でなく、社会のせいにしている」などと批判しています。レビュー82件にコメントを書いてみて、「勝ち負けと自己責任」論と「生活保障と福祉」論の対立だけれども、その根底はずっと深く「自由」と「愛」との対立・矛盾にあると理解しました。
「自由」も「愛」も人類文化の重要な指導原理ですが、「自由」同士にも矛盾があり、「愛」同士にも、「自由」と「愛」にも矛盾がある。この「自由」と「愛」の矛盾は、人類文化(十万年)を貫く「主要矛盾」であり、未解決でさらに拡大しつつある。解決の鍵は、両者を動機づけ調整しうるもの、平たく言えば、人の道、(先天的な)良心、基本的人権を含んだ、(道徳とは異なる)「倫理」であろう。人類文化は、「倫理」(第0指導原理)を深化し、「自由」(第1指導原理)を伸長し、「愛」(第2指導原理)を拡張(普遍化)する方向に(同時に)進むべきだ。「自由」だけ、「愛」だけ、「倫理」だけの主張・固執は(矛盾を拡大させるから)「善」ではない。三つの指導原理を共に(適切なバランスで)進めるのが「善」である、と初めて理解しました。実はこの三つの指導原理はすべての生物に共通し、DNAに深く根差していると理解しました。(その後)倫理学の本をいくつか学びましたが、私の上記の基本仮説に対応するものは見出せません。私が自分の『著作選集』を遺したい最大の理由です

(H) 地震は、阪神淡路大震災と東日本大震災をはじめとして、日本社会に壊滅的な被害を与えてきましたし、将来にも予想されます。私は地震関連の本を学ぶと共に、2015年に日本地震予知学会の会員となり、学術講演を聞いてきました。永い間、暗中模索の感がありましたが、2022年末と2023年末の発表を聞き、明確な手掛かりが得られた感じました。そこで、可能性のある地震の前兆現象とその観測法の分類、前兆現象の観測と検証に必要な要件などを整理して、将来性の期待される(既発表)の方法を整理しました。さらに、地震予知研究の発展段階として、(1) 一研究グループでの観測法の確立と実証、(2) 複数研究グループ・サイトでの観測法の検証、(3) 全国展開によるその観測法の実証と地震予知(推定)法の確立、(4) 諸方法の統合による地震予知の技術システムの確立、(5) 公的(国家)機関による地震予知警報体制の確立、を想定しました。現在、第2段階に差し掛かっており、各段階に5年を要するとして、(順調でも)20年の構想です。さらに、実用段階(5) を考えると、(a)(地震の1年〜1月前に出す)地震予知注意報、(b)(10日〜半日前の)地震予知警報、(c)(2時間〜10分前の) 地震予知緊急警報が適切です。このうち、(a) には衛星による地殻移動の観測(神山ら)、(c) には地中での直流電場の観測(筒井)が有望ですが、(b) には明確な手掛かりがまだありません。私は、これらの認識のもと、地震予知研究を支援・推進していく所存です。

 

『中川 徹 著作選集』を、多くの皆さんに読んでいただき、私の仕事を理解いただけましたら、誠に幸いです。先ほどは「私自身で独自の考察や研究や活動ができた」と書きましたけれども、それはもちろん、幼少の頃から、学校時代、学生・院生時代、そしてまた、物理化学や情報科学の研究者の時代、などと、永い年月にわたって多くの方々から測りきれない愛情や薫陶や激励を受けてきた御恩によって可能になってきたことと、感謝しています。『TRIZホームページ』を始めて以後に、多くの先達(特に海外のTRIZ専門家たち)との交流から学んできた経過は、国際TRIZ協会から「TRIZチャンピオン賞」を受けたとき(2021年9月)の返礼文に書いています。(その他にももっともっと)多くの方から学んで、自分でもいくばくかをプラスしたそれを皆さんに、またできれば後世の人たちにも伝えたいと、願っています。

  テーマ分類と全編の関連図

 

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『著作選集』まえがき

(目次)論文/記事一覧

『TRIZホームページ』サイト紹介

 

 

 

 

 

 

 

 

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最終更新日 : 2025. 7.19    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp