TRIZ論文: 日本TRIZ シンポジウム 2009 論文
結果(=利益)を出すためのTRIZ導入と実務適用事例(2)
〜QFD→TRIZ→TMの適用で、結果は出たのか?〜

片桐朝彦、土澤聡明、保坂周一 (株式会社コガネイ)

日本TRIZ協会主催 第5回日本TRIZシンポジウム、2009年9月10-12日、国立女性教育会館、埼玉県比企郡嵐山町

紹介: 中川 徹 (大阪学院大学)、
英文: 2009年12月13日、和訳: 2010年5月 7日
掲載:2010. 5. 9

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編集ノート (中川 徹、2010年 5月 7日)

本稿は、昨年の第5回日本TRIZシンポジウム2009でオーラル発表されたものです。日本人参加者による「あなたにとって最もよかった発表」の投票の結果、オーラル賞を受賞しました。その前のシンポジウムでも同じ著者たちの発表(1)に引き続き、連続の受賞です。

空気圧バルブでの新製品開発を目標とした実プロジェクトに、QFD (品質機能展開)、TRIZ、TM (田口メソッド、品質工学) の3手法を取り入れ、3年間で画期的な新製品の開発を達成したというものです。空気圧機器の専門メーカーが、数十年間主力製品として扱ってきた空気圧のパルス制御バルブにおいて、顧客の声を (QFDを用いて) 真剣に捉え直し、本当に開発すべき技術課題を明確にしました。その課題は通常のセンスでは非常に高度な要求でしたが、TRIZを用いて問題解決を図りました。また、そこで得られた解決のアイデアには、未経験、専門外の技術を要しましたので、その開発のリスクを最小限にするためにTM でテストを設計し、CAD/CAE ソフトを使ってシミュレーションによるテストを行なったとのことです。最終的に得られた新製品の性能、その内部構造、その応用事例なども詳しく述べています。

上記の3手法は、著者たちにとっても、同社にとっても初めての導入だったといいます。実開発プロジェクトの進展と同期させて手法の導入セミナーを行い、実地適用を行なっていった、とのことで、そのタイムスケジュールも公表されています。3手法の指導をたった一人の日本人コンサルタントに一貫して委ねています。そのような実績ができるようになった、というのは、日本のTRIZコミュニティの一つの実力を示したものと評価できるでしょう。「TRIZの実地適用事例が欲しい」という人たちにぜひ読んでいただきたい発表です。

本件の発表スライドは、すでに、昨年12月1日から日本TRIZ協会のWebサイトで公開されてきました [全表彰発表について]。本『TRIZホームページ』での掲載が遅くなりましたが、より広く知っていただけるように、和文ページと英文ページの両方をつくりました。なお、英文スライドの英訳は(シンポジウムのために) 中川 徹が担当したものです。

さらに、中川による詳細な紹介を、「TRIZシンポジウムのPersonal Report」 Part E として英文ページに掲載しておりましたが、今回和訳してここに掲載いたします。


[1] 論文概要

結果(=利益)を出すためのTRIZ導入と実務適用事例(2)
〜QFD→TRIZ→TMの適用で、結果は出たのか?〜

片桐朝彦、土澤聡明、保坂周一 (株式会社コガネイ)

概要  

(株)コガネイは従業員800人、生産から販売まで手がける空気圧機器総合メーカーです。結果(=利益)を出すために、2006年10月からTRIZだけでなく、QFD&TMも含め、開発プロセス全体に適用し、実際の開発案件にて製品開発を行なってきました。
今回はTRIZシンポジウム2008にて発表させていただきました導入段階の続報として、実際に開発した製品に基づく下記具体例を紹介させていただきます。

 


[2] 発表スライド全文:

和文発表スライド (28 スライド、PDF 2.0 MB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)

英文発表スライド (英訳支援: 中川 徹) (28 スライド、PDF 1.7 MB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)


[3] 発表の紹介 (中川): 

「Personal Report of The Fifth TRIZ Symposium in Japan, 2009, Part E. Promotion of TRIZ in Industries」
中川 徹 (2009年12月23日) (英文ページ) から抜粋。

片桐朝彦、土澤聡明、保坂周一 ((株) コガネイ)[J14 O-5] が、素晴らしいオーラル発表をした。そのタイトルは、「結果 (=利益)を出すためのTRIZ導入と実務適用事例(2) 〜QFD→TRIZ→TMの適用で、結果は出たのか?〜」であった。この発表は、日本人参加者による「あなたにとって最もよかった発表」の投票の結果、表彰された。これは、昨年の同著者たちによるPart 1 の発表 の表彰に続くものである。ここにはまず著者の論文概要を引用する。

(株)コガネイは従業員800人、生産から販売まで手がける空気圧機器総合メーカーです。結果(=利益)を出すために、2006年10月からTRIZだけでなく、QFD&TMも含め、開発プロセス全体に適用し、実際の開発案件にて製品開発を行なってきました。

今回はTRIZシンポジウム2008にて発表させていただきました導入段階の続報として、実際に開発した製品に基づく下記具体例を紹介させていただきます。

著者らが所属する会社は、空気圧機器の総合メーカーである。スライド (右) は同社の製品のラインアップを示す。全体で30万種類の製品がある、という。

 

スライド (右) に、本プロジェクトの意図を示している。プロジェクトの目標は「『絶対的強み』を確立すること」だと宣言している。すなわち、差別化した製品を継続的に提供し、それによって顧客に利益をもたらすこと、である。この目標を達成するために、3つのキーボイントがある、と認識している。(1) 顧客の要求の本当のエッセンスを認識し、顧客満足を満たすこと -- この目的のためにQFD (品質機能展開) を導入した。(2) ユニークな解決策を創り出す。-- TRIZ。(3) ユニークな新製品に伴うリスクを最小限にする。-- TM (田口メソッド、品質工学)、 その他 (3D-CAD とCAEを含む) を導入した。

そこで、著者らは、つぎのスライド (左下) に示す基本戦略を選択した。彼らはTRIZだけでなく、QFD と 田口メソッドをもセットにして、導入したのである。著者らはこれらの方法を実際に開発着手したプロジェクト3件に適用した。彼らがユニークなのは、これら3方法の指導を唯一人のコンサルタントに一貫してして貰うように要求したことである。また、トレーニングの日程をプロジェクトの進行に同期化させて設定した (スライド (右下) に示すとおりである)。

 

(第1段階):  QFD のスキームを概念的に示したのがスライド (右) である。営業、品質、製造、およひ開発の諸部門からのメンバが共同してQFDに取り組む。彼らは顧客の要求を集めて分類し、要求に重みづけをし、それらの情報を要求品質に変換する。ついで、(品質-機能展開において) 品質を企画し、それを品質特性の情報に変換する。スライド (左下) に示すように、品質機能展開(QFD) を行なった結果、プロジェクトチームは鍵になる課題 (例えば、矛盾点、コスト削減要求、最適条件の設定、など) を認識し、それらをTRIZを使って問題解決し、さらに田口メソッドを使ってロバストな解決策にしていく必要性を理解した。つぎのスライド (右下) は、TRIZプロセスの前にQFDを導入することの効果を、よくまとめている。彼らが絶対に解決しなければならない技術的課題の重要性と優先度を、しっかりと理解したのである。

 

(第2段階): 鍵となる技術課題をTRIZを使って解決する。つぎのスライド (左下) に、鍵になる技術課題の一つで今回のプロジェクトで実際に解決したものを、例示する。前のQFDの段階でプロジェクトメンバで共通認識を得た、鍵となる技術課題は、高性能の空気バルブと、そのバルブを駆動するソレノイドの新しい構造を開発することであった。スライド (左下) に、ソレノイド構造とバルブを、自動車の場合のエンジンとパワートレイン (駆動系) とに対比して示した。目標仕様は、空気バルブのための新しいゾレノイド構造を開発することで、それは大きな流量をもち、高速のオン/オフ応答を持ち、なおかつ消費電力が小さく、耐用時間が長い必要がある。

[*** (中川コメント) ここの要求目標が非常に挑戦的で、高度で広範であるように見えることに、まず読者は気づかれたであろう。このような要求を満足する新しい製品は、さまざまな応用領域で新しい天地を開くものになることを、この後すぐに理解されるだろう。] スライド (右下)に、TRIZを使って得た解決策のコンセプトを列挙しており、従来のソレノイドのデザインと新規のソレノイドのデザインとを並べて示している。

 

(第3段階): 彼らの新しいアイデアのうちのいくつかは、彼らのいままでの経験範囲や専門領域を越えたものであったから、その設計や製造、さらに性能実現などには多くのリスクが予想された (スライド (左下) 参照)。そこで、この第3段階の目標課題は、新しいソレノイド構造の最適でロバストなデザインを見つけ出すこと、それもできるだけ早く見つけ出すことであった。そこで、著者らはTM (田口メソッド) を採用し、スライド (右下) に示すように、テストのためのさまざまな設計パラメータを設定するのに用いた。テストそのものは、その大部分をCAE で (すなわち、電磁気解析のソフトウェアを使ったシミュレーションによって) 行い、物理的なプロトタイプによる実験を代替した。このアプローチは開発期間の短縮に役立ち、かつ、著者たちはかれらの設計に確信を得るに至った。

 

つぎの二つのスライド (下) は、著者たちが本発表のプロジェクトで開発した新しい製品を示している。その製品は「高速応答2ポートバルブ」である。このバルブは、図 (スライド (左下) ) に示すような外観を持ち、空気流のパイプの一端 (あるいは中間) に設置され、空気流を高速応答でオン/オフすることができる。スライド (左下) の表には、このバルブで実現した性能を示す。すなわち、同社の従来製品に比べて、応答時間が1/2以下、流量が3倍以上、電力消費が1/2以下、ということである。スライド (右下) にはバルブの内部構造を示し、バルブを駆動するソレノイドの構造を示す。三つの方法 (QFD、TRIZ、およびTM) は、スライド (右下) のキーワードで示したようないくつもの設計のチョイスに寄与している。

新しいバルブの使用例を、つぎの二つのスライド (下) に例示する。スライド(左下)の例では、バルブが一つの選別工程に適用されており、コンベアで運ばれて来る品目が良品 (OK) か不良品 (NG) かが判定され、その下流で不良品だけを圧縮空気で吹き飛ばすのに、本件開発のバルブで空気流をオン/オフする。入力されるパルス電圧に応じて、新開発のバルブは鋭いパルスの出力圧力を示し (青色実線)、それは従来のバルブで得られるより緩やかなパルス出力圧力 (赤色点線) と対照的である。この結果、タクトタイム [製品選別の時間間隔] を短縮でき、選別の精度を向上できる。つぎのスライド (右下) では、新規バルブがブロー工程で利用されている。バルブはパルス駆動で操作されており、圧縮空気の吹きつけをパルス的に行なえる。この結果、より優れた吹きつけ効果が得られ、特に、高速で制御可能なこと、圧縮空気の使用量を削減できる効果がある。

上述のように、新規開発のバルブは、従来のバルブに比べて、応答速度、流量、消費電力などの点でずっと優れた性能を実現した。スライド (右) には、現在の販売状況と将来の拡張計画をまとめている。同社は2009年7月から一般販売を開始し、予想を大幅に越える引き合いを得ているという。そこで同社は、この製品シリーズの拡大を計画している。また、この新しい高速応答バルブと新ソレノイド技術とを効果的に使う新しい応用をさらに開発する計画である。

*** この結果は空気圧バルブの分野におけるめざましい実績である。空気圧バルブは同社がすでに数十年に渡って関わってきた主力製品であり、だから、その技術もすでにまったく成熟しているものと思われていたのであった。

著者らは、まとめとして、人材育成計画について議論している (スライド (右))。この図は、新製品開発の過程において取り組むべき課題 (長方形の項目) を記述している。丸四角で書いているのは、克服すべき問題・課題についての言及である。矢印のような五角形は、それらのプロセスに適用可能な (そして導入ずみの) 諸方法を示す。水色の五角形 (特に、QFD、TRIZ、TM) が本件のプロジェクトで導入されたものである。黄色の五角形およびオレンジの五角形は、(明記してないが恐らく)すでに使われている方法であろう。

*** 本件は、TRIZ (およびQFD と TM (田口メソッド)) を適用して達成された素晴らしい業績である。また、TRIZを用いて達成された事例の発表としても、その視野、内容、およびいきいきした描写などの点で、素晴らしいものである。驚くべきことは、このプロジェクトを開始した時点で、著者たちは、QFDにも、TRIZにも、TMにも初心者だったことで、[その人たちがこのように諸方法を消化して適用し、素晴らしい新製品開発の実績を挙げたことで] ある。著者の皆さん、(株) コガネイ、そしてこれを指導したコンサルタント笠井肇氏 (IDEA社)に、このよな素晴らしい実績を挙げられたことに対して、賛辞を贈ります。第5回日本TRIZシンポジウム2009で、この発表が行なわれたことは、私たちの喜びであり、誇りであります。

 

 

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最終更新日 : 2010. 5. 9     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp