論文: 6箱方式 |
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科学技術の「抽象化の4箱方式」から、創造的問題解決の「6箱方式」へ |
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編集ノート (中川 徹、2021年12月10日) (追記: 2022. 2.19)
本篇は、10月3日に日本創造学会の研究大会で発表した論文で、予稿集に掲載されたもの(HTML/PDF)と、発表スライド(PDF)および発表の(リハーサルの)動画(MP4)をまとめて掲載しています。10月に掲載すればよかったのですが、(多忙で英訳もできなかったためもあり)掲載できていませんでした。遅ればせながら掲載いたします。――ようやく英訳版を作り、英文ページに論文(HTML/PDF) および発表スライド(HTML/PDF)を掲載しました。(2022. 2.19)
内容は、6月27日にアート思考研究会で発表しました90分の講演 の中間部分(TRIZとUSITの記述)を簡略化し、「6箱方式」に焦点を当てたものです。科学技術の基本パラダイムである「抽象化の4箱方式」が創造的な問題解決には適用できないこと、そのため従来の創造性技法の研究が基本パラダイムを見いだせないまま乱立・混乱していること、TRIZ/USITから得た「6箱方式」こそが「創造的な問題解決の基本パラダイム」である(に成る)ことを述べています。
「6箱方式」の(データフロー図で表した)図式は、単純で、すっきりしており、一見「当たり前」「なんの変哲もない」ものに見えます。しかし、それは今まであらゆる所で説明に使われてきた「科学技術の、抽象化の4箱方式」とは、根本的に違います。科学技術の、確立された各分野の各理論の「共通項」を表現しているのが「4箱方式」であり、「4箱方式」を使うプロセスをどんな問題についても分かるように説明することができません。そのために、新しい問題/新しい課題を解決しようとする場合(「創造的な問題解決」)の指導原理・基本方式(パラダイム)としては使えなかったのです。
「創造的な問題解決」のためには、(従来の「創造性技法」や「デザイン(設計)方法論」などの中の個別の技法/方法よりもっと根本的で一般的な、)「新しいパラダイム(基本方式、指導原理)」が必要なのだ。そして、ここに提案する「6箱方式」がその「新しいパラダイム」なのだ、というのが本論文の主張です。下図に「4箱方式」と「6箱方式」を並べて示しました。「6箱方式」のプロセスと使い方は、(従来からの膨大な研究と実践をベースにして)一般的でありながらどんどん詳しく説明できるのです。
-- 私が「6箱方式」を認識し提唱したのは、実は2005年 です。それ以後、いろいろな事例を作り、いろいろな発表をし、記録を蓄積してきていますが、まだ(日本でも世界でも)広く認識されていません。「6箱方式」」こそが、「創造的な問題解決のための新しいパラダイム」なのだ、ということを、これからも広く、強く伝えて行かねばならないと、改めて思っています。
和文
英文
論文 (予稿集掲載):
発表スライド:
発表動画:
1.1. 科学技術の基本パラダイムは「抽象化の4箱方式」
1.2. 多様な「創造性技法」の分立と模索2.1. TRIZ(発明問題解決の理論)
2.2. USIT(統合的構造化発明思考法)3.1 「6箱方式」の考え方・使い方
3.2 「6箱方式」の使用例・記述例
3.3. 「6箱方式」の位置づけ
3.4. 各種「創造性技法」を「6箱方式」で理解する
科学技術の「抽象化の4箱方式」から、
創造的問題解決の「6箱方式」へ
中川 徹 (大阪学院大学; クレプス研究所)
日本創造学会第42回研究大会 予稿集 2021年10月2日(土)〜3日(日)
要旨:
科学技術の基本パラダイムは「抽象化の4箱方式」であり、各分野ごとにモデル(理論)が構築されている。しかし、それは「創造的問題解決」のためには有効でない。このため、創造的問題解決を目指した従来の研究は、基本パラダイムを持たずに、多様な「創造性技法」として乱立してきた。その中でTRIZとUSITが新しい展開を準備した。筆者は、膨大なTRIZを簡潔なUSITに統合した上で、USITのプロセスのデータフロー表現から、「6箱方式」を得た。筆者はこれが新しい「創造的問題解決の基本パラダイム」であると提唱している。多様な「創造性技法」の一つ一つを理解し、「6箱方式」で位置づけ直すことが有意義であろう。[脚注]
キーワード: 抽象化の4箱方式, 創造的問題解決の6箱方式, 基本パラダイム, 創造性技法, TRIZ/USIT
[脚注] 本稿は、筆者の研究を総説した講演(90分)[1]を、中間部を圧縮して書き下ろしたものである。
1 科学技術の基本パラダイムの現状
1.1. 科学技術の基本パラダイムは「抽象化の4箱方式」
科学技術は人類文化のほぼ全てを支え、日夜膨大・広範な研究・開発・適用・教育が行われている。その中で、分野を問わず、最も基本的な思考の方式・指導原理(「パラダイム」)として、「抽象化の4箱方式」を挙げることができる。(図1)
図1:抽象化の4箱方式 [8]
すなわち、具体的な問題を解く(解決する)のに、具体的なまま個別に解決しようとするのでなく、知られている一般化したモデル(理論)を使い、問題を抽象化する。その一般化した問題の解決法(解決策)はすでに知られているから、それを参考(ヒント)にして、自分の問題に立ち返って具体的な解決策を考え出す。その簡単な典型例は、数学における、二次方程式と根の公式であり、この方式は学校教育から、専門分野まであらゆる所で教育され、利用されている。
この方式での抽象化したモデル(理論)は、あらゆる分野、あらゆる問題で個別に開発され、科学技術の知識体系として蓄積・利用されている。ただし、この抽象化のやり方は、(個別の)モデルに依存するので、実際にはまず一つのモデルを選択し、具体的問題をそのモデルに「当てはめる」ことになる。
ところが、発明やイノベーションを要するような問題の解決(「創造的な問題解決」)では、どのモデルを使うとよいかが不明で、既存のモデルではカバーされていないことが多く、「抽象化の4箱方式」が有効でない。
1.2. 多様な「創造性技法」の分立と模索
そこで、「創造的な問題解決」のための方法が模索されてきた[2]。その土台は、古来から現在までの多くの科学者・技術者たちの、成功の経験に学ぶことである。多くの成功事例は「ひらめき」を得たと表現されており、それに至る過程は、ほぼ共通に次のように分かってきた。
(a) 基本的な知識を持ち、学習・研究しており,
(b) 強い問題意識を持って、長期間考えていた。あぁでもない、こうでもないと、考え、試していた。
(c) リラックスした心理状態のときに、ちょっとしたできごとや夢がきっかけで、「ひらめいた」。
(d) 自分の問題に当てはめ、明確な解決策にした。
長期間努力しないといけないことは分かっているが、いつ「ひらめき」が得られるかは分からない。ともかくこの知見をヒントに、さまざまなやり方が模索されてきた。
1. ともかく、じっくり学習し、研究し、実験し、試行する。
2. アイデアを自由奔放に出して、試行する。
3. 想像力、空想力を豊かにする。擬人的に考える。
4. 頭を柔軟にする、いろいろな角度から考えるように訓練する。
5. いろいろな例をヒントにして考える。ヒントを探す、集める。
6. 文献や特許を調べて、それを参考にする。
7. 問題のこと、やりたいことを、分析・記述する。
8. リラックスする時間・場所・環境を作る。
9. いろいろな考え・経験・分野の人たちで、議論する。
・・・・・・
これらの種々のアプローチで作られてきた諸技法(「創造性技法」[2, 3])の例を表1に示す。
現在は、このような多数・多様な「創造性技法」がばらばらに提唱・実践されていて、混乱している。それぞれに「近道」を狙い、個別に有効でも、それぞれに部分的で、全体像が分からない。
表1:創造的な問題解決のための諸技法の例 [9]
2. 展開: 創造的な問題解決の方法論を求めて
2.1. TRIZ(発明問題解決の理論)
TRIZは、旧ソ連の民間でGenrich Altshullerが1946年以降開発・樹立し、1990年代から全世界に広がって、使われてきている。特許の分析を初めとして、科学技術の原理や応用事例をいくつもの観点から使いやすく分類し直したデータベースの体系を作った。システム思考、および、矛盾を定式化して確実に解決する方法を作ったことも注目される。[5]
図2に、TRIZが開発した主要技法の4種を示す。これらはそれぞれに、「4箱方式」をベースにし、科学技術情報を整理し直した大規模なデータベース(知識ベース)を備えている。
図2: TRIZの4つの主要技法 [5]
(a) は、目標とする機能を実現するような、多様な科学技術の諸原理とその技術事例を探索する。
(b) は、システムの主要部の何らかの側面に注目し、さまざまな他システムにおけるその側面の発展方向(トレンド)を学んで、改良を検討する。
(c) は、自分のシステムの「ある側面を改良しようとすると、別の側面が悪化する」という矛盾として捉え、そのような矛盾を解決した先例(特許)でよく使われた、解決策のアイデア(「40の発明原理」として整理されたもの)を知り、それをヒントとして使う。「矛盾マトリックス」は全世界の特許の分析から得た膨大なDBである。
(d) は、問題システムの中核部を(一種の)機能分析で表現し、問題のタイプに応じて、その(標準的)解決法を機能分析の言葉で示唆する。
これらの4技法はすべて、問題のシステムの分野によらず、技術の発展段階によらずに使えるという大きな特長がある。しかし、各技法がそれぞれ個別の側面からアプローチしており、複数の方法が並立して、TRIZの全体プロセスが複雑で明確にならないという欠点がある。
2.2. USIT(統合的構造化発明思考法)
USITは、TRIZの解決策生成法を大幅に(単純な5解法に)単純化したイスラエルのSIT法を取り入れて、米国フォード社のEd Sickafusが1995年に開発した。創造的問題解決のための簡潔で一貫したプロセス(図3)を作った。それは(TRIZとは逆に)ハンドブックやソフトツールに頼らず、技術者たちの思考プロセスをガイドする点に特長がある。[6]
図3:USITの創造的問題解決のプロセス [4]
筆者は、1997年にTRIZを、1999年にUSITを導入し、両者の思想と長所を統合したやり方を模索してきた。特に、TRIZの解決策生成法(図2他)を全てばらして、USITの5解法の中に再統合し、USITオペレータ体系(5解法、32サブ解法)を作った [7]。この結果、習得も適用もやさしく、有効性がある汎用の創造的な問題解決の方法ができた。
そして次の発展は、この改良したUSITのプロセスを、フローチャート(図3)でなく、データフローで表現したときに、次章の「6箱方式」を見出し、それが「創造的な問題解決」の「基本パラダイム」であると認識したことである。[4, 8]
3. 「6箱方式」: 創造的問題解決の新しいパラダイム
3.1 「6箱方式」の考え方・使い方
「6箱方式」は、図4の「データフロー表現」で表わされ、かつ定義される [4, 8]。
図4: 「6箱方式」:創造的問題解決の新しい基本パラダイム [4]
データフロー表現は、各段階で得るべき情報(データ)を(一種の仕様として)(図の箱内に)規定・記述し、一方その情報を得る各段階の(思考・処理)プロセスを(図の矢印と楕円で)示すが、その詳細を規定せず、多様性・任意性を許す(例えば、箱を越えての戻りや繰り返しも許す)。
「6箱方式」では、図の(丸四角で示すように)上下半分ずつを「別の世界」に属すると考えるのが特徴である。下半分が「現実の世界」であり、問題(あるいは達成したい課題)が存在し、その解決策を実施したい場である。そこでは、自分たちの状況に応じて、技術・ビジネス・社会などの面から、扱うべき問題や実施する解決策の価値判断・取捨選択を行う。一方、上半分は「思考の世界」であり、(問題解決の)技法が主導して、問題を(現実にとらわれず)できるだけ広く・自由に・深く考察して、解決策を作り、現実の世界に提示する。
問題の認識(左下、箱1)は「現実の世界」で行われ、(例えば、企業や現場の責任者が)具体的な技術・ビジネス・社会の状況と価値判断で、取り上げるべき問題(箱2)を定義する。そして、適切なチームを組織して、その問題解決を託す。
託されたチームは、「思考の世界」の立場から、問題(箱2)を再確認する。ついで、問題の分析・検討に進み、まず、問題を生じている現在のシステムを理解する(箱3内下)。それには、空間と時間の観点、構成要素、その属性(性質)、機能などの観点から考察して、現在のシステムのメカニズムを理解し、問題を生じている(根本)原因を理解する。また同時に、問題を解決している(持たない)理想のシステムのイメージを作る(箱3内上)。
次に、新しいシステムのための(基本的な)アイデアを得る(箱4)。箱3までの分析が、チームメンバーの素養を引き出し、アイデアが自然に出てくることが多い。またその他に、(TRIZの諸技法やUSITオペレータ体系の適用など)いろいろな解決策生成技法で、アイデア生成を強化できる。
その次に、基本アイデア(箱4)を出発点にして、それを確実・効果的に実現できるであろう(できるはずの)解決策を作る(箱5)。これは概念レベルの解決策であり、短期的/長期的、現実的/野心的、改善的/根本的などの、複数の案を作ることがよい。いずれにしても、この具体的な分野での素養をチームメンバー(の一部)が持っていることが望まれる。
解決策(箱5)は、「現実の世界」に戻され、提案・報告される。「現実の世界」では、実際の技術・ビジネス・社会などの状況から、これらの案の実現性・経済性・有効性・将来性などを判断し、採用案を考える。さらに、採用した解決策を、設計・試作・改良し、市場の可能性を調査し、商品/サービスなどとして、生産・実装する(箱6)。市場に投入した後の拡販、アフターサービス、改良なども継続して必要である。
3.2 「6箱方式」の使用例・記述例
「6箱方式」は、基本的なパラダイムであり、創造的問題解決の推奨される方法(その簡潔な実践法がUSIT)であると同時に、さまざまの技法で実施された具体例をこの枠組みで理解・記述できる。
筆者がUSITを使って実践した諸事例を、「6箱方式」で記述・公表している。[9, 10]
ここでは、TRIZを使い、矛盾問題を解決した、K.W. Leeらの「水洗トイレの節水化」の事例 [11] を、3連のスライド(図5〜図7)で紹介する。
図5〜図7:「水洗トイレの節水化」の事例 [4]
この全プロセスを「6箱方式」で表現したのが図8である。この事例のエッセンスは、TRIZでいう「物理的矛盾の解決」が、問題の認識(箱2)、矛盾の定式化(現在システムの理解、箱3下)、分離原理による要求(理想のシステムの理解、箱3上)、それらから誘発されたアイデア(箱4)、そのアイデアを具体化した解決策(箱5)、という段階を経ており、「6箱方式」が適切に表現している。
図8:「水洗トイレの節水化」の「6箱方式」表現 [9]
3.3. 「6箱方式」の位置づけ
「6箱方式」の上半分(箱2〜箱5)は、「思考の世界」でのプロセスであり、科学技術の「抽象化の4箱方式」(図1)に対応するが、根本的な違いがある。
まず、「抽象化」のプロセスが「4箱方式」では既存のモデル(理論)への当てはめであったが、「6箱方式」では現在のシステムを理解する分析としていくつもの観点での指針があり、同時に理想のシステムの理解を作ることである。さらに、「4箱方式」での「一般化した解決策」は既存のモデルの答えをヒンととして得ることであったが、「6箱方式」では、ヒントではなく、新しいシステムのためのアイデアそのもの(箱4)を得る。これが得られるのは、いろいろなアイデア生成技法(多様な「創造性技法」や、TRIZ/USITなどの技法)が使えるからというよりも、箱2・箱3の情報が自然にアイデアを誘発するからである。さらに、具体化の過程において、「4箱方式」ではヒントを手掛かりにして自分の問題へのアイデアを出すことに困難・不適切さなどがあったが、「6箱方式」ではその段階をすでに乗り越えており、具体的な解決策(箱5)にスムーズに進める。
このように、「6箱方式」は「思考の世界」においては、「創造的問題解決の基本パラダイム」として有効性・普遍性を持っている。
一方、「現実の世界」(図4の下半分)における「6箱方式」の位置づけは、大きな課題を抱えている。なぜなら、図9に例示するように、「現実の世界」が極めて多様だからである。
図9: 創造的問題解決の「6箱方式」の「現実の世界」における位置づけ [12]
創造的問題解決を必要とする(だから「6箱方式」を適用しようとする)現実の世界は、各種の産業界やビジネス、社会・公共の場、教育・医療の場など実に多様である。
図9では一例として、製造業の場合を考察した。製造業における典型的なビジネスプロセスを下段に記述したが、そのあらゆる過程において、あらゆる商品や設備に関して、いろいろなタイプの問題が生じる。問題が生じるたびに(あるいは、数年先のビジネスを予想して)、問題を取り上げ(箱1)、問題状況を把握して、重要な問題(箱2)を「思考の世界」に渡す。この過程で遭遇する問題のバリエーションを図9左下に記した。
また、これらのバリエーションは、問題定義の段階(箱1・箱2)だけでなく、「思考の世界」での活動(箱2〜箱5)、および「現実の世界」での解決策の実現(箱5・箱6)にも影響を与える。このような多様な状況に応じた「創造的問題解決の方法論」の確立は、(一部は検討されているが)まだまだ今後の課題である。
3.4. 各種「創造性技法」を「6箱方式」で理解する
1.2節に述べたように、創造的問題解決の方法を求める従来のアプローチは、明確な基本的枠組み・指針(基本パラダイム)を持たなかったために、多方向に乱立する状況である。それらの多様な「創造性技法」(表1)を、今回の新しい「創造的問題解決の基本パラダイム」である「6箱方式」を使って位置づけ直すことは、大きな意義を持つ。位置づけ直しの概要を図10に示す。
図10:多様な「創造性技法」を、「6箱方式」の基本パラダイムに位置づけて理解する [12]
アプローチ (a) 科学技術の基本は、従来の「抽象化の4箱方式」に加えて、「創造的問題解決の6箱方式」(の全体)を基本パラダイムとして取り込むのが良い。
(b) 事例に学ぶアプローチは、「思考の世界」の活動の簡易方式である。
(c) 問題・課題を整理・分析するアプローチは、問題の分析(箱2→箱3)(および問題の定義(箱1→箱2))の段階での方法を扱っている。
(d) アイデア発想を支援するアプローチは、アイデア生成(箱4)の段階を扱っているが、それの準備段階(箱3まで)を飛ばしていることがある。
(e) メンタル面の重視のアプローチは、「思考の世界」全体での心構えを重視している。
(f) アイデアを具体化するアプローチは、「現実の世界」での実現の過程(箱5→箱6)(また一部は箱4→箱5)を扱っている。
(g) 将来の予測、方向の提示のアプローチは、主として「現実の世界」で扱われるが、「思考の世界」での考察法にも大きな影響を与える。
(h) 総合的な方法論のアプローチは、「6箱方式」全体の理解・構築に関わるものである。以上が位置づけなおしの概要であるが、やはり「創造性技法」の一つ一つを理解して、その特徴(位置づけ/役割)・有効性を確認することが大事であろう [9]。3.2節には、TRIZの重要な一技法「矛盾の解決」を、「水洗トイレの節水化」の事例を使って、「6箱方式」での理解を明確に示した。さまざまな「創造性技法」について、このような例示による理解を積み上げることが、今後有効であろう。
4. まとめ
本稿で述べた要点は以下のようである。
科学技術の基本パラダイムは「抽象化の4箱方式」であるが、それは「創造的問題解決」のためには有効でない。
創造的問題解決のための従来の諸方法(いわゆる「創造性技法」)は、基本パラダイムを持たずに、乱立してきた。
TRIZとUSITが新しい展開を準備した。
「創造的問題解決の6箱方式」を新しい基本パラダイムとして、筆者が提出した。
これらを受けて、今後、多様な「創造性技法」を、「創造的問題解決の基本パラダイム」に沿って理解し直し、全体をすっきりさせることが重要な研究課題である。それは、世界の創造性やイノベーションに関わる研究や開発に、基本となる枠組み・指針(パラダイム)を与えるものである。
参考文献
[1] 中川徹 (2021) 創造的な問題解決の方法論:TRIZとその発展〜イノベーションのための科学的方法〜, アート思考研究会, 2021年6月27日; THPJ/jpapers/2021Papers/jNaka-CrePSTalk-210627/jNaka-CrePSTalk-210627-VideoSlides-210705.html ; [ビデオ] https://www.youtube.com/channel/UCx_pLqJqSvZN3zv48bDhTYQ
[2] 高橋誠編著 (2002) 新編創造力事典,日科技連
[3] 日本デザイン学会 (松岡由幸) 編 (2019) デザイン科学事典、丸善出版
[4] 中川徹 (2005) 新しい世代のやさしいTRIZ, 第1回TRIZシンポジウム (日本TRIZ協議会), 基調講演, 2005年 9月 1-3日; THPJ/jpapers/2005Papers/2005TRIZSymp0509/1-1Nakagawa050915/1-1Nakagawa050915.htm
[5] 中川徹 (2019) トリーズ(TRIZ) [解説], デザイン科学事典、丸善出版、pp. 550-555; THPJ/jpapers/2019Papers/Naka-DesignEncyclo-2019/Naka-Encyclo-TRIZ-191119.html
[6] 中川徹 (2007) USIT入門: 創造的な問題解決のやさしい方法, 機械設計(日刊工業新聞), 連載 (全5回), 2007年 8月号〜12月号; THPJ/jpapers/2007Papers/NakaMachineDesign-USIT07/NakaMD-USIT-1FAQ.htm
[7] 中川徹・古謝秀明・三原祐治 (2002) TRIZの解決策生成諸技法を整理してUSITの 5解法に単純化する, ETRIA TRIZ Future Conf., 2002年9月4日; THPJ/jpapers/2002NakaPapers/ETRIA02USIT0209/ETRIA02USIT020905.html
[8] 中川徹(2006) 創造的問題解決の新しいパラダイム: USITの「6箱方式」, ETRIA TRIZ Future Conf., 2006年10月6-8日; THPJ/jpapers/2006Papers/NakaETRIA-SixBox0610/NakaETRIA-SixBox061028.htm
[9] 中川徹 (2014) 創造的な問題解決・課題達成のための一般的な方法論(CrePS):いろいろな適用事例と技法を「6箱方式」で整理する, ETRIA TRIZ Future Conf., 2014年10月29-31日; 日本創造学会研究大会、2014年10月25-26日; THPJ/jpapers/2014Papers/Naka-CrePS-JTS-JCS-ETRIA-2014/Naka-CrePS-JTS-JCS-ETRIA-141105.html
[10] 中川徹 (2015) USIT:6箱方式をパラダイムとする 創造的な問題解決のための簡潔なプロセス−USITマニュアルとUSIT適用事例−, 日本創造学会論文誌, Vol. 19, pp. 64- 84; ETRIA TRIZ Future Conf., 2015年10月26-29日; THPJ/jpapers/2016Papers/Naka-JCSJournal2015-USIT/Naka-JCSJournal2015-USIT-160608.html
[11] H.S. Lee, K.W. Lee (2003) 物理的矛盾を解決したTRIZの実地適用事例:フレキシブル・チューブを使った超節水型トイレ・システム, TRIZ Journal, 2003年11月; 和訳: THPJ/jpapers/2003Papers/LeeToilet0311/LeeToilet031127.htm
[12] 中川徹 (2016) 創造的な問題解決のための一般的な方法論CrePS:TRIZを越えて:なに?なぜ?いかに?, Altshuller Institute TRIZCON2016, 2016年 3月 3- 5日; THPJ/jpapers/2016Papers/Naka-TRIZCON2016-CrePS/Naka-TRIZCON2016-CrePS-160613.html
注: THPJ: 『TRIZホームページ』(編集者:中川徹)(1998年11月創設), URL:http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/
発表スライド ==> スライドPDF
最終更新日 : 2022. 2.19 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp