TRIZCON発表: Darrell Mann TRIZCON2020 発表全文 |
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コロナ禍の危機と将来: 原題: Mapping the Un-Mappable: The History Of TRIZ 2020-2030 |
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TRIZCON2020 発表 全文 (スライド + 講演) |
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編集ノート (中川 徹、2020年12月31日)
本ページは、Darrell Mann が米国のTRIZCON2020で発表した講演の全体を、忠実に文字起こしし、スライドとテキストを並行させて掲載したものです。英文ページと和文ページ(スライドはまだ英文)を掲載しています。
本発表でDarrell Mann は、新型コロナウイルス禍の全世界にわたる大きな深刻な危機、4−5年は続くだろう厳しい状況にあって、真の(その場しのぎでない)イノベーションを支援・リードしていくために、イノベーションをリードするべき者たち、「TRIZコミュニティ」が考え、努力して行くべき方向を熱く論じています。(自他の)いくつもの「世の中」を表現するモデル(理論)を用いて、大きな視野で捉えていることが特徴です。ぜひ、お読みになってください。なお、著者が学会発表後に、この講演の主要部を論文としてまとめ、著者のメルマガ Systematic Innovation e-Zineに掲載しました。その論文を著者の許可を得て、英文および和訳して、本ホームページにすでに掲載しています(2020.11.25)。掲載に至る経過、意義、私の感想などを、そのページに書いておりますので、参照ください。 そこでの記述と少し重複しますが、本講演の全文掲載に至った過程を、本ページ末尾の「編集ノート追記」に説明しておきます。
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発表全文の目次
[編集ノート(中川 徹、2021.1.2): Darrell Mannの発表は、非常によく構成されています。しかし、スライドが47枚ありますので、やはりその構成を(スライド単位での)目次で示すことが、読者にとってわかりやすいと判断しました。また、著者の意図をより明瞭に伝えるために、原題の他に、新しい題名をあえてつけております。]
コロナ禍の危機と将来: 社会・ビジネス・イノベーション・TRIZ
(原題: マッピングできないものをマッピングする: TRIZの歴史2020〜2030年)発表アウトライン; 将来を予測することに関する仮設; 新型コロナウイルス禍は予測不能だったか?
私たちはこれを予測していた...(世代サイクルモデル); 同上 (ドミノ効果); 倒れそうなドミノが多数ある危機の時代;
私たちの今いるところ (世代サイクルモデルで); 危機の時期;
私たちの今いるところ (英雄の旅のモデルで);
危機の時には常に勝者たちがいる; 災害サイクルのモデル;
社会の諸シナリオ2020−2025 (Dmitry Orlovの5つのシナリオ); 2030年のシナリオ (私たちの2×2の枠組みで);
危機の時には常に勝者たちがいる(業種別での勝者たち); 同時に敗者たちもいる...世の中の地図 (錯綜状況モデル (CLM) で);
20世紀のビジネスのパラダイム (能率(効率)を目指す三角ゾーン (CLMで));
2012年...世界は新しい言葉を得た (Nissim Talebの「AntiFragile [壊す力に対抗する]」);
CLM での「自然の力」; CLMでの マネジメント; 錯綜への対応 ... 黄金の三角ゾーン(CLMで);
英雄の旅(CLMで);
20世紀のビジネス(パラダイム、問題、原理); 21世紀のビジネス;
3つのタイプの企業 (K字型の3パターン); 同上 (企業の例)コンサルティングの世界 (世界のビッグファイブ);
イノベーションの定義 (「アイデア」、「実装されたアイデア」、「実装され成功したアイデア」);
イノベーション能力の成熟度(私たちの ICMMモデル);
XXX-法で触発されたイノベーションの試みの98%が失敗している;
では 2% は何をしたのか?(私たちの調査研究)TRIZ と ハイプサイクル(ガートナーのハイプサイクルモデルで);
世の中におけるTRIZの位置(CLMモデルで); 同上 (TRIZ 1.0 すなわち 古典的TRIZ);
同上 (TRIZ/SI 2.0、 TRIZ/SI 3.0、 TRIZ/SI 4.0 [SI = Systematic Innovation]);
ウインストン・チャーチルの名言 (民主主義、そしてTRIZ);
TRIZ Yes, But (4つの主要課題); TRIZ 2030年の 予測 (4つの主要方向);
ご清聴感謝
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発表全文: TRIZCON2020 (Darrell Mann)
コロナ禍の危機と将来: 社会・ビジネス・イノベーション・TRIZ
(原題: Mapping the Un-Mappable: The History Of TRIZ 2020-2030
マッピングできないものをマッピングする: TRIZの歴史2020〜2030年)Darrell Mann (Systematic Innovation, UK)
TRIZCON2020 発表 全文 (スライド + 講演) (2020年10月 6–7日、米国、オンライン)
テキスト和訳: 中川 徹 (大阪学院大学) 2020年12月30日
ハロー、TRIZCON。ここで話すのは本当に久しぶりです。今年の会議に参加し、私がクライアントの人たちと一緒に今年行ってきたことのいくつかを、皆さんと共有できることをうれしく思います。私たちみんなが住んでいるいまの世界を理解し、これからの数年間にどんなことが起こりそうかを見極めるのを、私は支援してきました。 |
このプレゼンテーションには4つの部分があります。 |
私たちが未来を予測してみようというとすぐに、私たちは根本的に錯綜した領域に入り込みます。つまり、「何が起こるかについて、私たちが知り得ないことが非常に沢山ある」ということです。しかしそれと同時に、それは「私たちが未来についてまったく何も知り得ない」というのとは同じでないことを、私たちは知っています。
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未来を予測することの問題の大きな部分は、物語の「ブラックスワン」の側です。これは、「人生における非常に予測不可能で重大な結果をもたらすできごと」という、ナシム・タレブの概念に関連しています。そのような人生において私たちの助けになると私たちが知っていることは、「イベントがたとえランダムに発生したとしても、それらのイベントに対する社会の反応は、人間の行動に関連する基本法則によって条件付けられている」ということです。したがって、そのようなものを、予測モデルと起こっていることの評価に組み込むことができれば、私たちの前途にありそうな重要なことのいくつかを特定できる可能性がずっと高くなります。 皮肉なことに、私たちが現在生きている新型コロナ禍の世界についていえば、おそらく、新型コロナ禍はブラックスワンではなく、十分予測可能なできごとでした。そして、話の本当に唯一の驚くべき部分は、おそらく、パンデミックに備えることを決定した政府が非常に少ないという事実です。そして、その準備不足のために、それが起こったと見るやいなや、それは現在展開している一連のできごとを現実のものとしたのです。
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1. 社会
では、社会レベルの視点から始めましょう。
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社会レベルでいいますと、現時点で起こっていることは、私たちが『TrenDNA』の本で話していることのいくつかと完全に一致しています。私たちがその考えを得たのは、世代サイクルを調べたStrauss&Howeの仕事からです。彼らはやや誤解されていると、私は思います。彼らは世界をトップダウンに分析したと認識されていますが、実際には、彼らの研究の前提はまさに第一原理的な考えでした。 その一つは、「あなたの両親によってあなたが育てられた方法が、(あなたが子どもたち持ったときに)あなたがあなた自身の子供を育てる方法に影響を与える」というものです。このモデルでは、(いままでのパターンが繰り返えされるなら)2020〜2025年は危機の時期だと言います。そして、これまでのところ、それは当たっています。これについて、いまからもう少し詳しく説明しましょう。 ただ、今回の発表では、沢山の資料をカバーしようとしていることを意識しています。その扱いとして、参考資料を多くのスライドの下部に示しておきました。私たちは今年、沢山の資料を出版しました。どの部分であっても、興味をお持ちの人は、もっと情報が欲しいと思う部分を見てみることができます。 |
予測できないことが非常に沢山あることを私たちが知っていることも、先に述べたとおりです。危機の時期には、ぐらつくドミノが沢山あることを私たちは知っています。また、「どのドミノが最初に倒れるかを予測することは困難ですが、一つのドミノが実際に倒れると、次に倒れるドミノ、その後に倒れるドミノが、何になるだろうかは、はっきり示せるようになります」。 |
ですから、貿易、雇用、政治のいずれについてであっても、パンデミックがすでに他のドミノに深刻な衝撃を与えているという状況に現在私たちはおり、それらのいくつかも倒れつつあることを私たちは見始めています。 |
今のこの瞬間、私たちはStrauss & Howeが予測した危機の時期のクライマックスにやってきています。もしこのパターンが続くなら、「次の4?5年間、状況は現在よりも悪化する」と言います。「そして、うまくいけば、2024/2025年頃に、ものごとは「新しい世界」に落ち着くだろう」と言います。このモデルが言っていることは、結局、「世界は現在、一つのSカーブから次のSカーブに移行する途上にある」ということです。 |
この種の状況で役立つもう一つのモデルは、「ヒーローの旅(Hero's Journey)」です。「Sカーブのシフトが起こっている」と私たちが理解するとすぐに、Joseph Campbellの研究結果が私たちに、「これらの移行の途上で起こる、明確なマイルストーンがいくつかある」と教えてくれます。そのうちの重要なことの一つは、「一つのSカーブから飛び降りるとすぐに、「試練」がある」ことです。つまり、TRIZの観点からいうと、「解決しなければならない矛盾が発生する」ということです。 [世代サイクルモデルでいう] パターンの従前の諸サイクルと現在の位置を見て考えると、今回のパンデミックは、(少なくとも米国にとっては)前サイクルの真珠湾と同等であると、私はイメージします。真珠湾攻撃は(そのときの)米国にとって、いまの生活様式がもはや継続しえないことを明確に示し、ある「新しい世界」への移行の開始を引き起こしました。そこで現在の新型コロナ禍についても、もしこのパターンが繰り返されるなら、私たちは今後4-5年間、「試練」を解きほぐし、それを理解し、問題を解決し、そして願わくばうまく解決するのにかかるでしょう。 |
私たちはまた、いま「平衡の断絶」の状況にいることも分かります。歴史を見ると、(多くの)長い期間、ものごとは比較的穏やかです。それから、一つのドミノが倒れ、それが他のいくつものドミノの倒れを引き起こし、さまざまな変化が起こり、その後に、事態は再び落ち着きます。ですから、くりかえして言いますが、「今、私たちはそのような「平衡の断絶」という状況の一つにいる」のです。そして、いままでの諸サイクルから私たちが知っていることの一つは、「これらの不安定な期間が、イノベーションの観点から実に重要である」ということです。 |
ここにもう一つの世界のモデルがあり、それは、「誰かが、どこかで、私たちのために、ある困難な仕事をしてくれていた」という古典的な事例を提供しています。これが「災害サイクル」です。それは、「悪い(衝撃的な)できごとの発生に関わって、その後に続くことが、非常に一貫したパターンを形成している」という一つの知識です。 つまり、私たちが(悪い)できごとの衝撃を受けます。 |
これは、世界を社会の視点から見たもう一つ別の研究であり、同様に、災害と一つのSカーブから飛び降りた社会の状況について調べています。これはDmitry Orlovの仕事です。世界に対する彼のいくつかのシナリオは、いまの世界について、正直に言って、すべて非常に暗いものです。彼のシナリオの中の最良のものは、アイスランドがそのGFC [General Financial Crisis (2008-2011)] の終わりに行ったことを私たちが実行し、それによっていまの自分たちのところ [社会] に留まる/あるいは戻ることができるようにすることです。私たちが一つの可能性だと考えている良いシナリオの内の一つを、彼は持っていませんでした。 私たちは『Everythink』という本を出版したばかりです。それは、「私たちが現在私たちがいるSカーブから、より「高い」レベルのSカーブにジャンプする」というブレイクスルーの状況について説明しています。それはかなり低い確率だと私たちは思っています。しかし現時点では、これらの諸シナリオのうちのどれが実際に起こるだろうか、私たちが得た楽観的なシナリオなのか、Orlovが得た5つの悲観的なシナリオなのか、を判断することはできません。しかし、「これらのシナリオのどれが実現する可能性が最も高いか」を示すシグナルのいくつかを特定する機会を、私たちは持っていると私は思います。 |
将来について何らかの意味のある予測を行うためには、すべての不確実なものを取り上げ、それらをまとめてみることが必要です。そこで、今年私たちがいくつかのクライアントと一緒に行ったことは、「いくつかのシナリオを作り、世界で起こりうる諸変化の範囲の全体をカバーするようにする」ことです。 この図では、エッセンスを [捉えようとして]、2つの異なる軸に沿った、[2×2の] 4つのシナリオを見ようとしています。一つの軸は社会を見ており、社会が現在社会の低迷状態に留まるか、それとも有意な階段状の変化 [変革] を受けるか、です。そしてもう一方の軸はビジネスの世界を見ており、一つのシナリオでは現在のシステムが現在ある位置に固定されたままです、また、そのスペクトルの反対側の端には、ある種の大きなブレークスルーがあるというシナリオがあります。それは、技術的なブレークスルー(たとえば、エネルギーセクター、おそらく最も可能性が高いでしょう)であるか、あるいは、ある種の立法上のブレークスルーとシフトであるか、でしょう。 そこでの最も可能性の高いシナリオは、ビッグデータ企業の力と、諸政府がそれらを解体しようとする可能性である、と私は思います。そこで、これらの4つのシナリオを見、そして、もし4つのシナリオのすべてで起こるだろうことを特定すれば、現実がどう転ぼうと、それが起こる可能性が高いと、私たちはずいぶん自信を持って言えます。私たちはその分析を行いました。ここでそれを十分説明する時間がありませんが、… |
これらのシナリオから私たちが見たものを指摘すると、危機の時期には、シナリオがどのようなものであっても、これらの4つの極端な場合を見ると、常に勝者が存在する、[その中には] 一貫して勝者であるような勝者があり、そしてまたこの特定のサイクルにおいて勝者となる可能性が高い勝者がいる、と分かりました。スライドの見出しは、基本的に私たちが公開した調査結果であり、私たちのストーリーのイノベーションの側面に情報を提供すると考えています。 |
ときには、敗者の何人かを見るのもよいことです。ものごとについてあまり気が滅入ることを望みませんが、私たちにシグナルを与えてくれると思ういくつかの参考文献があります。最も可能性の高いものの一つは、悲しいことに最近亡くなったDavid Graeberの本『BullshitJobs』を見ることです。「危機の時期には、世界に現在存在する無意味な仕事の多くが消えてしまいます」。 Graeberの研究によると、それは世界の仕事の30%を意味するでしょう。また、可能性が高いと私が思うのは、「混沌と不安定性が高い時期には、最適化がもはや適切な戦略でなくなり、そのため、リーンやシックスシグマなどが背景に消えていくだろう」ということです。そのような種類のサービスの提供者は、苦労することでしょう。 |
2. ビジネス
それでは、ズームインして、ビジネスの世界を見てみましょう。… |
…そしてこのモデル [Complexity Landscape Model (CLM)、錯綜状況モデル] を紹介します。繰り返しになりますが、すべて他の場所で記述していますので、ここでの説明にはあまり時間をかけません。 私たちがクライアントに非常に強く言っていることの一つは、「自分の組織の能力を複雑さの観点から理解する必要があり、それを自分がいる周囲の環境の文脈の中に置いて考える必要がある」ということです。 そこで、あなたが考慮する必要のあるシナリオは基本的に4つあります。あなたが活動している世界が、 |
…パンデミックが発生する前から私たちが知っていることの一つは、「ほとんどの組織で普及しているビジネスモデルが能率(効率)主導型であった」ということです。つまり、それが意味したのは、組織内のものごとを単純化したいという願望でした… |
… Taylorがやって来て仕事を研究して以来ずっと、「標準化」が支配的なモデルでした。 |
…それはこの4行4列の図の上端の線です。自然界は私たちをこの線から遠ざけようとします。そこで、標準化とTaylorの仕事はすべてを単純化しようとします。熱力学の第二法則と現実の生活は、私たちを [下方の] 混沌との境界に向かって押しやります。これらの両方の力が組み合わさって、組織が行きたい場所に到達するのを困難にします。…行きたい場所とは [組織が] 「能率(効率)的」である場所です。… |
…それを達成するために私たちにできることは、確かにあります。そのいくつかは非常に劇的です。たとえば、自動車産業の始まりとHenry Fordを振り返ってみると、「黒である限りあなたの好きなどんな色でも」というのは、彼らの市場を単純化するための優れた方法でした。あなたがフォードを買いたかったなら、それは黒の塗装の仕事を経たものになっていたでしょう。 |
あなたが居りたい場所、Talebが私たちに居るように勧めている場所は、図の上部の「ゴールデントライアングル」の位置です。それは、世界が錯綜していると私たちが認識しており、私たちの組織内にはその複雑さ(錯綜)に対応したプロセスが実働していると述べている場所です。図中の対角線(すなわち、アシュビ線)より上にあることは、私たちのシステムの能力が私たちの周りの世界の複雑さのレベルよりも大きいことを示しています。したがって、それは組織があるべき大きな目標を形作っています。不幸なことに、前述の緑色の三角形(すなわち「能率(効率)ゾーン」)とこの「黄金の三角地帯」の間の大きな距離は、ほとんどの組織にとってその生存を非常に困難にしています。起こす必要があるのは、大きなシフトです。... |
… この本(『The Hero's Journey』)は、[新型コロナ禍における] ロックダウンの初めに私たちが出版し、新興(スタートアップ)企業のためのすべてを述べており、それは同時に [すべての企業のために] 「通常の」能率(効率)主体の世界から抜け出し、錯綜した環境に入る「旅」 [プロセス] についても書いたものです。それはほぼ根本的に、混沌の期間を経て進むことを意味します。「世界が本当に変わるのは、私たちがこのような混沌とした状況にあるときだけだ」ということを、多くの人々が認識するだろうと私は思います。なぜなら、「混沌は、少なくとも、既存のルールがもはや適用されないことを私たちに教えてくれる」から、です。 |
ビジネスについて見て、社会が起こしているこのSカーブシフトによってビジネスがどのように変化しているかを見ると、最近出版されたもう一つ別の本があり、このテーマに関連していると思います。それがGary Hamelの最新の本『Humanocracy(ヒューマノクラシー)』です。職場で起こっているパラダイム・シフトについて語っています。彼は「第一原理(First Principles)」というものを理解しているもう一人の人です。 ヒューマノクラシーが語っているのは結局、いま起こっているシフトは、「能率(効率) 中心の世界(そこでは、組織に雇用されている人々が、効果的に小さな、セグメント化された、簡単に訓練できる仕事を与えられている世界)」から離れて、「もう一つの世界(そこでは、能率(効率)が有効性にシフトし、自分の頭で考えて仕事をし、創造的に考える人々を私たちが必要とする世界)」へのシフトであると言います。さて、それがイノベーションの機会を生み出すかどうかはまだ分かりませんが、私たちが地平線上に見えるのがきっとそのようなパラダイム・シフトなのでしょう。… |
…すべての組織がそれを実現できるかどうかはわかりません。多くの人が実際にそれを実現したいと思っているかどうかもわかりません。現在メディアで起こっていることを見ると、「K字型の経済(K-shaped economy)」について多くの話があります。私たちのシナリオはすべて同じことを予測しています。 これは基本的に、3つのタイプの組織があることを意味しています。 |
明確な兆候があると、私は思います。確かにHamelの本を見ると、これらの「新しい世界」の組織の諸例を見ることができます。そこでは、まったく異なる組織構造を設計しています。人々に力を与え、「悪い」仕事を無くし、「自己組織化」を創り出すこと、と一致する構造です。多くの点で、TRIZと非常によく一致しています。HaierとWL Goreは、新しい世界がどのようなものかを示す、2つの代表的な例です。 「指令と管理(Command & Control)」のタイプ1の組織は、Facebookや世界のアマゾンなどであり、過去10年ほどの間に非常に支配的になったものです。それは、「人々(についての)データを所有し、そのデータを利用して、人々が将来何を欲しがるだろうかをよりよく理解する」からです。 それから、落ち目のタイプ2には、「指令と管理」の恐竜たち('command and control' dinosaurs)、すなわち、トップダウン主導の組織があります。…自動車産業はこの領域で最大の被害者の一つになる、と私は思います。そのすぐ後ろに航空宇宙産業があります。もしこれらの企業が新しいやり方への目覚ましい移行を遂げることができなければ、深刻な困難に陥るでしょう。 |
3.イノベーション
それでは、次にイノベーションの観点から見ましょう。 ところで、いままでで私たちは何を聞いたでしょう? |
… [世界の] コンサルティング会社のビッグファイブを見ると、「彼らが、いま世界が陥っている問題の原因(元凶)である」と言わざるを得ない明確な事例があります。なぜなら、彼らが行ってきたのは、クライアント企業に業務の能率(効率)について過去40年間教えてきて、諸企業を「能率(効率)化の道」にあまりにも遠くまで連れてきたからです。[それらの企業の] 多くが、「ものごとをどのように行うべきか?」に立ち戻り、再考することができないところまで来ています。彼ら [ビッグファイブ] は苦境にあると、私たちは思います。その兆候があると私たちは思います。ビッグファイブのコンサルティング会社が現在購入している企業を見ると(たとえば、「デザインシンキング」のブティックやイノベーションのブティックを購入)、彼らがイノベーションとは何かをまだ根本的に理解していないことは明らかです。彼らが将来一つの解決策になる可能性がありますが、短期的には解決策にならないことは明確です。… |
… その理由の一部は、「イノベーション」という言葉を使うとき、それが何を意味するかについて、依然として非常に多くの混乱があることです。私たちはこの記事を2か月前に公開し、世の中で使われているさまざまな定義について調べました。私たちが使用しているのは、「イノベーションを「成功裏に実装されたアイデア」と定義する」ものです。言い換えれば、それは組織のためにお金を稼いでいます。 しかし、私たちの見解は、イノベーションが何を意味するかについての少数派の視点であることがわかりました。 |
私たちが長い間知っていたことは、TRIZが市場を大幅に追い越しているということです。「イノベーション能力成熟度モデル (Innovation Capability Maturity Model (ICMM))」を公開したのは2012年で、組織内でイノベーションを起こすための能力として、5つの異なるレベルを特定しました。 TRIZはレベル4とレベル5の組織にとって本当に価値のあるツールになりますが、この図に示すように、それらのレベルの組織は多くありません。大多数の組織は、イノベーションについて実際に考える必要がなかったため、新型コロナ禍のドミノが倒れたとき、本当に窮地に投げ込まれました。これはTRIZの世界にとって問題です。…多くのツールは有用ですが、組織内で革新する能力が低い場合、実際には非常に危険です。 |
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私たちも知っていることは何ですか?私たちが知っているのは、「他のいろいろな方法が組織内で成功を収めるために同じように苦戦している」ことです。それで、すべてのイノベーションの試みの98%が失敗します。そして、もし私たちが、デザインシンキング、あるいはQFD、あるいはオープンイノベーションを使用したとされるイノベーションの試みを見ると、全体的な成功や失敗の率に実際には何も影響を与えていません。問題は方法論よりも深いなんらかのものです。その話にTRIZを加えることも容易にできたでしょう。「それ [方法論やTRIZ] はイノベーション・ストーリーの必要な部分ですが、私たちが錯綜したもの(Complexity)を扱う場合には十分な部分ではない」のです。 |
したがって、私たちが何年にもわたって試みてきたことは、(2000年代の初めにイノベーション能力成熟度モデル(Innovation Capability Maturity Model(ICMM))を使って行ったのですが)、2%の成功した組織を調べ、彼らが行ったことをリバースエンジニアリングすることです。今年私が出版した本『Hero's(Start-Up)Journey』は、実際にはスタートアップ組織と2%の成功した組織に関するものであり、競合他社が成功しなかった場所で成功できるようにさせた彼らの能力が何かを、リバースエンジニアリングしたものです。 |
4. TRIZ
そこで私たちはTRIZに導かれます。 |
…「必要だが十分ではない」というのが、私たちが何年もの間それを説明してきた方法です。ガートナーの「ハイプサイクル (Hype Cycle)」に精通している方もおられるでしょう。私たちはこのサイクルに沿ってTRIZを何年も追跡してきました。それは素晴らしいケーススタディになります。私たちが既に何回か書いたのは、1990年代に起こった重要なイベントのいくつかを見て書いたものです。最初のコンサルティング会社の登場、ソフトウェア、Samsungなどの企業内での展開などです。これまでのTRIZの頂点は、おそらく、SamsungメダルがそのTRIZチームに授与されたことでした。その後のすべては、TRIZが下向きの軌道にあることで、ハイプサイクルが私たちに教えることと完全に一致しています。 私たちが今いる場所は、「幻滅の谷」の一番下にあると言わざるを得ません。…これは危険な場所です。理想的には、私たちはそれを通り過ぎ、「啓蒙の坂」を上っていきます。そうして人々はTRIZが実際に何をするのかを理解し始めます。しかし、急な下向きの軌道にいるときは、私たちが降下から十分に速く抜け出せず、私たちはすべてを完全にクラッシュさせて終りになる、ということがときには起こります。 |
それでは、私たちの分析から私たちは何を結論するのでしょうか?その答えは、私たちを再び錯綜状況のモデル(CLM)に戻らせます。 TRIZが苦戦した理由の一つは、オリジナルの古典的TRIZを見ると… |
…それが実に「複雑な(Complicated)」領域にあることが分かります。「TRIZは錯綜した(Complex)諸問題のために設計されたのではなく、複雑な(Complicated)技術的諸問題 のために設計されており、そこでは [対象の] システムが制御されています。」手がかりは「発明的な問題解決の理論」という名前にあります。それは私たちに問題について何かを教えてくれていますが、方法の核心は実際にはストーリー [全プロセス] の中の問題解決の部分にあります。… |
… 少し後になって初めて、西側の影響のいくつかを取り入れ始めて、TRIZ 2.0とでも呼べるものを手に入れたのです。それで、たとえば、機能分析がストーリーに追加され、その結果、複雑な問題で、定義が非常に不明確な場合をも扱うことができます。 私たちがやろうとしてきたのは、(私たちがマーケティング機能を取り扱い、「ビジネス」を対象にするために)TRIZ 3.0を創ることです。それは今日では「体系的イノベーション(Systematic Innovation)」と呼ぶほうがより適切であり、錯綜した(complex)状況を取り扱えるように、その錯綜した世界に参入するためのものです。 ここでの考え方は、前と同様に、「組織がいまどこにあるのかを診断し、その特定の状況に適した諸ツールと諸方法のセットを持ってくる」ことです。したがって、いま複雑な(complicated)状況であるなら、そこに適用するのに、古典的 TRIZが完全に適切で、完全に賢明なものです。錯綜した(complex)環境にいる場合には、残念ながら、古典的TRIZは実際には役に立ちません。それは人々を根本的に間違った方向に向けるでしょう。必要なことは、そこにある錯綜(complexity)を認識し、受け入れることです。私たちが混沌(Chaos)に対処している場合には、それが本質的に意味するのは、私たちがものごとを極めて速く行うことができなければならない、ということです。… |
… そこで、私たちは諸方法論を [錯綜状況モデル(CLM)の] これらの様々なシナリオ [すなわち、横軸の状況と縦軸の方法の組] に当てはめていきました。 そして、混沌(Chaos)の世界では、John Boydと彼のOODAモデルの仕事に注目しています。これは、迅速な学習サイクルのアイデアであり、(TRIZ要素を持ち込む可能性があるかもしれないが、しかし)それらの環境で生き残り、栄える鍵は、サイクルを回すことと迅速な学習です。この [CLM] モデルが基本的に示しているのは、「組織がどこにあり、彼らの市場がどこにあるかを一旦理解すれば、その状況に対処するための諸ツールと諸方法の適切な組み合わせを持ち込むずっと良い機会が、私たちの手に入る」ことです。 |
それから、TRIZ自体に関する限り、私はこのスライドを近年何度も使っています。英国には現在、地球上で最悪の政治家たちの何人かがいます。歴史的には、私たちは何人か最高の政治家たちを持っていましたが、私が思うに、そのベストはおそらくウィンストン・チャーチルだったでしょう。彼の有名な言葉に、「民主主義は最悪の政府形態である。・・・他のすべてを別にして」というのがあります。 TRIZは同様の状況にあると私は思います。「TRIZは最悪のイノベーション方法である。・・・他のすべての方法は別にして」。これは問題です。それは確かにTRIZコミュニティにとって問題です。しかし、イノベーションを試みている諸組織にとっても問題です。なぜなら、イノベーションについては世の中に沢山のものがあり、年間1500冊の本がイノベーションについて出版されている、というのに、そのどれも実際には役に立たないようです。… |
… それでは、TRIZの今後はどうなるでしょうか? …まずはじめに、「YES, BUT」の状況を見ましょう。 絶え間ない欲求不満であるのは、(確かに私たちの組織内にあって)TRIZの世界でまだ起こっている争いと議論です。パイの切れ端を巡って争い、パイを大きくしようとしていない。私が観察しているビッグファイブのコンサルティング会社のいくつかはイノベーション能力がゼロです。本当はTRIZの世界がそれらの組織を滅ぼしているはずです。それなのに、こちらで私たちは、文字通り辛うじて生計を立てており、純粋にTRIZで生計を立てようとしている人々は特にそうです。 あまりにも多くのTRIZプロバイダーがおり、…その多くがTRIZのユーザーではありません。重ねて言いますと、私の非常に大きな欲求不満は、「顧客は [製品/方法でなく] 機能を望んでいるのだ」とTRIZは教えてくれていますが、それなのに、TRIZのコンサルタントたちが「あなたはTRIZを使わなければならない」とまだ言っているのを聞くことです。それは世の中の現実と完全に食い違っています。多くのTRIZプロバイダーはイノベーターでなく、イノベーションを起こしたことがなく、プロジェクトをその最後までずっと見届けたことがありません。だから、彼らにとって、世界の錯綜(complexity)、特に最初の1%のインスピレーションに続く99%の汗を、理解することが本当に難しいのです。 |
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基本的に、私たちがまったく間違いなく言えることは、「私たちがものごとを第一原理レベルにまで掘り下げるとき、イノベーションとは大部分が矛盾の解決である」ということだと、私は思います。すべてのイノベーション(言い換えると、成功した2%)のほとんどすべてでは、彼らは矛盾を特定し、解決しました。 TRIZは矛盾解決の絶対的な本拠地です。制約理論が、おそらくそれに近いところまで達した唯一の他の方法論です。矛盾の重要性を認識し、哲学の面から言って、私たちはヘーゲルと彼の矛盾解決の重要性についての洞察に注目しています。ですから、TRIZコミュニティに関する限りの良いニュースは、たとえ何が起こっても、「イノベーションとは矛盾を解決することだ」と世界が理解するとき、TRIZは他の何ものについてよりも大きな優位性を持っているのです。 |
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ですから、良いニュースと悪いニュースが混在しています。 私に話をする機会を与えてくれてありがとう。私は皆さんに沢山の情報を投げかけたことを意識しています。どなたでももっと情報を知りたければ、私はいつでも喜んで会話を始めます。電子メールまたは最近ではTwitterを介してしましょう。 この学会の残りの部分を楽しんでください。 そして、どうもありがとうございました。 |
編集ノート追記 (中川 徹、2020年12月31日)
本件は、TRIZCON2020での発表講演ですが、オンライン開催の準備として、講演ビデオをAltshuller Instituteに事前提出されました。私も、WTSPカタログ集の発表のビデオを提出しました。Altshuller Inst. は、発表者に限って事前提出のビデオの閲覧を許しておりましたので、私はDarrell Mann のビデオを学会前に聴取できました。2度繰り返して聞いて、非常に大事な論文だと認識しました。そこで、9月20日に著者とAltsuller Inst.に、TRIZCON講演ビデオの文章化と、和英での本ホームページの学会後掲載を申請して、快諾を得ました。ただ、Mann の早口の講演を文字起こしすることは、私の手に負えず、小西さんにお願いしましたが、実現には至りませんでした。
TRIZCON (10月6-7日)直前の10月3日に、Darrell Mann が論文版のプレプリントを送って来てくれました。学会後に私がこの論文の和訳を始めたのが10月26日、和訳を仕上げたのが同30日、論文を掲載したe-Zineが届いたのが翌月2日、でした。この論文版を本『TRIZホームページ』に英・和で掲載したのは、11月25日です。Darell Mann の近年の著作や仕事を私自身が学ぶとともに、和訳などで紹介する必要を感じていることなども書きました。
12月13日に、Mann が彼の社内で講演の文字起こしをし、微修正・確認したうえで、講演テキストを送ってきてくれました。これは本当に有り難いものでした。和訳はなかなか大変でしたが、ようやく完成し、『TRIZホームページ』の原稿の本体を和・英で作り上げたのが、今日(大晦日)です。スライドは英文のままですが、とにかくこれでいろいろな参照記事を用意したうえで、年明けに掲載しようと思っております。重要な講演ですので、ともかく早くに読んでいただくのが良いと思っております。
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最終更新日 : 2021. 1.23 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp