TRIZフォーラム: 学会参加報告(17): |
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TRIZCON2007: Altshuller Institute 第9回TRIZ国際会議 2007年 4月23日〜 25日、ルイビル、ケンタッキー、米国 |
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中川 徹 (大阪学院大学) 2007年 6月28日 (英文) [掲載: 2007. 7. 3] |
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概要和文 (2007年 7月 2日) [掲載: 2007. 7. 3.] |
今回のAltshuller Institute 主催の TRIZCON2007国際会議には、日本からは産業能率大学の澤口 学氏、黒澤愼輔氏、児玉 哲氏の3人と小生の計 4人が参加した。学会の発表お よび論文集の論文の全体をレ ビューして、詳細な学会報告を英文ページに掲載する。和文ではその簡単な概要だけをここに報告する。
会議名称: TRIZCON2007: Altshuller Institute 第9回TRIZ国際会議
日時: 2007年 4月23日(月)〜 25日(水)
会場: 米国ケンタッキー州、ルイビル市 (Louisville Marriott Downtown, Louisville, Kentucky, USA)
主催: アルトシュラー協会 (Altshuller Institute for TRIZ Studies) Web site: http://www.aitriz.org/
スポンサー: GOAL/QPC
参加者: 約 70 人
プログラム概要:
4月 23日 (月) Tutorial (入門向け、アドバンスド の 2 コース)
4月 24日 (火) 〜25日 (水) シンポジウム (基調講演と発表 (2会場並行) + Workshop 1件)
論文集は CD-ROM 版が全員に、印刷版は別途購入。発表申込みのアブストラクトで受理されたもの 30編、Proceedings に掲載されたもの 22編。実際の発表はこのProceedings と少しの出入りがある (基調講演 2件 不掲載、Proceeding 掲載で発表されなかったもの2件、不掲載で発表されたもの 3件) (Tutorial はProceedings には掲載されていない)。
各論文の詳細なレビューは、英文の報告を参照されたい。主要なものを以下に特記する。
(1) 基調講演は 2件。
- 第一は Professor Tom Johnson (Portland State Univ.) で、トヨタ生産システムの考え方を紹介 (ただし、1990年代の事例)。
- 第二は Alla Nesterenko (ロシア) で、小学校〜高等学校でのTRIZベースの創造性教育についてロシアとベラルーシの実践と方法を述べた。米国で同様の教育を試みようとして、研究費のプロポーザルをAltshuller Institute がカーネギー財団に申請する計画を進めている。
(2) TRIZの方法論自体の拡張・発展についての発表には下記のものがあった。
- Boris Zlotin & Alla Zusman (米国): Directed Evolution。20世紀にロングランしたいくつかの名製品 (Consummate Products) の特徴を考察した。その結果はいわゆる「教科書どおり」の設計法というべきだが、ポイントは「中核部の理想像を描き、それを実体化するために周りを構成していく」という考え方。
- Hyman Duan ら (IWINT、中国): TRIZのソフトツールを長期間かけて開発しており、知識の蓄積に、オントロジーをベースにして構成していこうとしている。随分発展してきていると感じた。
- 澤口 学 (産能大、日本): リスク管理にTRIZの破壊分析の考え方 (逆に攻撃のしかたを考える) を導入する。IT 分野での応用を述べる。
- Sergey Malkin ら (PretiumConsulting、米国): TRIZをよりやさしく教えるための工夫として、いろいろ単純化のための方法をもりこんだTRIZソフトツールを開発している。矛盾のわかりやすい図式表現、40の発明原理の再整理、機能の繋がりで表現した機能分析など。TRIZをやさしくする努力がよく見られる。今後注目したい。
(3) TRIZの技術的応用については、優れた発表があった。
- Gunter Ladewig ら(PRIMA Performance、カナダ): 「被覆ワイヤによるワイヤボンディング法の革新」 (「Microbonds」)。現在半導体チップを基板に接続するには、チップ周縁に相互に接触しないようにワイヤボンディングを行っている。あるいは、ハンダボールを並べた、Area Array Flip Chip 法がある。TRIZの進化のトレンドでいえば、「点 → 直線・曲線→ 2次元の直線・曲線 → 3次元の直線・曲線」のトレンドにおいて、2次元での展開を十分しないまま、3次元に進もうとしているといえる。ワイヤを厚さ1ミクロンで絶縁し、高い密度で、接触可能で、自由な配線のワイヤボンディング法を確立した(2次元の曲線に対応)。従来のワイヤボンディング装置で使える。この開発にTRIZの原理が指針となり、多数の矛盾を解決して技術を作った。この技術は、近い将来、半導体技術分野全体に非常に大きな連鎖的効果 (Super Effects) をもたらすと考えられている。-- TRIZが導いたすばらしい技術開発事例である。
- Shinhoo Choi ら (LS Cable、韓国): 電解法による銅フォイルの製造過程での技術改良。チタンドラムの研磨・洗浄においてドラムの端が磨耗する問題の分析と解決。TRIZによる分析と解決の事例を丁寧に述べていて、分かりやすい。
- Tzu-Chang Chen (Taiwan Textile Research Inst.、台湾): 特許および特許ポートフォリオの分析・評価方法。機能性繊維 (電気ヒータ内蔵繊維) を例にして、特許 (群) の分析・評価法を述べる。通常の知財分野での分析法に加えて、TRIZでの機能分析、トリミング法などを駆使し、体系的に特許のアイデアを知ると共に、代替アイデアを網羅することにより、特許を強化したり破ったりすることができる。実績に基づいた地道でしっかりした優れた研究発表である。
(4) 非技術分野、一般的な分野へのTRIZの応用について、つぎのような発表が注目される。
- Cristobal Peran Estepa (De Valck Consultants、スペイン) ら: グローバル組織の管理・サービスセンタを移転させる問題へのTRIZの適用。年中無休、24時間稼働の大規模サービス施設 (例えば、80余の異なるITシステムが統合的に用いられている) を移転させるための、移転計画の立案・実行を担当した。このような移転には、計画外・想定外のことがいろいろと起こることが多い。それらはどんなに計画しても、計画しきれないのだとして、それでも柔軟に実行できるやり方を考えた。すなわち、計画をいつでも臨機応変に変えられるようなような、シーケンスジェネレータを簡易に作成し、リアルタイムで調整しながら大規模移転を実施・成功させた。--発想の切り換えが面白い。
(5) TRIZによる教育関係:
- Paul Filmore (Univ. of Plymouth、英国): TRIZによる創造性教育。心理的惰性を破るための教育の工夫。
- 中川 徹 (大阪学院大、日本): 創造的問題解決のため思考法について、教育実践を報告。大学2年生への講義、3年生のゼミと 4年生の卒業研究。教育の内容とその実績 (身近な問題でのTRIZ適用事例など) を報告した。
(6) 全般的な印象と動向:
- 米国のTRIZCON はこの数年、数字として顕れていることに、投稿論文数の減少、発表数の減少、参加者数の減少などの傾向がある (これは昨年、Altshuller Instituteの年会で中川が発言し、この学会報告でも述べた [中川は同協会の終身会員である])。問題は、米国のユーザ企業からの推進活動、適用方法、TRIZ自身の改良、適用事例などが発表されないこと、また大学関係者のTRIZ研究 (TRIZ教育ではなく) が積極的でないこと、米国のTRIZリーダたち (大部分はコンサルタント、またロシア出身者たちが主導) の意識や行動がばらばらであること、などである。
- なお、これに比較すると、欧州は (各国でみると問題点もあるが) ETRIA国際会議に求心力がある。また、アジア諸国でのTRIZが根付きつつある (今回のTRIZCON2007でも、日本、韓国、中国、台湾、インドなどがらそれぞれによい発表があった)。
- 日本は、米国の轍を踏まないようにしていきたい。そのためにも「第3回TRIZシンポジウム」で、企業および大学などから積極的な発表があり、多数の人たちが参加して議論していただきたいと思う。
TRIZCON2007から帰国後、第3回TRIZシンポジウムの準備など、いろいろな仕事があり、なかなかTRIZCON の参加報告を書く時間が取れなかった。ぎりぎりの時間的隙間で、約3週間かけて論文読みと報告執筆をした。一つ一つの論文を読み、自分の責任でその理解を文章にしていく中で、いくつもの優れた発表があったことを改めて知った。詳細は英文のままだが、日本の皆さんにもぜひ読んでみていただきたいと思う。
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最終更新日 : 2007. 7. 3. 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp