今回のTRIZCON2006は日本からの参加は産能大の児玉 哲氏・黒澤愼輔氏・竹村政哉氏と小生の4人であった。学会の発表お よび論文集の論文の重要と考えるものをレ ビューして, 詳細な学会報告を英文ページに掲載する。和文ではその簡単な概要だけをここに報告する。
[追記: 2006. 7. 5 (中川 徹)] 特に (日本のTRIZユーザにとって) 重要と判断した Valery Krasnoslobodtsevの論文について、中川の英文解説を和訳して追記した。]
会議名称:
TRIZCON2006: The 8th Annual Altshuller Institute for TRIZ Studies
Conference
(TRIZCON2006: Altshuller Institute 第 8回TRIZ国際会議)
日時:
2006年 4月30日〜 5月 2日
会場: ミルウォーキー,
米国 (Holiday Inn - Milwaukee City Center, Milwaukee, Wisconsin, USA)
主催: The Altshuller Institute for TRIZ Studies
Web site: http://www.aitriz.org/
並行同時開催: アメリカ品質学会 (American Society for Quality (ASQ))
参加者: 約 80 人 (+ ASQ 参加者のTRIZCON 一部参加 約50人)
プログラム概要:
4月30日
(日)
Tutorial (入門向け, 高度なもの, および関連する他の創造性技法、の 3コース)
5月 1日(月) 〜2日 (火) シンポジウム (招待講演と発表
(2会場並行 + ワークショップ が並行))
(1) 基調報告: Tatiyana Sidorchuk (ロシア): ロシアにおける幼稚園・小学校低学年段階でのTRIZベースの創造性教育を紹介。ロシアをはじめ旧ソ連圏では、この年齢層に対する教育でTRIZベースのやり方の有効性 (特に、子供たちの理解・成長の高度さ) が広く実証され、認識されている。英文での本『Thoughtivity for Kids』がPre-Publication 版で出た。アニメ教材もすばらしい。William Brown (Eli Whitney Museum館長)も子供の創造性教育の話 (面白かったが、ノートできていない)。
(2) TRIZの方法の進展: Darrell Mann: 新製品開発において、「顧客の声」だけでなく、「製品、製法、販売、制御のそれぞれの声」を統合して考えることを薦め、その枠組みを示した。Boris Zlotin & Alla Zusman: 「進化のパターン」に関する考察の最新の体系を示した。進化の「パターン」、「ライン」、「トレンド」の定義。「進化のパターン」は、「世界」の階層性にによって、階層化されていると考える。宇宙の進化、生物の進化、人間の文明の進化、人工物の進化、発見と発明、が主要な5階層を成すとし、上位の階層の進化が下位の階層の進化を大きく導くと考える。これが、技術の進化の方向を与える原動力であるとする。大きな思想を表現した「進化のパターン」の体系 (その一部だけ) を述べた、大作である。
(3) 技術的な応用事例: アジアからの (アジアでの成果の) 発表によいものが多かった。Yeoh (マレーシア): 半導体の静電気対策のTRIZによるレビュー。Hyman Duan ら (中国): ディーゼルエンジンの潤滑系の改良事例、TRIZソフトツールの開発。中川 徹: USIT適用事例 (忘れもの防止)。Jack Hipple (米): 消費者製品におけるTRIZの種々の適用。
(4) 企業におけるTRIZの推進: Valery Krasnoslobodtsev (米): サムスン電子での推進の経験をきちんと整理して述べた。推進のキーポイントをいくつも述べている。Seunghee Suh ら (韓国): サムスン SEMCO における問題解決ワークショップ (2日間、実問題解決) のやり方を述べ、実効があったという。
(5) TRIZ教育: 大学レベルでのTRIZ教育の事例: Guillermo Cortes Robles他 (仏): Toulouse の大学での、e-Learningと講義、プロジェクト演習を組み合わせた教育 (約50時間 (?))。フランスは着実に進んでいるようだ。他に、英国、米国の事例発表あるも、まだまだ短時間の教育しかできていない。今回のTRIZCONで、「Education Workshop」があり、大学レベル、そしてずっと下の学年のレベルでのTRIZ教育を推進することが、話しあわれた。
(6) 他: 米国でTRIZを実地の技術問題に活用しているという、いきいきした報告がない。企業がその実績をほとんど報告していない。このため、TRIZCONの魅力が低下してきている。欧州、日本、韓国はずっと元気で、盛り上がりつつあると感じるのに。米国内のTRIZの進め方に大きな問題があるように思う。
[追記 (2006. 7. 5 中川 徹): 以下に、日本のTRIZユーザにとって特に重要と考える Valery Krasnoslobodtsev らの論文について、中川の英文解説を和訳して示す。この論文の全文和訳もできれば掲載したいと考えている。]
(D) 企業におけるTRIZの推進
Valery Krasnoslobodtsev and Richard Langevin (Technical Innovation Center Inc., USA) [10] が、「ハイテク企業におけるTRIZの適用」という題で発表した。これは彼らの一連の貴重な発表の第4番目 (あるいは第5番目?) のものであり、「企業にTRIZをどのようにして導入するとよいか?」、「TRIZ (特に、ARIZを少し簡易にした形式のもの) を企業の実地の問題にどのように適用していくとよいか?」を、シリーズで論じている。本論文で、バレリー・クラスノスロボーツェフは、TRIZ を推進していく方法について広い範囲の問題を論じていて、それは世界をリードするハイテク企業、すなわち、韓国のサムスン電子での彼の経験に基づいている。彼はこの論文で、いくつかの重要な質問を提起し、それらに答えている。その一部は (中川が要約すると) 以下のようである。
Q: TRIZを展開する上で最も大きな困難や障害は何か? それらをどのようにして克服したのか?
A: TRIZの方法論をよく知らないところから来る「TRIZに対する不信」であった。それを克服した最善の方法は、実地のプロジェクトでTRIZを使ってすばらしい結果を出すことであった。ロシアから来た経験豊かなTRIZ専門家たちが参加して、また、コーチをして、そのような成果を達成した。
Q. 大企業に技術革新の方法を植えつけるために、鍵になる要件は何か?
A: サムスンにおいてTRIZは、トップレベルのさまざまなCEOたちによって導入された。その結果、サムスン電子でTRIZは、好意的に、速やかに、また非常に熱烈に受容されていった。創造的なスキルを持った経験豊かな技術者たちがいることが、TRIZを (彼らに) 植えつけるのを成功させるもう一つの鍵である。さらに、TRIZに関わる人々を繋ぐ技術革新ネットワーク (組織) を適切に構成することが、大企業にとってはもう一つの鍵である。
Q: マーケティングや顧客のニーズに適合するように、TRIZの利用を (他手法と) 統合していくにはどうすべきか?
A: ハイテク企業においてはTRIZは他の諸手法と連携して利用されている。サムスンにおいては、シックスシグマがよく知られており、トップ経営者たちがそれを完全に支持している。3年ほど前に、シックスシグマの人たちが、「シックスシグマのプロセスの弱点をTRIZが補うことができる」ことを理解し始めた。シックスシグマは問題の主要な要因を効率的に見つけ出すが、多くの問題で「どうしたらよいか?」に答えることができない。TRIZはそれに答えを出し、さらに矛盾の克服に進む。いまや、(サムスンの) 多くの人々は、シックスシグマを補うのにTRIZが必要であることを、理解するに至った。
Q: TRIZの導入の期間を短縮して、もっと速くにリターンを得るにはどうすればよいか?
A: TRIZの知識を各個人さらに会社全体に提供するために、短期の教育コースと長期の教育コースの両方を提供する必要がある。2日間と5日間のプログラムが短期教育としてあり、それらは、鍵となるマネジャたちや技術者たちがTRIZの基本的なことを知るように設計してある。長期トレーニングは 3〜10ヶ月間かかる。つぎの表が、3段階のトレーニング・プログラムを示していて、それぞれ、徒弟、実践者、および専門家のレベルにするものである。その目標は、組織内に強力なTRIZチームをつくり出すことであり、TRIZチームは会社の諸問題を解決することができ、必要に応じて人々をトレーニングしつづけていくことができるようでなければならない。
Q: 研究、製品設計、技術開発、製造、などに対して、TRIZをどのように方向づけるべきか? TRIZをどのように適用するとよいか?
A: つぎの図がTRIZの問題解決プロセスのロードマップを示している。上段に示した 6つの方向にTRIZを適用できるが、それらの中で問題を 3類型に分類できる。その分類は、核となる問題の定式化の容易さと使うべきTRIZのツール (技法) のタイプで分けたものである。革新的なコンセプトを複数導き出した後に、図の下段に示すように 3つの主判断基準を使って、それらの解決策を評価するべきである。
このTRIZロードマップを適用する方法は、非接触式印刷機でのトナー粒子の散乱の問題に関して詳しく例示されている。-- しかしこの学会参加報告ではこの記述を割愛する。原論文を読むか、あるいは著者たちが以前の国際会議などで発表した同様な事例研究を参照されるとよい。
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最終更新日 : 2006. 7. 5. 連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp