フォーラム: 研修活動報告

「レポートの作り方・書き方」研修セミナーを指導して

和歌山県看護協会 認定看護管理者制度ファーストレベル研修(の一部)、講師:中川 徹、2016年 6月 2-3日、看護研修センター(和歌山県海南市)

中川 徹 (大阪学院大学)、2016年11月26日

掲載: 2016.11.28

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  編集ノート (中川 徹、2016年11月25日)

私は、2010年7月から毎年1回、同一組織から招いていただき、、「レポートの作り方・書き方」というテーマの2日間(計12時間)の研修を、(全体で150時間のコースの一部として) 各50人の人たちに対して指導してきました。その指導のテキストの主要部は、本ホームページに掲載してきていますが、研修自身のやり方はあまり報告していませんでした。今年の6月はじめに行いました私の研修について、受講者アンケートのまとめを11月に事務局からいただきました。いままでの7回でやり方が定着してきたこともあり、随分と好評をいただきました。そこで、そのやり方、内容をまとめておきたいと思います。

この研修は、和歌山県看護協会の「認定看護管理者教育課程ファーストレベル」というコースです。本件の機会を与えてくださった和歌山県看護協会に、また特に最初にインターネットで私の記事を見つけて研修を依頼してきてくださった同協会の角谷徳子さんに感謝いたします。

 

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研修に至るまで:中川のバックグラウンド

研修の趣旨

教材

2日間スケジュール

講義内容補足

グループ演習のやり方

受講者アンケート

(T4)スライド   

英文ページ

 


 

1.  研修に至るまで: 中川のバックグラウンド

私の経歴は、大まかに言いますと、大学での研究者(大学院生から助手、39才まで)、企業での研究者&研究支援スタッフ(57才まで)、大学での教育者&研究者(71才まで)、そして退職後の現在の研究・推進者です。ですから、「レポートを作る/書く」ということには(少しずつ立場が違いますが)、いつも学び/実践し/教えることに関わってきたと言えます。特記するべきことは、次のような出来事です。

(a) 大学院生時代に、論文執筆(英文)に際して、懇切な指導(特に添削指導)を受けました。

森野米三教授に指導いただいた。「ここは何を言いたいのか?」と聞かれ、私が答えると、それが論理的に正しく伝わるようにごっそりと構文を直された。真っ黒になるような手直し/推敲を5回か10回か繰り返して、初めて印刷2頁の私の最初の論文が生まれました。これ以後、学術論文の執筆、学会発表などで、レポートを作り(すなわち研究を仕上げ)、レポートを書く機会が多くありました。

(b) 企業で、実務的な(マネジャ向けの)報告書/企画書などを書く/読む機会が多くありました。

企業に移って間もないころ、自分の研究活動に関する提案書を書く機会がありました。私は7‐8頁のしっかりしたものを書いた(つもりでした)。それを見た事務方(後藤憲一研究所長付)は、「こんな長々したものは、読んでられない。管理職が1分で読めるように、要点をA4 1枚にまとめよ」と言いました。論理をきちんと述べる学術論文と、実務のための文書との違いを認識させられた体験です。その後、研究推進、研究管理などのいろいろな社内実務文書を書き、読む機会が多くありました。

(c) その後も、論文やホームページの記事を書く機会が多くありました。特に、TRIZに関連して英書の和訳・監訳に携わりました。

TRIZの紹介のために、Salamatovの教科書を初めとして、Mannの教科書、Ballの本、Mishraの本などを多くの人たちと共同で和訳し、私が監訳者として仕上げました。用語の統一より以上にてこずったのは、原書の構文を正しく理解し、それを日本語として正しく分かりやすく表現することでした。英語の構文は、関係代名詞などで説明部分が後ろに来るのに対して、日本語では説明部(修飾句や節)が前に来ます。それでも、英語の著者は考えている順番に書いているのですから、できるだけそのままの順番で日本語でも理解したいのです。(受験英語は、「英文は後ろから訳せ」と教えていました。一つの文ならそれでもよいでしょうが、繋がった多数の文をそのように訳すと、ギクシャクして分かりにくくなります。)この観点から随分苦労して和訳しました。

(d) 大学の教育において、特に1年生のゼミで、テキストを読んで討論し、レポートを書かせて、添削指導しました。

大学での「科学情報方法論」という講義科目の中で、「レポートの書き方」というテーマで1回講義をしてきました。その後2008年10月から、1年生後期のゼミで、ショーン・コヴィー著『7つの習慣ティーンズ』を教材として、読んで討論し、学び・考えたことを レポートに書かせることをしました。学期中に3回(または4回)提出させ、添削・コメントしたうえで、クラス全員のものを文集として全員にフィードバックしました。

以上に関連して、本ホームページ中に掲載している記事には次のものがあります。(注: 【】内の文献番号を本記事内で統一的に使います。)

【1】 「英語で発信するために」、中川 徹、企業研究所時代の社内エッセイ(1997年5月)、本ホームページに再掲  (1999. 9.27)

【2】  「翻訳とデスクトップパブ リッシングのノウハウ -- Mann教科書翻訳プロジェクトの経験」、中川 徹  (2004. 6.30)

【3】  「 レポートの書き方」、(「科学情報方法論」講義ノートの一部)、中川 徹  (2002. 2. 4)

【4】  「 1年次ゼミナールでショーン・コヴィー著『7つの習慣 ティーンズ』を学ぶ」、 中川 徹(および学生たち)、(2010. 1. 3)、 (2010.3.11)、(2011. 3.13)、  (2012. 3. 6)

 

2.  研修の趣旨: 和歌山県看護協会の研修コースと本研修の位置づけ

公益社団法人和歌山県看護協会は、日本看護協会に属し、各県に置かれている支部のような位置づけにあります。HPによれば、「和歌山県内に就業する約1万人余りの保健師、助産師、看護師、准看護師の中で、入会した約5千6百人の会員で組織する職能団体です。専門的教育や学術研究によって知識、技術を高めると共に職業倫理の向上を目標に、県民の皆様から信頼され、期待される看護職となるよう努めてまいり ます」とあります。看護職の人たちへの研修事業と(厚生労働省、和歌山県からの委託を受けた)職業紹介事業(ナースセンター)とが活動の中心のようです。

同協会の研修事業は、新人教育、ジェネラリストを育成する教育、管理者を育成する教育、教育者・研究者を育成する教育、認定看護管理者教育、看護研究学会、その他というように、広範に体系的かつ継続的に行われています。この中の認定看護管理者教育に2段階のコースがあり、ファーストレベル(全29日間、「看護専門職として必要な管理に関する基礎知識、技術、態度を習得する」)と、セカンドレベル(全33日間、「第一線監督者または中間管理者に求められる基本的責務を遂行するために必要な知識・技術・態度を習得する」)とがあります。

このファーストレベル課程は、定員50人で、30才台と40才台が中心で、職階で言えば、看護師、主任、副師長、師長などの人たちが、それぞれ職場(病院など)から送られてきています。教科目としては、看護管理概論、看護専門職論、ヘルスケアシステム論、看護サービス提供論、グループマネジメント、人材育成論、看護情報論があります。全日程の4/5以上の出席で、各教科ごとのレポートを提出し、(単一年度で)全教科で合格がもらえないと、課程修了の資格(日本看護協会の認定資格)がもらえません。県内全域に散らばり、日常が多忙を極めている看護職の皆さんには随分と厳しい研修課程です。

私が研修の依頼を受けたのは、全く思いがけないことでした。このコース担当の角谷徳子さんが、インターネット検索で私の講義ノート【3】を見つけたというのです。

「・・・ 研修後、6テーマの課題を提出し、担当講師の審査を受け、評価により委員会で承認(認定)するような仕組みになっております。 ところが、看護界は文章力が乏しく、せっかくの多くの取り組み(課題)の表現が上手くできず、委員・受講生とも毎年頭を痛めております。 そこで、・・・ 先生のホームページにございます「レポートの書き方」のようなご講義をお願いできませんでしょうか?」

このような趣旨で、 私が2日間(12時間)の研修を引き受けました。協会の意向で、コースの最初、開講式の翌日にスケジュールしていただいています。同協会では以前から、受講者の意識づけを目的として、事前に「所属する組織の現状と課題」というA4 1枚のレポートの提出を義務付けていました。私はこの事前レポートを活用させていただき、「レポートの書き方」だけでなく、「レポートの作り方」(すなわち、問題を捉えて解決していくやり方)をも含めた研修にしました。講義とグループ演習を交互に行い、グループ内の議論や全体のグループ発表が活発に行われるものになりました。

なお、コース内の単元としては、(本年度から)第1日が特別扱いの「その他: 1) レポートの書き方」、第2日が「看護サービス提供論: 2) 問題解決」(の一部)となっています。 

 

3.  「レポートの作り方・書き方」研修の教材

研修のやり方を説明する前に、使った教材(すべて自作)のリストを示します。なお【】内は、本ホームページに掲載のもの(全文または抜粋)です。

講義テキスト

(T1) 「レポートの作り方・書き方」       --- 【3】、 【5】の第一部
       1.  はじめに、 2. レポートの目的を明確にする、 3. 中身を作るための調査・研究などを行う、
       4. 執筆の準備と執筆活動、 5. レポートの形式と記述すべき項目、 6. レポートの記述の形式(略)
       7. 文章の書き方の要点、 8.  おわりに、 9.  参考文献

(T2) 「レポートのための文章の書き方 (実際的な指針)」  --- 【5】の第二部
       1.  はじめに、「実務のための文章は、楽しみのための文章とは違う」、 2. 語句のレベルでの実際的な指針、
       3. 文のレベルでの実際的な指針、 4. 複数の文に跨るレベルでの実際的な指針、
       5. 複数の文の構成に関わるレベルでの実際的な指針:段落(パラグラフ)による構成
       6. より大きなまとまりで構成していくレベルでの実際的な指針、 7. 文書全体のレベルでの実際的な指針、

(T3) 「レポートの作り方・書き方」(要点の一覧シート)  --- 【5】の第三部  
       レポートを作る、 レポートの構成、  文章の書き方      

(T4) 「創造的な問題解決の考え方」 (スライド) --- 【6】    
       第1例: 裁縫で短くなった糸を止める方法(USIT)、「6箱方式」の考え方、
       第2例: 「授業をよりよくするには、どうすればよいか?」、機能と理想の考え方
       第3例: 輻輳した大きな問題: 下流老人の問題を「見える化」する、 「自由vs愛」:人類文化の主要矛盾
       まとめ: 創造的な問題解決のための6箱方式

演習テキスト:

(E1) 「レポートの作り方・書き方」-- 演習テキスト   
               1.  はじめに: 本研修の講師を引き受けた経過、 2. 本研修における、今回の単元の目的について、
         3. 本単元での「演習」(グループ演習)のやり方について、 4. 講義の流れと演習の課題(計画)

(E2Q) 「レポートのための文章の書き方 -- 演習問題」 (学生レポートより)   --- 【4】より抜粋
              学生たちのレポート(部分)の実際例 11件

(E2A) 「レポートのための文章の書き方 -- 学生レポートの添削例」 (後で配付)    --- 【4】より抜粋 
      上記(E2Q)に対する中川の添削とコメント 11件

(E3)  事前課題レポート「所属する組織の現状と課題」  (15編)
      その年度の受講者が事前に提出したレポートから15編を選択し、匿名にして配布

なお、次の記事は、本研修の第一回実施後に発表したもので、上記の講義テキストの(T1)(T2)(T3)で構成しています。

【5】  「レポートの作り方・書き方 −内容の準備、構成、そして文章の心得−」、 中川 徹、 『大阪学院大学通信』 第41巻第7号掲載(2010年9月); 本ホームページに再掲(2010.10.10)
     内部構成: 第一部: レポートの作り方・書き方 【3】 、 
             第二部: レポートのための文章の書き方 -- 実際的な指針 ----
[第一回のために新規作成]
                            第三部:  レポートの作り方・書き方 (要点の1枚シート) ---- [第一回後に新規作成] 

また、上記(T4)の教材スライドを、今回独立ページとして、PDF版で掲載いたします。

【6】 「創造的な問題解決の考え方」、中川 徹、和歌山県看護協会 認定看護管理者制度ファーストレベル研修 テキスト 、2016年6月3日、本ホームページに掲載   (2016.11.28)

 

4.  本研修の2日間スケジュールの概要

本研修の2日間の実施スケジュールは(2016年度の場合)以下の表のようです。

時間帯
講義・説明
演習(グループ演習と発表)

第1日
午前
3時間

(E1) 1.  はじめに: 講師を引き受けた経過、 
        2.  本単元の目的について、
    3.  「演習」(グループ演習)のやり方
(T1)  1.  はじめに、 
        2. レポートの目的を明確にする

 

 

A1. グループ内で自己紹介(30分)

(T2) 1.  はじめに、2. 語句のレベルでの実際的な指針、
     3. 文のレベル、 4. 複数の文に跨るレベル

 

 

A2. 学生レポートの文章を添削する

第1日
午後
3時間
 

B1. 学生レポートの文章を添削する (続)

(T2) 5. 複数の文の構成のレベル:段落(パラグラフ)
    6. より大きなまとまりのレベル、 7. 文書全体のレベル
 
(T1) 3. 中身を作るための調査・研究などを行う、
    4. 執筆の準備と執筆活動、
 
  B2.  事前レポート5件を検討する(a1〜a5) 
    読み取り、文章表現と構成の改良を考える

第2日
午前
3時間

(T1) 5. レポートの形式と記述すべき項目、
    7. 文章の書き方の要点、
 
(T3)  「レポートの作り方・書き方」(要点の一覧シート)  
 
  C1.  事前レポート5件を検討する(b1〜b5) 
     読み取り、文章表現と構成の改良を考える

(T4) 創造的問題解決 第1例: 裁縫の糸を止める問題

 
  C2. 事前レポート5件を検討する(b1〜b5) (続)
    問題の捉え方と解決の方向へのレポート表現の改良を考える
第2日
午後
3時間
(T4) 創造的問題解決 第2例: 授業をよりよくするには  
  D1.  事前レポート5件を検討する(c1〜c5) 
    読み取り、構成の改良、問題の捉え方と解決への方向を考える
(T4) 創造的問題解決 第3例: 下流老人の問題の「見える化」  
  D2. 事前レポート5件を検討する(c1〜c5)  (続)
    問題とその解決の方向について、スライド4枚を作り、著者になり代わって所内発表をする

(T3) まとめと 総合の質疑

 

5. 講義内容についての補足

「レポートの作り方・書き方」という点では、上記【5】に詳しくまとめています。その第一部が、レポートというものを全体から詳細へと、トップダウンに説明し、その第二部が実際の文章/文書の書き方について、詳細の語句のレベルから全体の文書のレベルへとボトムアップに説明しています。

【5】の第三部がその全体をA4 1枚にまとめた要点版です。ここに、縮小した画像で示します。詳しくは、PDFでご覧ください。

レポートの作り方・書き方の要点。  画像をクリックすると、PDFで表示されます。

レポートは「エッセイ」(随筆・随想・作文)ではなく、実務のために、調査・検討・研究・計画・提案などの内容を、情報として正しく迅速に伝えるためのものです。ですから、「よいレポートを作る」ということは、「よい中身を作る」ことが本質です。それは問題をどう捉え、分析し、今後するべきことを考え、提案していくことです。これは結局、(その段階や目的は少しずつ違いますが)広い意味の問題解決をしていくことです。本研修コースの事前レポートのテーマ「所属する組織の現状と課題」も明確に問題とその解決を考えさせようとしています。

この意味で私は、第2日には、スライドを使って「創造的な問題解決の方法」について、話しています。2010年の初回以来、私の研究の発展に応じて内容は少しずつ変わってきています。今年の場合は、方法についての前置きはせずに、具体的な例を3つ、3回に分けて一つずつ話しました【6】  

第1の例は、「裁縫で針よりも短くなった糸を止めるには?」。身近な問題に対して、技術分野で作られてきたUSITの方法を適用して説明し、「6箱方式」で全体プロセスを概観しています。

第2の例は、「授業をよりよくするには?」。技術分野を離れた一般的なテーマです。USITの機能分析の方法を使うと、先生・教材・学生たちのうち、授業の目的とするもの(主役)は何か、その目的にはどんな働き(作用・活動)が必要かが明確になります。考察の全体プロセスを「6箱方式」で位置づけています。

第3の例は、もっと大きな輻輳した問題を考える取り掛かりとして、「日本社会の貧困を考える」を取り上げました。「下流老人」の問題を「見える化」した例を示しました。さらに、国民の中にある大きな考え方の対立、「貧困は自己責任」対「助け合い、福祉」の根底を考察しました。そして、人類文化は、「自由」を第一原理とし、「愛」を第二原理として発展してきたけれども、「自由 vs 愛」という根本矛盾を解決できていないのだ、と理解しました。 大きな大きな問題ですが、今後考察するべきプロセスを、やはり「6箱方式」で位置づけています。

 

6. 演習(グループ演習)のやり方について

6.1 演習の意図、グループの編成、進め方

講義や説明を聞いただけでは、すぐに忘れてしまい、身につきません。自分の頭を使い、実際に考え、実践し、話してみる、などをすると、ずっとよく定着します [(T4) 第2例参照]。ですから演習はぜひ必要です。

しかし、50人という多人数で個別に演習したのでは、全員が発表はできませんし、講師一人ではフィードバックが追い付きませんから、各人は自習以上のことはあまりできないことになります。

少人数の チーム(グループ)を作ると、その中で話し合い・議論ができ、自分一人で考えるより以上のことを考えることができます。協力関係も作れます。グループ数だけの並行作業ができます。グループを代表して発表すると、心強い点もあり、緊張もあり、また発表数も少なくなりますから、全体でのフィードバックが効率的に行えます。---これらの点でグループ作業は非常に効果的です。

今回の研修では、5人ずつの10グループに分けました。名簿の下一桁をグループ番号にして、同じ病院からの受講者がすべてばらばらになるように、できるだけいろいろな人たちでグループになるようにしました。グループは2日間固定で、グループごとにテーブルの島を囲んで座り、講義のときもその位置のままにしました。

演習の最初は30分間の自己紹介の時間にしました。コースの最初の日であり、同じ看護職とはいえ、さまざまな病院、さまざまな立場のひとたちがグループですから、この自己紹介は話が弾み、仲間意識ができて、非常に有益でした。私の研修がコースの最初に組まれているのは、ありがたいことです。

グループ内では、職位や年齢に関係なくすべて対等とし、リーダを作らないことにしています。グループ演習の結果は、一人が(またはもう一人がサポートして)全員の前で発表しますが、持ち回りにしました。

演習での作業内容は、テキストまたは別紙に書き出し、発表のときには、そのままOHPで大きく投影しました。このOHPの使用は、非常に簡単・便利でした。(この研修では模造紙を使っていません。)

 6.2  学生レポートの添削

レポートの書き方のうちの文章表現を考えるための題材として、学部1年生後期のゼミでの学生たちのレポートとその添削例を使いました。学生たちが初回に出したレポートのなかでも、特に、語句の選択が適当でない、だらだら書いている、文の主部-述部の対応が取れていない、舌足らずで言いたいことが上手く伝わらない、など、欠点が多いものを、主として選びました。実際の例でみると、どのような点で下手な適切でない表現になってしまうのかが、よく分かるからです。

学生たちの原文(E2Q)を読んで、何が不適当で、どこをどう直せばよいのかを考えてもらいます。各件を2-5分程度全グループで相談してもらい、2-3人に返答してもらいました。そのあとで、中川の添削とコメント(E2A)を見せました。もちろん、書いていることの主題や、そのときに使っている言葉の文脈が分かっている必要がありますので、 個々に説明しました。

具体例を二つ挙げます。第一例は、「7つの習慣」のうちの第一の習慣「主体的に行動する」に関するものです。

【学生原文】 第一節は「主体的な行動」がテーマで主体的か反応的という話しで、自分の思考で考えるとあきらか後者である。自分も非があるのは認めるが、あまり認めたくない。

【中川推敲文】 第一章は「主体的な行動」がテーマである。自分の責任で考え主体的に行動するか、起こってくることに受動的に、感情的に反応して行動するか、という話である。自分の思考や行動のパターンは、あきらかに後者である。自分もそれが良くない点があるのは (論理的には) 認めるが、自分にはそれをあまり認めたくないという気持ち (感情) がある。

【中川コメント】 (1) RM君の文章は、比較的短い文で繋いでおり、テンポがあってよい。ただ、それらの文の立場や観点が、随分早く切り替わるので、論理が不明確になっている点があると、中川は思う

第二の例は、「7つの習慣: 第2の習慣: 目的を持って始める」に関連して、本の著者が「自分のミッションステートメントを作りなさい」と勧めていることについての部分です。

【学生原文】 ミッション・ステートメントを作るというのはその書いたものを自分自身の信念またはモットーみたいなものでそれを作ることにより自分にとって何が必要なのか、大切なのか、そのものの価値観に従って行動することができ、自分の人生にとって意味のあるものになるからこのミッション・ステートメントというのは作っていて損はしない。

【中川コメント】 (1) 原文のこの部分は、だらだらしていて、支離滅裂で、非常に悪い文の典型です。添削しようとしましたが、どうにもならないので、原文のままにしました。訂正して、再提出しなさい。

(2) 文をもっと短く切って、はっきりした表現にしなさい。いいだしたことが、文の途中で消えてしまい、別のことに変わっていってしまっています。

【学生再提出文】  略

【中川推敲文】   ミッション・ステートメントとは、自分自身の信念またはモットーを書いたものである。それを作ることにより、自分にとって何が必要なのか、大切なのかが分かる。さらに、その価値観に従って行動することができるようになるから、自分の人生にとって重要な意味を持つ。だから、このミッション・ステートメントを作ることが有益なのである。

【中川コメント】 (3) 中川の推敲文では、敢えて原文をベースに推敲し、原文で「言いたかったが、うまく表現できなかったこと」を明確にして、文章としてどのように直せばよいのかを示した。

(4) まず、著者(TI)は、ミッション・ステートメントを「作るというのは」と書きだしている。作ることの意義を書きたいと思ったのであろう。しかし、「作る意義」を書く前に、そもそもミッション・ステートメントとは何かを説明しないと読者に分からないことに、著者は気がついた。だから、その説明を書いた。このとき、(この先頭の文で) 書くべきテーマを変更したのだから、著者は「〜を作るというのは」と書いたのを、「〜とは」と修正するべきであった。それをしていないために、そもそもの分かり難くさがある。-- 一つ一つの文のテーマ (主題、取り上げていること) をもっと明確にするのがよい。

(5)  文を (比較的) 短く、明確に区切るとよい。各文では、上記のように、何を言っているのかを明確にする。基本的な文は、「〜は〜である。」、「〜が〜した。」などであり、この前半の「〜」と、後半の「〜」とが、きちんと対応していないといけない。-- 例えば、「MSを作るというのは、モットーとするものである。」という文ではこの対応がついていない。

(6) 言いたいことを中途半端にして次に移行してはいけない。言い出したことは、一つ一つ言い切ってしまう必要がある。-- 例えば、「それを作ることにより、何が必要なのか、何が大切なのか、」と言い出したなら、「が分かる。」まで言い切る必要がある。そうでないと、前項の対応がつかない。言い切らないままでつぎの文章を続けると、支離滅裂な文章になる。

これらの例で示しているのは、学生には言いたいことはあるのだけれども、それが文章としてきちんと表現できていない。なぜ表現できていないのかを考え、その言いたいことを適切に分かりやすく表現して見せることです。研修の受講者のひとたちには、文脈などがよく分かりませんから、ここの添削例のようにはできませんが、添削・推敲の姿勢だけはよく理解していただけました。

このゼミでは、『7つの習慣 ティーンズ』をゼミで読んで、「感じたこと、思ったこと」という感想文でなく、「学んだこと、考えたこと」についての「レポート」を書きなさいと指示しています。この趣旨に関わる添削例もいくつもありますが、ここでは割愛します。

 6.3  受講者の事前提出レポートを検討するグループ演習

受講者の皆さんが、事前に提出されているレポート「所属する組織の現状と課題」の中から15編を選び、5編ずつ3回に分けてグループ演習をしました。各編を2グループが並行して担当します。自分たち自身の(仲間の)レポートですから、内容的に共感を持つ部分も多く、表現のしかたも自分にも同じような不十分さがあったり、また本当に参考になるものだったりして、切実感のある演習教材でした。

教材として選択するために、私は50人の皆さんのレポートを読みます。A4の1枚にびっしり書かれているものです。2010年に開始した当初は、7対1看護とか、プライマリナーシングとか、看護界の用語がよく分からず難渋しましたが、いまでは大分分かるようになりました。選択するには、全レポートの読み込みを2巡する必要があり、選択候補をさらにもう一度は読んで順番などを決めました。

初期(2010年)からの選択の方針は、3レベルの代表的なものを選ぶことでした。aの5編は、文章表現に改良すべき点がいろいろあるもの。bの5編は、段落の切り方や話の進め方に改良の余地が多いもの。cの5編は、優れたレポートで、改良するべき点もあるが、参考になるもの。このような判断基準をベースにして、 所属部署の多様性、テーマのバランスなどを考慮して決めていました。また、レポートの著者が検討の担当グループに入らないように、各グループの担当レポートを調整しました。レポートの著者や所属を匿名にして、教材として配布します。

ただし最近は、提出される事前レポートの質がずっとよくなってきたように思います。私の研修も7年になり、各組織で受講者が事前レポートの書き方について先輩からの助言を受けていることが多くなってきたようです。今年の例では、最初に扱った5編のうち昔のa-bレベルのものは3編だけ、他の2編はb−cレベルのものでした。第2日に扱った10編は昔のc-レベルのものです。

第1日午後のグループ演習では、事前レポートを各グループで読み取り、議論をし、文章表現と構成のしかたを考えることを、課題としました。上記のように、文章表現のレベルでは問題のないすぐれたレポートも「混じっている」と予め話しておいたのですが、その区別ができずに、(講義の流れから)細部にこだわった文章表現のコメントをしたグループもありました。この段階では、レポートの読み取りと全体構成を考えることがまだ慣れていなかったように思います。

第2日の午前の演習は、 新しい事前レポートを読み取り、構成のしかた(特に段落を明確にしていくこと)を考えることを、まずしました。各レポートについて2グループが発表しますから、観点や意見の違いなども出てきます。第2ラウンドで、同じレポートについて、内容的に、問題の捉え方と解決の方向へのレポート表現の改良を考える、ことを課題にしました。2グループが発表した後で、対象のレポートを書いた著者に顔を見せてもらい、自分がレポートを書いた意図とグループ発表に対する感想を述べてもらいました。グループのコメントは基本的に自分の意図を適切に表現しており、改良の指摘なども参考になったという著者がほとんどでした。

第2日の午後の演習は、また別の事前レポートで、読み取りをし、構成の改良を考え、問題の捉え方と解決への方向を考えることをしました。そして第2ラウンドでは、各グループに、「著者になり代わって、そのレポートの趣旨で、「組織の現状と課題」について、(模擬の)所内プレゼンテーションをする」ことを課しました。そのために、4枚以内で(紙に書いた)スライドを作る。所内プレゼンテーションだから、組織についての説明は要らない。問題解決のプロセスとして著者の考えをさらに進め、できるだけ明確なアピールになるように、配慮するとよい。といった指示をしました。各レポートはしっかりしたものでしたから、各グループの発表も分かりやすいものができました。グループ発表後の各著者の感想も、受講者全体にとって有益でありました。いろいろな部署で、いろいろな人が自分たちの組織をよりよくしようとして、考え、実践して、頑張っているんだ、と共感が広がったように思います。

 

7. 受講者の感想(アンケートから)

受講者の皆さんが、研修直後に書かれたアンケート(回収率96%)の集計を、11月になって協会から送ってきていただきました。5段階評価の結果は以下のようでした。

Q1. 講義の内容は理解できましたか?  5: 41%、 4:  57%、 3: 2% 、  2:  - 、  1:  -

Q2. 今後実践の場で活用できますか?   5: 62%、 4:  38%、 3:   - 、  2:  - 、  1:  -

Q3. モチベーションが高まりましたか?     5: 39%、 4:  53%、 3:  8% 、  2:  - 、  1:  -

Q4. その他 講義を受けての学び・意見・感想、気づいたことなどをご記入ください。(協会からの手紙に2件、詳細は他に18件)

・ 先生の講義を一番最初に受講でき良かった。今回の講義を受けて、今後のレポート作成時に活用させて頂きます。

・ レポート作成の基本を分かりやすく講義をしていただいた。できれば、例題に選ばれて直してほしい気になった。

 

高い評価をいただきありがとうございます。「レポートの作り方・書き方」は誰にでも必要な素養ですから、今後もいい研修を行っていきたいと思っています。

受講者の皆さん、和歌山県看護協会の皆さんに感謝し、今後ますますのご健勝・ご発展をお祈りいたします。

 

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研修の趣旨

教材

2日間スケジュール

講義内容補足

グループ演習のやり方

受講者アンケート

(T4)スライド   

英文ページ

 

総合目次  (A) Editorial (B) 参考文献・関連文献 リンク集 ニュース・活動 ソ フトツール (C) 論文・技術報告・解説 教材・講義ノート     (D) フォーラム Generla Index 
ホー ムページ 新着情報   子ども・中高生ページ 学生・社会人
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技術者入門
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『TRIZ 実践と効用』シリーズ

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最終更新日 : 2016.11.28    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp