TRIZフォーラム: | |
創造的な能力は どのようにして育て発展させるとよいのか? | |
中川 徹 (大阪学院大学)、2012年11月 8日 |
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発表の記述: 2012年12月9日 (和訳: 12月11日) |
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掲載: 2012. 12.12 |
English page will be posted in a week.
編集ノート (中川 徹、2012年12月10日)
本稿は、マレーシアでのTRIZ学会 (MyTRIZ 2012) でのパネル討論における中川の発言の記録です。学会については、中川の参加報告 を参照下さい。
このパネルは、表記のように創造性教育に関するもので、つぎのメンバでした。
コーディネータ・司会: Professor Rosni Abdullah (Univ. Science Malaysia)
パネリスト: Dr. Mark Barkan (MATRIZ (国際TRIZ協会) 会長、'Education for New Era'会長、米国)
Dr. Anatoly Guin (TRIZ マスター、 'Education for New Era' ロシア)
中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授)学会の1週間ほど前に 3つの (主な)質問が全パネリストに送られてきました。大きな、難しい問題でしたので、私はパネルの1-3日前に5枚のスライドを作って、発表に使いました。この発表を記述したのは、ずっと後で、英文が12月9日、和訳が本日です。
また、私は基調講演をしました。そのスライドを英文ページに掲載しました ( "Creative Problem-Solving Methodologies TRIZ/USIT: Overview of My 15 Years in Research, Education, and Promotion")。その内容は、今年の 3月に掲載しました論文およびスライドとかなり重複していますので、和訳をしません。
創造的な能力は どのようにして育て発展させるとよいのか?
中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授)、2012年11月 8日
皆さん、こんにちは。皆さんの活発なマレーシアTRIZ学会に招待されて、基調講演をし、またこの創造性教育に関するパネル討論でパネリストを努めさせていただき、まことに嬉しく思います。 今回のパネルでは、コーディネータから事前に 3つの質問が全員に知らされております。なかなかデリケートな質問で、特に3-5分で答えるのは至難のことです。そこで、私はあまり流暢にしゃべれませんから、私の考えをお伝えするために、5枚のスライドを作ってきました。 まず、3つの質問は、右のスライドに示したものです。 |
(質問1) 創造的な能力は どのようにして育て発展させるとよいのか?
この質問ではもともと、「イノベーティブな」能力という言葉を使っておりますが、私はむしろ「創造的な (クリエイティブな)」能力と言い換えたいと思います。因みに、私たちの日本TRIZシンポジウム2011の主題は『Creative Person, Innovative Organization!』(「創造する個人、変革する組織」)でした。
一人の人の「創造性」を議論する前に、「創造する力」とは、「創造性」×「継続的努力」で表されることを記憶しておきたいと思います (下図参照)。創造性や創造性の教育について議論するときに、われわれは往々にしてこの後者の「継続的努力」という因子を忘れてしまい勝ちです。ここで私は、「創造性」を、「なにか新しい、価値あるものを、自分で考え出す/作る ことができる (精神的) 能力」と規定しています。そしてその内容をこのスライドでさらに議論しています。
ここでは広い観点から議論をしたいと思いますので、もうあと二つの要素を、図の左端で言及しています。すなわち、どんな分野のどんなものでもよいこと、また、年齢は子どもから高齢者までどんな時期でもよいことです。そして、創造性の要素として、さまざまな形の態度、意志、能力、考え方、などを21項目リストアップしました。リストには二つの態度 (自分で考える態度と深く忍耐強く考える態度) とを書きました。意志としては、考えて、(困難を)克服し、なにか新しいものを創る意志を挙げています。新しいものや新しい価値を追求する意志もあります。理想と将来についてのビジョンを持つ能力も、創造性に関係しています。論理的に考える能力もありますし、新しいアイデアを得たり、直感的に洞察する能力も挙げています。また、実験をやってみて、何かを現実に作る能力も必要です。それは、他の人たちをリードしたり、あるいは協力したりする能力で支えられる必要があります。
-- これらすべてが、「創造性」の要素であると、私は思います。ですから、例えば、「常識では考えられないようなとっぴな新しいアイデアを沢山得る能力」というのは、創造的な才能の一つのタイプにすぎません。創造的であるには、新しく価値があるなにかを創ることができるには、もっとさまざまに違った多くのタイプがあります。
(質問2) あなたは、いつどのようにして、創造性科学に最初に興味を持ったのか?
私は、1997年5月に一つのセミナーで、たまたまTRIZに出会いました。それは、 米国のMITが東京で開いた1日セミナーで、研究委託などでサポートしてくれている日本企業にフィードバックするためのものでした。当時私は、富士通研究所で、MITを含むいくつかの海外の大学との国際協力を担当する研究管理支援のマネジャでした。MITの若い研究者で、Matz Nordlund博士がTRIZに関する2時間の紹介を話したのです。いくつかの (TRIZの) 教科書事例を紹介し、また、髪用の櫛の商品例を沢山持ってきて、技術システムの進化について分かりやすく説明してくれました。私はTRIZの重要性を認識して、その学習を始めました。 それはちょうど、日経BP と三菱総研とが、日本でTRIZの導入推進を開始した頃でした。そこで私は、アルトシュラーの本を英語で読み、三菱総研のセミナーに参加し、畑村教授を富士通研に招いて講演会をし、IM 社のソフトツールをフルに試用し、自分が講師になって富士通研でTRIZ紹介のセミナーをしたりしました。 その後、1998年4月に、大阪学院大学の情報科学分野の教授として移りました。私は、TRIZを主テーマとして、研究・教育・社会普及を行なうことを決心していました。三菱総研のIMユーザグループに集まっていた技術者たちと一緒にTRIZを学びました。1998年11月には、大学のWebサーバ上に『TRIZホームページ』を創設し、TRIZの普及に努めました。-- これ以後の私の活動はすべて、今回の基調講演でお話しております。(和文では 参照) |
さてそこで、私が1997年にTRIZに興味を持った背景について、お話しさせて下さい。
もともと私は、物理化学の研究者で、39才まで東京大学におりました。私は科学者としてのオーソドックスな教育と訓練を受けました。私は高分解能分子分光学の実験をし、コンピュータを使った解析で、単純な3原子分子の分子構造を精密に決定する研究をしました。化学教室在籍の最後の5年間に私が力を注いだのは、ボランティアの人たちでグループを作って、非線形最小二乗法によるデータ解析のための汎用プログラムを開発することでした。
その後、富士通に移り、国際情報社会科学研究所という基礎研究部門の情報科学の研究者になりました。1983-85年頃、私はソフトウェア品質管理の分野の仕事をしました。ソースプログラムの更新履歴を使ってソフトウェア開発プロジェクトの品質の診断をする研究でした。プロジェクトに出向いてインタビューしたり、ソフトウェア開発の事業部の人たちと一緒にソフトウェア品質管理運動に携わったり、という経験をしました。その後、徐々に、富士通の研究所での研究管理スタッフという立場になっていきました。研究所での特許作成の推進をし、海外の大学の研究者との国際交流関係を作る仕事などをしました。さまざまな研究プロジェクトの管理を支援する機会も多くありました。このようにして私は、さまざまな研究課題を学び、随分と広い範囲の知識をいくらかずつ身に付けたのですが、それと同時に自分の専門といったものをほとんど見失っていきました。そのような状況にあるときに私はTRIZに遭遇し、それを自分の研究テーマにしようと決心したのです。
このようにして、私のバックグランドには、科学 (化学と物理学)、実験 (化学実験と物理実験)、コンピュータ (ソフトウェア開発)、QC運動、特許推進、研究プロジェクトの管理、教育、などいくつもの面が備わったのです。これらすべてのバックグラウンドが、私の新しいライフワークとしてTRIZの研究を行なうことを支えてくれました。また、もう一つ言っておきたいことは、科学者・研究者となるためのオーソドックスな訓練、企業で働いた経験、そして教師としての経験が、私の思考スタイルの基礎になっており、TRIZのような「イノベーション科学」に興味を持つ土台になったのです。私はいま、私のすべてのキャリア、(分野を変わり、ときには迷い歩いたキャリア) が、TRIZの仕事をする支えになっていることを認識して、非常に幸せに思います。そして私はこれからも、名誉教授という立場で、TRIZの研究と教育と普及の仕事を、健康が許す限り続けていきたいと思っています。
(質問3) 教育システムが創造性を制限している大きな要素であるという意見がある。 構造化アプローチで教えることが、将来の創造的能力を制限していると思うか?
この質問に答えるのはデリケートです。
(1) 「教育システム」というのは、世界の国々でそれぞれ違います。それは公的な制度が違っているというだけでなく、いろいろな学校や先生たちや親たちの、実際のふるまいが多様に違っているのです。学校での教育は、生徒たちの創造性に、プラスの方向にもマイナスの方向にも、影響を持っているでしょう。第一近似でいえば、日本における学校教育は、特に大学入試を重視する現在の風潮において、生徒たちの創造性を抑圧している (伸ばすことを妨げている) と思います。他のいくつかの国では状況はもっとよいでしょう。最も重要な因子は、生徒たちに対する、学校や教師たちや親たちの態度であると思います。
(2) また、ここで言っている「構造化したアプローチの教育」がなにを意味し、その反対であろう「構造化していないアプローチの教育」がなにを意味しているかを、私はよく知っていません。膨大な知識を理解することができ、使えるようになるのは、それらが構造化されたとき (すなわち、分類され、体系化され、論理的に整理されたとき) だけです。分野ごとに分離した形で知識を教えることの限界や欠点については認識されており、なんらかの補助的な教育で補償することができます。
以下の2枚のスライドを使ってこれらの点をさらに議論しましょう。
下のスライドは、ETRIA TFC 2012 での私の発表からもってきたもので、一人の人がTRIZを学びマスターしていくモデルを示しています。子どもから学生へそして技術者へと成長していく過程で、沢山の非常に広範な科目を、学校とか大学で学んでいく必要があります (スライドの右部分)。知的好奇心が科学技術を一段一段と学んで行くための基礎であり、子ども時代の創造性もまたその基礎として知られています。しかしながら、日本の学校教育においては、教科書に記述されている「正しいこと」を学び、 (ときにはその理由や論理を理解しないままで) 記憶することが、大学入試のためとして強調されているために、創造性はむしろ抑制されているといえます。そのため日本では、大学生たちに最初に、主体的な生活態度や論理的な思考を身につけさせなければなりません。そして、卒業の前後になって、真理や理想や価値を追求するという研究者や技術者としての精神を訓練しないといけないのです。創造的思考の訓練や、(TRIZのような) 創造性技法の学習は、研究者や技術者になっていくそのような段階で適用可能になります。このモデルを大きく見ると、創造的思考の成長のためには、(日本において) 学校教育に欠点があることは明瞭です。大学や大学院や、一部の企業での教育が、 (特に、学術的、技術的、社会的な面で) 学生たちの創造性を訓練することに役立っています。
しかしながら、最も大事なことは、学校教育と大学教育との違いではありません。学校でも大学でも企業でも、教育のどんな機会でも、学生たちに創造性を教えることができ、また反対に創造性を抑圧することができるのです。下のスライドはこの点を詳細に論じています。教育の場では、生徒や学生が、なにか (新しいこと、予期しないこと、常套的なこと、馬鹿げたこと、エレガントなこと、など) を考えたり、作ったりする機会はさまざまにあります。そのような機会に、先生 (あるいは、親、同級生、近所の人、など) は、ポジティブにも、ネガティブにも (無視することを含めて) 応答することがあるでしょう。
このスライドには、学生/生徒たちのさまざまな思考・行動の機会を、特に (質問1) で議論した意味で創造的である/になることに関係したタイプのものを、リストアップしています。先生の対応を、ポジティブなもの (肯定する、YESという)と、ネガティブなもの (否定する、NOという) とに分けましょう。● 印は学校教育の場で学生/生徒の創造性を励ます典型的なケースを示し、◆ 印は創造性をくじく典型的なケースを示します。学生/生徒を創造的に (あるいは非創造的に) 教育するというのは、永年のさまざまな機会での、先生 (および親やその他の人たち) のポジティブおよびネガティブな対応を、すべて合算したものといえます。その合計の効果という意味で、学校教育では創造性に関してネガティブであり、(優れた) 大学教育ではポジティブであろうと、思われます。先生や親は、日常生活のさまざまな機会で、学生や子どもたちが創造的であるように励ますことが望まれるわけです。
「構造化した教育のアプローチ」の反対の教育アプローチについて私はあまりよく知りません。ただ、教育内容を構造化すること、例えば、カリキュラムを設定し、教える資料を準備すること、は望ましく必要なことだと私は思います。従来の構造化アプローチの教育に欠点があること、特に、興味を特定分野の狭い領域に限定させてしまうこと、が知られています。そこで、学生たちの関心を広げさせ、科学や技術や社会などの広い領域で一般的な知識と関心を持つようにさせる必要があります。学生の関心をどのようにして広げさせるかについて、私はもっと学びたいと思っています。
((質問2)のところで話しましたように、私自身は、一つの分野で科学者になった後に、工学分野での企業研究者に移らねばならなくなり、さらに技術の広い分野での研究管理スタッフに移らねばなりませんでした。この過程はもちろん私の関心領域を広げさせたわけですが、それには楽しいことも苦しいこともあった30年を必要としました。視野を広げるのにはもっと効果的/効率的なプロセスがあり得るでしょうが、人間は往々にして、自分の視野を広げるよりも、自分の分野での視野を深くすることを好む傾向にあるのが問題です。)
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最終更新日 : 2012.12.12 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp