TRIZフォーラム: 学会参加報告(16):
ETRIA国際会議 TRIZ Future 2006
2006年10月 9日〜 11日、コルトレイク、ベルギー
中川 徹 (大阪学院大学)
 2006年12月31日 (英文) [掲載: 2007. 1. 7 ]
 概要和文 (2007年 1月 2日)  [掲載: 2007. 1. 7 .]

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今回のETRIA (欧州TRIZ協会) 主催の"TRIZ Future 2006" 国際会議には、日本からは産能大の澤口 学氏、京都大学の川上浩司助教授と森久光雄氏、そして小生の 4人が参加した。学会の発表お よび論文集の論文の全体をレ ビューして, 詳細な学会報告を英文ページに掲載する。和文ではその簡単な概要だけをここに報告する。


   会議名称:  ETRIA TRIZ Future Conference 2006
                        (ETRIA主催 "TRIZ Future 2006" 国際会議)
    日時:   2006年10月 9日〜 11日 
    会場:    コルトレイク市、ベルギー  (Entripreneur Center, Kortrijk, Belgium)
    主催:   ETRIA (欧州TRIZ協会)   Web site:  http://www.etria.net/
    並行同時開催:  Flemish Qualit Management Center 19 Annual Quality Conference  
    参加者:   約 120 人  (+ Quality Conference に 約80人)

  プログラム概要:
              10月 9日 (月)                    Tutorial  (入門向け, 高度なもの 2 コース)
              10月 9日 (月) 午後 〜11日 (水) 午後 3時       シンポジウム (基調講演と発表 (2会場並行) +  Quality Conference)


論文集は 2分冊: Vol. 1 「Scientific Contributions」 (論文 18編)、Vol. 2 「Practitioners Contributions」 (論文 32編)。
発表申込みのアブストラクト 90編から、プログラム委員会が 50編を選択した。(ただし、報告集にはあるが、欠席で発表されなかったもの 6編。)
プログラム詳細が発表されたのが、開催 3週間前 (その後、2週間前に更新) であり、アブストラクトが事前に公表されないなど、運営上にやや遅れがあった。なお、国際会議終了後に、報告集掲載の全論文と著者から提出があった発表スライドが、ETRIAのWebサイトの会員限定コーナに掲載されている (これは2001年のものから揃っている)。

各論文の詳細なレビューは、英文の報告を参照されたい。主要なものを以下に特記する。

(1) 欧州TRIZ協会の一つの重要なモチーフとして、TRIZを学術的に基礎付けたいという願望がある。そのため、会議のホストはベルギーの場合もCREAX社だけでなく、大学 (Katholic University of Leuven) が共同で担当した。論文集を二つにしたのも、学術的な観点のものと、実践的な観点のものとをそれぞれに選ぼうとしたためと思われる。このうち、学術的な観点からは、西側ですでに確立された近接分野 (設計工学、公理的設計 (AD)、品質機能展開(QFD)、Lean工学、など) の研究者をプログラム審査委員に招き、基調講演 (Stephen Lee 教授 (米国、USC)) をしたりしている。重要な論文は:

Stephen Lu (USC、米) (基調講演): 「革新的工学設計のための TRIZの科学的基盤」

(2) TRIZの方法論自体に対する (実践的な立場からの) 研究も、いろいろと発表されている。重要だと考えるのはつぎのもの:

Aleksey Pinyayev (P&G、米) (基調講演): 「アルトシュラーの発明原理の進化」  (彼自身の「Functional Clues」という理論がおもしろい。)

Simon Dewulf (CREAX:ベルギー): 「Directed Variation」 (「性質とその変化」という考え方を軸にして、TRIZのすべての概念やツールを見直そうとするもの。粗削りだが、発展性があり、おもしろいと思う。)

Anja-Karina Pahl (Bath大学、英): 「PRIZM: TRIZ and Transformation」 (「創造性」に関するさまざまな分野での方法、100件以上の創造性技法・ツールをサーベイして、それらの共通の考え方を抽出しようとしたという。発散思考と収束思考との連鎖、および矛盾の克服を中心としたもの。哲学的な論文。別途教育用のゲームを開発したという。)

中川 徹 (大阪学院大学): 「創造手問題解決の新しいパラダイム: USITの6箱方式」

(3) 技術的問題にTRIZを適用した事例研究では、つぎのものが重要である。

Vratislav Perna (Perna Motors、チェコ)、Bohuslav Busov (Brno 大学、チェコ)、ら : 「New Motors and TRIZ Evaluation」 (内燃機関 (エンジン)でもなく、ターボジェットでもなく、ロータリエンジンでもない、全く新しいエンジン&モーターの発明 [Pernaによる] を、TRIZの観点から評価し、さらにその発展を考察したもの。すばらしい発明であると思う。非常に広範囲の応用が考えられる (モーター、コンプレッサ、真空ポンプ、ポンプ、船のスクリューなど)。実際に船のスクリューとして試作し、性能を実証している。自動車会社だけでなく、多くの企業でその将来性を検討するとよいと思う。2003年米国特許。)

Jan Weizenblockら (ノルウェイ) : 「造船における腐食防止の新しいコンセプトの開発のためのTRIZの適用」 (Mannの方法を使って行ったワークショップの事例。腐食防止技術の詳細を記述してはいないが、TRIZの適用方法が分かる。)

Geert Tanghe (ベルギー) (基調講演): 「高速鉄道車両のコンセプト」 (ドイツの高速鉄道での、車両の乗降口の配置に関する革新的なアイデアの事例。スライドは分かりやすかったが、報告集に詳細が記述されていない。)

(4) TRIZの適用分野を拡張したものがいくつかある。つぎのものに注目されたい。

Odair Oliva de Farias ら (ブラジル): 「TRIZによるロジスティックスの革新」 (矛盾マトリックスの39のパラメータに対して、物流の分野でいままで考えられてきた方法の発明原理、そして革新的な考え方の例を掲げている。文章が少し分かりにくいが、大事なものと思われる。)

Filip Verhaeghe (Self-Star,  ): 「IT技術の大規模な変革をTRIZが予測する」 (ソフトを買って使うという従来のIT技術に対して、プロバイダのサーバにデータを送って処理させるという「On Demand」のIT 技術が台頭しており、TRIZの種々の進化の観点から見てそれが非常に大きなシフトになるのだと主張している。分かりやすく、大事な観点を与えている。)

Valeri Souchkov ら (オランダ): 「ビジネス分野のTRIZ: ビジネス問題に関連した矛盾の同定と解決のためのRCA+法 (根本原因分析)」 (原因結果の関係をダイアグラムに表示して、矛盾を見出し、矛盾マトリックスを使って解決していく一連の方法と事例を述べる。分かりやすい図式である。

Yung-Chin Hsiao ら (台湾) : 「将来の住居のシナリオをTRIZの進化原理で考える」 (住居という非常に広範な問題の将来像をTRIZを使って考える。台湾政府の援助を受けた研究プロジェクトの中間報告。検討のため枠組みづくりが参考になる。)

森久光雄 ら (京都大学): 「創造的発明教育」 (学部生のゼミの実践報告。その中で事例として教えるのに使おうとしている森久の発明「非常に低い直流電圧 (0-1 V)をステップアップさせる回路」が、おもしろい。発明にTRIZを適用したやり方を述べている。)

(5) TRIZを企業および大学に普及・推進させるとういテーマの報告をいくつかある。ただし、欧州でのTRIZ普及が必ずしも順調とは感じられていない。TRIZのエッセンスをより簡単に、統合した形で理解し、実践する方法を述べているものが、中川のものを含めていくつかある。

やはり、この学会報告をまとめることが、非常に勉強になった。沢山の重要な発表があったことが分かる。英文のままではあるが、日本の皆さんにもぜひ読んでみていただきたいと思う。

来年の予定:   ETRIA "TRIZ Future 2007" 国際会議。2007年11月6-8日、ドイツ、 フランクフルト市。アブストラクト締切 2月15日。

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最終更新日 :   2007. 1. 7.    連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp