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編集ノート (中川 徹、2010年 6月 5日)
本稿は、昨年のTRIZシンポジウム2009 での Atom Mirakyan, Nikolai Khomenko らによる、素晴らしいオーラル発表です。
地域 (国内の一地方)でのエネルギ計画の基本目標として、「環境にやさしく、技術的に信頼性があり、制度として健全で、社会に受容され、コスト効率がよく、長期に渡り地域の持続的な発展を支えるものであること」を掲げています。それは、技術問題だけでなく、社会・経済などにも関係した、複雑で大規模な問題を取り扱う必要があります。本論文は、そのような計画策定を扱うためのフレームワークとして、「OTSM-TRIZ」という方法論を導入しています。この方法論は、TRIZをさらに発展させたものですが、いままであまりきちんと提示されていません。この発表自身が、「OTSM-TRIZ」という方法論の紹介であると考えていただく方が実際的です。
計画立案において、著者たちは立案者・専門家という立場で、OTSM-TRIZの方法を使っています。それは大規模な問題を階層的に捉え、現実から最も望ましい解決策へルートとその間にある障害 (矛盾) をネットワーク図で表現し、解決すべき矛盾を明らかにしてTRIZでの解決を目指すものです。また、彼らの他に、関係者たちや意思決定者たちなどのグループと連携していくプロセス・モデルを持ち、社会の中で計画策定を進めていく実際的なやり方を提示しています。
本ページには、英文の発表スライドPDF
、英文の論文PDF
、および和文発表スライドPDF
を掲載しました。スライドの和訳は海野誠氏(川崎重工) によります。[なお、シンポジウムの主催者日本TRIZ協会のWebサイトでは、英文発表スライドだけが会員限定ページに掲載されています。] 本件の掲載を許可されました、著者、和訳者、TRIZ協会に感謝します。
また、中川が、TRIZシンポジウムの「Personal Report」 (英文
、2009.12.24 掲載) の一部として書きました、発表の紹介文を和訳してここに掲載します。
なお、すでに案内しておりますように、今年9月の第6回日本TRIZシンポジウム2010の基調講演
に、Nikolai Khomenko 氏を招待し、OTSM-TRIZの全体像を話していただくことにしました。また、このシンポジウムの前日 (9月8日) に「OTSM-TRIZ入門セミナー」
を開催し、丸一日じっくりと話を聞ける機会をつくりました。大規模で複雑な、技術と社会の両方に関わるような問題に取り組むための方法論として、「OTSM-TRIZ」をよく学びたいと思っております。今後、日本でもきちんと使っていけるようにできるとよいと思っております。
[1] 論文概要
地域統合的エネルギー計画とシステム・モデルのフレームワーク作成方法論としての
OTSM-TRIZと クラシカルTRIZの可能性
Atom Mirakyan, Nikolai Khomenko, Laurent Lelait, Igor Kaikov
(European Institute for Energy Research, Karlsruhe, ドイツ)
概要 [和訳: 中川 徹 2010年 6月 5日]
多くの国で国家的なエネルギ市場が再編されつつあること、エネルギおよび環境に関する制約が増大していること、エネルギ市場の不確かさの増大、および地域の状況がさまざまに異なることなどが、地域のエネルギおよび環境に関する計画立案の課題を非常に複雑にし、地域に依存したものにしている。極めて多数の方法やツールが、エネルギ計画やモデル化のために、使われてきており、いまも役に立っている。しかしながら、もっと体系化し、よく構造化した方法が、これからの大きな課題に挑戦していくためには必要である。
本論文はOTSM-TRIZをそのための可能性のある方法として提示する。それは、このような現代のチャレンジに取り組み、革新的な解決策 (ソリューション) を創り出し、モデル化と計画策定の全プロセスを支援することを意図したものである。実際の事例において、その初期にOTSM-TRIZを用いることは、計画策定およひモデル化のプロセスに対して有用なガイドラインを提供する。それは典型的なソリューションを創りだすだけでなく、地域の特定の状況に対応したさまざまな革新的なソリューションと典型的なソリューションを組み合わせたものをも創り出す。
[2] 発表スライド全文:
英文発表スライド (24 スライド、PDF 937 KB)
(公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)
英文論文 (10ページ、PDF 521 KB)
(公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)
和文発表スライド (訳: 海野 誠 (川崎重工)) (24スライド、PDF 1.0 MB)
(公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)
[3] 発表の紹介 (中川):
「Personal Report of The Fifth TRIZ Symposium in Japan, 2009, Part E. Promotion of TRIZ in Industries」
、
中川 徹 (2009年12月13日) (英文ページ) から抜粋。
[注: スライドの和訳は海野誠(川崎重工)による]
Atom Mirakyan, Nikolai Khomenko, Laurent Lelait, Igor Kaikov (European Institute for Energy Research, Karlsruhe、ドイツ) [E11 O-22] によるオーラル発表は、「地域統合的エネルギー計画とシステム・モデルのフレームワーク作成方法論としてのOTSM-TRIZと クラシカルTRIZの可能性」というタイトルであった。ここにはまず著者たちの論文概要を引用しよう。
多くの国で国家的なエネルギ市場が再編されつつあること、エネルギおよび環境に関する制約が増大していること、エネルギ市場の不確かさの増大、および地域の状況がさまざまに異なることなどが、地域のエネルギおよび環境に関する計画立案の課題を非常に複雑にし、地域に依存したものにしている。極めて多数の方法やツールが、エネルギ計画やモデル化のために、使われてきており、いまも役に立っている。しかしながら、もっと体系化し、よく構造化した方法が、これからの大きな課題に挑戦していくためには必要である。
本論文はOTSM-TRIZをそのための可能性のある方法として提示する。それは、このような現代のチャレンジに取り組み、革新的な解決策 (ソリューション) を創り出し、モデル化と計画立案の全プロセスを支援することを意図したものである。実際の事例において、その初期にOTSM-TRIZを用いることは、計画立案およひモデル化のプロセスに対して有用なガイドラインを提供する。それは典型的なソリューションを創りだすだけでなく、地域の特定の状況に対応したさまざまな革新的なソリューションと典型的なソリューションを組み合わせたものをも創り出す。
この論文は非常に大きな規模の問題を扱っている。スライド(左下)に示しているのは、焦点の当て方にさまざまなレベルがあることである。計画策定の最小のスコープとしてここに記述しているのは技術システムであり、そのつぎに拡張された計画策定のスコープがセクター(部門) であり、さらに、需要側と供給側であり、需要と供給の統合であり、そして地域のメタボリズムである。(なお、本論文で「地域」と言っているのは、国の中の地方のレベルである。) このように大規模な問題は、当然、多数階の階層的なシステムを考えることを必要とする。スライド (右下) に、アルトシュラーの「パワフル思考」の図式を示す。これは多画面法の思考を無限に拡張したものである。ここには、一つ一つのシステム、すなわち、(図の垂直方向の) 空間について一つの階層に属し、(横方向の)時間についても一つの時点に属するシステムに対して、「アンチ-システム」をも考えている。「アンチ-システム」とは、当システムの進化にチャレンジする (対抗する) システムである。
本プロジェクト RIEP (地域統合的エネルギ計画) の課題をスライド(右) で定義している。このプロジェクトは一つの地域のための統合的な計画を構築することであり、そのためにOTSM-TRIZで支援した一つの方法論を実装することである。この計画の目標はつぎのように宣言されている:「環境にやさしく、技術的に信頼性があり、制度として健全で、社会に受容され、コスト効率がよく、長期に渡り地域の持続的な発展を支えるものであること」。
スライドの下半分には、供給側から需要側へのエネルギフローを示しており、それによって本プロジェクトの枠組み (フレームワーク) を明確にしている。
このRIEPプロジェクトは、単なる技術的計画ではない。それは社会的な合意を形成するプロセスを必要とする。スライド(下)に、RIEPの計画手順の全体像を示す。それは4つのフェーズからなる。(I) 準備とオリエンテーション、(II) 詳細分析、(III) 優先づけと意思決定、(IV) 実施とモニタリング、である。(スライドの下部に示すように) さまざまなグループ (立場) の人たちが関係していることに、注意すべきである。著者たち自身は立案者と専門家のグループに属しており、フェーズI〜IIIに関与する。各フェーズの課題および内部のステップは循環した手順として記述されており、順次つぎのフェーズに進んでいくとともに、フィードバックのループでバックアップされている。
これらの課題を達成するために、計画立案者と専門家の立場で、著者たちはそのフレームワークの方法としてOTSM-TRIZを用いている。著者たちが、Extended Absract に書いていることを引用すると、
OTSMは、複雑で学際的な問題状況を管理することをねらいにして、クラシカルTRIZをさらに発展させたものである。この事例では、理想性の法則に関係したOTSM の概念、すなわち、「理想の解決策 (IS)」 と「最も望ましい結果 (MDR)」とを使っている。
スライド (右) に、本プロジェクトに対するOTSM-TRIZの使命を記述している。
OTSM-TRIZ中の多数のツールの中で、二つのツールを以下の3スライド (右および下) に示した。その第一は「問題ネットワーク」であり、さまざまな事実、事象、および観察を、ネットワークフローの形式に関係づけて表現したものである。スライド (右) はその部分詳細例、スライド(左下) はその全体構造の例である。この表現は、問題の中の複雑な関係を理解するのに有用である。
第二の方法は「Tongsモデル」(スライド(右下)参照) であり、矛盾を明確にして、それらを解決するのに役立つ。「Tongsモデル」は、ARIZを簡単にしたプロセスである。初期状態 (IS) と最も望ましい結果 (MDR) とを比較し、[その結果の実現を妨げている] 障害 (すなわち、矛盾) を明らかにし、そしてそれを解決する。より詳しくは、スライド(右下) の下部を参照されたい。
知識の収集と処理がOTSM-TRIZにおける重要な部分である。スライド (右) にRIEP における知識処理について、著者のモデルを示している。スライドの左上のブロックは問題の当事者たちの知識の領域であり、中間のブロック (左上のブロックと部分的に重なり合っている) が計画立案者と専門家たちの知識の領域である。スライドの下部は、一般的な知識領域を示す。
問題を可視化するために、「初期障害」(前のスライドの「Tongsモデル」参照) あるいは潜在的な対立を表の形式に列挙する (スライド (右) 参照)。既存の解決策、あるいは提案されている解決策を表の各行として記述し、一方、各列には、さまざまな側面を列記する (すなわち、技術的障害、環境的障害、経済的障害、社会的・制度的障害、およびスケジュール的障害など)。この表の X印は直接的な障害を表し、X?印は潜在的な障害を表す。これらの図表の使用によって、問題の全体像を見ることができる。
モデル構築の論理的なプロセスを示しているのが、つぎのスライド (下) である。現実から出発して、段々とモデルを構築していくが、それにはメンタルモデル、言語モデル、および部分的モデルを使う。そしてそれらを統合して、「マスターモデル」とする。こマスターモデルが最も重要なモデルである、と著者はこのスライドの下部に書いている。[私は著者に、「このマスターモデルにはどのような図や表を使うのか?」と尋ねたが、「追加の図表は必要ない」というが著者の答えであった。] このマスターモデルは、利用可能な情報源および問題-目標関係 (の知識ベース)で支援されなければならない。マスターモデルを構築し、検証することは、フェーズI (およびフェーズII) で実施しなければならない。
計画立案のためには、(フェーズIIで) さまざまな問題や障害を解決する必要がある (スライドの右部分を参照)。これは、OTSM-TRIZをフルに活用する段階である。そのようにして得られた結果は、(フェーズIIIの) 「優先づけと意思決定」のワークショップに提示される。そこでは、主導権は意思決定者たちに委ねられる。
スライド (右) はマスターモデルの一つの要素の一例を示す。これは、(RIEP のスライドで示した全体スキームに対応して) 地域のエネルギシステムの全体像の参照モデルの一部分である。数段階に渡る複雑な入力-出力関係を表現するために、(通常の矢印の代りに) 格子型に連結関係を示し、表現をより明瞭にしようとしている。
このプロジェクトでは膨大な具体的な作業が行なわれたようであり、その具体的内容そのものは大規模すぎてこの発表で示すことができない。本発表の主目的は計画策定の方法論を例示することである。
著者たちの結論をスライド(右)に示す。著者たちが強調しているのは、OTSMに基づく二つのツールの役割である。その一つは、問題と解決策(ソリューション) のネットワーク図であり、もう一つは「Tongs モデル」である。これら二つが一緒に働いて、問題状況 (すなわち、初期状況、顕在的および潜在的状況) とさまざまなソリューション (既存の、部分的な、最も望ましい、実現可能性のある、などのソリューション) とを表現する特別な機能を持っている。OTSM-TRIZの諸ツールとその他の計画作成ツールとが互いに相補的に働いて、統合的で長期的で持続可能であるような、地域のエネルギ計画を策定するという複雑な課題のための、一貫したプラットフォームを提供する。
*** [中川所感] 本論文は技術的かつ社会的な計画策定の大規模プロジェクトのための、非常に優れた方法論を与えている。それは実際の地域計画のプロジェクトに適用されてきた。OTSMのコンセプトは1970年代にアルトシュラーによって開始され、その後1980年代半ばから主としてNikolai Khomenkoによって開発されてきた。Khomenko は本発表の共著者の一人である。OTSMはヨーロッパのいくつかのグループ (例えば、INSA ストラスブール (フランス)、EIRER カールスルーエ (ドイツ)、など) で受け入れられ、さまざまな実地プロジェクトに適用されてきたようである。Nikolai Khomenko は昨年(2008年) OTSMについて4つの論文を国際的な学術雑誌に発表した、という。OTSMについてより深く学びたいと思う。[Nikolai Khomenkoのブログサイトも参照されたい。 http://otsm-triz-sustainable-innovation.blogspot.com/ 。]
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最終更新日 : 2010. 6.13 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp