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編集ノート (中川徹、2007年 8月 4日)
本論文は、昨年10月の ETRIA国際会議
で発表されたものです。ここに報告されている発明は、少し聞いたり、少し読んだりしただけでは、理解し難い、信じ難いものです。
「非線形のねじの形のロータ2本を噛み合わせた、新しい概念のモータ」がその発明の主要な内容です。
「非線形のねじ」といっているのは、長さ方向に対してネジのピッチや径が非線形に変化していくことをいいます。
「そんなの、うまく噛み合って回転するの?」と思いますが、きちんと回転します。
「モータ」というのは、ふつう、「電気を通して回転のトルクを発生させるもの」と思いますが、これは電気を使いません。
「モータ」の本来の訳語は、「原動機」です。何らかのエネルギを導入して、機械的運動を発生させるものです。
本論文の発明は、この意味の「原動機」であり、内部で燃料を連続燃焼させて、その膨張力で回転力をつくりだします。
ガスタービンと似た面がありますが、ずっと小型のものから、大型のものまで考えています。
通常の内燃機関 (エンジン) では、ピストンの往復運動を作り出しますが、この「モータ」は直接に回転運動を作ります。
エンジンに比べるとずっとシンプルで、原理的な性能などが優れています。この発明を「原動機」として使う一つ手前の段階に、他の動力でロータを回転させて使う応用が沢山あります。
その基本は、空気 (あるいは水、その他の媒体) を圧縮・膨張を伴って流れを作ることです。
実際に、舶用プロペラ (普通「スクリュ」と呼んでいるもの) をこの発明の原理で試作し、実験をしています。
二つの非線形のねじの形のロータを、ステータの中で回転させ、吸い込んだ水を高速にして後ろに吐き出します。
これによって、非常にスムーズな推進力を得ています。2004年5月に実地実験に成功しています。
同様な考え方で、換気扇、真空ポンプ、ポンプ、コンプレッサなどができます。より詳しくは、中川が書いた「ETRIA国際会議報告 (Personal Report)」中の紹介をまずお読み下さい。昨年、英語で書きました報告を、和訳してここに添付しています。その後で論文の和訳を読まれるとよいでしょう。
この発表は、ETRIA国際会議の第3日の最終発表で、飛行機の都合で帰り始めた参加者も多く、二つに分かれたこの会場には20人位しか聴衆がいませんでした。その30分の発表は、実に驚くべきものでしたが、その発明のメカニズムや意義を理解した人はきっと数人だけだったでしょう。発表者は、そのプレゼンテーションのスライドとビデオを予めCD-ROMに焼き付けて、特別に私に渡してくれました。私も後で論文を読み返し、CDの資料を見て、ようやくそのメカニズムを理解し、その意義を理解したのでした。資料を提供下さり、本件の和訳・掲載を許可して下さった著者に感謝いたします。
私はこれはすばらしい発明であり、すばらしい論文だと思います。Personal Report を書き、その和文概要でも、この論文の重要性をPRしました。その後、この論文をもっと早くに詳しく紹介したいと思っていたのですが、多忙に紛れておりました。
本年5月に、日本の自動車関連企業 6社のTRIZ関連リーダの方に、この論文とその資料をお送りし、論文の和訳とホームページ掲載のご協力をお願いしました。幸いヤンマー株式会社中央研究所の齋藤昌弘さんが応じて下さり、本論文の主要部の和訳をして下さいました。その後また多忙で、ようやく昨日になって、この論文和訳を完成させることができました。随分遅くなりましたが、皆さまが読んで下さることを願います。
こんな考え方の、こんなドラスチックな発明もあるのだと理解下さると幸いです。将来のエンジンや動力の一つの夢の形態がここに提示されていると思います。その原理的な単純さ、「筋の良さ」がここにあると、私は思っています。著者たちが書いている、この技術を実現させるための必須の条件はつぎのようであり、それは日本の技術が得意とするものばかりです。
「この新プロペラが実現できるためには、洗練された計算および実験手法、デザインツール(CAD)、技術プロセス(ラピッドプロトタイプ、NCマシン加工、精密鋳造)、素材、その他が利用できる必要がある。」
日本の企業が、大企業でも、中小企業でも、この技術に着目していただけるとよいと思っております。本ページは、以下には、つぎのように構成しています。
本論文の紹介 (中川: 「ETRIA TFC 2007 国際会議報告 (Personal Report)」 の抜粋・和訳) (2006.12.31)
和訳論文 (齋藤昌弘・中川 徹 訳、2007年8月3日) 目次:
1. はじめに
2. 新原動機の効用と [従来のものからの] 違い
3. [新] 原動機の諸変種と応用のための諸原理
4. 新原動機における矛盾と進化のとンド
5. 新しいプロペラ
6. 舵と統合したプロペラ
7. 結論
参考文献
本ページの先頭 | 紹介(中川) | 論文の先頭 | 2. 効用と相違点 | 3. 新原動機の諸変種 | 4. 進化のトレンド | 5. 新しいプロペラ | 6. 舵とプロペラ | 7. 結論 | 記録写真 | 論文和訳PDF |
英文論文PDF |
ETRIA TFC2006 報告 (中川) |
英文ページ |
本論文の紹介 (中川 徹、2007年 8月 4日)
中川 徹: 「Personal Report of ETRIA TFC 2006」
(2007. 1. 7、『TRIZホームページ』掲載 (英文)) 中の関連部分を和訳して示す。
Vratislav Perna (PERNA Motors, チェコ共和国), Bohuslav Busov (Brno 工業大学、チェコ) および Pavel Jirman (Liberec 工業大学、チェコ) [46] は、驚くべき発表を行った。その題名は、「新しい原動機とそのTRIZによる評価」というものであった。それは新規な原動機 (「モータ」) の紹介であり、読者の皆さんはそのモデルのアニメーションを見ないでは、想像することも難しいかもしれません。この原動機をTRIZの観点から評価し、アイデアをさらに発展させようとしています。この原動機は、「非線形のねじを組み合わせたもの」の一連のファミリーであり、空気 (あるいは任意の気体や液体) を圧縮し、膨張させる機能を持ったものです。この発明は、米国特許 20030012675 A1として、特許化されています。ともかくまず、新しい原動機の模式的な構成配置を下図でご覧いただき、それから論文概要を読んでみて下さい。この論文は、第一著者が発明者であり、第二、第三著者がTRIZ専門家たちです。
本論文が提示しているのは、TRIZ方法論を使って、一つの重要な発明を理解し評価することである。この論文に示している原動機 (モータ) の新規な解決策は、「回転する非線形ねじのメカニズム」という発明に基づくものであり、TRIZの観点からはつぎのように [多様に] 特徴づけることができる。
- (ピストン原動機とガスタービンという) 二つの代替システムの、長所を組合せ、短所を部分的に消去した興味深い例として、
- (圧縮機と膨張機という) システムとその逆システムとを組合せた例として、
- (1軸、2軸、3軸、あるいは多軸の原動機 (モータ) という) 単一−二重−多重システムの例として、
- (線、面、空間という) 形状のまったく非線形な事例として、
- (古典的な内燃機関を) トリミングした例として、
- 劇的な技術革新の例として、など。
大掴みにいって、この新規な原動機 (モータ) は、数えきれないほどの多様な応用を持った一つの複雑な発明であり、システムの理想性を向上させた優れた事例である。例えば、プロペラ (あるいは[船の] スクリュ) は、発明の基本部分 (すなわち、ねじのメカニズム) の一つの可能な応用である。この論文はまた、学生たちや教師たちにとって、一つの特定の発明にTRIZの諸ツールをどのように使うかを、観察し研究することを挑戦させるものである。
この新しい原動機の原理は、下図に示すようです。吸入と圧縮が原動機の [図の] 左側の部分で行われ、中央部で着火、右側部分で膨張と排気が行われています。
体積 (実線) と圧力 (破線) の工程による変化を示す。 左部分で空気が吸入・圧縮され、ついで中央部で導入された燃料が着火し、それによって圧力が急上昇して、ねじを回転させつつ膨張し排出されていく。
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[「非線形ピッチのねじ」の実際の形状のイメージは、下に掲載する図を参照されたい。] |
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側面から見た断面形状。 中央の図に示すように、燃料ガス (あるいは液体) を中央部で側面の管から導入し、連続的に着火・燃焼させる。その結果、動作にあまり周期的な変化がない。 |
この発明は非常に広い応用分野を持つ。その中には、原動機 (二つのロータの軸が並行なもの、公差するもの、ねじれの位置にあるもの、周辺に複数の軸をもつもの、など)、ねじの形状の圧縮機、換気扇、真空ポンプ、ポンプ、舶用推進機 (プロペラ、スクリュ)、などを含んでいる。
本発明の簡単な応用の一つとして、舶用プロペラの一つのモデルが設計され、実地テストでよい性能を示した。以下にその 5つの図・写真を示す:らせん状のシャフトの一つ。上から見た模式図。組み立てたスクリュの写真。プロトタイプのスクリュの前面横から見た写真。そして、プロトタイプのスクリュを、自由回転ができる垂直軸の下にとりつけ、上にエンジンと舵をつけたもの。
このプロペラは、船を操縦するのに非常に高い性能を示した。それは360度自由な向きに推力を出し、その出力変化がスムーズなことによる。このプロペラのロータが「ステータ」によって完全に覆われているという事実は、高い安全性とともに高い性能効率をつくりだす。ここに示したプロペラは、媒体の入力および出力速度の比を1:3に設計しており、ロータの1回転あたりの排出体積は2リットルである。そこで、毎分300回転とすると、媒体の出力流は 600リットル/分で、速度は時速約140キロとなる、と著者は記している。このプロペラは、二つのねじが逆回転しているから、古典的なスクリュプロペラの場合に特徴的であった船の傾きという望ましくない効果を消去するという利点がある。著者はまたつぎのように書いている:「この新プロペラが実現できるためには、洗練された計算および実験手法、デザインツール(CAD)、技術プロセス(ラピッドプロトタイプ、NCマシン加工、精密鋳造)、素材、その他が利用できる必要がある。」
論文の最後に書かれているつぎの文章も、また非常に興味深い。
発明者自身の結論「... TRIZ方法論についての最初の言葉による説明でさえも私におおきな印象を与えた。活発に発明をしている者として、どんなものだろうかと非常に興味がひかれた。だが、事実は私の期待を遥に越えた。私は創造的な仕事のための体系的な方法論に随分と惹かれた。それも、まだ、一つの発明 (エンジン) と一つの革新 (プロペラ) を評価するのに、ほんの一部を使ったのすぎなかったのだが。私が確信したのは、方法論に従った過程を知ることは、思考と探索手続きを強固にし、不適当な解決策をむやみにやるステップを減らしてくれる。評価対象になった発明の著者として、私が言っておきたいのは、この方法論に対する私の関心がこれで終わりになったのではなく、始まったばかりだということである。この評価の間に、つぎの新しいアイデアが生まれてきたのだから。」
***[中川の所感]: この論文は極めて重要な発明について報告している。その発明はさまざまな応用分野で多数の技術革新をもたらす巨大な可能性を持っている。これは今後、努力を傾注するに値する大きな挑戦をわれわれに提示している。チェコの二人のTRIZ専門家たちがこの発明者にTRIZを紹介し、TRIZ方法論を使ってさらに新しい発明や革新をしていくべく発明者と協力していることを知って、すばらしいことだと思う。発明者はWebサイトをつぎのURL で準備中であるという。www.pernamotors.com 。
新しい原動機 (ペルナ・モータ) とそのTRIZによる評価
Vratislav Perna (PERNA Motors, Czech Republic)
Bohuslav Busov (The Brno University of Technology, Czech Republic)
Pavel Jirman (The Technical University of Liberec, Czech Republic)出典: ETRIA TRIZ Future 2006 国際会議、2006年10月 9-11日、コルトレイク、ベルギー
Proceedings, Vol. 2, pp.183-190和訳: 齋藤 昌弘 (ヤンマー株式会社) 、中川 徹 (大阪学院大学)、
2007年 8月 4日
概要
本論文が提示しているのは、TRIZ方法論を使って、一つの重要な発明を理解し評価することである。この論文に示している原動機 (モータ) の新規な解決策は、「回転する非線形ねじのメカニズム」という発明に基づくものであり、TRIZの観点からはつぎのように [多様に] 特徴づけることができる。
- (ピストン原動機とガスタービンという) 二つの代替システムの、長所を組合せ、短所を部分的に消去した興味深い例として、
- (圧縮機と膨張機という) システムとその逆システムとを組合せた例として、
- (1軸、2軸、3軸、あるいは多軸の原動機 (モータ) という) 単一−二重−多重システムの例として、
- (線、面、空間という) 形状のまったく非線形な事例として、
- (古典的な内燃機関を) トリミングした例として、
- 劇的な技術革新の例として、など。
大掴みにいって、この新規な原動機 (モータ) は、数えきれないほどの多様な応用を持った一つの複雑な発明であり、システムの理想性を向上させた優れた事例である。例えば、プロペラ (あるいは[船の] スクリュ) は、発明の基本部分 (すなわち、ねじのメカニズム) の一つの可能な応用である。この論文はまた、学生たちや教師たちにとって、一つの特定の発明にTRIZの諸ツールをどのように使うかを、観察し研究することを挑戦させるものである。
キーワード: 原動機 (モータ)、プロペラ (舶用スクリュ) 、矛盾、トレンド、TRIZによる評価
1. はじめに
現存する内燃機関 (エンジン) の動作原理は、ピストンの往復運動と、クランク機構、偏心トランスミッション、あるいはカムによる動力伝達とに、基づいている。最も普通に使われているピストン式原動機は、機構学的な観点から見ると、[つぎのような] 多くの不完全さを持っている。
他方、現存するガスタービンは、一つの軸と多数のブレード [羽根] を持ち、通常、より高い性能を目指して設計され、同一圧力で働き、もしくは一定体積で動作している。
- 衝撃的な燃焼過程と周期的な動力発生のメカニズム
- 圧縮過程と膨張過程を同一空間で行っているために、膨張限界を生じ、使われていない熱エネルギーを冷却によって除去する必要を生じている。
- (燃焼室の壁面での) 摩擦による [エネルギ] 損失と、潤滑の必要性
- 多数の精密部品 [の必要](クランクシャフト、コンロッド、ベアリング、分配機構、カム、バルブ、調整器、など)
- [複数の] 動作メカニズム (燃料とその噴射準備、調整、冷却、サイクル)、など
[本論文の] 新原動機は、要約していうと、ピストン式原動機とガスタービンという二つの代替システムを組み合わせたものであり、また同時に、圧縮機と膨張機という二つの逆システムを組み合わせたものであるともいえる。図1参照。
図1. 新原動機の配置模式図 [5]
2. 新原動機の効用と [従来のものからの] 違い
なにか新しいものの効用と相違点を示すには、古いものや対応するものと比較して示すことが、いつの場合でも望ましいことである。例えば、[この] 新原動機について考えるには、古典的な内燃機関、スクリュ式のポンプ/コンプレッサ、あるいは (部分的な) タービンなどの諸システムと比較することができる。新しい原動機 (図2に示す原理に基づいたもの) の、基本的な相違点と効用はつぎに示すようである。
- [本原動機の設計において] 動作効率を最大にするためのロータ形状を計算するに際して、選択した燃料のタイプに追随することができる。(燃料には、気体燃料:プロパン-ブタン、天然ガス、バイオマス [からのガス]、水素、あるいは液体燃料:ガソリン、灯油、石油、アルコール、あるいはそれらの混合物がある。また、多種燃料原動機のために、燃料の組み合わせもありうる。)
- 新原動機の設計は広範囲に変化しうる (高速のための小型原動機、そして低速のための大型のもの)
- 新原動機は、その圧縮空間 [領域] が「空間的に」分割されており、その分割は、膨張空間に応じ、また、さまざまな形状にできる、燃焼セルの「回転&分割部品」[ねじの山のこと] の一つのバリエーションに応じて決まる。
- [新原動機の] らせん形のロータ [らせん形の回転体] は、標準的なスクリュコンプレッサ [ねじ式の圧縮機] のらせん形ロータとは違った形状を持っている。
- [新原動機の] らせん形の歯 [ねじの山のこと] (「ピストン」に相当する)は、回転運動だけをする [往復運動をしない]。
- 新原動機は燃料の連続的な噴射と連続的な燃焼をしている。
- ロータ出力は比較的安定である(回転過程に伴う周期的変化がない)。
- 可動部品は動的バランスが非常に良い。
- バランスと連続燃焼の結果として、運転は非常に静かであり、それに伴い空気汚染の値が非常に低い。
- ロータの運動伝達が (ステータから見て) 非接触で行われることは、摩擦と潤滑 [の必要性]がベアリングだけに限られる(これは燃焼領域から離れて設置されている)ことを意味する。
- 新原動機は部分的な冷却だけでよく、これは未使用熱エネルギーの排出を減らす。
- 理論的に、燃料消費を減らし、熱効率がよく、また高い総合効率を期待することができる。
- 作動領域の出力が周期的変動をせず、得られる出力がバランスし、トルクがバランスして、望ましくない副次効果を持たないことが、利点である。
- 新原動機は少量の部品で作られている。ロータが [いままでよりも] 製造するのがより複雑になっただけである。
- 必要な周辺機構は、ステータ、ホットプラグ、調整された連続噴射ポンプ、そして、冷却回路である。
- 新原動機は相対的に安価で、軽く、長寿命かつ最小メンテナンスである。
体積 (実線) と圧力 (破線) の工程による変化
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寸法比率の変化。 |
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側面から見た断面形状。 |
図2. 新原動機の原理: 左部分で吸い込みと圧縮、中央部分で点火、右部分で膨張と排出 [5]
3. [新]原動機の諸変種と応用のための諸原理
ロータの軸を平行配置にする原動機の諸形態の他に、ロータの軸を交差させるあるいはねじれの位置 (すれ違い) に配置する原動機の諸形態を構築することが可能である。2ロータのほかにも、分割されたもっと多くのロータ、あるいは一つの主ロータに多数を配置したものなど、さまざまな変種が可能である (図3参照)。ロータの歯のプロファイル [詳細形状] として多数の異なるものから選択することができ、また相互作用しているロータの動きの方向もさまざまに選択することができる (逆回転あるいは同方向回転)。
図3. 軸、シャフトとそれらの諸変種 [5]。
同種または異なる部分の単一/二重/多重システムのトレンドに対応する。
記号は、1:ステータ、2、3: 逆方向に回転するシャフト。既述の諸原動機の他に、その他の応用として、スクリュ型圧縮機、換気ファン、真空ポンプ、ポンプ、舶用推進器(プロペラ)、などがある。
4. 新原動機における矛盾と進化のトレンド
よく知られているように、古典的内燃機関 (エンジン) の改良の指標として可能なものの一つは、排気量/質量の比である。この指標を改良しようとすると、通常、他の指標が悪化する。例えば、同一サイズと質量で、排気量を増すと、熱損失がより大きくなる、そして、強力に冷却することか必要になる、など。
技術的矛盾をいくつかの形で定式化し、多数の経験的原理でひらめきを得ることは、有用であろう。しかしながら、このエンジンの概念は多数の限界を持っており、より一層の開発の可能性が大きく減少する時期に近づいている (S-カーブ 参照)。何千人という設計者たちが、一世紀以上に渡って、この場所 [すなわちテーマ] を [金鉱を求めて] 「掘って」きた。より深く「掘る」か、他の場所を「掘る」かを [決める] 必要がある時機になっている。... TRIZは [金を] 掘るための特別のツール群を提供している。
物理的矛盾を定式化することは、問題の核心をより深く理解するように人を導き、新しい概念を見つけるのにより近くまで人を連れていく。[物理的矛盾を解くための] 分離原理は、最善の解決策を見つけるのに、いくつかの指針を推奨してくれる (時間での分離、空間での分離、要素と逆要素、など)。技術的進化のトレンドは、より一般的な観点の方向づけを推奨することができる。
どこに行けば、新しいエンジンの発明によって解決された物理的矛盾をみることができるだろうか?
古典的な「4サイクル」往復内燃機関のエンジンは、4工程 (吸入、圧縮、膨張、排気) を一つの空間 (シリンダとピストンとの間の対称的な円筒形の空間) で行っており、これらの工程は順次的で脈動的 (衝撃的) である。
[本論文の] 新しいエンジンで、二つのシャフトに4つのらせん形の歯をもったものは、二つの両立可能な工程 (吸入と圧縮) をエンジンの左側部分の空間で行い ([TRIZの原理でいうと] 分割、非対称、シャフトに沿ってらせん形、収束的)、他の二つの両立可能な工程 (膨張と排気) をエンジンの右側部分の空間で行う (分割、非対称、シャフトに沿ってらせん形、発散的) ように、分離している。これらすべての動作は並行しており、また脈動 (衝撃) 性は少ない。
物理的矛盾:燃焼スペースは、排気量を増大させるためにはずっと大きい必要があり、他方、体積、質量、熱損失などの悪化を避けるためには、燃焼スペースが小さい必要がある。
発明者はこの矛盾を、「空間による [分離]」と、要素-逆要素の原理を用いて解決した。新エンジン (原動機) は、多数の小さな (軸方向に) 分割された空間を持ち、その空間はまた一つの大きな空間として統合されている。
他の多くのTRIZツール (ヒューリスティックス [発明原理のこと]、分離原理、トレンドなど)が、 このラジカルな発明にはまた適用されているのを見ることができる。新原動機の新規性と潜在的な効用は、いわゆる「進化レーダ」[技術進化のポテンシャルのレーダ図] によって図示することができる。
図4. 進化のトレンドのレーダ図: 古典的スクリュ(灰色) と本件の新しいプロペラ (青色) [7]
5. 新しいプロペラ
本発明の基本部分の一つの可能な適用事例として、プロペラ [船舶用プロペラ、スクリュ] を示す。このプロペラは、「ステータ」[外側の固定部品] とその内部の2個のロータからなる。各ロータは二つの歯を持ち、それらの歯はらせん形でロータに沿って巻いている。これらのらせん形の歯をもつ二つのロータは互いに噛み合っている。これらのロータは、ステータと一緒になって、軸に沿って分割された作用空間を形成する。そこでは、入力に対して吸入し、出力に対してはプロペラが媒体を噴出する (図5参照)。
図5. 新型プロペラの一つのらせん形シャフトと [組み立て] モデル
このプロペラは、非圧縮性流体の等体積の流れを発生させる。しかし、分割された空間内部の流体速度は連続的にかつ著しく増大する。なぜなら、らせん形の歯のピッチが非線形的に増加し、らせん形の歯のプロファイル (断面の高さと形) もまた非線形に変化する (高さは減少し、幅は増大する) からである。
これらの非線形性は、分割された作用空間中の流体の運動量を、プロペラに沿って相対的に増加させる。
さらに、これらの歯は中空であってもよい。この場合、流体は区分された外側の作用空間を連続的に通るだけではなく、中空のらせん形の歯の内側をも通ることができる。
同様の装置のこれまでに知られている全ての解決手段は、そのらせん形の歯のピッチと形状を限られた範囲でしか変化させていず、装置の動作特性に対する厳密な要求を満足していなかった。
6. 舵と統合したプロペラ
新プロペラのロータは、ステータの前部に組み込まれたウォームギアで駆動され、[全体が] 舵の形状をしている。エンジンの垂直駆動軸は中空の筒の中に設置されている。これは360度以上の舵の回転を可能にし、操船性を改善する(全ての方向に、十分なパワーがある)。正確さと感度もまた改善し、よって船の操縦の安全性が改善する。
図6に示したプロペラは、流体の出口速度と入口速度間の加速比を3:1として、ポンピングをロータの1回転あたり2リットルとして設計された。これは、毎分300回転とすれば、速度140km/hで、600 リットル/分以上の流体の出口流を可能にしている。
図6. 機能のプロトタイプ
この新しいプロペラは、通常のプロペラとは異なる多くの特長を持つ。非常に低速から最大回転速度まで動き、その伝達パワーは連続的に増加する(部材強度で制限される)。ステータの内側にあるプロペラロータは、異物(魚、網、綱、遊泳者)との接触から保護されている。二重システムをなすロータの逆方向回転は、古典的なスクリュプロペラでは一方向だけの回転のために特有な、望ましくない船の傾きを排除できる。また、キャビテーションと振動が大幅に小さいのは、乱れが少ないからである。
この新プロペラが実現できるためには、洗練された計算および実験手法、デザインツール(CAD)、技術プロセス(ラピッドプロトタイプ、NCマシン加工、精密鋳造)、素材、その他が利用できる必要がある。
7. 結論
先行事例を基礎にして、提示した発明/革新について効果的に研究し、客観的に評価するのに、TRIZの分析-総合ツールを実践的に使えることを例示した。
発明者自身の結論「... TRIZ方法論についての最初の言葉による説明でさえも私におおきな印象を与えた。活発に発明をしている者として、どんなものだろうかと非常に興味がひかれた。だが、事実は私の期待を遥に越えた。私は創造的な仕事のための体系的な方法論に随分と惹かれた。それも、まだ、一つの発明 (エンジン) と一つの革新 (プロペラ) を評価するのに、ほんの一部を使ったのすぎなかったのだが。私が確信したのは、方法論に従った過程を知ることは、思考と探索手続きを強固にし、不適当な解決策をむやみにやるステップを減らしてくれる。評価対象になった発明の著者として、私が言っておきたいのは、この方法論に対する私の関心がこれで終わりになったのではなく、始まったばかりだということである。この評価の間に、つぎの新しいアイデアが生まれてきたのだから。」
参考文献
[1] Devoyno, I.,G., 1997, Improving of technical systems by TRIZ approaches, Minsk, (tr. into Czech, INDUS, Brno, 1996)
[2] Salamatov, Y., 1991, A system of laws of Technology Development, In the book "Chance for adventure“, Petrozavodsk, ISBN 5-7545-0337-7 (translation into Czech, INDUS, Brno, 2000)
[3] Busov, B., Jirman, P., Dostal, V., 1996, TRIZ (VA + ARIZ), INDUS, Liberec (in Czech)
[4] Software: CREAX Innovation Suite 3.1
[5] Patent: US 20030012675 A1
[6] Busov, B., 2004, PERNA system - technical potential evaluation (in Czech, for South Moravian Inn. Centre -JIC Brno)
[7] Busov, B., 2005, PERNA propeller - technical evaluation (in Czech, for South Moravian Innovation Centre -JIC Brno)
編集ノート追記 (中川 徹、2007. 8. 4) 著者らの実験記録写真
以下の5葉の写真は、著者らから提供されたCD-ROMに収録されていたものの一部である。
実験日は、2004年 5月12日。
本ページの先頭 | 紹介(中川) | 論文の先頭 | 2. 効用と相違点 | 3. 新原動機の諸変種 | 4. 進化のトレンド | 5. 新しいプロペラ | 6. 舵とプロペラ | 7. 結論 | 記録写真 | 論文和訳PDF |
英文論文PDF |
ETRIA TFC2006 報告 (中川) |
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最終更新日 : 2007. 8.17. 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp