TRIZ/USIT 解説 | |
連載: なるほどtheメソッド: 新しいTRIZ 第6回: USITによるやさしいTRIZの実践 |
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中川 徹 (大阪学院大学) |
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許可を得て掲載。無断転載禁止。[掲載:2005.10.26] |
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編集ノート (中川徹、2005年10月19日)
ここに掲載しますのは、日経BP社の月刊誌『日経ものづくり』の2005年8月号の記事で、3月号〜8月号に6回に渡って連載された 「新しいTRIZ」の解説の第6回 (中川執筆の4回目) (最終回) のものです。許可を得て同誌の記事をHTMLに変換して掲載します。連載の全体については、親ページを参照ください。
前回の第5回では、USIT (統合的構造化発明思考法) の全体的な構造を話し、それが従来TRIZがもやもやしたままであったことを明快に整理したことを話しました。そこで、今回は、そのUSITでの問題解決のプロセスを具体的に順を追って説明します。このように、全体構造をしっかり話してから、具体的なやり方の説明をするのは、普通だと分かりにくいと思われるでしょうが、TRIZとUSITの関係と違いとをはっきりさせるために使ったことです。中川の3回の説明を読んでくださった読者には、この最終回のUSITの使い方、およびUSITの意義をご理解いただけるものと期待しております。
ご意見・ご感想・ご質問をお寄せいただけますと幸いです。
新しいTRIZ (最終第6回) USITによるやさしいTRIZの実践
本ページの先頭 | はじめに | トレーニング | 問題定義 | 問題分析 | 解決策生成 | 解決策生成の実際 |
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連載親ぺージ | 第1回篠原 | 第3回知識ベース | 第4回考える方法 | 第5回全体プロセス | 第6回USIT実践 | 日経Tech-On | 日経ものづくり |
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第6回 (最終回) USITによるやさしいTRIZの実践
中川 徹 大阪学院大学 情報学部 教授
筆者プロフィール 東京大学化学系大学院博士課程中退,理学博士。同大学理学部助手,富士通国際情報社会科学研究所,富士通研究所を経て,1998年より現職。同年11月にWebサイト「TRIZホームページ」を開設し,和文・英文で多数のTRIZ/USIT関連の論文・記事を発信している。Yuri Salamatov氏およびDarrell Mann氏のTRIZ教科書を監訳。
多数の解決策を引き出す
機能/属性分析とオペレーター「内容が膨大かつ豊富であるため,習得に時間がかかる」「全体プロセスや全体構造が錯そうしていて分かりにくい」。そのため,実践・定着が大変とされるTRIZ。それをやさしく再構築したのが,前回骨組みを解説してもらったUSIT(統合的構造化発明思考法)。今回は,このUSITに絞り,全体プロセスと実践法を解説してもらう。(本誌)
* 「第1回TRIZシンポジウム」(日本TRIZ協議会主催)が,2005年9月1〜3日に静岡県伊豆のラフォーレ修善寺で開催される。中川徹氏とDarrell Mann氏による2件の基調講演のほか,ベンダー4社が発表するセッションとデモ,12件の一般発表,ポスターセッション,総合討論,レセプション,交流会などの実施が計画されている。現在参加募集中。詳細は「TRIZホームページ」(URL:http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/)を参照。
USITにおける問題解決のための全体プロセスは,大まかには,問題定義/問題分析/解決策生成の3段階で構成される(図1)。問題定義の段階で,解くべき問題を明確にし,問題分析の段階では,3種の方法を順次適用して問題の特徴を明らかにする。そして,最後の解決策生成の段階では,前回「USITオペレーター」として説明した多数の小さなオペレーター(5種32サブ解法)を繰り返し作用させる。USITオペレーターは,発明原理,発明標準解,進化のトレンドといったTRIZのさまざまな原理を整理し直したものである。基本的には,これらを問題システムの要素に対して並列に適用して複数の解決策アイデアを得るが,導いた解決策アイデアに対してさらに適用することで,より発展した解決策のアイデアを得ることもできる。
このようにして得た多数のアイデアに対して,それぞれを深めて解決策コンセプトにする。また,その後に,USITの枠組みを出た段階として,解決策をさらに製品や生産プロセスなどに具体化する過程がある。
問題解決の一部始終を体験
技法の説明に入る前に,筆者が実施している2日間の実践トレーニング・セミナーでのやり方を説明し,USIT実施のイメージを明確にしておこう(図2)。
同セミナーでは,最初の2時間を大人数でのTRIZ/USIT講演会とし,残りの時間は15〜25人に絞ったUSITのトレーニングに充てている。トレーニングについては,3件の実地問題を持ち込むことが特徴である。本当に解決したい未解決の問題を参加者に持ち込んでもらい,その問題を課題としてグループ演習を行う*1。
*1 セミナーを組織する側があらかじめ調整して取り上げる問題を決め,その問題の当事者および関係した部門の人たちが加わるようにする。各問題について,4〜8人程度のグループを構成する。各グループには,非専門家を加えて「素朴な質問」「原理的な質問」を取り混ぜていくことも不可欠である。
この演習では,最初に問題状況の説明を全員で聞く。その後,USITのプロセスに従って,全体を5セッションに分けて演習を進めていく*2。各セッションの最初に,その段階で使う方法を詳しく説明し,次いで問題別に3グループに分かれて実地演習を実施する。その後,全員が集まり,グループごとに発表を行い,講師の指導と討論をする。
*2 各セッションの所要時間は約2時間半である。
各参加者は一つの問題について問題解決の一部始終を実践・体験する。それと同時に,他の二つの問題とその解決のやり方についても,理解することを期待される*3。
*3 参加者は,USITセミナーの成果を自分で評価し,「USITを使わない場合に2日間の合宿で得られるだろう成果」と比較して,技法としてのUSITの価値を判断することになる。ともかくこの2日間で,TRIZ/USITの初心者が,USITの考え方と方法のすべてを学び,実地問題に適用した経験を持ち,実地に有効な複数の解決策を実際につくり出すのである。
簡潔・明確な記述で焦点を絞る
USITでは,まず,解くべき問題を明確にする。問題を持ち込んだ人が,その問題を説明し,グループでの質疑応答を通じて,以下の項目を簡潔・明確に記述する。
@ 望ましくない効果 (一つだけ)
A 解決すべき問題 (1〜2行の文一つ)
B スケッチ (メカニズムが分かるように,簡明に)
C 推定される根本原因 (複数可)
D 関連するオブジェクト (システムの構成要素。最小限の組に)この段階の成果は1枚のスライドである。簡潔であることは,焦点を絞るための要点である。問題を絞るための判断基準は,USITから来るのではなく,ビジネスや技術に関する判断から来る。この段階は,本来は「現実世界」でするべきことであるが,絞り込まれずに問題が持ち込まれることが多いので,USITでは必ず行う。
USITでは,システムを理解するのに「オブジェクト−属性−機能」を基本概念とする。
オブジェクトとは「システムの構成要素である実体」のことで,釘,飛行機など大きさは任意。電子,光,情報もオブジェクトと見なす。ただし,穴はオブジェクトに含まれず,電流は例えば銅線の性質ととらえる。
属性は「オブジェクトの持つ性質のカテゴリー」であり,色,重さ,形,熱膨張率などがそれに当たる。赤色や10kgなどは,性質の値(特性値)であり,属性ではない。USITは特性値は扱わない。
また,機能については,USITでは「オブジェクトとオブジェクトの間の相互作用で,相手オブジェクトの属性を変える (あるいは変えないようにする) もの」ととらえる。
問題分析で最初に行わなければならないのは,上記の基本概念を使って対象とするシステムを理解することである。そして,そのために実施するのが,機能分析と属性分析である。
機能/属性分析で対象を理解
USITの機能分析は「現システムの本来の設計意図」を明確にすることを目的にする。システム中の最小限のオブジェクトの組に関して,それらの間の機能を図で表現する。そこでは,設計の意図として最も重要なオブジェクトを最上位に置き,それに直接接触し,かつ機能的に支えるオブジェクトを順次下位に描いて,それらの機能的関係を上向きの矢印で示す*4。
*4 USITでは,機能的に支えることを「機能的に好ましい関係にある」という。
例えば「通常の額縁掛けのシステムを改良して,傾きにくくせよ」という問題で考えてみよう。
現システムは,額縁の裏に2本のフックを付け,それをヒモでつないで,そのヒモを壁に打ち付けた釘に掛けている。この現システムでも,不十分だが傾かないように設計されている。その設計意図を機能的関係として説明すると,次のようになる。
「傾いていない」ことは,額縁を見れば分かる。その額縁の傾きは,二つのフックの位置で決まる。その位置を決めているのは,ヒモ,特にその左右の長さであり,ヒモの左右の長さを決めているのは釘である。以上が主たる機能的関係として上から下に示される。壁は,額縁の下辺との摩擦で副次的に額縁の向きを保っている。従って,壁は傍系として右下に示される。
USITの機能分析では,問題に本質的でない機能,例えば釘が重さを支える機能は記載しないし,TRIZの物質−場分析などとは違って害のある作用や,不十分な作用などを描き込もうともしない。そのような問題点の分析は,次の属性分析に任せる。
USITの属性分析では,問題にしている「望ましくない効果」に関連している属性を洗い出すことを目標にする。システム中の最小限の組のオブジェクトそれぞれに対して「望ましくない効果」を増大または減少させる属性について,すべて洗い出す。
例えば「額縁掛けの問題」では,額縁の重心のずれ,壁からの振動などが望ましくない効果(傾きやすさ)を増大させる要因であり,釘とヒモの摩擦,額縁下辺と壁との摩擦などが望ましくない効果を減少させる要因である。このような属性分析は,根本原因の解明を補強するとともに,解決策を検討する方向を洗い出しているともいえる。
USITではさらに,空間と時間に関して問題の特徴を明確にしようとする。それには,空間または時間について特徴をとらえ,それらをグラフの横軸にして,問題システムの特徴的な振る舞いを記述するとよい。「額縁掛けの問題」なら,額縁の重心が釘の真下にあるかどうかが,問題の空間的な特徴であろう。また,額縁を掛けてからの時間経過と壁からの振動などが時間的特徴であろう。
TRIZで物理的矛盾を解決するときに空間/時間による分離原理がしばしば用いられるのと同様に,USITにおいても,このような空間と時間の特徴を分析することが有効になる*5。
*5 「額縁掛けの問題」では「額縁の傾きをなくすようにヒモを調整している時間帯」と「調節完了後にヒモを保持している長期の時間帯」とが区別できるという知見が最も本質的であると,後になって分かった。
USITで,理想のシステムを理解するには,Genrich S. Altshuller氏の「小さい賢人たちのモデリング」を発展させた「Particles法」を用いる。現システムの主要部をスケッチした後,「理想の状況をイメージし,それを図示せよ。ただし,それを実現する方法を描き込もうとしてはいけない」とEd Sickafus氏は言う。そして,現在と理想とで違いがあるところに「×」マークを描き,それをParticles(粒子)と呼ぶ*6。
*6 Particlesは,任意の行動ができ,任意の性質を持つことができる,魔法の物質または「場」 (電場/磁場などの物理的な場だけでなく,力,相互作用,エネルギなどをすべて総称したもの) であると考える。そして,この魔法のParticlesに理想を実現してもらうように依頼し,彼らがどのようにやっているだろうかと考えて,それを「望ましい行動」の体系としてツリー状に書き出す。また,それらの行動に対し,持っているとよいと思われる「望ましい性質」を書き出していく。
導いた案の本質を考える
解決策生成の段階で使う5種のオペレーターとは,下記のようなものである(表)。
@ オブジェクトを「複数化」する
ここでいう「複数」とは英語的な概念で,1以外の数をすべて含む。例えば「0にする」「2, 3,…,∞にする」「1/2,1/3,…,1/∞にする」「0.9や1.1にする」ことなどがすべて含まれる。
A オブジェクトの属性を「次元的に変化」させる
各オブジェクトは多次元の属性を持っている。それらの属性を使う/使わないようにする。また,空間と時間の次元に関して属性を変化させる。
B 機能を再配置する
オブジェクト間および空間と時間とに関して,機能を再配置する。
C解決策の対を組み合わせる
機能的に,あるいは空間的,時間的に組み合わせて,矛盾を解決する解決策をつくる。
D解決策を一般化する
一般化してより多くの具体案を生成し,また体系化する。
USITオペレーターは,それぞれ簡明なガイドラインを持っている。例えば「(1c)オブジェクトの分割」では「現在のオブジェクトを複数の部分に分割し,分割した部分部分に少しずつ,互いに異なる変更を加えて,再統合して一緒に用いる」とアドバイスしている。この記述は,TRIZ発明原理の(1)分割,(2)分離,(3)局所的性質,(15)ダイナミック性,という四つをまとめ直したものである。
図3は,USITオペレーターを,先の「額縁掛けの問題」の「釘」に作用させた例である。釘を,2本にする,1/2ずつに分割する,滑らかさの属性を変える,滑らかさの属性を部分で変える,断面形状を変える,軸の形状を変える,などの操作を行っていることが読み取れる。
この例では,5種の方法のうち前出の2種しか使っていないと思われるかもしれない。しかし,そうとは限らない。例えば,k)の図に注目されたい。これは「釘の滑らかな部分でヒモを調節し,調節後に,釘の粗い部分にヒモを押し込み,そこでヒモを保持させる」というアイデアである。この解決策は,@ 釘を2部分に分割する
A 釘の属性を空間で変える
B 釘が持つヒモの調整機能と保持機能を分割して,釘の部分に再配置する
C 「滑らかで調節しやすくする」案と「粗くして保持しやすくする」案とを空間的に釘の2部分で組み合わせる
D 上記の2案を時間的に組み合わせる―というさまざまな考え方(USITオペレーター)で導出したといってもよいのである。USITが多数の案を導き出せるだけでなく,個々の案を導き出す多数の方法を持っていることが分かるだろう。
この説明にあるように,導いた案に対してその本質を考えるのは,USITの解決策一般化法の一つの応用といってよい。本質を考え,一般化することで,さらに多くの解決策が得られる。特に,上記の説明中の「調節しやすくする案」と「保持しやすくする案」とを「時間的に組み合わせる」ことが,この問題を解決する「核心」であることが分かれば,多数の解決策の善しあしを判断する重要な基準になり,よりよい解決策を見つけるきっかけになる。
問題分析で浮かんだ案から列挙
なお,USITの解決策生成の段階を具体的にどのように実施するかについては,やや不明確な点がある。USITオペレーターは5種32サブ解法あり,操作の対象も複数のオブジェクト,多数の属性,複数の機能,多数の中間解決策といった具合に多数存在する。「網羅的に作用させよ」というのが原則であっても,それだけの時間はない。
そこで,2日間のトレーニングでは次のように指導している。
@ 問題分析の段階で既に思い付いているアイデアを,まずできるだけ列挙する。アイデアは簡単な図やスケッチで示す。A 特に,Particles法で作った「望ましい行動」の体系図をベースにして,アイデアを発展させ「解決案の体系」として再構成することを考える。
B その後,機能分析や属性分析の図を手掛かりにして,USITオペレーターを意識的に作用させてみる。このとき,頻繁に使われるUSITオペレーターを優先させるとよい。
C アイデアが出そろってきたところで,各アイデアを「有効性,実現可能性,特許性/新規性」の観点から簡単にレビューし,重要と思われるものを選択する。
D 選択したアイデアを,解決策コンセプトとして練り,付随する問題点の克服を考え,さらにそのアイデアを強化することを考える。
このようなやり方で,2日間のトレーニングでは解決策コンセプトが各問題に3〜10件程度得られている。
TRIZ/USITの実践者やエキスパートになろうとする人たちに筆者が薦めるのは「TRIZの考え方をTRIZ教科書から学ぶ」「TRIZの知識ベースをTRIZ教科書やTRIZソフトツールなどを導入して活用する」「問題解決のプロセスとしては伝統的なTRIZではなくやさしいUSITを使う」ということである。USITの習得と実践は,伝統的なTRIZと比べてはるかに容易である。
(完)
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最終更新日 : 2005.10.26 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp