TRIZフォーラム
 
翻訳のノウハウ:
   詳細資料: 翻訳推敲例 (その1)
  中川  徹 (大阪学院大学)  2004年6月30日
     [掲載: 2004. 6.30]
For going back to the English page, press:

 
本ページは MannのTRIZ教科書『Hands-On Systematic Innovation』を翻訳出版したプロジェクトにおける、翻訳のノウハウの詳細資料をまとめたものです。より全体的なことはつぎの親ページを参照下さ い。

    
Mann のTRIZ教科書『TRIZ  実践と効用 (1) 体系的技術革新』 の出版案内と資料    [2004. 6.30掲載]
     翻 訳とデスクトップパブリッシングのノウハウ  (中川 徹)   [2004. 6.30掲載]


   このページには実際の翻訳推敲例とその説明を具体的に記述しています。順序は実際の試訳と推敲を行った順番であるため、章の順番はばらばらです。段落ごと につぎの5種のテキストを組にしており, それぞれフォントの色を替えて区別しています。

    (a)  原文    (黒字):   Darrell Mann の英語の原文。
    (b)  初期試訳 (黒字):   知識創造研究グループの担当メンバ   (2002年11月〜2003年 2月)

    (c)  推敲訳 (青字):   中川  徹   (2002年11月〜2003年2月)
    (d)  推敲意図の説明 (緑字):   中川  徹  (2002年11月〜2003年2月)。 上記 (b) を (c) に推敲した意図の説明。
    (e)  最終稿 (茶色字):  中川  徹  (2004年4月〜5月)  




19.

Problem Solving:

Psychological Inertia Tools

問題解決:

心理的惰性ツール

19

問題解決ツール − 心理的惰性の打破

There are six people in the world. Five of them are hamburgers.

Captain Beefheart

世の中には6種類の人間がいる。そのうち 五つはハンバーガーである。

キャプテン  ビーフハート

[戯画的な文章から の引用だと思います。苦肉の訳ですが, できるだけ単純に 訳しました。]

世界には6種類の人々がいる。そのうちの五つはハンバーガ [臆病者たち] だ。

キャプテン・ビーフハート

Introduction 導入

The psychological inertia breaking tools contained in TRIZ are used in two main scenarios. The first involve situations where we are having difficulty solving a problem; perhaps a situation in which we have passed through the ‘generate solutions’ part of the process and have not generated anything that looks like an answer. The second involves use of one or more of the PI tools specifically as a problem solving tool because they fit into our particular way of doing things. Generally speaking, the first scenario is the only one in which the overall systematic creativity process will direct you to this chapter.

TRIZに含まれている*1心理的惰性を打破するツール2は、2つの主要なシナリオの中で用いられます3。一番目4は、問題を解決する事に困難な状況を含んでいる;5恐らく6私たちが7‘解決案生成’プロセスの一部8で経験した状況、そして9答えのようなものを何も出せなかった状況です。二番目は、PIツール(*訳 注:心理的惰性ツール*10)が物事を行う特別の方法*12に適する為13、特に問題解決ツールとして一つ以上11の使用を含んでいます。概して言うと、一番目のシナリオは、全面的なシステマティック な創造性プロセス14があなたを本章に導く唯一のもの*15です。

心 理的惰性を打破するTRIZの*1ツール群2は、2つの主要なシナリオで用いる3。その第一4は、問題を解決するのが困難になっている状況に関連する。5恐らく、6われわれが7すでにプロセス中の‘解決案生成’段階8を通り過ぎたのに9, 答えらしいものを何も作り出せなかった状況であろう。第二 は、心理的惰性ツール(PIツール)*10の一つまたはいくつか11を、いま特にやりたいこと*12に適しているという理由で*13、特に選んで問題解決ツールとして用いる場合である。一般 的に言うと、体系的創造性プロセスの全体14があなたを本章に導くのは,第一のシナリオだけ*15であろう。

[推敲意図の説明] 

*1  「TRIZに含 まれている」のが, 心理的惰性であるという誤解を未然に避けるために, 位置を変えて分かりやすくした。

2  tools」が複数であることを訳出しておきたかった。「ツールた ち」と訳すことも考えられなくはないがどうしても日本語的でない。少し強くなり過ぎるが, ここでは「ツール群」とした。

3  「用いられま す」を, (1) 「です・ます調」か ら「である調」に変えた。これは今後一貫してください。  (2) 受動態から能動態に変えた。わ れわれがこのツール群を「用いる」。主語の「われわれ」を日本語では普通省略する。

4  「一番目, 二番目」の代わりに「第一, 第二」

5  セミコロン「; は日本文では用いないことにしたい。すべて「。」で済ま せる。このとき, すぐ後ろの文に思考が続いているように, 思考がとぎれないように, 訳出に注意したい。

6  ここの「恐ら く」は文全体に掛かっていて, 文の最後の「であろう」と結びつくので, 「、」を入れた。

7  「私たち」は 「です・ます調」に対応するので, 「である調」にした「われわれ」を使う。漢字「我々」は 使わない。

8  ここで, process」は(問題定義から始まる) 問題解決プロセス全体を言っており, the 'generate solution' part」はその「解決策を生 成する」部分 (すなわち段階) を意味する。Mannの文章にはここのように '  ' で括った 挿入句が一つの名称のようにして使われていることが多い。

9  ここの「and は二つの状況が並立していることを示しているが, 順接の「そして」よりも, 逆接の「...のに」と訳すと分かりやすい。

*10  初訳で「PI ツール」に訳注をつけているのはよい配慮だと思う。ただ, 将来日本で「PIツール」という単語を普及させるのはやはり難しい (何のことか分からない) だろうと思う。そこで, 本書の訳としては (少し冗長でも) 「心理的惰性ツール」 で統一したい。原書では PI  tool」と書いているので, この初出のところで (PI ツール)」と書いて原書と繋がりをつけておく。

11  one or more」は, 「一つ以上」と訳すとよい場合もありますが, ここでは, or more」は付け足しの感じであり, まず「一つ」といってから「あるいはもっといくつか」と いっているように感じます。そこで, 「一つまたはいくつか」と訳しました。

12  our particular way of doing things は、「ものごとをする上でのわれわれの特別の (独自の) やり方」 といった感じですが, 口語的でなかなか訳しづらい表現です。口語的な表現の部 分は直訳よりも意訳の方が的確な訳になるでしょう。

13  because がどこに掛かるのかが分かるようにしました。「use ... specifically because ...」というのが, この文の主要な構造です。

14  overall systematic creativity process:  「システマティック」という訳語は使わず, すべて「体系的」に統一したい。「systematic creativity process」は 「体系的創造性プロセス」とする。ここのoverall, プロセス全体という意味で, 「全体的なプロセス」と訳す代わりに「プロセス()全体」と訳した。(修飾語の順序は普通は入れ替えないが) このように修飾語の順序を入れ替えて表現する方が自然な 場合がある。

15  the only one in which ...: 訳す語順が難しい。上記の推敲版で意味が明確にできる。
 

心理的惰性を打破するTRIZの ツール群は、二つの主要なシナリオで用いる。その第 一は、問題解決が暗礁に乗り上げている状況に関連する。おそらく、体系的創造性のプロセス中の「解決策を生成する」段階をすでに 通り過ぎたのに、答えらしいものを何も作り出せなかったという状況であろう。第二は、心理的惰性打破ツール (PIツール) のどれかを、特に適していると考えて問題解決ツールに選んで用いる場合である。一般的に言うと、[本書の] 「体系的創造性プロセス」が全体としてあなたを本章に導くのは、第一のシナリオだけであろう [第9章参照]。


In either scenario, the basic underlying idea behind the tools is that our brains are somehow ‘blocked’, and that we need a something to give us a jolt. In the problem solving as ‘digging for treasure in a field’ analogy, the psychological inertia tools are there to help us make a systematic shift to another part of the field. More than this, the tools are hopefully going to send us to a part of the field in which the probability of finding new or better treasure is high.

もう一方の*1シ ナリオでは、ツールの背後の2基本的、根本的なアイデアが私たちの脳をともかく‘妨害する’のです。そして、私たち はショックを与える3何かを必要とするという事4です。‘野原で宝を探して掘る’に類似した問題解決に於いて、心理的惰性ツールは私た ちを野原の別の部分にシステマティックに移すのを助ける為に5あります。このこと以上に、ツールは有望に8、新しい又は、より良い宝の発見の6可能性が高い7野原の一部に私たちを送るでしょう。

どちらの*1シナリオでも、ツールの背後にある2基本的なアイデアは、われわれの脳がどういうわけか「ブ ロックされてしまう」、そこで、われわれを揺さぶる3何かを必要とする、ということ4である。問題解決を「野原で宝を探して掘る」のに類比する と、われわれが野原の別の場所に体系的に移動するのを助けるのが*5心理的惰性ツールである。それ以上に、新しいあるいはより 良い宝を発見する6可能性が高いような7野原の場所に、ツールがわれわれを送るだろうと期待されて いる8

[推敲意図の説明] 

*1  either:  ここの either any と同じです。複数 (多数) だとany とするのですが, ここではシナリオが全部で二つだと分かっているので, eitherを使っています。

2  ............」と形容詞 () が続くことをできるだけ避けて下さい。それには, 動詞が形容詞化 (あるいは名詞化) されている部分を見つけて, そこを動詞の連体形で表現するのが適切です。

3  「ショックを与 える」でもよいのですが, jolt」の原義を活かして, 「揺さぶる」としました。その方がニュアンスが出て, 言葉の広がりがあると思います。いつも同じ語彙でないよ うに。

4  ...する事」, ...する物」, ...する時」などの「事・物・時」は本来の意味より弱くなっ ていて (「補助名詞」ということがあ ります) , ...すること」, ...するとき」, ...するもの」 とひらがなで表現します。

5  ...する為にある」も ... するためにある」と書きます。ただ, ここでは, ...するのが, ....である」と訳しました。

6  上記の  2  と同じ。

7  ここの ... が高い野原」では, ...が高い」というのが長い節になっているので, それをわかりやすくするために「ような」を挿入して, ...が高いような野原」としました。

8  hopefully」は、「期待しているようにうまくいけば」といったニュ アンスですが, 副詞で表現するのは難しいので, 文全体を受けて ...が期待されている」と訳しています。

どちらのシナリオでもこのツール の背後にある基本的なアイデアは、われわれの脳はどういうわけか「ブロックされてしまう」、そこで、われわれの脳を 「揺さぶる何か」を必要とするということである。問 題解決を「宝を探して野原を掘る」に譬えたとき [3.3節参照]、われわれが野原の別の場所に体系的に移動するのを助けることが心理的惰性打破ツールの存在意義である。それ以上に、新しいあるいはより 良い宝を発見する可能性が高いような野原の場所に送ってくれることが、このツールに期待されている。



21.

Solution Evaluation

解答評価

解決策の評価

21

解決 策を評価する

 

“The wrong answers are the ones you go looking for when the right answer is staring you in the face”

Eeyore’s Little Book of Gloom

正しい答えがあなたの目前に迫ったとき、間違った答 えを、あなたはみつけられる

Gloom Eeyore’s Little Book から

『間違った答はあなたが探し 回っているものだ、正しい答があなたの顔をまじまじと見ているのに』

イーヨーの悲しみの小冊子

間違った答はあなたが探し回っているものだ、正しい答があなたの顔をまじまじと見ているのに。」

『イーヨーの悲しみの小冊子』より

Or

あるいは

“I beseech you, in the bowels of Christ, think it possible you may be mistaken”

Oliver Cromwell

誤っているかもしれ ないことがありうると思うことを考えて欲しい

Oliver Cromwell

『あなたが間違っていること があり得ることを考えて欲しい、切に、切に、』

Oliver Cromwell

「あなたが間違っていることがあり得ることを考えて欲しい、切に、切に、...

オリバー・クロムウェル

The final part of the systematic creativity process is the one associated with evaluating the solutions obtained during the previous stage. In most regards, the tools we will use to achieve this evaluation function effectively will come from outside TRIZ. There are really two tasks to be conducted at this part of the process; the first to identify a ‘best’ solution from within a range of pre-determined options; and the second to identify whether this solution is ‘good enough’ to be considered as a final solution. The chapter will examine these two activities separately. In the case of the first – ‘best’ selection – we will examine two forms of a technique known variously as forced decision making or multi-criteria decision analysis or simply decision analysis. The two forms represent ‘simplest’ and ‘most accurate’ capabilities. The second activity under consideration – ‘good enough?’ – gets us closer to TRIZ (although we will also look briefly at other tools) – firstly through the general TRIZ suggestion that we should always consider ‘going around the loop’ again, and secondly through a series of strategies we can use to help us focus the content of such a loop to best effect.

系統的な創造性プロセスの最終部 分は、前のステージで得られた解決策の評価に関連した部分である。ほとんどの場合2、実際上1、この評価機能を達成するために私たちが使用するツールは、TRIZ以外 の手法から出てくる。実際には、このプロセスで2つのタスク3を行なわなければならない;初めに、一連に前もって定義したオプ ションの内部から「最高」の解決を見分ける4。そして、次に、この解決が、最終の解決方法として「十分によい」ものであるかどうか見 分ける5ことである。この章では、2つの活動を別々に検証する6ことである。第一ステップ 7 (「最良 の」選択)では、緊急の意志決定か多重基準決定分析あるいは単らる意思決定解析として知られている 様々な方法8から2つの形式を検証する。2つの形式は、「最も単純」また「最も正 確な」能力9を意味している。考慮中10の第二のステップ(「十分によい」か?) では、TRIZ(他のツールを一時的に使うかもしれない が)に近づくでしょう。先ず第一に一般的なTRIZから の提案(何時もループの中で探している11)。そして、第二に、一連の戦略をとおして(最良の効果をもたらすループを見つけ出すため)。

体系 的創造性プロセスの最終段階は、前の段階で得た解決策たちを評価することに関連している。この評価機能を効果的に1達成するためにわれわれが使用するツールは、ほとんどの場合2TRIZの外から来ている。この段階で実際には、2つの活動3を行う必要がある。第一は、前もって決定した一群の選択肢の 中から「最良」の解決策一つを選定する4こと。そして、第二は、この 解決策が、最終の解決策とみなして「十分によい」かどうかを判定する5こと。本章では、これら2つの活動を別々に検討する6第一の活動7 (「最良」の選定)では、強制意思決定、多基準意思決定分析、あるいは単に意思 決定分析などさまざまな名前で呼ばれている一つの方法8の中の2つの形式を検討する。2つの形式は、「最も単純な」方法9と「最も正確な」方法を表す。検討する10第二の活動 (「十分によいか?」) ではTRIZ により近くなる (他のツールも簡単に扱う)。第一に、もう一度「ループを回る」ことをいつも考えてみる べきだ11というTRIZの一般的な助言。そして第二に、そのようなループの中身が最良の効果を持つよ うに焦点を絞るのを助ける一連の戦 略を使う。

[推敲意図の説明] 

*1  ここの「effectively」は前の「achieve」に掛かっている。どの動詞に掛かっているのかを読み取 ることはやはり非常に大事。

2  この「in most regards」のように, 文頭の副詞 (または副詞句) が文全体に掛かる (文の主たる述語動詞に掛かる) ことが多い。文を「できるだけもとの語順に従って訳す」 のが原則であるけれども, 文頭の副詞と文の末尾に来る主たる述語動詞との距離が遠 くなると, どうしても読みにくくなる。そ こで, 推敲訳のように文頭の副詞を後 ろに入れる方がよい場合がある。

3  原文はここでは 「task」と言っているので, 素直には「タスク」と訳するでよい。しかし, このパラグラフ内で, その後同じことを「activities」と呼んでいて, taskの語が出てこない。そこで, 分かりやすさのために, activities」の訳の「活動」をここに当てた。

4  5  原文は「identify」。「同定する」と訳されることが多いのが, なかなかぴったりしない語である。ここでは, 複数の中から「最良」のものを決める場合を「選定する」 と訳し, 一つのものが「十分よいか?」を決める場合を「判定する」と訳した。

6  原文「examine」も訳しにくい。「検証する」は 術語「validate があるので, ここでは使わない方がよい。「調べる」「試す」「吟味す る」「検討する」などの中から, ここでは「検討する」を選んだ。本当はもう少し強い意味 がよいが)

7  ここで, 「ステップ」とせず「活動」としたのは, 3 とも関連して, 同じことを言っているのをはっきりさせる意図である (原文は少し曖昧に言っている)。また, 「ステップ」は, つぎつぎにやることを含意しており, ここでは必ずしも「シーケンシャルにやる」ことを意図し ていないと考えるので, 「ステップ」の語を避けた。

8  ここに出てくる 解法名 3種が, 名前は違うけれども実は同じ一つの方法なんだというのが, 著者が言っていることである。このような観点が本書の洞 察の深いところであり, 適切に訳出しておきたい。

9  原文「capabilities」。「能力」だけではなく, 「やれるやり方」といった感じ。「方法」と訳したが, もう少しよい訳があるかもしれない。

*10  原文で, 前には「examine」と言っていたのをここでは「consider」と言っている。先に「検討する」と訳したので, ここでもそれを使った。

11  この辺り, 正確に訳さないと意味がわからなくなってしまう。安易な 意訳に走らないようにしたい。

   「体系的創造性プロセス」の最終段階は、前の段階で得た解決策を評価することである。この評価を効果的に行うために使うツールのほとんどは、TRIZ以外から 来ている。プロセスのこの段階では、実は二つの活動を行う必要がある。第一は、前もって決定した一群の選択肢の中から「最良 の解決策一つ を選定すること。そして、第二は、この解決策を最終 の解決策と見なすに「十分によいものか?を判 定することである。本章ではこれら二つの活動を別々 に検討する。第一の活動 (「最良策」の選定) では、「強制意思決定」、「多基準意思決定分析」、あるいは単に「意思決定分析」などさまざまな名前で呼ばれている一つの方法について、その二つの形式を 検討しよう。二つの形式とは、「最も単純な」やり方と「最も正確な」やり方を表す。考慮する第二の活動 (「十分によいか?」) はTRIZにより近くなる (ただし、他の方法からのツールも簡単に扱う)。最初にTRIZの一般的な助言「ループをもう一度回ることをいつも考えよ」を使い、そしてつぎにそのよう なループの中身が最良の効果をもたらすように焦点を絞るのを助ける一連の戦略を使う。


22.

Into The Future

未来に向かって

22

未来 に向かって

“Reality is made up of circles, but we see straight lines.”

Peter Senge

“現実は、多くの円から構成されている、でも直線に 見える”

「現実は多くの円から構成されているが、われわれには直線に見える」

Peter Senge

or

“First things first, but not necessarily in that order.”

Doctor Who.

“一番は一番、でも必ずしもその順番とは限ら ない” 

一番は一番、でも必ずしもその順番とは限らない」

ドクター フー

 

The future of TRIZ has been the subject of significant discussion in recent times (Reference 22.1, 22.2). Opinion differs as to whether it is still at the beginning or has reached the limits of its evolutionary potential. The conflict can be both understood and resolved if TRIZ is recognised as a just a part (albeit a very important one) in a much bigger system. For the sake of providing this bigger system with a label, we will propose the term ‘systematic creativity’.

最近、TRIZの将来について、意義深い議論がなされている(参考文献22.122.2)。TRIZはまだ初期段階であるというもの から、進化ポテンシャルの頂点に到達してしまっている1との意見までがある。TRIZが より膨大なシステムの(非常に重要な部分ではあるが)一部に過ぎないことを認めれば、この矛盾2は理解もできるし、説明も可能である。このより大きなシステムに呼び名をつけるため に、‘体系的創造性’ 3という言葉を提案したい。

最 近、TRIZの将来について、意義深い議論がなされている(参考文献22.122.2)。TRIZがまだ初期段階であるのか、それとも進化のポテンシャルの限界にすでに達しているのかに関して1, 意見がさまざまである。TRIZがより大きなシステムの (非常に重要な部分ではあるが)一部に過ぎないことを認識すれば、この対立2は理解もできるし、解消も可能である。このより大きなシス テムに呼び名をつけるために、「体系的創造性(systematic creativity) 3 という言葉を提案したい。

[推敲意図の説明] 

*1  原文 Opinion differs as to whether ...:  ここで,  as to , ...という主題に関して」の意味。 from ... to ...」の構文とは異なる。

2  原文「conflict: ここでは「矛盾」よりも「対立」を選んだ。実は以前にSalamatovの教科書において, conflict」と「contradiction」という語がさまざまに使われていて, Souchkovに問い合わせ たことがあり, 彼は, 「ロシア語としてもTRIZ用語としても同じだ」と返答 してきた。その意味で, TRIZの術語としては日本語でも「矛盾」と「対立」と を同じように使ってよいのだと思う。ただし, 日本語の日常的なニュアンスでは, 「矛盾」の語はより論理的な場面/意味で使い, 「対立」の語はより人間的な/感情的な場面と意味で使うように思う。そのためここでは 「対立」を選んだ。

3  本書の主要な キーワードには, 初出の場所 (あるいは重要な定義の場所) に原語を ( ) で括って記載しておきたい。 (この作業はずっと後の索引作りに関連してやるのがよいか もしれないが。)

TRIZの将 来」が最近意義深い議論の主題となった (参考文献1)、2)。意見が異なっているのは、TRIZがまだ初期段階にあるのか、それとも進化のポテンシャルの限界にすでに達しているのかに関してで ある。この対立を理解もできるし解消も可能であるのは、TRIZをより大きなシステムの (非常に重要ではあるが) 一部分に過ぎないと認識する場合である。このより大きなシステムの名称として、われわれは「体系 的創造性 (Systematic Creativity)」 という用語を提案しよう。


TRIZ places great importance on the existence of evolutionary S-curves. In these terms, the difference between the s-curve for TRIZ (actually, bearing in mind the different TRIZ proponents and variations, such a TRIZ s-curve should be seen as the average of a cluster of subtly different s-curves) and an average curve that might be constructed for ‘systematic creativity’ is illustrated in Figure 22.1.

TRIZは進化のSカーブの存在に重き をおいている。これらの項目は4TRIZについてのS-カーブと「体系的創造性」に関して構築されるであろう平均的なカーブの違いを図22.1に図示した。(実際、異なるTRIZの支持者 と変化5を思い出してみると、TRIZの あるS-カーブはわずかに異なるS-カーブ の集合の平均的なものに見えるだろう)6 ※TRIZの支持者と変化?→TRIZ研究者によりさま ざまに異なる意見や見解のことか?5

TRIZは進化のSカー ブの存在に重きをおいている。その概念を使って4TRIZに ついてのSカーブと「体系的創造性」に関して構築されるであろう平均的なSカーブの違いを図22.1に図示した。(実際には、TRIZのさまざまな支持者たちとそのばらつき5を考慮に入れると、この図のTRIZSカーブというのは、微妙に異なるさまざま のSカーブの集合を平均したものと見なすべきだろう)6

[推敲意図の説明] 

4  原文「In these terms:  in terms of ... 「〜という用語/概念を使って」という意味。

5  英語の「different」について:  単数名詞を修飾 しているとき: (different opinion) 「異なる」意見。

複 数名詞を修飾しているときは (different opinions) (「異なる」のがいくつもあるのだから) 「異なる」と訳さずに 「さまざまの」 と訳すとぴったりくることが多い。

6  原文の ( ) 内は説明を挿入しているもので, ずいぶん長くなっている。これを(初訳で) 挿入位置から外して後ろに分離したのは, 非常に分かりやすくなったと思う。踏襲しました。

22.1  TRIZと「体系的創 造性」

    TRIZ は進化のSカーブの 存在を重要視している [第7章]。その用語で言って、TRIZについてのSカーブと 「体系的創造性」に関して構築されるであろう平均的なSカーブとの違いを図22.1に示した。実際には、TRIZ のさまざまな支持者たちとそのばらつきを考慮に入れると、この図のTRIZのSカーブというのは、微妙に異なるさまざまのSカーブの集合を平均したものと 見なすべきだろう。

The conflict between ‘is TRIZ a mature system or an immature one?’ is thus explained by the point5 marked on the figure illustrating the current evolutionary state.  The point suggests that TRIZ is at the mature end of its evolutionary potential (thus concurring with Vertkin’s comment (22.2) that ‘there hasn’t been a single new concept introduced into TRIZ in the last 12 years’), but that TRIZ and the current position are still at the relative beginnings of the over-riding ‘systematic creativity’ curve. In terms of ‘systematic creativity’ it is evident that there have been many new concepts emerging in the same period.

したがって、‘TRIZは成熟したシステムであるか、未熟であるか?’ 7という対立は、現在の進化状態を模式的に示した図中において5、点5として説明できる。この点10の意味しているところは、TRIZは自身の進化のポテンシャルの成熟末期11にある(したがって、Vertkinのコメント‘この12年にTRIZ取り入れられた新しいコンセプトは一つもない’(22.2)に、賛成する)しかし、TRIZとその現在地は‘体系的創造性’のカーブを乗り越える12比較的初期の段階である13。‘体系的創造性’に関して言えば、同じ期間に多くの新しいコンセプトが現れている。

したがって、「TRIZは成熟したシステムであるか、未成熟であるか?」7という対立は、現在の進化状態を模式的に示した8、図中の小さな楕円9[訳注: 原文の「点」を修正] で説明できる。この楕円10が示唆しているのは、TRIZがその進化のポテンシャルの成熟した端*11にあること(したがって、Vertkinのコメント「この12年間にTRIZに取り入れられた新しいコンセプトは一つもない」(22. 2)に一致する)。しかし、TRIZとその現在位置が、より重要な12「体系的創造性」のカーブのまだ比較的初期の段階にあるこ とをも示唆している13。「体系的創造性」に関しては、同じ期間に多くの新しいコ ンセプトが現れてきていることは明白である。

[推敲意図の説明] 

7  '  ' "  "。訳文においては, '  '   で置き換え, "  " ...』で置き換えるのを原則にする。

8  原文の「illustrating」が 図に掛かるのではなくて, point に掛かると解釈して, 訳を修正した。図全体は過去・現在・未来の状況を描いて おり, 現在の状態はその中の「点」 で表されているのだから。

9  原文は「point」であるが, 図では 1点でなく, ちいさな領域をもった楕円で表されている。この楕円の意 図を汲んで, 「小さな楕円」とする。この点 は, 後日, 正誤表の形で著者に連絡して了解をとることにする。

10  点を楕円に変 更。9 参照。

11  end:  ここは「終わり」を直接は意味せず, 「端」の意味である。

12  over-riding:  over-ride」は乗り越える, 無視するなどの意味であるが, それが形容詞になった「over-riding」は, 「より重要な」の意味になっている。

13  原文は文の最初 から The point suggests that ... , but that ...」と二つのことを言及している。これを一文に訳すと長く なり過ぎて分かりにくい。そこで, 二つの文に区切った。それでも, 後の文がやはり「The point suggests 」を受け ていることを明示しておく必要がある。

し たがって、「TRIZは成熟したシステムであるか、未成 熟であるか?」 という対立は、現在の進化の状態を示した図中の小さな楕円で説明できる。こ の楕円が示唆しているのは、TRIZはその進化のポテンシャルの成熟端 にあるこ とである (したがって、Vertkinのコメント「この12年間にTRIZに取り入れられた新しい概念は一つもない」(参考文献 2) に一致する)。しかしまた、TRIZとその現在位置が、より重要な「体系的創造性」のカーブのまだ比較的初期の段階に あることをも示唆している。「体系的創造性」に関しては明らかに、同じ期間に多くの新しい概念が現れてきた。





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『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』出版案内
翻 訳とDTPのノウハウ
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最終更新日 : 2004. 6.30   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp