Darrell Mann のこの論文は、表記のようにTRIZ Journal
の2004年 7月号に掲載されたものである。私はちょうど『Matrix 2003』
の翻訳をしていたときであった。早速に著者の許可を得て、翻訳した。最初は訳書の最後部に追加することを計画していたが、訳書の頁数を増やすことは適当で
ないと判断し、訳書の出版に合わせて本ホームページに掲載することにした。いまようやく実現することになったが、翻訳してから
8ヶ月寝かせてしまう結果になったのは、実に惜しいことであった。
Darrell Mann, Simon Dewulf, Boris
Zlotin, Alla Zusman 共著: 『TRIZ 実践と効用 (2) 新版矛盾マトリックス (Matrix 2003)
(技術一般用)』, 中川 徹 訳, 創造開発イニシアチブ刊 (2005年4月)。 [==>
出版案
内と資料 (2005. 4. 5)

]
この論文は、アルトシュラーの古典的矛盾マトリックスと、Darrell Mann, Simon Dewulf, Boris Zlotin,
Alla Zusman
による新版矛盾マトリックス (Matirx 2003) とを、その「実際の有効性」に焦点を当てて、最新のデータを用いて比較検討したものである。
著者がこの論文の冒頭で書いているように、この種の検証は、本当は第三者がすると良かったことである。もちろん、それは世界の各地で行われたに違いない。
実際、日本でも、三菱総研の知識創造研究会創造手法分科会において、私自身も含めて約10人のグループで「新旧矛盾マトリックスの有効性の比較検証」とい
うテーマを取り上げて、1年間 (会合 5回)
の活動をした。しかし、どうしても片手間の仕事になり、本腰を入れて、真剣に研究計画を立てたものにはならなかった。その報告書とMann
のこの論文とは、雲泥の差がある。
Mann はこの論文で、『Matrix
2003』の著書を出版してから後に公表された米国特許のうち、彼自身が「すばらしい」と思った特許100件を広範な分野から選んで、検討のための基本
データにしている。CREAX社がインドに特許専門家25人を集めた研究所を持って『Matrix
2003』の作成のための仕事をしてきたのを私は知っていたから、恐らくそこでスクリーニングしたものをMannが使ったのではないかと思っていた。昨年
9月
に彼が来日したときに、確かめたら、「いや、全部自分で選んだ。選ぶセンスを他の人に任せるわけにいかない」と言った。修善寺での「知識創造シンポジウ
ム」の間も、Mann
は寸暇を惜しんで論文を書き、「夜の時間に最新特許を数件研究したよ」と言っていたことが思い出される。最先端の研究をリードする彼にとって、最新の特許
群が大事な研究の糧なのだと、思い知ったことであった。
Mannの研究の構想力の高さと、その実行力のすごさは驚くべきものである。本論文で彼がどのようにして、新旧のマトリックスの能力を比較したのかを、わ
れわれはよく学びとる必要がある。その比較検証を、再検証可能な形にしている点がすばらしいことである。彼が使ったデータのすべて、彼が判断したことのす
べてが、この論文に記録されている。私はまだ、その一つも実地の特許データに当たって、再検証していない。つくづくと彼我の差を思い知らされる。
Mannが比較検討したことの結論だけを書くと以下のようである。
- 『Matrix 2003』を出版した後の、2003年
7月以後に許諾・公開された米国特許をチェックし、優れていると考える特許100件を、広い分野に渡って選択した。
- 各特許の内容を分析し、扱っている問題の主要なものを技術的矛盾として同定し、古典的マトリックスが推奨する発明原理、新版マトリックスが推
奨する発明原理、そして発明者自身が適用したアイデアを表現する発明原理を明確にして、互いに比較した。
- 100件の特許で、発明者が適用した発明原理は延べ206件。(各特許に2件ずつ程度)
- 古典版矛盾マトリックスが推奨した発明原理のうち、発明者が使ったものと合致したのは 55個である。予測の正確さ
[推奨が当てはまる率] は 27% 弱 (55/206) といえる。
- 一方、新版矛盾マトリックスが推奨した発明原理のうち、発明者が使ったものと合致したのは198個であり、予測の正確さ
[推奨が当てはまる率] は 96% である。
- 古典的矛盾マトリックスが更新されたのは1973年までであり、当時の「機械」中心の世界で作られた矛盾マトリックスが、現在の科学技術の広
範な分野に対してはやはり適切に発明原理を推奨できていないといえる。ここに新版マトリックスを作った意義がある。
詳しくは、下記の PDFファイルを参照されたい。