TRIZCON2017論文: 中国のTRIZ


中国におけるTRIZ の開発と産業界への普及活動

Runhua Tan (河北工業大学 技術革新方法とツールのための国家工学研究センター、中国)
TRIZCON2017, 2017年10月4-5日、Atlantic City, NJ, 米国

和訳: 中川 徹、2017年10月29日

掲載: 2017.11. 5; 更新: 2017.11. 7

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  編集ノート (中川 徹、2017年11月 2日)

先月の4-6日に時を同じくして、ETRIA(欧州TRIZ協会)主催のTFC2017(TRIZ  Future Conf.、 フィンランド)と Altshuller Institute for TRIZ Studies (米国)主催のTRIZCON2017 (米国、Atlantic City) とが開催されました。私は17年皆勤でETRIA TFCに参加・発表しました。その両方の学会の発表で私が注目したものの一つが、 本件の「中国でのTRIZの推進活動」の発表です。

ETRIA TFCでは、河北工業大学(天津市)の (Tan 教授の同僚である) Bai 准教授が報告し、ラウンドテーブル形式で沢山の質疑応答がありました。(その発表スライドの本ページ掲載を要請しているのですが、まだ実現していません。)

TRIZCON2017 では、Tan教授自身が発表し、その論文はAltshuller Inst.のホームページに全文が公開されています。私の要請に応じて、Tan 教授が、その論文と発表スライドのファイルを送って下さり、英文および和訳での本ホームページ上の掲載を許可いただきました。また、Altshuller Inst.からも掲載許可を得ました。ここに感謝して、英文(論文とスライド)および和文(論文)を掲載させていただきます。

中国におけるTRIZの研究・普及などの全般的な状況について、本ホームページではいままで次の2つの貴重な寄稿を掲載しています。
     「中国におけるTRIZの動向」、 趙 新軍 (Zhao Xinjun) (東北大学, 中国) (掲載: 2004.11.16.) 
     「中国におけるTRIZの状況」、 周 賢永 (Xian-yong ZHOU) (西南交通大学、中国)(掲載: 2011.11.13)  

本件の発表は、いままで2件のような、中国全体でのTRIZの発展状況のレビューではありません(そのようなレビューの寄稿を得たいと願っています)。河北工業大学の研究センターでの、TRIZ研究内容と企業普及の活動を、具体的に報告したものです。Bai 准教授の説明では、Tan教授が指導している河北工業大学の「技術革新方法とツールのための国家工学研究センター」には、約80人のFaculty メンバー、約20人の博士課程学生、そして約80人の修士課程学生が在籍して(訂正:2017.11. 7)、TRIZを中心とした技術革新のための方法論とツールの研究・開発をしている、というのです。中国政府、河北省政府、天津市、河北工業大学などの強力な支援を受けて、研究を進め、大学で学生・院生他を教育し、そして広範な企業普及活動をしています。中国には、この他にも沢山のTRIZ研究拠点があるようですが、このセンターが最も活発に研究・普及の実績を挙げてきているそうです。

研究内容としては、「TRIZを中核にして、イノベーションのための諸技法を統合した体系」をC-TRIZ(中国版TRIZ) と呼んでいます。本論文にはその概要が紹介されていますが、具体的な内容は大部分が中国語の論文であり、私には分かりません。

本論文で最も注目されるのは、MEOTM(多数技術者向けのトレーニングモデル)と呼ぶ、企業への普及活動です。近年の中国の旺盛な企業活動・経済発展をバックにして、(国と地方の)政府、諸企業、そして技術者たち自身に、イノベーションのための方法を習得する強い動機があることが、本論文から明確に伝わってきます。日本(や欧米)での数日の研修ではなく、半年〜1年継続の教育と演習(主に週末を利用)です。一つまたは複数の企業を選定し、参加技術者を選定して、訓練をします。参加者は各自、自分の仕事に関連した「発明的問題」を持ち込み、期間中にそれを解決して、最終の発表と口頭試問をパスして初めて、資格認証を得ます。この訓練プロセスにセンターだけでなく、企業のマネジャたちが加わっていることも大きな特徴です。「2013〜2016年に40のトレーニングクラスを実施し、721企業の技術者たち合計3173人を訓練し、そのうちの1471人が資格認定を受けた」と報告しています。そのやり方は、(なかなか真似ができませんが)参考にするべきことが多くあります。

本和文ページには、Tan教授のTRIZCON2017の論文の全文和訳と、発表スライドの極一部(英文のまま)を掲載します。英文ページには、論文全文(HTMLとPDF)、および発表スライド全体(HTMLとPDF)を掲載しています。

論文 目次 

中国におけるTRIZ の開発と産業界への普及活動 (Runhua Tan)

1.  はじめに

2. 工業諸企業におけるイノベーションへの障害

3. C-TRIZ (中国版TRIZ)

4. C-TRIZ/TRIZを普及させる方法

5  中国における C-TRIZ/TRIZの普及

6. 結論

参考文献

 

本ページの先頭

和訳論文先頭

はじめに

イノベーションへの障害

C-TRIZ (中国版TRIZ)

企業への普及活動

実績

結論

参考文献

スライド(一部)

 

  英文論文PDF(1.1 MB) 英文スライドPDF (4.4 MB)

英文ページ


 

  TRIZCON2017発表 論文                ==> PDF (英文)  (13頁、1.1 MB)

 

中国におけるTRIZ の開発と産業界への普及活動

Runhua Tan  (河北工業大学 技術革新方法とツールのための国家工学研究センター、中国)
TRIZCON2017, 2017年10月4-5日、Atlantic City, NJ, 米国
和訳: 中川 徹、2017年10月29日

 

概要:

企業においてプロダクト・イノベーションを興すプロセスにはいくつかの障害がある。 イノベーションの方法を開発し、それらを諸企業に普及させることが、企業の競争力を増すために重要である。 本報はまず最初にイノベーションプロセスの障害を明確にし、その上でTRIZを発展させたC-TRIZ(中国版TRIZ)を紹介する。このC-TRIZ/TRIZの普及を支援するために、MEOTM(多数技術者向けのトレーニングモデル)を構築した。最後に、トレーニングクラスの成果について示す。 産業界にC-TRIZ/TRIZを普及させる需要が、中国においてますます大きくなっていることを、本研究は示している。

キーワード:  TRIZ、C-TRIZ、普及、イノベーティブな技術者、トレーニングクラス

 

1.  はじめに

新しいアイデアを実現するイノベーションが、どの国においても、競争優位を維持するための鍵であり、企業の成長のための血であり希望であると、みなされている [1]。 中国では現在、多数の企業がTRIZのような創造性技法を研究開発業務に積極的に導入して、技術者たちをトレーニングしてイノベーション能力を改善しようとしている。 諸(段階の)政府、諸大学、諸企業が、すべて一緒になってそのプロセスを導入している。 われわれの研究センター [2] は、このトレーニングプログラムのための重要組織として(国から)選定された。

トレーニングプログラムの目的の一つは、さまざまな産業のための技術者たちを訓練し、彼らをイノベーティブにすることである。 文献 [3]では、発明家たち(inventors) をイノベーションプロセスに関連して5つのカテゴリに分類している。すなわち、技術分野での起業家、各業界専門のの発明家、発明専門家、資金調達者、および常習的な発明者である。 われわれが言うイノベーティブな技術者とは、各業界専門の発明家であって、彼らの職場での製品設計やプロセスの改良のための具体的な技術を持っている者である。

TRIZ [4-5] (発明問題解決の理論)はAltshullerが開発したもので、創造性とイノベーションのための知識体系として、ますます広く知られてきて、世界中の諸企業にもたらされて来ている。
Kamalら [6] は、企業技術者への創造性とイノベーションのTRIZトレーニングの効果を研究している。そして、TRIZトレーニングへの参加が、創造的な問題解決のスキルとイノベーションへの動機づけの両方で短期的な向上を導き、さらに、職場での彼らのアイデア提案が長期的に向上していることにつながっていることを示した。
Nakagawa [7] は、日本において、技術者たちをトレーニングして、未解決の実地問題をTRIZを用いてうまく解決したことを報告している。
Lilly [8] は、TRIZのトレーニングがイノベーションの二つの段階(すなわち、アイデアの生成とアイデアの実現)に効果があったと述べている。
Hernandezら [9] は、大学の学部生たちを対象にしたアイデア生成の有効性に関する実験で、アドホックなアイデア生成法を使った(コントロール)グループに対して、TRIZ(を用いたグループ)は、新規性と多様性の尺度で優れており、数の点では少し劣ったことを示した。
Imohら [10] は、調査の結果として、「TRIZは、発明のチームワークがより効果的になり、アイデア生成がより速くなり、技術システムと技術の発展を予測するのに、効果があった。しかし、TRIZに関連していくつかの課題があり、TRIZの理解には尋常でない時間を要する」と結論づけている。

われわれのトレーニングクラスの目標は、工業の諸企業で働いている技術者たちを訓練し、彼らの創造性とイノベーション能力を向上させることである。 それらの技術者たちは、社会で孤立した発明家たちとは違い、大学の学生たちとも違う。なぜなら、クラスでの発明が、諸企業と彼らの職場で適用されているイノベーションのプロセスに密接に関連づけられているからである。 そのような特徴を持ったものとして、本研究は、工業の諸企業におけるイノベーションの諸障害、TRIZの発展、トレーニングプロセスのモデル、そして、そのクラスに参加した技術者たちの得た成果について、報告する。

 

2. 工業諸企業におけるイノベーションへの障害

工業諸企業におけるイノベーションの典型的プロセスは、図1に示すように、3段階に分けることができる。ファジーフロントエンド(FFE)(混沌とした初期段階)、新製品の開発(NPD)、そして商業化である [11]。これは中国の諸企業にも当てはまる。

図のファジーフロントエンドは、イノベーションプロセスの最初の段階と考えられており、そのサブプロセスは、機会の特定、機会の分析、アイデアの生成、アイデアの選択、およびコンセプトの定義からなる [11]。 FFEの出力であるアイデアは評価されたうえで、新製品開発(NPD)の入力になる。
NPD段階で、FFEからの諸アイデアは製品に変換される。 NPDには二つのサブプロセスがあり、それは設計と製造である。 設計プロセスは、さらに4つのサブプロセスからなる。すなわち、設計仕様化、概念設計、具体化設計、そして詳細設計である [12]。 製造プロセスでは、まず(製造)プロセスを設計し、そして実際の製造を行う。
商業化は最後の段階であり、製品が市場に投入される。

現場の技術者たちは、図に示しているような、さまざまな仕事に責任を持っている。 すべてのプロセス(すなわち、混沌とした初期段階(FFE)、新製品開発(NPD)、商業化、およびそれらのサブプロセス)のための環境は現場(作業場)であり、技術者たちはそこで新しい未解決の諸問題に直面するであろう。

図1.企業におけるイノベーションプロセスと技術者たちの仕事

技術者たちがわれわれのトレーニングクラスに入るためには、彼ら自身の仕事の現場から発明的問題を特定して来なければならない。これがクラスへの参加の一つの条件である。 過去数年の技術者たちの典型的な問題事例から、発明的問題はイノベーションプロセスのどのフェーズからも出てくることを、われわれは知った (図2に示す [13])。

図2.イノベーションプロセスにおける問題のフロー

われわれはこれらのすべての問題を3つのタイプに分類した。 前方フロー、逆方向フロー、自己解決フローである。
前方フロー問題は、(プロセスの)次または下流のフェーズで解決されるべき問題である。 例えば、具体化設計において特定された問題が、(製造)プロセス設計中で解決されるべきである、といった種類の問題である。
逆方向フローの問題は、より上流のフェーズで解決されるべきである。 例えば、(製造)プロセス設計で見出された問題で、概念設計のフェーズで解決されるべきだ、といった問題をいう。
自己解決フローの問題は、その問題が見出されたフェーズ内で解決されるべきものである。 概念設計フェーズで見出された問題で、このフェーズ内で解決されるべきだというような場合である。
これらすべての問題を3つのタイプに分類し、混沌とした初期段階(FFE)、設計段階、製造段階のそれぞれにおける障害として認識した。 表1にこれらの障害の詳細を示す。

表1. イノベーションプロセスにおける障害

タイプ
名称
意味
1
混沌とした初期段階(FFE)における障害
  • 質の高い少数のアイデアだけを生成するのに適用できる適切な方法がない。
  • 将来の需要や市場を予測する適切な方法がない
  • ・・・
2
設計段階の障害
  • 質の高い少数のコンセプトだけを生成するのに適用できる適切な方法がない。
  • 設計における構造またはパラメータ中に、一つあるいは複数の矛盾があり、それらを除去(解決)するべきだが、それが困難である。
  • ・・・
3
製造段階の障害
  • 精度要求を満たすように(製造)プロセスを改良するべきだが、そのための方法がない。
  • 特定の(製造)プロセスのコストが高すぎて、削減するべきであるが、そのための方法がない。
  • ・・・

技術者たちにとっての主要な課題は、発明的な問題を同定し、それを解決して、発明あるいはできればイノベーションを創ることである。 技術者はまず障害のタイプを見つけ、ついで発明的な諸問題を見つけなければならない。 一般的に言って、技術者が、現場で働いてきた永年の経験から障害を見つけることは、それほど困難ではない。 しかし彼らがその障害から発明的問題を特定することは容易ではなく、まして、それを解決して一つの発明を創ること、とりわけ、会社が緊急に必要としているようなイノベーションを創ることは、非常に困難である。

技術管理(MOT)の分野では、イノベーションはいくつかのタイプに分類され、その中には、急進的イノベーション [14] や破壊的イノベーション [15-16] などがある。 中国でも、工業諸企業のマネジャたちは、経営理論をいくつかのルートで常に学んでおり、これらのイノベーションのタイプを知っている。 彼らとイノベーションについて議論すると、彼らは、会社の発展にとって、急進的あるいは破壊的イノベーションが最も重要であると考えている。 しかし、それらの二つのタイプのイノベーションをどのようにしたら起こせるのか、彼らはまったく分からないでいる。 中国政府もまた、工業諸企業に「ブレークスルーイノベーション」を植えつけることを推進している。
GEN3 Partners社のホームページ [17] には、ブレークスルーイノベーションについてのいくらかの情報がある。 しかし現在の文献には、技術者たちがこれら二つのタイプのイノベーションに直接に適用できるようなイノベーションの方法はほとんど存在しない。

古典的TRIZの跡を継いで、新しいTRIZの諸方法論が出来てきており、その中にはI-TRIZ [18]、xTRIZ [19] などがある。 それらは、技術者やマネジャたちが、発明的な問題をより多く見つけ、解決するのを助ける。 しかし、それらはすべて、急進的/破壊的な技術やイノベーションを開発するのに直接に適用されて来てはいない。 急進的/破壊的イノベーションを指向したイノベーション方法論は、(少なくともいまの中国では)創造的でイノベーティブな方法の研究者にとって高嶺の花である。

 

3. C-TRIZ (中国版TRIZ)

中国の技術者たちを訓練するという需要に応えるために、われわれは(図3に示すような)「C-TRIZ (中国版TRIZ)」を開発してきた。それは古典的TRIZを基礎にして、TRIZおよびMOTのコミュニティから多くのアイデアを吸収したものである。 それは、急進的/破壊的(イノベーション)指向の方法を含んでいる点で、他の(類似の)諸方法論とは異なっている。
InventionTool は、本センターで開発したCAI (コンピュータ支援イノベーション)ソフトウエアであり、本方法論を支援するサブシステムである。
MEOTMは、多数技術者向けトレーニングモデルであり、他のサブシステムと共にC-TRIZを支援する。
C-TRIZ、CAI、およびMEOTMのすべてで、C-TRIZシステムが構成されている。

図3. C-TRIZとその支援システム

C-TRIZには4つのレベルがある。 レベル1は古典的TRIZとその拡張である。レベル2が統合化諸方法、レベル3が融合諸方法、そしてレベル4がスーパー諸方法である。 最も重要なレベルはレベル3であり、急進的/漸進的/破壊的の各イノベーションの方法を開発し統合している。 各レベルは互いに独立であるが、古典的TRIZがすべてのレベルの基礎になっている。 表2に各レベルの詳細情報を示す。

表2. C-TRIZの4つのレベルの諸方法と、本センターでの研究事例

レベル
方法のタイプ
このタイプに関する研究
1
拡張した諸方法

古典的TRIZを拡張した諸方法

(方法の)事例

1) Yuerら [20] は、多レベル多観点のトリミング方法セットを開発した。既存のトリミングの諸方法とTRIZの知識ベース活用の問題解決原理とを統合したものである。

2) Liuら [21] は多数の生物学的効果を発明プロセス中に適用した。

3) Xu and Tan [22] は、機械システムの故障分析のための体系的な方法をTRIZベースで開発した。

 
2
統合化した諸方法

AD、PB、FDを古典的TRIZと統合化した諸方法

(方法の)事例

1) Tan ら [23] は、概念設計のための「人間指向の8ステッププロセスモデル」を創った。そこでは「UXD (ユーザエクスペリエンス設計)」が新しいアイデアを生成する原動力である。

2) Zhangら [24] は、矛盾を定義するために「設計重視の複雑性」を適用し、矛盾の解決にTRIZを適用した。

3) Cao and Tan [25] は、機能設計のための体系的な方法を開発した。

3
融合諸方法

イノベーション目標指向の諸方法  

(方法の)事例

1) Guo ら [26] は、破壊的イノベーションの諸設計を評価するための定量的モデルを示した。

2) Sun ら [27] は、「変異型イノベーション」のロードマップを作るための方法を提起した。

3) Tan and Sun [28] は、破壊的(イノベーションの)技術を開発するための体系的な方法を、TRIZをベースにして開発した。

4
スーパー諸方法

広い応用を指向した諸方法  

(研究の)事例

1)  Chen and Tan [29] は、TRIZとシックスシグマを結びつけるための体系的な方法を開発した。

2)  Jiang ら [30] は、プロダクトイノベーションのためのプロセスモデルで、FFE(のプロセス)で駆動され、TRIZを基礎にしたものを、提起した。

3) Guo ら [31] は、設計で駆動される、需要を分析する方法を示した

イノベーションを可能にする10の技術を、現在 C-TRIZの一部として開発中である。 その中には、機能設計、破壊的イノベーションプロセス、急進的イノベーションプロセス、特許回避設計、統合設計プロセス、などがある。 これらの各技術は、プロセスモデルと概念知識とから成っている。 諸プロセスモデルは概念知識全体を結びつけ、その全体が一つのイノベーションプロセスの中で使われる。

 

4. C-TRIZ/TRIZを普及させる方法

中国の現状において、TRIZとC-TRIZを普及させるためには、中国政府、地方政府、そして仲介組織が必要である。 各地域の地方政府が、その地域内にある企業に大きな影響力を持っている。 イノベーションを可能にする諸技術を統合したものとして、TRIZとC-TRIZをいくつかのルートで企業に普及させて行くべきである。

中国における現在の主ルートは、源泉の諸組織から地方政府と仲介組織をかけ橋として、諸企業に至るものである(図4参照)。

図4. C-TRIZ/TRIZを諸企業に普及させるための一つのルート

源泉の諸組織とは、大学、研究機関、コンサルタントなどで、TRIZとC-TRIZの高品質のトレーニングコースを提供できるものである。 トレーナーとして定常的に活動する組織は、巨大市場で(自然に)選択される。 われわれのセンターは、TRIZとC-TRIZのトレーニングコースを提供する(主たる)源泉組織として、中国でのトレーニング市場によって評価・選択された。

図5に示すのは、本センターで開発した「多数技術者向けのトレーニングモデル(MEOTM)」であり、トレーニングプロセスをガイドする。 この(トレーニング)プロセスは7ステップから成り、(諸企業で現在使われている)主イノベーションプロセスと相互に連携している。 技術者たちがこのクラスに通うには、発明的問題を見つける(あるいは作る)ことで、トレーニングの内容を彼ら自身の企業の研究開発/イノベーションプロセスと関連付けなければならない。

図5. 多数技術者向けのトレーニングモデル(MEOTM)

図5には4つの主要構成要素がある。イノベーションプロセス(図の上部)、トレーニングプロセス(図の下部)、それらの間のインターフェイス、そしてこのプログラムに参加する諸企業(図の左部)である。
イノベーションプロセスは、混沌とした初期段階(FFE)、新製品開発 (NPD)、商業化を含む。
トレーニングプロセスは7ステップから成る。すなわち、企業の選定、技術者の選定、トレーニング段階1、問題を見つける、トレーニング段階2、解決策を見つける、そして、まとめである。
二つのプロセスの間に示しているのが、両者のインターフェイスであり、イノベーションの機会、内在する問題、イノベーションの解決策を含む。
一つのクラスには、一つまたは複数の企業を選定する。 一つのクラスは 6〜15カ月続くのが実情である。

表3に、トレーニングプロセスの各ステップでの活動の詳細を示す。

表3. トレーニングのステップとその活動

ステップ
名称
活動
1
企業を選定する

クラスに参加する企業を選定する

  • 地方政府の何らかの組織(すなわちクラスのオーガナイザー)が、その地域でのクラスを組織し、クラスに参加する諸企業を選定する責任を負う。

  • センターまたはオーガナイザーが参加企業を直接選定する。

2
技術者を選定する

クラスに通う技術者たちを選定する

  • 選定された企業が、クラスに参加する技術者たちのリストを作り、推薦する。

  • クラスのオーガナイザーが、参加技術者たちを最終的に選定する。
3
 トレーニング段階1

 センタの教師チームが技術者たちにレッスンする

  • TRIZの基本的な概念と方法を教える。

  • これらの方法を適用した事例を多数デモする。

4
問題を見つける

クラスの各技術者は、自分自身の仕事の現場から発明的問題を一つ特定しなければならない。

  • 技術者は、自分の企業のイノベーションプロセスのどれか一つのフェーズから一つの発明的問題を見つける

  • 技術者は、自分の仕事の現場の状況に対して、一つの発明的問題を構築する

5
トレーニング段階2

センターの教師チームが技術者たちに再びレッスンする

  • 体系的な諸方法(ARIZなど)がその内容である。

  • 発明的問題を見つけて解決するための体系的なプロセスをデモする

6
問題を解決する

すべての技術者は自分の発明的問題を解決し、一つの発明を特定しなければならない。

  • 各技術者が新しい諸アイデアを見つける

  • 各技術者は、そのアイデアを発展させ、少なくとも一つの発明に仕上げなけらばならない

7
まとめ

試験をし、評価をする

  • 最終口頭試問を行い、技術者たちはスライドを用いてその成果を発表する

  • 評価を行い、イノベーティブであると認定された技術者に資格認定証を与える

TRIZとC-TRIZの企業への普及は、創造的でイノベーティブな知識(の普及)と、現在および将来の市場の需要とに関連している(図6参照)。
普及の成果は、参加した企業にとって、イノベーティブな技術者たち、新しい技術、新しいプロセス、そしてときには新しい製品を生み出すことになる。

図6. 産業へのTRIZ/C-TRIZの普及の枠組み

イノベーティブな技術者(を生み出すこと)がTRIZ/C-TRIZの普及の最も重要な成果であり、新しい技術やプロセスは副産物である。 ときにはトレーニングクラスの最後に少なからぬ製品が飛び出してくることがあり、実に幸運な出来事である。

われわれのクラスに参加する技術者たちを送り出してくる企業のマネジャたちは、技術者たちの創造的/イノベーティブな能力が向上することに、より大きな注意を払っている。なぜなら、創造的/イノベーティブな専門家こそ、企業の将来の発展のための最も重要な資源だからである。 トレーニングの過程で、われわれはTRIZ/C-TRIZのプロセスと概念の知識を技術者たちに提供している。 また、トレーニング中で、事例を用いた教育法を適用し、グループ討議を組織している。
トレーニングにおいて最も重要な内容は、各技術者がすべて、自分の企業が直面しているイノベーションの機会から一つの発明的問題を特定し、それを解決して、発明を創り出さなければならないことである。 自分自身で独自に一つの発明的問題を特定することは、技術者たちにとって大きな挑戦である。なぜなら、彼らがTRIZあるいはC-TRIZの基本概念を適用して、彼らがよく知っている状況や環境から、その欠陥を摘出し分析するのは、初めての経験なのだから。 彼らにとって傍観者的な慣性を最初に克服しなければならない。

トレーニングプロセスの質を保証するためには、副産物の出力が必要である。 それは技術者たちの発明であり、新しい技術や新しいプロセスである。 トレーニングクラスの後で、企業が技術者たちの発明を発展させて製品やイノベーションにするために投資をすることもある。

過去数年で、トレーニングクラスの最後にいくつかの新しい製品が形成された。 技術者たちがいくつかの旧来の製品の主要な問題点を速やかに捉え、新しいアイデアを作って、数か月のうちにそれを実現した。 また、管理チームが(製造)プロセスを早急に実装するために投資する決定を下した。 その結果、いくつかの新製品が短期間のうちに市場に送り出された。

トレーニングプロセス自体を、技術者たちをクラスに送り出している企業とわれわれとが共同して制御するべきである。 企業のマネジャたちの何人かが、われわれのチームと一緒になって、評価をし、意思決定と討論をするべきである。 評価や試験を(トレーニングプロセスの)ゲートと考えるなら、われわれのトレーニングプロセスには、企業マネジャが関与するゲートが6つある(図7参照)。

図7. トレーニングのゲートシステム

図7のすべてのゲートの機能は以下に記すようである。

ゲート1: (=評価1) (適当な)マネジャが、トレーニングクラスへの参加者として選定された技術者たちが適切であることを評価する。

ゲート2: (=試験1) トレーナーがクラスの全技術者に対して、学習した知識レベルを評価する試験を行う。

ゲート3: (=評価2) クラスに参加の技術者たちが発明的問題を見つけたかどうか、すなわちその問題が(企業の)領域に関するもので、それを解決すると発明になるかを、(マネジャとトレーナーが評価する)。

ゲート4: (=試験2) すべての技術者たちに対して、学習した知識レベルを評価するための試験を、トレーナーが行う。

ゲート5: (=評価3) 適当なマネジャとトレーナーが、問題が(技術者によって)本当に解決されたかどうかを評価し、何らかのイノベーションの機会があるかどうかを認識する。

ゲート6: (=評価4) クラスの技術者のすべてが、自分のプロジェクトについて、発表をし、口頭試問を受けなければならない。 トレーナーは技術者のレベルを判定する。 マネジャはその発明が、企業の今後のイノベーションのために投資する機会となる可能性があるかどうかを決定する。

図5〜図7はまた、イノベーティブな技術者を育てるためのトレーニングプロセスが、企業の経営活動から切り離された活動ではないことを、示している。 トレーニングクラスに技術者を参加させている企業のマネジャは、トレーニングプロセスの進行にもっと注意を払い、適切なゲートで評価をするべきである。 われわれのトレーニングクラスに参加している技術者たちは、自分のマネジャたちと常に接触を持って、トレーニングに関する情報を交換し、正しい発明的問題を見つけて解決し、高い質の発明を能率的に得るようにするべきである。

 

5  中国における C-TRIZ/TRIZの普及

2013年〜2016年に、われわれは40のトレーニングクラスを実施し、(13の省または市に所在する)721企業の技術者たちを訓練した。 合計3173人の技術者がトレーニングクラスに参加した。 そのうちの1471人が、すべてのプロセスに合格し、本センターでイノベーティブな技術者として資格認定された。 この1471人の技術者たちは、トレーニングプロセスの最中に1218件の特許を申請し、そのうちの648件がイノベーションに向けた特許である。 それらの特許の一部は、これらの企業の新製品として開発されてきている。

図8には、イノベーティブな技術者として認証された1471人が、どの地域から来ているかを示す。 河北省からの人数が最大であり、本センターがこの省にまず奉仕していることを示している。 なぜなら、本大学がこの省に属しているからである。 天津市の数が第2であるのは、本センターが所在する市に特に留意していることを示す。 3番目は、天津市に近い北京市である。

図8. 認証された技術者たちの出身地域(2013-2016)

図9は、イノベーティブな技術者たちがトレーニングプロセスの間に申請した特許の数を、技術者の出身地域別に示す。 河北省、天津市、および北京市が、数が多い順のトップ3地域である。 理由は図8と同じである。

図9 技術者の出身地域別の特許申請数

トレーニングの成果が良いので、われわれのトレーニングプログラムは中国において着実に発展してきている。 いくつかの企業が本センターに直接来訪し、われわれのトレーニングチームとの協力を相談している。 いまや、巨大なトレーニング市場が出現した。

 

6. 結論

C-TRIZは、中国の巨大市場からのイノベーション需要に導かれて発展してきた。
MOETMは、C-TRIZ/TRIZのためのトレーニングプロセスを支援するモデルであり、さまざまに異なる企業からの多数の技術者を同時に受け入れ、長期間のトレーニングをすることを特徴とする。
トレーニングクラスの成果は、イノベーティブな技術者たち、新技術や新プロセスという副産物、そして新製品という幸運な出来事であり、それらすべてが中国の諸企業で緊急に必要とされているものである。

われわれのTRIZの開発と普及活動に対する諸企業および社会からの評価は、総じて積極的なフィードバックである。
より多くの諸工業企業がトレーニングプログラムに注目し始めており、(このようなトレーニングに対する)さらに大きな市場が中国で形成されてきている。
これはこの国で、TRIZをもっと多くの企業に普及させ、TRIZの開発を加速させる好機である。

 

謝辞

本研究の一部は、中国自然科学基金(交付金番号51675159)による支援を受けた。 本論文のいかなる部分も、上記のスポンサーの見解や意見を代表するものではない。

 

参考文献

[1]  T. D. Kuczmarski、「イノベーションとは何か?諸企業はなぜそれをもっと活用しないのか?」、Journal of Consumer Marketing, 2003, 20(6):536-541

[2]  Runhua Tan、「イノベーションの機会を特定する7つの刺激:中国におけるイノベーティブな技術者たちをトレーニングする一つの実践といくつかの知見」、American Journal of Industrial and Business Management, 2013, 3(6):725-739

[3]  C. L. Howard, S. L. David, and A. B. Marilyn、「ヒューマンファクターとイノベーションプロセス」、Technovation, 1996, 16(4):173-186.

[4]  G. Altshuller、『厳密科学としての創造性』、Gordon & Breach, Luxembourg, 1984.

[5]  G. Altshuller、『イノベーションアルゴリズム TRIZ 体系的イノベーションと技術的創造性』、Technical Innovation Center Inc.、Worcester(1999)

[6]  B. Kamal, L. Desmond and M. Wissam、「TRIZ創造性トレーニングの衝撃を評価する:組織論的現地調査」、R&D Management, 2012, 42(4) 315-326.

[7]  中川 徹、「TRIZ/USITによる創造的な問題解決の思考法の教育と訓練」、Procedia Engineering、2011、9(): 582-595。
(注: ETRIA TFC2007 発表 (掲載:2007.11.18))

[8]  Lilly Haines-Gadd, 「TRIZは人々を変えるか?組織内でのTRIZトレーニングの影響を評価する:理論と実践のための示唆」、Procedia Engineering, 2015, 131:259-269

[9]  Noe Vargas Hernandez, Linda C. Schmidt, Gul E. Okudan, 「TRIZの体系的アイデア生成の有効性の研究」、ASME Journal of Mechanical Design, 2013, 135(4):1-10

[10]  M. I. Imoh, P. David and P. Robert, 「TRIZをレビューする: 実践における効果と課題」、Technovation, 2011, 33(2-3):30-37

[11]  P. A. Koen, G. M. Ajamian, S. Boyce, A. Clamen, E. Fisher, S. Fountoulakis, A. Johnson, P. Puri and R. Seibert, 「混沌とした初期段階(Fuzzy Front End (FFE)): 有効な方法、ツール、技法」、P. Belliveau, A. Griffen and S. Sorer- meyer編、『新製品開発のためのPDMAツール教本』、John Wiley and Sons, New York, 2002, pp. 2-35.

[12]  G. Pahl and W. Beitz, "Engineering Design.  A Systematic Approach,” 2nd Edition, Springer, London, 1996.
(注: 和訳:『エンジニアリングデザイン(第3版)-工学設計の体系的アプローチ』、金田徹他訳、森北出版、2015/2/21)

[13]  Tan Runhua、「イノベーションの矛盾指向問題解決:中国企業の好機のために」、Journal of Innovation and Entrepreneurship, 2015, 4(3): DOI 10.1186/s13731-015-0017-5

[14]  Richard Leifer, et al.、『急進的イノベーション』、 Harvard Business School Press, Boston, 2000

[15]  Clayton M. Christensen & Michael Overdorf、「破壊的変化の挑戦に立ち向かう」、Harvard Business Review, 2000, March.April

[16]  Clayton M. Christensen、『イノベータの解決策:成功する成長を創造し維持する』、Harvard Business Press, 2003

[17]  http://www.gen3.com

[18]  http://www.ideationtriz.com

[19]  http://www.xtriz.com

[20]  Yue Fei, et al, 「TRIZに基づく多レベルのトリミング法の組を構築する」(中国語)、Journal of Mechanical Engineering, 2015, 51(21):156-164

[21]  Li Wei, et al, 「複数の生物学的効果を工学的に実現する方法の研究」(中国語)、Journal of Mechanical Engineering, 2016, 52

[22]  Xu Bo, Tan Runhua, 『TRIZに基づく機械システムの欠陥分析』(中国語版)、 Higher Education Press, Beijing, 2016

[23]  Runhua Tan, et al, 「UXD駆動の概念設計プロセスモデル:CAIを用いた矛盾解決のために」、Computers in Industry, 2009, 60 (): 584.591

[24]  Zhang Peng, et al, 「設計重視の複雑性を基礎にしたCAI向けの矛盾の決定」(中国語)、Computer Integrated Manufacturing Systems, 2015, 19(2):330-337

[25]  Cao Guozhong, Tan Runhua, 『機能設計の原理と応用』(中国語版)、Higher Education Press, Beijing, 2016

[26]  Guo Jiang, et al, 「ロジスティックリグレッションに基づき破壊的イノベーション設計方式を評価するモデル」(中国語)、Computer Integrated Manufacturing Systems, 2015,21(6):1406-1416

[27]  Sun Jianguang, et al, 「技術進化の分岐に基づく変異型イノベーションをロードマッピングする方法」(中国語)、 Computer Integrated Manufacturing Systems, 2013, 19(2): 253-262

[28]  Tan Runhua, Sun Jianguang, 『破壊的イノベーションの先行世代原理』(中国語版)、Science Publication Press, 2014

[29] Chen Zishun, Tan Runhua, 『シックスシグマを理想化する原理と応用』(中国語版)、Higher Education Press, Beijing, 2013

[30]  Jiang Ping et al, 「FFEが駆動する製品イノベーションのプロセスとその応用」(中国語)、Computer Integrated Manufacturing Systems, 2013, 19(2):370-381

[31]  Guo Jing, et al, 「設計が駆動する製品イノベーションへの需要分析のアプローチ」、 Procedia CIRP 2016, 39 ():39.44


 

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はじめに

イノベーションへの障害

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企業への普及活動

実績

結論

参考文献

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最終更新日 : 2017.11. 7   連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp